説明

燃料電池用触媒、その製造方法、膜電極接合体および燃料電池

【課題】 Ptを使用することなく高い触媒活性を示す燃料電池用触媒、およびその製造方法、並びに前記触媒を用いた膜電極接合体および燃料電池を提供する。
【解決手段】 樹脂由来の炭素系触媒と、担体とを有しており、前記炭素系触媒は、前記担体の表面の少なくとも一部を被覆しており、比表面積が100〜800m/gであることを特徴とする燃料電池用触媒により、前記課題を解決する。本発明の燃料電池用触媒は、炭素系触媒の原料となる樹脂と金属錯体と担体との混合物を非酸化性雰囲気中で、600〜1200℃で焼成し、その後に金属を除去する工程を有する本発明の製造方法によって製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋蔵量が少なく高価なPt(白金)の代替となる、資源的制約の少ない炭素材料を有効成分とする高活性な燃料電池用触媒、およびその製造方法、並びに前記燃料電池用触媒を用いた膜電極接合体および燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今の原油高に加え、中国、インドなどの急速な経済発展により、化石燃料の枯渇と二酸化炭素の排出が世界的な問題となっている。このため、現在、脱石油化に向け、燃料電池を始め、リチウムイオン電池、バイオ燃料、太陽電池などの研究開発が活発に行われている。ナフィオン(登録商標)を代表とするプロトン導電膜を使用する燃料電池には、メタノールをアノード極燃料とする直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell:DMFC)と、水素ガスをアノード極燃料とする固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)とがある。
【0003】
前記DMFCおよびPEFCは、比較的低温作動が可能で、発電システムも簡便で小型化が可能なことから、施設の非常用電源や、軍事、業務用の携帯機器の非常電源、ノートパソコンや携帯音楽プレーヤー、携帯電話などの充電器として期待が持たれている。
【0004】
DMFCは燃料にメタノールを、また、PEFCは燃料に水素を使用し、それぞれアノード触媒層/プロトン導電膜/カソード触媒層から構成される膜電極接合体を導電性のガス拡散層で挟み、アノード極およびカソード極に設けた集電板により外部回路と繋いだ電池システムである。DMFCのアノード触媒層側に液体燃料であるメタノールを供給すると、下記式(1)に示す化学反応により、メタノールが酸化されて二酸化炭素(CO)に変化し、プロトン(H)と電子(e)とが発生する。
CHOH + HO → CO + 6H + 6e (1)
【0005】
この反応によって発生したプロトンと電子とは、カソード触媒層に供給される酸素ガスと下記式(2)の反応により、水(HO)を生成する。
+ 4H + 4e → 2H (2)
【0006】
従って、電池全体として下記式(3)の反応が進行し、この際に発生する電子を外部回路で取り出して、電気エネルギーを得ることができる。
CHOH + 3/2O → CO + 2HO (3)
【0007】
ところで、現在、DMFCおよびPEFCの電極には、実用触媒としてPt系触媒が使用されているが、Ptはレアメタルであり、かつ非常に高価であることから、その使用量の削減が必須の課題となっている。
【0008】
こうした問題を解決する手段として、例えば、触媒粒子の径を小さくし、触媒の比表面積を大きくすることで、触媒の単位質量あたりの活性を高め、これによって触媒使用量の削減を図る試みがなされている(特許文献1、2)。
【0009】
また、更なるPt使用量の削減を図るべく、Ptを使用しない触媒の開発も試みられている。例えば、特許文献3、4には、窒素原子やホウ素原子がドープされた炭素系触媒であるカーボンアロイ微粒子を基材とする燃料電池用触媒が報告されている。
【0010】
前記のカーボンアロイ微粒子は窒素原子やホウ素原子のドープによって、その活性の向上を図ったものであるが、実際には、例えば、活性サイトが不足していたり、活性サイトがカーボンアロイ微粒子中の細孔内に形成されてしまうことで、活性サイトの形成箇所での反応物質の拡散が良好に進まないなどの理由によって、想定しているだけの活性が十分に確保できない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−277992号公報
【特許文献2】特開2007−190454号公報
【特許文献3】特開2004−362802号公報
【特許文献4】特開2008−282725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、Ptを使用することなく高い触媒活性を示す燃料電池用触媒、およびその製造方法、並びに前記触媒を用いた膜電極接合体および燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成し得た本発明の燃料電池用触媒は、樹脂由来の炭素系触媒と、担体とを有する燃料電池用触媒であって、前記炭素系触媒は、前記担体の表面の少なくとも一部を被覆しており、比表面積が100〜800m/gであることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の製造方法は、本発明の燃料電池用触媒を製造する方法であって、
(1)炭素系触媒の原料となる樹脂が溶剤に溶解または分散した液に、少なくとも1種の金属錯体を添加するステップと、
(2)前記(1)のステップで得られた液から溶剤を除去して、樹脂と金属錯体との混合物を調製するステップと、
(3)前記樹脂と金属錯体との混合物に、少なくとも1種の担体を添加して、樹脂と金属錯体と担体との混合物を調製するステップと、
(4)前記樹脂と金属錯体と担体との混合物を、非酸化性雰囲気中で、600〜1200℃で焼成するステップと、
(5)前記(4)のステップで得られた焼成物から金属を除去するステップとを有することを特徴とする。
【0015】
更に、本発明の膜電極接合体は、カソード触媒層と、アノード触媒層と、前記カソード触媒層と前記アノード触媒層との間に間挿されたプロトン導電膜とからなり、前記カソード触媒層が、本発明の燃料電池用触媒を含むことを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の燃料電池は、カソード触媒層と、アノード触媒層と、前記カソード触媒層と前記アノード触媒層との間に間挿されたプロトン導電膜とからなる膜電極接合体を有しており、前記カソード触媒層が、本発明の燃料電池用媒を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、Ptを使用することなく高い触媒活性を示し、かつ安価で資源に左右されることの少ない燃料電池用触媒と、その製造方法とを提供することができる。また、本発明の膜電極接合体は、優れた電池特性を有する燃料電池を構成できる。更に、本発明の燃料電池は、優れた電池特性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1の燃料電池用触媒の透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1の燃料電池用触媒に使用した担体(カーボンブラック)の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
前記の通り、従来のカーボンアロイ微粒子では、活性サイトが不足していたり、また、十分な数の活性サイトを確保し得ても、反応に関与し得ない箇所に形成される活性サイト数が多くなったりして、活性サイトの形成箇所での反応物質の拡散が良好に進まず、想定しているだけの活性が十分に確保できない問題がある。従来のカーボンアロイ微粒子において、活性サイトが反応に関与し得ない箇所に形成される場合としては、微粒子の細孔内に活性サイトが形成されるケースが挙げられ、また、例えば、特許文献4に記載の燃料電池用電極触媒では、触媒である炭素化物がシェルを構成し、内部が空洞のナノシェル構造を取ることを主眼としているものの、内部も炭素化物で充填された構造のものも生じやすく、この場合、触媒の内部側に形成された活性サイトが反応に関与できなくなる。
【0020】
これに対し、本発明では、樹脂由来の炭素系触媒と担体とで燃料電池用触媒を構成し、前記炭素系触媒で担体表面を被覆することに加えて、燃料電池用触媒全体が特定の比表面積を有するようにし、これにより、炭素系触媒における活性サイトが良好に反応に関与でき、活性サイトの形成箇所での反応物質の拡散が良好に進むようにして、Ptを使用することなく高い触媒活性の確保を可能としている。
【0021】
本発明の燃料電池用触媒は、樹脂由来の炭素系触媒と、担体とを有しており、炭素系触媒が、担体の表面の少なくとも一部を被覆している。このような構造の燃料電池用触媒であれば、炭素系触媒の有するより多くの活性サイトが反応物質と良好に接触できるようになるため、活性の高い燃料電池用触媒となる。
【0022】
本発明の燃料電池用触媒では、活性サイト数を多く確保して、高い活性を確保する観点から、全体の比表面積(炭素系触媒および担体を含む燃料電池用触媒全体の比表面積。以下同じ。)を、100m/g以上とする。ただし、燃料電池用触媒の全体の比表面積が大きすぎると、炭素系触媒が担体の細孔内に担持されるようになり、活性サイトが担体の細孔内部に形成されることによって反応物質の拡散が低下し、所望の活性を確保できない虞がある。よって、燃料電池用触媒全体の比表面積は、800m/g以下とし、600m/g以下とすることが好ましい。
【0023】
本明細書でいう比表面積(燃料電池用触媒全体の比表面積、および後述する担体の比表面積)は、Nガス吸着を利用した多点式のBET測定装置(Sysmex社製「Autosorb 1」)を用いて、前処理として、Nガスフロー中、150℃の環境下で1時間保持した後に測定することにより得られる値である。
【0024】
燃料電池用触媒に係る炭素系触媒の結晶子径は、例えば、3.0nm以上であることが好ましく、3.5nm以上であることがより好ましく、また、10.0nm以下であることが好ましく、6.0nm以下であることがより好ましい。
【0025】
本明細書でいう燃料電池用触媒に係る炭素系触媒の結晶子径は、X線回折法により、2θ=26〜27°付近の炭素(002)ピークの半値幅から、シェラーの式を用いて求められる結晶子径Lc(002)である。
【0026】
本発明の燃料電池用触媒に係る炭素系触媒は、樹脂由来のものであり、具体的には樹脂を炭素化して得られるものである。炭素系触媒の原料、すなわち炭素系触媒の前駆体となる樹脂としては、例えば、後述する本発明法により燃料電池用触媒を製造する場合に、担体や金属錯体などと均一に混合しやすいことから、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂などが好ましく、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ただし、担体や金属錯体と均一に混合できるものであれば、前記例示の樹脂以外の樹脂を用いてもよい。
【0027】
本発明の燃料電池用触媒に係る担体としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブなどが好適であり、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
担体の比表面積は、燃料電池用触媒全体の比表面積を大きくして、その活性を良好に高める観点から、200m/g以上であることが好ましく、250m/g以上であることがより好ましい。また、燃料電池用触媒全体の比表面積を制限して、その活性を良好に高める観点から、担体の比表面積は、1200m/g以下であることが好ましく、8000m/g以下であることがより好ましい。
【0029】
また、担体の平均粒子径は、10〜100nmであることが好ましい。このような平均粒子径の担体を用い、後述する本発明法によって製造することで、燃料電池用触媒の平均粒子径を前記好適値に制御することができる。
【0030】
本明細書でいう担体の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡を使用し、20万倍の倍率で観察した担体100個について求めた粒子径の数平均値を意味している。
【0031】
本発明の燃料電池用触媒は、担体表面の一部のみを炭素系触媒で被覆してもよく、担体表面の全面を炭素系触媒で被覆してもよいが、担体表面のうち、炭素系触媒で被覆される領域を大きくして、より良好な活性を確保する観点から、炭素系触媒と担体との合計100質量%中の炭素系触媒の量で表される担持率(以下、単に「担持率」という)が、35質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。ただし、担持率が高すぎると、例えば、担体表面を被覆する炭素系触媒の厚みが大きくなりすぎて、活性の向上効果が小さくなる虞があることから、燃料電池用触媒における担持率は、80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
本発明の燃料電池用触媒において、担体表面の面積のうち、炭素系触媒で被覆されている領域の面積割合(以下、「被覆率」という)は、10%以上であることが好ましい。また、燃料電池用触媒における被覆率の好適上限値は、前記の通り、担体表面の全面が炭素系触媒で被覆されていてもよいことから、100%である。
【0033】
本明細書でいう燃料電池用触媒の被覆率は、前記のBET測定装置を用いて測定した炭素系触媒の比表面積を担体の比表面積で除し、1から引いた値を百分率に直したものである。
【0034】
本発明の燃料電池用触媒は、以下の(1)〜(5)のステップを有する本発明法により製造することができる。すなわち、本発明法によれば、担体の表面を樹脂由来の炭素系触媒で良好に被覆することが可能であり、活性の高い燃料電池用触媒を安定して製造することができる。
【0035】
本発明法の(1)のステップでは、炭素系触媒の原料となる樹脂が溶剤に溶解または分散した液に、少なくとも1種の金属錯体を添加する。
【0036】
炭素系触媒の原料となる樹脂を溶解または分散させるための溶剤には、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類;アセトンなどのケトン類;キシレン、トルエンなどの芳香族炭化水素類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテルなどのエーテル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;などを使用することができる。
【0037】
炭素系触媒の原料となる樹脂が溶剤に溶解または分散した液において、前記樹脂の量は、例えば、1〜10質量%とすることが好ましい。
【0038】
炭素系触媒の原料となる樹脂が溶剤に溶解または分散した液に添加する金属錯体としては、例えば、コバルトフェナントロリン錯体、コバルトフタロシアニン錯体、鉄フェナントロリン錯体、鉄フタロシアニン錯体、ニッケルフェナントロリン錯体、ニッケルフタロシアニン錯体などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
炭素系触媒の原料となる樹脂が溶剤に溶解または分散した液に添加する金属錯体の量は、例えば、最終的に形成される炭素系触媒100質量部に対して、5〜20質量部となる量とすることが好ましい。
【0040】
本発明法の(2)のステップでは、前記(1)のステップで得られた液から溶剤を除去して、樹脂と金属錯体との混合物を調製する。溶剤を除去する方法については特に制限はなく、例えば、公知の減圧乾燥法などにより行えばよい。また、乾燥条件についても特に制限はなく、例えば使用した溶剤の沸点などを考慮して適宜設定すればよい。
【0041】
本発明法の(3)のステップでは、(2)のステップで得られた樹脂と金属錯体との混合物に、少なくとも1種の担体を添加して、樹脂と金属錯体と担体との混合物を調製する。なお、担体の使用量は、樹脂100質量部に対して20〜150質量部とすることが好ましく、このような比率で樹脂と担体とを使用することで、燃料電池用触媒の担持率や被覆率を前記の好適値に制御することができる。
【0042】
本発明法の(4)のステップでは、(3)のステップで得られた樹脂と金属錯体と担体との混合物を、非酸化性雰囲気中で焼成する。この(4)のステップによって、担体表面を樹脂で被覆しつつ、この樹脂を炭素化する。
【0043】
焼成を行う系内を非酸化雰囲気とするための非酸化性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、アンモニアガス、水素ガスなどが挙げられる。焼成を行う系内は、これらの非酸化性ガスのうちの1種のみ(純窒素ガス、純アルゴンガス、純アンモニアガス、純水素ガス)を含んでいてもよく、2種以上(アンモニアを含有する窒素ガス、水素を含有する窒素ガス、アンモニアを含有するアルゴンガスなど)を含んでいてもよいが、純窒素ガスを含んでいることが特に好ましい。
【0044】
樹脂と金属錯体と担体との混合物を焼成する際の温度は、樹脂を良好に炭素化する観点から、600℃以上であり、800℃以上であることが好ましい。ただし、焼成温度が高すぎると、樹脂から形成される炭素化物の結晶化度が高くなりすぎて活性サイトが減少し、所望の性能が得られなくなる虞がある。よって、樹脂と金属錯体と担体との混合物を焼成する際の温度は、1200℃以下であり、1000℃以下であることが好ましい。
【0045】
また、樹脂と金属錯体と担体との混合物を焼成する際の時間は、例えば、1〜6時間であることが好ましい。
【0046】
本発明法の(5)のステップでは、(4)のステップで得られた焼成物から金属を除去する。このステップで除去する金属は金属錯体由来のものであり、この金属を除去することで、樹脂由来の炭素化物に活性サイトが形成されて、炭素系触媒となる。
【0047】
焼成物から金属を除去する方法については特に制限はなく、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などの酸性溶液で洗浄する方法などが挙げられる。また、酸性溶液で洗浄する場合、金属の除去作用をより高めるために、煮沸してもよい。
【0048】
(5)のステップを経て得られた生成物(燃料電池用触媒)については、例えば、前記の酸性溶液で洗浄することで金属を除去した場合には、酸性溶液から濾別し、水洗、乾燥すればよい。
【0049】
本発明の燃料電池用触媒は、燃料電池用の膜電極接合体のカソード触媒層用の触媒として使用される。
【0050】
すなわち、本発明の膜電極接合体は、カソード触媒層と、アノード触媒層と、前記カソード触媒層と前記アノード触媒層との間に間挿されたプロトン導電膜とからなり、前記カソード触媒層が、本発明の燃料電池用触媒を含んでいればよく、その他の構成および構造については特に制限はなく、従来から知られている燃料電池(メタノールを燃料とする直接メタノール型電池、水素を燃料とする固体高分子型燃料電池など)用の膜電極接合体で採用されている構成および構造を適用することができる。
【0051】
また、本発明の燃料電池は、カソード触媒層と、アノード触媒層と、前記カソード触媒層と前記アノード触媒層との間に間挿されたプロトン導電膜とからなる膜電極接合体を有しており、前記カソード触媒層が、本発明の燃料電池用触媒を含んでいればよく、その他の構成および構造については特に制限はなく、従来から知られている燃料電池(メタノールを燃料とする直接メタノール型電池、水素を燃料とする固体高分子型燃料電池など)で採用されている構成および構造を適用することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0053】
実施例1
50mlのエタノール中に炭素系触媒前駆体であるフェノール樹脂:1.0gを分散させた液に、コバルトフェナントロリン錯体0.002molを添加し、攪拌した。この混合液を減圧乾燥してフェノール樹脂とコバルトフェナントロリン錯体との混合物とし、更にこの混合物に、担体であるカーボンブラック(ライオン社製「ケッチェンブラックEC300J」、比表面積:800m/g):0.4gを加え、乳鉢中で均一に混合した。この混合物を石英ボートに均一に入れ、管状電気炉へ投入した。この管状電気炉内に窒素ガスを100ml/min.の速度で流入させて非酸化性雰囲気にした状態で、900℃の温度で焼成を行った。次に、得られた焼成物を3mol/l濃度の塩酸水溶液中で煮沸することで余分な金属成分を除去した後、ろ過、洗浄、乾燥して、燃料電池用触媒を得た。この燃料電池用触媒の比表面積は150m/gであった。
【0054】
なお、この燃料電池用触媒について、透過型電子顕微鏡(TEM)により表面観察を行った。これにより得られたTEM写真を図1に、また、燃料電池用触媒に使用した担体であるカーボンブラックのTEM写真を図2に示す。図1では、担体であるカーボンブラックの表面に炭素系触媒(図中で示している線状の部分)が存在していることが確認でき、担体の表面が樹脂由来の炭素系触媒で被覆された構造を有していることが分かる。
【0055】
実施例2
担体であるカーボンブラックの添加量を0.8gに変更した以外は、実施例1と同様にして燃料電池用触媒を製造した。この燃料電池用触媒について、TEMにより表面観察を行い、担体の表面が樹脂由来の炭素系触媒で被覆された構造を有していることを確認した。また、この燃料電池用触媒の比表面積は700m/gであった。
【0056】
実施例3
炭素系触媒前駆体をエポキシ樹脂:1.0gに変更した以外は、実施例1と同様にして燃料電池用触媒を製造した。この燃料電池用触媒について、TEMにより表面観察を行い、担体の表面が樹脂由来の炭素系触媒で被覆された構造を有していることを確認した。また、この燃料電池用触媒の比表面積は155m/gであった。
【0057】
実施例4
炭素系触媒前駆体をメラミン樹脂:1.0gに変更した以外は、実施例1と同様にして燃料電池用触媒を製造した。この燃料電池用触媒について、TEMにより表面観察を行い、担体の表面が樹脂由来の炭素系触媒で被覆された構造を有していることを確認した。また、この燃料電池用触媒の比表面積は167m/gであった。
【0058】
実施例5
炭素系触媒前駆体をポリイミド樹脂:1.0gに変更した以外は、実施例1と同様にして燃料電池用触媒を製造した。この燃料電池用触媒について、TEMにより表面観察を行い、担体の表面が樹脂由来の炭素系触媒で被覆された構造を有していることを確認した。また、この燃料電池用触媒の比表面積は130m/gであった。
【0059】
実施例6
炭素系触媒前駆体を尿素樹脂:1.0gに変更した以外は、実施例1と同様にして燃料電池用触媒を製造した。この燃料電池用触媒について、TEMにより表面観察を行い、担体の表面が樹脂由来の炭素系触媒で被覆された構造を有していることを確認した。また、この燃料電池用触媒の比表面積は150m/gであった。
【0060】
実施例7
炭素系触媒前駆体をアルキド樹脂:1.0gに変更した以外は、実施例1と同様にして燃料電池用触媒を製造した。この燃料電池用触媒について、TEMにより表面観察を行い、担体の表面が樹脂由来の炭素系触媒で被覆された構造を有していることを確認した。また、この燃料電池用触媒の比表面積は191m/gであった。
【0061】
実施例8
炭素系触媒前駆体をアクリル樹脂:1.0gに変更した以外は、実施例1と同様にして燃料電池用触媒を製造した。この燃料電池用触媒について、TEMにより表面観察を行い、担体の表面が樹脂由来の炭素系触媒で被覆された構造を有していることを確認した。また、この燃料電池用触媒の比表面積は120m/gであった。
【0062】
実施例9
担体であるカーボンブラックを、キャボット社製「バルカンXC72R」(比表面積:270m/g)に変更した以外は、実施例1と同様にして燃料電池用触媒を製造した。この燃料電池用触媒について、TEMにより表面観察を行い、担体の表面が樹脂由来の炭素系触媒で被覆された構造を有していることを確認した。また、この燃料電池用触媒の比表面積は110m/gであった。
【0063】
実施例10
担体であるカーボンブラックの添加量を0.6gに変更した以外は、実施例1と同様にして燃料電池用触媒を製造した。この燃料電池用触媒の比表面積は180m/gであった。
【0064】
実施例11
担体であるカーボンブラックの添加量を1.0gに変更した以外は、実施例1と同様にして燃料電池用触媒を製造した。この燃料電池用触媒の比表面積は300m/gであった。
【0065】
実施例12
担体であるカーボンブラックの添加量を1.2gに変更した以外は、実施例1と同様にして燃料電池用触媒を製造した。この燃料電池用触媒の比表面積は350m/gであった。
【0066】
実施例13
担体であるカーボンブラックの添加量を1.5gに変更した以外は、実施例1と同様にして燃料電池用触媒を製造した。この燃料電池用触媒の比表面積は380m/gであった。
【0067】
比較例1
担体を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして燃料電池用触媒を製造した。この燃料電池用触媒の比表面積は80m/gであった。
【0068】
比較例2
担体であるカーボンブラックの添加量を2.0gに変更した以外は、実施例1と同様にして燃料電池用触媒を製造した。この燃料電池用触媒の比表面積は920m/gであった。
【0069】
比較例3
担体であるカーボンブラックを、比表面積が80m/gのものに変更した以外は、実施例1と同様にして燃料電池用触媒を製造した。この燃料電池用触媒の比表面積は70m/gであった。
【0070】
比較例4
担体であるカーボンブラックを、比表面積が1300m/gのものに変更した以外は、実施例1と同様にして燃料電池用触媒を製造した。この燃料電池用触媒の比表面積は900m/gであった。
【0071】
実施例および比較例の燃料電池用触媒を用いて標準的な3電極セルを組み、これらの酸素還元触媒活性を回転ディスク電極法により評価した。
【0072】
まず、純水中に2.0mg/mlで分散させた燃料電池用触媒をマイクロピペットで20μl取り、これを回転ディスク用グラッシーカーボン電極上に塗布し、乾燥した後、この上にイオン伝導性ポリマー分散液[Aldrich社製「Nafion(登録商標)」]を5μl塗布し乾燥したものを作用極とした。また、対極にはPt線を、参照極にはAg/AgCl電極を用意した。そして、これらの作用極、対極および参照極を、0.5mol/l濃度の硫酸水溶液中に浸漬して3電極セルとし、前記硫酸水溶液中に窒素を吹き込んで飽和させた状態で、0Vから1.2Vの間で速度200mV/秒で電位を走査するサイクルを10サイクル行い、燃料電池用触媒の表面を洗浄した。次に、作用極を400rpmの速度で回転させつつ、0Vから1.1Vの間で速度10mV/秒で電位を走査するサイクルを1サイクル行い、バックグランド電流を測定した。その後、硫酸水溶液中への窒素の吹き込みを停止し、代わりに酸素を吹き込んで飽和させた状態で、作用極を400rpmの速度で回転させつつ、0Vから1.1Vの間で速度10mV/秒で電位を走査するサイクルを1サイクル行い、燃料電池用触媒の酸素還元電位を測定した。得られた酸素還元電流からバックグラウンド電流を除き、1μAの電流が流れたときの電位を求めることで、燃料電池用触媒の酸素還元活性を評価した。すなわち、1μAの電流が流れたときの電位が高く、酸素の酸化還元電位である1.23Vに近いほど、燃料電池用触媒の酸素還元活性が高いと評価できる。
【0073】
実施例1、2、10〜13および比較例1、2の燃料電池用触媒の酸素還元活性評価結果を、燃料電池用触媒全体の比表面積、炭素系触媒の結晶子径、並びに燃料電池用触媒における担持率および被覆率と併せて表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示す通り、担体を有しておらず、全体の比表面積が80m/gの比較例1の燃料電池用触媒は、1μAの酸素還元電流が流れる電位が0.6Vであるのに対し、担体として比表面積が800m/gのカーボンブラックを用いた実施例1の燃料電池用触媒は、全体の比表面積が150m/gと比較例1の燃料電池用触媒よりも大きく、1μAの酸素還元電流が流れる電位が0.85Vと、比較例1の燃料電池用触媒よりも0.25Vも高い電位で1μAの酸素還元電流が得られており、高い活性を有している。
【0076】
また、全体の比表面積が700m/gである実施例2の燃料電池用触媒は、1μAの酸素還元電流が流れる電位が0.83Vであり、全体の比表面積が920m/gである比較例2の燃料電池用触媒における1μAの酸素還元電流が流れる電位(0.75V)よりも0.08Vも高い。これらの結果から、担体を使用し、その表面を樹脂由来の炭素系触媒で被覆すると共に、全体の比表面積を適正な値に制御することで、燃料電池用触媒の活性を飛躍的に高め得ることが分かる。
【0077】
更に、全体の比表面積が適正であり、かつ担持率および被覆率を好適な範囲内で実施例1、2の燃料電池用触媒から変えた実施例10〜13の燃料電池用触媒も、担体を使用していない比較例1の燃料電池用触媒や、全体の比表面積が不適であり、かつ担持率および被覆率も好適値でない比較例2の燃料電池用触媒よりも、1μAの酸素還元電流が流れる電位が高く、高い活性を有している。
【0078】
次に、実施例3〜8の燃料電池用触媒の酸素還元活性評価結果を、燃料電池用触媒全体の比表面積、炭素系触媒の結晶子径、並びに燃料電池用触媒における担持率および被覆率と併せて表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
エポキシ樹脂由来の炭素系触媒を有する実施例3の燃料電池用触媒、メラミン樹脂由来の炭素系触媒を有する実施例4の燃料電池用触媒、ポリイミド樹脂由来の炭素系触媒を有する実施例5の燃料電池用触媒、尿素樹脂由来の炭素系触媒を有する実施例6の燃料電池用触媒、アルキド樹脂由来の炭素系触媒を有する実施例7の燃料電池用触媒、およびアクリル樹脂由来の炭素系触媒を有する実施例8の燃料電池用触媒は、1μAの酸素還元電流が流れる電位が0.82〜0.84Vであり、フェノール樹脂由来の炭素系触媒を有する実施例1の燃料電池用触媒における前記電位0.85Vとほぼ同等の値を示している。これらの結果から、各実施例で使用した各樹脂が、燃料電池用触媒における炭素系触媒の前駆体として良好に機能していることが分かる。
【0081】
次に、実施例1、9および比較例3、4の燃料電池用触媒の酸素還元活性評価結果を、燃料電池用触媒全体および使用した担体の比表面積、炭素系触媒の結晶子径、並びに燃料電池用触媒における担持率および被覆率と併せて表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
比表面積が好適値にある担体を使用した実施例1、9の燃料電池用触媒は、全体の比表面積が適正な値となっており、それに起因して、1μAの酸素還元電流が流れる電位が0.85V(実施例1)、0.82V(実施例9)と高く、高い活性を示している。これに対し、比表面積が好適値にない担体を使用した比較例3、4の燃料電池用触媒は、全体の比表面積が不適な値となっており、それに起因して、1μAの酸素還元電流が流れる電位が0.74V(比較例3)、0.75V(比較例4)と、実施例の燃料電池用触媒よりも低く、活性が劣っている。これらの結果から、使用する担体の比表面積の選択によって、燃料電池用触媒全体の比表面積を制御可能であることが分かる。
【0084】
以上の通り、本発明の燃料電池用触媒は、Ptに比べて安価であり資源的制約の少ない炭素材料を有効成分としつつ高い活性を備えていることから、優れた電池特性を有する燃料電池および該燃料電池に使用される膜電極接合体を構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の燃料電池用触媒は、直接メタノール型燃料電池や固体高分子型燃料電池のカソード用触媒として有用である。また、本発明の燃料電池は、例えば、各種機器の電源として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂由来の炭素系触媒と、担体とを有する燃料電池用触媒であって、
前記炭素系触媒は、前記担体の表面の少なくとも一部を被覆しており、
比表面積が100〜800m/gであることを特徴とする燃料電池用触媒。
【請求項2】
炭素系触媒と担体との合計100質量%中の炭素系触媒の量で表される担持率が、35〜80質量%である請求項1に記載の燃料電池用触媒。
【請求項3】
炭素系触媒は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂およびアクリル樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種の樹脂由来のものである請求項1または2に記載の燃料電池用触媒。
【請求項4】
担体の比表面積が200〜1200m/gである請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池用触媒。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池用触媒の製造方法であって、
(1)炭素系触媒の原料となる樹脂が溶剤に溶解または分散した液に、少なくとも1種の金属錯体を添加するステップと、
(2)前記(1)のステップで得られた液から溶剤を除去して、樹脂と金属錯体との混合物を調製するステップと、
(3)前記樹脂と金属錯体との混合物に、少なくとも1種の担体を添加して、樹脂と金属錯体と担体との混合物を調製するステップと、
(4)前記樹脂と金属錯体と担体との混合物を、非酸化性雰囲気中で、600〜1200℃で焼成するステップと、
(5)前記(4)のステップで得られた焼成物から金属を除去するステップとを有することを特徴とする燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項6】
カソード触媒層と、アノード触媒層と、前記カソード触媒層と前記アノード触媒層との間に間挿されたプロトン導電膜とからなる膜電極接合体であって、
前記カソード触媒層が、請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池用触媒を含むことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項7】
カソード触媒層と、アノード触媒層と、前記カソード触媒層と前記アノード触媒層との間に間挿されたプロトン導電膜とからなる膜電極接合体を有する燃料電池であって、
前記カソード触媒層が、請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池用媒を含むことを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−99296(P2012−99296A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244923(P2010−244923)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】