説明

燃料電池用触媒層の製造方法及び燃料電池用触媒層

【課題】触媒中の触媒金属粒子の使用量低減と高出力化との両立が可能であって、製造工程が単純な燃料電池用触媒層の製造方法及び燃料電池用触媒層を提供する。
【解決手段】少なくとも一部は細孔径が4nm以上である低比表面積の第1のカーボン担体を備える触媒を第1の高分子電解質の溶液に分散した主触媒ペーストを準備する。さらに、第2のカーボン担体を第2の高分子電解質の溶液に分散し、前記第2のカーボン担体が前記第1の膜厚より厚い第2の膜厚の前記第2の高分子電解質層で被覆されてなる保水ペーストを準備する。そして、主触媒ペーストと保水ペーストとを混合して混合ペーストとする。ここで、第1の高分子電解質の溶液の粘度よりも第2の高分子電解質の溶液の粘度を高くしておく。この混合ペーストをカーボンクロス等に塗布し、乾燥して燃料電池用触媒層とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用触媒層の製造方法及び燃料電池用触媒層に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池のカソード極及びアノード極は、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等のガス透過性のある基材と、この基材の一面に形成された触媒層とが設けられている。触媒層は触媒と高分子電解質とを含有しており、触媒はカーボン担体に触媒金属粒子を担持させてなる。触媒金属粒子には白金等の高価な貴金属の微粒子が採用されるため、燃料電池の製造コストを低減し、燃料電池の普及を図る上で触媒金属粒子の使用量を削減することは重要な課題である。
【0003】
触媒金属粒子の使用量の低減を目的として、触媒の担体に細孔径が4nm以上の細孔のみを有する、低比表面積担体を用いた触媒層が考えられる。この触媒層では、触媒担体の細孔径が4nm以上と大きく、高分子電解質が細孔内部にまで入り込むことができる。このため、細孔内に存在する触媒金属粒子の利用率が上がり、従来の燃料電池触媒より、低電流領域での電圧が高く、酸素還元の触媒活性が高いという利点を有する。
しかし、この触媒では触媒金属粒子の利用率が上がったことから、触媒金属粒子へより多くの酸素を供給する必要があり、当該酸素の透過性を確保する見地から触媒を覆う電解質膜を薄くする必要がある(図1参照)。触媒層に占める電解質の量が小さくなると、触媒層全体でのプロトン伝導性が低下し、高加湿運転時の水の排出性や、低加湿運転時の水の保水性が低下するおそれがある。
【0004】
この問題を克服するべく、低比表面積担体触媒と高分子電解質からなる触媒ペーストに、カーボン担体と電解質からなる保水ペーストを混合した混合ペーストを印刷乾燥した混合触媒層が開発されている(特許文献1)。
しかし、触媒ペーストと保水ペーストとを単純に混合した場合、保水ペーストの高分子電解質が触媒ペーストに移動し(図2参照)、保湿機能や電子伝導性及びプロトン伝導性の機能の向上も不十分となり易いという問題があった。
【0005】
この対策として、特許文献2では、カーボン電解質複合材を一度乾燥・粉砕して不溶化した後、混合するという方法が提案されている。この方法によれば、保水ペーストの高分子電解質が触媒ペーストに移動するという問題は改善されるが、製造工程が複雑になるという新たな問題が生じていた。
なお、本発明に関連する高分子電解質溶液の粘度調製方法として、特許文献3に記載の方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−119208号公報
【特許文献2】特開2011−142009号公報
【特許文献3】特開2011−159624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、触媒中の触媒金属粒子の使用量低減と高出力化との両立が可能であって、製造工程が単純な燃料電池用触媒層の製造方法及び燃料電池用触媒層を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の燃料電池用触媒層の製造方法の第1の局面は、
少なくとも一部は細孔径が4nm以上である低比表面積の第1のカーボン担体を備える触媒を第1の高分子電解質の溶液に分散し、前記触媒が第1の膜厚の前記第1の高分子電解質層で被覆されてなる主触媒ペーストを準備するステップと、
第2のカーボン担体を第2の高分子電解質の溶液に分散し、前記第2のカーボン担体が前記第1の膜厚より厚い第2の膜厚の前記第2の高分子電解質層で被覆されてなる保水ペーストを準備するステップと、
前記主触媒ペーストと前記保水ペーストとを混合するステップと、を含む燃料電池用触媒層の製造方法であって、
前記第1の高分子電解質の溶液の粘度よりも前記第2の高分子電解質の溶液の粘度を高くする、と規定される。
【0009】
本発明の触媒層の製造方法では、主触媒ペーストと保水ペーストとを混合した混合ペーストを用いて燃料電池用触媒層が製造される。
主触媒ペーストには、細孔径が4nm以上の低比表面積の第1のカーボン担体が、少なくとも一部として含まれている。このため、この製造方法で得られる触媒層では、第1のカーボン担体の細孔内に高分子電解質が入り込むことができ、触媒金属粒子と接触することにより三相界面が形成され、円滑な電極反応の進行が可能となる。このため、第1のカーボン担体に付着している触媒金属粒子の利用率が向上し、触媒金属粒子の使用量の削減が可能となる。なお、低比表面積カーボン担体としては、BLACKPEARL880(CABOT社製の商品名、以下、BP880と省略する。)等を挙げることができる。
【0010】
また、保水ペーストには、第2のカーボン担体が第1の膜厚より厚い第2の膜厚の第2の高分子電解質層で被覆されている。このため、この製造方法で得られる触媒層では、水を保持可能な保水材を含有することとなり、高電流領域においてフラッディングが生じ難く、電気化学反応の円滑な進行が妨げられ難くなる。また、保水材を含有することで、この触媒層は、低加湿環境下での電気化学反応時に触媒層が乾き難くなり、低加湿環境下においても電気化学反応の円滑な進行が妨げられ難い。
【0011】
さらには、主触媒ペーストにおいて触媒を分散している第1の高分子電解質の溶液の粘度よりも、保水ペーストにおいて触媒を分散している第2の高分子電解質の溶液の粘度の方が高くされている。このために、主触媒ペーストと保水ペーストとを混合して混合ペーストとした場合において、保水ペーストに含まれる第2のカーボン担体の周りに存在する第2の高分子電解質が、主触媒ペーストに含まれる第1のカーボン担体の周囲に移動する現象(図2参照)を防止し、主触媒ペースト及び保水ペーストの状態を保ったまま、混合ペーストとなる(図3参照)。このため、保水ペーストによって保湿機能や電子伝導性及びプロトン伝導性の機能を向上させつつ、主触媒ペーストによって触媒金属粒子の利用率を高めることができる。
【0012】
したがって、第1の局面の燃料電池用触媒層の製造方法によれば、触媒中の触媒金属粒子の使用量低減と高出力化との両立が可能となる。しかも、その製造方法は、主触媒ペーストと保水ペーストとを混合した混合ペーストを用意し、それを用いて触媒層を形成するだけであるため、製造工程も単純となる。
【0013】
本発明の燃料電池用触媒層の製造方法の第2の局面は、前記第2の高分子電解質の溶液の粘度は前記第1の高分子電解質の溶液の粘度の2〜200倍である、と規定した。
第2の高分子電解質の溶液の粘度が第1の高分子電解質の溶液の粘度の2倍未満では、触媒ペーストと保水ペーストとを混合して混合ペーストとした場合において、保水ペーストに含まれる第2のカーボン担体の周りに存在する第2の高分子電解質が、主触媒ペーストに含まれる第1のカーボン担体の周囲に移動することを防ぐ効果が不十分となる。また、第2の高分子電解質の溶液の粘度が第1の高分子電解質の溶液の粘度の200倍を超えた場合、主触媒ペーストと保水ペーストとの均一な混合が困難となる。好ましいのは4〜150倍であり、さらに好ましいのは8〜100倍である。
【0014】
本発明の燃料電池用触媒層は、少なくとも一部は細孔径が4nm以上である低比表面積の第1のカーボン担体を備える触媒を第1の膜厚の第1の高分子電解質で被覆してなる主触媒体と、
第2のカーボン担体を前記第1の膜厚より厚い第2の膜厚の第2の高分子電解質層で被覆してなる保水材と、が混合されている燃料電池用触媒層であって、
前記第2の高分子電解質は前記第1の高分子電解質よりも溶媒溶解時に高い粘性を示す、燃料電池用触媒層である。
【0015】
本発明の燃料電池用触媒層の製造方法の第1の局面において説明した理由から、この燃料電池用触媒層は、触媒中の触媒金属粒子の使用量低減と高出力化との両立が可能となり、製造工程も単純となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】細孔径が4nm以上の細孔のみを有する触媒担体を用いた場合の触媒層調製の模式図。
【図2】触媒ペーストと保水ペーストを混合する場合において、第1の高分子電解質の溶液の粘度よりも第2の高分子電解質の溶液の粘度を高くしなかった場合における、混合ペースト調製時の高分子電解質の移動を示す模式図。
【図3】触媒ペーストと保水ペーストを混合する場合において、第1の高分子電解質の溶液の粘度よりも第2の高分子電解質の溶液の粘度を高くした場合における、混合ペースト調製時の高分子電解質の移動を示す模式図。
【図4】実施形態の燃料電池用触媒層の製造方法を示す工程図である。
【図5】カーボン担体(BP880、KB600JD)のN2の吸着測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例1の膜−電極複合体の模式断面図である。
【図7】実施例1及び比較例1,2に係るMEAのTafel性能(50℃,Air)を示すグラフである。
【図8】実施例1及び比較例1,2に係るMEAの70℃、40%RH(低加湿)でのI−V特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態の燃料電池用触媒層の製造方法を図4に基づき説明する。
(主触媒ペースト調製工程S1及び保水ペースト調製工程S2)
主触媒ペースト調製工程S1では、細孔径が4nm以上の細孔を有する低比表面積のカーボン担体(例えばCabot社製BP880、東海カーボン社製トーカブラック#3885等)に、白金触媒等の触媒金属粒子が付着した主触媒を用意する。そして、ナフィオン(登録商標、Nafion(Du Pont社製))等の高分子電解質が溶解した第1の高分子電解質溶液に添加し、撹拌や超音波を用いて分散させ、主触媒ペーストとする。
一方、保水ペースト調製工程S2では、カーボン担体(例えばCabot社製Vulcan−XC72等)を用意し、ナフィオン(登録商標)等の高分子電解質が溶解した第2の高分子電解質溶液に添加し、撹拌や超音波をあてる等して分散させ、保水ペーストとする。カーボン担体の細孔径は特に限定はないが、触媒層の電気伝導性を高める観点から、電気伝導度の高いカーボン担体が好ましい。また、保水材でも燃料電池の電気化学反応が行われるべく、触媒金属粒子が付着しているカーボン担体を用いることもできる。
【0018】
ここで、第1の溶液の粘度<第2の溶液の粘度とする。粘度の調製は、溶媒の種類、複数溶媒を混合する場合はその混合比、高分子電解質の濃度や分子量や組成等を適宜調整することにより行うことができる。特に好ましい粘度調整方法は、高分子電解質溶液中の水の濃度や、有機溶媒の種類や濃度を調整し、所望の粘度とする方法である(特許文献3)。これは、高分子電解質溶液中の水の濃度を低減させると、高分子電解質溶液における高分子電解質の濃度が同じ場合においても高分子電解質溶液の粘度が高くなり、逆に水の濃度を高くすると、高分子電解質溶液の粘度が低くなるという現象を利用した方法である。この現象は、高分子電解質溶液の水の濃度が高い場合、高分子電解質の親水性官能基(スルホン基など)に水が吸着し、高分子電解質溶液中で高分子電解質が凝集した状態となり、また、逆に高分子電解質溶液の水濃度が低くなれば、高分子電解質溶液に含有されている有機溶媒の作用によって、高分子電解質溶液中での高分子電解質の凝集が解れることに起因すると考えられる。
高分子電解質溶液の粘度を高める溶媒として、第2級アルコール及び第3級アルコールの少なくとも1種を用いることができる。溶媒がイソプロピルアルコール(IPA)のような第2級アルコールやtert−ブチルアルコール(TBA)のような第3級アルコールを含めば、高分子電解質溶液中における高分子電解質はより解れた状態になるからである。
一方、メタノールやエタノールのような第1級アルコールを含む高分子電解質溶液は、水分濃度を減らしても高分子電解質溶液の粘度が高くならない。
これら各種のアルコールを混合して適宜粘度を調整することもできる。
また、カーボン担体と溶媒とを予め混合撹拌してなじませてプレペーストとしてから、高分子電解質溶液に添加し、撹拌混合してもよい。
【0019】
(混合ペースト調製工程S3)
上記のようにして得られた主触媒ペースト及び保水ペーストを所定の比率で混合し、混合ペーストを得る。ここで、保水ペーストの粘度は主触媒ペーストの粘度よりも高くされているため、図3に示すように、保水ペーストから主触媒ペーストへ高分子電解質が移動することが防止される。
【0020】
・塗布工程S4及び乾燥工程S5
この混合ペーストをカーボンクロス等の基材にスクリーン印刷をした後、乾燥させ、燃料電池用の拡散層付電極層を得る。印刷した部分が本発明の触媒層である。なお、混合ペーストを基材へ塗布する方法としては、スクリーン印刷の他に、スプレー法、インクジェット法等の手段によっても行い。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
1)主触媒ペースト調製工程S1
・主触媒ペースト用の高分子電解質溶液(第1の高分子電解質溶液)の調製
ナフィオンDE2020(登録商標、Nafion(Du Pont社製))を85℃で湯煎し、DE2020中における水およびNPAの含有率を5wt%まで低減してイソプロピルアルコールで希釈し5wt%の主触媒ペースト用の溶液(すなわち第1の高分子電解質溶液)とした。
・主触媒ペーストの調製
低比表面積カーボン担体(第1のカーボン担体)として、市販のBP880を用意した。BP800は1次粒径が15nm程度である。このBP800と、従来からカーボン担体として用いられているKB600JDとのN2の吸着測定結果を図5に示す。図5では、BJH法によって求めた細孔径1.7nm〜300nmのメソ細孔の比表面積と、細孔径4nm〜300nmの比表面積とをそれぞれ棒グラフによって示している。図5が示すように、BP880では、細孔径1.7nm〜300nmのメソ細孔の比表面積と細孔径4nm〜300nmとの比表面積とがほぼ等しい。すなわち、4nm未満の細孔が殆ど存在しないことが分かる。一方、KB600JDでは、4nm未満の細孔が全比表面積の半分以上を占めていることが分かる。
このBP880に対し、Pt微粒子を担持密度20wt%で担持させ、触媒とした。この触媒0.5gに対して水4.6gを添加し、自転/公転式遠心撹拌機(キーエンス社製、商品名「ハイブリッドミキサーHM−500」)によって脱泡及び撹拌を行い、触媒と水とをなじませたプレペーストを得た。
このプレペーストに対し、第1の高分子電解質溶液を1.2g添加した。この際、アイオノマー溶液中のナフィオンの重量と、カーボン担体の重量比(N/C比)が0.15となるように、触媒に対して主触媒ペースト用の溶液を添加した。その後、これらを自転/公転式遠心撹拌機によってさらに撹拌し、主触媒ペーストを得た。
【0022】
2)保水ペースト調製工程S2
・保水ペースト用の溶液の調製
16gの旭ケミカルズ(株)製アシプレックスss700C/20溶液を85℃で湯煎し、水の含有率を5%まで低減して、14.4gのイソプロピルアルコールを混合し、自転/公転式遠心撹拌機によって3分間の撹拌を行い、濃度5wt%の保水ペースト用の高分子電解質溶液(すなわち第2の高分子電解質溶液)とした。この溶液の粘度は、主触媒ペースト用の溶液の粘度の約75倍であった。
・保水ペーストの調製
第2のカーボン担体としてVulcan-XC72Rを0.8g秤り取り、これにイソプロピルアルコールを12gを添加したものを自転/公転式遠心撹拌機(キーエンス社製、商品名「ハイブリッドミキサーHM−500」)によって脱泡及び撹拌を行い、触媒とイソプロピルアルコールとをなじませたプレペーストを得た。このプレペーストに上記の保水ペースト用の高分子電解質溶液を(高分子電解質の重量/カーボン担体の重量)が1.0となるように添加し、主触媒ペーストの調製と同様に自転/公転式遠心撹拌機によってさらに撹拌し、保水ペーストを得た。
【0023】
3)混合ペースト調製工程S3
上記のようにして得られた主触媒ペースト及び保水ペーストを固形分重量比0.65:0.35の比率で混合し、混合ペーストを得た。この比率で混合することにより(高分子電解質の重量/カーボン担体の重量)は0.35となった。
【0024】
4)塗布工程S4
この混合ペーストをカーボンペーパーなどの基材13,14にスクリーン印刷をした後、乾燥させ、図6に示すカソード極3及びアノード極5を得、さらに、これらカソード極3及びアノード極5によってナフィオンからなる高分子電解質膜11を挟み、膜−電極接合体(MEA)とした。印刷した部分がカソード触媒層10、アノード触媒層12である。なお、混合ペーストを基材へ塗布する方法としては、スクリーン印刷の他に、スプレー法、インクジェット法等の手段によっても行い得る。
【0025】
(比較例1)
比較例1では、上記実施例1における主触媒ペーストのみで作製した電極を用い、実施例1と同様にしてMEAを組み立てた。
【0026】
(比較例2)
比較例1では、特許文献2に示された、カーボン電解質複合材を一度乾燥・粉砕して不溶化した後、混合するという方法で調製した不溶化混合触媒層を用い、実施例1と同様にしてMEAを組み立てた。すなわち、
低比表面積カーボン担体として、市販のBP880を用意した。このBP800は1次粒径が15nm程度である。このBP880に対し、Pt微粒子を担持密度20wt%で担持させ、触媒とした。この触媒に対して水を添加し、自転/公転式遠心撹拌機(キーエンス社製、商品名「ハイブリッドミキサーHM−500」)によって脱泡及び撹拌を行い、触媒と水とをなじませたプレペーストを得た。
【0027】
このプレペーストに対し、アイオノマー溶液(ナフィオン溶液(5質量%溶液))を添加した。この際、アイオノマー溶液中のナフィオンの重量と、カーボン担体の重量比(N/C比)が0.15となるように、触媒に対してアイオノマー溶液を添加した。その後、これらを自転/公転式遠心撹拌機によってさらに撹拌し、主触媒ペーストを得た。
【0028】
一方、保水ペーストは以下に示す製造方法で製造されている。まず、カーボンブラックとして、Vulcan−XC72R(CABOT社製の商品名)を採用した。そして、このカーボンブラックにイソプロピルアルコールを添加し、自転/公転式遠心撹拌機によって4分間の撹拌を行い、カーボンブラックとイソプロピルアルコールとをなじませたカーボンペーストを得た。そして、このカーボンペーストにナフィオン溶液を添加した。この際、ナフィオン溶液中のナフィオンの重量とカーボンブラックとの重量比(N/C比)が1.0となるようにナフィオン溶液を添加した。その後、これらを自転/公転式遠心撹拌機によって4分間撹拌し、保水材プレペーストを得た。
【0029】
次に、この保水材プレペーストをシャーレに注ぎ、この保水材プレペースト中の溶媒が揮発するまで空気中に放置して自然乾燥させた。これにより、膜状となった保水材プレペーストである乾燥保水材を得た。そして、ガラス転移温度以上の温度である約160°Cで1時間以上この乾燥保水材を加熱した。こうして、乾燥保水材中の高分子電解質をカーボンブラックに固定させて、高分子電解質を不溶化処理した固形保水材を得た。そして、この固形保水材をボールミル粉砕用容器に投入し、さらに、粉砕用として直径5mmのジルコニアボールを適量加えつつ、窒素雰囲気中でボールミル粉砕用容器の蓋を密閉した。その後、このボールミル粉砕用容器を遊星回転ボールミル粉砕装置(伊藤製作所製、商品名「遊星回転ポットミル」)に設置し、回転数240rpmで2時間、自転及び公転させて乾式粉砕を行った。これにより、この固形保水材は、微細な粒子状となっている。
【0030】
この粒子状の固形保水材とIPAとを混合し、自転/公転式遠心撹拌機によってさらに撹拌して保水ペーストを得た。
【0031】
上記のようにして得られた主触媒ペースト及び保水ペーストを固形分重量比0
.65:0.35の比率で混合し、混合ペーストを得た。この比率でこれらを混合することにより、混合ペースト全体でのN/C比は0.35となる。
【0032】
<MEA作製とI−V性能評価>
以上のようにして得られた実施例1及び比較例1,2に係るMEAのTafel性能(Air)を図7に示す。また、70℃、40%RH(低加湿)でのI−V特性を図8に示す。
図7から、Tafel性能は、低N/C比で作製した比較例1の低比表面積担休触媒の単独触媒層、及び、比較例2の不溶化混合触媒層を用いたMEAの中間の性能となり、高活性性能を有することが分かった。
また、図8から、低加湿性能は、比較例1の低比表面積担休触媒の単独触媒層を用いたMEAと比較して遥かに優れており、比較例2の不溶化混合触媒層を用いたMEAとほぼ同等の性能を達成し、保湿性、高プロトン伝導性を有することが分かった。
【0033】
以上の結果は、次の様に説明することができる。すなわち、実施例1に係るMEAでは、触媒層が主触媒ペーストと保水ペーストとが混合された混合ペーストによって形成されている。主触媒ペーストにおいて、触媒には細孔径が4nm以上である低比表面積カーボン担体が採用されているため、触媒層では、アイオノマー溶液中の高分子電解質であるナフィオンが細孔内に入り込むことができ、三相界面の形成が可能となることから、細孔内のPt微粒子が無駄にならない。さらに、主触媒ペーストは低N/Cであるため、このカソード触媒層を有するカソード極では、電気化学反応時においてPt微粒子の利用率を高めることができ、少ないPtで高活性性能を得られるため、Pt微粒子の使用量の削減が可能となる。
【0034】
また、上記の触媒ペーストによって得られた触媒層では、主触媒ペーストのN/C比が0.15と小さい、すなわち高分子電解質の量が少ないため、従来の触媒層と比較し、触媒の周囲に形成される高分子電解質による層が薄くなるが、この触媒層は保水材を含有しているため、高電流領域においてフラッディングが生じ難い。また、保水ペーストは、上記のN/C比に基づいて、カーボンブラックと高分子電解質とが混合されているため、保水材の部分においてプロトンと電子とのパスのためのネットワークが確保されている。これらにより、電気化学反応の円滑な進行が妨げられ難い。また、触媒層は保水材を含有しているため、低加湿環境下での電気化学反応時に乾き難く、電気化学反応の円滑な進行が妨げられ難い。さらに、このMEAでは、保水ペーストの高分子電解質溶液が、主触媒ペーストの高分子電解質溶液よりも粘度が高い状態とされている。このため、図3に示すように、保水ペーストの高分子電解質溶液が主触媒ペーストに移動することなく、カーボン担体が厚い高分子電解質膜に包まれた状態の保水材が分散することとなる。このため、主触媒層の高活性性能を損なうことなく、上記の保水材による効果が得られるとともに、触媒層における電気化学反応を均質に生じさせ易くなっている。
【0035】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0036】
S1…主触媒ペースト調製工程、S2…保水ペースト調製工程、S3…混合ペースト調製工程、S4…塗布工程、S5…乾燥工程
3…カソード極、5…アノード極、11…高分子電解質膜、10…カソード触媒層、12…アノード触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部は細孔径が4nm以上である低比表面積の第1のカーボン担体を備える触媒を第1の高分子電解質の溶液に分散し、前記触媒が第1の膜厚の前記第1の高分子電解質層で被覆されてなる主触媒ペーストを準備するステップと、
第2のカーボン担体を第2の高分子電解質の溶液に分散し、前記第2のカーボン担体が前記第1の膜厚より厚い第2の膜厚の前記第2の高分子電解質層で被覆されてなる保水ペーストを準備するステップと、
前記主触媒ペーストと前記保水ペーストとを混合して混合ペーストとするステップと、を含む燃料電池用触媒層の製造方法であって、
前記第1の高分子電解質の溶液の粘度よりも前記第2の高分子電解質の溶液の粘度を高くする、燃料電池用触媒層の製造方法。
【請求項2】
前記第2の高分子電解質の溶液の粘度は前記第1の高分子電解質の溶液の粘度の2〜100倍である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
少なくとも一部は細孔径が4nm以上である低比表面積の第1のカーボン担体を備える触媒を第1の膜厚の第1の高分子電解質で被覆してなる主触媒体と、
第2のカーボン担体を前記第1の膜厚より厚い第2の膜厚の第2の高分子電解質層で被覆してなる保水材と、が混合されている燃料電池用触媒層であって、
前記第2の高分子電解質は前記第1の高分子電解質よりも溶媒溶解時に高い粘性を示す、燃料電池用触媒層。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−73870(P2013−73870A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213928(P2011−213928)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】