説明

燃料電池用離型フィルム

【課題】 固体酸化物型燃料電池の電解質として用いる、欠点や異物が極めて少ないグリーンシートを成形するための離型フィルムを提供する。
【解決手段】 燃料電池の固体電解質として用いられるグリーンシートを成形するために使用される離型フィルムであって、二軸配向ポリエステルフィルムに、塗布層、および硬化型シリコーン樹脂を含有する離型層を順次設けられた離型フィルムからなり、180℃で10分間熱処理した後の離型層表面のオリゴマー量が3.0mg/m以下であることを特徴とする離型フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルフィルムに硬化型シリコーンを設けた離型フィルムに関するものであり、詳しくは固体酸化物形燃料電池(以下、SOFC(Solid Oxide Fuel Cell)と略記する)の電解質として用いられるグリーンシートを成形するために使用される離型フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステルフィルムを基材とする離型フィルムがグリーンシ−ト成形用、例えばセラミック積層コンデンサー、セラミック基板等の各種セラミックの離型用途において使用されている。また、近年、グリーンシート成形を経てSOFCに使用する固体電解質を製造するプロセスも検討されている。特許文献1および2には、キャリアフィルムとして離型フィルムの使用例が挙げられている。
【0003】
燃料電池は水素と空気中の酸素を供給し反応させることで発電することを原理とし、有害なガスを発生させないクリーンなエネルギー系として注目を浴びている。また、作動温度が約1000℃と高く、原料ガスの内部改質が可能であり、水素源として天然ガスや一酸化炭素も利用できる利点がある。さらに、作動温度が高く廃熱の利用価値も高いため、総合的な効率は高く、二酸化炭素の発生量も抑制することができる。
【0004】
また、SOFCは電解質が固体であるために電解質の散逸の問題がなく、構造も簡単であり、長寿命が期待できる。SOFCは出力密度が高く、改質機が不要なため、コンパクト化、高効率化も期待できる。
【0005】
固体電解質は、イオン伝導性を有するセラミック粒子(例えば、ジルコニア系粒子等)およびバインダー、添加剤等から構成されるセラミックスラリーを塗布した後、溶媒を乾燥させてシート成形することにより得られる。
【0006】
一方、SOFCは運転温度が高いため、使用できる材料が限定される。また、起動に時間がかかる。そのため、作動温度を下げる検討が行われている。しかし、燃料電池の作動温度が下がると電極・電解質の内部抵抗が大きくなるため、特許文献3〜6では、電解質の薄膜化、および作動温度を下げても十分なイオン伝導性を有するイオン伝導性物質や触媒活性の高い電極材料の探索が続けられ、セラミック部材として高度化してきている。
【0007】
上記のようなセラミック部材としての高度化、特に電解質の薄膜化のためには、グリーンシートの表面を最適化することが重要であるが、セラミックシートを成型するための離型フィルムに用いられるポリエステルフィルムは、フィルム中に含まれているオリゴマーが、セラミックシートの成型工程で離型フィルムの表面に析出するため、グリーンシートの成型時にシート表面に欠点が発生したり、析出したオリゴマーが異物となったりする問題を有している。
【0008】
上記のようなセラミック部材としての高度化に伴い、セラミックシート成形技術への要求レベルが高まって来ており、製造工程における困難性も増して来ている。例えば、離型フィルムに塗布されたグリーンシートは、乾燥工程を経てもなお、粘着性を有する場合があるため、グリーンシートを成形する際の背面(以下、便宜上B面と言う)へのブロッキング発生の問題があり、その解決のために特許文献7に示されるような、両面離型ポリエステルフィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−29205号公報
【特許文献2】特開2001−205607号公報
【特許文献3】特開2002−358976号公報
【特許文献4】特開2003−263994号公報
【特許文献5】特開2003−346816号公報
【特許文献6】特開2004−200125号公報
【特許文献7】特開2009−54362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、固体酸化物型燃料電池の電解質として用いる、欠点や異物が極めて少ないグリーンシートを成形するための離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記実状に鑑み、鋭意検討した結果、特定の性質を持つ離型フィルムを用いれば、上述の課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、燃料電池の固体電解質として用いられるグリーンシートを成形するために使用される離型フィルムであって、二軸配向ポリエステルフィルムに、塗布層、および硬化型シリコーン樹脂を含有する離型層を順次設けられた離型フィルムからなり、180℃で10分間熱処理した後の離型層表面のオリゴマー量が3.0mg/m以下であることを特徴とする離型フィルムに存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の離型フィルムを、固体酸化物型燃料電池の電解質に用いるグリーンシート成形用として使用すれば、表面欠点や異物の少ないグリーンシートが得られ、固体電解質膜の薄肉化による燃料電池の内部抵抗を下げることができ、燃料電池の高出力化に寄与することができる。また、その生産を効率よく行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリエステルフィルムに使用する原料ポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルを用いる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN)等が例示される。一方、共重合ポリエステルを用いる場合は、30モル%以下の第三成分を含有する共重合体であることが好ましい。共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、P−オキシ安息香酸など)等の一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。
【0015】
いずれにしても本発明でいうポリエステルとは、通常70モル%以上、好ましくは90モル%以上がエチレンテレフタレート単位であるポリエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート単位であるポリエチレン−2,6−ナフタレート等であるポリエステルを指す。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムの極限粘度は、通常0.40〜0.90、好ましくは0.45〜0.80、さらに好ましくは0.50〜0.70の範囲である。極限粘度が0.40未満では、フィルムの機械的強度が弱くなる傾向があり、極限粘度が0.90を超える場合は、溶融粘度が高くなり、押出機に負荷がかかったり、製造コストが増大したりする等の問題が生じる場合がある。
【0017】
従来、フィルムのオリゴマーを低減する方法しては、固相重合によりあらかじめポリマー中のオリゴマー量を低減させておき、最終フィルムのオリゴマーを少なくする処方が用いられているが、固相重合の場合は、極限粘度が高くなったり、工程が増えたりするためにコストが上昇してしまう問題がある。また、フィルム製造工程の押出機で溶融温度が高かったり、滞留時間が長くなったりする場合には、オリゴマーを低減させた効果が見られなくなる。
【0018】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステル層中には、易滑性付与を主たる目的として粒子を配合することが好ましい。配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の粒子が挙げられる。また、特公昭59−5216号公報、特開昭59−217755号公報等に記載されている耐熱性有機粒子を用いてもよい。この他の耐熱性有機粒子の例として、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。さらに、フィルム原料の製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0019】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0020】
また、用いる粒子の平均粒径は、通常0.05〜5μm、好ましくは0.05〜3μmの範囲である。平均粒径が0.05μm未満の場合には、粒子が凝集しやすく、分散性が不十分な場合があり、一方、5μmを超える場合には、フィルムの表面粗度が粗くなりすぎて、後工程において種々の表面機能層を塗設させる場合等に不具合が生じる場合がある。
【0021】
さらにポリエステル層中の粒子含有量は、通常0.001〜5重量%、好ましくは0.005〜3重量%の範囲である。粒子含有量が0.001重量%未満の場合には、フィルムの易滑性が不十分な場合があり、一方、5重量%を超えて添加する場合にはフィルムの透明性が不十分な場合がある。
【0022】
ポリエステル層中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリマーを製造する任意の段階において添加することができる。
【0023】
また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0024】
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0025】
本発明の燃料電池の固体電解質用グリーンシートの成形に使用される離型フィルムは、二軸配向ポリエステルフィルムに、塗布層、および離型剤層の順に設けられて形成される。
【0026】
前記塗布層が設けられない場合は、グリーンシートの成型工程で、ポリエステルフィルムから析出したオリゴマーが離型フィルム表面に移行し、さらに離型フィルム表面からグリーンシートにオリゴマーが移行し、移行したオリゴマーが異物となりグリーンシート表面に欠点を発生させるため好ましくない。
【0027】
本発明においては、シラン化合物を含有する塗布層を設けることができ、シラン化合物を含有する塗布層は、シランカップリング剤を用いることにより形成される。
【0028】
シランカップリング剤は、1分子中に少なくとも2種類の反応性の異なる官能基を有しており、一般に、YRSiXで表される化合物である。
【0029】
ここでYはビニル基、エポキシ基、アミノ基、などの有機官能基、Rはメチレン、エチレン、プロピレン等の如きアルキレン基、Xはメトキシ、エトキシ等の如き加水分解基およびアルキル基であるが、本発明で供するシランカップリング剤は、Yがアミノ基であることが好ましい。
【0030】
Yがビニル基やエポキシ基では、オリゴマーの封止効果が小さくなる傾向がある。
【0031】
具体的化合物としては、例えばN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。
【0032】
本発明で用いる好ましいシランカップリング剤は、シランカップリング剤が、下記一般式で表される化合物である。
【0033】
Y−(CH−Si−(X)
上記式中、Xは、−OCHまたは−OCHCHを示し、Yは、−NHまたは−NHCHCHNHを示す。
【0034】
さらに好ましいシランカップリング剤は、シランカップリング剤が、下記一般式で表される化合物である。
【0035】
Z−(CH−Si−(X)
上記式中、Xは、−OCHまたは−OCHCHを示し、Zは、−NHCHCHNHを示す。
【0036】
本発明における塗布層には、必要に応じて上記のシランカップリング剤以外の水溶性または水分散性のバインダー樹脂を併用してもよい。
【0037】
かかるバインダー樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アミド樹脂等が挙げられる。これらは、それぞれの骨格構造が共重合等により実質的に複合構造を有していてもよい。複合構造を持つバインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂グラフトポリエステル、アクリル樹脂グラフトポリウレタン、ビニル樹脂グラフトポリエステル、ビニル樹脂グラフトポリウレタン等が挙げられる。
【0038】
本発明の目的であるフィルム表面へのオリゴマーの析出防止には、上記バインダーの中でポリビニルアルコールを用いると好ましい。
【0039】
バインダー成分の配合量は、塗布層に対する重量部で通常50重量部以下であり、30重量部以下の範囲が好ましい。
【0040】
さらに本発明のフィルムの塗布層中には、必要に応じて架橋反応性化合物を含んでいてもよい。架橋反応性化合物としては、メチロール化あるいはアルキロール化した尿素系、メラミン系、グアナミン系、アクリルアミド系、ポリアミド系などの化合物、ポリアミン類、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、アジリジン化合物、ブロックイソシアネート化合物、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコ−アルミネート系カップリング剤、金属キレート、有機酸無水物、有機過酸化物、熱または光反応性のビニル化合物や感光性樹脂などの多官能低分子化合物および高分子化合物から選択される。
【0041】
架橋反応性化合物は、主に塗布層に含まれる樹脂が有する官能基と架橋反応することで、塗布層の凝集性、表面硬度、耐擦傷性、耐溶剤性、耐水性を改良することができる。例えば、前記官能基が水酸基の場合、架橋反応性化合物としては、メラミン系化合物、ブロックイソシアネート化合物、有機酸無水物などが好ましく、前記官能基が有機酸およびその無水物の場合、架橋反応性化合物としてはエポキシ系化合物、メラミン系化合物、オキサゾリン系化合物、金属キレートなどが好ましく、前記官能基がアミン類の場合、架橋反応性化合物としてはエポキシ系化合物などが好ましく、塗布層に含まれる樹脂が有する官能基と架橋反応効率が高いものを選択して用いることが好ましい。
【0042】
架橋反応性化合物は反応性官能基が1分子中に2個以上含まれる限りにおいて、低分子量化合物であっても、反応性官能基を有する高分子重合体のいずれであってもよい。
【0043】
架橋反応性化合物の配合量は、塗布層に対する重量部で50重量部以下、さらには30重量部以下、特に15重量部以下の範囲が好ましい。
【0044】
さらに本発明の塗布層中には、必要に応じて塗布層の滑り性改良のために不活性粒子を含んでいてもよい。
【0045】
塗布層の厚さは、0.01〜2μm、さらには0.03〜0.5μm、特に0.06〜0.2μmの範囲が好ましい。塗布層の厚さが0.01μm未満の場合は、十分なオリゴマー析出防止の効果が得られないことがあり、2μmを超える場合は、耐ブロッキング性が不十分となる傾向がある。
【0046】
本発明のグリーンシートを成型するための、二軸配向ポリエステルフィルム、塗布層、および硬化型シリコーン樹脂を含有した離型層の順に設けられた離型フィルムは、180℃で10分間熱処理後の離型剤層表面のオリゴマー量が3.0mg/m以下、好ましくは1.60mg/m以下、さらに好ましくは1.00mg/m以下である。表面オリゴマー量が3.0mg/mを超える場合は、グリーンシートの成型時にシート表面に欠点が発生したり、析出したオリゴマーが異物となったりする問題を有している。
【0047】
本発明の離型フィルムを構成するポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常9〜250μm、好ましくは12〜188μmの範囲である。
【0048】
次に、本発明における離型ポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。
【0049】
すなわち、先に述べたポリエステル原料を使用し、ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高める必要があり、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートを二軸方向に延伸する。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃であり、延伸倍率は、通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する延伸温度は通常130〜170℃であり、延伸倍率は通常3.0〜7倍、好ましくは3.5〜6倍である。そして、引き続き、180〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。
【0050】
上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。また、前記の未延伸シートを面積倍率が10〜40倍になるように同時二軸延伸を行うことも可能である。さらに、必要に応じて熱処理を行う前または後に再度縦および/または横方向に延伸してもよい。
【0051】
上述のポリエステルフィルムの延伸工程中にフィルム表面を処理する、いわゆる塗布延伸法(インラインコーティング)を施すことができる。それは以下に限定するものではないが、例えば、逐次二軸延伸においては特に1段目の延伸が終了して、2段目の延伸前にコーティング処理を施すことができる。上述の塗布延伸法にてポリエステルフィルム上に塗布層が設けられる場合には、延伸と同時に塗布が可能になると共に塗布層の厚みを延伸倍率に応じて薄くすることができ、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造できる。
【0052】
本発明の離型ポリエステルフィルムは、離型面の剥離力を特定の範囲内とすることが実用上好ましい。すなわち、本発明の離型フィルムは、少なくとも一方の離型層の常態剥離力が400mN/cm以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは20〜200mN/cmの範囲である。常態剥離力が400mN/cmを超える場合は、特にグリーンシートが薄い場合にはグリーンシート剥離時に、グリーンシートが剥がれにくく、破れやすいという問題がある。一方、20mN/cm未満の場合、工程中に、グリーンシートが離型ポリエステルフィルムの端部から部分的に剥がれる等の不具合を生じる場合がある。
【0053】
本発明の離型フィルムは、ポリステルフィルムの表面に析出するオリゴマーを防止するだけでなく、離型層のシリコーンがグリーンシートに移行し、グリーンシート成型工程発生する欠点を防いだり、シリコーンが原因による異物の発生を防いだりするため、加熱処理により離型層中のシリコーンが離型層表面に接触した表面に移行する指標であるプレス接着率を通常80%以上、好ましくは85%以上とする。プレス接着率が80%未満の場合、離型フィルムの離型面と接する相手方グリーンシート表面へのシリコーン移行が多くなり、当該グリーンシートをSOFC用として使用した場合、移行したシリコーンが焼成後も酸化物として残り、正常な電極反応を阻害することも懸念される。
【0054】
本発明の離型フィルムを構成する離型層は、離型性を有する材料を含有していれば、特に限定されるものではない。そのような材料の中でも、硬化型シリコーン樹脂を用いることにより、離型性が特に良好となるので好ましい。硬化型シリコーン樹脂を主成分とするタイプでもよいし、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂等の有機樹脂とのグラフト重合等による変性シリコーンタイプ等を使用してもよい。硬化型シリコーン樹脂の種類としては、付加型・縮合型・紫外線硬化型・電子線硬化型・無溶剤型等、何れの硬化反応タイプでも用いることができる。
【0055】
硬化型シリコーン樹脂の具体例を挙げると、信越化学工業(株)製KS−772,KS−774、KS−775、KS−778、KS−779H、KS−856、X−62−2422、X−62−2461、ダウ・コーニング・アジア(株)製DKQ3−202、DKQ3−203、DKQ3−204、DKQ3−205、DKQ3−210、FSXK−2560、東芝シリコーン(株)製YSR−3022、TPR−6700、TPR−6720、TPR−6721、東レ・ダウ・コーニング(株)製SD7220、SD7226、SD7229等が挙げられる。
【0056】
さらに離型層の剥離性等を調整するために、剥離コントロール剤を併用してもよい。
【0057】
本発明の離型ポリエステルフィルムを構成する離型層の塗布量(Si)は、通常0.01〜5g/mの範囲であり、さらには0.01〜2g/m、特に0.01〜1g/mの範囲が好ましい。離型層の塗布量が0.01g/m未満の場合、塗工面の安定性に欠け、均一な塗膜を得るのが困難な場合がある。一方、塗工量が5g/mを超える場合、離型層自体の塗膜密着性、硬化性等が低下する場合がある。
【0058】
本発明において、ポリエステルフィルムに離型層を設ける方法として、リバースロールコート、グラビアコート、バーコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた測定法は次のとおりである。
【0060】
(1)ポリエステルの固有粘度の測定
サンプル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0061】
(2)平均粒径(d50:μm)の測定
遠心沈降式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製SA−CP3型)を使用して測定した等価球形分布における積算(重量基準)50%の値を平均粒径とした。
【0062】
(3)離型ポリエステルフィルムの剥離力(F)の評価
測定試料の離型層に両面粘着テープ(日東電工製「No.502」)の片面を貼り付け、50mm×300mmのサイズにカットし、室温にて1時間放置後の剥離力を測定した。剥離力は、引張試験機((株)インテスコ製「インテスコモデル2001型」)を使用し、引張速度300mm/分の条件下、180°剥離を行った。
【0063】
(4)離型層の塗布量(Si)の測定
蛍光X線測定装置((株)島津製作所製 型式「XRF−1500」)を用いてFP(Fundamental Parameter Method)法により、下記測定条件下、離型フィルムの離型層が設けられた面および離型層がない面の珪素元素量を測定し、その差をもって、離型層中の珪素元素量とした。次に得られた珪素元素量を用いて、−SiO(CHのユニットとしての塗布量(Si)(g/m)を算出した。
<測定条件>
分光結晶:PET(ペンタエリスリトール)
2θ:108.88°
管電流:95mA
管電圧:40kv
なお、離型層に珪素元素が存在しない場合は、断面観察等の手法により、塗布量を測定する。
【0064】
(5)プレス接着率の評価
75μmポリエステルフィルム/測定試料フィルム/75μmポリエステルフィルムの構成とし、温度60℃、圧力1MPa、時間120分の条件でプレス処理を行う。プレス処理後、75μmポリエステルフィルムの、測定試料フィルム離型層面に接していた側の面に、日東製No.31テープを貼り付け、剥離力(A)を測定する。剥離力は、引張試験機((株)インテスコ製「インテスコモデル2001型」)を使用し、引張速度300mm/分の条件下、180°剥離を行った。
【0065】
(6)グリーンシ−ト剥離性評価
離型フィルム面に、下記組成からなるセラミックスラリーを塗布量(乾燥後)が50μmになるように塗布し、120℃にて乾燥してグリーンシ−トを得た。
【0066】
得られたグリーンシ−トを剥離する際の剥離性を下記判定基準により判定を行った。
<セラミックスラリー組成>
セラミック粉体(ジルコニア粒子) 100部
結合剤(ポリビニルブチラール樹脂) 20部
可塑剤(フタル酸ジオクチル) 1部
トルエン/MEK(1:1)混合溶媒20部
判定基準
○:スムーズに剥離可能(実用上問題ないレベル)
△:スムーズではないが、剥離可能(実用上問題ないレベル)
×:剥離困難(実用上問題あるレベル)
【0067】
(7)グリーンシートの成形性
上記(6)のグリーンシート成型時の状況より、下記基準より判断した。
判定基準
○:何の問題も無くグリーンシートが成型できた
×:グリーンシートの一部が離型フィルムより剥がれる
【0068】
(8)グリーンシートの表面性
上記(6)で得られたグリーンシートの離型フィルムの離型層面が接していた面を観察し、下記基準より判定を行った。
判定基準
○:離型フィルム起因の欠点が見られない。
△:離型フィルム起因の欠点が見られるが、実用上問題ないレベル
×:離型フィルム起因の欠点がみられ、実用上問題あるレベル
【0069】
<ポリエステルの製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04部を添加した後、平均粒子径1.6μmのエチレングリコールに分散させたシリカ粒子を0.06部、三酸化アンチモン0.04部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、4時間を経た時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させた。得られたポリエステル(1)の極限粘度は0.53、オリゴマー(環状三量体)の含有量は0.98重量%であった。
【0070】
<ポリエステルフィルムの製造>
ポリエステルを原料として、ベント付き押出機に供給し、290℃で溶融押出した後、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して厚さ約740μmの無定形フィルムを得た。このフィルムを85℃で縦方向に3.7倍延伸し、フィルムの片面に、塗布液Aを厚み0.06μmに塗布した後、100℃で横方向に4.0倍延伸し、210℃で熱処理して、厚さ50μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0071】
(塗布液Aの調整)
N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシランを90重量%、PVA系樹脂を10重量%含有する塗布液を調整した。
塗布液の固形分濃度は2重量%とした。
(塗布液Bの調整)
γ−アミノプロピルトリメトキシシランを90重量%、PVA系樹脂を10重量%含有する塗布液を調整した。
塗布液の固形分濃度は2重量%とした。
【0072】
(塗布液Cの調整)
下記に記載した、PVA系樹脂を20重量%、水系ポリエステルを70重量%、架橋性化合物を10重量%含有する塗布液を調整した。塗布液の固形分濃度は2重量%とした。
【0073】
・PVA系樹脂:けん化度=88モル%、重合度=500のポリビニルアルコール
・水系ポリエステル:主としてイソフタル酸、エチレングリコール、ジエチレングリコールを主とするポリエステルに、ネオペンチルグリコール、脂肪族ジカルボン酸無水物を有するジカルボン酸誘導体を共重合させたポリエステルをアミン化合物で中和して水系化して得た水系ポリエステル
・架橋性化合物:ヘキサメトキシメチルメラミン
(塗布液Dの調整)
ポリウレタン水分散体A(大日本化学工業(株)製ハイドランAP−40)を80部、ポリエステル水分散体B(大日本化学工業(株)製ファインテックスES−670)を20部含有する塗布液を調製した。塗布液に固形分濃度は2重量%とした。
【0074】
実施例1:
<離型フィルムの製造>
ポリエステルフィルムの製造で得られた二軸配向ポリエステルフィルムに、下記に示す離型剤組成Aからなる塗料を、塗布量が0.1g/m(乾燥後)になるように設けて離型フィルムを得た。
(離型剤組成A)
硬化型シリコーン樹脂(KS−774:信越化学製) 100部
硬化剤(PL−4: 信越化学製) 10部
MEK/トルエン混合溶媒(混合比率は1:1) 1500部
(離型組成B)
硬化型シリコーン樹脂(KS−847H:信越化学製) 100部
硬化剤(PL−50T: 信越化学製) 1部
ポリエーテル変性シリコーンオイル(KF−351:信越化学製) 1部
MEK/トルエン混合溶媒(混合比率は1:1) 1500部
(離型剤組成C)
硬化型シリコーン樹脂(KS−847H:信越化学製) 100部
硬化剤(PL−50T: 信越化学製) 1部
ポリエーテル変性シリコーンオイル(KF−351:信越化学製) 8部
MEK/トルエン混合溶媒(混合比率は1:1) 1500部
(離型剤組成D)
硬化型シリコーン樹脂(KS−723A:信越化学製) 100部
硬化型シリコーン樹脂(KS−723B:信越化学製) 2部
硬化剤(PS−3:信越化学製) 5部
MEK/トルエン混合溶媒(混合比率は1:1) 1500部
【0075】
実施例2〜7、比較例1〜2:
実施例1の離型フィルムの製造において、離型フィルムに用いた離型剤組成を下記表1のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして第離型フィルムを得た。
【0076】
【表1】

【0077】
各実施例、比較例で得られたフィルムの評価結果をまとめて下記表2〜3に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の両面離型ポリエステルフィルムは、燃料電池の固体電解質として用いられるグリーンシートを成形するために使用される離型フィルムとして好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の固体電解質として用いられるグリーンシートを成形するために使用される離型フィルムであって、二軸配向ポリエステルフィルムに、塗布層、および硬化型シリコーン樹脂を含有する離型層を順次設けられた離型フィルムからなり、180℃で10分間熱処理した後の離型層表面のオリゴマー量が3.0mg/m以下であることを特徴とする離型フィルム。
【請求項2】
離型層の剥離力が20〜400mN/cmの範囲であり、離型層のプレス接着率が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載の離型フィルム。

【公開番号】特開2013−73699(P2013−73699A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210012(P2011−210012)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】