燃料電池用電極層の製造方法
【課題】燃料電池用電極層として触媒反応に関与する実質的な表面積が大きく、燃料、酸化剤の侵入、拡散が容易である構造の電極層を得ることおよびこの電極層を超音波スプレー装置によって形成できる方法を得ることにある。
【解決手段】触媒担持粒子とイオン導電性ポリマーとからなる触媒一次粒子が多数集合してなる多孔質の触媒二次粒子23がさらに多数集合してなる多孔質の集合体から構成された電極層22。この電極層を得るには、触媒担持粒子とイオン伝導性ポリマーと溶剤を含む触媒インクを超音波スプレー装置により高分子膜またはガス拡散膜に塗布する際、超音波スプレー装置から噴霧されたインク粒子がほぼ乾燥された状態でターゲット表面に付着するように該インク粒子を乾燥することで可能である。
【解決手段】触媒担持粒子とイオン導電性ポリマーとからなる触媒一次粒子が多数集合してなる多孔質の触媒二次粒子23がさらに多数集合してなる多孔質の集合体から構成された電極層22。この電極層を得るには、触媒担持粒子とイオン伝導性ポリマーと溶剤を含む触媒インクを超音波スプレー装置により高分子膜またはガス拡散膜に塗布する際、超音波スプレー装置から噴霧されたインク粒子がほぼ乾燥された状態でターゲット表面に付着するように該インク粒子を乾燥することで可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固体高分子電解質型燃料電池の電極層およびその製造方法ならびにこの電極層を備えた燃料電池に関し、電極層の実質的な表面積を増加させ、反応面積が増大してセル特性を向上させたものである。
【背景技術】
【0002】
図10は、固体高分子電解質型燃料電池の反応部である膜電極接合体(MEA)の例を示すものである。
図10において、符号1は高分子電解質膜を示す。この高分子電解質膜1の一方の表面には厚さ20μm程度の膜状のアノード電極層2が、他方の表面には厚さ20μm程度の膜状のカソード電極層3が接合、一体化されて設けられ、これらアノード電極層2およびカソード電極層3の表面には図示しないカーボンペーパーなどの拡散層が設けられて膜電極接合体を構成している。
【0003】
前記高分子電解質膜1には、厚さ30〜70μm程度のパーフルオロスルホン酸系ポリマーなどからなるフィルムが用いられる。
前記アノード電極層2およびカソード電極層3には、触媒インクを拡散層となるカーボンペーパーに塗布し、乾燥したものが用いられる。触媒インクには、例えば径2〜5nm程度の白金微粒子などの触媒粒子を径30nm程度のカーボン粒子などの導電性担持粒子に担持した触媒担持粒子を用意し、この触媒担持粒子をイオン導電性ポリマー、イソプロパノール、水などからなる高分子電解質溶液に分散させたものが用いられる。
【0004】
これらアノード電極層2、カソード電極層3が形成されたカーボンペーパーを高分子電解質膜1の両面に接合して、膜電極接合体とされる。
なお、触媒インクを高分子電解質膜1の両面にそれぞれ塗布して電極層2、3を形成したのち、これに拡散層を接合して膜電極接合体とする製法もある。
【0005】
拡散層または高分子電解質膜(以下、まとめてターゲットとする。)への触媒インクの塗布方法として、従来よりエアスプレーによるものが採用されてきたが、近時超音波スプレー装置による塗布方法が提案されている。超音波スプレー装置を用いた塗布方法では、得られた電極層における触媒担持粒子の分散が均一であるメリットがあるとされている。
【0006】
しかしながら、超音波スプレー装置によるものでは、従来のエアスプレー装置によるものと同様に触媒担持粒子が合体して成長し、成長した粒子がイオン導電性ポリマーによって結合した状態の電極層が得られるに過ぎなかった。
【0007】
超音波スプレー装置を使用した燃料電池用電極層の形成に関しては、以下の特許文献がある。
【特許文献1】特開2006−210200号公報
【特許文献2】特開2006−236881号公報
【特許文献3】特開2007−164993号公報
【特許文献4】特開2007−165075号公報
【特許文献5】特開2007−213841号公報
【特許文献6】特開2007−258051号公報
【特許文献7】特開2007−265734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明における課題は、燃料電池用電極層として触媒反応に関与する実質的な表面積が大きく、燃料、酸化剤の侵入、拡散が容易である構造の電極層を得ることおよびこの電極層を超音波スプレー装置によって形成できる方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、触媒担持粒子とイオン伝導性ポリマーと溶剤を含む触媒インクを超音波スプレー装置により高分子膜または拡散膜からなるターゲットに塗布して燃料電池用電極層を形成する方法であって、
超音波スプレー装置から噴霧されたインク粒子がほぼもしくは完全に乾燥された状態でターゲット表面に付着するように該インク粒子を乾燥することを特徴とする燃料電池用電極層の製造方法である。
【0010】
請求項2にかかる発明は、超音波スプレー装置とターゲットとの距離を調整して、超音波スプレー装置から噴霧されたインク粒子がほぼもしくは完全に乾燥された状態でターゲット表面に付着するように該インク粒子を乾燥することを特徴とする請求項1記載の燃料電池用電極層の製造方法である。
【0011】
請求項3にかかる発明は、超音波スプレー装置とターゲットとの間の空間を加熱して、超音波スプレー装置から噴霧されたインク粒子がほぼもしくは完全に乾燥された状態でターゲット表面に付着するように該インク粒子を乾燥することを特徴とする請求項1記載の燃料電池用電極層の製造方法である。
【0012】
請求項4にかかる発明は、超音波スプレー装置とターゲットとの間に、インク粒子の飛散を防止する飛散防止体を設けて噴霧することを特徴とする請求項1記載の燃料電池用電極層の製造方法である。
【0013】
請求項5にかかる発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法で製造された燃料電池用電極層である。
【0014】
請求項6にかかる発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法で製造された燃料電池用電極層であって、
触媒担持粒子とイオン導電性ポリマーとからなる触媒一次粒子が多数集合してなる多孔質の触媒二次粒子がさらに多数集合してなる多孔質の集合体から構成された燃料電池用電極層である。
【0015】
請求項7にかかる発明は、触媒二次粒子の形状が球状である請求項5または6記載の燃料電池用電極層である。
【0016】
請求項8にかかる発明は、請求項5ないし7のいずれかに記載の燃料電池用電極層を備えた燃料電池である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電極層が多数の触媒二次粒子が独立した形態で集合して形成されて内部に多くの空隙を有する多孔質となっており、さらに触媒二次粒子自体も内部に多数の空隙を有するものであるので、触媒反応に関与する実質的な表面積が大きく、燃料、酸化剤の侵入、拡散が容易である構造の電極層を得ることができる。
このため、この電極層を備えた燃料電池は、性能の高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、この発明の電極層の製造方法によって得られた電極層の一例を模式的に示すものである。
図1において、符号21はカーボンペーパーなどからなる拡散層を示し、符号22は、この拡散層21表面に形成された電極層を示す。この電極層22は、膜電極接合体のアノード電極層またはカソード電極層とされるものである。
【0019】
電極層22は、厚さ10〜20μm程度の膜状のもので、無数の触媒二次粒子23、23・・・が集合した集合体から構成されている。触媒二次粒子23は、相互に点接触に近い状態で集合しており、触媒二次粒子23、23・・間には微小な空間が無数に存在し、電極層22全体では、空隙率が高い多孔質となっている。触媒二次粒子23相互は、イオン導電性ポリマーにより結合されている。
【0020】
前記触媒二次粒子23は、粒径1〜30μm程度の球形あるいは不定形の粒子であり、その表面には無数の凹凸が存在し、かつ内部の空間に連通する無数の空洞が開口しており、触媒二次粒子23自体も多孔質となっている。
そして、1個の触媒二次粒子23は、さらに無数の触媒一次粒子が集合した集合体から構成されている。
【0021】
触媒一次粒子は、粒径が10〜100nmの粒子であり、触媒担持粒子とこの表面を薄く被覆するアイオノマーなどのイオン伝導性ポリマーからなる樹脂膜とから構成されている。
前記触媒担持粒子は、径10〜80nmのカーボンパウダーなどの導電性微粒子からなる担体の表面に、径1〜5nmの白金、パラジウム、イリジウムなどの触媒金属微粒子を付着、担持させたものである。
【0022】
このような構造の電極層22にあっては、電極層22が多孔質で個々の触媒二次粒子23、23・・間に空間があり、しかも触媒二次粒子23も多孔質であるので、層全体の反応に関与する実質的な表面積が極めて多くなり、かつ触媒担持粒子の多くが空間に面することになるので、触媒機能が最大限に発揮され、燃料あるいは酸化剤との触媒反応が効率よく進行する。
【0023】
また、この空間には、燃料、酸化剤が容易に侵入、拡散していき、また電極反応で生成した水分の排除を容易となる。
さらに、空間を通して高分子電解膜まで水分が透過し、高分子電解質膜の湿潤性が保たれ、水素イオンの伝導性が向上する。
【0024】
次に、前記電極層22の製造方法について説明する。
図2は、本発明の電極層22の製造方法の一例を示すものである。
図2において、符号31は、超音波スプレー装置を示し、符号32はターゲットを示す。ターゲット32は、拡散層または高分子電解質膜である。
【0025】
超音波スプレー装置31は、後述の組成の触媒インクに超音波発振子からの20〜100kHz程度の超音波振動を与えて触媒インクを微細な粒子からなる霧状物とするもので、アメリカ、ドイツなどで塗装用として一般に市販されている装置を使用することができる。超音波スプレー装置31の超音波出力は3〜10W程度とされるが、この範囲に限定されることはない。
【0026】
触媒インクとしては、例えば、粒径1〜5nm程度の白金やパラジウム、イリジウムなどの貴金属微粒子を一次粒径20〜50nmのカーボンブラックなどの導電性粒子からなる担体に30〜60重量%程度担持させた触媒担持粒子を用い、この触媒担持粒子をイソプロパノールなどの有機溶媒と水などとからなる溶剤に分散させた後、イオン導電性ポリマーであるNafion(デュポン社製、商品名)溶液などを3〜10重量%混合してなるものである。溶剤の組成、含有量を変化させることで、触媒インクの乾燥速度を調整することができる。
【0027】
超音波スプレー装置31のノズル31Aから噴霧された霧状物は、超音波スプレー装置31の下方に配置されたターゲット32に向けて、空中を浮遊しつつ落下してゆき、ターゲット32上に付着、堆積して、電極層22が形成される。
霧状物を構成する粒子は、前記触媒二次粒子23となる液滴であり、噴霧直後は溶剤が含まれた液状であるので、表面張力により形状が球状となる。
【0028】
そして、霧状物がターゲット32の表面に付着する際、霧状物を構成する個々の液滴から溶剤が揮発し、触媒二次粒子23となる微細粒子の表面が乾燥した状態であることが必要である。すなわち、球状の液滴から溶剤が徐々に揮発し、乾燥が進んだ状態で球状を維持しつつターゲット32に付着するようになされ、これによりターゲット32に付着した際には触媒二次粒子23となり、触媒二次粒子23が相互に融合して一つの粒子になることがなくなるようになされる。
【0029】
ここで、ほぼ乾燥状態とは、液滴粒子の表面が乾燥し、内部が乾燥していない状態を言い、触媒二次粒子はそれぞれ粒子のまま連結する。乾燥状態が弱い場合、球状ではなく、ヒダが形成された梅干し状の触媒二次粒子23が連結した構造の電極層が形成されることになる。
この構造の電極層も本発明の技術的範囲に包含される。この構造の電極層では、実質的な表面積は、触媒二次粒子が球状であるものに比較して大きくなるが、ガス拡散性はやや小さくなる。
【0030】
この要件を満たすための第1の方法には、超音波スプレー装置31とターゲット32との距離Dを適切に調整して、空気中で微細粒子から自然に溶剤が揮発する状態で、ターゲット32に付着させる方法がある。
適切な距離は、種々の操作条件、例えば雰囲気の温度、湿度、超音波出力、超音波振動数、触媒インク中の溶剤の種類、含有量などによって左右され、その都度予備実験を実施して適切な距離Dを決定することになる。
通常適切な距離Dは、50〜70cm程度が好ましい範囲となるが、これに限定されることはない。
【0031】
第2の方法は、図3に示すように、超音波スプレー装置31とターゲット32との間の側方に赤外線ランプなどの熱源33を設け、この熱源33からの熱を降下中の霧状物に与えて、触媒インクの微細粒子からの溶剤の揮発を促して溶剤が揮発しきった状態でターゲット32に付着させる方法である。
【0032】
この方法では、微細粒子からの溶剤の揮発が速やかに行われるので、超音波スプレー装置31とターゲット32との距離Dを短くできる。
熱源33からの熱量は、先と同様に種々の操作条件によって左右されるので、予備実験を行って定めることになる。
なお、温風を当てると霧状物が飛散して好ましくない。
【0033】
また、超音波スプレー装置31から噴霧される霧状物は、空気中を浮遊しつつターゲット32に向けて降下するため、その一部が室内の空気の流れなどにより外部に流れて飛散し、ターゲット32に付着しないものがある。この場合、当然のことながら、高価な白金触媒などを含む触媒インクの無駄になる。
【0034】
この霧状物の飛散を防止するため、図4に示すようなフード状の飛散防止体34を超音波スプレー装置31とターゲット32との間に配置することができる。この飛散防止体34は、円錐状の筒体などの形状であってもよい。
この飛散防止体34を用いることで、霧状物の外部への飛散、散逸が免れ、触媒インクの無駄がなくなる。
また、飛散防止体34内において生じる気流により、霧状物の浮遊時間が長くなり、溶剤の揮発が十分に行われ、球状の触媒二次粒子23が得られやすくなる。
【0035】
また、飛散防止体34をガラス板、アクリル樹脂板などの透明材料で作製すれば、内部の状況を視認でき、かつ外部に配置した赤外線ランプなどの熱源33からの熱を内部に導入することができる。
さらに、図5に示すように、飛散防止体34の周囲にニクロム線などのヒーター35を巻き付けて、飛散防止体34の内部空間を加熱することもできる。
【0036】
また、ターゲット32が大面積である場合、飛散防止体34を付設した超音波スプレー装置31をターゲット32の寸法、形状などに応じて複数基配置して、噴霧するようにすることが望ましい。
【0037】
上述の製造方法で、ターゲット32表面に付着している触媒二次粒子23、23・・を完全に乾燥した状態で付着した場合は、ターゲット32表面との接着力が不十分となり、後工程においてターゲット32から脱落する恐れがある。
このため、塗布の最終段階で、超音波スプレー装置31とターゲット32との距離Dを近づけるあるいは加熱を停止するなどして、未乾燥状態の微細粒子が最上層に付着するようにし、微細粒子の表面の溶解状態のイオン伝導性ポリマーによって、触媒二次粒子23、23・・を結合し、ターゲット32に対する固定力を高めるようにする。
このような電極層の製造方法によれば、図1に示すような構造の電極層を得ることができる。
【0038】
なお、特開2001−185163号公報、特開2007−149503号公報、特開2007−323824号公報、特開2008−27799号公報には、触媒インクをスプレードライ法によって乾燥、造粒し、得られた粒子を静電力などによりターゲット表面に付着させたのち、加熱、加圧して粒子をターゲットに固定する技術が開示されている。
しかし、この技術では、粒子自体が球状とはなりにくく、またターゲットへの固定のために加熱、加圧しているので、粒子が変形し、粒子間の間隙も少なくなり、図1に示した本発明の電極層とは、異なる形態(モルホロジー)を呈するものとなる。
【0039】
本発明の燃料電池用は、上述のような製法により作製された電極層22を備えたものである。すなわち、拡散層または高分子電解質膜に上述の製造方法により電極層を形成して膜電極接合体(MEA)を作製し、この膜電極接合体と板状のスペーサをガスケットを介して組み合わせたセルを有する高分子電解質型の燃料電池である。
この燃料電池では、以上述べたようにその性能が高いものとなる。
【0040】
以下、具体例を示す。
(触媒インクの調製)
平均粒径3nmの白金粒子を平均一次粒径30nmのカーボンブラック(バルカンX72(キャボット社製))に50重量%担持させた触媒担持粒子(TEC10V50TPM(田中貴金属社製))を用いた。この触媒担持粒子をイソプロパノールと水(重量比4:1)との溶剤に分散させた後、高分子電解質であるNafion溶液(デュポン社製、商品名)を5重量%混合して、触媒インクを作製した。
【0041】
(従来例)
前記触媒インクを使用して、拡散層となるカーボンペーパーに対して、従来の空気噴霧スプレー装置により塗布を行った。
図6に塗布面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図6から、インク粒子が融合して平坦な塗布膜になり、多数のひび割れが生じている状態がわかる。
【0042】
(比較例)
前記触媒インクを使用して、拡散層となるカーボンペーパーに対して、超音波スプレー装置により塗布を行った。超音波スプレー装置には、LECHLER社製Ultrasonic atomimizer US2を用い、超音波周波数58kHz、出力8Wとし、そのノズルとカーボンペーパーとの距離を30mmとした。雰囲気温度は、27℃である。
図7に塗布面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図7から、触媒二次粒子が相互に融合して、凹凸の激しい表面が形成されている。これは、前記距離が短く、カーボンペーパー状で触媒インクの溶媒が残り、それが次いで乾燥したためである。
【0043】
(実施例1)
前記触媒インクを使用して、拡散層となるカーボンペーパーに対して、超音波スプレー装置により塗布を行った。超音波スプレー装置には、LECHLER社製Ultrasonic atomimizer US2を用い、超音波周波数58kHz、出力8Wとし、そのノズルとカーボンペーパーとの距離を500mmとした。雰囲気温度は、27℃である。
図8に塗布面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図8から、空中で乾燥した触媒二次粒子が個々に独立して堆積した様子が明確に確認できる。
図9は、図8の写真の倍率を大きくしたものである。図10は、塗布面を切断した切断面の走査型電子顕微鏡写真である。図9、図10からも球形の触媒二次粒子が明確に存在していることがわかる。
【0044】
(実施例2)
前記触媒インクを使用して、拡散層となるカーボンペーパーに対して、超音波スプレー装置により塗布を行った。超音波スプレー装置には、LECHLER社製Ultrasonic atomimizer US2を用い、超音波周波数58kHz、出力8Wとし、そのノズルとカーボンペーパーとの距離を50mmとした。雰囲気温度は、27℃である。
図11に塗布面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図11から、触媒二次粒子が半乾燥状態で、カーボンペーパーに付着し溶媒が乾燥して表面にしわが形成された粒子が堆積した状態となっている。
【0045】
図12のグラフは、前記実施例1と従来例の電極層を用いて構成したセルの性能を比較したもので、試験条件は、燃料:水素、酸化剤:空気、温度80℃、加湿度122%、触媒量:白金1mg/cm2、セル面積25cm2である。
このグラフから、本発明の電極層を用いたセルでは、良好な性能が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の電極層の一例を模式的に示した概略断面図である。
【図2】本発明の電極層の製造方法の第1の方法を示す概略構成図である。
【図3】本発明の電極層の製造方法の第2の方法を示す概略構成図である。
【図4】本発明の電極層の製造方法の第2の方法の他の例を示す概略構成図である。
【図5】本発明の電極層の製造方法の第2の方法の他の例を示す概略構成図である。
【図6】従来例の結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例の結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例1の結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例1の結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例1の結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例2の結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図12】実施例1と比較例の電極層を用いたセルの性能を示すグラフである。
【図13】本発明にかかる固体高分子型燃料電池における膜電極複合体の例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0047】
21・・拡散層、22・・電極層、23・・触媒担持粒子、31・・超音波スプレー装置、32・・ターゲット、33・・熱源、34・・飛散防止体、35・・ヒータ
【技術分野】
【0001】
この発明は、固体高分子電解質型燃料電池の電極層およびその製造方法ならびにこの電極層を備えた燃料電池に関し、電極層の実質的な表面積を増加させ、反応面積が増大してセル特性を向上させたものである。
【背景技術】
【0002】
図10は、固体高分子電解質型燃料電池の反応部である膜電極接合体(MEA)の例を示すものである。
図10において、符号1は高分子電解質膜を示す。この高分子電解質膜1の一方の表面には厚さ20μm程度の膜状のアノード電極層2が、他方の表面には厚さ20μm程度の膜状のカソード電極層3が接合、一体化されて設けられ、これらアノード電極層2およびカソード電極層3の表面には図示しないカーボンペーパーなどの拡散層が設けられて膜電極接合体を構成している。
【0003】
前記高分子電解質膜1には、厚さ30〜70μm程度のパーフルオロスルホン酸系ポリマーなどからなるフィルムが用いられる。
前記アノード電極層2およびカソード電極層3には、触媒インクを拡散層となるカーボンペーパーに塗布し、乾燥したものが用いられる。触媒インクには、例えば径2〜5nm程度の白金微粒子などの触媒粒子を径30nm程度のカーボン粒子などの導電性担持粒子に担持した触媒担持粒子を用意し、この触媒担持粒子をイオン導電性ポリマー、イソプロパノール、水などからなる高分子電解質溶液に分散させたものが用いられる。
【0004】
これらアノード電極層2、カソード電極層3が形成されたカーボンペーパーを高分子電解質膜1の両面に接合して、膜電極接合体とされる。
なお、触媒インクを高分子電解質膜1の両面にそれぞれ塗布して電極層2、3を形成したのち、これに拡散層を接合して膜電極接合体とする製法もある。
【0005】
拡散層または高分子電解質膜(以下、まとめてターゲットとする。)への触媒インクの塗布方法として、従来よりエアスプレーによるものが採用されてきたが、近時超音波スプレー装置による塗布方法が提案されている。超音波スプレー装置を用いた塗布方法では、得られた電極層における触媒担持粒子の分散が均一であるメリットがあるとされている。
【0006】
しかしながら、超音波スプレー装置によるものでは、従来のエアスプレー装置によるものと同様に触媒担持粒子が合体して成長し、成長した粒子がイオン導電性ポリマーによって結合した状態の電極層が得られるに過ぎなかった。
【0007】
超音波スプレー装置を使用した燃料電池用電極層の形成に関しては、以下の特許文献がある。
【特許文献1】特開2006−210200号公報
【特許文献2】特開2006−236881号公報
【特許文献3】特開2007−164993号公報
【特許文献4】特開2007−165075号公報
【特許文献5】特開2007−213841号公報
【特許文献6】特開2007−258051号公報
【特許文献7】特開2007−265734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明における課題は、燃料電池用電極層として触媒反応に関与する実質的な表面積が大きく、燃料、酸化剤の侵入、拡散が容易である構造の電極層を得ることおよびこの電極層を超音波スプレー装置によって形成できる方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、触媒担持粒子とイオン伝導性ポリマーと溶剤を含む触媒インクを超音波スプレー装置により高分子膜または拡散膜からなるターゲットに塗布して燃料電池用電極層を形成する方法であって、
超音波スプレー装置から噴霧されたインク粒子がほぼもしくは完全に乾燥された状態でターゲット表面に付着するように該インク粒子を乾燥することを特徴とする燃料電池用電極層の製造方法である。
【0010】
請求項2にかかる発明は、超音波スプレー装置とターゲットとの距離を調整して、超音波スプレー装置から噴霧されたインク粒子がほぼもしくは完全に乾燥された状態でターゲット表面に付着するように該インク粒子を乾燥することを特徴とする請求項1記載の燃料電池用電極層の製造方法である。
【0011】
請求項3にかかる発明は、超音波スプレー装置とターゲットとの間の空間を加熱して、超音波スプレー装置から噴霧されたインク粒子がほぼもしくは完全に乾燥された状態でターゲット表面に付着するように該インク粒子を乾燥することを特徴とする請求項1記載の燃料電池用電極層の製造方法である。
【0012】
請求項4にかかる発明は、超音波スプレー装置とターゲットとの間に、インク粒子の飛散を防止する飛散防止体を設けて噴霧することを特徴とする請求項1記載の燃料電池用電極層の製造方法である。
【0013】
請求項5にかかる発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法で製造された燃料電池用電極層である。
【0014】
請求項6にかかる発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法で製造された燃料電池用電極層であって、
触媒担持粒子とイオン導電性ポリマーとからなる触媒一次粒子が多数集合してなる多孔質の触媒二次粒子がさらに多数集合してなる多孔質の集合体から構成された燃料電池用電極層である。
【0015】
請求項7にかかる発明は、触媒二次粒子の形状が球状である請求項5または6記載の燃料電池用電極層である。
【0016】
請求項8にかかる発明は、請求項5ないし7のいずれかに記載の燃料電池用電極層を備えた燃料電池である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電極層が多数の触媒二次粒子が独立した形態で集合して形成されて内部に多くの空隙を有する多孔質となっており、さらに触媒二次粒子自体も内部に多数の空隙を有するものであるので、触媒反応に関与する実質的な表面積が大きく、燃料、酸化剤の侵入、拡散が容易である構造の電極層を得ることができる。
このため、この電極層を備えた燃料電池は、性能の高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、この発明の電極層の製造方法によって得られた電極層の一例を模式的に示すものである。
図1において、符号21はカーボンペーパーなどからなる拡散層を示し、符号22は、この拡散層21表面に形成された電極層を示す。この電極層22は、膜電極接合体のアノード電極層またはカソード電極層とされるものである。
【0019】
電極層22は、厚さ10〜20μm程度の膜状のもので、無数の触媒二次粒子23、23・・・が集合した集合体から構成されている。触媒二次粒子23は、相互に点接触に近い状態で集合しており、触媒二次粒子23、23・・間には微小な空間が無数に存在し、電極層22全体では、空隙率が高い多孔質となっている。触媒二次粒子23相互は、イオン導電性ポリマーにより結合されている。
【0020】
前記触媒二次粒子23は、粒径1〜30μm程度の球形あるいは不定形の粒子であり、その表面には無数の凹凸が存在し、かつ内部の空間に連通する無数の空洞が開口しており、触媒二次粒子23自体も多孔質となっている。
そして、1個の触媒二次粒子23は、さらに無数の触媒一次粒子が集合した集合体から構成されている。
【0021】
触媒一次粒子は、粒径が10〜100nmの粒子であり、触媒担持粒子とこの表面を薄く被覆するアイオノマーなどのイオン伝導性ポリマーからなる樹脂膜とから構成されている。
前記触媒担持粒子は、径10〜80nmのカーボンパウダーなどの導電性微粒子からなる担体の表面に、径1〜5nmの白金、パラジウム、イリジウムなどの触媒金属微粒子を付着、担持させたものである。
【0022】
このような構造の電極層22にあっては、電極層22が多孔質で個々の触媒二次粒子23、23・・間に空間があり、しかも触媒二次粒子23も多孔質であるので、層全体の反応に関与する実質的な表面積が極めて多くなり、かつ触媒担持粒子の多くが空間に面することになるので、触媒機能が最大限に発揮され、燃料あるいは酸化剤との触媒反応が効率よく進行する。
【0023】
また、この空間には、燃料、酸化剤が容易に侵入、拡散していき、また電極反応で生成した水分の排除を容易となる。
さらに、空間を通して高分子電解膜まで水分が透過し、高分子電解質膜の湿潤性が保たれ、水素イオンの伝導性が向上する。
【0024】
次に、前記電極層22の製造方法について説明する。
図2は、本発明の電極層22の製造方法の一例を示すものである。
図2において、符号31は、超音波スプレー装置を示し、符号32はターゲットを示す。ターゲット32は、拡散層または高分子電解質膜である。
【0025】
超音波スプレー装置31は、後述の組成の触媒インクに超音波発振子からの20〜100kHz程度の超音波振動を与えて触媒インクを微細な粒子からなる霧状物とするもので、アメリカ、ドイツなどで塗装用として一般に市販されている装置を使用することができる。超音波スプレー装置31の超音波出力は3〜10W程度とされるが、この範囲に限定されることはない。
【0026】
触媒インクとしては、例えば、粒径1〜5nm程度の白金やパラジウム、イリジウムなどの貴金属微粒子を一次粒径20〜50nmのカーボンブラックなどの導電性粒子からなる担体に30〜60重量%程度担持させた触媒担持粒子を用い、この触媒担持粒子をイソプロパノールなどの有機溶媒と水などとからなる溶剤に分散させた後、イオン導電性ポリマーであるNafion(デュポン社製、商品名)溶液などを3〜10重量%混合してなるものである。溶剤の組成、含有量を変化させることで、触媒インクの乾燥速度を調整することができる。
【0027】
超音波スプレー装置31のノズル31Aから噴霧された霧状物は、超音波スプレー装置31の下方に配置されたターゲット32に向けて、空中を浮遊しつつ落下してゆき、ターゲット32上に付着、堆積して、電極層22が形成される。
霧状物を構成する粒子は、前記触媒二次粒子23となる液滴であり、噴霧直後は溶剤が含まれた液状であるので、表面張力により形状が球状となる。
【0028】
そして、霧状物がターゲット32の表面に付着する際、霧状物を構成する個々の液滴から溶剤が揮発し、触媒二次粒子23となる微細粒子の表面が乾燥した状態であることが必要である。すなわち、球状の液滴から溶剤が徐々に揮発し、乾燥が進んだ状態で球状を維持しつつターゲット32に付着するようになされ、これによりターゲット32に付着した際には触媒二次粒子23となり、触媒二次粒子23が相互に融合して一つの粒子になることがなくなるようになされる。
【0029】
ここで、ほぼ乾燥状態とは、液滴粒子の表面が乾燥し、内部が乾燥していない状態を言い、触媒二次粒子はそれぞれ粒子のまま連結する。乾燥状態が弱い場合、球状ではなく、ヒダが形成された梅干し状の触媒二次粒子23が連結した構造の電極層が形成されることになる。
この構造の電極層も本発明の技術的範囲に包含される。この構造の電極層では、実質的な表面積は、触媒二次粒子が球状であるものに比較して大きくなるが、ガス拡散性はやや小さくなる。
【0030】
この要件を満たすための第1の方法には、超音波スプレー装置31とターゲット32との距離Dを適切に調整して、空気中で微細粒子から自然に溶剤が揮発する状態で、ターゲット32に付着させる方法がある。
適切な距離は、種々の操作条件、例えば雰囲気の温度、湿度、超音波出力、超音波振動数、触媒インク中の溶剤の種類、含有量などによって左右され、その都度予備実験を実施して適切な距離Dを決定することになる。
通常適切な距離Dは、50〜70cm程度が好ましい範囲となるが、これに限定されることはない。
【0031】
第2の方法は、図3に示すように、超音波スプレー装置31とターゲット32との間の側方に赤外線ランプなどの熱源33を設け、この熱源33からの熱を降下中の霧状物に与えて、触媒インクの微細粒子からの溶剤の揮発を促して溶剤が揮発しきった状態でターゲット32に付着させる方法である。
【0032】
この方法では、微細粒子からの溶剤の揮発が速やかに行われるので、超音波スプレー装置31とターゲット32との距離Dを短くできる。
熱源33からの熱量は、先と同様に種々の操作条件によって左右されるので、予備実験を行って定めることになる。
なお、温風を当てると霧状物が飛散して好ましくない。
【0033】
また、超音波スプレー装置31から噴霧される霧状物は、空気中を浮遊しつつターゲット32に向けて降下するため、その一部が室内の空気の流れなどにより外部に流れて飛散し、ターゲット32に付着しないものがある。この場合、当然のことながら、高価な白金触媒などを含む触媒インクの無駄になる。
【0034】
この霧状物の飛散を防止するため、図4に示すようなフード状の飛散防止体34を超音波スプレー装置31とターゲット32との間に配置することができる。この飛散防止体34は、円錐状の筒体などの形状であってもよい。
この飛散防止体34を用いることで、霧状物の外部への飛散、散逸が免れ、触媒インクの無駄がなくなる。
また、飛散防止体34内において生じる気流により、霧状物の浮遊時間が長くなり、溶剤の揮発が十分に行われ、球状の触媒二次粒子23が得られやすくなる。
【0035】
また、飛散防止体34をガラス板、アクリル樹脂板などの透明材料で作製すれば、内部の状況を視認でき、かつ外部に配置した赤外線ランプなどの熱源33からの熱を内部に導入することができる。
さらに、図5に示すように、飛散防止体34の周囲にニクロム線などのヒーター35を巻き付けて、飛散防止体34の内部空間を加熱することもできる。
【0036】
また、ターゲット32が大面積である場合、飛散防止体34を付設した超音波スプレー装置31をターゲット32の寸法、形状などに応じて複数基配置して、噴霧するようにすることが望ましい。
【0037】
上述の製造方法で、ターゲット32表面に付着している触媒二次粒子23、23・・を完全に乾燥した状態で付着した場合は、ターゲット32表面との接着力が不十分となり、後工程においてターゲット32から脱落する恐れがある。
このため、塗布の最終段階で、超音波スプレー装置31とターゲット32との距離Dを近づけるあるいは加熱を停止するなどして、未乾燥状態の微細粒子が最上層に付着するようにし、微細粒子の表面の溶解状態のイオン伝導性ポリマーによって、触媒二次粒子23、23・・を結合し、ターゲット32に対する固定力を高めるようにする。
このような電極層の製造方法によれば、図1に示すような構造の電極層を得ることができる。
【0038】
なお、特開2001−185163号公報、特開2007−149503号公報、特開2007−323824号公報、特開2008−27799号公報には、触媒インクをスプレードライ法によって乾燥、造粒し、得られた粒子を静電力などによりターゲット表面に付着させたのち、加熱、加圧して粒子をターゲットに固定する技術が開示されている。
しかし、この技術では、粒子自体が球状とはなりにくく、またターゲットへの固定のために加熱、加圧しているので、粒子が変形し、粒子間の間隙も少なくなり、図1に示した本発明の電極層とは、異なる形態(モルホロジー)を呈するものとなる。
【0039】
本発明の燃料電池用は、上述のような製法により作製された電極層22を備えたものである。すなわち、拡散層または高分子電解質膜に上述の製造方法により電極層を形成して膜電極接合体(MEA)を作製し、この膜電極接合体と板状のスペーサをガスケットを介して組み合わせたセルを有する高分子電解質型の燃料電池である。
この燃料電池では、以上述べたようにその性能が高いものとなる。
【0040】
以下、具体例を示す。
(触媒インクの調製)
平均粒径3nmの白金粒子を平均一次粒径30nmのカーボンブラック(バルカンX72(キャボット社製))に50重量%担持させた触媒担持粒子(TEC10V50TPM(田中貴金属社製))を用いた。この触媒担持粒子をイソプロパノールと水(重量比4:1)との溶剤に分散させた後、高分子電解質であるNafion溶液(デュポン社製、商品名)を5重量%混合して、触媒インクを作製した。
【0041】
(従来例)
前記触媒インクを使用して、拡散層となるカーボンペーパーに対して、従来の空気噴霧スプレー装置により塗布を行った。
図6に塗布面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図6から、インク粒子が融合して平坦な塗布膜になり、多数のひび割れが生じている状態がわかる。
【0042】
(比較例)
前記触媒インクを使用して、拡散層となるカーボンペーパーに対して、超音波スプレー装置により塗布を行った。超音波スプレー装置には、LECHLER社製Ultrasonic atomimizer US2を用い、超音波周波数58kHz、出力8Wとし、そのノズルとカーボンペーパーとの距離を30mmとした。雰囲気温度は、27℃である。
図7に塗布面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図7から、触媒二次粒子が相互に融合して、凹凸の激しい表面が形成されている。これは、前記距離が短く、カーボンペーパー状で触媒インクの溶媒が残り、それが次いで乾燥したためである。
【0043】
(実施例1)
前記触媒インクを使用して、拡散層となるカーボンペーパーに対して、超音波スプレー装置により塗布を行った。超音波スプレー装置には、LECHLER社製Ultrasonic atomimizer US2を用い、超音波周波数58kHz、出力8Wとし、そのノズルとカーボンペーパーとの距離を500mmとした。雰囲気温度は、27℃である。
図8に塗布面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図8から、空中で乾燥した触媒二次粒子が個々に独立して堆積した様子が明確に確認できる。
図9は、図8の写真の倍率を大きくしたものである。図10は、塗布面を切断した切断面の走査型電子顕微鏡写真である。図9、図10からも球形の触媒二次粒子が明確に存在していることがわかる。
【0044】
(実施例2)
前記触媒インクを使用して、拡散層となるカーボンペーパーに対して、超音波スプレー装置により塗布を行った。超音波スプレー装置には、LECHLER社製Ultrasonic atomimizer US2を用い、超音波周波数58kHz、出力8Wとし、そのノズルとカーボンペーパーとの距離を50mmとした。雰囲気温度は、27℃である。
図11に塗布面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図11から、触媒二次粒子が半乾燥状態で、カーボンペーパーに付着し溶媒が乾燥して表面にしわが形成された粒子が堆積した状態となっている。
【0045】
図12のグラフは、前記実施例1と従来例の電極層を用いて構成したセルの性能を比較したもので、試験条件は、燃料:水素、酸化剤:空気、温度80℃、加湿度122%、触媒量:白金1mg/cm2、セル面積25cm2である。
このグラフから、本発明の電極層を用いたセルでは、良好な性能が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の電極層の一例を模式的に示した概略断面図である。
【図2】本発明の電極層の製造方法の第1の方法を示す概略構成図である。
【図3】本発明の電極層の製造方法の第2の方法を示す概略構成図である。
【図4】本発明の電極層の製造方法の第2の方法の他の例を示す概略構成図である。
【図5】本発明の電極層の製造方法の第2の方法の他の例を示す概略構成図である。
【図6】従来例の結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例の結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例1の結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例1の結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例1の結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例2の結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図12】実施例1と比較例の電極層を用いたセルの性能を示すグラフである。
【図13】本発明にかかる固体高分子型燃料電池における膜電極複合体の例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0047】
21・・拡散層、22・・電極層、23・・触媒担持粒子、31・・超音波スプレー装置、32・・ターゲット、33・・熱源、34・・飛散防止体、35・・ヒータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒担持粒子とイオン伝導性ポリマーと溶剤を含む触媒インクを超音波スプレー装置により高分子膜または拡散層からなるターゲットに塗布して燃料電池用電極層を形成する方法であって、
超音波スプレー装置から噴霧されたインク粒子がほぼもしくは完全に乾燥された状態でターゲット表面に付着するように該インク粒子を乾燥することを特徴とする燃料電池用電極層の製造方法。
【請求項2】
超音波スプレー装置とターゲットとの距離を調整して、超音波スプレー装置から噴霧されたインク粒子がほぼもしくは完全に乾燥された状態でターゲット表面に付着するように該インク粒子を乾燥することを特徴とする請求項1記載の燃料電池用電極層の製造方法。
【請求項3】
超音波スプレー装置とターゲットとの間の空間を加熱して、超音波スプレー装置から噴霧されたインク粒子がほぼもしくは完全乾燥された状態でターゲット表面に付着するように該インク粒子を乾燥することを特徴とする請求項1記載の燃料電池用電極層の製造方法。
【請求項4】
超音波スプレー装置とターゲットとの間に、インク粒子の飛散を防止する飛散防止体を設けて噴霧することを特徴とする請求項1記載の燃料電池用電極層の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法で製造された燃料電池用電極層。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法で製造された燃料電池用電極層であって、
触媒担持粒子とイオン導電性ポリマーとからなる触媒一次粒子が多数集合してなる多孔質の触媒二次粒子がさらに多数集合してなる多孔質の集合体から構成された燃料電池用電極層。
【請求項7】
触媒二次粒子の形状が球状である請求項5または6記載の燃料電池用電極層。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれかに記載の燃料電池用電極層を備えた燃料電池。
【請求項1】
触媒担持粒子とイオン伝導性ポリマーと溶剤を含む触媒インクを超音波スプレー装置により高分子膜または拡散層からなるターゲットに塗布して燃料電池用電極層を形成する方法であって、
超音波スプレー装置から噴霧されたインク粒子がほぼもしくは完全に乾燥された状態でターゲット表面に付着するように該インク粒子を乾燥することを特徴とする燃料電池用電極層の製造方法。
【請求項2】
超音波スプレー装置とターゲットとの距離を調整して、超音波スプレー装置から噴霧されたインク粒子がほぼもしくは完全に乾燥された状態でターゲット表面に付着するように該インク粒子を乾燥することを特徴とする請求項1記載の燃料電池用電極層の製造方法。
【請求項3】
超音波スプレー装置とターゲットとの間の空間を加熱して、超音波スプレー装置から噴霧されたインク粒子がほぼもしくは完全乾燥された状態でターゲット表面に付着するように該インク粒子を乾燥することを特徴とする請求項1記載の燃料電池用電極層の製造方法。
【請求項4】
超音波スプレー装置とターゲットとの間に、インク粒子の飛散を防止する飛散防止体を設けて噴霧することを特徴とする請求項1記載の燃料電池用電極層の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法で製造された燃料電池用電極層。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法で製造された燃料電池用電極層であって、
触媒担持粒子とイオン導電性ポリマーとからなる触媒一次粒子が多数集合してなる多孔質の触媒二次粒子がさらに多数集合してなる多孔質の集合体から構成された燃料電池用電極層。
【請求項7】
触媒二次粒子の形状が球状である請求項5または6記載の燃料電池用電極層。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれかに記載の燃料電池用電極層を備えた燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−289692(P2009−289692A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143382(P2008−143382)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】
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