説明

燃料電池用電極触媒及び燃料電池

【課題】本発明は、高活性で且つ長寿命な燃料電池用触媒を提供する。
【解決手段】Pd系金属微粒子を炭素材料に担持してなる燃料電池用電極触媒であって、前記Pd系金属微粒子が、Pdと下記A成分、B成分から構成されている燃料電池用電極触媒及びこれを用いた燃料電池である。
A成分:Fe、Co、Ni、Cu又はZnから選ばれる1種又は2種以上
B成分:Ag、Re、Ir、Pt又はRhから選ばれる1種又は2種以上

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、特に固体高分子電解質形燃料電池用の高活性で低コストな電極触媒に関する。更に、この燃料電池用電極触媒を電極の構成要素として用いた燃料電池、特に、固体高分子電解質形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質型燃料電池は、高い電流密度が取り出せ、低温作動が可能で、且つコンパクトな電池を設計可能なことから、電気自動車用電源、携帯電子機器用電源等の移動型電源、或いは、家庭用電源等の定置分散型電源としての応用が期待され、実用化に向けた検討が精力的に進められている。
【0003】
固体高分子電解質型燃料電池を実用に供するためには、反応を促進させるための触媒が必須であり、触媒として、水素極、酸素極共に、白金、或いは白金合金が主に検討されている(非特許文献1)。しかしながら、特に酸素極での過電圧が大きく、単セルの理論出力電圧1.23V(常温)に対して、1A/cm2程度の実用域の電流を取り出そうとすると、通常の触媒担持量(酸素極側で0.1〜0.5mg/cm2)で酸素極の過電圧は0.3V以上に達してしまう(非特許文献2)。過電圧を低減する対策として、触媒に用いる白金或いは白金合金の担持量を多くすることが考えられるが、触媒量の増加による過電圧の低減効果は小さく、他方、触媒増に伴うコストアップと言う課題がより一層大きくなり、コストと触媒パフォーマンスの両立が依然大きな課題となっている。
【0004】
上述のようにコスト、並びに過電圧を低減するような白金を代替する新規触媒が切望され、精力的な研究が展開されている(非特許文献3、非特許文献4)。その中でも、以下の研究が代表的な検討例である。(i)非白金貴金属系、(ii)非白金非貴金属系、(iii)ポルフィリンに代表される金属錯体系、(iv)カルコゲナイド系。
【0005】
(i)に関しては、Pd-Co系触媒が優れた酸素還元化成を示すことが報告されている(非特許文献5)。両成分が合金化することにより、単独の成分からなる触媒とは全く異なる高い酸素還元触媒活性を発現すること、特に、固体高分子形燃料電池の運転環境に近い強い酸性環境でも電気化学的安定性が高いことが示されている。
【0006】
(ii)に関しては、タングステンカーバイド(WC)等の遷移金属炭化物に、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、ビスマス、アンチモンを添加することを特徴とする触媒が報告されている(特許文献1)。タングステンカーバイドは酸素還元能を有するが、酸性環境下、可逆水素電極に対して0.4V以上の電位で溶解してしまう。そこで、上記環境下で安定な化合物でWC表面を薄く被覆して、WCの触媒能と電気化学的安定性を併せ持った触媒を設計しようと言うものであり、この安定な化合物として、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、ビスマス、アンチモンの酸化物を選択している。また、ランタン(La)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)のオキシナイトライド等の金属オキシナイトライド(MON、M;金属)の検討例(特許文献2)もある。このオキシナイトライドの場合の触媒設計指針も前記炭化物触媒と類似で、触媒の電気化学的安定性を上記金属の酸化物で担い、触媒活性は上記金属成分の窒化により発現させると言うものである。最適な組成は、上記金属成分:酸素:窒素=1:1:1モル比近傍とされている。
【0007】
(iii)に関しては、酸素還元能を有する触媒として、古くからポルフィリン(PP)、フタロシアニン(Pc)、テトラアザアヌレン(TAA)等の金属を含有する大環状化合物の錯体が検討されている(非特許文献6)。これらの金属の大環状化合物錯体は、生体内の酸素のメディエーターとして知られており、即ち、酸素分子に対する吸着能を活かして電気化学的な酸素分子の還元反応に適用すると言うのが基本的発想である(非特許文献7)。研究当初は、リン酸型燃料電池の酸素極用触媒としての実用を目指した検討がなされていたが、リン酸による触媒の劣化、触媒活性が白金に比較して低い等の課題が残り、リン酸型燃料電池への適用は未達であった。他方、高分子固体電解質型燃料電池の場合には、酸性環境下での触媒の劣化は回避可能と考えられるため、近年、新たな精力的研究が進展している状況である。特に、ポルフィリン系化合物の中心金属元素の種類とポルフィリン環に側鎖を付加する等の構造制御が検討されている(特許文献3)。
【0008】
(iv)に関しては、RuxMoySez等の遷移金属のカルコゲン化物の研究が最近の進捗として報告されている(非特許文献8)。担体に用いる炭素材料の表面にポリアニリンを予め被覆することにより、その上に担持されたRuxMoySez等のカルコゲン化物触媒粒子との相互作用が高まり、その結果として、酸素還元活性が向上している。
【特許文献1】特開2004-303664号公報
【特許文献2】特開2005-161203号公報
【特許文献3】特開2005-205393号公報
【特許文献4】特表2001-502467号公報
【非特許文献1】例えば、平成12年度 新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究成果報告書 「固体高分子型燃料電池低コスト電極の開発」
【非特許文献2】例えば、平成10年度 新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究成果報告書 「高耐久性電池実用化のためのイオン交換膜に関する研究」
【非特許文献3】独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 H17年度 燃料電池・水素技術開発 固体高分子形燃料電池/先導的基礎技術研究開発 中間報告会要旨集
【非特許文献4】B. Wang, "Recent Development of non-platinum catalysts for oxygen reduction reaction", J. Power Sources, vol.152, page1-15 (2005)
【非特許文献5】O. Savadogo et al., "New palladium alloys catalysts for the oxygen reduction reaction in an acid medium", Electrochemistry Communications, vol.6, page105-109 (2004)
【非特許文献6】H. Jahnke, M. Schonborn, G. Zimmermann, Topics in Current Chemistry, vol.61, page133〜181 (1976)
【非特許文献7】湯浅 真、日本油化学会誌、第49巻第4号315〜323頁 (2000)
【非特許文献8】S. Sari Ozenler, "The Effect of the matrix on the electro-catalytic properties of methanol tolerant oxygen reduction catalysts based on ruthenium-chalcogenides", J. Power Sources, in press.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように種々の白金代替触媒が検討されている。しかしながら、本発明者らが検討した結果、上述した(i)のPd-Co系合金触媒は、酸素還元反応に対する触媒の質量活性において白金よりも劣り、また、強酸性溶液中でSHE基準で1V程度の電位で溶解が認められ、燃料電池用触媒としては課題が残されていた。また、上述した(ii)の遷移金属炭化物、金属オキシナイトライド触媒、上述した(iii)のN4-キレート錯体系触媒、上述した(iv)のRu-Mo-Se系触媒ともに、白金に比較して酸素還元反応活性が低い、即ちカソード電位が低く、白金代替の燃料電池触媒としては課題を残していた。
【0010】
そこで、本発明では、上記の課題を解決する高活性で長寿命の白金代替の燃料電池用触媒及びこれを用いた燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、基本的に高い触媒活性を有するパラジウム(Pd)と3d元素の複合触媒に注目し、触媒活性を白金同等水準に高めつつ、耐酸性環境下、且つ1.0V(SHE)程度の貴電位での触媒の酸化溶解抑制と言う課題に対し、触媒の複合組成の多元化と結晶構造を詳細に検討の結果、本発明に至ったものである。
【0012】
即ち、本発明は以下の通りである。
(1) Pd系金属微粒子を炭素材料に担持してなる燃料電池用電極触媒であって、前記Pd系金属微粒子が、Pdと下記A成分、B成分から構成されていることを特徴とする燃料電池用電極触媒。
A成分:Fe、Co、Ni、Cu又はZnから選ばれる1種又は2種以上
B成分:Ag、Re、Ir、Pt又はRhから選ばれる1種又は2種以上
【0013】
(2) 前記Pd系金属微粒子の組成割合は、モル百分率で、Pdが30〜90mol%、A成分が5〜50mol%、及びB成分が1〜30mol%である(1)記載の燃料電池用電極触媒。
【0014】
(3) 前記B成分が、Ag又はReの少なくとも1種と、Ir、Pt又はRhから選ばれる1種又は2種以上である(1)又は(2)に記載の燃料電池用電極触媒。
【0015】
(4) 前記B成分の組成割合は、モル百分率で、Ag又はReの少なくとも1種が0.5〜10mol%、及びIr、Pt又はRhから選ばれる1種又は2種以上が1〜20mol%である(3)に記載の燃料電池用電極触媒。
【0016】
(5) 前記Pd系金属微粒子のX線回折法による格子定数が、0.3380〜0.3910nmである(1)〜(4)のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒。
【0017】
(6) 前記炭素材料のN2のBET法による比表面積が、500〜3000m2/gである(1)〜(5)のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒。
【0018】
(7) 前記炭素材料のt-plot法によるミクロ孔面積の全面積に対する比率が20%以上である(1)〜(6)のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒。
【0019】
(8) 前記炭素材料の窒素含有量が0.5〜10質量%である(1)〜(7)のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒。
【0020】
(9) アノード又はカソードの少なくとも一方の電極に、(1)〜(8)のいずれかの燃料電池用電極触媒を用いてなることを特徴とする燃料電池。
【0021】
(10) 前記燃料電池が、固体高分子形燃料電池である(9)の燃料電池。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、Pdを主成分として、第2、第3の成分元素(A成分及びB成分)を添加し、その組成を制御して、更に触媒微粒子の格子定数の制御する電極触媒とすることで、触媒活性を改善しつつ、燃料電池運転環境における触媒電極の寿命を永くすることが可能となる。更に、炭素担体の表面構造を最適化することにより、触媒金属の寿命を大幅に改善させることが可能となる。この触媒を電極に用いた燃料電池は、優れた特性を発揮させることが可能であるばかりでなく、白金使用量が少なく触媒のコストダウンに貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明において本質的に重要な技術ポイントは、(1)触媒金属の組成の最適化、(2)触媒金属の結晶構造の最適化、(3)担体に用いる炭素材料の構造最適化、の三つである。以下に各々について詳細に説明する。
【0024】
(触媒金属の組成の最適化)
上述したようにPdに3d元素を複合化して合金化することにより、白金に近い酸素還元触媒活性を示すことは既に知られたことであり、課題は、リン酸形燃料電池(PAFC)や固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)等へ適用した際に、強酸性環境下、且つSHE(Standard Hydrogen Electrode)基準で1.0V程度の非常に貴な電位で、電気化学的に安定性な触媒活性、即ち、カソード電極反応を発揮し続けること可能であるかどうかである。
【0025】
本発明者らが鋭意検討した結果、Pdを主成分としA成分として規定している3d元素を第2成分として含有することで基本的な触媒活性と最低限の触媒寿命を発現させ、更に、触媒活性を高めるために、B成分として規定している第3成分として、Rh、Ag、Re、Ir、Ptの複合化が非常に有効であることが判明した。3d元素としては、Fe、Co、Ni、Cu又はZnが最適であり、これらの元素から選ばれる1種又は2種以上の元素をPdと複合して使用することも可能である。
【0026】
これらの元素からなる複合触媒の組成としては、Pdは30mol%以上90mol%以下、第2成分(A成分)は5mol%以上50mol%以下、第3成分(B成分)は1mol%以上30mol%以下が好適であり、更に好ましくは、Pdは40mol%以上80mol%以下、第2成分は10mol%以上40mol%以下、第3成分は1mol%以上20mol%以下である。Pdが30mol%よりも少ないとPd自体の持つ触媒活性が発現せず、90mol%よりも多いと複合化する添加元素の効果が現れないことがある。第2成分が5mol%よりも少ないと複合化効果が現れず、50mol%よりも多いとPdの持つ触媒機能の発現を阻害することがある。第3成分が1mol%よりも少ないと第3成分の複合化効果が現れず、30mol%よりも多いとPdと第2成分からなる複合効果の発現を阻害することがある。
【0027】
触媒の寿命を永くするために鋭意検討の結果、上記第3成分(B成分)の中で、AgとReが特に触媒寿命の改善に効果的あることを見出し、AgとReの片方あるいは両方の元素と、Rh、Ir、Ptから選ばれる1種又は2種以上の元素との複合化が、触媒の寿命改善と触媒活性の改善との両立に著しく有効であることを見出した。この第3成分の複合組成としては、AgとReの片方あるいは両方からなる成分の和が0.5mol%以上10mol%以下、Rh、Ir、Ptから選ばれる1種又は2種以上の元素からなる成分の和が1mol%以上20mol%以下が本発明には好適である。
【0028】
(結晶構造の規定)
一般に複合組成の触媒表面上での電極反応は、触媒の表面を構成する成分元素の組成構造、表面を構成する結晶面等の表面の原子配列、コア・シェル構造、均質固溶等のバルクな構造等により決定される。これらを完全に制御し、最適化することは事実上困難であるが、本発明者らが鋭意検討の結果、組成に次いで重要な制御因子として、触媒金属の平均構造を反映するX線回折(XRD)による格子定数が触媒活性を反映することを見出した。
【0029】
即ち、上述の最適な組成を持つ触媒であっても、種々の方法で作製した触媒の活性は異なり、これらの触媒活性とXRDによって求めた格子定数の間の関係を調べたところ、最も活性の高い触媒は特定の格子定数の範囲を持つことが判明した。その格子定数の範囲が、0.3880nm以上0.3910nm以下である。
【0030】
ここで、格子定数はX線源にCuのkαを用い、通常の粉末X線回折法により求めたものである。この格子定数は必ずしも成分元素からなる完全固溶状態の格子定数には対応しておらず、白金の格子定数(0.3923nm)と3d元素の格子定数(例えばCoの格子定数は0.35447nm)の間で、パラジウムの格子定数(0.3890nm)の近傍に位置している。本発明で規定する格子定数範囲が触媒微粒子の内部構造を具体的に示すものではないが、一つの金属微粒子の中で不均質構造が形成され、触媒微粒子のある部分は酸素分子の吸着解離を促進し、隣接する部分は解離した吸着酸素原子への水素付加反応を促進する等、酸素還元反応の素過程に対応した機能分割による高活性化等が推察される。
【0031】
(担体の構造)
本発明において第3に重要なポイントは、担体に用いる炭素材料の構造を最適化することにより、触媒寿命の改善に成功したことである。即ち、N2のBET法による比表面積が500m2以上、t-plot法によるミクロ孔面積の全面積に対する比率が20%以上であり、且つ、窒素含有量が0.5質量%以上10質量%以下であることを特徴とする。
【0032】
電極反応では触媒上で電子移動を伴う反応が進行するため、電子伝導体である担体と触媒との電気的な接触が重要になるが、表面がπ電子で構成される炭素材料は一般に触媒微粒子との相互作用が弱く、単に平板な表面に触媒微粒子を担持させても容易に脱離し、電気的接触を失って触媒機能を損なうことが多い。即ち、経時的寿命が短くなり易い。
【0033】
そこで、本発明者が鋭意検討した結果、触媒金属微粒子と炭素材料との接触面積を大きくするために、担体表面に触媒金属微粒子の直径よりも小さい直径の細孔を設けることが有効との指針に基づき、炭素材料表面の最適な細孔構造を表す指標として、N2のBET法による比表面積が500m2以上、t-plot法によるミクロ孔面積の全面積に対する比率が20%以上であることを見出した。比表面積が500m2/gよりも小さいと、触媒長寿命化に有効な吸着サイトとなる細孔の数密度が充分でなく、長寿命化の機能を発現しない。他方、炭素材料の比表面積に特に上限はないが、実質的には3000m2/gが上限である。また、触媒機能を発現するのに最適な触媒微粒子の直径は概ね1〜5nmであるから、その吸着サイトとなる炭素材料表面の細孔は、細孔直径が2nm以下の所謂ミクロ孔である必要がある。そして、充分高密度に触媒微粒子を吸着し得るミクロ孔の数密度を表すのが、t-plot法によるミクロ孔面積の全面積に対する比率が20%以上である。ミクロ孔の全細孔面積に対する比率が20%よりも小さいと、触媒金属微粒子と細孔との接触面積が充分に取れず、細孔の機能が発現しない。他方、本発明でミクロ孔の全細孔面積に対する比率の上限に特に規定はない、即ち、上限値は100%である。しかしながら、実際の炭素材料において、ミクロ孔の全細孔面積に対する比率を95%以上にすることは不可能であり、実質的には95%程度が上限である。
【0034】
上述の物理的な担体表面の形状による触媒金属微粒子と担体との相互作用の強化と並行して、化学的な結合を強化することにより寿命特性を改善するための担体の構造規定が窒素含有量である。窒素原子の持つ金属に対する錯配位能を利用して担体と触媒金属微粒子との結合力を強めることを狙うもので、鋭意検討の結果、担体中の窒素含有量を0.5質量%以上10質量%以下に制御することにより、触媒の長寿命化が可能であることを見出した。担体中に含まれる窒素原子と触媒金属微粒子との錯結合的な相互作用により、触媒金属微粒子の担体からの脱離が抑制されるものと推察される。担体中の窒素含有量が0.5質量%よりも少ない場合には、窒素量が少ないために触媒金属微粒子との相互作用の強化が十分でないことから、触媒寿命の改善効果が現れない。また、10質量%よりも多い場合には、担体の電子伝導性が低下するために、電子移動が律速となって触媒機能が低下してしまう。担体への窒素の導入には、炭素原料中に予め窒素含有化合物を調合した後に炭素化する、炭素材料表面に窒素含有化合物を担持し、担持後に熱処理する、炭素表面に化学的な手法により窒素含有官能基を導入する等の方法を用いることができる。
【0035】
(担体の種類)
担体に用いる炭素材料は、本発明の規定を満たすものであれば、その種類・製造方法は制限されるものではない。炭素材料を例示するならば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等の各種カーボンブラックを本発明に好適に使用することができる。また、種々の炭素材料を賦活処理することにより製造される活性炭も、本発明に好適に使用することができる。その他、所謂ナノカーボンと呼ばれる各種炭素材料、例えば、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等も、本発明に好適に使用することができる。
【0036】
(触媒の製造方法)
本発明は、触媒自体の構造を規定するものであり、その製造プロセスを制限するものではなく、通常の方法であれば、如何なる製造方法も適用することが可能である。例示するならば、各種触媒成分の前駆体化合物の溶液に担体である炭素材料を分散させた後に、溶媒を減圧除去して、前駆体化合物を炭素材料表面に乾固させ、更に、還元、あるいは、不活性雰囲気中で熱処理することで、気相で複合金属微粒子を生成して炭素材料表面に担持し、触媒を製造する方法が挙げられる。また、各種触媒金属成分の塩化物等の水溶液に炭素材料を分散し、そこへ還元剤を投入して液相で複合成分の金属微粒子を生成し、同時に、担体である炭素材料へ吸着させる方法等を挙げることもできる。ここで、還元剤には、エタノール、エチレングリコール等の各種アルコール類、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類、クエン酸、ギ酸等のカルボン酸類、ヒドラジン(N2H4)、NaBH4、KBH4等を例示することができる。
【0037】
(担持率)
触媒金属微粒子の担体上への担持率は、1質量%以上100質量%以下が好ましく、5質量%以上90質量%以下がより一層好ましい。ここで、担持率とは、触媒金属微粒子と担体とを合わせた質量に対する触媒金属微粒子の質量の百分率を表すものとする。1質量%未満では、実用上必要な出力電圧を得るための触媒層の厚さが厚くなり過ぎるために、過電圧が大きくなってしまうことがある。また、100質量%を超える担持率では、触媒層が薄過ぎるため、大電流密度の負荷運転時に正極で生成する水によるガス拡散孔の閉塞を生じ易く、安定した燃料電池の運転に支障をきたしてしまう恐れがある。
【0038】
(燃料電池用電極の製造方法)
本発明において規定する触媒を用いて構成される電極は、電極の構成材料である電解質材料の種類や形態、電極構成に必要なバインダー材料の種類・構造によらず触媒の効果を発揮するものであって、これら電極構成材料を特に限定するものではない。
【0039】
本発明に使用される電解質膜や触媒層中に使用される電解質材料は、リン酸基、スルホン酸基等を導入した高分子、例えば、パーフルオロスルホン酸ポリマーやベンゼンスルホン酸が導入されたポリマー等を挙げることができるが、高分子に限定するものではなく、無機系材料との複合化膜、無機−有機ハイブリッド系の電解質膜等を使用した燃料電池に使用しても差し支えない。特に好適な作動温度範囲を例示するならば、常温〜150℃の範囲内で作動する燃料電池が好ましい。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら具体例によって何ら制限を受けるものではない。
【0041】
<電極触媒の作製>
以下に列挙する市販の試薬をそのまま使用した。
塩化パラジウム塩酸溶液(小島化学薬品社製)、塩化鉄(FeCl3・6H2O、関東化学社製)、塩化コバルト(CoCl2・6H2O、関東化学社製)、塩化銅(CuCl2・2H2O、関東化学社製)、塩化ニッケル(NiCl2・6H2O、関東化学社製)、塩化亜鉛(ZnCl2、関東化学社製)、硝酸銀(AgNO3、関東化学社製)、塩化レニウム(ReCl3、添川理化学社製)、塩化イリジウム酸水和物(田中貴金属社製)、塩化白金酸水和物(石福金属興業社製)、塩化ロジウム(RhCl3、関東化学社製)。
【0042】
これら試薬を所望の組成比になるように所定量を計量し、1-プロパノール(関東化学社製)と蒸留水の体積比7:3の混合溶媒200mLに溶解し、ポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrroridone、東京化成社製K15)をモノマー/金属比が5になるように加え、更に、触媒担体に用いるカーボンブラックとしてケッチェンブラックECを0.4g加えて、超音波で充分に分散させた後、100℃のオイルバスで1時間還流して、金属塩の還元反応と担体への吸着を行った。還流後の反応液はメンブランフィルターで吸引濾過し、分離した触媒を90℃で3時間程度真空乾燥し、PVPを除去する目的で、300℃水素雰囲気下で30分間熱処理して、評価用の触媒とした。なお、触媒金属担持率は、20質量%になるように調製した。
【0043】
更に、触媒金属の合金化率を高めるために、500〜900℃、水素とアルゴン混合ガス雰囲気で10〜60分間熱処理し、試験に供した。
【0044】
<触媒の分析>
触媒に担持した金属量は、常法に従って触媒を適宜熱王水等で処理して金属成分をイオン化して溶解し、プラズマ発光分析により成分の定量分析を行った。また、触媒粉末のX線回折により金属微粒子の平均粒子径と格子定数を算出した。X線回折装置(理学電機製:RAD-3C)を用い、X線回折チャートの2θ〜40°近傍の回折ピークの位置から格子定数を、また、その半値幅からScherrerの方法を用いて平均粒子径を見積った。
【0045】
<触媒活性の評価法>
(1) 試験極の調製
予め乳鉢で粉砕した触媒粉末3mgと高分子固体電解質溶液〔米国ElectroChem社のEC-NS-05;米国デュポン社製ナフィオン(登録商標)の5質量%溶液〕60mgとエタノール500mgとをサンプル瓶に入れ、超音波洗浄器を用いて充分に分散させスラリーを調製した。調製したスラリーを回転ディスク電極(日厚計測社製)上に塗布し、常温で真空乾燥して、試験極とした。ディスク電極は、グラッシーカーボンで製造された直径6mmの円柱で、全面に均一にスラリーを塗布する。塗布量は3.0mgとなるように調整した。
【0046】
(2) 酸素還元反応の触媒活性の評価方法
上記で作製した回転ディスク電極を回転リングディスク評価装置(RRDE-1)に装着し、電気化学的な評価には、ソーラートロン社SI1287を用いて、触媒の電気化学的な活性評価を行った。電解液には0.1Nの硫酸水溶液を用い、基準極にSCE電極、対極にPt板を用いるセル構成とした。評価条件は以下の通りである。酸素ガスをバブリングさせ、酸素が飽和した電解液状態で、6000rpmで回転した電極のディスク電極の電位を1.0V(SCE基準)から−0.2Vまで10mV/secの速度で掃引させ、ディスク電極に流れる電流の経時変化を測定し、ディスク電極の電位に対するディスク電流のプロットを得た。測定は全て常温とした。
【0047】
(3) 過電圧評価法
上記ディスク電極電位vs.ディスク電流のプロットから、飽和電流値の半分の電流値のときの電位(E1/2)を読み取った。カーボンブラック上に20質量%の白金を担持させた市販の触媒(Pt20質量%担持、担体にはキャボット社製Vulcan XC72使用)のE1/20を基準として、実施例、比較例の各触媒のΔE1/2=E1/20−E1/2を評価した。即ち、ΔE1/2が大きいほど過電圧が大きく、触媒活性が低い。ΔE1/2=0で市販のPt触媒と同等の過電圧で、マイナスならばPt触媒よりも過電圧が小さく触媒活性が高いことに対応する。
【0048】
(4) 触媒寿命評価法
上記試験極の調製法により作製した各種触媒のディスク電極を用い、過電圧評価法と同一の電気化学システムを用い、アルゴン飽和した0.1Nの硫酸水溶液中で、−0.25〜1.0V(SCE基準)の範囲を100mV/secの走引速度でサイクリックボルタモグラムを測定し、その10サイクル目の水素脱離波の面積を測定する。その後、電解液をアルゴンバブルさせた状態で、0.2〜0.95Vの範囲を50mV/secの走引速度でサイクリックボルタモグラムを5000回測定し、その後、再びアルゴン飽和させた0.1Nの硫酸水溶液に電解液を交換し、−0.25〜1.0V(SCE基準)の範囲を100mV/secの走引速度でサイクリックボルタモグラムを測定し、その10サイクル目の水素脱離波の面積を測定する。5000回サイクル前の面積で5000回サイクル後の面積を除して、その値(%)を寿命評価値とした。即ち、全く劣化しなければ面積は不変なので100%、劣化すると触媒の水素波面積が減少するので100%以下となる。
【0049】
表1に、作製した各種触媒の元素分析による成分組成、X線回折による格子定数、電気化学評価による触媒活性(過電圧評価)をまとめて示した。なお、触媒金属のXRDによる平均粒子径(結晶子径)は、何れの触媒も3.5〜3.9nmの範囲に収まるように触媒合成条件(ポリビニルピロリドンの量、金属塩の濃度等)を調整した。
表1から明らかなように、本発明の触媒は、Pt触媒同等の触媒活性と優れた触媒寿命を示すことが判る。
【0050】
【表1】

【0051】
<燃料電池による触媒活性の評価方法>
5質量%のナフィオン溶液(アルドリッチ社製)を、触媒粉末の質量に対してナフィオン固形分の質量が2倍になるように加え、超音波洗浄器を用いて充分に触媒を解砕し、更に、触媒とナフィオンを合わせた固形分濃度が6質量%となるように撹拌しながら酢酸ブチルを加え、触媒スラリーを作製した。キャボット社製Vulcan XC72Rに酢酸ブチルを加え、超音波洗浄器を用いて充分に分散させ、カーボンブラック濃度が6質量%のカーボンブラックスラリーを作製した。触媒スラリーと炭素材料スラリーとを質量比8:2で混合した後、十分攪拌し、触媒層スラリーを作製した。
【0052】
市販のカーボンクロス(ElectroChem社製EC-CC1-060)を準備し、これを5質量%に希釈したテフロン(登録商標)分散液中に浸漬した後、乾燥し、さらにアルゴン気流中で330〜350℃に昇温して、ガス拡散層を作製した。
【0053】
上記の触媒層スラリーをガス拡散層の片面にスプレーで塗布し、80℃の温風乾燥機で1時間乾燥し、本発明の固体高分子型燃料電池用電極を得た。なお、電極は、触媒金属使用量が0.20mg/cm2となるようにスプレー等の条件を設定した。触媒使用量は、スプレー塗布前後の電極の乾燥質量を測定し、その差から計算して求めた。
【0054】
さらに、得られた固体高分子型燃料電池用電極から2.5cm角の大きさの電極を切り取り、触媒層が電解質膜と接触するように、電極2枚で電解質膜(ナフィオン112)を挟み、130℃、総加圧0.625tで3分間ホットプレスを行い、MEA(膜・電極積層体)を作製した。なお、白金触媒を用いた電極には、市販の白金触媒(Electrochem社製、過電圧評価の基準に用いた触媒と同一のもの)を使用した。得られたMEAは、それぞれ燃料電池測定装置に組み込み、電池性能測定を行った。電池性能測定は、セル端子間電圧を開放電圧(通常0.9〜1.0V程度)から0.2Vまで段階的に変化させ、セル端子間電圧が0.8Vのときに流れる電流密度を測定した。ガスは、カソードに空気、アノードに純水素を、利用率がそれぞれ50%と80%となるように供給し、それぞれのガス圧は、セル下流に設けられた背圧弁で0.1MPaに圧力調整した。セル温度は80℃に設定し、供給する空気と純水素は、それぞれ80℃と90℃に保温された蒸留水中でバブリングを行い、加湿した。
【0055】
表2に、実施例32〜34及び比較例6,7の触媒を用いて作製したMEAの燃料電池による触媒活性の評価結果をまとめた
表2から明らかなように、表1で評価した回転電極による電気化学的触媒活性の評価結果と同様、本発明で規定する触媒をカソードに用いたMEAは、比較例よりも優れた発電特性を示し、同じ量の白金触媒をカソードに用いたMEAと同等の発電特性を示すことが認められる。
【0056】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の燃料電池用電極触媒においては、Pdを主成分として第2、第3の成分元素が添加され、その組成が制御されていると共に触媒微粒子の格子定数も制御されており、触媒活性や燃料電池運転環境における触媒電極の寿命が改善されており、更に、炭素担体の表面構造が最適化されて触媒金属の寿命が大幅に改善されている。このため、この触媒を電極に用いた燃料電池は、優れた特性を発揮し得るだけでなく、白金使用量が少なくて触媒のコストダウンに貢献することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pd系金属微粒子を炭素材料に担持してなる燃料電池用電極触媒であって、前記Pd系金属微粒子が、Pdと下記A成分、B成分から構成されていることを特徴とする燃料電池用電極触媒。
A成分:Fe、Co、Ni、Cu又はZnから選ばれる1種又は2種以上
B成分:Ag、Re、Ir、Pt又はRhから選ばれる1種又は2種以上
【請求項2】
前記Pd系金属微粒子の組成割合は、モル百分率で、Pdが30〜90mol%、A成分が5〜50mol%、及びB成分が1〜30mol%である請求項1に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
前記B成分が、Ag又はReの少なくとも1種と、Ir、Pt又はRhから選ばれる1種又は2種以上である請求項1又は2に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
前記B成分の組成割合は、モル百分率で、Ag又はReの少なくとも1種が0.5〜10mol%、及びIr、Pt又はRhから選ばれる1種又は2種以上が1〜20mol%である請求項3記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項5】
前記Pd系金属微粒子のX線回折法による格子定数が、0.3380〜0.3910nmである請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項6】
前記炭素材料のN2のBET法による比表面積が、500〜3000m2/gである請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項7】
前記炭素材料のt-plot法によるミクロ孔面積の全面積に対する比率が20%以上である請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項8】
前記炭素材料の窒素含有量が0.5〜10質量%である請求項1〜7のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項9】
アノード又はカソードの少なくとも一方の電極に、請求項1〜8のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒を用いてなることを特徴とする燃料電池。
【請求項10】
前記燃料電池が、固体高分子形燃料電池である請求項9に記載の燃料電池。

【公開番号】特開2007−294332(P2007−294332A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123000(P2006−123000)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】