燃料電池用電極
【課題】 フレキシブルな炭素繊維不織布を基材とし、ガス拡散層および電極触媒層の両層の機能を併せ持つ燃料電池用電極を提供すること。
【解決手段】 電界紡糸可能な高分子物質と、この高分子物質とは異なる有機化合物と、遷移金属とを含む組成物を電界紡糸して得られた不織布を炭素化してなるフレキシブル炭素繊維不織布、およびこの不織布を構成する炭素繊維表面に担持された、金属触媒やカーボンアロイ触媒等の燃料電池用触媒から構成される燃料電池用電極。
【解決手段】 電界紡糸可能な高分子物質と、この高分子物質とは異なる有機化合物と、遷移金属とを含む組成物を電界紡糸して得られた不織布を炭素化してなるフレキシブル炭素繊維不織布、およびこの不織布を構成する炭素繊維表面に担持された、金属触媒やカーボンアロイ触媒等の燃料電池用触媒から構成される燃料電池用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極に関し、さらに詳述すると、ガス拡散層および電極触媒層の両機能を併せ持つ燃料電池用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素等の燃料と大気中の酸素とを電池に供給し、これらを電気化学的に反応させて水を作り出すことで直接発電させるものであり、高エネルギー変換可能で、環境適応性に優れていることから、小規模地域発電、家庭用発電、キャンプ場等での簡易電源、自動車、小型船舶等の移動用電源、人工衛星、宇宙開発用電源等の各種用途向けに開発が進められている。
【0003】
このような燃料電池、特に固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜と、この両側に配設されたアノード電極およびカソード電極とからなる膜電極接合体を、一対のセパレータで挟持してなる単位セルを複数個並設してなるモジュールから構成されている。
上記アノード電極およびカソード電極は、それぞれ、電解質膜側に位置する電極触媒層と、セパレータ側に位置するガス拡散層との2層から構成されることが一般的であり、したがって、膜電極接合体全体としては、通常、5層から構成されている。
【0004】
近年、上記電極触媒層やガス拡散層(の基材)として、炭素繊維構造体が用いられ始めている。
例えば、特許文献1には、窒素原子を有するカーボンナノファイバー(以下、CNFという場合もある)と、その窒素原子に結合した触媒粒子を有する不織布状の触媒担持CNF燃料電池用触媒電極層が開示されている。
特許文献2には、導電性長繊維シートに触媒を担持した燃料電池触媒電極が開示されている。
特許文献3には、繊維径0.3〜1.5デシテックスのカーボン繊維フィラメント織物からなるガス拡散層が開示されている。
特許文献4には、ナノシェル構造を有するナノファイバーからなるカーボンアロイ触媒が開示されている。このカーボンアロイ触媒では、ナノファイバーを構成する炭素構造自体が触媒活性を有している。
【0005】
上記特許文献1の触媒電極層は、担持した触媒の粒子凝集(シンタリング)を防止することを目的に、CNF中に窒素原子を含有させることを特徴としている。この窒素含有CNFを作製するためには、900℃以下の低温焼成が必要であり、この温度では炭素化が不十分のため導電性は乏しい。したがって、膜電極接合体として用いる場合には、導電物質を付加するか、繊維自体に導電性を付与する加工が必要である。
また、特許文献1では、触媒電極層をガス拡散層としても使用することは示されていない。
【0006】
上記特許文献2の触媒電極層では、実施例における使用触媒量が1mg/cm2と多く、粒子状カーボン触媒層との比較においても、最大起電力は1.3倍以上程度の差でしかない。これは、導電性繊維不織布の柔軟性が不足しているため膜接合界面の密着性が悪く、導電性繊維不織布表面の面抵抗を低化させるだけでは、触媒を担持した導電性繊維不織布表面と電解質膜およびガス拡散層との膜接合界面の抵抗が下げられないことに起因している。
また、特許文献2において、燃料電池の作製にガス拡散性のある支持体としてカーボンペーパーが使用されており、触媒電極層をガス拡散層としても使用することは示されていない。
【0007】
上記特許文献3のガス拡散層を構成する炭素繊維フィラメント束からなる織物はマクロ的には比較的しなやかで、ロール加工が可能であるものの、マイクロレベルで見た場合、繊維径が6μm程度と太くて繊維1本1本が剛直であるとともに、フィラメント束であるために繊維の毛羽立ちが生じ易いため、電解質を貫通し、アノード・カソード間の短絡や燃料ガス漏れの問題が生じる。このため、ガス拡散層に表面処理を行う必要がある。
また、特許文献3では、ガス拡散層を電極触媒層としても用いることは示されていない。
【0008】
上記特許文献4の技術では、ナノファイバー中にカーボンアロイ触媒(ナノシェル構造)粒子を形成させることで、粒子の粗大化を防ぎ、微細な触媒粒子が得られる。このカーボンアロイ触媒では、繊維内部に多くの触媒が存在しているものの、この触媒は酸化還元反応には寄与しない。炭素触媒粒子そのものは、導電性に乏しく、ほぼ触媒粒子のみで形成されている繊維も導電性に乏しい。
このため、このナノファイバー単独でガス拡散層と電極触媒の両機能を併せ持たせることは実質的に不可能である。
以上のように、特許文献1〜4の技術では、基本的にガス拡散層および電極触媒層の双方を必要としている。
【0009】
一方、特許文献5には、ガス拡散性能および電極性能を兼ね備えたカーボンナノファイバー不織布に触媒前駆体を付着させ焼成して得られた膜電極接合体が開示されている。
しかしながら、この特許文献5の技術では、触媒がカーボン触媒に限られているうえに、使用されているCNFは、後に比較例を挙げて詳述するように、フレキシブル性のない脆い構造物であるため、膜電極接合体成型時の圧力で不織布構造が崩れてしまっている。その結果、得られた膜電極接合体のガス拡散性および水はけが低下し、それに伴って、燃料電池とした場合の発電性能も大幅に低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−118269号公報
【特許文献2】特開2009−181783号公報
【特許文献3】特開2005−36333号公報
【特許文献4】国際公開第2009/098812号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2009/148111号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、フレキシブルな炭素繊維不織布を基材とし、ガス拡散層および電極触媒層の両層の機能を併せ持つ燃料電池用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、電界紡糸可能な高分子物質と、それとは異なる有機化合物との少なくとも2種類の有機成分と、遷移金属とを混合してなる組成物を電界紡糸して得られた不織布を、さらに炭素化することで、2つ折りにしても破断しない程、折り曲げに強い、フレキシブルな炭素繊維不織布が得られることを既に報告している(特願2009−279112)
この知見をもとにして、本発明者はさらなる検討を重ねた結果、上記フレキシブル炭素繊維不織布の炭素繊維表面に燃料電池用触媒を担持して得られた不織布構造体が、燃料電池におけるガス拡散層および電極触媒層の両層の作用を発揮し得るため、別途ガス拡散層を設けなくとも発電し得ること、およびその発電性能が、上述した従来の5層構造の膜電極接合体のそれよりも優れていることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、
1. 電界紡糸可能な高分子物質と、この高分子物質とは異なる有機化合物と、遷移金属とを含む組成物を電界紡糸して得られた不織布を炭素化してなるフレキシブル炭素繊維不織布、およびこの不織布を構成する炭素繊維表面に担持された燃料電池用触媒から構成されることを特徴とする、ガス拡散作用と電極触媒作用とを併せ持つ燃料電池用電極、
2. 前記燃料電池用触媒が、金属触媒またはカーボンアロイ触媒である1の燃料電池用電極、
3. 電解質層と、その両側に配設されたアノード電極およびカソード電極からなる膜電極接合体において、前記アノード電極およびカソード電極の少なくとも一方が、1または2の燃料電池用電極から構成されることを特徴とする膜電極接合体、
4. 前記カソード電極が、1または2の燃料電池用電極から構成される3の膜電極接合体、
5. 前記アノード電極およびカソード電極が、1または2の燃料電池用電極から構成される3の膜電極接合体、
6. 電解質層と、その両側に配設されたアノード電極およびカソード電極からなる膜電極接合体、およびこの膜電極接合体の両側に配設された一対のセパレータからなる単位セルが複数個並設されてなる燃料電池において、前記カソード電極およびアノード電極の少なくとも一方が、1または2の燃料電池用電極から構成されることを特徴とする燃料電池、
7. 前記カソード電極が、1または2の燃料電池用電極から構成される6の燃料電池、
8. 前記アノード電極およびカソード電極が、1または2の燃料電池用電極から構成される6の燃料電池、
9. 1または2の燃料電池用電極を備える膜電極接合体、
10. 1または2の燃料電池用電極を備える燃料電池
を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池用電極は、ガス拡散機能と触媒機能とを兼ね備えているため、膜電極接合体作製の際にガス拡散層を必要としない。このため、膜電極接合体の膜厚を薄くでき、結果的に燃料電池スタックを薄く小さくすることができる。
また、本発明の電極では、不織布を構成している導電性CNFの表面に触媒が担持されているので、触媒で発生した電気がロスなくCNF繊維に伝わるとともに、長い繊維を導電パスとすることで系外へのロス(抵抗)も軽減される。
さらに、本発明の電極は、繊維状(定型)であるため、プロトンのパスであるナフィオン(登録商標)等の電解質高分子皮膜を形成し易いので、燃料(気体)、触媒(固体)、プロトン(液体)の3層界面の形成効率が良く、結果的に触媒の担持量を低減できる。
そして、本発明の電極は、不織布であることから、連通孔が多く、発電時に発生する水が詰まりにくいため、カソード電極として用いた場合に、フラッディング現象が軽減され、水が多量に発生する高出力発電時でも安定した発電ができる、
したがって、本発明の電極で電解質層を挟持してなる膜電極接合体を備えた燃料電池の発電特性は、従来の5層構造の膜電極接合体(ガス拡散層:触媒層:電解質膜:触媒層:ガス拡散層)よりも優れている。
また、触媒担持CNF不織布は、連続したロール状の不織布シートとして提供できるため、燃料電池の膜接合体作製工程を「ロールトゥロール」にすることができ、簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1で得られた白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布のTEM観察図である。
【図2】実施例2で得られた白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布のTEM観察図である。
【図3】実施例3−1で得られたFe系カーボンアロイ触媒担持カーボンナノファイバー不織布のSEM観察図である。
【図4】実施例3−1で得られたFe系カーボンアロイ触媒担持カーボンナノファイバー不織布のTEM観察図である。
【図5】実施例1〜4−2,比較例1で得られた膜電極接合体の電流密度と電圧との関係を示すグラフであり、還元法Pt−CNFが実施例1を、AP法−Pt−CNFが実施例2を、Fe系−CNFが実施例3−1を、Co系−CNFが実施例3−2を、PcFe系−CNFが実施例3−3を、PcCo系−CNFが実施例3−4を、AP法−Fe系−CNFが実施例4−1を、AP法−Co系−CNFが実施例4−2をそれぞれ表す。
【図6】実施例1〜4−2,比較例1で得られた膜電極接合体の電流密度と抵抗との関係を示すグラフであり、還元法Pt−CNFが実施例1を、AP法−Pt−CNFが実施例2を、Fe系−CNFが実施例3−1を、Co系−CNFが実施例3−2を、PcFe系−CNFが実施例3−3を、PcCo系−CNFが実施例3−4を、AP法−Fe系−CNFが実施例4−1を、AP法−Co系−CNFが実施例4−2をそれぞれ表す。
【図7】実施例5および比較例2,3で得られた膜電極接合体の白金担持量と200mA/cm2時の電池電圧との関係を示す図であり、CNFが実施例5を、UNPCが比較例2を、TECが比較例3をそれぞれ表す。
【図8】実施例3−2で得られたMEAのカソード電極面のSEM観察結果を示す図である。
【図9】比較例4で得られたMEAのカソード電極面のSEM観察結果を示す図である。
【図10】実施例6で得られたMEAの電流密度と電圧の関係を示すグラフであり、カソードPt−CNFが実施例6−1の結果を、アノードPt−CNFが実施例6−2の結果を表す。
【図11】実施例6で得られたMEAの電流密度と抵抗の関係を示すグラフであり、カソードPt−CNFが実施例6−1の結果を、アノードPt−CNFが実施例6−2の結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るガス拡散作用と電極触媒作用とを併せ持つ燃料電池用電極は、電界紡糸可能な高分子物質と、この高分子物質とは異なる有機化合物と、遷移金属とを含む組成物を電界紡糸して得られた不織布を炭素化してなるフレキシブル炭素繊維不織布、およびこの不織布を構成する炭素繊維表面に担持された燃料電池用触媒から構成されるものである。
【0017】
本発明において、電界紡糸可能な高分子物質としては、特に限定されるものではなく、電界紡糸可能な従来公知の高分子物質の中から適宜選択することができる。
その具体例としては、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、得られた炭素繊維不織布の折り曲げ強度をより高めることを考慮すると、その分子中に窒素原子を含む高分子物質が好ましく、特に、ポリアクリロニトリル系樹脂が好適である。
【0018】
本発明では、得られる炭素繊維不織布に、折り曲げても破損しない柔軟性や靱性を発現させるために、上述した電界紡糸可能な高分子物質と、一般的に炭素前駆体として用いられるような有機化合物とを併用する必要がある。これら2成分の併用によって、単独では電界紡糸が困難な炭素繊維前駆体有機化合物を用いた場合でも、電界紡糸可能な高分子が「つなぎ」の役目を果たすことによって、組成物全体として電界紡糸が可能になるとともに、得られる極細炭素繊維不織布を構成する炭素繊維におけるグラフェンシートの発達を防止して、折り曲げに強い炭素繊維を得ることができるようになる。
【0019】
このような有機化合物としては、上述した高分子物質とは異なる物質であり、従来、炭素前駆体材料として用いられている種々の化合物を用いることができる。
その具体例としては、フェノール系樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリカルボジイミド、ピッチ、セルロース、セルロース誘導体、リグニン等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
なお、上記高分子物質として、窒素原子を含まないものを用いる場合、上述と同様の理由から、当該有機化合物が窒素原子を含むものであることが好ましい。
【0020】
また、本発明で用いる炭素繊維不織布において、その柔軟性や靱性の発現には遷移金属が必須である。
すなわち、遷移金属を含む組成物を用いることで、この組成物を電界紡糸して得られた不織布に熱を加えた場合に、焼成温度に至るまでに融解することを防止し得るとともに、炭化後の炭素繊維不織布に、折り曲げても破損しない柔軟性および靱性を付与することができるようになる。
このような遷移金属としては、特に限定されるものではないが、チタン、コバルト、鉄、ニッケル、銅、ジルコニア、白金等が挙げられ、特に、チタン、鉄、コバルトが好適である。なお、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0021】
これらの遷移金属は、錯体、塩、水酸化物、硫化物や有機酸化物の形態で用いることが好ましく、例えば、テトラn−ブトキシチタン等のテトラアルコキシチタン、塩化チタン(III)、塩化チタン(IV)等のハロゲン化チタン、チタンラクテートアンモニウム塩等の有機酸塩;塩化コバルト(II)、塩化コバルト(III)、臭化コバルト(II)、フッ化コバルト(II)、フッ化コバルト(III)、ヨウ化コバルト(II)、ヨウ素酸コバルト(II)等のハロゲン化コバルト、酢酸コバルト(II)、オクチル酸コバルト(II)等の有機酸コバルト、水酸化コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、硝酸コバルト(III);塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、臭化鉄、ヨウ化鉄(II)、ヨウ素酸鉄(II)等のハロゲン化鉄、酢酸鉄(II)、酢酸鉄(III)、オクチル酸鉄(II)等の有機酸鉄、水酸化鉄(II)、水酸化鉄(III)、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III);塩化ニッケル(II)、水酸化ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、ニッケルカルボニル、スルファミン酸ニッケル、ニッケル酸リチウム;塩化銅、酢酸銅、硝酸銅、水酸化銅、炭酸銅、フッ化銅、ヨウ素酸銅、硫酸銅;酸塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、オクチル酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート;塩化白金(II)、塩化白金(IV)、臭化白金(IV)、ヘキサクロロ白金酸塩等を用いることが好適である。
【0022】
本発明の炭素繊維不織布の製造に用いられる組成物において、上記高分子物質、有機化合物、遷移金属の配合量は、組成物が電界紡糸可能な限り、特に制限はないが、高分子物質を1.0〜15質量部、特に、1.5〜15質量部、有機化合物を1.0〜15質量部、特に1.5〜15質量部、遷移金属を0.1〜2質量部(金属分として)、特に0.1〜1.5質量部含むものが好適である。
上記組成物の調製法は任意であり、定法によって、上記各成分を混合すればよい。その際、各成分の配合順序は任意である。
【0023】
また、本発明では、電界紡糸を用いて極細繊維不織布を得るものであるため、電界紡糸用ドープ調製用の溶媒を用いる必要がある。
この溶媒としては、使用する樹脂に応じて、これを溶解し得る溶媒を適宜選択して用いることができ、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、ピリジン、トリクロロエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、アセトニトリル等や蟻酸、乳酸、酢酸等の有機酸などを用いることができる。これらの溶媒は、単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
この溶媒の配合順序も任意であり、上記各成分と一緒に混合しても、上記組成物を調製後に添加してもよい。
【0024】
電界紡糸法は、電界中で、帯電した電界紡糸用ドープ(電界紡糸溶液)を曳糸しつつ、その電荷の反発力によりドープを破裂させ、樹脂からなる極微細な繊維状物を形成する方法である。
具体的には、ドープを噴出するノズルを一方の電極とし、コレクタを他方の電極とし、ドープに数千から数万ボルトの高電圧を印加すると、ドープがノズルから吐出され、電界中で高速ジェットおよびそれに引き続くジェットの折れ曲がりや膨張によって極細繊維になり、コレクタ表面上に極細繊維不織布として堆積する。
【0025】
続いて、得られた極細繊維不織布を焼成して極細炭素繊維不織布を得る。
この際、不融化処理可能な高分子を用いて得られた極細繊維不織布については、従来同様、繊維表面を酸化して硬化・不融化処理を施してもよい。
この場合、その加熱温度は、不融化可能であれば特に制限はないが、通常は、室温から300℃程度まで、2〜10時間程度かけて昇温し、その後、同温度で30分〜3時間程度保持する手法が用いられる。
しかしながら、上記で得られた極細繊維不織布は、従来の不融化処理を行わなくとも、その焼成温度である800〜1,500℃程度まで、不活性ガス雰囲気中で徐々に加熱することで、繊維同士が融解して接合することなく、極細炭素繊維不織布とすることができる。
その昇温速度は、任意であり、例えば、1〜10℃/分程度とすることができ、それほど厳密な温度管理は必要としない。
【0026】
このようにして得られた本発明の極細炭素繊維不織布は、2つ折りにしても破断しない程、折り曲げに強い、フレキシブルな炭素繊維不織布である。
また、この柔軟性は、得られた炭素繊維不織布から金属原子を取り去った後でも維持される。このことから遷移金属は、炭化の過程で折り曲げに強い構造を構築する作用があるものと考えられる。金属原子の除去は例えば酸処理により行うことができる。この酸処理は、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸を単独で、あるいは混合して得た混酸に、炭素繊維不織布を曝すことによって行うことができる。
【0027】
本発明の極細炭素繊維不織布を構成する炭素繊維において、その繊維径は、0.1〜15μmが好ましく、0.1〜10μmが好ましく、0.1〜1μmがより好ましく、バブルポイント法で測定した炭素繊維の細孔径は、5μm以下が好ましく、その表面の細孔径が0.4〜50nmが好ましく、その表面のマイクロ孔(2nm以下)面積は、27〜2,700m2/gが好ましく、そのBET比表面積は、30〜3,000m2/gが好ましい。
また、炭素繊維不織布において、その目付は0.3〜100g/m2が好ましく、その厚みは5〜500μmが好ましく、その嵩密度は0.06〜0.3g/cm3が好ましい。
さらに、JIS L 1096 記載のB法(スライド法)で測定した不織布の剛軟度は、0.0005〜50mN・cmが好ましく、JIS L 1096 記載のA法(フラジール形法)で測定した不織布のガス透過性は、0.5〜300ml/sec/cm2が好ましい。
【0028】
また、本発明の炭素繊維不織布では、ラマン分光法で測定される黒鉛化度の程度を示す、1,355cm-1付近のピーク強度Idと1,580cm-1付近のピーク強度Igとの比Id/Igが、0.7〜1.3の範囲であることが好ましい。
この範囲は、グラファイトの結晶構造が乱れ、非結晶なアモルファスカーボンに近くなっているため、より柔軟性に優れた炭素繊維不織布であることを意味する。
【0029】
不織布を構成する炭素繊維表面に担持する燃料電池用触媒としては、従来、この種の触媒として利用されているものから適宜選択して用いることができ、例えば、金属触媒(金属酸化物、合金を含む)、カーボンアロイ触媒、炭素触媒等が挙げられるが、本発明においては、金属触媒、カーボンアロイ触媒が好適である。
金属触媒の具体例としては、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、オスミウム等の遷移金属、およびそれらの合金などが挙げられ、これらの中でも、白金、白金合金が好ましい。金属触媒の担持量は、特に限定されるものではないが、金属分として0.01〜10mg/cm2程度である。
カーボンアロイ触媒の具体例としては、周期律表の3属から12属の第4周期に属する元素と炭素源とを用いた触媒が挙げられるが、本発明においては、Fe系カーボンアロイ触媒、Co系カーボンアロイ触媒、フタロシアニンFe系カーボンアロイ触媒、フタロシアニンCo系カーボンアロイ触媒、Mn系カーボンアロイ触媒、Ni系カーボンアロイ触媒、Cu系カーボンアロイ触媒、Ti系カーボンアロイ触媒、Cr系カーボンアロイ触媒、Zn系カーボンアロイ触媒等が好ましい。
【0030】
上記触媒の担持方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の各種方法を採用することができるが、本発明においては、下記の手法を用いることが好ましい。
(1)導電性CNF不織布の繊維表面に、金属前駆体をコーティングし、表面の金属前駆体を還元し、金属粒子をCNF表面に担持する方法(Xingwen Yu., Siyu Ye. “Recent advances in activity and durability enhancement of Pt/C catalytic cathode in PEMFC: Part 1. Physico-chemical and electronic interaction between Pt and carbon support, and activity enhancement of Pt/C catalyst”, Journal of Power Sources, Vol. 172, Issue1, 11 Oct. 2007, P133-144,Min Chen., Yangchuan Xing. “Polymer-Mediated Synthesis of Highly Dispersed Pt Nanoparticles of Carbon Black”, Langmuir, 2005, 21(20), p9334-9338.等参照)
(2)アークプラズマ成膜装置を用い導電性CNF不織布の繊維表面に触媒金属粒子を担持する方法(特開2007−179963号公報等参照)
(3)導電性CNF不織布の繊維表面に、樹脂等の炭素源および金属前駆体を含むカーボンアロイ触媒前駆体をコーティングし、これを焼成してカーボンアロイ触媒を担持させる方法(上記特許文献5等参照)
(4)(2)の方法でカーボンアロイ触媒形成に必要な金属粒子を担持させた金属粒子担持CNF不織布に、上述したカーボンアロイ触媒前駆体から金属成分を除いた組成物をコーティングし、これを焼成してカーボンアロイ触媒を担持する方法
特に、カーボンアロイ触媒を担持する場合には、上記(4)の手法を用いることで、カーボンアロイ触媒を、CNF表面に高度に分散させることができる。
なお、金属前駆体としては、先の炭素繊維不織布の説明で述べた、金属錯体、金属塩、金属水酸化物、金属硫化物、金属有機酸化物等が挙げられる。
また、上記各手法を用いる場合の条件は、使用する金属等に応じて公知の条件を用いればよい。
【0031】
本発明の膜電極接合体は、上述した燃料電池用電極を用いるものであればよいが、より好ましくは、電解質層と、その両側に配設されたアノード電極およびカソード電極からなる膜電極接合体の、アノード電極およびカソード電極の少なくとも一方に上述した燃料電池用電極を用いるものである。
本発明の燃料電池用電極は、既に述べたように、触媒層およびガス拡散層の機能を併せ持っているため、膜電極接合体とする場合にガス拡散層を用いなくてもよい。したがって、アノード電極およびカソード電極のいずれか一方に用いれば、その極側においてガス拡散層を省くことができる。
これにより、膜電極接合体の膜厚を薄くでき、結果的に燃料電池スタックを薄く小さくすることができるうえに、一層省くことで接面抵抗を低減することができる。
【0032】
特に、フレキシブルCNFを基材とする本発明の電極をカソード側に適用することで、燃料電池の発電時にカソード電極で生じた水を速やかに系外へ排出することができ、生成した水によるフラッディング現象を効率的に防止することができる。
さらに、アノード電極およびカソード電極の双方に本発明の燃料電池用電極を適用することで、上述した全ての効果が発揮されるようになる。
【0033】
膜電極接合体の一構成成分である膜としては、一般的に、高分子電解質膜が用いられる。
高分子電解質膜としては、従来固体高分子型燃料電池に用いられているものから適宜選択して用いればよく、その具体例を挙げると、ナフィオン(登録商標)(デュポン社製,NRE−212CE)、フレミオン(登録商標)(旭硝子(株)製)等のパーフルオロスルホン酸膜;エチレン−4フッ化エチレン共重合体樹脂膜、トリフルオロスチレンをベースポリマーとする樹脂膜等のフッ素系高分子電解質膜;スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂膜などが挙げられる。
高分子電解質膜の厚みは、特に限定されるものではないが、通常、5〜300μm程度である。
【0034】
また、アノード電極およびカソード電極のいずれか一方に、本発明の燃料電池用電極を用いる場合、他方の電極には、従来公知の触媒層付きガス拡散層を用いればよい。
ここで触媒としては、上記で述べたものと同様のものが挙げられる。
また、ガス拡散層としては、カーボン粒子集合体、炭素繊維織物、カーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボン不織布等の導電性および多孔性を有するシート状材料が挙げられる。
このような触媒層付きガス拡散層は、一般的には、市販の燃料電池触媒層用触媒担持カーボン微粒子をナフィオンなどの電解質高分子バインダーと溶媒中で混合・ペースト化し、市販されている燃料電池用の撥水加工カーボンペーパーなどの表面に塗布することで得られる。
市販品の白金担持カーボン粒子としては、例えば、UNPC40−II(石福金属興業(株)製,Pt39質量%担持カーボン)、TEC10V40E(田中貴金属工業(株)製,Pt40質量%担持カーボン)等があり、触媒の担持量もある程度選択できる。また、予めガス拡散層に白金担持カーボンペーストが塗られた(株)ケミックス製触媒層付きガス拡散層(白金担持量0.5mg/cm2、カーボンペーパーは東レ(株)製TGP−H−060)の様な市販品も用いることもできる。
【0035】
上記膜電極接合体の製造法としても特に限定されるものではなく、熱加圧等により電極と高分子電解質膜とを一体化する等の従来公知の方法を採用すればよい。
本発明の燃料電池用電極は、上述したようにフレキシブルであるため、これをロール状に巻回することができる。
したがって、ロール状に巻回された本発明の燃料電池用電極と、同じくロール状に巻回された電解質膜とを連続的に熱圧着して膜電極接合体を製造することができる。この際、電解質膜の両面に本発明の燃料電池用電極を供給して熱圧着すれば、一工程で連続的に膜電極接合体を製造することができ、極めて効率的である。
【0036】
本発明に係る燃料電池は、上述した燃料電池用電極を用いるものであればよいが、好ましくは、電解質層と、その両側に配設されたアノード電極およびカソード電極からなる膜電極接合体、およびこの膜電極接合体の両側に配設された一対のセパレータからなる単位セルが複数個並設されてなる燃料電池における、カソード電極およびアノード電極の少なくとも一方に上述した本発明の燃料電池用電極を用いるものである。
ここで、セパレータとしては、カーボンセパレータ、ステンレス等の金属製セパレータなどが挙げられる。なおセパレータには、ガス流通用の溝が形成されていてもよい。
その他、電解質層等については、上述と同様である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、繊維径および不織布の厚みは以下の手法により測定した。また、透過型電子顕微鏡および電子顕微鏡測定に使用した装置は以下のとおりである。
(1)繊維径
電子顕微鏡(日本電子(株)、JSM−6701F)により観察し、任意の繊維50本の太さを測定し、平均を求めた。
(2)不織布の厚み
デジタルシックネスゲージ((株)テクロック製,SMD−565)を用いて、任意の10点を測定し、平均を求めた。
(3)透過型電子顕微鏡(TEM)
日本電子(株)製,JEM−2010を用いて観察した。
(4)電子顕微鏡(SEM)
日本電子(株)製,JSM−6701Fを用いて観察した。
【0038】
[製造例1]導電性フレキシブルカーボンナノファイバー不織布の製造
(1)ポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体の合成
アクリロニトリル(和光純薬工業(株)製)30.93g
メタクリル酸(和光純薬工業(株)製)4.07g
純水300ml
をフラスコに仕込み、窒素ガスをバブリングすることにより脱空気(酸素)を行った後、70℃に加熱し、ペルオキソ二硫酸カリウム(和光純薬工業(株)製)100mgを純水50mlに溶解した溶液を撹拌しながら投入した後、4時間撹拌を続けた。白濁した溶液をエバポレーターで濃縮して水を除去し、最後は真空乾燥して約20gのポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体を得た。
(2)電界紡糸溶液の作製
ポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体:3.5
フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製,PSK−2320):3.0
Titanium(IV) butoxide(アルドリッチ社製):3.5
ジメチルホルムアミド(和光純薬工業(株)製、特級):90.0
の質量割合で混合溶解し、電界紡糸溶液を作成した。
(2)電界紡糸
上記で得られた電界紡糸溶液を、電界紡糸装置((株)フューエンス製,ESP−2300)にセットし、ニードル出口径0.5mm、印加電圧17kV、押出圧力7kPa、相対湿度50%(25℃)で電界紡糸することで、繊維径約600nmの長繊維が30μmの厚みで積層されたナノファイバー不織布を得た。
【0039】
(3)硬化(不融化)処理
ナノファイバー不織布をオーブンに入れ、空気雰囲気中で室温から250℃まで1.5時間掛けて昇温し、さらに250℃で1時間放置することで、硬化処理をした。
(4)焼成(炭化処理)
硬化処理後のナノファイバー不織布を、以下の条件で炭化処理し、導電性カーボンナノファイバー不織布を得た。
昇温速度:10℃/min
保持温度:1,500℃
保持時間:60min
窒素流量:5L/min
得られた導電性カーボンナノファイバー不織布を電子顕微鏡で観察し、繊維同士が融解して接合していないことを確認した。繊維径は、約500nmであった。不織布の厚みは、20μmであった。
この不織布(試料の大きさ:10cm×10cm)は、二つ折りにして二枚のステンレス板にはさみ、98kPa(1kgf/cm2)の加重をかけても破断しない、フレキシブルなものであることを確認した。
【0040】
[実施例1]
(1)還元法−白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布の作製
ヘキサクロロ白金(IV)酸・六水和物(アルドリッチ社製)133mg、ポリアクリル酸(アルドリッチ社製)2mg、および水865mgを試験管内に計り取り、室温で約1時間、溶解するまで撹拌した。この溶液に、エタノール(和光純薬工業(株)製)1,000mgを加え、均一に混ざるまで撹拌した(白金換算25mg/ml)。
一方、製造例1で得られた導電性フレキシブルカーボンナノファイバー不織布25cm2(5cm□)を耐熱性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シート上に置き、先に調製した溶液500mgをスポイトで垂らして満遍なく染み込ませた。
溶液を染み込ませた不織布はPTFEシート上に載せたままオーブンで、空気雰囲気中、約3℃/minの昇温速度で550℃になるまで熱処理し、導電性フレキシブルカーボンナノファイバー表面に白金粒子を担持させた。担持後の質量増加は12.5mgであったので、白金が0.5mg/cm2担持されていることがわかった。
得られた白金担持カーボンナノファイバー不織布の構造をTEMにて観察した結果を図1に示す。図1に示されるように、カーボンナノファイバーの表面に粒径2〜10nmの白金粒子が担持されていることがわかった。
【0041】
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
10%ナフィオン(登録商標)溶液(アルドリッチ社製)をエタノールで5%に希釈した溶液500μlを、上記(1)で得られた白金担持ナノファイバー不織布(25cm2、厚み20μm)へ満遍なく滴下して吸収させ、風乾した。この不織布から2.5cm□を2枚切り出し、電解質膜である5cm□のナフィオン(登録商標)膜(デュポン社製,NRE−212CE)の中央両面に配置し、PTFEシートで保護しながら、200kPa、160℃でプレスし、白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布(アノード電極)/電解質膜/白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布(カソード電極)の3層構造のMEAを作製した。
【0042】
[実施例2]
(1)アークプラズマ(以下、AP)法−白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
製造例1で得られた導電性フレキシブルカーボンナノファイバー不織布25cm2(5cm□)をアークプラズマ成膜装置((株)アルバック製,APD−P)にセットし、蒸着源を白金とし、放電電圧400V、コンデンサ容量50μF、放電周波数1Hz、ショット数500で白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を得た。その質量増は、12.5mgであったので、白金が0.5mg/cm2担持されていることがわかった。
得られた白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布の構造をTEMにて観察した結果を図2に示す。図2に示されるように、粒径2〜10nmの白金粒子がカーボンナノファイバー表面一面に担持されていることがわかった。
【0043】
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
アークプラズマ法で作製した白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布をアノード、カソード両極とした以外は、実施例1と同様にして3層構造のMEAを作製した。
【0044】
[実施例3]カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
(実施例3−1)
(1)Fe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
製造例1(1)に記載した方法で得られたポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体1.5g、塩化鉄・六水和物(和光純薬工業(株)製)1.5g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)1.5g、およびジメチルホルムアミド(和光純薬工業(株)製)20.5gを混合して2時間撹拌し、コーティング溶液を得た。
【0045】
続いて、製造例1で得られた導電性カーボンナノファイバー不織布を直径10cmの円形に切り、同径のガラスフィルター製ろ過器にセットした。これに、先に調製したコーティング溶液を流し込み、吸引ろ過してFe系カーボンアロイ触媒前駆体コート溶液を導電性ナノファイバー表面に均一にコートした。コートされた不織布を真空乾燥機に移し、60℃で真空乾燥した。
次に、コートされた不織布をオーブンに入れ、空気雰囲気中で室温から250℃まで1.5時間掛けて昇温し、さらに250℃で1時間放置することで、コート層の不融化処理をした。コート層を不融化した不織布を、窒素雰囲気中、昇温速度10℃/min、保持温度600℃、保持時間:60min、窒素流量:5L/minの条件でプレ焼成した。プレ焼成済み不織布を濃塩酸に漬けて鉄を取り除いた。その後、中和、水洗、乾燥し、窒素雰囲気中、昇温速度10℃/min、保持温度900℃、保持時間60min、窒素流量5L/minで本焼成し、Fe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を得た。
得られたFe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布の構造をSEMおよびTEMにて観察した結果を図3,4にそれぞれ示す。
図3に示されるように、繊維表面に触媒粒子が担持されていることが観察された。また、図4に示されるように、繊維表面にナノシェル構造(カーボンアロイ系触媒の活性構造)が観察された。
【0046】
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
10%ナフィオン(登録商標)溶液(アルドリッチ社製)をエタノールで5%に希釈した溶液500μlを、Fe系カーボンアロイ触媒担持カーボンナノファイバー不織布へ満遍なく滴下して吸収させ、風乾した。2.5cm□を1枚切り出し、5cm□のナフィオン(登録商標)膜(デュポン社製,NRE−212CE)の片面中央に配置し、カソード極面とした。
アノード極面を、実施例1で作製した0.5mg/cm2白金触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布とし、両面をPTFEシートで保護しながら、200kPa、160℃でプレスし、白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布(アノード電極)/電解質膜/Fe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布(カソード電極)の3層構造のMEAを作製した。
【0047】
(実施例3−2)
(1)Co系カーボンアロイ触媒担持カーボンナノファイバー不織布
製造例1(1)に記載した方法で得たポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体1.5g、塩化コバルト・六水和物(和光純薬工業(株)製)1.5g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)1.5g、およびジメチルホルムアミド(和光純薬工業(株)製)20.5gを混合して2時間撹拌し、コーティング溶液を得た。
【0048】
続いて、製造例1で得られた導電性カーボンナノファイバー不織布を直径10cmの円形に切り、同径のガラスフィルター製ろ過器にセットした。コーティング溶液を流し込み、吸引ろ過してCo系カーボンアロイ触媒前駆体コート溶液を導電性カーボンナノファイバー表面に均一にコートした。コートされた不織布を真空乾燥機に移し、60℃で真空乾燥した。コートされた不織布をオーブンに入れ、空気雰囲気中、室温から250℃まで1.5時間掛けて昇温し、さらに250℃で1時間放置することで、コート層の不融化処理をした。次いで、昇温速度:10℃/min、保持温度:900℃、保持時間:60min、窒素流量:5L/minの条件で本焼成した。焼成済み不織布を濃塩酸に漬けてコバルトを取り除いた後、中和、水洗、乾燥してCo系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を得た。
【0049】
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
Fe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布に換えて、Co系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を用いた以外は、実施例3−1(2)と同様にして3層構造のMEAを作製した。得られたMEAのカソード極面のSEM観察結果を図8に示す。
【0050】
(実施例3−3)
(1)PcFe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
製造例1(1)に記載した方法で得られたポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体1.5g、フタロシアニン鉄(和光純薬工業(株)製)1.5g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)1.5g、およびジメチルホルムアミド(和光純薬工業(株)製)20.5gを混合して2時間撹拌し、コーティング溶液を得た。
以降の処理は、実施例3−1(1)と同様にして、PcFe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を得た。
【0051】
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
Fe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布に換えて、PcFe系カーボンアロイ触媒担持カーボンナノファイバー不織布を用いた以外は、実施例3−1(2)と同様にして3層構造のMEAを作製した。
【0052】
(実施例3−4)
(1)PcCo系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
製造例1(1)に記載した方法で得られたポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体1.5g、フタロシアニンコバルト(和光純薬工業(株)製)1.5g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)1.5g、およびジメチルホルムアミド(和光純薬工業(株)製)20.5gを混合して2時間撹拌し、コーティング溶液を得た。
以降の処理は、実施例3−2(1)と同様にして、PcCo系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を得た。
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
Fe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布に換えて、PcCo系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を用いた以外は、実施例3−1(2)と同様にして3層構造のMEAを作製した。
【0053】
[実施例4]AP法−カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
(実施例4−1)AP法−Fe系
(1)Fe系触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
製造例1(1)に記載した方法で得られたポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体1.5g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)1.5g、およびジメチルホルムアミド(和光純薬工業(株)製)22gを混合して2時間撹拌し、コーティング溶液を得た。
【0054】
製造例1で得られた導電性カーボンナノファイバー不織布を直径10cmの円形に切り、同径のガラスフィルター製ろ過器にセットした。これにコーティング溶液を流し込み、吸引ろ過してカーボン系触媒前駆体コート溶液を導電性ナノファイバー表面に均一にコートした。コートされた不織布を真空乾燥機に移し、60℃で真空乾燥した。
続いて、蒸着源を鉄にした以外は、実施例2と同様にして真空乾燥後の不織布に鉄を蒸着させ、鉄微粒子高分散カーボンナノファイバー不織布を得た。
この不織布に、実施例3−1(1)に記載のコート層不融化処理以降の処理を施すことにより、AP法で作製したFe系触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を得た。
【0055】
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
Fe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布をAP法で作製したFe系触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布に換えた以外は、実施例3−1(2)と同様にして3層構造のMEAを作製した。
【0056】
(実施例4−2)Ap法−Co系
(1)Co系触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
蒸着源をコバルトにした以外は、実施例4−1(1)と同様の処理をコート層不融化処理の前まで行い、カーボン系触媒前駆体コートコバルト粒子高分散カーボンナノファイバー不織布を得た。
この不織布に、実施例3−2(1)に記載のコート層不融化処理以降の処理を施すことにより、AP法で作製したCo系触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を得た。
【0057】
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
Fe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布に換えて、Ap法で作製したCo系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を用いた以外は、実施例3−1(2)と同様にして3層構造のMEAを作製した。
【0058】
[比較例1]5層構造MEA
市販の触媒層付きガス拡散層(白金担持量0.5mg/cm2,(株)ケミックス製、カーボンペーパーは東レ(株)製TGP−H−060)を2.5cm□2枚を切り出し、3cm□ナフィオン(登録商標)膜の両面中央に、触媒層とナフィオン(登録商標)膜とが接するように配置し、200kPa、160℃でプレスし、ガス拡散層/触媒層/電解質膜/触媒層/ガス拡散層の5層構造のMEAを作製した。
【0059】
上記各実施例および比較例1で得られたMEAについて、下記手法にて燃料電池発電試験を行った。
〈燃料電池発電試験〉
燃料電池評価システム((株)東陽テクニカ製,AutoPEMNSB−01)にて電池温度80℃、相対湿度100%、水素、酸素ともに1ml/min、排圧50kPaで評価した。電流密度と電圧との関係を図5に、電流密度と抵抗との関係を図6に示す。
【0060】
図5に示されるように、本発明のMEAは、従来の白金担持カーボンから成る触媒層とガス拡散層の組み合わせからなる比較例1の5層構造のMEAに比して、高い電流密度でも電圧が生じていることがわかった。これは、発生した水が速やかに系外へ排出されたため水が触媒を覆って燃料ガスが行き渡らない(フラッディング)現象が抑えられたことを示している。
また、同じ白金触媒を使った場合、導電性フレキシブルカーボンナノファイバー上に担持された場合の方が、高いOCV(開放電圧)および同じ電流密度においても常に高い電圧を示しており、触媒の利用効率、ガスの利用効率、電気伝達においても優れていることが示唆された。
【0061】
また、図6に示されるように、本発明のMEAは、従来の白金担持カーボンから成る触媒層とガス拡散層との組み合わせからなる比較例1の5層構造のMEAに比して、燃料電池の抵抗が非常に低いことがわかった。
従来のMEA(比較例1)より抵抗が低い要因は、(1)5層から3層になり層間が2面減ったこと(触媒層とガス拡散層の間)による接面抵抗の減少、(2)触媒から発生した電気がロスなく導電性フレキシブルカーボンナノファイバーへ伝えられ、(3)ナノファイバーを伝わって系外へ効率よく電気が導き出されたこと、などによるものと考えられる。
また、導電性の乏しいカーボンアロイ触媒からも効率よく電気が取り出されていることも示唆された。
上記図5,6の結果から、白金触媒の使用量が低減できる可能性を見出し、以下の比較実験を実施した。
【0062】
〈触媒使用量の比較実験〉
一般的に使用されている粒子状炭素材料をベースとした白金担持電極ペーストと本発明の触媒担持フレキシブルナノファイバー不織布での触媒利用効率を比較した。
なお、公正な比較のために、本発明の触媒担持フレキシブルナノファイバー不織布においてもガス拡散層を使用した。
【0063】
[実施例5]
(1)白金触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
実施例1と同法で白金触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を作製する際に、ヘキサクロロ白金(IV)酸・六水和物の量を調節して白金担持量を調節し、白金が、それぞれ0.05mg/cm2、0.1mg/cm2、0.5mg/cm2で担持された3種類の白金触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を得た。なお、担持量は質量変化で確認した。
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
10%ナフィオン(登録商標)溶液(アルドリッチ社製)をエタノールで5%に希釈した溶液500μlを、上記(1)で得られた各担持量の白金担持ナノファイバー不織布(25cm2、厚み20μm)へ満遍なく滴下して吸収させ、風乾した。これらの不織布から2.5cm□を2枚切り出し、5cm□のナフィオン(登録商標)膜(デュポン社製,NRE−212CE)の片面中央に配置し、さらにその外側にカーボンペーパー(東レ(株)製,TGP−H−060)を配置した。また、ナフィオン(登録商標)膜の他方の面に白金触媒付きガス拡散層((株)ケミックス製、カーボンペーパーは東レ(株)製TGP−H−060)を配値し、PTFEシートで保護しながら、200kPa、160℃でプレスし、ガス拡散層/触媒層(アノード電極)/電解質膜/白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布/ガス拡散層(カソード電極)の5層構造のMEAを作製した。
【0064】
[比較例2]
(1)触媒ペーストの作製
UNPC40−II(石福金属興業(株)製,Pt39質量%担持カーボン)を秤量し、この白金担持カーボン量に対して、2倍量の水を加え、超音波混合器にてよく分散した。
次いで、白金担持カーボン量に対して、10倍量の5質量%ナフィオン(登録商標)溶液(デュポン社製)を加え、再び超音波混合器にて良く分散した。次いで、水と同量のイソプロピルアルコール(和光純薬工業(株)製)を加え、再び超音波混合器にてよく撹拌し、白金担持カーボンペーストを得た。
(2)触媒層の作製
PTFEシート上に、上記白金担持カーボンペーストをドクターブレード法で塗布した。この際に、単位面積当たりの白金量が、0.1mg/cm2または0.5mg/cm2になるように塗布厚を調整した。その後、乾燥させ触媒層とした。
また、白金量が0.05mg/cm2の触媒層は、PTFEシート上に形成した場合では薄すぎて乾燥中に割れが生じてしまったので、ガス拡散層であるカーボンペーパー(東レ(株)製,TPG−H−060)上へ、ドクターブレード法で直接塗布し、乾燥した。
(3)MEAの作製
上記で得られた白金量0.1mg/cm2または0.5mg/cm2の触媒層をPTFEシートごと2.5cm□に切り出し、触媒層面を5cm□のナフィオン(登録商標)膜(デュポン社製,NRE−212CE)の片面中央に転写し、その外側にーボンペーパー(東レ(株)製,TPG−H−060)を配置した。また、白金量0.05mg/cm2のものについてはカーボンペーパーごと2.5cm□に切り出し、ナフィオン(登録商標)膜の片面中央に配置した。
一方、ナフィオン(登録商標)膜の他方の面には、白金触媒付きガス拡散層((株)ケミックス製、カーボンペーパーは東レ(株)製TGP−H−060)を配置し、カーボンペーパーの外側をPTFEシートで保護しながら、200kPa、160℃でプレスし、ガス拡散層/触媒層(アノード電極)/電解質膜/白金担持カーボンペースト層/ガス拡散層(カソード電極)の5層構造のMEAを作製した。
【0065】
[比較例3]
使用した白金担持カーボンをTEC10V40E(田中貴金属工業(株)製,Pt40質量%担持カーボン)に変更した以外は、比較例2と同様にして、ガス拡散層/触媒層(アノード電極)/電解質膜/白金担持カーボンペースト層/ガス拡散層(カソード電極)の5層構造のMEAを作製した。
【0066】
上記実施例5および比較例2,3で得られたMEAについて、実施例1と同様の燃料電池発電試験を行った。白金担持量と電圧との関係を図7に示す。
図7に示されるように、いずれの担持量においても導電性フレキシブルカーボンナノファイバー表面に担持した場合の方が、触媒が効率よく使用されていることが示唆された。
【0067】
[比較例4]
特許文献5の実施例5には、カーボンナノファイバー前駆体を電界紡糸にてナノファイバー化し、これを2,950℃で焼成することで、導電性カーボンナノファイバー不織布を形成し、ついでこの片面にカーボンアロイ触媒前駆体溶液をスプレーし、900℃で焼成することで、不織布片面の表面繊維上にカーボンアロイ触媒を担持した例が記載されている。
そこで、本発明の燃料電池用電極およびMEAと比較するため、特許文献5の実施例5と同一の方法でカーボンアロイ触媒カーボンナノファイバーおよびMEAを作製し、得られたMEAのカソード電極面(カーボンアロイ触媒カーボンナノファイバー電極)をSEMにて観察した。その結果を図9に示す。
図9に示されるように、特許文献5の実施例5で得られたMEAでは、プレス加工の際にカーボンナノファイバー不織布の繊維が破壊し、すでに不織布の体を成していないこと、さらには、非常に短い短繊維までに崩壊し、一般的に用いられているカーボン粒子を積層した触媒層と同じ構造にまで至っていることがわかる。
この状態では、短繊維が触媒層から脱離してMEAの系外、すなわち、燃料ガス給排気系であるセパレータや、その溝に漏れ出し、触媒層の劣化を招くのみならず、燃料ガス供給溝を詰まらせる虞がある。
【0068】
一方、実施例3−2で作製したMEAのSEM観察結果(図8)に示されるように、フレキシブルなカーボンナノファイバーをMEAに用いた場合は、プレス加工後においても不織布の構造を保持していることがわかる。このことは、カソード電極において、繊維間の隙間を利用した、ガスの拡散、水蒸気の拡散、水の排出を効率化できていることを示唆している。
【0069】
[実施例6]カソード電極またはアノード電極への単独使用
実施例1で得られた白金触媒担持フレキシブルナノファイバー不織布を、カソード電極またはアノード電極に単独使用した場合の電池の性能評価を実施した。
(実施例6−1)カソード電極への単独使用
アノード電極を市販の触媒層付きガス拡散層・白金担持量0.5mg/cm2((株)ケミックス製、カーボンペーパーは東レ(株)製TGP−H−060)2.5cm□にした以外は、実施例1と同様にしてガス拡散層/触媒層(アノード電極)/電解質膜/白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布(カソード電極)の4層構造のMEAを作製した。
【0070】
(実施例6−2)アノード電極への単独使用
カソード電極を市販の触媒層付きガス拡散層・白金担持量0.5mg/cm2((株)ケミックス製、カーボンペーパーは東レ(株)製TGP−H−060)2.5cm□にした以外は、実施例1と同様にして白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布(アノード電極)/電解質膜/触媒層/ガス拡散層(カソード電極)の4層構造のMEAを作製した。
【0071】
上記実施例6−1,2で作製したMEAについて、実施例1と同様の方法で燃料電池の性能を評価した。結果を図10,11に示す。なお、比較のため、比較例1の結果も図10,11に併せて示している。
図10に示されるように、従来の5層構造のMEA(比較例1)と比較して、本発明の白金触媒担持フレキシブルナノファイバー不織布をカソード側のみに用いた場合、およびアノード側のみに用いた場合のいずれにおいても燃料電池の発電性能が向上することが明らかとなった。カソード側のみに用いた場合の方が、アノード側のみに用いた場合よりも発電性能が向上しているのは、カソード側特有の現象であるフラッディングを効果的に抑制したからだと考えられる。
【0072】
また、図11に示されるように、電流密度が1,500mA/cm2より低いところでは、従来の5層構造のMEA(比較例1)よりも、本発明の白金触媒担持フレキシブルナノファイバー不織布をカソード側のみに、またはアノード側のみに用いたMEAの方が、低抵抗となっていることがわかる。アノード側では水が発生しないため、本発明の白金触媒担持フレキシブルナノファイバー不織布をアノード側のみに用いた場合にはフラッディング抑制の効果はないが、その場合であっても、従来の5層構造のMEAよりも抵抗値が低くなっていることがわかる。
以上説明したとおり、MEAに本発明の触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を用いた場合に燃料電池の性能が向上することがわかる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極に関し、さらに詳述すると、ガス拡散層および電極触媒層の両機能を併せ持つ燃料電池用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素等の燃料と大気中の酸素とを電池に供給し、これらを電気化学的に反応させて水を作り出すことで直接発電させるものであり、高エネルギー変換可能で、環境適応性に優れていることから、小規模地域発電、家庭用発電、キャンプ場等での簡易電源、自動車、小型船舶等の移動用電源、人工衛星、宇宙開発用電源等の各種用途向けに開発が進められている。
【0003】
このような燃料電池、特に固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜と、この両側に配設されたアノード電極およびカソード電極とからなる膜電極接合体を、一対のセパレータで挟持してなる単位セルを複数個並設してなるモジュールから構成されている。
上記アノード電極およびカソード電極は、それぞれ、電解質膜側に位置する電極触媒層と、セパレータ側に位置するガス拡散層との2層から構成されることが一般的であり、したがって、膜電極接合体全体としては、通常、5層から構成されている。
【0004】
近年、上記電極触媒層やガス拡散層(の基材)として、炭素繊維構造体が用いられ始めている。
例えば、特許文献1には、窒素原子を有するカーボンナノファイバー(以下、CNFという場合もある)と、その窒素原子に結合した触媒粒子を有する不織布状の触媒担持CNF燃料電池用触媒電極層が開示されている。
特許文献2には、導電性長繊維シートに触媒を担持した燃料電池触媒電極が開示されている。
特許文献3には、繊維径0.3〜1.5デシテックスのカーボン繊維フィラメント織物からなるガス拡散層が開示されている。
特許文献4には、ナノシェル構造を有するナノファイバーからなるカーボンアロイ触媒が開示されている。このカーボンアロイ触媒では、ナノファイバーを構成する炭素構造自体が触媒活性を有している。
【0005】
上記特許文献1の触媒電極層は、担持した触媒の粒子凝集(シンタリング)を防止することを目的に、CNF中に窒素原子を含有させることを特徴としている。この窒素含有CNFを作製するためには、900℃以下の低温焼成が必要であり、この温度では炭素化が不十分のため導電性は乏しい。したがって、膜電極接合体として用いる場合には、導電物質を付加するか、繊維自体に導電性を付与する加工が必要である。
また、特許文献1では、触媒電極層をガス拡散層としても使用することは示されていない。
【0006】
上記特許文献2の触媒電極層では、実施例における使用触媒量が1mg/cm2と多く、粒子状カーボン触媒層との比較においても、最大起電力は1.3倍以上程度の差でしかない。これは、導電性繊維不織布の柔軟性が不足しているため膜接合界面の密着性が悪く、導電性繊維不織布表面の面抵抗を低化させるだけでは、触媒を担持した導電性繊維不織布表面と電解質膜およびガス拡散層との膜接合界面の抵抗が下げられないことに起因している。
また、特許文献2において、燃料電池の作製にガス拡散性のある支持体としてカーボンペーパーが使用されており、触媒電極層をガス拡散層としても使用することは示されていない。
【0007】
上記特許文献3のガス拡散層を構成する炭素繊維フィラメント束からなる織物はマクロ的には比較的しなやかで、ロール加工が可能であるものの、マイクロレベルで見た場合、繊維径が6μm程度と太くて繊維1本1本が剛直であるとともに、フィラメント束であるために繊維の毛羽立ちが生じ易いため、電解質を貫通し、アノード・カソード間の短絡や燃料ガス漏れの問題が生じる。このため、ガス拡散層に表面処理を行う必要がある。
また、特許文献3では、ガス拡散層を電極触媒層としても用いることは示されていない。
【0008】
上記特許文献4の技術では、ナノファイバー中にカーボンアロイ触媒(ナノシェル構造)粒子を形成させることで、粒子の粗大化を防ぎ、微細な触媒粒子が得られる。このカーボンアロイ触媒では、繊維内部に多くの触媒が存在しているものの、この触媒は酸化還元反応には寄与しない。炭素触媒粒子そのものは、導電性に乏しく、ほぼ触媒粒子のみで形成されている繊維も導電性に乏しい。
このため、このナノファイバー単独でガス拡散層と電極触媒の両機能を併せ持たせることは実質的に不可能である。
以上のように、特許文献1〜4の技術では、基本的にガス拡散層および電極触媒層の双方を必要としている。
【0009】
一方、特許文献5には、ガス拡散性能および電極性能を兼ね備えたカーボンナノファイバー不織布に触媒前駆体を付着させ焼成して得られた膜電極接合体が開示されている。
しかしながら、この特許文献5の技術では、触媒がカーボン触媒に限られているうえに、使用されているCNFは、後に比較例を挙げて詳述するように、フレキシブル性のない脆い構造物であるため、膜電極接合体成型時の圧力で不織布構造が崩れてしまっている。その結果、得られた膜電極接合体のガス拡散性および水はけが低下し、それに伴って、燃料電池とした場合の発電性能も大幅に低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−118269号公報
【特許文献2】特開2009−181783号公報
【特許文献3】特開2005−36333号公報
【特許文献4】国際公開第2009/098812号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2009/148111号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、フレキシブルな炭素繊維不織布を基材とし、ガス拡散層および電極触媒層の両層の機能を併せ持つ燃料電池用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、電界紡糸可能な高分子物質と、それとは異なる有機化合物との少なくとも2種類の有機成分と、遷移金属とを混合してなる組成物を電界紡糸して得られた不織布を、さらに炭素化することで、2つ折りにしても破断しない程、折り曲げに強い、フレキシブルな炭素繊維不織布が得られることを既に報告している(特願2009−279112)
この知見をもとにして、本発明者はさらなる検討を重ねた結果、上記フレキシブル炭素繊維不織布の炭素繊維表面に燃料電池用触媒を担持して得られた不織布構造体が、燃料電池におけるガス拡散層および電極触媒層の両層の作用を発揮し得るため、別途ガス拡散層を設けなくとも発電し得ること、およびその発電性能が、上述した従来の5層構造の膜電極接合体のそれよりも優れていることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、
1. 電界紡糸可能な高分子物質と、この高分子物質とは異なる有機化合物と、遷移金属とを含む組成物を電界紡糸して得られた不織布を炭素化してなるフレキシブル炭素繊維不織布、およびこの不織布を構成する炭素繊維表面に担持された燃料電池用触媒から構成されることを特徴とする、ガス拡散作用と電極触媒作用とを併せ持つ燃料電池用電極、
2. 前記燃料電池用触媒が、金属触媒またはカーボンアロイ触媒である1の燃料電池用電極、
3. 電解質層と、その両側に配設されたアノード電極およびカソード電極からなる膜電極接合体において、前記アノード電極およびカソード電極の少なくとも一方が、1または2の燃料電池用電極から構成されることを特徴とする膜電極接合体、
4. 前記カソード電極が、1または2の燃料電池用電極から構成される3の膜電極接合体、
5. 前記アノード電極およびカソード電極が、1または2の燃料電池用電極から構成される3の膜電極接合体、
6. 電解質層と、その両側に配設されたアノード電極およびカソード電極からなる膜電極接合体、およびこの膜電極接合体の両側に配設された一対のセパレータからなる単位セルが複数個並設されてなる燃料電池において、前記カソード電極およびアノード電極の少なくとも一方が、1または2の燃料電池用電極から構成されることを特徴とする燃料電池、
7. 前記カソード電極が、1または2の燃料電池用電極から構成される6の燃料電池、
8. 前記アノード電極およびカソード電極が、1または2の燃料電池用電極から構成される6の燃料電池、
9. 1または2の燃料電池用電極を備える膜電極接合体、
10. 1または2の燃料電池用電極を備える燃料電池
を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池用電極は、ガス拡散機能と触媒機能とを兼ね備えているため、膜電極接合体作製の際にガス拡散層を必要としない。このため、膜電極接合体の膜厚を薄くでき、結果的に燃料電池スタックを薄く小さくすることができる。
また、本発明の電極では、不織布を構成している導電性CNFの表面に触媒が担持されているので、触媒で発生した電気がロスなくCNF繊維に伝わるとともに、長い繊維を導電パスとすることで系外へのロス(抵抗)も軽減される。
さらに、本発明の電極は、繊維状(定型)であるため、プロトンのパスであるナフィオン(登録商標)等の電解質高分子皮膜を形成し易いので、燃料(気体)、触媒(固体)、プロトン(液体)の3層界面の形成効率が良く、結果的に触媒の担持量を低減できる。
そして、本発明の電極は、不織布であることから、連通孔が多く、発電時に発生する水が詰まりにくいため、カソード電極として用いた場合に、フラッディング現象が軽減され、水が多量に発生する高出力発電時でも安定した発電ができる、
したがって、本発明の電極で電解質層を挟持してなる膜電極接合体を備えた燃料電池の発電特性は、従来の5層構造の膜電極接合体(ガス拡散層:触媒層:電解質膜:触媒層:ガス拡散層)よりも優れている。
また、触媒担持CNF不織布は、連続したロール状の不織布シートとして提供できるため、燃料電池の膜接合体作製工程を「ロールトゥロール」にすることができ、簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1で得られた白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布のTEM観察図である。
【図2】実施例2で得られた白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布のTEM観察図である。
【図3】実施例3−1で得られたFe系カーボンアロイ触媒担持カーボンナノファイバー不織布のSEM観察図である。
【図4】実施例3−1で得られたFe系カーボンアロイ触媒担持カーボンナノファイバー不織布のTEM観察図である。
【図5】実施例1〜4−2,比較例1で得られた膜電極接合体の電流密度と電圧との関係を示すグラフであり、還元法Pt−CNFが実施例1を、AP法−Pt−CNFが実施例2を、Fe系−CNFが実施例3−1を、Co系−CNFが実施例3−2を、PcFe系−CNFが実施例3−3を、PcCo系−CNFが実施例3−4を、AP法−Fe系−CNFが実施例4−1を、AP法−Co系−CNFが実施例4−2をそれぞれ表す。
【図6】実施例1〜4−2,比較例1で得られた膜電極接合体の電流密度と抵抗との関係を示すグラフであり、還元法Pt−CNFが実施例1を、AP法−Pt−CNFが実施例2を、Fe系−CNFが実施例3−1を、Co系−CNFが実施例3−2を、PcFe系−CNFが実施例3−3を、PcCo系−CNFが実施例3−4を、AP法−Fe系−CNFが実施例4−1を、AP法−Co系−CNFが実施例4−2をそれぞれ表す。
【図7】実施例5および比較例2,3で得られた膜電極接合体の白金担持量と200mA/cm2時の電池電圧との関係を示す図であり、CNFが実施例5を、UNPCが比較例2を、TECが比較例3をそれぞれ表す。
【図8】実施例3−2で得られたMEAのカソード電極面のSEM観察結果を示す図である。
【図9】比較例4で得られたMEAのカソード電極面のSEM観察結果を示す図である。
【図10】実施例6で得られたMEAの電流密度と電圧の関係を示すグラフであり、カソードPt−CNFが実施例6−1の結果を、アノードPt−CNFが実施例6−2の結果を表す。
【図11】実施例6で得られたMEAの電流密度と抵抗の関係を示すグラフであり、カソードPt−CNFが実施例6−1の結果を、アノードPt−CNFが実施例6−2の結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るガス拡散作用と電極触媒作用とを併せ持つ燃料電池用電極は、電界紡糸可能な高分子物質と、この高分子物質とは異なる有機化合物と、遷移金属とを含む組成物を電界紡糸して得られた不織布を炭素化してなるフレキシブル炭素繊維不織布、およびこの不織布を構成する炭素繊維表面に担持された燃料電池用触媒から構成されるものである。
【0017】
本発明において、電界紡糸可能な高分子物質としては、特に限定されるものではなく、電界紡糸可能な従来公知の高分子物質の中から適宜選択することができる。
その具体例としては、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、得られた炭素繊維不織布の折り曲げ強度をより高めることを考慮すると、その分子中に窒素原子を含む高分子物質が好ましく、特に、ポリアクリロニトリル系樹脂が好適である。
【0018】
本発明では、得られる炭素繊維不織布に、折り曲げても破損しない柔軟性や靱性を発現させるために、上述した電界紡糸可能な高分子物質と、一般的に炭素前駆体として用いられるような有機化合物とを併用する必要がある。これら2成分の併用によって、単独では電界紡糸が困難な炭素繊維前駆体有機化合物を用いた場合でも、電界紡糸可能な高分子が「つなぎ」の役目を果たすことによって、組成物全体として電界紡糸が可能になるとともに、得られる極細炭素繊維不織布を構成する炭素繊維におけるグラフェンシートの発達を防止して、折り曲げに強い炭素繊維を得ることができるようになる。
【0019】
このような有機化合物としては、上述した高分子物質とは異なる物質であり、従来、炭素前駆体材料として用いられている種々の化合物を用いることができる。
その具体例としては、フェノール系樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリカルボジイミド、ピッチ、セルロース、セルロース誘導体、リグニン等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
なお、上記高分子物質として、窒素原子を含まないものを用いる場合、上述と同様の理由から、当該有機化合物が窒素原子を含むものであることが好ましい。
【0020】
また、本発明で用いる炭素繊維不織布において、その柔軟性や靱性の発現には遷移金属が必須である。
すなわち、遷移金属を含む組成物を用いることで、この組成物を電界紡糸して得られた不織布に熱を加えた場合に、焼成温度に至るまでに融解することを防止し得るとともに、炭化後の炭素繊維不織布に、折り曲げても破損しない柔軟性および靱性を付与することができるようになる。
このような遷移金属としては、特に限定されるものではないが、チタン、コバルト、鉄、ニッケル、銅、ジルコニア、白金等が挙げられ、特に、チタン、鉄、コバルトが好適である。なお、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0021】
これらの遷移金属は、錯体、塩、水酸化物、硫化物や有機酸化物の形態で用いることが好ましく、例えば、テトラn−ブトキシチタン等のテトラアルコキシチタン、塩化チタン(III)、塩化チタン(IV)等のハロゲン化チタン、チタンラクテートアンモニウム塩等の有機酸塩;塩化コバルト(II)、塩化コバルト(III)、臭化コバルト(II)、フッ化コバルト(II)、フッ化コバルト(III)、ヨウ化コバルト(II)、ヨウ素酸コバルト(II)等のハロゲン化コバルト、酢酸コバルト(II)、オクチル酸コバルト(II)等の有機酸コバルト、水酸化コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、硝酸コバルト(III);塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、臭化鉄、ヨウ化鉄(II)、ヨウ素酸鉄(II)等のハロゲン化鉄、酢酸鉄(II)、酢酸鉄(III)、オクチル酸鉄(II)等の有機酸鉄、水酸化鉄(II)、水酸化鉄(III)、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III);塩化ニッケル(II)、水酸化ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、ニッケルカルボニル、スルファミン酸ニッケル、ニッケル酸リチウム;塩化銅、酢酸銅、硝酸銅、水酸化銅、炭酸銅、フッ化銅、ヨウ素酸銅、硫酸銅;酸塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、オクチル酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート;塩化白金(II)、塩化白金(IV)、臭化白金(IV)、ヘキサクロロ白金酸塩等を用いることが好適である。
【0022】
本発明の炭素繊維不織布の製造に用いられる組成物において、上記高分子物質、有機化合物、遷移金属の配合量は、組成物が電界紡糸可能な限り、特に制限はないが、高分子物質を1.0〜15質量部、特に、1.5〜15質量部、有機化合物を1.0〜15質量部、特に1.5〜15質量部、遷移金属を0.1〜2質量部(金属分として)、特に0.1〜1.5質量部含むものが好適である。
上記組成物の調製法は任意であり、定法によって、上記各成分を混合すればよい。その際、各成分の配合順序は任意である。
【0023】
また、本発明では、電界紡糸を用いて極細繊維不織布を得るものであるため、電界紡糸用ドープ調製用の溶媒を用いる必要がある。
この溶媒としては、使用する樹脂に応じて、これを溶解し得る溶媒を適宜選択して用いることができ、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、ピリジン、トリクロロエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、アセトニトリル等や蟻酸、乳酸、酢酸等の有機酸などを用いることができる。これらの溶媒は、単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
この溶媒の配合順序も任意であり、上記各成分と一緒に混合しても、上記組成物を調製後に添加してもよい。
【0024】
電界紡糸法は、電界中で、帯電した電界紡糸用ドープ(電界紡糸溶液)を曳糸しつつ、その電荷の反発力によりドープを破裂させ、樹脂からなる極微細な繊維状物を形成する方法である。
具体的には、ドープを噴出するノズルを一方の電極とし、コレクタを他方の電極とし、ドープに数千から数万ボルトの高電圧を印加すると、ドープがノズルから吐出され、電界中で高速ジェットおよびそれに引き続くジェットの折れ曲がりや膨張によって極細繊維になり、コレクタ表面上に極細繊維不織布として堆積する。
【0025】
続いて、得られた極細繊維不織布を焼成して極細炭素繊維不織布を得る。
この際、不融化処理可能な高分子を用いて得られた極細繊維不織布については、従来同様、繊維表面を酸化して硬化・不融化処理を施してもよい。
この場合、その加熱温度は、不融化可能であれば特に制限はないが、通常は、室温から300℃程度まで、2〜10時間程度かけて昇温し、その後、同温度で30分〜3時間程度保持する手法が用いられる。
しかしながら、上記で得られた極細繊維不織布は、従来の不融化処理を行わなくとも、その焼成温度である800〜1,500℃程度まで、不活性ガス雰囲気中で徐々に加熱することで、繊維同士が融解して接合することなく、極細炭素繊維不織布とすることができる。
その昇温速度は、任意であり、例えば、1〜10℃/分程度とすることができ、それほど厳密な温度管理は必要としない。
【0026】
このようにして得られた本発明の極細炭素繊維不織布は、2つ折りにしても破断しない程、折り曲げに強い、フレキシブルな炭素繊維不織布である。
また、この柔軟性は、得られた炭素繊維不織布から金属原子を取り去った後でも維持される。このことから遷移金属は、炭化の過程で折り曲げに強い構造を構築する作用があるものと考えられる。金属原子の除去は例えば酸処理により行うことができる。この酸処理は、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸を単独で、あるいは混合して得た混酸に、炭素繊維不織布を曝すことによって行うことができる。
【0027】
本発明の極細炭素繊維不織布を構成する炭素繊維において、その繊維径は、0.1〜15μmが好ましく、0.1〜10μmが好ましく、0.1〜1μmがより好ましく、バブルポイント法で測定した炭素繊維の細孔径は、5μm以下が好ましく、その表面の細孔径が0.4〜50nmが好ましく、その表面のマイクロ孔(2nm以下)面積は、27〜2,700m2/gが好ましく、そのBET比表面積は、30〜3,000m2/gが好ましい。
また、炭素繊維不織布において、その目付は0.3〜100g/m2が好ましく、その厚みは5〜500μmが好ましく、その嵩密度は0.06〜0.3g/cm3が好ましい。
さらに、JIS L 1096 記載のB法(スライド法)で測定した不織布の剛軟度は、0.0005〜50mN・cmが好ましく、JIS L 1096 記載のA法(フラジール形法)で測定した不織布のガス透過性は、0.5〜300ml/sec/cm2が好ましい。
【0028】
また、本発明の炭素繊維不織布では、ラマン分光法で測定される黒鉛化度の程度を示す、1,355cm-1付近のピーク強度Idと1,580cm-1付近のピーク強度Igとの比Id/Igが、0.7〜1.3の範囲であることが好ましい。
この範囲は、グラファイトの結晶構造が乱れ、非結晶なアモルファスカーボンに近くなっているため、より柔軟性に優れた炭素繊維不織布であることを意味する。
【0029】
不織布を構成する炭素繊維表面に担持する燃料電池用触媒としては、従来、この種の触媒として利用されているものから適宜選択して用いることができ、例えば、金属触媒(金属酸化物、合金を含む)、カーボンアロイ触媒、炭素触媒等が挙げられるが、本発明においては、金属触媒、カーボンアロイ触媒が好適である。
金属触媒の具体例としては、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、オスミウム等の遷移金属、およびそれらの合金などが挙げられ、これらの中でも、白金、白金合金が好ましい。金属触媒の担持量は、特に限定されるものではないが、金属分として0.01〜10mg/cm2程度である。
カーボンアロイ触媒の具体例としては、周期律表の3属から12属の第4周期に属する元素と炭素源とを用いた触媒が挙げられるが、本発明においては、Fe系カーボンアロイ触媒、Co系カーボンアロイ触媒、フタロシアニンFe系カーボンアロイ触媒、フタロシアニンCo系カーボンアロイ触媒、Mn系カーボンアロイ触媒、Ni系カーボンアロイ触媒、Cu系カーボンアロイ触媒、Ti系カーボンアロイ触媒、Cr系カーボンアロイ触媒、Zn系カーボンアロイ触媒等が好ましい。
【0030】
上記触媒の担持方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の各種方法を採用することができるが、本発明においては、下記の手法を用いることが好ましい。
(1)導電性CNF不織布の繊維表面に、金属前駆体をコーティングし、表面の金属前駆体を還元し、金属粒子をCNF表面に担持する方法(Xingwen Yu., Siyu Ye. “Recent advances in activity and durability enhancement of Pt/C catalytic cathode in PEMFC: Part 1. Physico-chemical and electronic interaction between Pt and carbon support, and activity enhancement of Pt/C catalyst”, Journal of Power Sources, Vol. 172, Issue1, 11 Oct. 2007, P133-144,Min Chen., Yangchuan Xing. “Polymer-Mediated Synthesis of Highly Dispersed Pt Nanoparticles of Carbon Black”, Langmuir, 2005, 21(20), p9334-9338.等参照)
(2)アークプラズマ成膜装置を用い導電性CNF不織布の繊維表面に触媒金属粒子を担持する方法(特開2007−179963号公報等参照)
(3)導電性CNF不織布の繊維表面に、樹脂等の炭素源および金属前駆体を含むカーボンアロイ触媒前駆体をコーティングし、これを焼成してカーボンアロイ触媒を担持させる方法(上記特許文献5等参照)
(4)(2)の方法でカーボンアロイ触媒形成に必要な金属粒子を担持させた金属粒子担持CNF不織布に、上述したカーボンアロイ触媒前駆体から金属成分を除いた組成物をコーティングし、これを焼成してカーボンアロイ触媒を担持する方法
特に、カーボンアロイ触媒を担持する場合には、上記(4)の手法を用いることで、カーボンアロイ触媒を、CNF表面に高度に分散させることができる。
なお、金属前駆体としては、先の炭素繊維不織布の説明で述べた、金属錯体、金属塩、金属水酸化物、金属硫化物、金属有機酸化物等が挙げられる。
また、上記各手法を用いる場合の条件は、使用する金属等に応じて公知の条件を用いればよい。
【0031】
本発明の膜電極接合体は、上述した燃料電池用電極を用いるものであればよいが、より好ましくは、電解質層と、その両側に配設されたアノード電極およびカソード電極からなる膜電極接合体の、アノード電極およびカソード電極の少なくとも一方に上述した燃料電池用電極を用いるものである。
本発明の燃料電池用電極は、既に述べたように、触媒層およびガス拡散層の機能を併せ持っているため、膜電極接合体とする場合にガス拡散層を用いなくてもよい。したがって、アノード電極およびカソード電極のいずれか一方に用いれば、その極側においてガス拡散層を省くことができる。
これにより、膜電極接合体の膜厚を薄くでき、結果的に燃料電池スタックを薄く小さくすることができるうえに、一層省くことで接面抵抗を低減することができる。
【0032】
特に、フレキシブルCNFを基材とする本発明の電極をカソード側に適用することで、燃料電池の発電時にカソード電極で生じた水を速やかに系外へ排出することができ、生成した水によるフラッディング現象を効率的に防止することができる。
さらに、アノード電極およびカソード電極の双方に本発明の燃料電池用電極を適用することで、上述した全ての効果が発揮されるようになる。
【0033】
膜電極接合体の一構成成分である膜としては、一般的に、高分子電解質膜が用いられる。
高分子電解質膜としては、従来固体高分子型燃料電池に用いられているものから適宜選択して用いればよく、その具体例を挙げると、ナフィオン(登録商標)(デュポン社製,NRE−212CE)、フレミオン(登録商標)(旭硝子(株)製)等のパーフルオロスルホン酸膜;エチレン−4フッ化エチレン共重合体樹脂膜、トリフルオロスチレンをベースポリマーとする樹脂膜等のフッ素系高分子電解質膜;スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂膜などが挙げられる。
高分子電解質膜の厚みは、特に限定されるものではないが、通常、5〜300μm程度である。
【0034】
また、アノード電極およびカソード電極のいずれか一方に、本発明の燃料電池用電極を用いる場合、他方の電極には、従来公知の触媒層付きガス拡散層を用いればよい。
ここで触媒としては、上記で述べたものと同様のものが挙げられる。
また、ガス拡散層としては、カーボン粒子集合体、炭素繊維織物、カーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボン不織布等の導電性および多孔性を有するシート状材料が挙げられる。
このような触媒層付きガス拡散層は、一般的には、市販の燃料電池触媒層用触媒担持カーボン微粒子をナフィオンなどの電解質高分子バインダーと溶媒中で混合・ペースト化し、市販されている燃料電池用の撥水加工カーボンペーパーなどの表面に塗布することで得られる。
市販品の白金担持カーボン粒子としては、例えば、UNPC40−II(石福金属興業(株)製,Pt39質量%担持カーボン)、TEC10V40E(田中貴金属工業(株)製,Pt40質量%担持カーボン)等があり、触媒の担持量もある程度選択できる。また、予めガス拡散層に白金担持カーボンペーストが塗られた(株)ケミックス製触媒層付きガス拡散層(白金担持量0.5mg/cm2、カーボンペーパーは東レ(株)製TGP−H−060)の様な市販品も用いることもできる。
【0035】
上記膜電極接合体の製造法としても特に限定されるものではなく、熱加圧等により電極と高分子電解質膜とを一体化する等の従来公知の方法を採用すればよい。
本発明の燃料電池用電極は、上述したようにフレキシブルであるため、これをロール状に巻回することができる。
したがって、ロール状に巻回された本発明の燃料電池用電極と、同じくロール状に巻回された電解質膜とを連続的に熱圧着して膜電極接合体を製造することができる。この際、電解質膜の両面に本発明の燃料電池用電極を供給して熱圧着すれば、一工程で連続的に膜電極接合体を製造することができ、極めて効率的である。
【0036】
本発明に係る燃料電池は、上述した燃料電池用電極を用いるものであればよいが、好ましくは、電解質層と、その両側に配設されたアノード電極およびカソード電極からなる膜電極接合体、およびこの膜電極接合体の両側に配設された一対のセパレータからなる単位セルが複数個並設されてなる燃料電池における、カソード電極およびアノード電極の少なくとも一方に上述した本発明の燃料電池用電極を用いるものである。
ここで、セパレータとしては、カーボンセパレータ、ステンレス等の金属製セパレータなどが挙げられる。なおセパレータには、ガス流通用の溝が形成されていてもよい。
その他、電解質層等については、上述と同様である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、繊維径および不織布の厚みは以下の手法により測定した。また、透過型電子顕微鏡および電子顕微鏡測定に使用した装置は以下のとおりである。
(1)繊維径
電子顕微鏡(日本電子(株)、JSM−6701F)により観察し、任意の繊維50本の太さを測定し、平均を求めた。
(2)不織布の厚み
デジタルシックネスゲージ((株)テクロック製,SMD−565)を用いて、任意の10点を測定し、平均を求めた。
(3)透過型電子顕微鏡(TEM)
日本電子(株)製,JEM−2010を用いて観察した。
(4)電子顕微鏡(SEM)
日本電子(株)製,JSM−6701Fを用いて観察した。
【0038】
[製造例1]導電性フレキシブルカーボンナノファイバー不織布の製造
(1)ポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体の合成
アクリロニトリル(和光純薬工業(株)製)30.93g
メタクリル酸(和光純薬工業(株)製)4.07g
純水300ml
をフラスコに仕込み、窒素ガスをバブリングすることにより脱空気(酸素)を行った後、70℃に加熱し、ペルオキソ二硫酸カリウム(和光純薬工業(株)製)100mgを純水50mlに溶解した溶液を撹拌しながら投入した後、4時間撹拌を続けた。白濁した溶液をエバポレーターで濃縮して水を除去し、最後は真空乾燥して約20gのポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体を得た。
(2)電界紡糸溶液の作製
ポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体:3.5
フェノール樹脂(群栄化学工業(株)製,PSK−2320):3.0
Titanium(IV) butoxide(アルドリッチ社製):3.5
ジメチルホルムアミド(和光純薬工業(株)製、特級):90.0
の質量割合で混合溶解し、電界紡糸溶液を作成した。
(2)電界紡糸
上記で得られた電界紡糸溶液を、電界紡糸装置((株)フューエンス製,ESP−2300)にセットし、ニードル出口径0.5mm、印加電圧17kV、押出圧力7kPa、相対湿度50%(25℃)で電界紡糸することで、繊維径約600nmの長繊維が30μmの厚みで積層されたナノファイバー不織布を得た。
【0039】
(3)硬化(不融化)処理
ナノファイバー不織布をオーブンに入れ、空気雰囲気中で室温から250℃まで1.5時間掛けて昇温し、さらに250℃で1時間放置することで、硬化処理をした。
(4)焼成(炭化処理)
硬化処理後のナノファイバー不織布を、以下の条件で炭化処理し、導電性カーボンナノファイバー不織布を得た。
昇温速度:10℃/min
保持温度:1,500℃
保持時間:60min
窒素流量:5L/min
得られた導電性カーボンナノファイバー不織布を電子顕微鏡で観察し、繊維同士が融解して接合していないことを確認した。繊維径は、約500nmであった。不織布の厚みは、20μmであった。
この不織布(試料の大きさ:10cm×10cm)は、二つ折りにして二枚のステンレス板にはさみ、98kPa(1kgf/cm2)の加重をかけても破断しない、フレキシブルなものであることを確認した。
【0040】
[実施例1]
(1)還元法−白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布の作製
ヘキサクロロ白金(IV)酸・六水和物(アルドリッチ社製)133mg、ポリアクリル酸(アルドリッチ社製)2mg、および水865mgを試験管内に計り取り、室温で約1時間、溶解するまで撹拌した。この溶液に、エタノール(和光純薬工業(株)製)1,000mgを加え、均一に混ざるまで撹拌した(白金換算25mg/ml)。
一方、製造例1で得られた導電性フレキシブルカーボンナノファイバー不織布25cm2(5cm□)を耐熱性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シート上に置き、先に調製した溶液500mgをスポイトで垂らして満遍なく染み込ませた。
溶液を染み込ませた不織布はPTFEシート上に載せたままオーブンで、空気雰囲気中、約3℃/minの昇温速度で550℃になるまで熱処理し、導電性フレキシブルカーボンナノファイバー表面に白金粒子を担持させた。担持後の質量増加は12.5mgであったので、白金が0.5mg/cm2担持されていることがわかった。
得られた白金担持カーボンナノファイバー不織布の構造をTEMにて観察した結果を図1に示す。図1に示されるように、カーボンナノファイバーの表面に粒径2〜10nmの白金粒子が担持されていることがわかった。
【0041】
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
10%ナフィオン(登録商標)溶液(アルドリッチ社製)をエタノールで5%に希釈した溶液500μlを、上記(1)で得られた白金担持ナノファイバー不織布(25cm2、厚み20μm)へ満遍なく滴下して吸収させ、風乾した。この不織布から2.5cm□を2枚切り出し、電解質膜である5cm□のナフィオン(登録商標)膜(デュポン社製,NRE−212CE)の中央両面に配置し、PTFEシートで保護しながら、200kPa、160℃でプレスし、白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布(アノード電極)/電解質膜/白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布(カソード電極)の3層構造のMEAを作製した。
【0042】
[実施例2]
(1)アークプラズマ(以下、AP)法−白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
製造例1で得られた導電性フレキシブルカーボンナノファイバー不織布25cm2(5cm□)をアークプラズマ成膜装置((株)アルバック製,APD−P)にセットし、蒸着源を白金とし、放電電圧400V、コンデンサ容量50μF、放電周波数1Hz、ショット数500で白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を得た。その質量増は、12.5mgであったので、白金が0.5mg/cm2担持されていることがわかった。
得られた白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布の構造をTEMにて観察した結果を図2に示す。図2に示されるように、粒径2〜10nmの白金粒子がカーボンナノファイバー表面一面に担持されていることがわかった。
【0043】
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
アークプラズマ法で作製した白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布をアノード、カソード両極とした以外は、実施例1と同様にして3層構造のMEAを作製した。
【0044】
[実施例3]カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
(実施例3−1)
(1)Fe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
製造例1(1)に記載した方法で得られたポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体1.5g、塩化鉄・六水和物(和光純薬工業(株)製)1.5g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)1.5g、およびジメチルホルムアミド(和光純薬工業(株)製)20.5gを混合して2時間撹拌し、コーティング溶液を得た。
【0045】
続いて、製造例1で得られた導電性カーボンナノファイバー不織布を直径10cmの円形に切り、同径のガラスフィルター製ろ過器にセットした。これに、先に調製したコーティング溶液を流し込み、吸引ろ過してFe系カーボンアロイ触媒前駆体コート溶液を導電性ナノファイバー表面に均一にコートした。コートされた不織布を真空乾燥機に移し、60℃で真空乾燥した。
次に、コートされた不織布をオーブンに入れ、空気雰囲気中で室温から250℃まで1.5時間掛けて昇温し、さらに250℃で1時間放置することで、コート層の不融化処理をした。コート層を不融化した不織布を、窒素雰囲気中、昇温速度10℃/min、保持温度600℃、保持時間:60min、窒素流量:5L/minの条件でプレ焼成した。プレ焼成済み不織布を濃塩酸に漬けて鉄を取り除いた。その後、中和、水洗、乾燥し、窒素雰囲気中、昇温速度10℃/min、保持温度900℃、保持時間60min、窒素流量5L/minで本焼成し、Fe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を得た。
得られたFe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布の構造をSEMおよびTEMにて観察した結果を図3,4にそれぞれ示す。
図3に示されるように、繊維表面に触媒粒子が担持されていることが観察された。また、図4に示されるように、繊維表面にナノシェル構造(カーボンアロイ系触媒の活性構造)が観察された。
【0046】
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
10%ナフィオン(登録商標)溶液(アルドリッチ社製)をエタノールで5%に希釈した溶液500μlを、Fe系カーボンアロイ触媒担持カーボンナノファイバー不織布へ満遍なく滴下して吸収させ、風乾した。2.5cm□を1枚切り出し、5cm□のナフィオン(登録商標)膜(デュポン社製,NRE−212CE)の片面中央に配置し、カソード極面とした。
アノード極面を、実施例1で作製した0.5mg/cm2白金触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布とし、両面をPTFEシートで保護しながら、200kPa、160℃でプレスし、白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布(アノード電極)/電解質膜/Fe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布(カソード電極)の3層構造のMEAを作製した。
【0047】
(実施例3−2)
(1)Co系カーボンアロイ触媒担持カーボンナノファイバー不織布
製造例1(1)に記載した方法で得たポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体1.5g、塩化コバルト・六水和物(和光純薬工業(株)製)1.5g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)1.5g、およびジメチルホルムアミド(和光純薬工業(株)製)20.5gを混合して2時間撹拌し、コーティング溶液を得た。
【0048】
続いて、製造例1で得られた導電性カーボンナノファイバー不織布を直径10cmの円形に切り、同径のガラスフィルター製ろ過器にセットした。コーティング溶液を流し込み、吸引ろ過してCo系カーボンアロイ触媒前駆体コート溶液を導電性カーボンナノファイバー表面に均一にコートした。コートされた不織布を真空乾燥機に移し、60℃で真空乾燥した。コートされた不織布をオーブンに入れ、空気雰囲気中、室温から250℃まで1.5時間掛けて昇温し、さらに250℃で1時間放置することで、コート層の不融化処理をした。次いで、昇温速度:10℃/min、保持温度:900℃、保持時間:60min、窒素流量:5L/minの条件で本焼成した。焼成済み不織布を濃塩酸に漬けてコバルトを取り除いた後、中和、水洗、乾燥してCo系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を得た。
【0049】
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
Fe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布に換えて、Co系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を用いた以外は、実施例3−1(2)と同様にして3層構造のMEAを作製した。得られたMEAのカソード極面のSEM観察結果を図8に示す。
【0050】
(実施例3−3)
(1)PcFe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
製造例1(1)に記載した方法で得られたポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体1.5g、フタロシアニン鉄(和光純薬工業(株)製)1.5g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)1.5g、およびジメチルホルムアミド(和光純薬工業(株)製)20.5gを混合して2時間撹拌し、コーティング溶液を得た。
以降の処理は、実施例3−1(1)と同様にして、PcFe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を得た。
【0051】
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
Fe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布に換えて、PcFe系カーボンアロイ触媒担持カーボンナノファイバー不織布を用いた以外は、実施例3−1(2)と同様にして3層構造のMEAを作製した。
【0052】
(実施例3−4)
(1)PcCo系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
製造例1(1)に記載した方法で得られたポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体1.5g、フタロシアニンコバルト(和光純薬工業(株)製)1.5g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)1.5g、およびジメチルホルムアミド(和光純薬工業(株)製)20.5gを混合して2時間撹拌し、コーティング溶液を得た。
以降の処理は、実施例3−2(1)と同様にして、PcCo系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を得た。
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
Fe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布に換えて、PcCo系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を用いた以外は、実施例3−1(2)と同様にして3層構造のMEAを作製した。
【0053】
[実施例4]AP法−カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
(実施例4−1)AP法−Fe系
(1)Fe系触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
製造例1(1)に記載した方法で得られたポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体1.5g、2−メチルイミダゾール(和光純薬工業(株)製)1.5g、およびジメチルホルムアミド(和光純薬工業(株)製)22gを混合して2時間撹拌し、コーティング溶液を得た。
【0054】
製造例1で得られた導電性カーボンナノファイバー不織布を直径10cmの円形に切り、同径のガラスフィルター製ろ過器にセットした。これにコーティング溶液を流し込み、吸引ろ過してカーボン系触媒前駆体コート溶液を導電性ナノファイバー表面に均一にコートした。コートされた不織布を真空乾燥機に移し、60℃で真空乾燥した。
続いて、蒸着源を鉄にした以外は、実施例2と同様にして真空乾燥後の不織布に鉄を蒸着させ、鉄微粒子高分散カーボンナノファイバー不織布を得た。
この不織布に、実施例3−1(1)に記載のコート層不融化処理以降の処理を施すことにより、AP法で作製したFe系触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を得た。
【0055】
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
Fe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布をAP法で作製したFe系触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布に換えた以外は、実施例3−1(2)と同様にして3層構造のMEAを作製した。
【0056】
(実施例4−2)Ap法−Co系
(1)Co系触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
蒸着源をコバルトにした以外は、実施例4−1(1)と同様の処理をコート層不融化処理の前まで行い、カーボン系触媒前駆体コートコバルト粒子高分散カーボンナノファイバー不織布を得た。
この不織布に、実施例3−2(1)に記載のコート層不融化処理以降の処理を施すことにより、AP法で作製したCo系触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を得た。
【0057】
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
Fe系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布に換えて、Ap法で作製したCo系カーボンアロイ触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を用いた以外は、実施例3−1(2)と同様にして3層構造のMEAを作製した。
【0058】
[比較例1]5層構造MEA
市販の触媒層付きガス拡散層(白金担持量0.5mg/cm2,(株)ケミックス製、カーボンペーパーは東レ(株)製TGP−H−060)を2.5cm□2枚を切り出し、3cm□ナフィオン(登録商標)膜の両面中央に、触媒層とナフィオン(登録商標)膜とが接するように配置し、200kPa、160℃でプレスし、ガス拡散層/触媒層/電解質膜/触媒層/ガス拡散層の5層構造のMEAを作製した。
【0059】
上記各実施例および比較例1で得られたMEAについて、下記手法にて燃料電池発電試験を行った。
〈燃料電池発電試験〉
燃料電池評価システム((株)東陽テクニカ製,AutoPEMNSB−01)にて電池温度80℃、相対湿度100%、水素、酸素ともに1ml/min、排圧50kPaで評価した。電流密度と電圧との関係を図5に、電流密度と抵抗との関係を図6に示す。
【0060】
図5に示されるように、本発明のMEAは、従来の白金担持カーボンから成る触媒層とガス拡散層の組み合わせからなる比較例1の5層構造のMEAに比して、高い電流密度でも電圧が生じていることがわかった。これは、発生した水が速やかに系外へ排出されたため水が触媒を覆って燃料ガスが行き渡らない(フラッディング)現象が抑えられたことを示している。
また、同じ白金触媒を使った場合、導電性フレキシブルカーボンナノファイバー上に担持された場合の方が、高いOCV(開放電圧)および同じ電流密度においても常に高い電圧を示しており、触媒の利用効率、ガスの利用効率、電気伝達においても優れていることが示唆された。
【0061】
また、図6に示されるように、本発明のMEAは、従来の白金担持カーボンから成る触媒層とガス拡散層との組み合わせからなる比較例1の5層構造のMEAに比して、燃料電池の抵抗が非常に低いことがわかった。
従来のMEA(比較例1)より抵抗が低い要因は、(1)5層から3層になり層間が2面減ったこと(触媒層とガス拡散層の間)による接面抵抗の減少、(2)触媒から発生した電気がロスなく導電性フレキシブルカーボンナノファイバーへ伝えられ、(3)ナノファイバーを伝わって系外へ効率よく電気が導き出されたこと、などによるものと考えられる。
また、導電性の乏しいカーボンアロイ触媒からも効率よく電気が取り出されていることも示唆された。
上記図5,6の結果から、白金触媒の使用量が低減できる可能性を見出し、以下の比較実験を実施した。
【0062】
〈触媒使用量の比較実験〉
一般的に使用されている粒子状炭素材料をベースとした白金担持電極ペーストと本発明の触媒担持フレキシブルナノファイバー不織布での触媒利用効率を比較した。
なお、公正な比較のために、本発明の触媒担持フレキシブルナノファイバー不織布においてもガス拡散層を使用した。
【0063】
[実施例5]
(1)白金触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布
実施例1と同法で白金触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を作製する際に、ヘキサクロロ白金(IV)酸・六水和物の量を調節して白金担持量を調節し、白金が、それぞれ0.05mg/cm2、0.1mg/cm2、0.5mg/cm2で担持された3種類の白金触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を得た。なお、担持量は質量変化で確認した。
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
10%ナフィオン(登録商標)溶液(アルドリッチ社製)をエタノールで5%に希釈した溶液500μlを、上記(1)で得られた各担持量の白金担持ナノファイバー不織布(25cm2、厚み20μm)へ満遍なく滴下して吸収させ、風乾した。これらの不織布から2.5cm□を2枚切り出し、5cm□のナフィオン(登録商標)膜(デュポン社製,NRE−212CE)の片面中央に配置し、さらにその外側にカーボンペーパー(東レ(株)製,TGP−H−060)を配置した。また、ナフィオン(登録商標)膜の他方の面に白金触媒付きガス拡散層((株)ケミックス製、カーボンペーパーは東レ(株)製TGP−H−060)を配値し、PTFEシートで保護しながら、200kPa、160℃でプレスし、ガス拡散層/触媒層(アノード電極)/電解質膜/白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布/ガス拡散層(カソード電極)の5層構造のMEAを作製した。
【0064】
[比較例2]
(1)触媒ペーストの作製
UNPC40−II(石福金属興業(株)製,Pt39質量%担持カーボン)を秤量し、この白金担持カーボン量に対して、2倍量の水を加え、超音波混合器にてよく分散した。
次いで、白金担持カーボン量に対して、10倍量の5質量%ナフィオン(登録商標)溶液(デュポン社製)を加え、再び超音波混合器にて良く分散した。次いで、水と同量のイソプロピルアルコール(和光純薬工業(株)製)を加え、再び超音波混合器にてよく撹拌し、白金担持カーボンペーストを得た。
(2)触媒層の作製
PTFEシート上に、上記白金担持カーボンペーストをドクターブレード法で塗布した。この際に、単位面積当たりの白金量が、0.1mg/cm2または0.5mg/cm2になるように塗布厚を調整した。その後、乾燥させ触媒層とした。
また、白金量が0.05mg/cm2の触媒層は、PTFEシート上に形成した場合では薄すぎて乾燥中に割れが生じてしまったので、ガス拡散層であるカーボンペーパー(東レ(株)製,TPG−H−060)上へ、ドクターブレード法で直接塗布し、乾燥した。
(3)MEAの作製
上記で得られた白金量0.1mg/cm2または0.5mg/cm2の触媒層をPTFEシートごと2.5cm□に切り出し、触媒層面を5cm□のナフィオン(登録商標)膜(デュポン社製,NRE−212CE)の片面中央に転写し、その外側にーボンペーパー(東レ(株)製,TPG−H−060)を配置した。また、白金量0.05mg/cm2のものについてはカーボンペーパーごと2.5cm□に切り出し、ナフィオン(登録商標)膜の片面中央に配置した。
一方、ナフィオン(登録商標)膜の他方の面には、白金触媒付きガス拡散層((株)ケミックス製、カーボンペーパーは東レ(株)製TGP−H−060)を配置し、カーボンペーパーの外側をPTFEシートで保護しながら、200kPa、160℃でプレスし、ガス拡散層/触媒層(アノード電極)/電解質膜/白金担持カーボンペースト層/ガス拡散層(カソード電極)の5層構造のMEAを作製した。
【0065】
[比較例3]
使用した白金担持カーボンをTEC10V40E(田中貴金属工業(株)製,Pt40質量%担持カーボン)に変更した以外は、比較例2と同様にして、ガス拡散層/触媒層(アノード電極)/電解質膜/白金担持カーボンペースト層/ガス拡散層(カソード電極)の5層構造のMEAを作製した。
【0066】
上記実施例5および比較例2,3で得られたMEAについて、実施例1と同様の燃料電池発電試験を行った。白金担持量と電圧との関係を図7に示す。
図7に示されるように、いずれの担持量においても導電性フレキシブルカーボンナノファイバー表面に担持した場合の方が、触媒が効率よく使用されていることが示唆された。
【0067】
[比較例4]
特許文献5の実施例5には、カーボンナノファイバー前駆体を電界紡糸にてナノファイバー化し、これを2,950℃で焼成することで、導電性カーボンナノファイバー不織布を形成し、ついでこの片面にカーボンアロイ触媒前駆体溶液をスプレーし、900℃で焼成することで、不織布片面の表面繊維上にカーボンアロイ触媒を担持した例が記載されている。
そこで、本発明の燃料電池用電極およびMEAと比較するため、特許文献5の実施例5と同一の方法でカーボンアロイ触媒カーボンナノファイバーおよびMEAを作製し、得られたMEAのカソード電極面(カーボンアロイ触媒カーボンナノファイバー電極)をSEMにて観察した。その結果を図9に示す。
図9に示されるように、特許文献5の実施例5で得られたMEAでは、プレス加工の際にカーボンナノファイバー不織布の繊維が破壊し、すでに不織布の体を成していないこと、さらには、非常に短い短繊維までに崩壊し、一般的に用いられているカーボン粒子を積層した触媒層と同じ構造にまで至っていることがわかる。
この状態では、短繊維が触媒層から脱離してMEAの系外、すなわち、燃料ガス給排気系であるセパレータや、その溝に漏れ出し、触媒層の劣化を招くのみならず、燃料ガス供給溝を詰まらせる虞がある。
【0068】
一方、実施例3−2で作製したMEAのSEM観察結果(図8)に示されるように、フレキシブルなカーボンナノファイバーをMEAに用いた場合は、プレス加工後においても不織布の構造を保持していることがわかる。このことは、カソード電極において、繊維間の隙間を利用した、ガスの拡散、水蒸気の拡散、水の排出を効率化できていることを示唆している。
【0069】
[実施例6]カソード電極またはアノード電極への単独使用
実施例1で得られた白金触媒担持フレキシブルナノファイバー不織布を、カソード電極またはアノード電極に単独使用した場合の電池の性能評価を実施した。
(実施例6−1)カソード電極への単独使用
アノード電極を市販の触媒層付きガス拡散層・白金担持量0.5mg/cm2((株)ケミックス製、カーボンペーパーは東レ(株)製TGP−H−060)2.5cm□にした以外は、実施例1と同様にしてガス拡散層/触媒層(アノード電極)/電解質膜/白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布(カソード電極)の4層構造のMEAを作製した。
【0070】
(実施例6−2)アノード電極への単独使用
カソード電極を市販の触媒層付きガス拡散層・白金担持量0.5mg/cm2((株)ケミックス製、カーボンペーパーは東レ(株)製TGP−H−060)2.5cm□にした以外は、実施例1と同様にして白金担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布(アノード電極)/電解質膜/触媒層/ガス拡散層(カソード電極)の4層構造のMEAを作製した。
【0071】
上記実施例6−1,2で作製したMEAについて、実施例1と同様の方法で燃料電池の性能を評価した。結果を図10,11に示す。なお、比較のため、比較例1の結果も図10,11に併せて示している。
図10に示されるように、従来の5層構造のMEA(比較例1)と比較して、本発明の白金触媒担持フレキシブルナノファイバー不織布をカソード側のみに用いた場合、およびアノード側のみに用いた場合のいずれにおいても燃料電池の発電性能が向上することが明らかとなった。カソード側のみに用いた場合の方が、アノード側のみに用いた場合よりも発電性能が向上しているのは、カソード側特有の現象であるフラッディングを効果的に抑制したからだと考えられる。
【0072】
また、図11に示されるように、電流密度が1,500mA/cm2より低いところでは、従来の5層構造のMEA(比較例1)よりも、本発明の白金触媒担持フレキシブルナノファイバー不織布をカソード側のみに、またはアノード側のみに用いたMEAの方が、低抵抗となっていることがわかる。アノード側では水が発生しないため、本発明の白金触媒担持フレキシブルナノファイバー不織布をアノード側のみに用いた場合にはフラッディング抑制の効果はないが、その場合であっても、従来の5層構造のMEAよりも抵抗値が低くなっていることがわかる。
以上説明したとおり、MEAに本発明の触媒担持フレキシブルカーボンナノファイバー不織布を用いた場合に燃料電池の性能が向上することがわかる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界紡糸可能な高分子物質と、この高分子物質とは異なる有機化合物と、遷移金属とを含む組成物を電界紡糸して得られた不織布を炭素化してなるフレキシブル炭素繊維不織布、およびこの不織布を構成する炭素繊維表面に担持された燃料電池用触媒から構成されることを特徴とする、ガス拡散作用と電極触媒作用とを併せ持つ燃料電池用電極。
【請求項2】
前記燃料電池用触媒が、金属触媒またはカーボンアロイ触媒である請求項1記載の燃料電池用電極。
【請求項3】
電解質層と、その両側に配設されたアノード電極およびカソード電極からなる膜電極接合体において、
前記アノード電極およびカソード電極の少なくとも一方が、請求項1または2記載の燃料電池用電極から構成されることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項4】
前記カソード電極が、請求項1または2記載の燃料電池用電極から構成される請求項3記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記アノード電極およびカソード電極が、請求項1または2記載の燃料電池用電極から構成される請求項3記載の膜電極接合体。
【請求項6】
電解質層と、その両側に配設されたアノード電極およびカソード電極からなる膜電極接合体、およびこの膜電極接合体の両側に配設された一対のセパレータからなる単位セルが複数個並設されてなる燃料電池において、
前記カソード電極およびアノード電極の少なくとも一方が、請求項1または2記載の燃料電池用電極から構成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
前記カソード電極が、請求項1または2記載の燃料電池用電極から構成される請求項6記載の燃料電池。
【請求項8】
前記アノード電極およびカソード電極が、請求項1または2記載の燃料電池用電極から構成される請求項6記載の燃料電池。
【請求項9】
請求項1または2記載の燃料電池用電極を備える膜電極接合体。
【請求項10】
請求項1または2記載の燃料電池用電極を備える燃料電池。
【請求項1】
電界紡糸可能な高分子物質と、この高分子物質とは異なる有機化合物と、遷移金属とを含む組成物を電界紡糸して得られた不織布を炭素化してなるフレキシブル炭素繊維不織布、およびこの不織布を構成する炭素繊維表面に担持された燃料電池用触媒から構成されることを特徴とする、ガス拡散作用と電極触媒作用とを併せ持つ燃料電池用電極。
【請求項2】
前記燃料電池用触媒が、金属触媒またはカーボンアロイ触媒である請求項1記載の燃料電池用電極。
【請求項3】
電解質層と、その両側に配設されたアノード電極およびカソード電極からなる膜電極接合体において、
前記アノード電極およびカソード電極の少なくとも一方が、請求項1または2記載の燃料電池用電極から構成されることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項4】
前記カソード電極が、請求項1または2記載の燃料電池用電極から構成される請求項3記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記アノード電極およびカソード電極が、請求項1または2記載の燃料電池用電極から構成される請求項3記載の膜電極接合体。
【請求項6】
電解質層と、その両側に配設されたアノード電極およびカソード電極からなる膜電極接合体、およびこの膜電極接合体の両側に配設された一対のセパレータからなる単位セルが複数個並設されてなる燃料電池において、
前記カソード電極およびアノード電極の少なくとも一方が、請求項1または2記載の燃料電池用電極から構成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
前記カソード電極が、請求項1または2記載の燃料電池用電極から構成される請求項6記載の燃料電池。
【請求項8】
前記アノード電極およびカソード電極が、請求項1または2記載の燃料電池用電極から構成される請求項6記載の燃料電池。
【請求項9】
請求項1または2記載の燃料電池用電極を備える膜電極接合体。
【請求項10】
請求項1または2記載の燃料電池用電極を備える燃料電池。
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−33320(P2012−33320A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170291(P2010−170291)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】
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