説明

燃料電池用電解質膜及び燃料電池用電解質膜・電極接合体の製造方法

【解決手段】樹脂に紫外線を照射した後、ラジカル重合性モノマーと接触させ、光重合開始剤を使用せずにグラフト重合させることを特徴とする燃料電池用電解質膜の製造方法。
【効果】本発明の燃料電池用電解質膜は、紫外線照射グラフト重合法により得られる燃料電池用電解質膜であって、優れた耐酸化性と機械特性を兼ね備えたもので、この電解質膜を用いることで、非常に高性能の燃料電池とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐過酸化水素特性に優れた固体高分子型燃料電池用電解質膜及び燃料電池用電解質膜・電極接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池用電解質膜を用いた燃料電池は、作動温度が100℃以下と低く、そのエネルギー密度が高いことから、電気自動車の電源や簡易補助電源として広く実用化が期待されている。この固体高分子型燃料電池においては、電解質膜、白金系の触媒、ガス拡散電極、及び電解質膜と電極の接合体等に関する重要な要素技術があり、この中でも、電解質膜及び電解質膜と電極の接合体に関する技術は、燃料電池としての特性に関与する最も重要な技術の一つである。
固体高分子型燃料電池においては、電解質膜の両面に燃料拡散電極と空気拡散電極が複合されており、電解質膜と電極とは実質的に一体構造になっている。このため、電解質膜はプロトンを伝導するための電解質として作用し、また、加圧下においても燃料である水素やメタノールと、酸化剤である空気又は酸素とを直接混合させないための隔膜としての役割も有する。
このような電解質膜としては、電解質としてプロトンの移動速度が大きく、イオン交換容量が高いこと、電気抵抗を低く保持するために保水性が一定かつ高いことが要求される。一方、隔膜としての役割から、膜の力学的な強度が大きいこと、及び寸法安定性に優れていること、長期の使用に対する化学的な安定性に優れていること、燃料である水素ガスやメタノール、酸化剤である酸素ガスに対して過剰な透過性を有しないこと等が要求される。
【0003】
現在主に、デュポン社によって開発されたフッ素樹脂系のパーフルオロスルホン酸膜「ナフィオン(登録商標)」等が一般に用いられているが、「ナフィオン(登録商標)」等の従来のフッ素樹脂系電解質膜は、モノマーの合成から出発しなくてはならないために製造工程が多く、コスト高になるという問題があり、このことが実用化する場合の大きな障害になっている。
そこで、前記「ナフィオン(登録商標)」等に代わる低コストの電解質膜を開発する努力が行われている。放射線グラフト重合法では、フッ素樹脂系の膜に放射線を照射し、フッ素樹脂にラジカル活性点を生成させ、そこに炭化水素系の反応性モノマーをグラフトさせ、スルホン化することにより、固体高分子電解質膜を作製する方法が、特開2002−313364号公報(特許文献1)、特開2003−82129号公報(特許文献2)で提案されている。
しかし、炭化水素系反応性モノマーを放射線グラフト重合法によりグラフト重合した膜は、高グラフト率が得られることにより、高プロトン伝導度は得られるものの、耐酸化性に乏しいという問題があった。
また、従来放射線グラフト重合法に用いられる放射線は、電子線やγ線であり、紫外線は炭化水素系樹脂に対して用いられた報告があるものの、C−F結合よりなるフッ素樹脂に対しては紫外線照射ではグラフト重合反応が起こらないと思われていた。
【特許文献1】特開2002−313364号公報
【特許文献2】特開2003−82129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐酸化性、及び機械的特性に優れた燃料電池用電解質膜及び燃料電池用電解質膜・電極複合体の低コストな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、樹脂に紫外線を照射し、ラジカル重合性モノマーをグラフト重合させて得られる電解質膜が、優れた耐酸化性を有すると共に、良好な伸び、強度を有し、燃料電池用として有用な電解質膜が製造できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0006】
従って、本発明は、下記の燃料電池用電解質膜及び燃料電池用電解質膜・電極接合体の製造方法を提供する。
[I]樹脂に紫外線を照射した後、ラジカル重合性モノマーと接触させ、光重合開始剤を使用せずにグラフト重合させることを特徴とする燃料電池用電解質膜の製造方法。
[II]樹脂に紫外線を照射しながらラジカル重合性モノマーと接触させ、光重合開始剤を使用せずにグラフト重合させることを特徴とする燃料電池用電解質膜の製造方法。
[III]樹脂がフッ素系樹脂であることを特徴とする[I]又は[II]記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
[IV]フッ素系樹脂が、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂(FEP)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)、四フッ化エチレン−エチレン共重合樹脂(ETFE)、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)から選ばれる少なくとも1種である[III]記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
[V]フッ素系樹脂が四フッ化エチレン−エチレン共重合樹脂(ETFE)であることを特徴とする[IV]記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
[VI]樹脂が芳香族炭化水素系樹脂であることを特徴とする[I]又は[II]記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
[VII]芳香族炭化水素系樹脂がポリエーテルエーテルケトン(PEEK)であることを特徴とする[VI]記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
[VIII]ラジカル重合性モノマーがスチレン、トリフルオロスチレン及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする[I]〜[VII]記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
[IX][I]〜[VIII]記載の方法により燃料電池用電解質膜を得た後、この電解質膜の両面にそれぞれ第一の電極と第二の電極とを接合することを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の燃料電池用電解質膜は、紫外線照射グラフト重合法により得られる燃料電池用電解質膜であって、優れた耐酸化性と機械特性を兼ね備えたもので、この電解質膜を用いることで、非常に高性能の燃料電池とすることができる。また、高価な光重合開始剤を使わないので、低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明につき更に詳細に説明すると、本発明の燃料電池用電解質膜の製造方法は、紫外線を照射した樹脂に、反応性モノマーをグラフト重合させることにより行うものである。
ここで、使用される樹脂としては、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂(FEP)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)、四フッ化エチレン−エチレン共重合樹脂(ETFE)、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)等のフッ素系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の芳香族炭化水素系樹脂が例示され、これらの1種を単独で又は2種以上を併用して使用することができる。その形状は、シート状、フィルム状、板状とすることができる。
【0009】
本発明においては、上記樹脂に、イオン交換基、もしくはイオン交換基が導入可能なラジカル重合性モノマーを紫外線の照射により光重合開始剤を使用せずにグラフト重合させることにより、燃料電池用電解質膜を得るものである。この場合、樹脂に予め紫外線を照射して、グラフトの起点となるラジカルを生成させた後、樹脂をモノマーと接触させてグラフト反応を行う前照射法と、モノマーと樹脂の共存下に紫外線を照射する同時照射法とがあるが、本発明においては、いずれの方法をも採用できる。
【0010】
樹脂に対する紫外線照射条件としては、適宜選定されるが、波長100〜600nm、特に200〜400nmの紫外線を照射強度2,000〜4,000W/m2、特に4,000W/m2において10〜60分、特に20〜30分程度照射することが好ましい。
なお、紫外線を照射するときの温度が高くなると、活性点の消滅が起こり易いので、照射時の温度は室温乃至それ以下が好ましく、20〜40℃とすることがよい。
更に、紫外線の照射は、ヘリウム、窒素、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で行うのが好ましく、該ガス中の酸素濃度は100ppm以下、特に50ppm以下が好ましいが、必ずしも酸素不在下で行う必要はない。
【0011】
本発明の燃料電池用電解質膜において、樹脂に紫外線を照射してグラフト重合させるラジカル重合性(反応性)モノマーとしては、イオン交換基を有する、又はイオン交換基が導入可能なモノマーであれば特に制限なく使用できるが、炭化水素系反応性モノマー及びフッ素含有炭化水素系反応性モノマーから選ばれる1種又は2種以上を使用することが好適である。
ここで、グラフトする炭化水素系反応性モノマーとしては、単独重合性があり、かつ、イオン交換性の官能基を有するか、もしくは、イオン交換性の官能基を有さないが、化学反応を利用してイオン交換性の官能基を付与することが可能な炭化水素系反応性モノマーが好適である。
この場合、イオン交換性の官能基としては、フェノール性水酸基、カルボン酸基、アミン基、スルホン酸基等が挙げられる。また、アシルオキシ基、エステル基、酸イミド基等は、加水分解することによって定量的にフェノール性水酸基、スルホン酸基等のイオン交換性の官能基に変換できるので、これらの基を有するモノマーも使用することができる。
【0012】
イオン交換性の官能基を有する炭化水素系反応性モノマーの具体例としては、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、ヒドロキシオキシスチレン、アシルオキシスチレン、ビニルエステル、ビニルスルホン酸エステル、スチレンカルボン酸、アルキルスルホン酸スチレン、ビニルスルホン酸等が挙げられる。なお、上記エステル類としては、炭素数1〜10のアルキルエステルが好ましい。
また、イオン交換性の官能基を有さないが、化学反応を利用してイオン交換性の官能基を付与することが可能なモノマーを用いる場合は、まず、このイオン交換性の官能基を有しない反応性モノマーでグラフト重合を行った後、化学反応を利用してスルホン化等を行うことで、イオン交換性の官能基を付与することができる。イオン交換性の官能基を有さないが、化学反応を利用してイオン交換性の官能基を付与することが可能な炭化水素系反応性モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ヒドロキシスチレン等を用いることができる。なお、上記反応性モノマーにスルホン酸基を導入するには、硫酸、発煙硫酸等のスルホン化剤を反応させることにより行うことができる。
更に、必要に応じて、ジビニルベンゼン等のビニル基を複数有するモノマー等の架橋性モノマーを、上記反応性モノマーに対して0.1〜15mo1%混合することができる。このように架橋性モノマーを併用することで、グラフト鎖中に架橋構造を導入することができる。
【0013】
また、フッ素含有炭化水素系反応性モノマーとしては、上述した炭化水素系反応性モノマーと同様のイオン交換性の官能基を有するか、もしくは、イオン交換性の官能基を有さないが、化学反応を利用してイオン交換性の官能基を付与することが可能なフッ素含有炭化水素系モノマーが好適に使用される。なお、このフッ素含有炭化水素系反応性モノマーにおいて、加水分解によりイオン交換性の官能基に変換可能な官能基としては、−SO2F、−SO2NH2、−COOH、−CN、−COF、−COOR(Rは炭素数1〜10のアルキル基)等が挙げられ、これら官能基は、加水分解によりスルホン基、カルボン酸基を容易に与えることができるので、好適である。
【0014】
フッ素含有炭化水素系反応性モノマーとして具体的には、下記化合物を例示することができる。
トリフルオロビニルスルホニルハライド
CF2=CFSO2X(X:−F又は−Cl)
トリフルオロビニルエーテルスルホニルハライド
CF2=CF−O−SO2X(X:−F又は−Cl)
パーフルオロアリルフルオロスルファイド
CF2=CFCF2−O−SO2
パーフルオロビニルエーテルスルホニルフロライド
CF2=CF−O−CF2CF(CF3)O(CF22SO2
トリフルオロスチレン
CF2=CFC65
トリフルオロアクリレート
CF2=CFCOOR(R:−CH3又は−C(CH33
【0015】
ここで、紫外線を照射した樹脂にそれぞれグラフトするラジカル反応性モノマーの使用量は、樹脂100質量部に対してラジカル反応性モノマーを1,000〜100,000質量部、特に4,000〜20,000質量部使用することが好ましい。ラジカル反応性モノマーが少なすぎると接触が不十分となる場合があり、多すぎるとラジカル反応性モノマーが効率的に使用できなくなるおそれがある。
【0016】
更に、本発明においては、グラフト反応時に溶媒を用いることができる。溶媒としては、反応性モノマーを均一に溶解するものが好ましく、例えばアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、n−ヘプタン、n−へキサン、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環族炭化水素、あるいはこれらの混合溶媒を用いることができる。
この場合、溶媒の使用量はモノマー/溶媒(質量比)は0.1〜9が望ましい。モノマー/溶媒(質量比)が9より大きいとグラフト鎖中のモノマーユニット数の調整が困難になり、0.1より小さいと、グラフト率が低くなりすぎる場合がある。特にモノマー/溶媒(質量比)は1〜4であることが好ましい。
【0017】
本発明においては、グラフト重合を行う際の反応雰囲気中の酸素濃度を0.05〜5%(体積%、以下同様)に調整することが好ましい。反応雰囲気中の酸素は、系内のラジカルと反応し、カルボニルラジカルやパーオキシラジカルとなり、それ以上の反応を抑制する作用を果たしていると考えられる。酸素濃度が0.05%未満であるとラジカル重合性モノマーが単独重合し、溶剤に不溶のゲルが生成するため、原料が無駄になると共に、ゲルの除去にも時間がかかり、酸素濃度が5%を超えるとグラフト率が低下する場合がある。望ましい酸素濃度は0.1〜3%であり、更に望ましい酸素濃度は0.1〜1%である。なお、酸素以外のガスとしては、窒素、アルゴン等の不活性ガスが使用される。
上記グラフト重合の反応条件としては、0〜100℃、特に40〜80℃の温度で、1〜40時間、特に4〜20時間の反応時間とすることが好ましい。
【0018】
上述したように、紫外線を照射した樹脂にラジカル反応性モノマーをグラフト重合させ、更に必要に応じてスルホン化等させることにより、固体高分子電解質膜を得ることができる。
スルホン化等、イオン交換性の官能基を付与する方法は上述した通りであり、クロロスルホン酸や発煙硫酸等のスルホン化剤と接触させてスルホン化すればよい。
【0019】
本発明に係わる燃料電池用電解質膜は、触媒が担持された第一の電極と第二の電極(燃料極と空気極)との間に両極に隣接して配置されて、燃料電池用の電解質膜・電極接合体として形成されるが、この電解質膜・電極接合体は、下記方法により製造することができる。
【0020】
上記燃料電池用電解質膜にアノード(燃料極)及びカソード(空気極)となる電極を接合するが、この揚合、電極は、多孔質支持体と触媒層とから形成される。多孔質支持体としては、カーボンペーパー、カーボンクロス等が好適に用いられる。また、触媒層は、微粒子触媒及びプロトン伝導性高分子電解質を含むものが好ましい。
この場合、微粒子触媒としては、白金族金属微粒子触媒、白金含有合金微粒子触媒が用いられる。白金族金属微粒子触媒としては、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム等が用いられ、白金含有合金微粒子触媒としては、例えば、白金とルテニウム、パラジウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、モリブデン、錫、コバルト、ニッケル、鉄、クロム等から選ばれる少なくとも1種の金属との合金等が挙げられる。この場合、白金含有合金としては、白金を5質量%以上、特に10質量%以上含有するものが好ましい。
【0021】
上記白金族金属微粒子触媒、白金含有合金微粒子触媒としては、粒子径(平均粒子径)が4nm以下、好ましくは1〜4nm、更に好ましくは2〜3.5nmのものを使用する。4nmを超える粒子径の触媒を用いると、比表面積が小さくなり、触媒活性が低下するという問題が生じる。なお、上記粒子径は、透過型電子顕微鏡の観察に基づくものである。
この場合、上記微粒子触媒としては、カーボンに担持されたものを使用することができ、市販品を使用することができる。
【0022】
上記微粒子触媒の触媒量は、各電極触媒層中、それぞれ0.05mg/cm2以上、好ましくは0.3mg/cm2以上であり、10mg/cm2以下、好ましくは5mg/cm2以下、より好ましくは1mg/cm2以下、更に好ましくは0.5mg/cm2以下である。触媒量が少なすぎると、触媒効果が十分得られず、多すぎると、触媒層が厚くなりすぎて出力が下がるおそれがある。
また、スルホン酸基を有するプロトン伝導性高分子電解質としては、Nafion(商品名、デュポン社製)に代表されるパーフルオロ系電解質、スチレンスルホン酸−ブタジエン共重合体に代表される炭化水素系電解質、スルホン酸基含有アルコキシシランと末端シリル化オリゴマーに代表される無機・有機ハイブリッド電解質等が好適に用いられる。
更に、電子導伝性向上の目的で触媒が担持されていないカーボン微粒子等を配合することができる。
なお、触媒層を形成する触媒ぺーストには、触媒ぺーストを電極及び/又は電解質膜に塗布する際に塗布性を向上する目的で溶剤を使用することも可能である。溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、エチレングリコール、グリセロール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、n−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族乃至脂環式炭化水素、水、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の極性溶剤が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中でもイソプロピルアルコール、水及びN,N−ジメチルホルムアミド等の極性溶剤が望ましい。
【0023】
また、触媒層中の多孔性を増し、水の移動を容易にするため、フッ素樹脂を加えることも可能である。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、三フッ化エチレン−エチレンコポリマー(ECTFE)等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、これらフッ素樹脂としては、GPCによるポリスチレン換算数平均分子量100,000〜600,000程度の市販品を用いることができる。
【0024】
上記成分の使用量は、広い範囲で選定し得るが、触媒粒子100質量部に対し、プロトン伝導性高分子電解質50〜200質量部、溶剤は0〜5,000質量部、特に100〜1,000質量部、フッ素樹脂成分は10〜400質量部、特に40〜130質量部の使用量とすることが好ましい。
上記触媒ペーストを上記電解質膜又は多孔質電極基材上に塗布し、ペースト中に溶剤を加えた場合は溶剤を除去し、常法によって触媒層を形成する。
【0025】
触媒層は、電解質膜及び電極基材の少なくとも一方に形成されるが、電解質膜の両面を電極基材で挟み、ホットプレスすることで膜・電極接合体を得ることができる。ホットプレス時の温度は、使用する電解質膜、又は触媒ペースト中の成分、フッ素樹脂の種類や配合比によって適宜選択されるが、望ましい温度範囲は50〜200℃、より望ましくは80〜180℃である。50℃未満であると接合が不十分であるおそれがあり、200℃を超えると電解質膜又は触媒層中の樹脂成分が劣化するおそれがある。加圧レベルに関しては、電解質膜及び/又は触媒ペースト中の成分、フッ素樹脂の種類や配合比、多孔質電極基材の種類によって適宜選択されるが、望ましい加圧範囲は1〜100kgf/cm2、より望ましくは10〜100kgf/cm2である。1kgf/cm2未満であると接合が不十分であるおそれがあり、100kgf/cm2を超えると触媒層や電極基材の空孔度が減少し、性能が劣化するおそれがある。
このようにして、電解質膜・電極接合体を製造することができる。
このように、本発明の電解質膜は、燃料電池の燃料極と空気極の間に設けられる固体高分子電解質膜として使用できるものであり、固体高分子電解質膜の両面に触媒層・燃料拡散層及びセパレータを配置することで、特にダイレクトメタノール型燃料電池用電解質膜として好適に使用されて、電池特性に優れた燃料電池を得ることが可能である。なお、燃料極、空気極の構成、材質、燃料電池の構成は公知のものとすることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、以下の例において配合量はいずれも質量部である。
【0027】
[実施例1]
ETFEフィルム(厚さ25μm、6×5cm角、質量0.13部)に、紫外線(UV)照射装置(アイグラフィックス(株)製)により窒素雰囲気中室温で波長360nmの紫外線を20分間照射した(照射強度4,000W/m2)。予め窒素によるバブリングにより酸素を除去したスチレン16部、イソプロピルアルコール4部が仕込んである溶液中にフィルムを浸漬させ、80℃で16時間加熱し、グラフト重合した結果、グラフト率は38%であった。なお、グラフト化の雰囲気は、酸素濃度0.01%の窒素雰囲気とした。
上記グラフト重合したフィルムを0.2mol%クロロスルホン酸/ジクロロエタン混合液に浸漬し、50℃で6時間加熱後、純水中に60℃一晩浸漬し、加水分解することで、スルホン酸基を含有する固体高分子電解質膜を得た。得られた固体高分子電解質膜の室温におけるプロトン伝導度を測定した結果、0.14S/cmであった。また、3%過酸化水素水溶液に80℃、10時間浸漬させた後の膜重量減少率は10%であった。
【0028】
[比較例1]
ETFEフィルムに電子線を2kGy照射したETFEフィルムにグラフト重合した以外は実施例1と同様の操作を行った。グラフト率は40%、プロトン伝導度は0.14S/cm、3%過酸化水素水溶液に80℃、10時間浸漬させた後の膜重量減少率は40%であった。
【0029】
[実施例2]
PEEKフィルム(厚さ50μm、6×5cm角、質量0.19部)を予め窒素によるバブリングにより酸素を除去したスチレン16部、イソプロピルアルコール4部が仕込んである溶液中にフィルムを浸漬させ、波長360nm、照射強度4,000W/m2の紫外線を室温で10時間照射し、グラフト重合した結果、グラフト率は11.3%であった。なお、グラフト化の雰囲気は酸素濃度0.01%の窒素雰囲気とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂に紫外線を照射した後、ラジカル重合性モノマーと接触させ、光重合開始剤を使用せずにグラフト重合させることを特徴とする燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項2】
樹脂に紫外線を照射しながらラジカル重合性モノマーと接触させ、光重合開始剤を使用せずにグラフト重合させることを特徴とする燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項3】
樹脂がフッ素系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項4】
フッ素系樹脂が、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、四フッ化エチレン−エチレン共重合樹脂、フッ化ビニリデン樹脂から選ばれる少なくとも1種である請求項3記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項5】
フッ素系樹脂が四フッ化エチレン−エチレン共重合樹脂であることを特徴とする請求項4記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項6】
樹脂が芳香族炭化水素系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項7】
芳香族炭化水素系樹脂がポリエーテルエーテルケトンであることを特徴とする請求項6記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項8】
ラジカル重合性モノマーがスチレン、トリフルオロスチレン及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1〜7記載の燃料電池用電解質膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8記載の方法により燃料電池用電解質膜を得た後、この電解質膜の両面にそれぞれ第一の電極と第二の電極とを接合することを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極接合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−226833(P2008−226833A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31200(P2008−31200)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】