説明

燃料電池発電システム

【課題】簡便で効率よく連続的且つ安定的に燃料電池の発電を維持できる燃料電池発電システムを提供する。
【解決手段】酸素を還元する正極と、水素を酸化する負極と、正極と負極との間に配置された固体高分子電解質膜とを有する電極・電解質一体化物100を含む燃料電池1と、燃料電池1に供給するための水素を製造する水素製造装置2と、充放電可能な二次電池4と、燃料電池1で発生された電力を昇圧して二次電池4に充電させる昇圧充電回路3と、を含む燃料電池発電システム300であって、燃料電池1の発電中に電極・電解質一体化物100の正極と負極とを短絡させる短絡部6を含み、短絡部6による短絡は、2〜60秒に1回の頻度で行われ、且つ1回の短絡時間が、0.05〜1秒であり、短絡部6による短絡を行っている間は、昇圧充電回路3を遮断させ、二次電池4からのみ外部に電力を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を燃料として発電する燃料電池と、上記燃料電池に供給するための水素を製造する水素製造装置とを含む燃料電池発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ、携帯電話などのコードレス機器の普及に伴い、その電源である電池は、ますます小型化、高容量化が要望されている。現在、エネルギー密度が高く、小型軽量化を図り得る二次電池としてリチウムイオン二次電池が実用化されており、ポータブル電源としての需要が増大している。しかし、このリチウムイオン二次電池は出力容量に限界があり、使用されるコードレス機器の種類によっては十分な連続使用時間を保証する程度までには至っていない。
【0003】
このような状況の中で、上記要望に応え得る電池の一例として、固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)が検討されている。燃料電池は、酸素及び燃料の供給さえ行えば連続的に使用することが可能である。正極と、負極と、電解質としての固体高分子電解質膜とからなる電極・電解質一体化物である膜・電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を備え、正極活物質に空気中の酸素、負極活物質に各種燃料を用いるPEFCは、リチウムイオン二次電池よりも高エネルギー密度化が期待できる電池として注目されている。
【0004】
一般的に、PEFCに用いられる固体高分子電解質膜は、分子中にプロトン(水素イオン)交換基を有し、固体高分子電解質膜内で数個の水分子を伴ってプロトンが伝導する。そのため、固体高分子電解質膜は、加湿された状態でプロトン伝導性電解質としての機能を発揮する。言い換えれば、固体高分子電解質膜の伝導性は膜の湿潤性に依存されるため、乾燥した反応ガスが供給され続けると、固体高分子電解質膜が乾燥して固体高分子電解質膜の伝導性が低下し、これに伴い、内部抵抗が増大してPEFCの出力特性が低下する。
【0005】
そこで、例えば特許文献1では、燃料電池に供給される酸素や水素といった反応ガスを加湿する加湿器を備え、加湿器の温度をPEFCの運転温度を基準として所定の温度差に維持する燃料電池発電システムが提案されている。この特許文献1に開示の技術によれば、固体高分子電解質膜の過度の乾燥や濡れを防止でき、容易且つ安定した燃料電池の始動を可能とする。
【0006】
また、特許文献2では、発電可能な状態で、PEFCの両極間に、1秒以内の時間で大電流を生じさせる電流制御のサイクルを繰り返し行う活性化工程を含む燃料電池の活性化方法が提案されている。この特許文献2に開示の技術によれば、PEFCを組み立て直後に作動させる場合や、または長時間未使用のまま放置したPEFCを再作動させる場合において電池性能を早期に引き出すことができる。
【0007】
また、特許文献3では、電気生成反応により電流を生成するセルと、上記セルと負荷とを電気的に連結して上記負荷への電流供給経路を形成する負荷回路と、上記セルを、上記負荷を経由しない電気的閉ループに連結するショート回路と、上記セルの温度を測定する温度センサと、上記温度センサの測定結果に応じ、上記セルで生成された電流を上記負荷回路とショート回路のいずれかに通電させるコントローラと、を備える燃料電池発電システムが提案されている。この特許文献3に開示の技術によれば、必要時にセルの温度を急速に加熱可能な燃料電池の活性化方法を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−288134号公報
【特許文献2】特開2010−272362号公報
【特許文献3】特開2008−103321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1では、反応ガスを加湿する加湿器が必要となるため、燃料電池発電システムの大型化が問題となり、ポータブル電源用途には不適である。
【0010】
また、特許文献2における燃料電池の活性化は、燃料電池の発電中は実施できず、燃料電池の活性化を行っている間は、外部に電力を供給できない。
【0011】
また、特許文献3では、燃料電池の温度に基づいて燃料電池の活性化を実施するかどうかを判別している。しかし、上述のように、燃料電池の出力特性は、固体高分子電解質膜の湿潤性に依存するため、加湿器等を用いずに燃料電池の発電を行うと、例えば環境温度または環境湿度などの使用条件によって、燃料電池が発電している最中にも固体高分子電解質膜が乾燥し、出力特性が低下する問題が考えられる。
【0012】
本発明は、上記問題を解消するためになされたものであり、簡便で効率よく、連続的且つ安定的に発電を維持できる燃料電池発電システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の燃料電池発電システムは、酸素を還元する正極と、水素を酸化する負極と、上記正極と上記負極との間に配置された固体高分子電解質膜とを有する電極・電解質一体化物を有する燃料電池と、上記燃料電池に供給するための水素を製造する水素製造装置と、充放電可能な二次電池と、上記燃料電池で発生された電力を昇圧して上記二次電池に充電させる昇圧充電回路と、を備えた燃料電池発電システムであって、上記燃料電池の発電中に上記電極・電解質一体化物の上記正極と上記負極とを短絡させる短絡部を備え、上記短絡部による上記短絡は、2〜60秒に1回の頻度で行われ、且つ1回の短絡時間が、0.05〜1秒であり、上記短絡部による上記短絡を行っている間は、上記昇圧充電回路を遮断させ、上記二次電池からのみ外部に電力を供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡便で効率よく、連続的且つ安定的に発電を維持できる燃料電池発電システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の燃料電池発電システムの一例を示す模式図である。
【図2】本発明の燃料電池発電システムに用いられる水素製造装置の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の燃料電池発電システムに用いられる水素消費装置の一例を示す模式図である。
【図4】実施例1の燃料電池発電システムに用いられる燃料電池を示す模式断面図である。
【図5】図5Aは、図4に示す燃料電池を構成する電極・電解質一体化物の平面図であり、図5Bは、図5Aの正面図である。
【図6】図4に示す燃料電池を構成する正極パネルプレートの平面図である。
【図7】図4に示す燃料電池を構成する正極端部集電プレートの平面図である。
【図8】図4に示す燃料電池を構成する正極集電プレートの平面図である。
【図9】図9Aは、図4に示す燃料電池を構成する正極絶縁プレートの平面図であり、図9Bは、図9AのI−I線断面図である。
【図10】図10Aは、図4に示す燃料電池における燃料タンク部の平面図であり、図10Bは、図10AのII−II線断面図であり、図10Cは、図10AのIII−III線断面図である。
【図11】図4に示す燃料電池におけるシール材の平面図である。
【図12】実施例1の燃料電池発電システムの構成を示す模式図である。
【図13】実施例5の燃料電池発電システムに用いられる燃料電池を示す外観斜視図である。
【図14】実施例5の燃料電池発電システムに用いられる燃料電池の要部分解図である。
【図15】図15Aは、図14に示す燃料電池を構成するセパレータの一例の平面図であり、図15Bは、図15AのIV−IV線断面図であり、図15Cは、図15Aの裏面図である。
【図16】図16Aは、図14に示す燃料電池を構成する電極・電解質一体化物の平面図であり、図16Bは、図16AのV−V線断面図である。
【図17】実施例5の燃料電池発電システムの構成を示す模式図である。
【図18】実施例5及び比較例4の燃料電池発電システムにおける燃料電池の発電試験結果を表すグラフである。
【図19】実施例5の燃料電池発電システムにおける燃料電池において、負極側末端のMEAの正極−負極間電圧の時間変化の一部を示すグラフである。
【図20】実施例6の燃料電池発電システムにおける燃料電池において、負極側末端のMEAの正極−負極間電圧の時間変化の一部を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の燃料電池発電システムは、酸素を還元する正極と、水素を酸化する負極と、上記正極と上記負極との間に配置された固体高分子電解質膜とを有する電極・電解質一体化物を有する燃料電池と、上記燃料電池に供給するための水素を製造する水素製造装置と、充放電可能な二次電池と、上記燃料電池で発生された電力を昇圧して上記二次電池に充電させる昇圧充電回路と、を備えた燃料電池発電システムであって、上記燃料電池の発電中に上記電極・電解質一体化物の上記正極と上記負極とを短絡させる短絡部を備え、上記短絡部による上記短絡は、2〜60秒に1回の頻度で行われ、且つ1回の短絡時間が、0.05〜1秒であり、上記短絡部による上記短絡を行っている間は、上記昇圧充電回路を遮断させ、上記二次電池からのみ外部に電力を供給することを特徴とする。これにより、燃料電池の発電中に燃料電池の活性化を実施できるとともに、燃料電池の活性化中に外部に電力を供給できるため、従来のように反応ガスを加湿する加湿器を必要とすることなく、簡便で効率よく、連続的且つ安定的に発電を維持できる。
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0018】
(燃料電池発電システム)
図1に、本発明の実施形態にかかる燃料電池発電システムの概略構成図を示す。
【0019】
本実施形態の燃料電池発電システム300は、燃料電池1、水素製造装置2、昇圧充電回路3、二次電池4、圧力センサ7、パージバルブ8、水素消費装置9、制御部10、温度センサ11、湿度センサ12、計時部としてのリアルタイムクロック13、及びスイッチ16を備えている。燃料電池1と水素製造装置2とは、燃料供給管14を介して連結されている。また、燃料電池1には、燃料排出管15が接続されており、燃料排出管15の途中に、パージバルブ8、水素消費装置9が配置されている。
【0020】
燃料電池1は、電気的に直列に接続された複数の電極・電解質一体化物(MEA)100を有し、水素を燃料源として発電する。MEA100は、酸素を還元する正極と、水素を酸化する負極と、上記正極と上記負極との間に配置された固体高分子電解質膜とを有する。
【0021】
燃料電池1を構成する各MEA100には、燃料電池1の発電中にMEA100の正極と負極とを短絡させる短絡部6が設けられている。本実施形態の燃料電池発電システム300は、短絡部6により所定の短絡頻度及び短絡時間においてMEA100の正極と負極とを短絡させ、スイッチ16をオフにして昇圧充電回路3を遮断させ、二次電池4からのみ電力を外部に供給する。これにより、燃料電池の発電中に燃料電池の活性化を実施できるとともに、燃料電池の活性化中に外部に電力を供給できるため、燃料電池に供給される酸素や水素といった反応ガスを加湿する加湿器を必要とせず、簡便で効率よく、連続的且つ安定的に発電を維持できる。燃料電池の発電中にMEAの正極と負極とを短絡させるにより連続的且つ安定的に発電を維持できる理由については不明であるが、短絡により燃料電池1内で生成した水が固体高分子電解質膜の湿潤性に影響を及ぼしているのではないかと推察される。
【0022】
短絡部6による短絡は、2〜60秒に1回の頻度で、且つ一回の短絡時間が、0.05〜1秒と設定できる。特に、4〜10秒に1回の頻度で行うことが好ましく、短絡部6による1回の短絡時間が、0.1〜0.5秒であることが好ましい。短絡の頻度が多い場合、あるいは短絡時間が長い場合、短絡による水素の消費量が増加し、燃料電池の出力が低下してしまう。一方、短絡の頻度が少ない場合、あるいは短絡時間が短い場合、上述した短絡の効果が薄い。そのため、上記短絡の頻度あるいは上記短絡時間は、上述の範囲内であることが好ましい。
【0023】
短絡部6の設置位置は、例えば、後述する図17(実施例5)に示すように、電気的に直列に接続された複数のMEAのうち、一方端(正極側末端)のMEAの正極と、他方端(負極側末端)のMEAの負極とを連結するように短絡部6を設けてもよいが、図1に示すように、各MEAに短絡部6を設ける方が好ましい。これは、各MEAに短絡部6を設けることにより、短絡による各MEAの正極−負極間の電圧降下の不均一化を抑制できるからである。
【0024】
短絡部6は、図1では、MEA100の正極に接続されるリード体と、MEA100の負極に接続されるリード体と、これらリード体を連結する抵抗6a及びスイッチ6bとからなる。抵抗6aとしては、例えば短絡を行う場合、MEA100の正極−負極間の電圧が0.1V以下となるような抵抗値を有するものを用いる。なお、抵抗6aを用いずにスイッチ6bのみを介して上記2つのリード体を連結してなるものを、短絡部6として用いることもできる。
【0025】
燃料電池1としては、公知のものを使用できるが、本出願人による特開2009−129608号公報、特開2010−135156号公報で開示された燃料電池を好適に用いることができる。
【0026】
水素製造装置2は、燃料電池1に水素を供給する水素供給源である。水素製造装置2の詳細な構成については後述する。
【0027】
昇圧充電回路3は、燃料電池1から供給された電力を昇圧して二次電池4に充電させる。二次電池4は、出力端子5を介して外部に電力を供給する。昇圧充電回路3及び二次電池4としては、周知のものを使用することでき、電力の充電機構としても、公知のものをそのまま使用できる。
【0028】
圧力センサ7は、燃料電池1の圧力を測定する。圧力センサ7の設置位置は、燃料電池1内の圧力を検出できれば特に限定されないが、燃料電池の圧力変動をすぐに察知するためには、図1に示すように、燃料供給管14の途中に設置するのが望ましい。
【0029】
パージバルブ8は、燃料排出管15内の途中で、且つ、燃料電池1と水素消費装置9との間に配置されており、制御部10からの制御に従って、開閉動作を行う。パージバルブ8を開くと、燃料電池1内のガスが燃料排出管15内に排出され、水素消費装置9に導入される。
【0030】
水素消費装置9は、燃料電池1から排出されてきたガスに含まれる水素を消費する。水素消費装置9としては、燃料電池1内の水素を消費できるものであれば特に制限はないが、例えば、MEAを有し、燃料電池に係るMEAによる発電と同じ機構により水素を消費する装置や、水素を酸化し得る触媒を有する装置などが挙げられる。水素消費装置9の詳細な構成については後述する。
【0031】
制御部10は、燃料電池1、昇圧充電回路3、圧力センサ7、パージバルブ8、温度センサ11、湿度センサ12、リアルタイムクロック13、及びスイッチ16に接続されており、検出された情報についての検出信号や制御信号のやりとりが行われる。そのため、制御部12はマイコン等のプログラミング可能な制御装置を用いることが好ましい。
【0032】
温度センサ11は、環境温度を計測するものである。湿度センサ12は、環境湿度を計測するためのものである。本発明の燃料電池発電システムにおける制御部10は、温度センサ11により検出された環境温度に基づいて、短絡時間及び/又は短絡頻度を制御することが好ましく、より好ましくは、温度センサ11により検出された環境温度及び湿度センサ12により検出された環境湿度に基づいて、短絡時間及び/又は短絡頻度を制御することである。これは、上述のように、燃料電池の出力特性は、固体高分子電解質膜の湿潤性に依存されるためである。環境温度または環境湿度などの条件によって、短絡時間及び/又は短絡頻度を制御することにより、より効率よく連続して安定した発電を行うことができる。具体的には、例えば、温度センサ11によって検出された環境温度が所定値(例えば、40℃)以上になると、短絡時間及び/又は短絡頻度を増加させる制御を行い、環境温度が所定値より低くなると、元の短絡時間及び短絡頻度に戻す。また、湿度センサ12によって検出された環境湿度が所定値(例えば、65℃)以下になると、短絡時間及び/又は短絡頻度を減少させる制御を行い、環境湿度が所定値より高くなると、元の短絡時間及び/又は短絡頻度に戻す。
【0033】
リアルタイムクロック13は、燃料電池発電システム300の駆動開始時刻及び駆動停止時刻を出力する計時部である。燃料電池を長期間使用せずに放置していると、固体高分子電解質膜が乾燥して、該燃料電池の使用の際に燃料電池の出力が低下する問題がある。そこで、本発明の燃料電池発電システムにおける制御部10は、リアルタイムクロック13により出力された前回駆動させたときの駆動停止時刻と今回駆動の際の駆動開始時刻との差が所定値(例えば、1ヶ月)を超える場合、所定時間の間、短絡時間及び/又は短絡頻度を増加させ、且つ燃料電池の出力電圧を下げる及び/又は燃料電池の出力電流を上げる制御を行うことにより、上記問題を解決する。なお、上記「所定時間」は、特に制限されないが、長期間放置された燃料電池が、当該燃料電池本来の出力に戻るまでに要する時間あるいは燃料電池の出力が安定するまでの時間として設定できる。例えば、30分と設定できる。
【0034】
燃料供給管14は、水素製造装置2で製造された水素を燃料電池1に供給するための燃料供給流路である。燃料排出管15は、燃料電池1内から排出された水素を外部に排出するための燃料排出流路である。
【0035】
ここで、本実施形態の燃料電池発電システム300が圧力センサ7及びパージバルブ8を備える理由について説明する。
【0036】
通常、燃料電池1による発電に伴って、燃料電池1の負極側にガス(発電に関与しなかった残留水素及び発電の際に正極側から拡散してくる不純ガスを含むガス)や生成水が蓄積し、燃料電池1内及び燃料供給管14内の圧力が上昇する。
【0037】
そこで、本実施形態では、圧力センサ7によって燃料電池1の負極側の圧力(ここでは、燃料供給管14内の圧力)を測定し、測定した圧力がある程度高まった時点でパージバルブ8を開き、上記のガスや生成水を燃料排出管15を介して外部に排出する。これにより、燃料電池1内の圧力を測定しながら適性に発電を行うことができるため、圧力が高くなりすぎて燃料電池1から水素が漏れ出たり、燃料電池1が破裂したりすることを抑制できる。また、燃料電池1の出力状態と圧力情報とを考慮して、出力を適正に維持できるように発電させることも可能となる。
【0038】
また、本実施形態では、パージバルブ8の開閉動作の制御は圧力センサ7により検出された圧力に基づいて行い、且つ圧力センサ7により検出された圧力が所定値を下回る場合、短絡部6による短絡を行わない。これは、燃料電池1内の圧力が低い状態で短絡を行うと、短絡条件や発電条件などによっては、燃料電池1を構成するMEA100の電圧が0V以下まで低下し、MEA100が劣化する虞があるからである。よって、短絡部6による短絡を行わないと判定するための基準値となる所定値は、燃料電池内の負極の圧力と外部の圧力(例えば大気圧)との差圧が3kPa以上とすること好ましい。
【0039】
圧力センサ7により検出された圧力が所定値を下回る場合、燃料電池1の出力電圧を上げる、または燃料電池1の出力電流を下げることが好ましい。これにより、燃料電池1が消費する水素量が減り、水素ガス圧力を高くすることができる。
【0040】
パージバルブ8の開閉動作の制御は、燃料電池1内の負極の圧力と外部の圧力(例えば大気圧)との差圧が5〜50kPaに達した段階で行うことが望ましい。差圧が5kPa未満で開く場合は、圧力差が小さすぎて水を排出する能力が低下し、差圧が50kPaを超えるまで開かない場合は、内圧が高くなりすぎてMEAを破損する虞が生じる。
【0041】
<水素製造装置>
図2は、本発明の燃料電池発電システムに用いられる水素製造装置2の一例を示す概略構成図である。本実施形態における水素製造装置2は、水素発生材料と水とを反応させて水素を製造する機構を有している。
【0042】
図2に示す水素製造装置2は、反応容器34、水収容容器35、ポンプ36、及び気液分離容器37を有している。反応容器34と水収容容器35は、水供給管38を介して連結されている。水収容容器35と気液分離容器37は、水回収管41を介して連結されている。反応容器34と気液分離容器37は、水素導出管39を介して連結されている。気液分離容器37は、水素導出管40を介して図1に示す燃料供給管14に連結されている。
【0043】
反応容器34は、水との発熱反応により水素を発生する水素発生物質を含む水素発生材料34aを収容している。この反応容器34に水収容容器35内の水35aが供給されると、反応容器34内で水素発生材料34aと水35aとが反応して水素が発生する。発生した水素は、水素導出管39、40を経て図1に示す燃料電池1に供給される。
【0044】
反応容器34としては、内部に水素発生材料34aを収納可能なものであれば、その材質や形状は特に限定されない。具体的な容器の材質としては、水及び水素を透過しにくく、且つ100℃程度に加熱しても容器が破損しない材質が好ましく、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂を用いることができる。また、容器の形状としては、角柱状、円柱状等が採用できる。
【0045】
水素発生材料34aと水35aとが反応することにより生じる反応生成物は、通常、水素発生材料34aよりも体積が大きい。そのため、反応容器34は、こうした反応生成物の生成に伴う内蔵物の体積膨張が生じた場合に破損してしまわないように、水素発生材料34aと水35aとの反応に応じて変形可能であることが好ましい。このような観点からは、反応容器34の材質としては、上記例示の材質の中でもPEやPP等の樹脂がより好ましい。
【0046】
水収容容器35は、水35aを収容している。水収容容器35としては、水を収容可能であれば、その材質や形状は特に限定されず、例えば、従来の水素製造装置に使用されているものと同様の水を収容するタンクなどが採用できる。
【0047】
反応容器34及び水収容容器35は脱着式とすることもできる。これにより、反応容器34内の水素発生材料34aが消費されつくしたり、水収容容器35内の水35aがなくなったりした場合に、これらを取り外し、水素発生材料が充填された反応容器34や水が充填された水収容容器35を新たに取り付けることで、再び水素製造を行うことが可能となる。
【0048】
ポンプ36は、水供給管38の途中に配置されており、水収容容器35内の水35aを水供給管38を介して反応容器34に送液する。ポンプ36としては、水の供給量(供給速度)を正確に調整でき、且つ水供給の開始又は停止を迅速にコントロールできるものであれば特に限定されず、例えば、チューブポンプ、ダイヤフラムポンプあるいはシリンジポンプ等が用いられる。
【0049】
気液分離容器37は、水素を含む気体(ガス)と液体とを含む気液混合流体を、重力差によって水素を含むガスと液体に分離するものである。この気液分離容器37は、反応容器34から図1の燃料電池1に水素を供給するための水素導出流路の途中(図2では、水素導出管39と水素導出管40との間)に配置されている。ところで、反応容器34内で水素発生材料34aと水35aとの反応により発生した水素を含むガスと共に、反応容器34内に存在する水素発生材料34aと反応しなかった水や水蒸気などの水分が水素導出管39に排出されることがある。この水分は、水素導出管39内で冷却され凝縮水となり、この凝縮水は重力によって気液分離容器37内で下部に落下し、気液分離容器37内で水素を含むガスと水とに分離される。分離された水素ガスは、水素導出管40などを通じて図1の燃料電池1に供給される。なお、気液分離容器37は必須のものではないが、気液分離容器37を設けた場合には、上述したように、燃料電池1に供給される水素を含むガス中の液体成分量を削減でき、水分が供給されることによる燃料電池1の不具合の発生を抑制できる。
【0050】
気液分離容器37としては、耐熱性及び耐腐食性に優れ、容器が変形しない不撓性材料からなるものであれば特に限定されないが、水や水素が漏れない材質や、50kPa程度の減圧及び加圧などの内圧変動に耐えうる構造がより好ましい。具体的な容器の材質としては、水及び水素を透過しにくく、かつ120℃程度に加熱しても容器が破損しない材質が好ましく、例えば、アルミニウム、鉄などの金属、アクリル樹脂、硬質のポリプロピレンやポリエチレンなどの樹脂を用いることができる。また、容器の形状としては、角柱状、円柱状、球状、半球状などが採用できる。
【0051】
また、図2では、気液分離容器37と水収容容器35とは、水回収管41を介して連結されているため、気液分離容器37で分離された水を水収容容器35に回収でき、水素発生のために供給する水の効率的な利用が可能となり、水収容容器35をよりコンパクトにすることができる。なお、気液分離容器37と水収容容器35とを連結する水回収管41の途中に、水を送液するためのポンプを設置してもよい。
【0052】
水収容容器35に収容される水35aは、中性の水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液など、少なくとも水を含む液体であればよく、使用する水素発生物質との反応性などに応じて好適なものを選択すればよい。
【0053】
反応容器34に収容される水素発生材料34aとしては、水と反応して水素を発生させる水素発生物質を含むものであれば特に制限はないが、水と120℃以下の低温で反応して水素を発生し得る水素発生物質を含むことが望ましい。
【0054】
水素発生材料34aに含まれる水素発生物質としては、水との反応により水素を発生するものであれば特に限定されないが、例えば、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウム及びこれらの元素を主体とする合金からなる群から選択される少なくとも1種の金属材料や、それら材料の水酸化物を用いることができる。なお、合金の場合には、主体となる元素以外の金属成分は特に限定されない。また、主体とは、合金全体に対して80重量%以上、より好ましくは、90重量%以上含有されている物質をいう。上記金属材料は、常温では水と反応しにくいが、加熱することにより水との発熱反応が容易となる物質である。なお、ここで「常温」とは、20〜30℃の範囲の温度である。
【0055】
このような金属材料は、少なくとも常温以上に加温された状態において、水と反応して水素を発生させることができる。しかし、表面に安定な酸化皮膜が形成されるため、低温下、あるいは、板状、ブロック状などのバルクの形状では、水素を発生しないか、又は水素を発生し難い材料である。ただし、酸化皮膜の存在により、空気中での取り扱いは容易である。
【0056】
また、その他の水素発生材料としては、金属水素化合物を用いることができる。例えば、水素化ホウ素ナトリウム又は水素化ホウ素カリウムなどが好ましく用いられる。これらの水素発生材料は、アルカリ水溶液中では比較的安定であるが、触媒が存在する場合、速やかに水と反応して水素を発生することができる。触媒としては、例えば、白金、ニッケルなどの金属や酸などを用いることができる。
【0057】
また、上記金属材料は、その平均粒径によって特に限定されないが、その平均粒径が0.1μm以上100μm以下とすることが好ましく、0.1μm以上50μm以下がより好ましい。上述したように、上記金属材料は、一般に、表面に安定な酸化皮膜が形成されている。そのため、板状、ブロック状及び粒径1mm以上のバルク状などの金属材料は、加熱しても水との反応が進行せず、実質的に水素を発生させない場合もある。しかし、金属材料の平均粒径を100μm以下とすると、酸化皮膜による水との反応抑制作用が減少し、常温では水と反応しにくいものの、加熱すれば水との反応性が高まり、水素発生反応が持続するようになる。また、金属材料の平均粒径を50μm以下とすると、40℃程度の穏和な条件でも水と反応して水素を発生させることができる。
【0058】
上記金属材料の平均粒径が50μmを超える場合であっても、金属材料が鱗片状であり、且つその厚みが5μm以下である場合には、水との反応性を高めて、より効率よく水素を生じさせることができ、特に金属材料の厚みが3μm以下の場合には、反応効率をより一層向上させることができる。
【0059】
一方、上記金属材料の平均粒径を0.1μm未満としたり、鱗片状の金属材料の厚みを0.1μm未満とすると、発火性が高くなって取り扱いが困難となったり、金属材料の充填密度が低下してエネルギー密度が低下しやすくなったりする。このような理由から、金属材料の平均粒径は0.1μm以上が好ましく、また、金属材料が鱗片状の場合には、その厚みは0.1μm以上が好ましい。
【0060】
上記金属材料の平均粒径は、体積基準の積算分率50%における粒子直径の値であるD50を意味する。平均粒径の測定方法としては、例えば、レーザ回折・散乱法などを用いることができる。より具体的には、水などの液相に分散させた測定対象物質にレーザ光を照射することによって検出される散乱強度分布を利用して粒子径分布を測定する。レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定装置としては、例えば、日機装社製の「マイクロトラックHRA(製品名)」などを用いることができる。
【0061】
また、上記鱗片状の金属材料の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することができる。
【0062】
さらに、上記金属材料の形状も特に限定されないが、例えば、略球状(真球状を含む)やラグビーボール状の他、上記の通り、鱗片状のものなどが挙げられる。略球状やラグビーボール状などの場合には上記した平均粒径を満足するものが好ましく、鱗片状の場合には上記した厚みを満足するものが好ましい。また、鱗片状の金属材料の場合には、上記した平均粒径も満足していることがより好ましい。
【0063】
また、上述した水素発生物質に、親水性酸化物、炭素及び吸水性高分子からなる群から選ばれる少なくとも1つの物質(以下、添加剤という。)を添加すれば、水素発生物質と水との反応を促進させることができるので好ましい。このような親水性酸化物としては、アルミナ、シリカ、チタニア、マグネシア、ジルコニア、ゼオライト、酸化亜鉛などが使用できる。
【0064】
水素発生物質と水との反応性を高めるために、水素発生物質と水とが混合された状態で加熱してもよいし、加熱された水を反応容器34内に供給してもよいが、本発明の水素発生材料として、上記金属材料などの水素発生物質以外の材料であって水と反応して発熱する発熱材料を含む水素発生材料を用いることが好ましい。発熱材料を含む水素発生材料を用いた場合、低温(例えば5℃程度)の水を供給しても、発熱物質の発熱によって反応系内の温度を高めて、迅速な水素発生が可能となる。
【0065】
上記発熱材料としては、水と発熱反応して水酸化物や水和物となる材料、水と発熱反応して水素を生成する材料などを用いることができる。このような発熱材料のうち、水と反応して水酸化物や水和物となる材料としては、例えば、アルカリ金属の酸化物(例えば、酸化リチウムなど)、アルカリ土類金属の酸化物(例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウムなど)、アルカリ土類金属の塩化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなど)、アルカリ土類金属の硫酸化合物(例えば、硫酸カルシウムなど)などを用いることができる。上記水と反応して水素を生成する材料としては、例えば、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウムなど)、アルカリ金属水素化物(例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化リチウムなど)などを用いることができる。これらの材料は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
また、上記発熱材料が塩基性材料であれば、水素発生反応に用いられる水に溶解して、高濃度のアルカリ水溶液を形成するので、水素発生物質である金属材料の表面に形成された酸化皮膜を溶解させ、水との反応性を大きくすることができるので好ましい。この酸化皮膜を溶解する反応は、金属材料と水との反応の起点となることもある。特に、発熱材料がアルカリ土類金属の酸化物であれば、塩基性材料であり且つ取り扱いが容易であるのでより好ましい。
【0067】
なお、上記発熱材料としては、水以外の物質と常温で発熱反応を生じる材料、例えば、鉄粉のように酸素と発熱して発熱する材料も知られている。しかし、水素発生材料が、上記酸素と反応する材料と上記水素発生物質である金属材料とを含む場合、反応のために必要とされる酸素は、同時に、金属材料から発生する水素の純度を低下させたり、金属材料を酸化させて水素発生量を低下させたりするなどの問題を生じることがある。このため、本発明における発熱材料としては、上述のとおり、水と反応して発熱するアルカリ土類金属の酸化物などを用いるのが好ましい。また、同様の理由から、水素発生材料に含まれる発熱材料は、反応時に水素以外の気体を生成しないものが好ましい。もし上記酸素と反応する材料を発熱材料として用いる場合は、酸素を導入する必要があるため、上記材料を反応容器に添加するのではなく、反応容器の外部に配置して使用することが好ましい。
【0068】
上記水素発生材料全体中における上記金属材料などの水素発生物質の含有率は、より多くの水素を発生させる観点から、好ましくは85重量%以上、より好ましくは90重量%以上であり、また、発熱材料の併用による効果をより確実にする観点から、好ましくは99重量%以下、より好ましくは97重量%以下である。また、水素発生材料全体中における発熱材料の含有率は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上であって、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。
【0069】
上記発熱材料を含有する水素発生材料は、水素発生物質である金属材料などと発熱材料を混合することにより得られる。金属材料と発熱材料との混合の際には、金属材料のみが1mm以上の凝集体にならないようにすることが好ましい。例えば、金属材料と発熱材料を撹拌混合することにより、金属材料が凝集するのを抑制しつつ、水素発生材料を作製できる。また、金属材料の表面に発熱材料をコーティングして複合化し、水素発生材料としてもよい。
【0070】
<水素消費装置>
図3は、本発明の燃料電池発電システムに用いられる水素消費装置9の一例を示す概略断面図である。なお、図3では、水素消費装置9のみを断面で示しているが、水素消費装置9の各構成要素の理解を容易にするために、一部の構成要素については、断面であることを示す斜線を付していない。
【0071】
図3に示す水素消費装置9は、正極拡散層201及び酸素を還元する正極触媒層202からなる正極と、固体高分子電解質膜203と、水素を酸化する負極触媒層204及び負極拡散層205からなる負極とが順次積層されてなるMEA200を有する。MEA200を構成する各層の材料は、燃料電池1のMEA100と同様の材料を使用できる。
【0072】
図3において、MEA200は、正極拡散層201の上部に配置された正極集電板42と、負極拡散層205の下部に配置された負極集電板43とによって挟持されており、正極集電板42と負極集電板43とは、例えばボルト50とナット51により固定されている。図3中、44はシリコンゴムなどからなるシール材であり、45は水素を収容(保持)するタンク部である。タンク部45には、水素を含むガスを水素消費装置9に導入するための燃料排出管15と、水素消費装置9によって水素が除去された残りのガスを外部に排出するための燃料排出管15aが接続されている。
【0073】
正極集電板42及び負極集電板43は、例えば、白金、金などの貴金属や、ステンレス鋼などの耐食性金属、またはカーボンなどから構成される。また、耐食性向上のために、表面にメッキや塗装が施されている場合もある。
【0074】
正極集電板42には複数の空気孔42aが形成されており、これら空気孔42aを通じて大気中の酸素がMEA200の正極に供給されるようになっている。一方、負極集電板43には複数の水素導入孔43aが形成されており、これら水素導入孔43aを通じて燃料排出管15からタンク部45へ導入された水素を含むガスがMEA200の負極に供給される。
【0075】
正極集電板42の端部には正極リード線46が、負極集電板43の端部には負極リード線47が、それぞれ接続されている。また、これらのリード線46、47は、抵抗48及びスイッチ49を介して接続されている。そして、水素消費装置9によってガス中の水素を消費する必要が生じた場合に、スイッチ49をオンにしてMEA200の正極−負極間を導通させることで、ガス中の水素を消費できる。これにより、燃料電池1内から排気され、システム外に排出する必要のあるガス中の水素を完全に無くすか、または上記ガス中の水素量を大幅に低減することができる。
【0076】
抵抗48としては、例えば、水素消費装置9内に水素が導入されてから、MEA200の正極−負極間の電圧が0.1V以下となるのに要する時間が1分以内となるような抵抗値を有するものを用いることができる。なお、図3では、抵抗48及びスイッチ49を介してリード線46、47を接続しているが、抵抗48を用いなくても、MEA200の正極−負極間の電圧を上述したように所定時間内に下げることができるのであれば、抵抗48を用いずにスイッチ48のみを介してリード体46、47を接続して、MEA200の正極と負極とを導通可能としてもよい。
【0077】
なお、水素消費装置9は、上記の通り、燃料電池と同様にMEAを備えているため、例えば、燃料電池に複数のMEAを有するもの(スタック)を使用し、その一部のMEA(例えば、1つ)を水素消費装置として使用する形態で、燃料電池と水素消費装置とを一体化した構成とすることもできる。このような構成とすることで、燃料電池発電システムの小型化がより容易となる。この場合、水素消費装置として使用するMEAと発電用に使用するMEAとは接続せず、また、水素消費装置で水素を除去したガスを効率よくシステム外に排気でき、且つ効率よく発電できるように、水素消費装置として使用するMEAと発電用に使用するMEAとは、互いに内部のガスが行き来できないように構成する。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
<燃料電池の作製>
まず、図4に示す構造の燃料電池1aを作製した。図4は、本実施例1における燃料電池1aを示す模式断面図である。図4に示す燃料電池1aは、正極拡散層101及び正極触媒層102からなる正極と、固体高分子電解質膜103と、負極触媒層104及び負極拡散層105からなる負極とが、順次積層されてなるMEA100を3個有する。3個のMEA100は平面状に配置されている。
【0080】
また、各MEA100の正極側には、正極集電プレート24、25a、25b、正極絶縁プレート22及び正極パネルプレート20が順次積層され、各MEA100の負極側には、負極集電プレート26、27a、27b、負極絶縁プレート23及び負極パネルプレート21が順次積層されている。これにより、全てのMEA100は、正極パネルプレート20と負極パネルプレート21との間に挟持され、一体化している。また、図4では図示していないが、隣り合うMEA100同士は、一方のMEAの正極集電プレート24(以下、正極端部集電プレートともいう)と他方のMEAの負極集電プレート26(以下、負極端部集電プレートともいう)とを電気的接続することによって、直列に接続されている。
【0081】
燃料電池1aを構成するMEA100には、図5A、Bに示す構成のものを用いた。図5AはMEA100の平面図、図5BはMEA100の正面図である。MEA100の正極(正極拡散層101及び正極触媒層102)及び負極(負極触媒層104及び負極拡散層105)には、カーボンクロス上にPt担持カーボンを塗布した電極(E−TEK社製「LT140E−W」、Pt量:0.5mg/cm2)を用いた。また、固体高分子電解質膜103には、デュポン社製の「ナフィオン112」を用いた。各電極の大きさは25mm×92mm、固体高分子電解質膜103の大きさは29m×96mmとした。
【0082】
燃料電池1aを構成する正極パネルプレート20には、図6に示す構成のものを用いた。図6は正極パネルプレート20の平面図である。正極パネルプレート20には、ステンレス鋼製で厚みが2mmのものを用いた。また、正極パネルプレート20には、正極パネルプレート20と図4の負極パネルプレート21とを図4のボルト32及びナット33で固定するためのネジ穴53を設けた。さらに、正極パネルプレート20には、各MEA100の正極拡散層101と対応するように、酸素導入孔30aとして、1×13mmの長方形型の穴を、各々上下に6個、左右に12個、合計72個を1セットとして、合計3セット配置した。図4の負極パネルプレート21も正極パネルプレート20と同様の材質、形状とした。すなわち、パネルプレートにおける開口は、正極では正極開口部30を形成する酸素導入孔となり、負極では負極開口部31を形成する燃料導入孔となる。
【0083】
燃料電池1aを構成する正極集電プレート(正極端部集電プレート)24には、図7に示す構成のものを用い、正極集電プレート25a、25bには図8に示す構成のものを用いた。図7は正極端部集電プレート24の平面図、図8は正極集電プレート25a、25bの平面図である。図7において、54は正極集電端子部であり、図8において、55は正極直列接続タブである。
【0084】
正極端部集電プレート24及び正極集電プレート25a、25bには、ニッケルに金メッキを施した厚み0.3mmのものを用いた。また、正極端部集電プレート24及び正極集電プレート25a、25bには、酸素導入孔30b及びネジ孔53を設けた。酸素導入孔30b及びネジ穴53の形状及び配置は、正極パネルプレート20における酸素導入孔及びネジ穴と同様とした。負極端部集電プレート26は、正極端部集電プレート24と同様の材質、形状とし、負極集電プレート27a、27bは正、極集電プレート25a、25bと同様の材質、形状とした。すなわち、集電プレートにおける開口は、正極では正極開口部30を形成する酸素導入孔となり、負極では負極開口部31を形成する燃料導入孔となる。
【0085】
燃料電池1aを構成する正極絶縁プレート22には、図9A、Bに示す構成のものを用いた。図9Aは正極絶縁プレート22の平面図、図9Bは図9AのI−I線断面図である。図9Bの断面図では、ネジ穴53の配置を点線で示しており、この配置の理解を容易にするために、断面であることを示す斜線を省略している。正極絶縁プレート22は、金属製の正極パネルプレート20と、正極集電プレート24、25a、25bとの間に配置され、これらのプレート間を絶縁するためのものである。図9A、Bにおいて、66は正極集電プレート24、25a、25bを収めるための凹部である。
【0086】
正極絶縁プレート22には、ガラスエポキシ樹脂製で厚みが0.5mmのものを用いた。正極絶縁プレート22には、酸素導入孔30c及びネジ孔53を設けた。酸素導入孔30c及びネジ穴53の形状及び配置は、図6に示す正極パネルプレート20の酸素導入孔及びネジ穴と同様とした。また、負極絶縁プレート23は、正極絶縁プレート22と同様の材質、形状とした。すなわち、絶縁プレートにおける開口は、正極では正極開口部30を形成する酸素導入孔となり、負極では負極開口部31を形成する燃料導入孔となる。
【0087】
燃料電池1aを構成する燃料タンク部29を図10A、B、Cに示す。図10Aは燃料タンク部29の平面図、図10Bは図10AのII−II線断面図、図10Cは図10AのIII−III線断面図である。図10B、Cの断面図では、ネジ穴53の配置を点線を示していることから、この配置の理解を容易にするために、断面であることを示す斜線を省略している。
【0088】
燃料タンク部29は、MEA100の負極に供給される燃料をタンク内部70に保持するものであり、燃料を供給するための燃料供給口67、燃料を排出するための燃料排出口68、及び、燃料の供給が各MEA100への燃料供給を均一に行うための燃料流通ガイド部69が設けられている。
【0089】
燃料タンク部29には、ガラスエポキシ樹脂製で厚み3mmのものを用いた。中央のタンク内部70の深さは2mmとした。
【0090】
燃料電池1aを構成するシール材28a、28bには、図11に示す構成のものを用いた。図11は、シール材28a、28bの平面図である。シール材28a、28bに設けた孔72には、図4のMEA100の電極(正極及び負極)が収まり、図4の固体高分子電解質膜103のうち電極部分からはみ出た部分は、シール材28a、28bで挟まれている。そのため、燃料と空気中の酸素とを隔離して、燃料電池1aを良好に機能させることが可能となる。また、シール材28a、28bには直列接続タブ接触エリア71が設けられており、この部分で正極集電プレートの正極直列接続タブと負極集電プレートの負極直列接続タブとが電気的に接触し、各MEA100は直列に接続されている。
【0091】
シール材28a、28bには、シリコンゴム製で厚み0.2mmのものを用い、MEA100の電極を収めるための孔72の大きさは26mm×93mmとした。
【0092】
以上の各部材を図4に示す順序で積層し、ボルト32とナット33を用いて一体化し、MEA100を3個直列に接続し、図4に示す燃料電池1aを得た。
【0093】
<水素製造装置の作製>
次に、図2に示す構成の水素製造装置2を作製した。反応容器34には、内容積170cm3のポリプロピレン製の角柱状容器を用いた。水供給管38には、内径2mm、外径3mm、水素導出管39、40、及び水回収管41には、内径3mm、外径4mmのアルミニウム製の配管をそれぞれ用いた。反応容器34には、水素発生物質として平均粒径6μmのアルミニウム粉末98.5gと、発熱材料として酸化カルシウム粉末12.5gとの混合物である水素発生材料34aを入れた。水収容容器35には、内容積200cm3のポリプロピレン製の角柱状容器を用い、その中に水35aを200g入れた。気液分離容器37には、内容積30cm3のポリカーボネート製の角柱状容器を用いた。
【0094】
<燃料電池発電システム>
上記燃料電池1a及び上記水素製造装置2を用いて、図12に示す構成の燃料電池発電システム301を組み立てた。本実施例の燃料電池発電システム301では、図4に示す燃料電池1aを4組直列に接続したものを燃料電池として用いた。すなわち、本実施例における燃料電池を構成するMEA100は12個である。そして、各MEA100の正極及び負極にはリード体を取り付け、これらリード体に、抵抗値が10Ωの抵抗6a及びスイッチ6bを接続して、各MEA100の正極−負極間を導通可能とした。
【0095】
<発電試験>
上記燃料電池発電システム301を用いて、温度25℃、相対湿度65%の環境条件下で次のようにして発電試験を行った。
【0096】
まず、図2に示す水素製造装置2の水供給ポンプ36を駆動させて、水収容容器35内の水35aを反応容器34へ供給して水素を発生させ、発生した水素を図12の燃料電池1aに供給した。そして、図12の昇圧充電回路3及び制御部10により、7.5Vの定電圧で燃料電池1aを発電させた。そして、燃料電池1aの発電中に、スイッチ16をオフにした状態で、短絡頻度が10秒に1回、短絡時間が50ミリ秒の短絡を行った。なお、発電試験中は、短絡時のみスイッチ16をオフにし、短絡時以外はスイッチ16をオンにした。
【0097】
(実施例2)
実施例1と同様にして燃料電池発電システムを作製した。そして、短絡時間を100ミリ秒に変更したこと以外は、実施例1と同条件で発電試験を実施した。
【0098】
(実施例3)
実施例1と同様にして燃料電池発電システムを作製した。そして、短絡頻度を20秒に1回に変更し、短絡時間を200ミリ秒に変更したこと以外は、実施例1と同条件で発電試験を実施した。
【0099】
(実施例4)
実施例1と同様にして燃料電池発電システムを作製した。そして、短絡頻度を7秒に1回に変更し、短絡時間を50ミリ秒に変更したこと以外は、実施例1と同条件で発電試験を実施した。
【0100】
(比較例1)
実施例1と同様にして燃料電池発電システムを作製した。そして、短絡を行わなかったこと以外は、実施例1と同条件で発電試験を実施した。
【0101】
(比較例2)
実施例1と同様にして燃料電池発電システムを作製した。そして、短絡頻度を10秒に1回に変更し、短絡時間を2000ミリ秒に変更したこと以外は、実施例1と同条件で発電試験を実施した。
【0102】
(比較例3)
実施例1と同様にして燃料電池発電システムを作製した。そして、短絡頻度を100秒に1回に変更し、短絡時間を100ミリ秒に変更したこと以外は、実施例1と同条件で発電試験を実施した。
【0103】
実施例1〜4及び比較例1〜3における短絡頻度、短絡時間、燃料電池の平均出力を表1に示す。なお、「燃料電池の平均出力」は、発電を1時間行った際の燃料電池の出力の平均値とした。
【0104】
【表1】

【0105】
実施例1〜4では、比較例1に比べて燃料電池の平均出力が向上した。この結果から、本発明の燃料電池発電システムは、燃料電池の発電中に燃料電池を活性化することができ、反応ガスを加湿する加湿器を必要とすることなく、簡便で効率よく、連続的且つ安定的に発電を維持できることが可能であることが示唆された。
【0106】
また、実施例1と実施例2とを比較すると、短絡時間を50ミリ秒から100ミリ秒に増加させることにより、燃料電池の平均出力が更に向上した。これは、短絡時間を適度に増加させることにより、自己加湿の効果が増加したためであると推察された。
【0107】
また、短絡時間が1秒を超える比較例2、短絡頻度が60秒/回よりも多い比較例3は、実施例1〜4よりも燃料電池の平均出力が劣っていた。
【0108】
(実施例5)
<燃料電池の作製>
図13に示す構造の燃料電池1bを作製した。図13は、本実施例5の燃料電池1bを示す外観斜視図である。図13において、燃料電池1bは、セパレータ80を介して積層された複数のMEA85からなる積層体を、2つのエンドプレート93で挟持し、ボルトとナットで固定したものである。上側のエンドプレート93には、燃料供給口94、燃料排出口95を設けた。
【0109】
図14に、図13の燃料電池1bの要部の分解斜視図を示した。図14において、図13と同一構成要素については同一符号を付している。図14に示すように、MEA85は、上から、正極拡散層86、積層体85a、負極拡散層90が順次積層されたものであり、MEA85の上下には、セパレータ80、80が配置されている。酸化剤ガスは、酸化剤ガス流路83に導入されると、図14の点線矢印に示すように、正極拡散層86を通って積層体85aの正極触媒層87(後述の図16)に供給され、発電反応に関与せず消費されなかった酸化剤ガスは、酸化剤ガス流路83を通って外部に排出される。一方、燃料は、図13の燃料供給口94から燃料電池1b内に導入されると、図14の実線矢印に示すように、燃料供給マニホールド81に導入され、負極拡散層90を通って積層体85aの負極触媒層89(後述の図16)に供給され、発電反応に関与せず消費されなかった燃料は、負極拡散層90、燃料排出マニホールド82を通って図13の燃料排出口95から外部へ排出される。
【0110】
セパレータ80には、図15に示す構成のものを用いた。図15Aは、セパレータ80の平面図、図15Bは、図15AにおけるIV−IV線断面図、図15Cは、セパレータ80の裏面図である。セパレータ80には、カーボン製(最も厚い部分の厚みが2mm)で、外形は24mm×85.5mmとし、燃料供給マニホールド81及び燃料排出マニホールド82のサイズは20mm×3mmとした。セパレータ80の下面には、冷却媒体流路を兼ねた酸化剤ガス流路83を複数形成し、酸化剤ガス流路83の幅は1.5mm、深さは1.5mmとし、酸化剤ガス流路83間のリブ84の幅は1mmとした。なお、図15Cでは、酸化剤ガス流路83とリブ84とを識別しやすくするために、酸化剤ガス流路83を、ドットを入れて示している。
【0111】
積層体85aには、図16に示す構成のものを用いた。図16Aは平面図、図16Bは図16AにおけるV−V線断面図である。積層体85aを構成する固体高分子電解質膜88には、デュポン社製「ナフィオン(登録商標)112」を用いた。そして、この固体高分子電解質膜88を用いて次のようにして積層体85aを得た。まず、Pt担持カーボン(田中貴金属社製「TEC10E50E」)と、5質量%濃度のNafion溶液(Aldrich社製)とを所定量で混合し、これをポリテトラフルオロエチレンシートの片面に塗布し、乾燥させた。次に、上記固体高分子電解質膜88の両面に、上記ポリテトラフルオロエチレンシートを、Pt担持カーボンとNafion溶液との混合物の塗布面が固体高分子電解質膜88側となるように重ねてホットプレスを行い、上記ポリテトラフルオロエチレンシートを除去した後、得られた積層体を外形が24mm×85.5mmとなるように切り出すことにより、正極触媒層87、固体高分子電解質膜88及び負極触媒層89からなる積層体85aを得た。
【0112】
正極拡散層86には、SGLカーボン社製の「GDL10DC」(厚み470μm)を24mm×71.5mmのサイズに切り出して用いた。また、正極拡散層86の一対の短辺の外側にはそれぞれ正極ガスシール91が配置されており、正極ガスシール91には、24mm×7mmのシリコンゴムシート(厚み0.3mm)を2枚用意し、いずれにも20mm×3mmの穴(セパレータ80に形成されている燃料供給マニホールド81及び燃料排出マニホールド82に対応する穴)を形成した。
【0113】
負極拡散層90には、正極拡散層86に用いたものと同じ材料を使用し、20mm×75.5mmのサイズに切り出して用いた。負極拡散層90の外周外側には負極ガスシール92が配置されており、負極ガスシール92には、正極ガスシール91と同じシリコンゴムシートを用い、サイズを24mm×85.5mmとした。また、負極ガスシール92には、20mm×81.5mmのサイズの穴(セパレータ80に形成されている燃料供給マニホールド81及び燃料排出マニホールド82に対応する穴)を形成した。
【0114】
そして、上記積層体85a、上記正極拡散層86、上記正極ガスシール91、上記負極拡散層90及び上記負極ガスシール92を、図14に示す順序及び配置で積層したMEA85を15個作製した。
【0115】
そして、上記15個のMEA85を、上記セパレータ80を酸化剤ガス流路形成面側が正極拡散層86側となるようにして各MEA85間に介在させつつ重ね、上下を2枚のエンドプレート(アルミニウム製で、サイズが38mm×90mm)で挟持し、ボルト及びナットを用いて固定して、図13に示す構造の燃料電池1bを作製した。
【0116】
<燃料電池発電システム>
上記燃料電池1b及び上記実施例1で用いた水素製造装置2を用いて、図17に示す構成の燃料電池発電システム302を組み立てた。なお、図17に示すように、直列に積層した複数のMEA85のうち、一端のMEA85の正極、及び他端のMEA85の負極にそれぞれリード体を取り付け、抵抗値が10Ωの抵抗6a及びスイッチ6bをこれらのリード体に接続して、正極−負極間を導通可能とした。また、図17に示すように、燃料供給管14に圧力センサ7、燃料排出管15にパージバルブ8を配置した。そして、圧力センサにより検出された圧力に基づいて、パージバルブの開閉動作を制御することとした。更に、前記圧力センサにより検出された圧力が所定値を下回る場合、上記短絡部による短絡を行わないこととした。
【0117】
<発電試験>
上記燃料電池発電システム302を用いて、温度40℃、相対湿度65%の環境条件で次の発電試験を行った。
【0118】
まず、図2に示す水素製造装置2の水供給ポンプ36を駆動させて、水収容容器35内の水35aを反応容器34へ供給して水素を発生させ、発生した水素を図17の燃料電池1bに供給した。そして、図17の昇圧充電回路3及び制御部10により、9.75Vの定電圧で燃料電池1bを発電させた。そして、燃料電池1bの発電中に、スイッチ16をオフにした状態で、短絡を行った。このとき、短絡頻度は4秒に1回とし、短絡時間は150ミリ秒に設定した。また、圧力センサ7により検出された圧力が20kPaを超えた場合、パージバルブ8を開き、圧力が18kPaを下回った場合、パージバルブ8を閉じる制御を行った。なお、発電試験中は、短絡時のみスイッチ16をオフにし、短絡時以外はスイッチ16をオンにした。
【0119】
(比較例4)
実施例5と同様にして燃料電池発電システムを作製した。そして、燃料電池1bの発電中に短絡を行わなかった以外は、実施例5と同様の発電試験を実施した。
【0120】
実施例5及び比較例4の燃料電池発電システムにおける燃料電池の発電試験結果を図18に示す。図18において、横軸は発電時間(分)を示し、縦軸は燃料電池の出力(W)を示している。図18に示すように、比較例4の場合、発電時間の増加に伴い、燃料電池の出力が単調減少した。一方、実施例5の場合、燃料電池の出力は常時約45Wであった。この結果から、本発明の燃料電池発電システムは、反応ガスを加湿する加湿器を必要とすることなく、簡便で効率よく、連続的且つ安定的に発電を維持できることが示唆された。
【0121】
(実施例6)
実施例5と同様にして燃料電池発電システムを作製した。そして、圧力センサ7により検出された圧力が3kPaを下回った場合、短絡を行わず、燃料電池の出力電圧を10.5Vに上げ、圧力が3kPaを上回った場合、燃料電池の出力電圧を9.75Vに戻したこと以外は、実施例5と同様の発電試験を実施した。
【0122】
上記実施例5及び上記実施例6の燃料電池発電システムにおける燃料電池における、負極側末端のMEAの正極−負極間電圧の時間変化の一部をそれぞれ図19及び図20に示す。図19及び図20において、横軸は発電時間(秒)を示し、縦軸は燃料電池の出力(W)を示している。実施例5の場合、図19に示すように、燃料電池1bの発電中で発電時間0.6〜0.8秒のときに短絡を行ったところ、負極側末端のMEAの正極−負極間の電圧が0Vを大きく下回る現象が生じた。この現象は、燃料電池内の圧力が低い状態で短絡を行った場合に発生し、燃料電池の劣化につながることが示唆された。一方、実施例6では、図20に示すように、燃料電池1bの発電中の発電時間0〜0.2秒のときに燃料電池の圧力が3kPaを下回ったが、短絡を行わずに、燃料電池の出力電圧を上げたところ、負極側末端のMEAの電圧は0Vを維持していた。この結果から、燃料電池の圧力が所定値を下回る場合、短絡を行わずに燃料電池の出力電圧を上げることで、より効率よく連続して安定した発電を行うことが可能であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の燃料電池発電システムは、反応ガスを加湿する加湿器を必要とせず、簡便で効率よく連続的且つ安定的に燃料電池の発電を維持できるものであり、エネルギー効率の高い燃料電池発電システムを提供できる。
【符号の説明】
【0124】
1、1a、1b 燃料電池
2 水素製造装置
3 昇圧充電回路
4 二次電池
5 出力端子
6 短絡部
6a 抵抗
6b スイッチ
7 圧力センサ
8 パージバルブ
9 水素消費装置
10 制御部
11 温度センサ
12 湿度センサ
13 リアルタイムクロック(計時部)
14 燃料供給管
15、15a 燃料排出管
20 正極パネルプレート
21 負極パネルプレート
22 正極絶縁プレート
23 負極絶縁プレート
24、25a、25b 正極集電プレート
26、27a、27b 負極集電プレート
28a、28b シール材
29 燃料タンク部
30 正極開口部
30a、30b、30c 酸素導入孔
31 負極開口部
32 ボルト
33 ナット
34 反応容器
34a 水素発生材料
35 水収容容器
35a 水
36 ポンプ
37 気液分離容器
38 水供給管
39、40 水素導出管
41 水回収管
42 正極集電板
42a 空気孔
43 負極集電板
43a 水素導入孔
44 シール材
45 タンク部
46 正極リード線
47 負極リード線
48 抵抗
49 スイッチ
50 ボルト
51 ナット
53 ネジ穴
54 正極集電端子部
55 正極直列接続タブ
66 凹部
67 燃料供給口
68 燃料排出口
69 燃料流通ガイド部
70 タンク内部
71 直列接続タブ接触エリア
72 孔
80 セパレータ
81 燃料供給マニホールド
82 燃料排出マニホールド
83 酸化剤ガス流路
84 リブ
85 MEA
85a MEA積層体
86 正極拡散層
87 正極触媒層
88 固体高分子電解質膜
89 負極触媒層
90 負極拡散層
91 正極ガスシール
92 負極ガスシール
93 エンドプレート
94 燃料供給口
95 燃料排出口
100、200 MEA
101、201 正極拡散層
102、202 正極触媒層
103、203 固体高分子電解質膜
104、204 負極触媒層
105、205 負極拡散層
300、301、302 燃料電池発電システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を還元する正極と、水素を酸化する負極と、前記正極と前記負極との間に配置された固体高分子電解質膜とを有する電極・電解質一体化物を含む燃料電池と、
前記燃料電池に供給するための水素を製造する水素製造装置と、
充放電可能な二次電池と、
前記燃料電池で発生された電力を昇圧して前記二次電池に充電させる昇圧充電回路と、を含む燃料電池発電システムであって、
前記燃料電池の発電中に前記電極・電解質一体化物の前記正極と前記負極とを短絡させる短絡部を更に含み、
前記短絡部による前記短絡は、2〜60秒に1回の頻度で行われ、且つ1回の短絡時間が、0.05〜1秒であり、
前記短絡部による前記短絡を行っている間は、前記昇圧充電回路を遮断させ、前記二次電池からのみ外部に電力を供給することを特徴とする燃料電池発電システム。
【請求項2】
前記燃料電池内の圧力を検出するための圧力センサと、
前記燃料電池内のガスを、前記燃料電池発電システム外に排出するためのパージバルブとを更に含み、
前記圧力センサにより検出された圧力に基づいて、前記パージバルブの開閉動作を制御し、
前記圧力センサにより検出された圧力が所定値を下回る場合、前記短絡部による前記短絡を行わない請求項1に記載の燃料電池発電システム。
【請求項3】
前記圧力センサにより検出された圧力が所定値を下回る場合、前記燃料電池の出力電圧を上げる、または前記燃料電池の出力電流を下げる請求項2に記載の燃料電池発電システム。
【請求項4】
前記短絡部による前記短絡は、4〜10秒に1回の頻度で行われる請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池発電システム。
【請求項5】
前記短絡部による1回の短絡時間は、0.1〜0.5秒である請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池発電システム。
【請求項6】
前記短絡部が、前記電極・電解質一体化物の前記正極と前記負極とを接続する抵抗及びスイッチを含む請求項1〜5に記載の燃料電池発電システム。
【請求項7】
環境温度を検出するための温度センサを更に含み、
前記温度センサにより検出された環境温度に基づいて、前記短絡時間及び/又は前記短絡頻度を制御する請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池発電システム。
【請求項8】
環境湿度を検出するための湿度センサを更に含み、
前記温度センサにより検出された環境温度及び前記湿度センサにより検出された環境湿度に基づいて、前記短絡時間及び/又は前記短絡頻度を制御する請求項7に記載の燃料電池発電システム。
【請求項9】
システムを駆動した際の開始時刻を出力するための計時部を更に含み、
前記計時部により出力された前回の開始時刻と今回の開始時刻との差が所定値を超える場合、前記短絡時間及び/又は前記短絡頻度を所定時間の間変更し、且つ前記燃料電池の出力電圧を下げる及び/又は前記燃料電池の出力電流を上げる請求項1〜8のいずれかに記載の燃料電池発電システム。
【請求項10】
前記燃料電池は、複数の前記電極・電解質一体化物を有しており、
前記短絡部は、各々の前記電極・電解質一体化物に備えられる請求項1〜9のいずれかに記載の燃料電池発電システム。
【請求項11】
前記燃料電池から排出されたガス中の水素を消費するための水素消費装置を更に含む請求項2又は3に記載の燃料電池発電システム。
【請求項12】
前記水素消費装置は、酸素を還元する正極と、燃料を酸化する負極と、正極と負極との間に配置された固体高分子電解質膜とを有する電極・電解質一体化物、及び該電極・電解質一体化物の前記正極と前記負極とを接続する抵抗を含む請求項11に記載の燃料電池発電システム。
【請求項13】
前記水素製造装置は、水との発熱反応により水素を発生する水素発生物質を含む水素発生材料に、水を供給して水素を製造する請求項1〜12のいずれかに記載の燃料電池発電システム。
【請求項14】
前記水素発生材料に含まれる前記水素発生物質が、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウム及びこれらの元素を主体とする合金からなる群から選択される少なくとも1種以上の金属材料である請求項13に記載の燃料電池発電システム。
【請求項15】
前記水素発生材料が、金属水素化合物である請求項13に記載の燃料電池発電システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2013−20722(P2013−20722A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150995(P2011−150995)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(511084555)日立マクセルエナジー株式会社 (212)
【Fターム(参考)】