説明

燃料電池評価装置

【課題】 同一質量電荷比(m/z値)で異なるフラグメント形態であっても成分分離が可能な燃料電池評価装置を実現する。
【解決手段】 燃料電池の排出ガスを質量分析して評価する燃料電池評価装置において、燃料電池の排出ガスが供給される質量分析計と、この質量分析のマススペクトルから質量電荷比が重ならない低分子ガスの同位体の検出強度を抽出し、同位体比に基づき他方の同位体の検出強度を算出し、他方の同位体と同一質量電荷比内の他の成分の検出強度を算出し、フラグメント形態の存在比に基づき同一成分内のフラグメント形態の検出強度を算出する演算制御手段とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と酸素とを化学反応させることにより発電を行う燃料電池の排出ガスを質量分析して評価する燃料電池評価装置に関し、特に同一質量電荷比(m/z値)であっても成分分離が可能な燃料電池評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の水素と酸素とを化学反応させることにより発電を行う燃料電池の排出ガス等を質量分析する分析装置に関連する先行技術文献としては次のようなものがある。
【0003】
【特許文献1】特開2003−232720号公報
【特許文献2】特開2004−125576号公報
【特許文献3】特開2004−157057号公報
【特許文献4】特開2004−273151号公報
【特許文献5】特開2005−150027号公報
【0004】
図3は従来の燃料電池評価装置の一例を示す構成ブロック図である。図3において1は評価対象である水素と酸素とを化学反応させることにより発電を行う燃料電池、2は流れるガスの流量を調節する流量制御器、3は質量分析計である。
【0005】
燃料電池1からの排出ガスの排出口は図3中”PP01”に示す配管に接続され、図3中”BR01”に示す分岐点で、図3中”PP02”及び”PP03”に示す2つの配管に分岐して、図3中”PP03”に示す配管は流量制御器2を介して質量分析計3のガス供給口に接続される。
【0006】
ここで、図3に示す従来例の動作を説明する。燃料電池1で発生した排出ガスは図3中”PP01”に示す配管内を流れ、図3中”BR01”に示す分岐点で分岐される。図3中”PP03”に示す配管内を流れる排出ガスは流量制御器2によって質量分析計3の仕様に適した流量に調節され質量分析計3に導入される。
【0007】
また、排出ガスを供給された質量分析計3は質量分析(Mass Spectrometry)を行いマススペクトル(Mass Spectrum)を求める。
【0008】
質量分析とは、測定対象(排出ガス等の低分子ガス)をイオン化して真空中を運動させると共に電磁気力によってイオンを質量電荷比(m/z値)毎に分離して検出する分析手法であり、マススペクトルは、横軸に質量電荷比(m/z値)、縦軸にイオンの検出強度をとったスペクトルである。
【0009】
すなわち、質量分析計3で得られたマススペクトルを解析することにより、燃料電池からの排出ガスの成分分布を把握することができ、得られた成分分布によって燃料電池の発電性能に関わる構成体の劣化状況を評価することができる。
【0010】
また、測定対象(排出ガス等の低分子ガス)をEI(電子衝撃)法によりイオン化する際には、イオン化条件によって測定対象(排出ガス等の低分子ガス)は、主に1価のプラスイオンとなり、この1価のプラスイオンの一部は更に分解してフラグメントイオンとなる。
【0011】
そして、それぞれの1価のプラスイオンやフラグメントイオン(以下、フラグメント形態と呼ぶ。)が質量電荷比(m/z値)毎に分離されてマススペクトルとして検出されることになる。
【0012】
この結果、燃料電池からの排出ガスの流量を調節して質量分析計に導入し、質量分析を行うことにより、当該排出ガスの成分分布を把握し、燃料電池の劣化状況を評価することが可能になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、燃料電池の排出ガスの主成分は水素(H2 )、窒素(N2 )、酸素(O2 )、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2 )等であり、このような低分子ガスのフラグメント形態の質量電荷比(m/z値)は”50以下”に集中しており、異なるフラグメント形態でありながら同じ質量電荷比(m/z値)となってしまう場合がある。
【0014】
例えば、燃料電池の劣化に関わる成分として分析要求の高いのは一酸化炭素であり、この一酸化炭素のフラグメント形態の一つである”CO+ ”の質量電荷比(m/z値)は”28”であるのに対して、窒素のフラグメント形態の一つである”N2+”の質量電荷比(m/z値)もまた”28”である。
【0015】
このため、質量電荷比(m/z値)が”28”のマススペクトルの検出強度は、一酸化炭素のフラグメント形態の一つである”CO+ ”と、窒素のフラグメント形態の一つである”N2+”との検出強度の和となってしまい、通常の質量分析計では両者を分離することができないと言った問題点があった。
【0016】
また、質量電荷比(m/z値)を小数点の位で検出することが可能な質量分析計を用いれば、上述の問題は解決できるものの、質量分析計自体の価格が高額になってしまうと言った問題点があった。
従って本発明が解決しようとする課題は、同一質量電荷比(m/z値)で異なるフラグメント形態であっても成分分離が可能な燃料電池評価装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
燃料電池の排出ガスを質量分析して評価する燃料電池評価装置において、
燃料電池の排出ガスが供給される質量分析計と、この質量分析のマススペクトルから質量電荷比が重ならない低分子ガスの同位体の検出強度を抽出し、同位体比に基づき他方の同位体の検出強度を算出し、他方の同位体と同一質量電荷比内の他の成分の検出強度を算出し、フラグメント形態の存在比に基づき同一成分内のフラグメント形態の検出強度を算出する演算制御手段とを備えたことにより、同一質量電荷比(m/z値)で異なるフラグメント形態であっても成分分離が可能になる。
【0018】
請求項2記載の発明は、
請求項1記載の発明である燃料電池評価装置において、
前記演算制御手段が、
前記質量分析計を制御して前記同位体比を測定させることにより、同一質量電荷比(m/z値)で異なるフラグメント形態であっても成分分離が可能になる。
【0019】
請求項3記載の発明は、
請求項1記載の発明である燃料電池評価装置において、
予め測定した前記同位体比が前記演算制御手段に設定されていることにより、同一質量電荷比(m/z値)で異なるフラグメント形態であっても成分分離が可能になる。
【0020】
請求項4記載の発明は、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の発明である燃料電池評価装置において、
前記同位体比が、
炭素の同位体比であることにより、同一質量電荷比(m/z値)で異なるフラグメント形態であっても成分分離が可能になる。
【0021】
請求項5記載の発明は、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の発明である燃料電池評価装置において、
前記同位体比が、
酸素の同位体比であることにより、同一質量電荷比(m/z値)で異なるフラグメント形態であっても成分分離が可能になる。
【0022】
請求項6記載の発明は、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の発明である燃料電池評価装置において、
前記同位体比が、
炭素及び酸素の両方の同位体比であることにより、同一質量電荷比(m/z値)で異なるフラグメント形態であっても成分分離が可能になる。
【0023】
請求項7記載の発明は、
請求項1記載の発明である燃料電池評価装置において、
前記質量分析計が、
磁場型複数コレクター方式であることにより、マススペクトルの測定時間を短縮することが可能になる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば次のような効果がある。
請求項1,2,3,4,5及び請求項6の発明によれば、マススペクトルから質量電荷比(m/z値)が重ならない低分子ガスの同位体の検出強度を抽出し、同位体比に基づき他方の同位体の検出強度を算出し、他方の同位体と同一質量電荷比(m/z値)内の他の成分の検出強度を算出し、さらに、フラグメント形態の存在比に基づき同一成分内のフラグメント形態の検出強度を算出することにより、同一質量電荷比(m/z値)で異なるフラグメント形態であっても成分分離が可能になる。
【0025】
また、請求項7の発明によれば、複数の質量電荷比(m/z値)の検出強度を同時に測定することが可能な磁場型複数コレクター方式の質量分析計を用いることにより、マススペクトルの測定時間を短縮することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下本発明を図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明に係る燃料電池評価装置の一実施例を示す構成ブロック図である。図1において1,2及び3は図3と同一符号を付してあり、4は質量分析計3を制御すると共に同一質量電荷比(m/z値)で異なるフラグメント形態の成分分離を行うCPU(Central Processing Unit)等の演算制御手段である。
【0027】
燃料電池1からの排出ガスの排出口は図1中”PP11”に示す配管に接続され、図1中”BR11”に示す分岐点で、図1中”PP12”及び”PP13”に示す2つの配管に分岐して、図1中”PP13”に示す配管は流量制御器2を介して質量分析計3のガス供給口に接続される。また、質量分析計3の出力は演算制御手段4に接続され、演算制御手段4からの制御信号が質量分析計3に接続される。
【0028】
ここで、図1に示す実施例の動作を図2を用いて説明する。図2は演算制御手段5の動作を説明するフロー図である。但し、図3に示す従来例と同様の動作に関しては説明を省略する。
【0029】
また、燃料電池1の排出ガスとしてフラグメント形態の質量電荷比(m/z値)が”14”及び”28”である窒素(N2 )と一酸化炭素(CO)の混合ガスを想定し、質量分析計3は演算制御手段4の制御により一酸化炭素の同位体比(13CO+12CO+)を測定するものとする。
【0030】
この時、窒素(N2 )のイオン化条件によってきまるフラグメント形態は主に、”N2+ ”、”N+ ”及び”N22+ ”であり、質量電荷比(m/z値)はそれぞれ”28”、”14”及び”14”である。
【0031】
また、窒素(N2 )のフラグメント形態”N2+ ”、”N+ ”及び”N22+ ”の存在比は、”1.0”、”1.5”及び”0.2”である。
【0032】
同様に、一酸化炭素(CO)のイオン化条件によってきまるフラグメント形態は主に、”CO+ ”及び”CO2+ ”であり、質量電荷比(m/z値)はそれぞれ”28”及び”14”である。また、”13CO+ ”及び”12CO+ ”の質量電荷比(m/z値)はそれぞれ”29”及び”28”である。
【0033】
さらに、一酸化炭素(CO)のフラグメント形態”CO+ ”及び”CO2+ ”の存在比は、”1.5”及び”1.0”である。
【0034】
すなわち、”N2+ ”の質量電荷比(m/z値)と、”CO+ ”の質量電荷比(m/z値)は”28”で等しく、”N+ ”及び”N22+ ”の質量電荷比(m/z値)と、”CO2+ ”の質量電荷比(m/z値)は”14”で等しくなっており、従来技術では両者の分離が不可能である。
【0035】
図2中”S001”において演算制御手段4は、質量分析計3を制御して一酸化炭素の同位体比を測定させ測定結果を取得し、図2中”S002”において演算制御手段4は、質量分析計3を制御して燃料電池1の排出ガスを質量分析させてマススペクトル(質量電荷比及び検出強度)を取得する。
【0036】
例えば、一酸化炭素の同位体比は、
13CO+12CO+=1:100 (1)
であるとする。
【0037】
図2中”S003”において演算制御手段4は、マススペクトルから質量電荷比(m/z値)が重ならない方の同位体の検出強度を抽出し、図2中”S004”において演算制御手段4は、取得した同位体比に基づき他方の同位体の検出強度を算出する。
【0038】
例えば、質量電荷比(m/z値)が重ならない一酸化炭素の同位体は”13CO+ ”であり、マススペクトルから抽出した質量電荷比(m/z値)が”29”の検出強度が”15”であるとする。
【0039】
このため、他方の同位体である”12CO+ ”の検出強度は、式(1)に示す比率から”1500”と算出される。
【0040】
図2中”S005”において演算制御手段4は、他方の同位体と同一質量電荷比(m/z値)内の他の成分の検出強度を算出する。
【0041】
例えば、”N2+ ”の質量電荷比(m/z値)と、”CO+ ”の質量電荷比(m/z値)は”28”で等しいので、質量電荷比(m/z値)が”28”の検出強度が”4000”であれば、”CO+ ”の検出強度は”1500”と算出されているので、”N2+ ”の検出強度は、
4000−1500=2500 (2)
と算出される。
【0042】
図2中”S006”において演算制御手段4は、フラグメント形態の存在比から同一成分内のフラグメント形態の検出強度を算出する。
【0043】
例えば、窒素(N2 )のフラグメント形態”N2+ ”、”N+ ”及び”N22+ ”の存在比は、”1.0”、”1.5”及び”0.2”であるので、”N2+ ”の検出強度が”2500”であれば、”N+ ”の検出強度は”3750”であり、”N22+ ”検出強度は”500”であると算出される。
【0044】
同様に、例えば、一酸化炭素(CO)のフラグメント形態”CO+ ”及び”CO2+ ”の存在比は、”1.5”及び”1.0”であるので、”CO+ ”の検出強度が”1500”であれば、”CO2+ ”の検出強度は”1000”であると算出される。
【0045】
この結果、マススペクトルから質量電荷比(m/z値)が重ならない低分子ガスの同位体の検出強度を抽出し、同位体比に基づき他方の同位体の検出強度を算出し、他方の同位体と同一質量電荷比(m/z値)内の他の成分の検出強度を算出し、さらに、フラグメント形態の存在比に基づき同一成分内のフラグメント形態の検出強度を算出することにより、同一質量電荷比(m/z値)で異なるフラグメント形態であっても成分分離が可能になる。
【0046】
なお、図1に示す実施例では演算制御手段が質量分析計を用いて同位体比を測定させているが、実測ではなく、予め測定した測定系の同位体比を演算制御手段に設定しておいても構わない。
【0047】
また、図1に示す実施例の説明に際しては、一酸化炭素(炭素)の同位体の同位体比に着目して、同一質量電荷比(m/z値)で異なるフラグメント形態の成分分離を行っているが、炭素の同位体比(12C,13C)の代わりに、酸素の同位体比(16O,18O)を用いても構わないし、両方を用いても構わない。
【0048】
また、図1に示す実施例の説明に際しては、質量分析計の詳細を特に明示していないが、複数の質量電荷比(m/z値)の検出強度を同時に測定することが可能な磁場型複数コレクター方式の質量分析計を用いても勿論構わない。この場合には、マススペクトルの測定時間を短縮することが可能になる。
【0049】
また、図1に示す実施例の説明に際しては、質量分析計の前段に流量制御器を設けているが、質量分析計に供給される流れるガスの流量を調節する機能が装備されていたり、燃料電池からの排出ガスの流量が質量分析計の仕様に適した流量であれば不要であるので、必須の構成要素ではない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る燃料電池評価装置の一実施例を示す構成ブロック図である。
【図2】演算制御手段の動作を説明するフロー図である。
【図3】従来の燃料電池評価装置の一例を示す構成ブロック図である。
【符号の説明】
【0051】
1 燃料電池
2 流量制御器
3 質量分析計
4 演算制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の排出ガスを質量分析して評価する燃料電池評価装置において、
燃料電池の排出ガスが供給される質量分析計と、
この質量分析のマススペクトルから質量電荷比が重ならない低分子ガスの同位体の検出強度を抽出し、同位体比に基づき他方の同位体の検出強度を算出し、他方の同位体と同一質量電荷比内の他の成分の検出強度を算出し、フラグメント形態の存在比に基づき同一成分内のフラグメント形態の検出強度を算出する演算制御手段と
を備えたことを特徴とする燃料電池評価装置。
【請求項2】
前記演算制御手段が、
前記質量分析計を制御して前記同位体比を測定させることを特徴とする
請求項1記載の燃料電池評価装置。
【請求項3】
予め測定した前記同位体比が前記演算制御手段に設定されていることを特徴とする
請求項1記載の燃料電池評価装置。
【請求項4】
前記同位体比が、
炭素の同位体比であることを特徴とする
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の燃料電池評価装置。
【請求項5】
前記同位体比が、
酸素の同位体比であることを特徴とする
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の燃料電池評価装置。
【請求項6】
前記同位体比が、
炭素及び酸素の両方の同位体比であることを特徴とする
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の燃料電池評価装置。
【請求項7】
前記質量分析計が、
磁場型複数コレクター方式であることを特徴とする
請求項1記載の燃料電池評価装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−107181(P2008−107181A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289546(P2006−289546)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】