説明

燃料電池車両

【課題】燃料電池車両において、比較的簡易な構成で、燃料電池車両の起動スイッチがオフのときであっても、燃料電池を収容するケース内の換気を行う。
【解決手段】燃料電池車両は、燃料電池スタック12を収容するスタックケース10と、燃料電池スタック12から漏洩した水素をスタックケース10から排気するための排気ダクト22と、スタックケース10内に空気を吸気するための吸気ダクト24と、を備える。そして、排気ダクト22の一方の端部は、スタックケース10内において水素の濃度が比較的高くなる、吸気ダクト24よりも燃料電池スタック12からの距離が近い部位に接続される。また、吸気ダクト24の一方の端部は、スタックケース10内において水素の濃度が比較的低くなる、排気ダクト22よりも燃料電池スタック12からの距離が遠い部位に接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電源として燃料電池を搭載した燃料電池車両が提案されている。この燃料電池車両において、燃料電池は、例えば、浸水防止、防塵、電磁波シールド等のために、ケースに収容される。一方、燃料電池には燃料ガスとしての水素が供給され、燃料電池からの水素の漏洩は、完全に防止されることが望ましい。しかし、燃料電池は、一般に、複数の単セルを積層することによって構成されるため、その構造上、あるいは、燃料電池を構成する部材の性質上、燃料電池からは微量の水素が自ずと漏洩してしまう場合がある。そこで、燃料電池から自ずと漏洩した水素がケース内に滞留して、ケース内における水素の濃度が可燃範囲に達しないように、ケース内の換気が行われる。そして、このケース内の換気を強制的に行うために、ブロアや、エアコンプレッサや、換気ファン等の換気装置、および、ダクトが用いられることが多い。
【0003】
【特許文献1】特開2002−2534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、燃料電池車両において、燃料電池を収容したケース内の換気を行うために上述した換気装置、および、ダクトを用いる場合、燃料電池車両の起動スイッチがオフのときには、換気装置が作動しないため、ケース内の換気を行うことができなかった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池車両において、比較的簡易な構成で、燃料電池車両の起動スイッチがオフのときであっても、燃料電池を収容するケース内の換気を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]燃料電池車両であって、燃料電池を収容するケースと、前記燃料電池から漏洩した水素を前記ケースから排気するための排気ダクトと、前記ケース内に空気を吸気するための吸気ダクトと、を備え、前記排気ダクトの一方の端部は、前記ケース内において前記水素の濃度が比較的高くなる部位に接続されており、前記排気ダクトの他方の端部は、前記ケースよりも高い位置で上方に開口し、防水性、および、通気性を有する膜によって被覆された排気開口部を備えており、前記吸気ダクトの一方の端部は、前記ケース内において前記水素の濃度が比較的低くなる部位に接続されており、前記吸気ダクトの他方の端部は、前記ケースよりも高い位置で開口し、防水性、および、通気性を有する膜によって被覆された吸気開口部を備える、燃料電池車両。
【0008】
燃料電池を収容したケース内において、燃料電池から自ずと漏洩した水素は、浮力によって上昇するとともに、濃度勾配によって拡散する。適用例1の燃料電池車両では、排気ダクトの一方の端部が、ケース内において水素の濃度が比較的高くなる部位に接続され、吸気ダクトの一方の端部が、ケース内において水素の濃度が比較的低くなる部位に接続されているので、水素の浮力および拡散力と、水素がケースから自然排気されるときにケース内に生じる負圧を補う空気の吸気によって、ケース内に自然対流を発生させて、ケース内の換気を行うことができる。つまり、本適用例の燃料電池車両によれば、先に説明した換気装置を用いることなく、比較的簡易な構成で、燃料電池車両の起動スイッチがオフのときであっても、燃料電池を収容するケース内の換気を行うことができる。
【0009】
なお、本適用例の燃料電池車両では、排気ダクトの排気開口部が、ケースよりも高い位置で上方に開口しているので、燃料電池車両が水没したときの排気開口部の冠水を抑制するとともに、水素の浮力による自然排気を促すことができる。また、吸気ダクトの吸気開口部が、ケースよりも高い位置で開口しているので、燃料電池車両が水没したときの吸気開口部の冠水を抑制することができる。また、排気ダクトの排気開口部、および、吸気ダクトの吸気開口部は、防水性、および、通気性を有する膜によって被覆されているので、排気開口部、および、吸気開口部からの浸水を防止することができる。
【0010】
また、適用例1の燃料電池車両では、先に説明した換気装置を用いることなく、上述した自然対流によって、燃料電池を収容するケース内の換気を行うことができるので、安全性および信頼性の向上、低コスト化を図ることができる。さらに、換気装置を駆動させるためのエネルギを要しないため、低燃費化を図ることもできる。
【0011】
[適用例2]適用例1記載の燃料電池車両であって、前記排気ダクトの一方の端部、および、前記吸気ダクトの一方の端部は、前記ケースの上面に接続されており、前記燃料電池から前記排気ダクトと前記ケースとの接続部までの距離は、前記燃料電池から前記吸気ダクトと前記ケースとの接続部までの距離よりも小さい、燃料電池車両。
【0012】
適用例2の燃料電池車両では、ケース内において、燃料電池から自ずと漏洩した水素は、上昇・拡散したときに、吸気ダクトよりも早く排気ダクトに到達するので、排気ダクト内の水素の濃度を、吸気ダクト内の水素の濃度よりも高くすることができる。したがって、水素の濃度勾配による自然対流を発生しやすくすることができる。
【0013】
[適用例3]適用例1記載の燃料電池車両であって、前記排気ダクトの一方の端部、および、前記吸気ダクトの一方の端部は、前記ケースの上面に接続されており、前記吸気ダクトの一方の端部は、前記ケース内の底面近傍まで延設されている、燃料電池車両。
【0014】
燃料電池を収容するケース内において、燃料電池から漏洩した水素は、浮力によって上昇するので、ケース内の底面近傍ほど水素の濃度が低くなる。適用例3の燃料電池車両では、吸気ダクトの一方の端部が、水素の濃度が低いケース内の底面近傍まで延設されているので、先に説明した自然対流を効果的に発生させることができる。
【0015】
[適用例4]適用例1記載の燃料電池車両であって、前記排気ダクトの一方の端部は、前記ケースの上面に接続されており、前記吸気ダクトの一方の端部は、前記ケースの下部に接続されている、燃料電池車両。
【0016】
燃料電池を収容するケース内において、燃料電池から漏洩した水素は、浮力によって上昇するので、ケース内の上部ほど水素の濃度が高くなり、下部ほど水素の濃度が低くなる。適用例4の燃料電池車両では、排気ダクトの一方の端部が、水素の濃度が高いケースの上面に接続されており、吸気ダクトの一方の端部が、水素の濃度が低いケースの下部に接続されているので、先に説明した自然対流を効果的に発生させることができる。なお、ケースの下部とは、ケースの下部側面であってもよいし、ケースの底面であってもよい。
【0017】
[適用例5]適用例2ないし4のいずれかに記載の燃料電池車両であって、前記排気ダクトと前記ケースとの接続部は、前記燃料電池車両の前方側に配置されており、前記ケースは、前記燃料電池車両の後方側上面に、防水性、および、通気性を有する膜によって被覆された換気口を備える、燃料電池車両。
【0018】
適用例5の燃料電池車両では、ケースに設けられた換気口が冠水していない場合には、この換気口、または、排気ダクトおよび吸気ダクトを用いてケース内の換気を行い、ケースに設けられた換気口が冠水した場合や、燃料電池車両が上り坂を走行中、あるいは、上り坂に駐停車中には、排気ダクトおよび吸気ダクトを用いてケース内の換気を行うことができる。なお、換気口は、防水性、および、通気性を有する膜によって被覆されているので、換気口からの浸水は防止される。
【0019】
適用例5の燃料電池車両において、排気ダクトとケースとの接続部と、換気口との配置を入れ替えてもよい。この場合、ケースに設けられた換気口が冠水していない場合には、この換気口、または、排気ダクトおよび吸気ダクトを用いてケース内の換気を行い、ケースに設けられた換気口が冠水した場合や、燃料電池車両が下り坂を走行中、あるいは、下り坂に駐停車中には、排気ダクトおよび吸気ダクトを用いてケース内の換気を行うことができる。
【0020】
[適用例6]適用例2ないし4のいずれかに記載の燃料電池車両であって、前記ケースには、複数の前記排気ダクトが接続されており、第1の前記排気ダクトと前記ケースとの接続部は、前記燃料電池車両の前方側に配置されており、第2の前記排気ダクトと前記ケースとの接続部は、前記燃料電池車両の後方側に配置されている、燃料電池車両。
【0021】
適用例6の燃料電池車両では、燃料電池車両が上り坂を走行中、あるいは、上り坂に駐停車中には、第1の排気ダクトおよび吸気ダクトを用いてケース内の換気を行い、燃料電池車両が下り坂を走行中、あるいは、下り坂に駐停車中には、第2の排気ダクトおよび吸気ダクトを用いてケース内の換気を行うことができる。なお、適用例6の燃料電池車両において、吸気ダクトは、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0022】
[適用例7]適用例1ないし6のいずれかに記載の燃料電池車両であって、前記排気ダクトの他方の端部、および、前記吸気ダクトの他方の端部は、並設されており、前記排気ダクトの他方の端部、および、前記吸気ダクトの他方の端部には、前記排気ダクトの前記排気開口部の近傍から前記吸気ダクトに連通する連通口が設けられている、燃料電池車両。
【0023】
排気ダクトの排気開口部には、防水性、および、通気性を有する膜が被覆されているため、排気開口部に上記膜が被覆されていない場合と比較して、通気抵抗が高く、排気ダクト内に拡散した水素が排気開口部にまで到達しにくくなる。適用例7の燃料電池車両では、排気ダクトおよび吸気ダクトに上記連通口が設けられているので、排気ダクト内の排気開口部近傍のガスを、上記連通口を介して吸気ダクト内に移動させ、排気ダクト内における水素の移動を促すことができる。この結果、先に説明した自然対流を発生しやすくすることができる。
【0024】
[適用例8]適用例1ないし7のいずれかに記載の燃料電池車両であって、前記排気ダクト、および、前記吸気ダクトの少なくとも一方は、前記燃料電池車両の後方に延設されている、燃料電池車両。
【0025】
[適用例9]適用例1ないし7のいずれかに記載の燃料電池車両であって、前記排気ダクト、および、前記吸気ダクトの少なくとも一方の一部は、前記燃料電池車両のピラー内に埋設されている。燃料電池車両。
【0026】
[適用例10]適用例1ないし7のいずれかに記載の燃料電池車両であって、前記排気ダクト、および、前記吸気ダクトの少なくとも一方の一部は、前記燃料電池車両のフレーム内に埋設されている、燃料電池車両。
【0027】
適用例8ないし10の燃料電池車両では、燃料電池車両内のデッドスペースを有効利用して、排気ダクト、および、吸気ダクトを配設することができる。
【0028】
本発明は、上述した種々の特徴の一部を、適宜、組み合わせて構成することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき説明する。
A.第1実施例:
図1は、本発明の第1実施例としての燃料電池車両100の概略構成を示す説明図である。この燃料電池車両100は、電源として、燃料電池スタックやバッテリを含む燃料電池システムを備えている。そして、燃料電池車両100は、燃料電池スタックによって発電される電力や、バッテリから出力される電力によって、図示しないモータを駆動し、その動力によって、車輪を回転させて走行する。
【0030】
本実施例では、燃料電池車両100において、燃料電池スタックは、浸水防止、防塵、電磁波シールド等のために、スタックケース10に収容されている。そして、このスタックケース10は、燃料電池車両100の床下に搭載されているものとした。なお、図示は省略しているが、燃料電池車両100の床下部や、居室の前方や後方の、居室外の空間には、それぞれ、燃料電池システムを構成する各種構成部品(例えば、水素タンクや、エアコンプレッサや、ラジエータや、各種配管等)等が配置されている。
【0031】
燃料電池スタックには、燃料ガスとしての水素が供給され、燃料電池スタックからの水素の漏洩は、完全に防止されることが望ましい。しかし、燃料電池スタックは、複数の単セルを積層することによって構成されるため、その構造上、あるいは、燃料電池スタックを構成する部材の性質上、燃料電池スタックからは微量の水素が自ずと漏洩してしまう場合がある。そこで、本実施例の燃料電池車両100では、燃料電池スタックから自ずと漏洩した水素がスタックケース10内に滞留して、スタックケース10内における水素の濃度が可燃範囲に達しないように、換気ダクト20を用いて、スタックケース10内の換気が行われる。
【0032】
本実施例では、換気ダクト20は、後述するように、排気ダクトと吸気ダクトとに分割されているものとした。そして、図示するように、換気ダクト20の一方の端部は、スタックケース10の上面に接続されており、換気ダクト20の他方の端部は、燃料電池車両100の前方の居室外の空間に延設されているものとした。
【0033】
図2は、スタックケース10内における燃料電池スタック12と、換気ダクト20とスタックケース10との接続部との位置関係を示す説明図である。スタックケース10、および、換気ダクト20を燃料電池車両100の後方から見たときの断面図を示した。
【0034】
図示するように、燃料電池スタック12は、スタックケース10内の右側に配置されている。また、排気ダクト22、および、吸気ダクト24は、スタックケース10の上面左側に接続されている。なお、排気ダクト22は、吸気ダクト24よりも右側に接続されており、排気ダクト22とスタックケース10との接続部と燃料電池スタック12との距離は、吸気ダクト24とスタックケース10との接続部と燃料電池スタック12との距離よりも小さい。スタックケース10、燃料電池スタック12、排気ダクト22とスタックケース10との接続部、吸気ダクト24とスタックケース10との接続部の位置関係を上述したように設定することによって、以下に説明するように、自然対流によってスタックケース10内の換気を行うことができる。
【0035】
すなわち、図2に示したように、スタックケース10内において、燃料電池スタック12から自ずと漏洩した水素は、浮力によって上昇するとともに、濃度勾配によってスタックケース10内の左側に拡散する。すると、水素は、吸気ダクト24よりも早く排気ダクト22に到達して排気ダクト22内を上昇し、排気ダクト22の排気開口部から自然排気される。このとき、水素の自然排気によって、スタックケース10内に負圧が発生し、この負圧を補うように吸気ダクト24を介して空気が吸気される。つまり、水素の浮力および拡散力と、水素がスタックケース10から自然排気されるときにスタックケース10内に生じる負圧を補う空気の吸気によって、スタックケース10内に自然対流を発生させて、スタックケース10内の換気を行うことができる。
【0036】
図3は、換気ダクト20の排気開口部、および、吸気開口部の近傍を示す説明図である。図3(a)に、換気ダクト20の排気開口部、および、吸気開口部の近傍の斜視図を示した。また、図3(b)に、換気ダクト20の排気開口部、および、吸気開口部の近傍の断面図を示した。
【0037】
本実施例では、排気ダクト22の排気開口部、および、吸気ダクト24の吸気開口部は、スタックケース10よりも高い位置に配置されている。こうすることによって、燃料電池車両100が水没したときの排気開口部、および、吸気開口部の冠水を抑制することができる。
【0038】
また、図示するように、排気ダクト22の排気開口部、および、吸気ダクト24の吸気開口部は、上方に開口している。こうすることによって、水素の浮力による自然排気、および、空気の吸気、すなわち、スタックケース10内の換気を促すことができる。
【0039】
また、排気ダクト22の排気開口部、および、吸気ダクト24の吸気開口部には、防水性、および、通気性を有する膜28によって被覆されている。こうすることによって、排気開口部、および、吸気開口部からの浸水を防止することができる。
【0040】
なお、排気ダクト22の排気開口部には、防水性、および、通気性を有する膜28が被覆されているため、排気開口部に膜28が被覆されていない場合と比較して、通気抵抗が高く、排気ダクト22内に拡散した水素が排気開口部にまで到達しにくくなる。これを解消するために、本実施例の燃料電池車両100では、排気ダクト22から吸気ダクト24に連通する連通口26が設けられている。換気ダクト20に連通口26を設けることによって、図3(b)に示したように、排気ダクト22内の排気開口部近傍のガスを、連通口26を介して吸気ダクト24内に移動させ、排気ダクト22内における水素の移動を促すことができる。この結果、先に説明した自然対流を発生しやすくすることができる。
【0041】
以上説明した第1実施例の燃料電池車両100によれば、スタックケース10内の換気を行うための換気装置(例えば、ブロアや、エアコンプレッサや、換気ファン等)を用いることなく、比較的簡易な構成で、燃料電池車両100の起動スイッチがオフのときであっても、燃料電池スタック12を収容するスタックケース10内の換気を行うことができる。
【0042】
また、適用例1の燃料電池車両では、上述した換気装置を用いることなく、自然対流によって、スタックケース10内の換気を行うことができるので、安全性および信頼性の向上、低コスト化を図ることができる。さらに、換気装置を駆動させるためのエネルギを要しないため、低燃費化を図ることもできる。
【0043】
B.第2実施例:
第2実施例の燃料電池車両の構成は、第1実施例の燃料電池車両100の構成とほぼ同じであり、燃料電池スタック12を収容するスタックケース10A、および、スタックケース10Aと換気ダクト20との接続が第1実施例の燃料電池車両100と異なっている。
【0044】
図4は、第2実施例の燃料電池車両におけるスタックケース10A、および、換気ダクト20を示す説明図である。スタックケース10A、および、換気ダクト20を燃料電池車両の左側から見たときの断面図を示した。
【0045】
図示するように、第2実施例の燃料電池車両では、燃料電池スタック12は、スタックケース10A内の前後方向のほぼ中央部に配置されている。なお、図示は省略しているが、スタックケース10A内における燃料電池スタック12の左右方向の位置は、第1実施例と同じである。そして、換気ダクト20(排気ダクト22、および、吸気ダクト24)は、スタックケース10Aの前方側上面に接続されている。また、スタックケース10Aの後方側上面には、換気口14が設けられている。そして、この換気口14は、防水性、および、通気性を有する膜16によって被覆されている。この膜16によって、換気口14からの浸水は防止されている。
【0046】
このような第2実施例の燃料電池車両では、スタックケース10Aに設けられた換気口14が冠水していない場合には、換気口14、または、換気ダクト20を用いてスタックケース10A内の換気を行うことができる。また、スタックケース10Aに設けられた換気口14が冠水した場合や、燃料電池車両が上り坂を走行中、あるいは、上り坂に駐停車中には、スタックケース10Aにおいて水素の濃度が比較的高くなる前方側上面に接続された換気ダクト20を用いてケース内の換気を行うことができる。なお、換気ダクト20を用いたスタックケース10A内の換気の原理は、第1実施例と同様である。
【0047】
以上説明した第2実施例の燃料電池車両によっても、第1実施例の燃料電池車両100と同様に、スタックケース10A内の換気を行うための換気装置を用いることなく、比較的簡易な構成で、燃料電池車両の起動スイッチがオフのときであっても、燃料電池スタック12を収容するスタックケース10A内の換気を行うことができる。
【0048】
C.第3実施例:
第3実施例の燃料電池車両の構成は、第1実施例の燃料電池車両100の構成とほぼ同じであり、燃料電池スタック12を収容するスタックケース10B、および、スタックケース10Bと換気ダクトとの接続が第1実施例の燃料電池車両100と異なっている。第3実施例の燃料電池車両では、2つの換気ダクト20F,20Rがスタックケース10Bに接続されている。
【0049】
図5は、第3実施例の燃料電池車両におけるスタックケース10B、および、換気ダクト20F,20Rを示す説明図である。スタックケース10B、および、換気ダクト20F,20Rを燃料電池車両の左側から見たときの断面図を示した。
【0050】
図示するように、第3実施例の燃料電池車両では、燃料電池スタック12は、第2実施例と同様に、スタックケース10B内の前後方向のほぼ中央部に配置されている。また、スタックケース10B内における燃料電池スタック12の左右方向の位置も、第2実施例と同じである。そして、スタックケース10Bの前方側上面に、換気ダクト20Fが接続されており、スタックケース10Bの後方側上面に、換気ダクト20Rが接続されている。なお、換気ダクト20F,20Rの構造は、それぞれ、先に説明した換気ダクト20と同じである。
【0051】
このような第3実施例の燃料電池車両では、燃料電池車両が上り坂を走行中、あるいは、上り坂に駐停車中には、スタックケース10Bにおいて水素の濃度が比較的高くなる前方側上面に接続された換気ダクト20Fを用いてスタックケース10B内の換気を行うことができる。また、燃料電池車両が下り坂を走行中、あるいは、下り坂に駐停車中には、スタックケース10Bにおいて水素の濃度が比較的高くなる後方側上面に接続された換気ダクト20Rを用いてスタックケース10B内の換気を行うことができる。なお、換気ダクト20F,20Rを用いたスタックケース10B内の換気の原理は、第1実施例と同様である。
【0052】
以上説明した第3実施例の燃料電池車両によっても、第1実施例の燃料電池車両100と同様に、スタックケース10B内の換気を行うための換気装置を用いることなく、比較的簡易な構成で、燃料電池車両の起動スイッチがオフのときであっても、燃料電池スタック12を収容するスタックケース10B内の換気を行うことができる。
【0053】
D.第4実施例:
第4実施例の燃料電池車両の構成は、第1実施例の燃料電池車両100の構成とほぼ同じであり、燃料電池スタック12を収容するスタックケース10C、および、スタックケース10Cと排気ダクト22、および、吸気ダクト24との接続が第1実施例の燃料電池車両100と異なっている。
【0054】
図6は、第4実施例の燃料電池車両におけるスタックケース10Cと、排気ダクト22、および、吸気ダクト24を示す説明図である。スタックケース10Cと、排気ダクト22、および、吸気ダクト24を燃料電池車両の後方から見たときの断面図を示した。
【0055】
図示するように、第4実施例の燃料電池車両では、燃料電池スタック12は、第1実施例と同様に、スタックケース10C内の右側に配置されている。そして、そして、排気ダクト22は、スタックケース10Cの上面左側に接続されている。また、吸気ダクト24は、スタックケース10Cの下面に接続されている。なお、図示は省略しているが、排気ダクト22の排気開口部側の端部、および、吸気ダクト24の吸気開口部側の端部は、第1実施例における換気ダクト20における排気ダクト22、および、吸気ダクト24と同様に並設されており、第1実施例における換気ダクト20と同様に、連通口26によって連通している。
【0056】
スタックケース10C内において、燃料電池スタック12から漏洩した水素は、浮力によって上昇するので、スタックケース10C内の上部ほど水素の濃度が高くなり、下部ほど水素の濃度が低くなる。本実施例の燃料電池車両では、排気ダクト22の端部が、水素の濃度が高いスタックケース10Cの上面に接続されており、吸気ダクト24の端部が、水素の濃度が低いスタックケース10Cの下部に接続されているので、先に説明した自然対流を効果的に発生させることができる。
【0057】
以上説明した第4実施例の燃料電池車両によっても、第1実施例の燃料電池車両100と同様に、スタックケース10C内の換気を行うための換気装置を用いることなく、比較的簡易な構成で、燃料電池車両の起動スイッチがオフのときであっても、燃料電池スタック12を収容するスタックケース10C内の換気を行うことができる。
【0058】
E.第5実施例:
第5実施例の燃料電池車両の構成は、第1実施例の燃料電池車両100の構成とほぼ同じであり、燃料電池スタック12を収容するスタックケース10Dと換気ダクト20(排気ダクト22、および、吸気ダクト24)との接続が第1実施例の燃料電池車両100と異なっている。
【0059】
図7は、第5実施例の燃料電池車両におけるスタックケース10D、および、換気ダクト20を示す説明図である。スタックケース10D、および、換気ダクト20を燃料電池車両の後方から見たときの断面図を示した。
【0060】
図示するように、第5実施例の燃料電池車両では、燃料電池スタック12は、第1実施例と同様に、スタックケース10C内の右側に配置されている。また、排気ダクト22、および、吸気ダクト24は、スタックケース10Cの上面左側に接続されている。そして、吸気ダクト24は、スタックケース10D内の底面近傍まで延設されている。
【0061】
スタックケース10D内において、燃料電池スタック12から漏洩した水素は、浮力によって上昇するので、スタックケース10D内の底面近傍ほど水素の濃度が低くなる。本実施例の燃料電池車両では、吸気ダクト24の端部が、水素の濃度が低いスタックケース10D内の底面近傍まで延設されているので、先に説明した自然対流を効果的に発生させることができる。
【0062】
以上説明した第5実施例の燃料電池車両によっても、第1実施例の燃料電池車両100と同様に、スタックケース10D内の換気を行うための換気装置を用いることなく、比較的簡易な構成で、燃料電池車両の起動スイッチがオフのときであっても、燃料電池スタック12を収容するスタックケース10D内の換気を行うことができる。
【0063】
F.変形例:
以上、本発明のいくつかの実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、以下のような変形が可能である。
【0064】
F1.変形例1:
上記実施例では、燃料電池スタック12を収容したケース内の換気を行うための排気ダクト、および、吸気ダクトは、それぞれ、その機能が予め決められてケースに接続されていたが、本発明は、これに限られない。本発明は、一般に、排気ダクトの一方の端部が、ケース内において水素の濃度が比較的高くなる部位に接続され、吸気ダクトの一方の端部が、ケース内において水素の濃度が比較的低くなる部位に接続されればよい。したがって、例えば、燃料電池スタック12を収容したケース内において、水素の濃度が比較的高くなる部位に接続されたダクトが排気ダクトとして機能し、水素の濃度が比較的低くなる部位に接続されたダクトが吸気ダクトとして機能するようにしてもよい。
【0065】
図8は、変形例としての燃料電池車両におけるスタックケース10E、および、換気ダクト30F,30Rを示す説明図である。スタックケース10E、および、換気ダクト30F,30Rを電気車両の後方から見たときの断面図を示した。
【0066】
図示するように、本変形例の燃料電池車両では、燃料電池スタック12は、スタックケース10Eの前後方向のほぼ中央部に配置されている。そして、スタックケース10Eの前方側上面に、換気ダクト30Fが接続されており、スタックケース10Eの後方側上面に、換気ダクト30Rが接続されている。なお、換気ダクト30F,30Rは、先に説明した換気ダクト20とは異なり、排気ダクトと吸気ダクトとに分割されておらず、単管である。そして、換気ダクト30F,30Rは、以下に説明するように、それぞれ、排気ダクトとしても吸気ダクトとしても機能する。
【0067】
本変形例の燃料電池車両では、例えば、燃料電池車両が上り坂を走行中、あるいは、上り坂に駐停車中には、燃料電池スタック12から自ずと漏洩した水素は、浮力および拡散力によってスタックケース10E内の上部前方に移動して、換気ダクト30Fから自然排気される。このとき、水素の自然排気によって、スタックケース10E内に負圧が発生し、この負圧を補うように、換気ダクト30Rを介して空気が吸気される。一方、例えば、燃料電池車両が下り坂を走行中、あるいは、下り坂に駐停車中には、燃料電池スタック12から自ずと漏洩した水素は、浮力および拡散力によってスタックケース10E内の上部後方に移動して、換気ダクト30Rから自然排気される。このとき、水素の自然排気によって、スタックケース10E内に負圧が発生し、この負圧を補うように、換気ダクト30Fを介して空気が吸気される。このようにして、スタックケース10E内の自然対流による換気を行うことができる。
【0068】
F2.変形例2:
上記第1実施例では、換気ダクト20は、燃料電池車両100の前方の居室外の空間に延設されているものとしたが、本発明は、これに限られない。
【0069】
図9は、変形例としての燃料電池車両100A,100B,100Cを示す説明図である。図9(a)に示したように、燃料電池車両100Aでは、換気ダクト20は、燃料電池車両100Aの床下部を通って、燃料電池車両100Aの後方に延設されている。また、図9(b)に示したように、燃料電池車両100Bでは、換気ダクト20は、燃料電池車両100Bのピラー内に埋設されている。また、図9(c)に示したように、燃料電池車両100Cでは、換気ダクト20は、燃料電池車両100Cのフレーム内に埋設されている。このようにすることによって、燃料電池車両100A,100B,100C内のデッドスペースを有効利用して、換気ダクト20を配設することができる。
【0070】
なお、例えば、図5,6,8に示したように、ケースに複数のダクトが接続されている場合には、各ダクトを、燃料電池車両における異なる部位に、それぞれ延設するようにしてもよい。
【0071】
F3.変形例3:
上記実施例では、換気ダクト20は、連通口26を備えるものとしたが、これを省略してもよい。
【0072】
F4.変形例4:
上記第2実施例では、スタックケース10Aの前方側上面に、換気ダクト20が接続され、スタックケース10Aの後方側上面に、換気口14が設けられているものとしたが、これらの配置を逆にしてもよい。
【0073】
F5.変形例5:
上記実施例では、排気ダクト22の排気開口部、および、吸気ダクト24の吸気開口部は、ともに上方に開口しているものとしたが、本発明は、これに限られない。本発明では、排気ダクト22の排気開口部が上方に開口していればよく、吸気ダクト24の吸気開口部は、上方以外の方向に開口するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第1実施例としての燃料電池車両100の概略構成を示す説明図である。
【図2】スタックケース10内における燃料電池スタック12と換気ダクト20とスタックケース10との接続部との位置関係を示す説明図である。
【図3】換気ダクト20の排気開口部および吸気開口部の近傍を示す説明図である。
【図4】第2実施例の燃料電池車両におけるスタックケース10Aおよび換気ダクト20を示す説明図である。
【図5】第3実施例の燃料電池車両におけるスタックケース10Bおよび換気ダクト20F,20Rを示す説明図である。
【図6】第4実施例の燃料電池車両におけるスタックケース10Cと排気ダクト22および吸気ダクト24を示す説明図である。
【図7】第5実施例の燃料電池車両におけるスタックケース10Dおよび換気ダクト20を示す説明図である。
【図8】変形例としての燃料電池車両におけるスタックケース10Eおよび換気ダクト30F,30Rを示す説明図である。
【図9】変形例としての燃料電池車両100A,100B,100Cを示す説明図である。
【符号の説明】
【0075】
100,100A,100B,100C…燃料電池車両
10,10A,10B,10C,10D,10E…スタックケース
12…燃料電池スタック
14…換気口
16…膜
20,20F,20R…換気ダクト
22…排気ダクト
24…吸気ダクト
26…連通口
28…膜
30F,30R…換気ダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池車両であって、
燃料電池を収容するケースと、
前記燃料電池から漏洩した水素を前記ケースから排気するための排気ダクトと、
前記ケース内に空気を吸気するための吸気ダクトと、を備え、
前記排気ダクトの一方の端部は、前記ケース内において前記水素の濃度が比較的高くなる部位に接続されており、
前記排気ダクトの他方の端部は、前記ケースよりも高い位置で上方に開口し、防水性、および、通気性を有する膜によって被覆された排気開口部を備えており、
前記吸気ダクトの一方の端部は、前記ケース内において前記水素の濃度が比較的低くなる部位に接続されており、
前記吸気ダクトの他方の端部は、前記ケースよりも高い位置で開口し、防水性、および、通気性を有する膜によって被覆された吸気開口部を備える、
燃料電池車両。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池車両であって、
前記排気ダクトの一方の端部、および、前記吸気ダクトの一方の端部は、前記ケースの上面に接続されており、
前記燃料電池から前記排気ダクトと前記ケースとの接続部までの距離は、前記燃料電池から前記吸気ダクトと前記ケースとの接続部までの距離よりも小さい、
燃料電池車両。
【請求項3】
請求項1記載の燃料電池車両であって、
前記排気ダクトの一方の端部、および、前記吸気ダクトの一方の端部は、前記ケースの上面に接続されており、
前記吸気ダクトの一方の端部は、前記ケース内の底面近傍まで延設されている、
燃料電池車両。
【請求項4】
請求項1記載の燃料電池車両であって、
前記排気ダクトの一方の端部は、前記ケースの上面に接続されており、
前記吸気ダクトの一方の端部は、前記ケースの下部に接続されている、
燃料電池車両。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれかに記載の燃料電池車両であって、
前記排気ダクトと前記ケースとの接続部は、前記燃料電池車両の前方側に配置されており、
前記ケースは、前記燃料電池車両の後方側上面に、防水性、および、通気性を有する膜によって被覆された換気口を備える、
燃料電池車両。
【請求項6】
請求項2ないし4のいずれかに記載の燃料電池車両であって、
前記ケースには、複数の前記排気ダクトが接続されており、
第1の前記排気ダクトと前記ケースとの接続部は、前記燃料電池車両の前方側に配置されており、
第2の前記排気ダクトと前記ケースとの接続部は、前記燃料電池車両の後方側に配置されている、
燃料電池車両。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の燃料電池車両であって、
前記排気ダクトの他方の端部、および、前記吸気ダクトの他方の端部は、並設されており、
前記排気ダクトの他方の端部、および、前記吸気ダクトの他方の端部には、前記排気ダクトの前記排気開口部の近傍から前記吸気ダクトに連通する連通口が設けられている、
燃料電池車両。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の燃料電池車両であって、
前記排気ダクト、および、前記吸気ダクトの少なくとも一方は、前記燃料電池車両の後方に延設されている、
燃料電池車両。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれかに記載の燃料電池車両であって、
前記排気ダクト、および、前記吸気ダクトの少なくとも一方の一部は、前記燃料電池車両のピラー内に埋設されている、
燃料電池車両。
【請求項10】
請求項1ないし7のいずれかに記載の燃料電池車両であって、
前記排気ダクト、および、前記吸気ダクトの少なくとも一方の一部は、前記燃料電池車両のフレーム内に埋設されている、
燃料電池車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−126015(P2010−126015A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303541(P2008−303541)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】