説明

燃料電池車両

【課題】本発明は、燃料電池システムを車両後部のフロア下に効率的に搭載し、かつ、車両後部に前向き衝撃力が作用した場合に燃料電池システムを保護することを目的とする。
【解決手段】このため、燃料電池システムは燃料電池スタックと吸気ダクトと排気ダクトとを一体化した燃料電池ユニットと燃料ガスを貯蔵するガスタンクとを備え、フロントフロアに縦壁部を介して連結されるリヤフロアの下方であり、かつ縦壁部と隣接する空間にガスタンクを配置し、ガスタンク後方に燃料電池ユニットを配置した燃料電池車両において、車両幅方向に延び左右の後輪間を連絡するアクスルビームをガスタンク後方に配置し、燃料電池ユニットをアクスルビームとリヤバンパの間に配置し、吸気ダクトの上流部または排気ダクトの下流部のうち少なくとも一方によって燃料電池スタックの前部と後部の縦壁を覆っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は燃料電池車両に係り、特に吸気ダクトと排気ダクトを取り付けた燃料電池スタックを搭載した燃料電池車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、水素ガス供給装置と空気供給装置と冷却装置とを備える。
従来、車両用の燃料電池システムでは、燃料電池スタックの出力密度を向上させるため、空気をコンプレッサで加圧して燃料電池スタックに供給する一方、冷却水によって燃料電池スタックを冷却する水冷式の燃料電池システムが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−42828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1には、水冷式の燃料電池システムを搭載する燃料電池車両について、燃料電池スタックとその付属装置を梯子状のサブフレームに組み付け、これらを一体で車体の後部に搭載する構造が記載されている。
このような構造の場合、燃料電池システムの車両への搭載性が向上するとともに、車両の後部に前向きの衝撃力が作用した場合に、サブフレームによって燃料電池システムを保護できる。
しかし、サブフレームの分だけ車両下部の空間が減少するため、車両の下部には燃料電池スタックを搭載できず、燃料電池スタックにより車両の室内空間が減少するという不都合がある。
ところで、燃料電池システムには、空気を反応ガス兼冷却媒体として使用する空冷式の燃料電池システムがある。
この空冷式の燃料電池システムは、吸気ダクトと排気ダクトとファンとにより燃料電池スタックヘの空気供給と冷却とが行えるため、水冷式の燃料電池システムと比べて付属装置の構造が簡素である。
このため、空冷式の燃料電池システムは車両の下部へ搭載し易い。
しかし、車両の後部に前向きの衝撃力が作用した場合に燃料電池システムを保護する構造を追加することが必要となるという不都合がある。
【0005】
この発明は、燃料電池システムを車両後部のフロア下に効率的に搭載し、かつ、車両の後部に前向きの衝撃力が作用した場合に、簡素な構造で燃料電池システムを保護することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、この発明は、上述不都合を除去するために、燃料電池システムは燃料電池スタックと吸気ダクトと排気ダクトとを一体化した燃料電池ユニットと燃料ガスを貯蔵するガスタンクとを備え、フロントフロアに縦壁部を介して連結されるリヤフロアの下方であり、かつ、前記縦壁部と隣接する空間に前記ガスタンクを配置し、このガスタンクの後方に前記燃料電池ユニットを配置した燃料電池車両において、車両幅方向に延びるとともに左右の後輪間を連絡するアクスルビームを前記ガスタンク後方に配置し、前記燃料電池ユニットを前記アクスルビームとリヤバンパとの間に配置し、前記吸気ダクトの上流部、または、前記排気ダクトの下流部のうち少なくとも一方によって前記燃料電池スタックの前部と後部の縦壁を覆ったことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
以上詳細に説明した如くこの発明によれば、車両幅方向に延びるとともに、左右の後輪間を連絡するアクスルビームをガスタンクの後方に配置し、燃料電池ユニットをアクスルビームとリヤバンパとの間に配置したため、燃料電池システムを車両後部のフロア下に効率的に搭載できる。
また、車両の後部に前向きの衝撃力が作用した場合、アクスルビームによって燃料電池ユニットの車両前方への移動を規制し、燃料電池ユニットがガスタンクと衝突することを防止できる。
更に、吸気ダクトの上流部、または、排気ダクトの下流部のうち少なくとも一方によって燃料電池スタックの前部と後部の縦壁を覆った。
このため、燃料電池ユニットが衝撃力で車両前方へ移動し、リヤバンパとアクスルビームとの間に挟まれた場合、吸気ダクトまたは排気ダクトを変形させて衝撃力を吸収し、燃料電池スタック自体を保護することができる。
よって、本発明では、燃料電池システムを車両後部のフロア下に効率的に搭載し、かつ、車両の後部に前向きの衝撃力が作用した場合、ガスタンクと燃料電池スタックの両者を保護することができる。
さらに、燃料電池ユニットの左右両側がアクスルビームの左右両側部と左右の後輪とによって覆われるため、車両の左側部または右側部に左右方向の衝撃力が作用した場合、簡素な構造で燃料電池スタックを衝撃力から保護できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は燃料電池車両後部の側面図である。(実施例)
【図2】図2は燃料電池車両後部の平面図である。(実施例)
【図3】図3は燃料電池ユニットの分解斜視図である。(実施例)
【図4】図4は燃料電池ユニットの斜視図である。(実施例)
【図5】図5は燃料電池ユニットの平面図である。(実施例)
【図6】図6は図5のA−A線による燃料電池ユニットの縦断面図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下図面に基づいてこの発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例】
【0010】
図1〜図6はこの発明の実施例を示すものである。
図1及び図2において、1は四輪車である燃料電池車両である。
この燃料電池車両1は、空気を反応ガス兼冷却媒体として使用する空冷式の燃料電池システム2を備えている。
そして、この燃料電池システム2は、図1〜図4に示す如く、燃料電池スタック3と吸気ダクト4と排気ダクト5とを一体化した燃料電池ユニット6と燃料ガスを貯蔵するガスタンク7とを備えている。
このとき、フロントフロア8に縦壁部9を介して連結されるリヤフロア10の下方であり、かつ、前記縦壁部9と隣接する空間11に前記ガスタンク7を配置し、このガスタンク7の後方に前記燃料電池ユニット6を配置している。
また、燃料電池車両1は、車両幅方向に延びるとともに左右の後輪12、13間を連絡するアクスルビーム14を前記ガスタンク7後方に配置し、前記燃料電池ユニット6を前記アクスルビーム14とリヤバンパ15との間に配置し、前記吸気ダクト4の上流部、または、前記排気ダクト5の下流部のうち少なくとも一方によって前記燃料電池スタック3の前部と後部の縦壁3a、3bを覆う構成とする。
そして、車両幅方向に延びるとともに、左右の後輪間を連絡する前記アクスルビーム14を前記ガスタンク7の後方に配置し、前記燃料電池ユニット6をアクスルビーム14と前記リヤバンパ15との間に配置したため、前記燃料電池システム2を車両後部のフロアである前記リヤフロア10下に効率的に搭載するものである。
また、車両の後部に前向きの衝撃力が作用した場合、前記アクスルビーム14によって前記燃料電池ユニット6の車両前方への移動を規制し、燃料電池ユニット6が前記ガスタンク7と衝突することを防止する。
更に、前記吸気ダクト4の上流部、または、前記排気ダクト5の下流部のうち少なくとも一方によって前記燃料電池スタック3の前部と後部の縦壁3a、3bを覆い、前記燃料電池ユニット6が衝撃力で車両前方へ移動し、前記リヤバンパ15と前記アクスルビーム14との間に挟まれた場合、前記吸気ダクト4または前記排気ダクト5を変形させて衝撃力を吸収し、前記燃料電池スタック3自体を保護する。
よって、本発明では、前記燃料電池システム2を車両後部のフロアである前記リヤフロア10下に効率的に搭載し、かつ、前記燃料電池車両1の後部に前向きの衝撃力が作用した場合、前記ガスタンク7と前記燃料電池スタック3の両者を保護している。
さらに、前記燃料電池ユニット6の左右両側が前記アクスルビーム14の左右両側部と左右の後輪12、13とによって覆われるため、車両の左側部または右側部に左右方向の衝撃力が作用した場合、前記燃料電池スタック3を衝撃力から保護している。
【0011】
詳述すれば、前記燃料電池ユニット6は、図3〜図6に示す如く、燃料電池スタック3を固定するフレーム16と、燃料電池スタック3の下方の左右に取り付けられる前記吸気ダクト4と、燃料電池スタック3の上部と前後部位とを覆う前記排気ダクト5とを備えている。
このとき、この排気ダクト5は、フロント排気ダクト17とリヤ排気ダクト18とからなる。そして、フロント排気ダクト17は、前記燃料電池スタック3の前側上部を覆うフロントアッパカバー19と燃料電池スタック3の前側を覆うフロントカバー20とからなる。また、前記リヤ排気ダクト18は、前記燃料電池スタック3の後側上部を覆うリヤアッパカバー21と燃料電池スタック3の後側を覆うリヤカバー22とからなる。
そして、前記燃料電池スタック3の前部と後部の縦壁3a、3bを、図6に示す如く、例えば前記排気ダクト5の下流部によって覆っている。
【0012】
また、前記燃料電池スタック3の前部と後部の縦壁3a、3bを覆う前記排気ダクト5の下流部は、図6に示す如く、その通路24、25が車両上下方向に延びている。
これにより、前記排気ダクト5のフロントカバー20の下流部に位置するフロント側の通路24と排気ダクト5のリヤカバー22の下流部に位置するリヤ側の通路25とを、車両前後方向の衝撃力が作用した場合に変形し易い向きに向け、車両前後方向から作用する衝撃力の吸収性を高めることができる。
【0013】
更に、前記燃料電池ユニット6の上方に充電可能な二次電池(「バッテリ」ともいう。)26を配置している。
つまり、図1に示す如く、前記燃料電池車両1のリヤシート27と前記リヤバンパ15及びこのリヤバンパ15の上部に位置するバックドア28との間の前記リヤフロア10上に、前記燃料電池スタック3の発電を停止していても走行できるように、充電可能な前記二次電池26を配置するものである。
前記二次電池26は前記燃料電池ユニット6や前記ガスタンク7と比べて剛性が高く潰れにくい構造である。
このため、前記二次電池26を前記燃料電池ユニット6の上方に配置し、車両の後部に前向きの衝撃力で二次電池26が車両前方へ移動したとしても、二次電池26が燃料電池ユニット6や前記ガスタンク7に衝突しない構造としている。
これにより、このガスタンク7や前記燃料電池ユニット6を前記二次電池26との衝突から保護できる。
【0014】
追記すれば、前記燃料電池スタック3は、図6に示す如く、空気を内部へ取り入れる空気取入面29と、図3及び図6に示す如く、空気を外部へ排出する空気排出面30とを互いに対向する側面に備えている。
このとき、前記燃料電池スタック3は、空気排出面30を上側に向けて前記燃料電池車両1のリヤフロア10下に配置され、空気排出面30側に空気を吸い出すファン31が複数個配置されている。
そして、前記燃料電池スタック3を、この燃料電池スタック3の前後両側と左右両側を囲む枠状の前記フレーム16に固定し、このフレーム16の外側部に前記吸気ダクト4と前記排気ダクト5とを取り付けている。
このとき、吸気ダクト4の通路(図示せず)を前記空気取入面29と燃料電池スタック3の左右両端部の縦壁(図示せず)に沿わせるとともに、前記通路の左右両端部と中央部に夫々、空気取入口23を上向きに開口させている。
また、前記排気ダクト5については、フロント側の通路24及びリヤ側の通路25を、空気排出面30と燃料電池スタック3の前部と後部の縦壁3a、3bに沿わせるとともに、これらの通路24、通路25の前後両端部に一対の空気排出口32、33を夫々開口させている。
このとき、フロント側の空気排出口32は、図6のハッチング付矢印で示す如く、前記吸気ダクト4の前方を上方から下方に流れる空気を吸気ダクト4の下面に沿って車両後方へ排出している。
また、リヤ側の空気排出口33は、図6のハッチング付矢印で示す如く、吸気ダクト4の後方を上方から下方に流れる空気を車両後方へ排出している。
なお、本発明の実施例においては、前記排気ダクト5の下流部によって前記燃料電池スタック3の前部と後部の縦壁3a、3bを覆ったが、前記吸気ダクト4と排気ダクト5との構造を入れ替え、吸気ダクト4の上流部によって燃料電池スタック3の前部と後部の縦壁を覆う構成としてもよい。
【符号の説明】
【0015】
1 燃料電池車両
2 燃料電池システム
3 燃料電池スタック
3a、3b 縦壁
4 吸気ダクト
5 排気ダクト
6 燃料電池ユニット
7 ガスタンク
8 フロントフロア
9 縦壁部
10 リヤフロア
11 空間
12、13 左右の後輪
14 アクスルビーム
15 リヤバンパ
16 フレーム
17 フロント排気ダクト
18 リヤ排気ダクト
19 フロントアッパカバー
20 フロントカバー
21 リヤアッパカバー
22 リヤカバー
23 空気取入口
24、25 通路
26 二次電池(「バッテリ」ともいう。)
27 リヤシート
28 バックドア
29 空気取入面
30 空気排出面
31 ファン
32、33 空気排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムは燃料電池スタックと吸気ダクトと排気ダクトとを一体化した燃料電池ユニットと燃料ガスを貯蔵するガスタンクとを備え、フロントフロアに縦壁部を介して連結されるリヤフロアの下方であり、かつ、前記縦壁部と隣接する空間に前記ガスタンクを配置し、このガスタンクの後方に前記燃料電池ユニットを配置した燃料電池車両において、車両幅方向に延びるとともに左右の後輪間を連絡するアクスルビームを前記ガスタンク後方に配置し、前記燃料電池ユニットを前記アクスルビームとリヤバンパとの間に配置し、前記吸気ダクトの上流部、または、前記排気ダクトの下流部のうち少なくとも一方によって前記燃料電池スタックの前部と後部の縦壁を覆ったことを特徴とする燃料電池車両。
【請求項2】
前記吸気ダクトの上流部、または、前記排気ダクトの下流部の少なくとも一方のうち前記燃料電池スタックの前部と後部の縦壁を覆うものは、その通路が車両上下方向に延びることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池車両。
【請求項3】
前記燃料電池ユニットの上方に充電可能な二次電池を配置したことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−232673(P2012−232673A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102815(P2011−102815)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】