燃料電池車両
【課題】簡単な構成で、外部荷重に対して燃料電池スタックを良好に保護するとともに、燃料電池車両の組み立て作業性を容易に向上させることを可能にする。
【解決手段】燃料電池車両10は、複数の燃料電池16が積層される燃料電池スタック14を備え、前記燃料電池スタック14は、スライド機構46を介してレール部材42a、42bに沿って直線状に移動可能に構成される。スライド機構46は、燃料電池スタック14が搭載されるスライド板48を備えるとともに、前記スライド板48は、レール部材42a、42bに前後方向に移動可能に支持される。
【解決手段】燃料電池車両10は、複数の燃料電池16が積層される燃料電池スタック14を備え、前記燃料電池スタック14は、スライド機構46を介してレール部材42a、42bに沿って直線状に移動可能に構成される。スライド機構46は、燃料電池スタック14が搭載されるスライド板48を備えるとともに、前記スライド板48は、レール部材42a、42bに前後方向に移動可能に支持される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、車両走行用の負荷に電力を出力する燃料電池スタックを備える燃料電池車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜の両側に、アノード側電極とカソード側電極とを配設した電解質膜・電極構造体(MEA)を、セパレータによって挟持した発電ユニットを備えている。この種の燃料電池は、通常、所定の数(例えば、数百)の発電ユニットを積層することにより、燃料電池スタックを構成するとともに、前記燃料電池スタックは、車載用燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
上記の燃料電池スタックが搭載された燃料電池車両では、例えば、前方からの衝撃が燃料電池スタックに作用した際には、前記燃料電池スタックを保護する必要がある。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている車両が知られている。この車両は、図12に示すように、電気自動車であり、エンジンコンパートメント1内の下方には、駆動用モータ2が配置されている。
【0005】
エンジンコンパートメント1内において、駆動用モータ2の鉛直上方には、燃料電池3が配置されるとともに、前記燃料電池3の一端側は、支持シャフト4を介して車両高さ方向に回転可能に構成されている。燃料電池3の他端側には、ブラケット5が設けられており、前記ブラケット5は、駆動用モータ2の上面に接合されている。
【0006】
そこで、車両が前方からの衝撃を受けた場合、搭載物6は、衝撃によって後方に移動し、駆動用モータ2に衝突する。駆動用モータ2は、搭載物6の衝突によって後方且つ鉛直下方向に移動する(図12中、破線位置〜実線位置参照)。このため、燃料電池3は、ブラケット5が駆動用モータ2から離間するため、支持シャフト4の軸を支点にして鉛直下方向に回転する。従って、車両が外部から衝撃を受けた時に、燃料電池3は、ダッシュパネルDPへの衝突が抑制される、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−162108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1では、車両が外部から衝撃を受けた時に、燃料電池3が支持シャフト4を支点にして下方に回転する際、この燃料電池3が駆動用モータ2に衝突するおそれがある。このため、燃料電池3のケース部材や駆動用モータ2のケース部材が破損するという問題がある。従って、燃料電池3及び駆動用モータ2の各ケース部材を高強度に構成しなければならず、経済的ではないという問題がある。
【0009】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、簡単な構成で、外部荷重に対して燃料電池スタックを良好に保護するとともに、燃料電池車両の組み立て作業性を容易に向上させることが可能な燃料電池車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、車両走行用の負荷に電力を出力する燃料電池スタックを備える燃料電池車両に関するものである。
【0011】
この燃料電池車両は、車両側フレーム部材に設けられるガイド部材と、燃料電池スタックを前記ガイド部材に沿って直線状に移動可能なスライド機構とを備えている。
【0012】
また、この燃料電池車両では、スライド機構は、燃料電池スタックを支持するスライド部材を備えるとともに、ガイド部材は、前記燃料電池車両の前後方向に延在し、前記スライド部材を前記前後方向に移動可能に支持することが好ましい。
【0013】
さらに、この燃料電池車両では、スライド部材をガイド部材に固定する一方、外部荷重が付与された際に破断又は離脱して前記スライド部材の固定機能が解除される係止部材を備えることが好ましい。
【0014】
さらにまた、この燃料電池車両では、スライド部材には、燃料電池スタックよりも前後方向前方に突出し、前記燃料電池車両の前方から荷重が付与された際に前記荷重を受ける突出部が設けられることが好ましい。
【0015】
また、この燃料電池車両では、ガイド部材の前後方向後方には、スライド部材の前記前後方向後方への移動を規制するストッパが設けられることが好ましい。
【0016】
さらに、この燃料電池車両では、ガイド部材は、スライド部材を前後方向後方に向かって下方に傾斜する方向に移動可能に構成されることが好ましい。
【0017】
さらにまた、この燃料電池車両では、ガイド部材は、スライド部材を前後方向後方に向かって水平方向に移動可能に構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、燃料電池スタックは、スライド機構を介してガイド部材に沿って直線状に移動可能である。このため、燃料電池スタックをスライド機構に取り付けた後、前記燃料電池スタックを燃料電池車両の所望の部位に容易且つ正確に組み込むことができる。従って、燃料電池車両の組み立て作業性を容易に向上させることが可能になる。
【0019】
しかも、燃料電池車両に外部荷重が付与された際、燃料電池スタックは、スライド機構を介してガイド部材に沿って直線状に移動することができる。これにより、簡単な構成で、燃料電池スタックを有効に保護することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池車両の側面説明図である。
【図2】前記燃料電池車両の正面説明図である。
【図3】前記燃料電池車両を構成するスライド機構の概略斜視説明図である。
【図4】前記燃料電池車両を構成する燃料電池システムの概略構成説明図である。
【図5】前記燃料電池車両に外部荷重が付与された際の説明図である。
【図6】他のスライド板の説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池車両を構成するスライド機構の要部斜視説明図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る燃料電池車両を構成するスライド機構の要部斜視説明図である。
【図9】本発明の第4の実施形態に係る燃料電池車両の側面説明図である。
【図10】前記燃料電池車両を構成するスライド機構の要部斜視説明図である。
【図11】本発明の第5の実施形態に係る燃料電池車両を構成するスライド機構の要部斜視説明図である。
【図12】特許文献1に開示されている車両の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池車両10は、フロントボックス(所謂、モータルーム)12に収容される燃料電池スタック14を備える。
【0022】
燃料電池スタック14は、図2及び図3に示すように、複数の燃料電池16が燃料電池車両10の車長方向(矢印L方向)に交差する車幅方向(矢印H方向)に積層されて構成される。なお、燃料電池16は、車長方向又は車高方向に積層して構成してもよい。
【0023】
図2に示すように、各燃料電池16は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜18をカソード電極20とアノード電極22とで挟持した電解質膜・電極構造体(MEA)24を備える。なお、固体高分子電解質膜18は、フッ素系イオン交換膜の他、炭化水素(HC)系イオン交換膜を使用してもよい。
【0024】
カソード電極20及びアノード電極22は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層と、白金合金(又はRu等)が表面に担持された多孔質カーボン粒子が前記ガス拡散層の表面に一様に塗布されて形成された電極触媒層とを有する。電極触媒層は、固体高分子電解質膜18の両面に形成される。
【0025】
電解質膜・電極構造体24は、カソード側セパレータ26及びアノード側セパレータ28で挟持される。カソード側セパレータ26及びアノード側セパレータ28は、例えば、カーボンセパレータ又は金属セパレータで構成される。
【0026】
カソード側セパレータ26と電解質膜・電極構造体24との間には、酸化剤ガス流路30が設けられるとともに、アノード側セパレータ28と前記電解質膜・電極構造体24との間には、燃料ガス流路32が設けられる。燃料電池16間には、冷却媒体流路34が形成される。燃料電池スタック14は、各燃料電池16の積層方向に延在して各酸化剤ガス流路30に連通する酸化剤ガス連通孔、各燃料ガス流路32に連通する燃料ガス連通孔及び各冷却媒体流路34に連通する冷却媒体連通孔を設ける内部マニホールドを構成する。
【0027】
燃料電池スタック14の積層方向両端には、エンドプレート36a、36bが配設され、前記エンドプレート36a、36bは、例えば、複数の締結ボルトにより積層方向に締め付け荷重が付与される。
【0028】
図1〜図3に示すように、燃料電池車両10は、車両のサイドフレーム(フレーム部材)40a、40bを矢印L方向に延在して一対設けており、前記サイドフレーム40a、40bには、ガイド部材としてレール部材42a、42bが固着される。
【0029】
レール部材42a、42bは、それぞれサイドフレーム40a、40bの一方の側面40as、40bsに固着されて、矢印L方向に平行に延在しているが、それぞれ前記側面40as、40bsとは反対側の、すなわち、内側の側面に固着してもよい。
【0030】
レール部材42a、42bは、上方に開口する溝部44a、44bを有するとともに、前記溝部44a、44bには、燃料電池スタック14をレール部材42a、42bに沿って直線状に矢印L方向に移動可能なスライド機構46が設けられる。
【0031】
スライド機構46は、燃料電池スタック14を支持するスライド板(スライド部材)48を備える。スライド板48の底部には、レール部材42a、42bの溝部44a、44bに収容されるガイド板部50a、50bが設けられ、前記ガイド板部50a、50bが、前記レール部材42a、42bに沿ってスライド可能である。
【0032】
スライド板48上には、エンドプレート36a、36bが、それぞれ複数のボルト52を介して固定される。レール部材42aの底部からスライド板48のガイド板部50aの底部には、ノックピン又はボルトである係止部材54aが複数本、例えば、2本取り付けられる。係止部材54aは、燃料電池車両10に外部荷重が付与された際、頭部54aaが破断又は離脱して、スライド板48の固定機能を解除する。
【0033】
レール部材42bの底部からスライド板48のガイド板部50bの底部には、同様に、複数本のノックピンやボルトである係止部材54bが取り付けられる。係止部材54bは、外部荷重の付与によって破断又は離脱する頭部54bbを有する。
【0034】
燃料電池スタック14の下方には、サイドフレーム40a、40bの間に位置して走行用モータ56が配置される。
【0035】
スライド板48には、燃料電池スタック14よりも矢印L方向前方に突出し、燃料電池車両10の前方から荷重が付与された際に、前記荷重を受ける突出部49が設けられる。この突出部49は、スライド板48の先端を燃料電池スタック14から外方に突出させればよく、また、前記スライド板48の先端部に別部材で突出部を形成してもよい。
【0036】
レール部材42a、42bの矢印L方向後方には、スライド板48の前記後方への移動を規制するストッパ58が設けられる。ストッパ58は、レール部材42a又は42bと一体に構成してもよく、あるいは、別部材により構成してもよい。
【0037】
図4に示すように、燃料電池車両10には、燃料電池システム60が搭載される。燃料電池システム60は、燃料電池スタック14に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置62と、前記燃料電池スタック14に燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置64と、前記燃料電池スタック14に冷却媒体を供給する冷却媒体供給装置66と、前記燃料電池車両10全体の制御を行うコントローラ(ECU)68とを備える。
【0038】
酸化剤ガス供給装置62は、大気からの空気を圧縮して供給するエアポンプ70を備え、前記エアポンプ70が空気供給流路72に配設される。空気供給流路72には、供給ガスと排出ガスとの間で水分と熱を交換する加湿器74が配設されるとともに、前記空気供給流路72は、燃料電池スタック14の酸化剤ガス流路30の入口側に連通する。
【0039】
酸化剤ガス供給装置62は、酸化剤ガス流路30の出口側に連通する空気排出流路76を備える。空気排出流路76は、加湿器74の加湿媒体通路(図示せず)に連通するとともに、この空気排出流路76には、エアポンプ70から空気供給流路72を通って燃料電池スタック14に供給される空気の圧力を調整するための開度調整可能な背圧制御弁78が設けられる。
【0040】
燃料ガス供給装置64は、高圧水素を貯留する水素タンク(H2タンク)80を備え、この水素タンク80は、水素供給流路82を介して燃料電池スタック14の燃料ガス流路32の入口側に連通する。この水素供給流路82には、遮断弁84、エゼクタ86及び必要に応じて水素ポンプ88が設けられる。
【0041】
エゼクタ86は、水素タンク80から供給される水素ガスを、水素供給流路82を通って燃料電池スタック14に供給するとともに、前記燃料電池スタック14で使用されなかった未使用の水素ガスを含む排ガスを、水素循環路90から吸引して、再度、前記燃料電池スタック14に燃料ガスとして供給する。
【0042】
燃料ガス流路32の出口側には、オフガス流路92が連通する。オフガス流路92の途上には、水素循環路90が連通するとともに、前記オフガス流路92には、パージ弁94が接続される。
【0043】
冷却媒体供給装置66は、燃料電池スタック14に設けられる冷却媒体流路34の入口側及び出口側に連通し、冷却媒体を前記燃料電池スタック14に循環させる冷却媒体循環路96を備える。冷却媒体循環路96には、ラジエータ98、冷却ポンプ100及びイオン交換器102が接続される。図1に示すように、ラジエータ98は、燃料電池車両に燃料電池スタック14の前方に位置して配置される。
【0044】
図1及び図3に示すように、スライド機構46を構成するスライド板48上には、燃料電池スタック14の他、燃料電池システム60の構成部品が搭載部品104として搭載される。好ましくは、水素供給系部品、高圧部品及びエンクロージャー(筐体部品)が搭載される。
【0045】
具体的には、燃料ガス供給装置64を構成する遮断弁84、水素ポンプ88及びその他の各種バルブ類やエアポンプ、PDU(パワードライブユニット)、水素ポンプPDU、DC−DCコンバータ、燃料電池VCU(ヴェヒクルコントロールユニット)、燃料電池コンタクタ、エアコンコンプレッサ及びエアコンヒータ等が、搭載部品104としてスライド板48上に搭載される。その他、搭載部品104として、空気供給系部品、例えば、酸化剤ガス供給装置62を構成するエアポンプ70及び加湿器74が、必要に応じてスライド板48上に搭載される。
【0046】
さらにまた、冷却系部品、例えば、冷却媒体供給装置66を構成する冷却ポンプ100及びイオン交換器102が、搭載部品104として必要に応じてスライド板48上に搭載される。なお、図示していないが、水素センサやスタック内部インピーダンス測定用のデバイス等も、スライド板48上に搭載してもよい。
【0047】
このように構成される燃料電池車両10において、燃料電池システム60の動作について以下に説明する。
【0048】
図4に示すように、酸化剤ガス供給装置62を構成するエアポンプ70を介して、空気供給流路72に酸化剤ガス(空気)が送られる。この酸化剤ガスは、加湿器74を通って加湿された後、燃料電池スタック14の酸化剤ガス流路30の入口側に供給される。
【0049】
一方、燃料ガス供給装置64では、遮断弁84の開放作用下に、水素タンク80から水素供給流路82に燃料ガス(水素ガス)が供給される。この燃料ガスは、エゼクタ86を通った後、水素ポンプ88の作用下に、燃料電池スタック14の燃料ガス流路32の入口側に供給される。
【0050】
また、冷却媒体供給装置66では、冷却ポンプ100の作用下に、冷却媒体循環路96から燃料電池スタック14の冷却媒体流路34の入口側に純水やエチレングリコールオイル等の冷却媒体が供給される。
【0051】
燃料電池スタック14内では、酸化剤ガスが、酸化剤ガス流路30に導入されて電解質膜・電極構造体24のカソード電極20に供給される。一方、燃料ガスは、燃料ガス流路32に導入されて電解質膜・電極構造体24のアノード電極22に供給される。
【0052】
従って、各電解質膜・電極構造体24では、カソード電極20に供給される酸化剤ガスと、アノード電極22に供給される燃料ガスとが、電極触媒層内で電気化学反応により消費されて発電が行われる。これにより、走行用モータ56に電力が供給されるため、燃料電池車両10は、走行可能になる。
【0053】
また、冷却媒体は、冷却媒体流路34に導入された後、電解質膜・電極構造体24を冷却し、冷却媒体循環路96に戻される。
【0054】
次いで、カソード電極20から排出された酸化剤ガスは、空気排出流路76を流通して加湿器74に導入され、新たな酸化剤ガスを加湿する。一方、アノード電極22から排出された燃料ガスは、エゼクタ86に吸引されて燃料電池スタック14に供給される。
【0055】
燃料電池車両10では、上記のように、燃料電池スタック14から電力が供給されて走行される。その際、燃料電池車両10に前方から衝撃が加わると、図5に示すように、前記燃料電池車両10の前方部分10fに外部荷重Fが作用する。このため、前方部分10fが内部に変形し、ラジエータ98を進行方向後方(矢印Lb方向)に移動させる。従って、ラジエータ98は、燃料電池スタック14を搭載しているスライド板48から前方に突出する突出部49に衝突する。
【0056】
スライド板48は、ガイド板部50a、50bとレール部材42a、42bとに取り付けられている係止部材54a、54bにより固定されており、前記スライド板48に矢印Lb方向への衝撃が付与されると、前記係止部材54a、54bは、頭部54aa、54bbで破断する。これにより、スライド板48は、レール部材42a、42bの案内作用下に、水平方向後方に移動してストッパ58に当接することにより停止される。
【0057】
このように、燃料電池車両10に外部荷重Fが付与された際、燃料電池スタック14は、スライド機構46を構成するスライド板48上に載置された状態で、前記外部荷重Fが直接付与されることがなく、前記スライド板48と一体にレール部材42a、42bに沿って直線状に移動することができる。このため、簡単な構成で、燃料電池スタック14を確実に保護することが可能になるという効果が得られる。
【0058】
さらに、スライド板48上には、特に、水素供給系部品や高圧部品、さらに、エンクロージャー等を搭載部品104として搭載することができる。従って、搭載部品104の損傷を良好に回避することが可能になるという利点がある。
【0059】
さらにまた、第1の実施形態では、燃料電池スタック14は、スライド機構46を介してガイド部材であるレール部材42a、42bに沿って直線上に移動することができる。
【0060】
このため、燃料電池スタック14を燃料電池車両10に組み込む際、前記燃料電池スタック14をスライド機構46に取り付けた後、該燃料電池スタック14の位置決めを容易且つ正確に行うことが可能になる。これにより、燃料電池スタック14は、燃料電池車両10に効率的に組み込むことができ、前記燃料電池車両10の組立作業性を容易に向上させることが可能になる。
【0061】
また、燃料電池スタック14の後方への移動は、ストッパ58により規制されるため、前記燃料電池スタック14がキャビン(図示せず)内に侵入することを確実に阻止することが可能になる。
【0062】
なお、第1の実施形態では、スライド機構46を構成するスライド板48が矩形上の板材で構成されているが、これに限定されるものではない。例えば、燃料電池スタック14の下部側に、他の部品を配置する必要がある際には、図6に示すように、枠状のスライド板48aを採用することができる。
【0063】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池車両110を構成するスライド機構112の要部斜視説明図である。なお、第1の実施形態に係る燃料電池車両10と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、以下に説明する第3以降の実施形態においても同様に、その詳細な説明は省略する。
【0064】
サイドフレーム40a、40bの上面40au、40buには、ガイド部材であるレール部材124a、124bが固定される。レール部材124a、124bは、断面コ字状を有し、それぞれの開口部126a、126bが互いに矢印H方向に対向して配置される。
【0065】
スライド機構112は、スライド板128を備える。このスライド板128の矢印H方向両端部が、レール部材124a、124bの開口部126a、126bに配置される。スライド板128とレール部材124a、124bとは、前記レール部材124a、124bの側方から挿入される係止部材54a、54bを介して固定される。
【0066】
スライド板128上には、燃料電池スタック14及びその他必要に応じて各種部品が搭載部品104として搭載されるとともに、前記燃料電池スタック14が前記スライド板128の先端から内方に配置されることにより、この先端には、突出部128aが形成される。
【0067】
このように構成される第2の実施形態では、燃料電池スタック14は、スライド機構112を介してレール部材124a、124bに沿って直線状に移動することができる。このため、燃料電池車両110の組立作業性が向上するとともに、燃料電池スタック14を良好に保護することが可能になる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0068】
さらに、レール部材124a、124bは、断面コ字状を有し、それぞれの開口部126a、126bにスライド板128の矢印H方向両端部が挿入支持されている。従って、燃料電池車両110に外部荷重が付与された際、スライド板128が上方に移動することを確実に阻止することができるという利点が得られる。
【0069】
図8は、本発明の第3の実施形態に係る燃料電池車両130を構成するスライド機構132の要部斜視説明図である。
【0070】
燃料電池車両130では、サイドフレーム40a、40b上にレール部材(ガイド部材)134a、134bが固定される。レール部材134a、134bは、断面形状がコ字状の下部開放側の端部から上方に膨出する突出部136a、136bを設け、その内部に開口部138a、138bが形成される。
【0071】
スライド機構132を構成するスライド板140は、矢印H方向両端部に、下方に突出する膨出部142a、142bを有する。膨出部142a、142bは、突出部136a、136bを跨いで開口部138a、138bに配置される。スライド板140の先端には、突出部140aが構成される。スライド板140とレール部材134a、134bとは、係止部材54a、54bにより固定される。
【0072】
このように、第3の実施形態では、上記の第1及び第2の実施形態と同様の効果が得られるとともに、レール部材134a、134bの突出部136a、136bとスライド板140の膨出部142a、142bとの係合作用下に、前記スライド板140の矢印H方向の移動を確実に規制することができる。
【0073】
図9及び図10に示すように、本発明の第4の実施形態に係る燃料電池車両150を構成するスライド機構152は、レール部材(ガイド部材)154a、154bを備える。レール部材154a、154bは、サイドフレーム40a、40bの側面40asi、40bsiに車長方向後方に向かって下方に傾斜して固定される。
【0074】
レール部材154a、154bは、例えば、第1の実施形態のレール部材42a、42bと同様に構成されており、スライド機構152は、第1の実施形態のスライド機構46と同様に構成される。なお、第4の実施形態では、第2又は第3の実施形態の構成を採用してもよい。
【0075】
このように構成される燃料電池車両150では、外部荷重が付与された際、燃料電池スタック14は、スライド機構152及びレール部材154a、154bの案内作用下に、車長方向後方に向かって下方に傾斜する方向に移動することができる。このため、燃料電池スタック14の矢印Lb方向への移動量を減少させることができるとともに、キャビン内への侵入を一層確実に阻止することが可能になるという効果が得られる。
【0076】
図11は、本発明の第5の実施形態に係る燃料電池車両160を構成するスライド機構162の要部斜視説明図である。
【0077】
サイドフレーム40a、40bの下面40ad、40bdには、ガイド部材であるレール部材124a、124bが固定される。スライド機構162は、実質的には、第2の実施形態に係るスライド機構112と略同様に構成されており、第5の実施形態では、燃料電池スタック14がサイドフレーム40a、40bに吊り下げ支持される。
【0078】
このように構成される第5の実施形態では、上記の第1〜第4の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0079】
10、110、130、150、160…燃料電池車両
14…燃料電池スタック 16…燃料電池
18…固体高分子電解質膜 20…カソード電極
22…アノード電極 24…電解質膜・電極構造体
26、28…セパレータ 30…酸化剤ガス流路
32…燃料ガス流路 34…冷却媒体流路
36a、36b…エンドプレート 40a、40b…サイドフレーム
42a、42b、124a、124b、134a、134b、154a、154b…レール部材
46、112、132、152、162…スライド機構
48、48a、128、140…スライド板
49、128a、136a、136b、140a…突出部
50a、50b…ガイド板部 54a、54b…係止部材
56…走行用モータ 58…ストッパ
60…燃料電池システム 62…酸化剤ガス供給装置
64…燃料ガス供給装置 66…冷却媒体供給装置
68…コントローラ 104…搭載部品
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、車両走行用の負荷に電力を出力する燃料電池スタックを備える燃料電池車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜の両側に、アノード側電極とカソード側電極とを配設した電解質膜・電極構造体(MEA)を、セパレータによって挟持した発電ユニットを備えている。この種の燃料電池は、通常、所定の数(例えば、数百)の発電ユニットを積層することにより、燃料電池スタックを構成するとともに、前記燃料電池スタックは、車載用燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
上記の燃料電池スタックが搭載された燃料電池車両では、例えば、前方からの衝撃が燃料電池スタックに作用した際には、前記燃料電池スタックを保護する必要がある。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている車両が知られている。この車両は、図12に示すように、電気自動車であり、エンジンコンパートメント1内の下方には、駆動用モータ2が配置されている。
【0005】
エンジンコンパートメント1内において、駆動用モータ2の鉛直上方には、燃料電池3が配置されるとともに、前記燃料電池3の一端側は、支持シャフト4を介して車両高さ方向に回転可能に構成されている。燃料電池3の他端側には、ブラケット5が設けられており、前記ブラケット5は、駆動用モータ2の上面に接合されている。
【0006】
そこで、車両が前方からの衝撃を受けた場合、搭載物6は、衝撃によって後方に移動し、駆動用モータ2に衝突する。駆動用モータ2は、搭載物6の衝突によって後方且つ鉛直下方向に移動する(図12中、破線位置〜実線位置参照)。このため、燃料電池3は、ブラケット5が駆動用モータ2から離間するため、支持シャフト4の軸を支点にして鉛直下方向に回転する。従って、車両が外部から衝撃を受けた時に、燃料電池3は、ダッシュパネルDPへの衝突が抑制される、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−162108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1では、車両が外部から衝撃を受けた時に、燃料電池3が支持シャフト4を支点にして下方に回転する際、この燃料電池3が駆動用モータ2に衝突するおそれがある。このため、燃料電池3のケース部材や駆動用モータ2のケース部材が破損するという問題がある。従って、燃料電池3及び駆動用モータ2の各ケース部材を高強度に構成しなければならず、経済的ではないという問題がある。
【0009】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、簡単な構成で、外部荷重に対して燃料電池スタックを良好に保護するとともに、燃料電池車両の組み立て作業性を容易に向上させることが可能な燃料電池車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、車両走行用の負荷に電力を出力する燃料電池スタックを備える燃料電池車両に関するものである。
【0011】
この燃料電池車両は、車両側フレーム部材に設けられるガイド部材と、燃料電池スタックを前記ガイド部材に沿って直線状に移動可能なスライド機構とを備えている。
【0012】
また、この燃料電池車両では、スライド機構は、燃料電池スタックを支持するスライド部材を備えるとともに、ガイド部材は、前記燃料電池車両の前後方向に延在し、前記スライド部材を前記前後方向に移動可能に支持することが好ましい。
【0013】
さらに、この燃料電池車両では、スライド部材をガイド部材に固定する一方、外部荷重が付与された際に破断又は離脱して前記スライド部材の固定機能が解除される係止部材を備えることが好ましい。
【0014】
さらにまた、この燃料電池車両では、スライド部材には、燃料電池スタックよりも前後方向前方に突出し、前記燃料電池車両の前方から荷重が付与された際に前記荷重を受ける突出部が設けられることが好ましい。
【0015】
また、この燃料電池車両では、ガイド部材の前後方向後方には、スライド部材の前記前後方向後方への移動を規制するストッパが設けられることが好ましい。
【0016】
さらに、この燃料電池車両では、ガイド部材は、スライド部材を前後方向後方に向かって下方に傾斜する方向に移動可能に構成されることが好ましい。
【0017】
さらにまた、この燃料電池車両では、ガイド部材は、スライド部材を前後方向後方に向かって水平方向に移動可能に構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、燃料電池スタックは、スライド機構を介してガイド部材に沿って直線状に移動可能である。このため、燃料電池スタックをスライド機構に取り付けた後、前記燃料電池スタックを燃料電池車両の所望の部位に容易且つ正確に組み込むことができる。従って、燃料電池車両の組み立て作業性を容易に向上させることが可能になる。
【0019】
しかも、燃料電池車両に外部荷重が付与された際、燃料電池スタックは、スライド機構を介してガイド部材に沿って直線状に移動することができる。これにより、簡単な構成で、燃料電池スタックを有効に保護することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池車両の側面説明図である。
【図2】前記燃料電池車両の正面説明図である。
【図3】前記燃料電池車両を構成するスライド機構の概略斜視説明図である。
【図4】前記燃料電池車両を構成する燃料電池システムの概略構成説明図である。
【図5】前記燃料電池車両に外部荷重が付与された際の説明図である。
【図6】他のスライド板の説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池車両を構成するスライド機構の要部斜視説明図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る燃料電池車両を構成するスライド機構の要部斜視説明図である。
【図9】本発明の第4の実施形態に係る燃料電池車両の側面説明図である。
【図10】前記燃料電池車両を構成するスライド機構の要部斜視説明図である。
【図11】本発明の第5の実施形態に係る燃料電池車両を構成するスライド機構の要部斜視説明図である。
【図12】特許文献1に開示されている車両の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池車両10は、フロントボックス(所謂、モータルーム)12に収容される燃料電池スタック14を備える。
【0022】
燃料電池スタック14は、図2及び図3に示すように、複数の燃料電池16が燃料電池車両10の車長方向(矢印L方向)に交差する車幅方向(矢印H方向)に積層されて構成される。なお、燃料電池16は、車長方向又は車高方向に積層して構成してもよい。
【0023】
図2に示すように、各燃料電池16は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜18をカソード電極20とアノード電極22とで挟持した電解質膜・電極構造体(MEA)24を備える。なお、固体高分子電解質膜18は、フッ素系イオン交換膜の他、炭化水素(HC)系イオン交換膜を使用してもよい。
【0024】
カソード電極20及びアノード電極22は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層と、白金合金(又はRu等)が表面に担持された多孔質カーボン粒子が前記ガス拡散層の表面に一様に塗布されて形成された電極触媒層とを有する。電極触媒層は、固体高分子電解質膜18の両面に形成される。
【0025】
電解質膜・電極構造体24は、カソード側セパレータ26及びアノード側セパレータ28で挟持される。カソード側セパレータ26及びアノード側セパレータ28は、例えば、カーボンセパレータ又は金属セパレータで構成される。
【0026】
カソード側セパレータ26と電解質膜・電極構造体24との間には、酸化剤ガス流路30が設けられるとともに、アノード側セパレータ28と前記電解質膜・電極構造体24との間には、燃料ガス流路32が設けられる。燃料電池16間には、冷却媒体流路34が形成される。燃料電池スタック14は、各燃料電池16の積層方向に延在して各酸化剤ガス流路30に連通する酸化剤ガス連通孔、各燃料ガス流路32に連通する燃料ガス連通孔及び各冷却媒体流路34に連通する冷却媒体連通孔を設ける内部マニホールドを構成する。
【0027】
燃料電池スタック14の積層方向両端には、エンドプレート36a、36bが配設され、前記エンドプレート36a、36bは、例えば、複数の締結ボルトにより積層方向に締め付け荷重が付与される。
【0028】
図1〜図3に示すように、燃料電池車両10は、車両のサイドフレーム(フレーム部材)40a、40bを矢印L方向に延在して一対設けており、前記サイドフレーム40a、40bには、ガイド部材としてレール部材42a、42bが固着される。
【0029】
レール部材42a、42bは、それぞれサイドフレーム40a、40bの一方の側面40as、40bsに固着されて、矢印L方向に平行に延在しているが、それぞれ前記側面40as、40bsとは反対側の、すなわち、内側の側面に固着してもよい。
【0030】
レール部材42a、42bは、上方に開口する溝部44a、44bを有するとともに、前記溝部44a、44bには、燃料電池スタック14をレール部材42a、42bに沿って直線状に矢印L方向に移動可能なスライド機構46が設けられる。
【0031】
スライド機構46は、燃料電池スタック14を支持するスライド板(スライド部材)48を備える。スライド板48の底部には、レール部材42a、42bの溝部44a、44bに収容されるガイド板部50a、50bが設けられ、前記ガイド板部50a、50bが、前記レール部材42a、42bに沿ってスライド可能である。
【0032】
スライド板48上には、エンドプレート36a、36bが、それぞれ複数のボルト52を介して固定される。レール部材42aの底部からスライド板48のガイド板部50aの底部には、ノックピン又はボルトである係止部材54aが複数本、例えば、2本取り付けられる。係止部材54aは、燃料電池車両10に外部荷重が付与された際、頭部54aaが破断又は離脱して、スライド板48の固定機能を解除する。
【0033】
レール部材42bの底部からスライド板48のガイド板部50bの底部には、同様に、複数本のノックピンやボルトである係止部材54bが取り付けられる。係止部材54bは、外部荷重の付与によって破断又は離脱する頭部54bbを有する。
【0034】
燃料電池スタック14の下方には、サイドフレーム40a、40bの間に位置して走行用モータ56が配置される。
【0035】
スライド板48には、燃料電池スタック14よりも矢印L方向前方に突出し、燃料電池車両10の前方から荷重が付与された際に、前記荷重を受ける突出部49が設けられる。この突出部49は、スライド板48の先端を燃料電池スタック14から外方に突出させればよく、また、前記スライド板48の先端部に別部材で突出部を形成してもよい。
【0036】
レール部材42a、42bの矢印L方向後方には、スライド板48の前記後方への移動を規制するストッパ58が設けられる。ストッパ58は、レール部材42a又は42bと一体に構成してもよく、あるいは、別部材により構成してもよい。
【0037】
図4に示すように、燃料電池車両10には、燃料電池システム60が搭載される。燃料電池システム60は、燃料電池スタック14に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置62と、前記燃料電池スタック14に燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置64と、前記燃料電池スタック14に冷却媒体を供給する冷却媒体供給装置66と、前記燃料電池車両10全体の制御を行うコントローラ(ECU)68とを備える。
【0038】
酸化剤ガス供給装置62は、大気からの空気を圧縮して供給するエアポンプ70を備え、前記エアポンプ70が空気供給流路72に配設される。空気供給流路72には、供給ガスと排出ガスとの間で水分と熱を交換する加湿器74が配設されるとともに、前記空気供給流路72は、燃料電池スタック14の酸化剤ガス流路30の入口側に連通する。
【0039】
酸化剤ガス供給装置62は、酸化剤ガス流路30の出口側に連通する空気排出流路76を備える。空気排出流路76は、加湿器74の加湿媒体通路(図示せず)に連通するとともに、この空気排出流路76には、エアポンプ70から空気供給流路72を通って燃料電池スタック14に供給される空気の圧力を調整するための開度調整可能な背圧制御弁78が設けられる。
【0040】
燃料ガス供給装置64は、高圧水素を貯留する水素タンク(H2タンク)80を備え、この水素タンク80は、水素供給流路82を介して燃料電池スタック14の燃料ガス流路32の入口側に連通する。この水素供給流路82には、遮断弁84、エゼクタ86及び必要に応じて水素ポンプ88が設けられる。
【0041】
エゼクタ86は、水素タンク80から供給される水素ガスを、水素供給流路82を通って燃料電池スタック14に供給するとともに、前記燃料電池スタック14で使用されなかった未使用の水素ガスを含む排ガスを、水素循環路90から吸引して、再度、前記燃料電池スタック14に燃料ガスとして供給する。
【0042】
燃料ガス流路32の出口側には、オフガス流路92が連通する。オフガス流路92の途上には、水素循環路90が連通するとともに、前記オフガス流路92には、パージ弁94が接続される。
【0043】
冷却媒体供給装置66は、燃料電池スタック14に設けられる冷却媒体流路34の入口側及び出口側に連通し、冷却媒体を前記燃料電池スタック14に循環させる冷却媒体循環路96を備える。冷却媒体循環路96には、ラジエータ98、冷却ポンプ100及びイオン交換器102が接続される。図1に示すように、ラジエータ98は、燃料電池車両に燃料電池スタック14の前方に位置して配置される。
【0044】
図1及び図3に示すように、スライド機構46を構成するスライド板48上には、燃料電池スタック14の他、燃料電池システム60の構成部品が搭載部品104として搭載される。好ましくは、水素供給系部品、高圧部品及びエンクロージャー(筐体部品)が搭載される。
【0045】
具体的には、燃料ガス供給装置64を構成する遮断弁84、水素ポンプ88及びその他の各種バルブ類やエアポンプ、PDU(パワードライブユニット)、水素ポンプPDU、DC−DCコンバータ、燃料電池VCU(ヴェヒクルコントロールユニット)、燃料電池コンタクタ、エアコンコンプレッサ及びエアコンヒータ等が、搭載部品104としてスライド板48上に搭載される。その他、搭載部品104として、空気供給系部品、例えば、酸化剤ガス供給装置62を構成するエアポンプ70及び加湿器74が、必要に応じてスライド板48上に搭載される。
【0046】
さらにまた、冷却系部品、例えば、冷却媒体供給装置66を構成する冷却ポンプ100及びイオン交換器102が、搭載部品104として必要に応じてスライド板48上に搭載される。なお、図示していないが、水素センサやスタック内部インピーダンス測定用のデバイス等も、スライド板48上に搭載してもよい。
【0047】
このように構成される燃料電池車両10において、燃料電池システム60の動作について以下に説明する。
【0048】
図4に示すように、酸化剤ガス供給装置62を構成するエアポンプ70を介して、空気供給流路72に酸化剤ガス(空気)が送られる。この酸化剤ガスは、加湿器74を通って加湿された後、燃料電池スタック14の酸化剤ガス流路30の入口側に供給される。
【0049】
一方、燃料ガス供給装置64では、遮断弁84の開放作用下に、水素タンク80から水素供給流路82に燃料ガス(水素ガス)が供給される。この燃料ガスは、エゼクタ86を通った後、水素ポンプ88の作用下に、燃料電池スタック14の燃料ガス流路32の入口側に供給される。
【0050】
また、冷却媒体供給装置66では、冷却ポンプ100の作用下に、冷却媒体循環路96から燃料電池スタック14の冷却媒体流路34の入口側に純水やエチレングリコールオイル等の冷却媒体が供給される。
【0051】
燃料電池スタック14内では、酸化剤ガスが、酸化剤ガス流路30に導入されて電解質膜・電極構造体24のカソード電極20に供給される。一方、燃料ガスは、燃料ガス流路32に導入されて電解質膜・電極構造体24のアノード電極22に供給される。
【0052】
従って、各電解質膜・電極構造体24では、カソード電極20に供給される酸化剤ガスと、アノード電極22に供給される燃料ガスとが、電極触媒層内で電気化学反応により消費されて発電が行われる。これにより、走行用モータ56に電力が供給されるため、燃料電池車両10は、走行可能になる。
【0053】
また、冷却媒体は、冷却媒体流路34に導入された後、電解質膜・電極構造体24を冷却し、冷却媒体循環路96に戻される。
【0054】
次いで、カソード電極20から排出された酸化剤ガスは、空気排出流路76を流通して加湿器74に導入され、新たな酸化剤ガスを加湿する。一方、アノード電極22から排出された燃料ガスは、エゼクタ86に吸引されて燃料電池スタック14に供給される。
【0055】
燃料電池車両10では、上記のように、燃料電池スタック14から電力が供給されて走行される。その際、燃料電池車両10に前方から衝撃が加わると、図5に示すように、前記燃料電池車両10の前方部分10fに外部荷重Fが作用する。このため、前方部分10fが内部に変形し、ラジエータ98を進行方向後方(矢印Lb方向)に移動させる。従って、ラジエータ98は、燃料電池スタック14を搭載しているスライド板48から前方に突出する突出部49に衝突する。
【0056】
スライド板48は、ガイド板部50a、50bとレール部材42a、42bとに取り付けられている係止部材54a、54bにより固定されており、前記スライド板48に矢印Lb方向への衝撃が付与されると、前記係止部材54a、54bは、頭部54aa、54bbで破断する。これにより、スライド板48は、レール部材42a、42bの案内作用下に、水平方向後方に移動してストッパ58に当接することにより停止される。
【0057】
このように、燃料電池車両10に外部荷重Fが付与された際、燃料電池スタック14は、スライド機構46を構成するスライド板48上に載置された状態で、前記外部荷重Fが直接付与されることがなく、前記スライド板48と一体にレール部材42a、42bに沿って直線状に移動することができる。このため、簡単な構成で、燃料電池スタック14を確実に保護することが可能になるという効果が得られる。
【0058】
さらに、スライド板48上には、特に、水素供給系部品や高圧部品、さらに、エンクロージャー等を搭載部品104として搭載することができる。従って、搭載部品104の損傷を良好に回避することが可能になるという利点がある。
【0059】
さらにまた、第1の実施形態では、燃料電池スタック14は、スライド機構46を介してガイド部材であるレール部材42a、42bに沿って直線上に移動することができる。
【0060】
このため、燃料電池スタック14を燃料電池車両10に組み込む際、前記燃料電池スタック14をスライド機構46に取り付けた後、該燃料電池スタック14の位置決めを容易且つ正確に行うことが可能になる。これにより、燃料電池スタック14は、燃料電池車両10に効率的に組み込むことができ、前記燃料電池車両10の組立作業性を容易に向上させることが可能になる。
【0061】
また、燃料電池スタック14の後方への移動は、ストッパ58により規制されるため、前記燃料電池スタック14がキャビン(図示せず)内に侵入することを確実に阻止することが可能になる。
【0062】
なお、第1の実施形態では、スライド機構46を構成するスライド板48が矩形上の板材で構成されているが、これに限定されるものではない。例えば、燃料電池スタック14の下部側に、他の部品を配置する必要がある際には、図6に示すように、枠状のスライド板48aを採用することができる。
【0063】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池車両110を構成するスライド機構112の要部斜視説明図である。なお、第1の実施形態に係る燃料電池車両10と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、以下に説明する第3以降の実施形態においても同様に、その詳細な説明は省略する。
【0064】
サイドフレーム40a、40bの上面40au、40buには、ガイド部材であるレール部材124a、124bが固定される。レール部材124a、124bは、断面コ字状を有し、それぞれの開口部126a、126bが互いに矢印H方向に対向して配置される。
【0065】
スライド機構112は、スライド板128を備える。このスライド板128の矢印H方向両端部が、レール部材124a、124bの開口部126a、126bに配置される。スライド板128とレール部材124a、124bとは、前記レール部材124a、124bの側方から挿入される係止部材54a、54bを介して固定される。
【0066】
スライド板128上には、燃料電池スタック14及びその他必要に応じて各種部品が搭載部品104として搭載されるとともに、前記燃料電池スタック14が前記スライド板128の先端から内方に配置されることにより、この先端には、突出部128aが形成される。
【0067】
このように構成される第2の実施形態では、燃料電池スタック14は、スライド機構112を介してレール部材124a、124bに沿って直線状に移動することができる。このため、燃料電池車両110の組立作業性が向上するとともに、燃料電池スタック14を良好に保護することが可能になる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0068】
さらに、レール部材124a、124bは、断面コ字状を有し、それぞれの開口部126a、126bにスライド板128の矢印H方向両端部が挿入支持されている。従って、燃料電池車両110に外部荷重が付与された際、スライド板128が上方に移動することを確実に阻止することができるという利点が得られる。
【0069】
図8は、本発明の第3の実施形態に係る燃料電池車両130を構成するスライド機構132の要部斜視説明図である。
【0070】
燃料電池車両130では、サイドフレーム40a、40b上にレール部材(ガイド部材)134a、134bが固定される。レール部材134a、134bは、断面形状がコ字状の下部開放側の端部から上方に膨出する突出部136a、136bを設け、その内部に開口部138a、138bが形成される。
【0071】
スライド機構132を構成するスライド板140は、矢印H方向両端部に、下方に突出する膨出部142a、142bを有する。膨出部142a、142bは、突出部136a、136bを跨いで開口部138a、138bに配置される。スライド板140の先端には、突出部140aが構成される。スライド板140とレール部材134a、134bとは、係止部材54a、54bにより固定される。
【0072】
このように、第3の実施形態では、上記の第1及び第2の実施形態と同様の効果が得られるとともに、レール部材134a、134bの突出部136a、136bとスライド板140の膨出部142a、142bとの係合作用下に、前記スライド板140の矢印H方向の移動を確実に規制することができる。
【0073】
図9及び図10に示すように、本発明の第4の実施形態に係る燃料電池車両150を構成するスライド機構152は、レール部材(ガイド部材)154a、154bを備える。レール部材154a、154bは、サイドフレーム40a、40bの側面40asi、40bsiに車長方向後方に向かって下方に傾斜して固定される。
【0074】
レール部材154a、154bは、例えば、第1の実施形態のレール部材42a、42bと同様に構成されており、スライド機構152は、第1の実施形態のスライド機構46と同様に構成される。なお、第4の実施形態では、第2又は第3の実施形態の構成を採用してもよい。
【0075】
このように構成される燃料電池車両150では、外部荷重が付与された際、燃料電池スタック14は、スライド機構152及びレール部材154a、154bの案内作用下に、車長方向後方に向かって下方に傾斜する方向に移動することができる。このため、燃料電池スタック14の矢印Lb方向への移動量を減少させることができるとともに、キャビン内への侵入を一層確実に阻止することが可能になるという効果が得られる。
【0076】
図11は、本発明の第5の実施形態に係る燃料電池車両160を構成するスライド機構162の要部斜視説明図である。
【0077】
サイドフレーム40a、40bの下面40ad、40bdには、ガイド部材であるレール部材124a、124bが固定される。スライド機構162は、実質的には、第2の実施形態に係るスライド機構112と略同様に構成されており、第5の実施形態では、燃料電池スタック14がサイドフレーム40a、40bに吊り下げ支持される。
【0078】
このように構成される第5の実施形態では、上記の第1〜第4の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0079】
10、110、130、150、160…燃料電池車両
14…燃料電池スタック 16…燃料電池
18…固体高分子電解質膜 20…カソード電極
22…アノード電極 24…電解質膜・電極構造体
26、28…セパレータ 30…酸化剤ガス流路
32…燃料ガス流路 34…冷却媒体流路
36a、36b…エンドプレート 40a、40b…サイドフレーム
42a、42b、124a、124b、134a、134b、154a、154b…レール部材
46、112、132、152、162…スライド機構
48、48a、128、140…スライド板
49、128a、136a、136b、140a…突出部
50a、50b…ガイド板部 54a、54b…係止部材
56…走行用モータ 58…ストッパ
60…燃料電池システム 62…酸化剤ガス供給装置
64…燃料ガス供給装置 66…冷却媒体供給装置
68…コントローラ 104…搭載部品
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、車両走行用の負荷に電力を出力する燃料電池スタックを備える燃料電池車両であって、
車両側フレーム部材に設けられるガイド部材と、
前記燃料電池スタックを前記ガイド部材に沿って直線状に移動可能なスライド機構と、
を備えることを特徴とする燃料電池車両。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池車両において、前記スライド機構は、前記燃料電池スタックを支持するスライド部材を備えるとともに、
前記ガイド部材は、前記燃料電池車両の前後方向に延在し、前記スライド部材を前記前後方向に移動可能に支持することを特徴とする燃料電池車両。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池車両において、前記スライド部材を前記ガイド部材に固定する一方、外部荷重が付与された際に破断又は離脱して前記スライド部材の固定機能が解除される係止部材を備えることを特徴とする燃料電池車両。
【請求項4】
請求項2又は3記載の燃料電池車両において、前記スライド部材には、前記燃料電池スタックよりも前記前後方向前方に突出し、前記燃料電池車両の前方から荷重が付与された際に前記荷重を受ける突出部が設けられることを特徴とする燃料電池車両。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の燃料電池車両において、前記ガイド部材の前記前後方向後方には、前記スライド部材の前記前後方向後方への移動を規制するストッパが設けられることを特徴とする燃料電池車両。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項に記載の燃料電池車両において、前記ガイド部材は、前記スライド部材を前記前後方向後方に向かって下方に傾斜する方向に移動可能に構成されることを特徴とする燃料電池車両。
【請求項7】
請求項2〜5のいずれか1項に記載の燃料電池車両において、前記ガイド部材は、前記スライド部材を前記前後方向後方に向かって水平方向に移動可能に構成されることを特徴とする燃料電池車両。
【請求項1】
カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、車両走行用の負荷に電力を出力する燃料電池スタックを備える燃料電池車両であって、
車両側フレーム部材に設けられるガイド部材と、
前記燃料電池スタックを前記ガイド部材に沿って直線状に移動可能なスライド機構と、
を備えることを特徴とする燃料電池車両。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池車両において、前記スライド機構は、前記燃料電池スタックを支持するスライド部材を備えるとともに、
前記ガイド部材は、前記燃料電池車両の前後方向に延在し、前記スライド部材を前記前後方向に移動可能に支持することを特徴とする燃料電池車両。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池車両において、前記スライド部材を前記ガイド部材に固定する一方、外部荷重が付与された際に破断又は離脱して前記スライド部材の固定機能が解除される係止部材を備えることを特徴とする燃料電池車両。
【請求項4】
請求項2又は3記載の燃料電池車両において、前記スライド部材には、前記燃料電池スタックよりも前記前後方向前方に突出し、前記燃料電池車両の前方から荷重が付与された際に前記荷重を受ける突出部が設けられることを特徴とする燃料電池車両。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の燃料電池車両において、前記ガイド部材の前記前後方向後方には、前記スライド部材の前記前後方向後方への移動を規制するストッパが設けられることを特徴とする燃料電池車両。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項に記載の燃料電池車両において、前記ガイド部材は、前記スライド部材を前記前後方向後方に向かって下方に傾斜する方向に移動可能に構成されることを特徴とする燃料電池車両。
【請求項7】
請求項2〜5のいずれか1項に記載の燃料電池車両において、前記ガイド部材は、前記スライド部材を前記前後方向後方に向かって水平方向に移動可能に構成されることを特徴とする燃料電池車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−112271(P2013−112271A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262212(P2011−262212)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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