説明

燃料電池

【課題】簡易な構造によりスタックの温度上昇を抑制することができ、また小型化を図ることが可能となる燃料電池を提供する。
【解決手段】複数の燃料電池セル1を接続して構成された燃料電池スタック2と、スタックの出力電力を負荷系統に供給する給電回路3と、を備えた燃料電池であって、前記燃料電池セル、燃料電池スタック、または給電回路のいずれかにPTC素子4を有し、
異常な温度上昇の原因となる過電流が燃料電池スタックから流れた際、この過電流によりPTC素子の抵抗を増大させて過電流を遮断し、温度上昇を抑制する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は燃料を化学反応させて得られる化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換するため、高い発電効率を得ることができ、体積当たり・重量当たりのエネルギー量を従来の電池に比べて、数倍から十倍近く高めることができる。
このような燃料電池は、自動車等の車両への搭載や家庭用の熱電併給装置への用途の他、携帯可能な電子機器への応用等幅広い研究が行なわれている。
燃料電池においては、一般的につぎのような概略構成を有している。
例えば、図8に示されるように、単セル1の積層体からなるスタック2と、スタック2の出力電力を外部負荷系統に供給する給電回路3から構成される。
スタック2には、アノード燃料として水素・メタノールなどが、カソード燃料として酸素・空気などが供給される。
【0003】
このような燃料電池では、外部負荷の必要に応じて出力電力を増減させて発電を行うが、このとき、電気エネルギーに変換されなかったエネルギーが熱として放出される。
係る要因によりスタックの温度が異常に上昇した場合、つぎの1)〜3)のような問題が生じる。すなわち、
1)スタックの構成部材が熱膨張し、圧迫されて、破損または燃料リークの原因となる。
2)構成部材が腐食溶解し、これにより発生した不純物が電解質や触媒層に混入すると、発電特性が低下する。
3)特に固体高分子型電解質を使用する場合は、電解質の融解・蒸発により電解質膜が破損する。
等の問題が生じる。そのため、スタックの温度調整を行うことが重要な問題であった。
【0004】
このようなことから、従来の燃料電池装置では、スタックの温度上昇を防止するため、例えば特許文献1のように冷却媒体を通じた冷却板を使用した燃料電池や、あるいは特許文献2のように冷却水循環系を構成した燃料電池が提案されている。
また、低温起動時の暖機時間を短縮する際における燃料電池の温度調整を行う方法として、つぎのような方法が知られている。
例えば、特許文献3、4のように予め温度を調整したガスを供給することによりスタックの温度を調整する方法や、あるいは特許文献5のようにスタックを外部短絡して発電し、発生した熱量により温度調整を行う方法が知られている。
【特許文献1】特開平9−82342号公報
【特許文献2】特開2002−42846号公報
【特許文献3】特開2000−315514号公報
【特許文献4】特開2003−151598号公報
【特許文献5】特開2003−109636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来例の特許文献1、2のスタックの温度上昇を抑制する燃料電池では、燃料流をスタックに供給する燃料流路とは別に、冷却媒体を冷却板に供給する流路や、冷却水循環系を設けるための余分なスペースが必要となる。そのため、燃料電池の小型化を図る上で不利であった。
さらに、熱交換器への給電を制御する制御手段等を設ける必要があることから、燃料電池の構造が複雑化するという課題を有するものであった。
また、上記従来例の特許文献3、4、5のものは、いずれも低温起動時の暖機時間を短縮するものであり、スタックの温度上昇の抑制に適用することは困難である。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、簡易な構造によりスタックの温度上昇を抑制することができ、また小型化を図ることが可能となる燃料電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、つぎのように構成した燃料電池を提供するものである。
本発明の燃料電池は、複数の燃料電池セルを接続して構成された燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックの出力電力を負荷系統に供給する給電回路と、を備えた燃料電池であって、
前記燃料電池セル、前記燃料電池スタック、または前記給電回路のいずれかに、PTC素子を有することを特徴とする。
なお、ここで、PTC素子とは正の温度係数を持つ素子であるPTC(Positive Temperature Coefficient)素子を意味している。
また、本発明の燃料電池は、前記燃料電池スタックが、前記複数の燃料電池セルを積層し、直列に接続されて構成されると共に、
前記PTC素子が、前記給電回路に直列に接続されていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、前記燃料電池スタックが、前記複数の燃料電池セルを積層して直列に接続されたスタックがさらに並列に接続され、または前記複数の燃料電池セルが並列に接続されて構成されると共に、
前記PTC素子が、前記給電回路に直列に接続されていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、前記燃料電池スタックが、前記複数の燃料電池セルを積層して直列に接続されたスタックがさらに並列に接続され、または前記複数の燃料電池セルが並列に接続されて構成されると共に、
前記PTC素子が、前記スタックに個別に接続されていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、前記燃料電池スタックが、前記複数の燃料電池セルが積層して直列に接続され、または前記複数の燃料電池セルが並列に接続されて構成されると共に、
前記PTC素子が、前記燃料電池スタックあるいは前記燃料電池スタックを構成する燃料電池セルに、近接あるいは接触して配置されていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、前記燃料電池スタックが、前記複数の燃料電池セルが積層して直列に接続され、または前記複数の燃料電池セルが並列に接続されて構成されると共に、
前記PTC素子が、前記燃料電池スタック内に配置され、該燃料電池スタックを構成する燃料電池セルと直列に接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡易な構造によりスタックの温度上昇を抑制することができ、また小型化を図ることが可能となる燃料電池を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明においては、以上の構成により、異常な温度上昇の原因となる過電流が燃料電池スタックから流れた場合、この過電流によりPTC素子の抵抗が増大することにより過電流を遮断し、これによって温度上昇を抑制することができる。
その際、本発明の実施の形態においては、例えば、つぎのような構成を採ることができる。
即ち、燃料電池スタックと、該燃料電池スタックの出力電力を負荷系統に供給する給電回路からなる電気回路上に、PTC素子を直列に接続した構成を採ることができる。
これにより、燃料電池スタックから出力される電流は、PTC素子を経由して外部負荷系統に供給される。
従って、通常発電時においては、素子抵抗は増大せず、給電回路の一部として機能する。
しかし、一旦、異常な温度上昇の原因となる過電流が燃料電池スタックから出力された場合には、前記過電流によりPTC素子の温度が上昇し、これによりPTC素子の抵抗が増大して、過電流を遮断し、実質的に温度上昇を抑制することが可能となる。
また、PTC素子を、燃料電池スタックあるいは燃料電池スタックを構成する単セルに、近接あるいは接触して配置する構成を採ることで、スタックあるいは単セルの発熱がPTC素子に伝達されて高抵抗化するため、それ以上の温度上昇を抑制することができる。
すなわち、何らかの不良により燃料電池スタックあるいは単セルの内部抵抗が増大し、過電流以下の電流値において電圧低下が生じて、スタックあるいは単セルの温度が上昇した場合においても、上記高抵抗化によってそれ以上の温度上昇を抑制することができる。
また、PTC素子を燃料電池スタック内部に配置することにより、より効率的に、発電部における発熱をPTC素子に伝達することができる。
【0010】
尚、本発明は、燃料電池の劣化・損傷に至る温度上昇を回避することを目的としており、上記した過電流とは、係る状況に至るスタックの過剰な出力電流を総称するものである。従って、過電流の値は、特にその範囲を限定されるものではない。
一般的には、スタックの出力電流が増加し、出力電圧が急速に低下して0Vとなり、発電の限界に至る前に出力電流を抑制すれば、電圧低下に伴う発熱を未然に回避することができる。
したがって、スタックを外部短絡したときに発生する外部短絡電流がスタックから出力される前に、PTC素子が電流を遮断するよう、PTC素子が高抵抗化する電流値を設定することが好ましい。
以上のように構成した燃料電池によれば、簡易なシステムにより、スタックの異常な温度上昇を回避することができ、また小型化を図ることが可能となる。
【実施例】
【0011】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1においては、本発明を適用した燃料電池について説明する。
図1に、本実施例における単セルを積層して直列に接続してなるスタックによる燃料電池の構成例を示す。
図1において、1は、単セル、2はスタック、3は給電回路、4はPTC素子である。
本実施例の燃料電池は、単セル1を積層し、直列に接続してなるスタック2と、スタック2の出力を外部負荷系統へ供給する給電回路3と、給電回路3上に直列に接続されたPTC素子4によって構成される。
【0012】
つぎに、本実施例におけるスタック電流について説明する。
図2に、本実施例の過電流を出力した際におけるスタック電流の経時変化を説明するための図を示す。
この図2は、図1に示す本実施例の燃料電池と、図8に示す従来例の燃料電池との出力電流値の経時変化を比較したものである。
即ち、図1及び図8の燃料電池における給電回路上の端子aと端子b及び端子cと端子dをそれぞれ短絡してスタックを無負荷の状態とし、スタック2の外部短絡電流を過電流としてスタック2から出力させたときの、出力電流値の経時変化を示したものである。
図中の時間−電流曲線21は、図1に示した燃料電池に対応し、時間−電流曲線22は、図8に示した燃料電池に、それぞれ対応する。
この図から明らかなように、給電回路3にPTC素子4を設置することにより、短絡直後から出力電流が微量に抑えられている。
これは、短絡直後に発生した過電流によりPTC素子4が高抵抗化し、速やかに過電流が遮断されたためであり、また、その後も回路に流れる微量な電流によって、PTC素子4が高抵抗状態で維持されるためである。
【0013】
つぎに、本実施例におけるスタックの温度上昇の抑制について説明する。
図3に、本実施例の過電流を出力した際におけるスタック温度の経時変化を説明するための図を示す。
この図3は、図2に示した出力電流の経時変化に対応する、スタック温度の経時変化を示したものである。
図中の時間−温度曲線31は、図1に示した燃料電池に対応し、時間−温度曲線32は、図8に示した燃料電池にそれぞれ対応する。
この図から明らかなように、給電回路3にPTC素子4を設置することにより、スタック2の温度上昇が大幅に抑制されている。これは、前述したように過電流が遮断されたためである。
このように、本実施例の燃料電池によれば、給電回路3にPTC素子4を設置することによって、スタック2から出力される過電流が遮断され、温度上昇を抑制することが可能となる。
【0014】
尚、上述した実施例では、市販のPTC素子(タイコエレクトロニクス レイケム株式会社製)を使用した。
また、スタックあるいは単セルには、固体高分子型の燃料電池を使用し、アノード燃料として一定圧力の純水素ガスを、カソード燃料として一定圧力の空気を、それぞれスタック内に導入して評価を行った。
また、スタック温度の測定は、単セルの積層方向に対し、中央部に位置する単セルの表面温度を検出した。
【0015】
[実施例2]
実施例2においては、単セル1を積層し、直列に接続してなるスタック2を、さらに並列に接続した燃料電池の構成例について、説明する。
図4に、本実施例の燃料電池の構成を示す。
本実施例では、給電回路3上の外部負荷寄りの箇所に、PTC素子4が直列に接続され、各々のスタックから出力された電流が、PTC素子4を接続した回路に集約するように構成される。
本実施例においては、いずれかのスタックから過電流が出力された場合、PTC素子4を通過する電流値が増加してPTC素子4が高抵抗化し、これを遮断することができる。
【0016】
[実施例3]
実施例3においては、単セル1を積層し、直列に接続してなるスタック2を、さらに並列に接続した構成を備え、各々のスタックについて、PTC素子4を個別に接続した燃料電池の構成例について、説明する。
図5に、本実施例の燃料電池の構成を示す。
本実施例においては、いずれのスタックから過電流が出力された場合においても、これを精度よく遮断することができる。
【0017】
なお、上記実施例1乃至実施例3の燃料電池において、スタック内における単セルの配置は、特に限定されるものではない。例えば、平面配置した単セルを直列に接続したスタックを用いた場合にも、同様の効果が期待できる。
また、上記実施例2または実施例3の燃料電池において、スタックを並列に接続した構成ではなく、単セルを並列に接続した構成であっても、同様の効果が期待できる。
【0018】
[実施例4]
実施例4においては、単セル1を積層し、直列に接続してなるスタック2の側面に、PTC素子4を配置した燃料電池の構成例について、説明する。
図6に、本実施例の燃料電池の構成を示す。
本実施例においては、スタック2から過電流が出力された場合には、これを遮断すると共に、過電流以下の電流値において、スタック2あるいはスタック2を構成する単セル1の温度が上昇した場合においても、温度上昇を抑制することができる。
即ち、過電流以下の電流値において、スタック2あるいはスタック2を構成する単セル1の温度が上昇した場合においても、PTC素子4が高抵抗化するため、速やかにスタック2の出力電流を低下させ、それ以上の温度上昇を抑制することができる。
【0019】
[実施例5]
実施例5においては、単セル1を積層し、直列に接続してなるスタック2において、単セル1によりPTC素子4を挟持して配置した燃料電池の構成例について、説明する。
図7に、本実施例の燃料電池の構成を示す。
本実施例によれば、PTC素子4は、単セル1との接触面において、前記単セル1と直列に接続しており、これにより、スタック2から過電流が出力された場合には、これを遮断すると共に、単セル1からの発熱を効率的にPTC素子4に伝達することができる。
【0020】
なお、上記実施例4または実施例5の燃料電池において、スタック内における単セルの配置や接続方法は、特に限定されるものではない。例えば、単セルを並列に接続してなるスタックを用いても、同様の効果が期待できる。
また、PTC素子の配置個所は、スタックあるいは単セルの温度が効率的に伝達される配置であれば、特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例1における単セルを積層して直列に接続してなるスタックによる燃料電池の構成例を示す図。
【図2】本発明の実施例1の過電流を出力した際におけるスタック電流の経時変化を説明するための図。
【図3】本発明の実施例1の過電流を出力した際におけるスタック温度の経時変化を説明するための図。
【図4】本発明の実施例2における単セルを積層し、直列に接続してなるスタックを、さらに並列に接続した燃料電池の構成例を示す図。
【図5】本発明の実施例3における単セルを積層し、直列に接続してなるスタックを、さらに並列に接続した構成を備え、各々のスタックについて、PTC素子を個別に接続した燃料電池の構成例を示す図。
【図6】本発明の実施例4における単セルを積層し、直列に接続してなるスタックの側面に、PTC素子を配置した燃料電池の構成例を示す図。
【図7】単セルを積層し、直列に接続してなるスタックにおいて、単セルによりPTC素子を挟持して配置した燃料電池の構成例を示す図。
【図8】従来例における燃料電池の一般的な構成を示す図。
【符号の説明】
【0022】
1:単セル
2 :スタック
3 :給電回路
4:PTC素子
21:図1に示した本実施例の燃料電池における電流の経時変化
22:図8に示した従来例の燃料電池における電流の経時変化
31: 図1に示した本実施例の燃料電池における温度の経時変化
32: 図8に示した従来例の燃料電池における温度の経時変化

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料電池セルを備えた燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックの出力電力を負荷系統に供給する給電回路と、を備えた燃料電池であって、
前記燃料電池セル、前記燃料電池スタック、または前記給電回路のいずれかに、PTC素子を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記燃料電池スタックは、前記複数の燃料電池セルを積層し、直列に接続されて構成されると共に、
前記PTC素子が、前記給電回路に直列に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記燃料電池スタックは、前記複数の燃料電池セルを積層して直列に接続されたスタックがさらに並列に接続され、または前記複数の燃料電池セルが並列に接続されて構成されると共に、
前記PTC素子が、前記給電回路に直列に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記燃料電池スタックは、前記複数の燃料電池セルを積層して直列に接続されたスタックがさらに並列に接続され、または前記複数の燃料電池セルが並列に接続されて構成されると共に、
前記PTC素子が、前記スタックに個別に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記燃料電池スタックは、前記複数の燃料電池セルが積層して直列に接続され、または前記複数の燃料電池セルが並列に接続されて構成されると共に、
前記PTC素子が、前記燃料電池スタックあるいは前記燃料電池スタックを構成する燃料電池セルに、近接あるいは接触して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記燃料電池スタックは、前記複数の燃料電池セルが積層して直列に接続され、または前記複数の燃料電池セルが並列に接続されて構成されると共に、
前記PTC素子が、前記燃料電池スタック内に配置され、該燃料電池スタックを構成する燃料電池セルと直列に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−335381(P2007−335381A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169425(P2006−169425)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】