説明

燃料電池

【課題】出力特性に優れた燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池は、燃料極と、空気極と、電解質膜27と、を有した膜電極接合体3を有する起電部と、燃料の流路が設けられた燃料分配機構8と、を備えている。燃料分配機構8は、燃料排出面67と、燃料排出面の一部を開口して設けられているとともに上記流路に繋げられ、燃料を排出する燃料排出口64と、を有しており、少なくとも前記燃料排出口64が親水性の材料により構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に関し、特に、液体燃料を用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯用電子機器の電源に、燃料電池を用いる試みがなされている。燃料電池は、携帯用電子機器を、充電なしで長時間使用可能とするものである。燃料電池は、燃料と空気を供給するだけで発電することができ、燃料のみを補充・交換すれば連続して発電できるという利点を有している。このため、小型化ができれば携帯電子機器の長時間の作動に極めて有利なシステムといえる。
【0003】
特に、直接メタノール型燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)は、小型化が可能であり、また燃料の取り扱いも水素ガス燃料に比べて容易なことから小型機器用電源として有望である。
【0004】
DMFCの燃料の供給方法としては、液体燃料を気化してからブロア等で燃料電池内に送り込む気体供給型DMFCと、液体燃料をそのままポンプ等で燃料電池内に送り込む液体供給型DMFC、液体燃料をセル内で気化させる内部気化型DMFC等が知られている。このうち内部気化型DMFCは、例えば特許文献1及び特許文献2に記載されている。
【0005】
内部気化型DMFCでは、燃料浸透層中に保持された液体燃料のうち気化成分を燃料気化層(アノードガス拡散層)において拡散させ、拡散された気化燃料がアノード触媒層に供給され、カソード触媒層側からの空気と電解質膜において発電反応する。
【0006】
なお、液体供給型DMFCでは、セルと燃料収容部とを流路を介して接続する技術が知られている(例えば、特許文献3乃至5参照)。液体燃料を、流路を介してセルに供給することによって、流路の形状や径等に基づいて液体燃料の供給量を調整することができる。
【特許文献1】特許第3413111号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2006/057283号公報
【特許文献3】特表2005−518646号公報
【特許文献4】特開2006−85952号公報
【特許文献5】米国特許公開第2006/0029851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記燃料電池において、液体燃料が起電部に不均一に供給される場合がある。供給状態が不均一になると、発電に寄与する起電部の割合が減少し、燃料電池の出力低下が生じる恐れがある。さらに、出力(発電量)が不安定になり、所望の出力を安定して得ることができない恐れがある。上記したことから、液体燃料の供給状態が不均一であると、燃料電池の性能が低下することになる。
この発明は以上の点に鑑みなされたもので、その目的は、出力特性に優れた燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の態様に係る燃料電池は、
燃料極と、空気極と、前記燃料極及び空気極間に挟持された電解質膜と、を有した膜電極接合体を有する起電部と、
前記燃料極に対して前記電解質膜の反対側に配置され、燃料の流路が設けられた燃料分配機構と、を備え、
前記燃料分配機構は、前記燃料極と対向した側の表面に位置した燃料排出面と、前記燃料排出面の一部を開口して設けられているとともに前記流路に繋げられ、燃料を排出する燃料排出口と、を有しており、少なくとも前記燃料排出口が親水性の材料により形成されている。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、出力特性に優れた燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながらこの発明の実施の形態に係る燃料電池セル及び燃料電池について詳細に説明する。この実施の形態において、直接メタノール型の燃料電池について説明する。
【0011】
図1に示すように、燃料電池は、燃料電池本体1と、燃料を収容するとともに燃料を燃料電池本体1に与える燃料供給源2とを備えている。
【0012】
燃料電池本体1は、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)3と、アノード集電体31およびカソード集電体34と、燃料極支持板6と、燃料供給機構としての燃料供給部7と、フロントカバー15とを備えている。
【0013】
図1及び図2に示すように、膜電極接合体3は、燃料極としてのアノード21と、アノード21に所定の隙間を置いて対向配置された空気極としてのカソード24と、アノード21及びカソード24間に挟持された電解質膜27とを有している。
【0014】
燃料電池は、さらに燃料82を収容するとともに流路83により燃料分配機構8に燃料を供給する燃料収容部81と、ポンプ84が取り付けられた流路83とを備えている。この実施の形態の燃料電池では、燃料分配機構8から膜電極接合体3に供給された燃料82は発電反応に消費されてしまい、その後に循環して燃料分配機構8あるいは燃料収容部81に戻されることはない。このタイプの燃料電池は燃料を循環させないことから、従来のアクティブ方式とは異なる方式であり、装置の小型化等を損なうものではない。また、液体燃料の供給にポンプ84を使用しており、従来の内部気化型のような純パッシブ方式とも異なるため、この方式の燃料電池はいわばセミパッシブ型と呼ぶことができる。
【0015】
この実施の形態において、膜電極接合体3は矩形状の発電領域R1を有している。発電領域R1は、発電に有効な4つの有効領域R2と、これら有効領域を囲んだ非有効領域R3とを有している。これらの有効領域R2は、矩形状であり、長軸を有し、間隔を置いて位置している。
【0016】
また、膜電極接合体3は4つの発電素子20を有している。発電素子20は、矩形状であり、長軸を有し、それぞれ有効領域R2に重なっている。4つの発電素子20は共通の電解質膜27で形成されている。
【0017】
アノード21は、アノード触媒層22と、アノード触媒層22に積層されたアノードガス拡散層23とを有している。カソード24は、カソード触媒層25と、カソード触媒層25に積層されたカソードガス拡散層26とを有している。
【0018】
アノード触媒層22は、アノードガス拡散層23を介して供給される燃料を酸化させ燃料から電子とプロトンとを取り出すものである。カソード触媒層25は、酸素を還元して、電子とアノード触媒層22において発生したプロトンとを反応させて水を生成するものである。
【0019】
アノード触媒層22やカソード触媒層25に含有される触媒としては、例えばPt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等の白金族元素の単体、白金族元素を含有する合金等が挙げられる。アノード触媒層22には、メタノールや一酸化炭素等に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Mo等を用いることが好ましい。カソード触媒層25には、PtやPt−Ni等を用いることが好ましい。ただし、触媒はこれらに限定されるものではなく、触媒活性を有する各種の物質を使用することができる。触媒は炭素材料のような導電性担持体を使用した担持触媒、あるいは無担持触媒のいずれであってもよい。
【0020】
電解質膜27はプロトン導電膜である。電解質膜27は、アノード触媒層22において発生したプロトンをカソード触媒層25に輸送するためのものである。電解質膜27は、電子伝導性を持たず、プロトンを輸送することが可能なプロトン伝導性の材料で形成されている。
【0021】
電解質膜27を形成する材料としては、例えばスルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸重合体のようなフッ素系樹脂(ナフィオン(商品名、デュポン社製)やフレミオン(商品名、旭硝子社製)等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂等の有機系材料、あるいはタングステン酸やリンタングステン酸等の無機系材料が挙げられる。ただし、プロトン伝導性の材料はこれらに限られるものではない。
【0022】
アノードガス拡散層23は、アノード触媒層22に燃料を均一に供給する役割を果たし、アノード触媒層22の集電機能を有している。カソードガス拡散層26は、カソード触媒層25に酸化剤を均一に供給する役割を果たし、カソード触媒層25の集機能を有している。アノードガス拡散層23及びカソードガス拡散層26は多孔質基材で構成されている。
【0023】
図1に示すように、アノード集電体31およびカソード集電体34は、例えば、金、ニッケル等の金属材料からなる多孔質層(例えばメッシュ)又は箔体、あるいはステンレス鋼(SUS)などの導電性金属材料に金などの良導電性金属を被覆した複合材を材料をそれぞれ使用することができる。
【0024】
燃料電池内の膜電極接合体3は、絶縁性のOリング(シール材)38,39によって液密にシールされている。これらのOリング38,39によって燃料電池の内部に種々のスペースや間隙が形成されている。
【0025】
アノード導電層31は、発電素子20に対応し矩形状に形成され、長軸を有し、互いに間隔を置いて位置している。これらの短冊状集電体の各々は複数の燃料通過孔を有している。
カソード集電体34は、発電素子20に対応し矩形状に形成され、長軸を有し、互いに間隔を置いて位置している。これらも同様に複数の燃料通過孔を有している。
これらアノード集電体31およびカソード集電体34により、膜電極接合体3を構成する発電素子20を直列接続する。
【0026】
Oリング(シール材)38及び39は、絶縁材料として、例えばゴムで形成されている。Oリング38は、アノード集電体31の外周を囲むよう枠状に形成されている。Oリング39は、カソード集電体34の外周を囲むよう枠状に形成されている。
【0027】
上記したように、膜電極接合体3及びアノード集電体31が組合さることで、燃料の気化成分は、アノード集電体31の燃料通過孔(図示せず)を通ってアノードガス拡散層23及びアノード触媒層22に供給される。このため、燃料電池本体1は、燃料の気化成分をアノードガス拡散層23及びアノード触媒層22に供給するように形成されている。
【0028】
例えば、アノード集電体31と、燃料供給部7との間に、任意に図示しない気液分離膜を設けることにより、燃料の気化成分をアノードガス拡散層23及びアノード触媒層22に供給することができる。ここで、Oリング(シール材)38は、膜電極接合体3からの燃料の漏れを防止する機能を有している。
【0029】
酸化剤としての空気は、フロントカバー15の通気孔(図示せず)を通り、カソード集電体34の通気孔(図示せず)を通ってカソードガス拡散層26及びカソード触媒層25に供給される。ここで、Oリング(シール材)39は、膜電極接合体3からの酸化剤の漏れを防止する機能を有している。
【0030】
図1に示すように、燃料極支持板6は、板状に形成されている。燃料極支持板6は、矩形状の板部51を有している。板部51は、アノード21及び燃料供給部7間に挟持されている。
【0031】
燃料極支持板6は、膜電極接合体3、より詳しくはアノード21に燃料を通過させる複数の燃料通過孔(図示せず)を有している。燃料通過孔は、マトリクス状に設けられている。上述した燃料極支持板6には、燃料として液体燃料82の気化成分が供給される。
【0032】
ここで、液体燃料82としては、液体のメタノール等のメタノール燃料、又はメタノール水溶液に限られるものではなく、例えばエタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、もしくはその他の液体燃料が挙げられる。いずれにしても、燃料電池に応じた液体燃料が使用される。液体燃料82の気化成分とは、液体燃料82として液体のメタノールを使用した場合、気化したメタノールを意味し、液体燃料82としてメタノール水溶液を使用した場合にはメタノールの気化成分と水の気化成分からなる混合ガスを意味する。
【0033】
図1及び図3に示すように、燃料供給部7は、燃料分配機構8と、燃料拡散部10とを備えている。燃料分配機構8は、アノード21に対して電解質膜27の反対側に配置されている。燃料拡散部10は、アノード21及び燃料分配機構8間に配置されている。
【0034】
燃料分配機構8は、アノード21と対向した側の表面に位置した燃料排出面67と、燃料排出面67の一部を開口して設けられているとともに流路65に繋げられ、燃料を排出する燃料排出口64と、を有しており、少なくとも燃料排出口64が親水性の材料により形成されている。燃料分配機構8の少なくとも燃料排出口64を構成する親水性の材料としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK:ヴィクトレックス社商標)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状オレフィン重合体、ポリフェニレンサルファイド(PPS)又はポリプロピレン(PP)などの各種液体燃料に対し親水性の材料により形成されている。
【0035】
燃料注入口63は、燃料分配機構8の適所、例えば側面に1つ形成されている。液体燃料82は、燃料注入口63から注入される。
燃料排出面67は、アノード21と対向した側の燃料分配機構8の表面に位置している。燃料排出口64は、燃料排出面67の一部を開口して設けられているとともに、流路65に繋げられている。燃料排出口64からは、液体燃料82又はその気化成分が排出される。この実施の形態においては、燃料排出口64からは液体燃料82が排出される。
【0036】
燃料注入口63から燃料供給板61に注入された液体燃料82は、流路65を介して燃料排出口64に導かれる。液体燃料82は、燃料排出口64から排出される。燃料排出口64から排出される液体燃料82は、燃料排出面67上を濡れ広がり、面方向に拡散される。上記したように、少なくとも燃料排出口64が親水性の材料により構成された燃料分配機構8の燃料排出面67によって液体燃料82が拡散された後、アノード21に液体燃料82が供給されるため、液体燃料82の供給量を平均化することができる。この親水性の材料により構成される構成は燃料排出口64だけではなく、燃料排出面67全体を親水性の材料で構成するのが好ましく、さらに好ましくは燃料分配機構8そのものを親水性の材料で構成することが好ましい。
【0037】
上記したような少なくとも燃料排出口が親水性の材料により構成された燃料分配機構8の燃料排出面67を設けることにより、液体燃料82を方向や位置に拘わりなく、アノード21に均等に拡散させることができる。このため、膜電極接合体3における発電反応の均一性を高めることができる。
【0038】
すなわち、アノード21の面内における燃料の分布が平準化され、膜電極接合体3での発電反応に必要とされる燃料を全体的に過不足なく供給することができる。従って、燃料電池の大型化や複雑化等を招くことなく、膜電極接合体3で効率的に発電反応を生起させることができる。これによって、燃料電池の出力を向上させることが可能となる。言い換えると、燃料を循環させないパッシブ型燃料電池の利点を損なうことなく、出力やその安定性を高めることができる。
【0039】
少なくとも燃料排出口64に対する液体燃料の接触角は50°以下であれば良い。これにより、上述した効果を得ることができる。
なお、この接触角は、温度25℃、相対湿度50%の環境下で、拡散材67に燃料を滴下したときの、図4に示す接触角(θ)を接触角測定解析装置を用いて測定する。固体表面張力をγ、固液界面張力をγSL、液体表面張力をγとした場合、γ=γcosθ+γSLが成り立つ。
【0040】
少なくとも燃料供給口64に対する燃料の接触角が50°を超えた場合、燃料が燃料排出面上の面方向への拡散が悪化するため、燃料が排出面上の広範囲に亘って均一に広がることがなくなるため、燃料の不均一供給が生じる。とりわけ起電部を直列に繋いだ場合は、燃料の不均一供給による発電バラツキが発生することで、全体の発電能力が低下することになる。
【0041】
燃料拡散部10は、アノード21及び燃料分配機構8間に配置されている。燃料拡散部10は、燃料分配機構8から供給される液体燃料82をより拡散してアノード21に排出するものである。なお、燃料拡散部10は必要に応じて設けられている。
【0042】
燃料拡散部10は、例えば、第1拡散シート11及び第2拡散シート12を有している。第1拡散シート11は、燃料分配機構8側に設けられ、燃料排出面67上に配置されている。第2拡散シート12は、膜電極接合体3側に設けられ、第1拡散シート11上に配置されている。上記したように、燃料拡散部10によって燃料が一層拡散された後、燃料拡散部10からアノード21に燃料(燃料ガス)が供給されるため、燃料供給量をより一層均一化することが可能となる。
【0043】
図1に示すように、フロントカバー15は、矩形状を有している。板部71はカソード集電体34上に設けられている。フロントカバー15は、膜電極接合体3、より詳しくはカソード24に酸化剤としての空気を取入れるための複数の通気孔(図示せず)72を有している。通気孔は、マトリクス状に設けられている。
【0044】
上述した燃料拡散部10、燃料極支持板6、膜電極接合体3、アノード集電体31及びカソード集電体34は、それぞれの側面が周壁62によって覆われている。
【0045】
フロントカバー15は、例えば周縁から外側に延出した複数の延出部を有しており、燃料電池本体1は、これら延出部が燃料分配機構8の外面にかしめ加工あるいはねじ止めされることにより完成する。
【0046】
ここで、カソード24及びフロントカバー15間に、図示しない保湿板を設けても良い。保湿板は、カソード触媒層25において生成された水の一部を吸収して水の蒸散を抑制し、かつ、カソードガス拡散層26に空気を均一に導入することによりカソード触媒層25への空気の均一拡散を促す機能を有している。保湿板には好ましくは気孔率が例えば20〜60%の多孔性フィルム等が用いられる。
【0047】
図1に示すように、燃料供給源2は、燃料収容部81を備えている。燃料収容部81には液体燃料82が収容されている。燃料供給源2は、流路83及びポンプ84をさらに備えている。流路83は例えばチューブ状に形成され、燃料収容部81及び燃料注入口63に接続されている。このため、燃料供給部7には燃料収容部81から流路83を介して液体燃料82が導入される。
【0048】
ポンプ84は、流路83の途中に挿入されている。ポンプ84は燃料を循環させる循環ポンプではなく、あくまでも燃料収容部81から燃料供給部7に液体燃料82を送液する燃料供給ポンプである。このようなポンプ84で必要時に液体燃料82を送液することによって、燃料供給量の制御性を高めることができる。
【0049】
ポンプ84の種類は特に限定されるものではないが、少量の液体燃料82を制御性よく送液することができ、さらに小型軽量化が可能という観点から、ロータリーポンプ(ロータリーベーンポンプ)、電気浸透流ポンプ、ダイアフラムポンプ、しごきポンプ等を使用することが好ましい。
【0050】
ロータリーポンプはモータで羽を回転させて送液するものである。電気浸透流ポンプは電気浸透流現象を起こすシリカ等の焼結多孔体を用いたものである。ダイアフラムポンプは電磁石や圧電セラミックスによりダイアフラムを駆動して送液するものである。しごきポンプは柔軟性を有する燃料流路の一部を圧迫し、燃料をしごき送るものである。これらのうち、駆動電力や大きさ等の観点から、電気浸透流ポンプや圧電セラミックスを有するダイアフラムポンプを使用することがより好ましい。
【0051】
ポンプ84は、必要時動作させて燃料収容部81から燃料供給部7に液体燃料82を供給する。このように、ポンプ84で燃料収容部81から燃料供給部7まで液体燃料82を送液する場合においても、燃料供給部7は有効に機能するため、膜電極接合体3に対する燃料供給量を均一化することが可能となる。
【0052】
また、燃料供給部7から膜電極接合体3への燃料供給が行われる構成であればポンプ84に代えて燃料遮断バルブを配置する構成とすることも可能である。この場合には、燃料遮断バルブは、流路による液体燃料の供給を制御するために設けられるものである。
上記したように、燃料電池が形成されている。
【0053】
次に、上記燃料電池による発電の仕組みについて説明する。
まず、ポンプ84を稼動させ、燃料収容部81から流路83を介して燃料供給部7に液体燃料82を導入させる。この液体燃料82は燃料分配機構8の燃料排出口64から排出され、燃料排出面67及び燃料拡散部10によって拡散される。第2拡散シート12から、液体燃料82の気化成分が放出され、膜電極接合体3のアノード21に供給される。この実施の形態において、燃料電池本体1は、燃料拡散部10を有しているため、燃料はアノード21にさらに均一に供給される。
【0054】
なお、例えば、アノード集電体31と、燃料供給部7との間に、気化膜として図示しない気液分離膜を設けても良い。これにより、燃料の気化成分をアノードガス拡散層23及びアノード触媒層22に供給することができる。
【0055】
膜電極接合体3内において、燃料はアノードガス拡散層23にて拡散してアノード触媒層22に供給される。液体燃料82としてメタノール燃料を用いた場合、アノード触媒層22で式(1)に示すメタノールの内部改質反応が生じる。なお、メタノール燃料として純メタノールを使用した場合には、カソード触媒層25で生成した水や電解質膜27中の水をメタノールと反応させて式(1)の内部改質反応を生起させる。あるいは、水を必要としない他の反応機構により内部改質反応を生じさせる。
【0056】
CHOH+HO → CO+6H+6e …(1)
この反応で生成した電子(e)はアノード集電体31に接続された端子(図示せず)から外部に導かれ、いわゆる電気として携帯用電子機器等を動作させた後、カソード集電体34に接続された端子(図示せず)からカソード24に導かれる。また、式(1)の内部改質反応で生成したプロトン(H)は電解質膜27を経てカソード24に導かれる。カソード24には酸化剤として空気が供給される。カソード24に到達した電子(e)とプロトン(H)は、カソード触媒層25で空気中の酸素と式(2)にしたがって反応し、この反応に伴って水が生成する。
【0057】
6e+6H+(3/2)O → 3HO …(2)
上記したように、燃料電池による発電が行われる。
【0058】
ここで、本願発明者は、上記実施の形態の燃料電池を評価するため、下記に示す実施例1乃至13の燃料電池、並びに比較例1の燃料電池の電圧ばらつき及び出力を測定した。そして、測定した電圧ばらつき及び出力を基に、各種燃料電池の電圧偏差及び出力相対値を算出した。
【0059】
出力を測定する際、燃料として純メタノール燃料を用い、燃料収容部81に収容された純メタノール燃料をポンプ84を用いて燃料排出口64まで液送し、一定電圧で発電を行い、出力を測定した。また、燃料電池を、温度25℃、相対湿度50%の環境下に配置した。
【0060】
(比較例1)
まず、比較例1の燃料電池について説明する。図1、6,7及び8に示すように、燃料分配機構8は、ポリ四フッ化エチレンで形成されている。燃料分配機構8に対する液体燃料82の接触角θは、80°である。燃料分配機構8は、複数の燃料排出口64を有している。燃料排出口64は、燃料排出面67Sの複数個所を開口して設けられているとともに、流路65に繋げられている。燃料排出口64は、燃料分配機構8の燃料排出面67の中心に1つ、端部に4つ設けられている。
【0061】
図1、7及び8に示すように、第1拡散シート11は、厚み0.1mmの多孔質ポリエチレンシートである。第2拡散シート12は、厚み0.1mmのシリコーンシートである。燃料排出面67と、膜電極接合体3と面積比は100%である。燃料排出面67と、燃料拡散部10との面積比は95%である。
【0062】
図8に示すように、比較例1の燃料電池の電圧偏差は50mVであった。上記したことから、出力が不安定であることが分かる。そして、出力の高い燃料電池を実現することができなかった。なお、比較例1の燃料電池の出力を100%とした。
【0063】
(実施例1)
次に、実施例1の燃料電池について説明する。図3、5及び8に示すように、燃料分配機構8は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK:ヴィクトレックス社商標)で形成されている。燃料分配機構8に対する液体燃料82の接触角θは、30°である。燃料分配機構8は、燃料排出口64を有している。燃料排出口64は、燃料排出面67の一部を開口して設けられているとともに、流路65に繋げられている。燃料排出口64は、燃料分配機構8の燃料排出面67の中心に1つ設けられている。
【0064】
実施例1の燃料電池は、燃料拡散部10(第1拡散シート11及び第2拡散シート12)を有していない。燃料排出面67と、膜電極接合体3と面積比は100%である。
【0065】
図8に示すように、実施例1の燃料電池の電圧偏差は40mVであった。上記したことから、出力が安定していることが分かる。出力(相対比)110%であった。上記したことから、出力の高い燃料電池を実現することができた。
【0066】
(実施例2)
次に、実施例2の燃料電池について説明する。図5、6及び8に示すように、燃料分配機構8は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK:ヴィクトレックス社商標)で形成されている。燃料分配機構8に対する液体燃料82の接触角θは、30°である。燃料分配機構67は、複数の燃料排出口64を有している。燃料排出口64は、燃料排出面67の複数個所を開口して設けられているとともに、流路65に繋げられている。燃料排出口64は、燃料分配機構8の燃料排出面67の中心に1つ、端部に4つ設けられている。
【0067】
実施例2の燃料電池は、燃料拡散部10(第1拡散シート11及び第2拡散シート12)を有していない。燃料排出面67と、膜電極接合体3と面積比は100%である。
【0068】
図8に示すように、実施例2の燃料電池の電圧偏差は35mVであった。上記したことから、出力が安定していることが分かる。出力(相対比)115%であった。上記したことから、出力の高い燃料電池を実現することができた。
【0069】
(実施例3)
次に、実施例3の燃料電池について説明する。図1、3、7及び8に示すように、燃料分配機構8は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK:ヴィクトレックス社商標)で形成されている。燃料分配機構8に対する液体燃料82の接触角θは、30°である。燃料分配機構8は、燃料排出口64を有している。燃料排出口64は、燃料排出面67の一部を開口して設けられているとともに、流路65に繋げられている。燃料排出口64は、燃料分配機構8の燃料排出面67の中心に1つ設けられている。
【0070】
図1、7及び8に示すように、第1拡散シート11は、厚み0.1mmの多孔質ポリエチレンシートである。第2拡散シート12は、厚み0.1mmのシリコーンシートである。燃料排出面67と、膜電極接合体3と面積比は100%である。燃料排出面67(と、燃料拡散部10との面積比は95%である。
【0071】
図8に示すように、実施例3の燃料電池の電圧偏差は30mVであった。上記したことから、出力が安定していることが分かる。出力(相対比)120%であった。上記したことから、出力の高い燃料電池を実現することができた。
【0072】
(実施例4)
次に、実施例4の燃料電池について説明する。図1、6、7及び8に示すように、燃料分配機構8は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK:ヴィクトレックス社商標)で形成されている。燃料分配機構8に対する液体燃料82の接触角θは、30°である。燃料分配機構8は、複数の燃料排出口64を有している。燃料排出口64は、燃料排出面67の複数個所を開口して設けられているとともに、流路65に繋げられている。燃料排出口64は、燃料分配機構8の燃料排出面67の中心に1つ、端部に4つ設けられている。
【0073】
図1、7及び8に示すように、第1拡散シート11は、厚み0.1mmの多孔質ポリエチレンシートである。第2拡散シート12は、厚み0.1mmのシリコーンシートである。燃料排出面67と、膜電極接合体3と面積比は100%である。燃料排出面67と、燃料拡散部10との面積比は95%である。
【0074】
図8に示すように、実施例4の燃料電池の電圧偏差は20mVであった。上記したことから、出力が安定していることが分かる。出力(相対比)140%であった。上記したことから、出力の高い燃料電池を実現することができた。
【0075】
(実施例5)
次に、実施例5の燃料電池について説明する。図1、6、7及び8に示すように、燃料分配機構8は、ポリエチレンナフタレート(PEN)で形成されている。燃料分配機構8に対する液体燃料82の接触角θは、45°である。燃料分配機構8は、複数の燃料排出口64を有している。燃料排出口64は、燃料排出面67の複数個所を開口して設けられているとともに、流路65に繋げられている。燃料排出口64は、燃料分配機構8の燃料排出面67の中心に1つ、端部に4つ設けられている。
【0076】
図1、7及び8に示すように、第1拡散シート11は、厚み0.1mmの多孔質ポリエチレンシートである。第2拡散シート12は、厚み0.2mmのシリコーンシートである。燃料排出面67と、膜電極接合体3と面積比は100%である。燃料排出面67と、燃料拡散部10との面積比は96%である。
【0077】
図8に示すように、実施例5の燃料電池の電圧偏差は22mVであった。上記したことから、出力が安定していることが分かる。出力(相対比)135%であった。上記したことから、出力の高い燃料電池を実現することができた。
【0078】
(実施例6)
次に、実施例6の燃料電池について説明する。図1、6、7及び8に示すように、燃料分配機構8は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)で形成されている。燃料分配機構8に対する液体燃料82の接触角θは、50°である。燃料分配機構8は、複数の燃料排出口64を有している。燃料排出口64は、燃料分配機構8の燃料排出面67の複数個所を開口して設けられているとともに、流路65に繋げられている。燃料排出口64は、燃料排出面67の中心に1つ、端部に4つ設けられている。
【0079】
図1、7及び8に示すように、第1拡散シート11は、厚み0.1mmの多孔質ポリエチレンシートである。第2拡散シート12は、厚み0.2mmのシリコーンシートである。燃料排出面67と、膜電極接合体3と面積比は100%である。燃料排出面67と、燃料拡散部10との面積比は96%である。
【0080】
図8に示すように、実施例6の燃料電池の電圧偏差は25mVであった。上記したことから、出力が安定していることが分かる。出力(相対比)133%であった。上記したことから、出力の高い燃料電池を実現することができた。
【0081】
(実施例7)
次に、実施例7の燃料電池について説明する。図1、6、7及び8に示すように、燃料分配機構8は、ポリエチレンテレフタレート(PET)で形成されている。燃料分配機構8に対する液体燃料82の接触角θは、40°である。燃料分配機構8は、複数の燃料排出口64を有している。燃料排出口64は、燃料排出面67の複数個所を開口して設けられているとともに、流路65に繋げられている。燃料排出口64は、燃料分配機構8の燃料排出面67の中心に1つ、端部に4つ設けられている。
【0082】
図1、7及び8に示すように、第1拡散シート11は、厚み0.1mmの多孔質ポリエチレンシートである。第2拡散シート12は、厚み0.2mmのシリコーンシートである。燃料排出面67と、膜電極接合体3と面積比は100%である。燃料排出面67と、燃料拡散部10との面積比は96%である。
【0083】
図8に示すように、実施例7の燃料電池の電圧偏差は23mVであった。上記したことから、出力が安定していることが分かる。出力(相対比)132%であった。上記したことから、出力の高い燃料電池を実現することができた。
【0084】
(実施例8)
次に、実施例8の燃料電池について説明する。図1及び8に示すように、燃料分配機構8は、ポリエチレン(PE)で形成されている。燃料分配機構8に対する液体燃料82の接触角θは、35°である。燃料分配機構8は、複数の燃料排出口64を有している。燃料排出口64は、燃料分配機構8の燃料排出面67の複数個所を開口して設けられているとともに、流路65に繋げられている。燃料排出口64は、燃料排出面67にほぼ等間隔に120個設けられている。
【0085】
図8に示すように、燃料拡散部10は第1拡散シート11を有している。燃料拡散部10は第2拡散シート12を有していない。第1拡散シート11は、厚み0.2mmの多孔質ポリエチレンシートである。燃料排出面67と、膜電極接合体3と面積比は100%である。燃料排出面67と、燃料拡散部10との面積比は96%である。
【0086】
図8に示すように、実施例8の燃料電池の電圧偏差は23mVであった。上記したことから、出力が安定していることが分かる。出力(相対比)132%であった。上記したことから、出力の高い燃料電池を実現することができた。
【0087】
(実施例9)
次に、実施例9の燃料電池について説明する。図1及び8に示すように、燃料分配機構8は、ポリイミド(PI)で形成されている。燃料分配機構8に対する液体燃料82の接触角θは、40°である。燃料分配機構8は、複数の燃料排出口64を有している。燃料排出口64は、燃料分配機構8の燃料排出面67の複数個所を開口して設けられているとともに、流路65に繋げられている。燃料排出口64は、燃料排出面67にほぼ等間隔に120個設けられている。
【0088】
図8に示すように、燃料拡散部10は第1拡散シート11を有している。燃料拡散部10は第2拡散シート12を有していない。第1拡散シート11は、厚み0.2mmの多孔質ポリエチレンシートである。燃料排出面67と、膜電極接合体3と面積比は100%である。燃料排出面67と、燃料拡散部10との面積比は96%である。
【0089】
図8に示すように、実施例9の燃料電池の電圧偏差は22mVであった。上記したことから、出力が安定していることが分かる。出力(相対比)130%であった。上記したことから、出力の高い燃料電池を実現することができた。
【0090】
(実施例10)
次に、実施例10の燃料電池について説明する。図1及び8に示すように、燃料分配機構8は、ポリエーテルイミド(PEI)で形成されている。燃料分配機構8に対する液体燃料82の接触角θは、45°である。燃料分配機構8は、複数の燃料排出口64を有している。燃料排出口64は、燃料分配機構8の燃料排出面67の複数個所を開口して設けられているとともに、流路65に繋げられている。燃料排出口64は、燃料排出面67にほぼ等間隔に120個設けられている。
【0091】
図8に示すように、燃料拡散部10は第1拡散シート11を有している。燃料拡散部10は第2拡散シート12を有していない。第1拡散シート11は、厚み0.2mmの多孔質ポリエチレンシートである。燃料排出面67と、膜電極接合体3と面積比は100%である。燃料排出面67と、燃料拡散部10との面積比は96%である。
【0092】
図8に示すように、実施例10の燃料電池の電圧偏差は23mVであった。上記したことから、出力が安定していることが分かる。出力(相対比)125%であった。上記したことから、出力の高い燃料電池を実現することができた。
【0093】
(実施例11)
次に、実施例11の燃料電池について説明する。図1及び8に示すように、燃料分配機構8は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)で形成されている。燃料分配機構8に対する液体燃料82の接触角θは、50°である。燃料分配機構8は、複数の燃料排出口64を有している。燃料排出口64は、燃料分配機構8の燃料排出面67の複数個所を開口して設けられているとともに、流路65に繋げられている。燃料排出口64は、燃料排出面67にほぼ等間隔に120個設けられている。
【0094】
図8に示すように、燃料拡散部10は第1拡散シート11を有している。燃料拡散部10は第2拡散シート12を有していない。第1拡散シート11は、厚み0.2mmの多孔質ポリエチレンシートである。燃料排出面67と、膜電極接合体3と面積比は100%である。燃料排出面67と、燃料拡散部10との面積比は96%である。
【0095】
図8に示すように、実施例11の燃料電池の電圧偏差は22mVであった。上記したことから、出力が安定していることが分かる。出力(相対比)127%であった。上記したことから、出力の高い燃料電池を実現することができた。
【0096】
(実施例12)
次に、実施例12の燃料電池について説明する。図1及び8に示すように、燃料分配機構8は、環状オレフィン重合体で形成されている。燃料分配機構8に対する液体燃料82の接触角θは、45°である。燃料分配機構8は、複数の燃料排出口64を有している。燃料排出口64は、燃料分配機構8の燃料排出面67の複数個所を開口して設けられているとともに、流路65に繋げられている。燃料排出口64は、燃料排出面67にほぼ等間隔に120個設けられている。
【0097】
図8に示すように、燃料拡散部10は第1拡散シート11を有している。燃料拡散部10は第2拡散シート12を有していない。第1拡散シート11は、厚み0.2mmの多孔質ポリエチレンシートである。燃料排出面67と、膜電極接合体3と面積比は100%である。燃料排出面67と、燃料拡散部10との面積比は96%である。
【0098】
図8に示すように、実施例12の燃料電池の電圧偏差は22mVであった。上記したことから、出力が安定していることが分かる。出力(相対比)128%であった。上記したことから、出力の高い燃料電池を実現することができた。
【0099】
(実施例13)
次に、実施例13の燃料電池について説明する。図1及び8に示すように、燃料分配機構8は、ポリプロピレンで形成されている。燃料分配機構8に対する液体燃料82の接触角θは、40°である。燃料分配機構8は、複数の燃料排出口64を有している。燃料排出口64は、燃料分配機構8の燃料排出面67の複数個所を開口して設けられているとともに、流路65に繋げられている。燃料排出口64は、燃料排出面67にほぼ等間隔に120個設けられている。
【0100】
図8に示すように、燃料拡散部10は第1拡散シート11を有している。燃料拡散部10は第2拡散シート12を有していない。第1拡散シート11は、厚み0.2mmの多孔質ポリエチレンシートである。燃料排出面67と、膜電極接合体3と面積比は100%である。燃料排出面67と、燃料拡散部10との面積比は96%である。
【0101】
図8に示すように、実施例12の燃料電池の電圧偏差は22mVであった。上記したことから、出力が安定していることが分かる。出力(相対比)130%であった。上記したことから、出力の高い燃料電池を実現することができた。
【0102】
上記したように構成された燃料電池によれば、燃料電池本体1は、膜電極接合体3と、燃料分配機構8とを備えている。燃料分配機構8は、液体燃料82を排出する1つ又は複数の燃料排出口64を有している。
【0103】
燃料分配機構8は、少なくとも燃料排出口64が親水性の材料により構成された燃料分配機構8の燃料排出面67を有している。そして、この親水性の材料により構成される構成は燃料排出口64だけではなく、燃料排出面67全体を親水性の材料で構成するのが好ましく、さらに好ましくは燃料分配機構8そのものを親水性の材料で構成することが好ましい。
【0104】
燃料排出口64(好ましくは燃料排出面67全体、さらに好ましくは燃料分配機構8)に対する液体燃料82の接触角θは、50°以下である。液体燃料82は燃料排出面67上を濡れ広がるため、液体燃料82の面方向への拡散は促進される。これにより、燃料はアノード21に均一に供給される。このため、膜電極接合体3における発電反応の均一性を高めることができる。上記したことから、燃料電池の出力を向上でき、出力の安定性を高めることができる。
【0105】
上記実施例3乃至8において、燃料電池セル1は、燃料拡散部10を有している。このため、燃料拡散部10により、液体燃料82の面方向への拡散はより一層促進される。このため、上記実施例3乃至8の場合、燃料電池の出力をより一層向上でき、出力の安定性をより一層高めることができる。
【0106】
上記実施例2及び4乃至7において、燃料排出口64は、拡散材67の各端部にも1つずつ、合計4個設けられている。上記実施例8乃至13において、燃料排出口64は120個設けられている。燃料排出口64の位置した複数個所において、液体燃料82は燃料排出面67上を濡れ広がるため、液体燃料82の面方向への拡散はより一層促進される。このため、上記実施例2及び4乃至8の場合、燃料電池の出力をより一層向上でき、出力の安定性をより一層高めることができる。
上記したことから、出力特性に優れた燃料電池燃料電池を得ることができる。
【0107】
なお、この発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化可能である。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0108】
第1拡散シート11及び第2拡散シート12の厚み及び材料は上述した実施の形態に限定されるものではなく、燃料の拡散に寄与する材料及び厚みで形成されていれば良い。燃料拡散部10は、3つ以上の拡散シートを有していても良い。この場合でも、上述した効果を得ることができる。
【0109】
例えば、図7及び12に示した燃料排出口64の個数や位置を工夫し、膜電極接合体3の特定個所により多くの燃料を供給するよう燃料分配機構8を併せて設計しても良い。製品への燃料電池装着上の都合から燃料電池本体1の半分の部位の放熱がよくなってしまうような場合、従来では温度分布が生じてしまい、平均出力の低下が避けられない。これに対して、燃料排出口64及び流路65の形成パターンを調整し、予め放熱のよい部分に燃料排出口64を密に配置することによって、その部分での発電に伴う発熱を多くすることができる。これによって、面内の発電度合いを均一化することができ、出力低下を抑制することが可能となる。
【0110】
液体燃料82を燃料収容部81から燃料供給部7まで送る機構は特に限定されるものではない。例えば、使用時の設置場所が固定される場合には、重力を利用して液体燃料82を燃料収容部81から燃料供給部7まで落下させて送液することができる。また、多孔体等を充填した流路83を用いることによって、毛細管現象で燃料収容部81から燃料供給部7まで送液することもできる。
【0111】
流路83は燃料供給部7や燃料収容部81と独立した配管に限られるものではない。例えば、燃料供給部7と燃料収容部81とを積層して一体化する場合、これらを繋ぐ液体燃料82の流路であってもよい。燃料供給部7は流路83を介して燃料収容部81と接続されていれば良い。
【0112】
膜電極接合体3は複数の発電素子20を有し、発電素子20が直列に接続されているが、これに限られるものではない。膜電極接合体3は、アノード21、カソード24及び電解質膜27が重なった発電領域R1に形成された1つの発電素子20を有していても良い。
【0113】
図1に示した燃料収容部81は、ポンプ84を制御する制御部を有していても良い。燃料供給用(送液用)のポンプ84の制御は、例えば燃料電池の出力を参照して行うことが好ましい。燃料電池の出力は制御部で検出され、この検出結果に基づいてポンプ84に制御信号が送られる。ポンプ84は制御部から送られる制御信号に基づいてオン/オフが制御される。ポンプ84の動作は燃料電池の出力に加えて、温度情報や電力供給先である電子機器の運転状態情報等に基づいて制御することで、より安定した運転が達成できる。
【0114】
ポンプ84の具体的な動作制御方法としては、例えば燃料電池からの出力が所定の規定値より高くなった場合にポンプ84を停止または送液量を低下させ、出力が規定値より低くなった場合にポンプ84の運転を再開または送液量を増加させる方法が挙げられる。別の動作制御方法としては、燃料電池からの出力の変化率がプラスの場合にポンプ84の運転を停止または送液量を低下させ、出力の変化率がマイナスになった場合にポンプ84の運転を再開または送液量を増加させる方法が挙げられる。
【0115】
燃料電池としての安定性や信頼性を高めるため、図1に示した燃料供給源2は、燃料電池の未使用時にも不可避的に発生する微量な燃料の消費や上述したポンプ再運転時の吸い込み不良等を回避するために燃料遮断バルブを有していても良い。燃料遮断バルブは、ポンプ84と直列に配置することが好ましい。燃料遮断バルブは、例えばポンプ84と燃料供給部7との間の流路83に挿入されている。燃料遮断バルブは、ポンプ84と燃料収容部81との間に設置しても機能上の支障はない。
【0116】
さらに、燃料遮断バルブは、図1に示したポンプ84に代えて配置していても有効である。例えば、燃料供給部7と燃料収容部81とを接続する流路83に燃料遮断バルブを挿入する。このような構成を適用することによって、膜電極接合体3に対する燃料の供給を制御し、燃料電池の出力制御性を高めることができる。この場合の燃料遮断バルブの動作制御は、上述したポンプ84の動作制御と同様に実施することができる。
【0117】
図1に示した燃料電池において、燃料収容部81や流路83に、燃料収容部81内の圧力を外気とバランスさせるバランスバルブを装着することが好ましい。バランスバルブは、例えば燃料収容部81に設置されている。図示しないが、バランスバルブは、バルブ可動片と、燃料収容部81内の圧力に応じてバルブ可動片を動作させるスプリングと、バルブ可動片をシールして閉状態とするシール部とを有している。
【0118】
この発明は、直接メタノール型の燃料電池に限定されるものではなく、他の燃料電池に適用可能である。そして、液体燃料82も、必ずしもメタノール燃料に限られるものではない。液体燃料82は、各種の液体燃料を使用した場合に効果を発揮し、液体燃料の種類や濃度は限定されるものではない。
【0119】
また、膜電極接合体3へ供給される液体燃料においても、全て液体燃料の蒸気を供給してもよいが、一部が液体状態で供給される場合であっても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】この発明の実施の形態に係る燃料電池を示す断面図であり、特に、実施例3乃至7の燃料電池を示す断面図。
【図2】図1に示した膜電極接合体を示す平面図。
【図3】図1に示した燃料分配機構を示す平面図。
【図4】図1に示した燃料分配機構に対する燃料の接触角の測定方法を説明するための図。
【図5】上記実施の形態の実施例1及び2の燃料電池の燃料供給部を示す断面図。
【図6】上記実施の形態の実施例2及び4乃至7、並びに比較例1の燃料電池の燃料分配機構を示す平面図。
【図7】上記実施の形態の実施例3乃至7及び比較例1の燃料電池の燃料拡散部を示す断面図。
【図8】上記実施の形態の実施例1乃至13及び比較例1の(1)燃料分配機構の材料、(2)燃料分配機構に対する液体燃料の接触角、(3)燃料排出口の数及び位置、(4)燃料拡散部、(5)燃料分配機構の燃料排出面と膜電極接合体の面積比、(6)燃料分配機構の燃料排出面と燃料拡散部の面積比、(7)電圧偏差及び(8)出力を表で示した図。
【符号の説明】
【0121】
1…燃料電池本体、2…燃料供給源、3…膜電極接合体、4…集電体、6…燃料極支持板、7…燃料供給部、8…燃料分配機構、10…燃料拡散部、15…フロントカバー、20…発電素子、21…燃料極(アノード)、22…アノード触媒層、23…アノードガス拡散層、24…空気極(カソード)、25…カソード触媒層、26…カソードガス拡散層、27…電解質膜、31…アノード集電体、34…カソード集電体、38,39…Oリング(シール材)、62…周壁、63…燃料注入口、64…燃料排出口、65…流路、67…燃料排出面、81…燃料収容部、82…液体燃料、83…流路、84…ポンプ、R1…発電領域、R2…有効領域、R3…非有効領域、θ…接触角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極と、空気極と、前記燃料極及び空気極間に挟持された電解質膜と、を有した膜電極接合体を有する起電部と、
前記燃料極に対して前記電解質膜の反対側に配置され、燃料の流路が設けられた燃料分配機構と、を備え、
前記燃料分配機構は、前記燃料極と対向した側の表面に位置した燃料排出面と、前記燃料排出面の一部を開口して設けられているとともに前記流路に繋げられ、燃料を排出する燃料排出口と、を有しており、少なくとも前記燃料排出口が親水性の材料により形成されている燃料電池。
【請求項2】
前記燃料排出口に対する燃料の接触角は、50°以下である請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記燃料分配機構は、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、環状オレフィン重合体、ポリフェニレンサルファイド又はポリプロピレンである請求項1に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記燃料極及び燃料分配機構間に配置され、前記燃料排出口から排出される燃料を拡散して前記燃料極に供給する燃料拡散部をさらに備えている請求項1に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記燃料分配機構は、燃料を排出する複数の燃料排出口を有している請求項1に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記燃料電池は、さらに燃料を収容するとともに流路により前記燃料分配機構に燃料を供給する燃料供給源を備えている請求項1に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−146616(P2009−146616A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320079(P2007−320079)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000221339)東芝電子エンジニアリング株式会社 (238)
【Fターム(参考)】