説明

燃料電池

【課題】長期にわたって高い出力を安定して得ることが可能な燃料電池を提供する。
【解決手段】アノード13と、カソード16と、アノードとカソードとの間に挟持された電解質膜17と、を有する膜電極接合体2と、
アノードに接触するアノード集電部41と、カソードに接触するカソード集電部42と、カソード集電部から延出した延出電極42Eと、を有する集電体40と、
延出電極とアノード集電部との間に挟持された絶縁膜ISと、
膜電極接合体のアノードに燃料を供給する燃料供給機構3と、
を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に係り、特に膜電極接合体の電極に接触して集電する集電体を備えた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンや携帯電話等の各種携帯用電子機器を長時間充電なしで使用可能とするために、これら携帯用電子機器の電源に燃料電池を用いる試みがなされている。燃料電池は、燃料と空気を供給するだけで発電することができ、燃料を補給すれば連続して長時間発電することが可能であるという特徴を有している。このため、燃料電池を小型化できれば、携帯用電子機器の電源として極めて有利なシステムといえる。
【0003】
例えば、メタノールを燃料として用いた直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell:DMFC)は小型化が可能であり、さらに燃料の取り扱いも容易であるため、携帯用電子機器の電源として有望視されている。DMFCにおける液体燃料の供給方式としては、気体供給型や液体供給型等のアクティブ方式、また、燃料収容部内の液体燃料を電池内部で気化させてアノードに供給する内部気化型等のパッシブ方式などが知られている。
【0004】
DMFCは、アノードとカソードとの間に電解質膜を挟持させた構造の膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)を備えている。アノード及びカソードは、それぞれガス拡散層及び触媒層を有しており、それぞれの触媒層で電解質膜に接している。
【0005】
このようなDMFCでは、アノードに燃料としてのメタノールを導入すると、メタノールはガス拡散層を介して触媒層に達する。このアノードの触媒層では、その触媒作用によりプロトン、電子および二酸化炭素が生成される。プロトンは、プロトン伝導性を有する高分子バインダーの作用により触媒層から電解質膜に移動し、さらに、カソード側の触媒層へと移動する。一方、カソードに空気を導入すると、空気はガス拡散層を介して触媒層に達する。そして、このカソードの触媒層では、空気中の酸素とアノード側から移動してきたプロトンとアノードから外部回路を通じて供給される電子とが反応して水を生成するとともに、外部回路を通る電子によって電力が供給される。
【0006】
ところで、燃料電池では、1個の単電池から得られる電力及び電圧は小さいため、それらを電気的に直列に接続して、大電力及び高電圧を得ている。例えば、特許文献1によれば、隣り合う燃料極または酸化剤極の少なくとも一方を互いに向かい合わせ、絶縁性の流路板の両主面に、燃料極を向かい合わせた場合は燃料室を、酸化剤極を向かい合わせた場合には酸化剤室をそれぞれ構成するモノポーラ型積層燃料電池が開示されている。
【特許文献1】特開2005−294069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃料としてメタノールを用いた発電反応では、カソードで生成された水を効率よくアノード側に供給し、アノード側での触媒作用に利用することが望まれる。しかしながら、発電反応によってカソード側での温度上昇により、生成した水が蒸発してしまい、アノード側に供給すべき水が不足してしまうことがある。この場合、出力の低下を招くおそれがある。
【0008】
この発明の目的は、長期にわたって高い出力を安定して得ることが可能な燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の第1態様による燃料電池は、
アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間に挟持された電解質膜と、を有する膜電極接合体と、
前記アノードに接触するアノード集電部と、前記カソードに接触するカソード集電部と、前記カソード集電部から延出した延出電極と、を有する集電体と、
前記延出電極と前記アノード集電部との間に挟持された絶縁膜と、
前記膜電極接合体の前記アノードに燃料を供給する燃料供給機構と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
この発明の第2態様による燃料電池は、
アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間に挟持された電解質膜と、を有する膜電極接合体と、
前記アノードに接触するアノード集電部と、前記カソードに接触するカソード集電部と、前記アノード集電部から延出した延出電極と、を有する集電体と、
前記延出電極と前記カソード集電部との間に挟持された絶縁膜と、
前記膜電極接合体の前記アノードに燃料を供給する燃料供給機構と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、長期にわたって高い出力を安定して得ることが可能な燃料電池を提供することができる。
【0012】
すなわち、第1態様によれば、集電体は、カソード集電部から延出した延出電極がアノード集電部との間で絶縁膜を挟持して構成されている。また、第2態様によれば、集電体は、アノード集電部から延出した延出電極がカソード集電部との間で絶縁膜を挟持して構成されている。
【0013】
このため、カソード集電部とアノード集電部とが絶縁膜により電気的に絶縁されるとともに、膜電極接合体のカソードで発生した熱を集電体によりアノード側に放熱することが可能となる。つまり、カソードで発生した熱は、カソード集電部、延出電極、及び、アノード集電部を介してアノードに導かれる。
【0014】
これにより、カソードの放熱効率を向上することができ、カソードで生成した水の過剰な蒸発を抑制することが可能となる。このため、適度な水を安定してアノードに供給することが可能となる。一方で、アノードが適度に温められるため、燃料の気化を促進することが可能となる。したがって、アノードでの発電反応を効率よく生起させることが可能となり、長期にわたって高い出力を安定して得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の一実施の形態に係る燃料電池に関する技術について図面を参照して説明する。
【0016】
《第1実施形態》
図1は、この実施の形態に係る燃料電池1の主要部を概略的に示す断面図である。
【0017】
燃料電池1は、起電部を構成する膜電極接合体(MEA)2と、膜電極接合体2に燃料を供給する燃料供給機構3と、液体燃料を収容する燃料収容部4とから主として構成されている。
【0018】
すなわち、燃料電池1において、膜電極接合体2は、アノード触媒層11とアノードガス拡散層12とを有するアノード(燃料極)13と、カソード触媒層14とカソードガス拡散層15とを有するカソード(空気極/酸化剤極)16と、アノード触媒層11とカソード触媒層14とで挟持されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜17とを備えて構成されている。
【0019】
アノード触媒層11やカソード触媒層14に含有される触媒としては、例えば白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、パラジウム(Pd)等の白金族元素の単体、白金族元素を含有する合金等が挙げられる。アノード触媒層11には、メタノールや一酸化炭素等に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Mo等を用いることが好ましい。カソード触媒層14には、PtやPt−Ni等を用いることが好ましい。
【0020】
ただし、触媒は、これらに限定されるものではなく、触媒活性を有する各種の物質を使用することができる。また、触媒は、炭素材料のような導電性担持体を使用した担持触媒、あるいは無担持触媒のいずれであってもよい。
【0021】
電解質膜17を構成するプロトン伝導性材料としては、例えばスルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸重合体のようなフッ素系樹脂(ナフィオン(商品名、デュポン社製)やフレミオン(商品名、旭硝子社製)等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂等の有機系材料、あるいはタングステン酸やリンタングステン酸等の無機系材料が挙げられる。ただし、プロトン伝導性の電解質膜17は、これらに限られるものではない。
【0022】
アノード触媒層11は、電解質膜17上に配置されている。アノードガス拡散層12は、アノード触媒層11に積層されている。このアノードガス拡散層12は、アノード触媒層11に燃料を均一に供給する役割を果たす。カソード触媒層14は、電解質膜17上に配置されている。カソードガス拡散層15は、カソード触媒層14に積層されている。このカソードガス拡散層15は、カソード触媒層14に酸化剤を均一に供給する役割を果たす。これらのアノードガス拡散層12及びカソードガス拡散層15は、例えばカーボンペーパーや炭素繊維などの導電性を有する多孔質基材によって構成されている。
【0023】
膜電極接合体2は、電解質膜17のアノード側及びカソード側にそれぞれ配置されたゴム製のOリング等のシール部材19によってシールされており、これにより、膜電極接合体2からの燃料漏れや酸化剤漏れが防止されている。
【0024】
膜電極接合体2のカソード16側には、絶縁材料によって形成された板状体20が配置されている。この板状体20は、主に保湿層として機能する。すなわち、この板状体20は、カソード触媒層14で生成された水の一部が含浸されて水の蒸散を抑制するとともに、カソード触媒層14への空気の取入れ量を調整し且つ空気の均一拡散を促進するものである。この板状体20は、例えば多孔質構造の部材で構成され、具体的な構成材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンの多孔質体などが挙げられる。
【0025】
上述した膜電極接合体2は、燃料供給機構3とカバープレート21との間に配置されている。カバープレート21は、外観が略矩形状のものであり、例えばステンレス鋼(SUS)によって形成されている。また、カバープレート21は、酸化剤である空気を取入れるための複数の開口部(空気導入孔)21Aを有している。
【0026】
燃料供給機構3は、膜電極接合体2のアノード13に対して燃料を供給するように構成されているが、特に、特定の構成に限定されるものではない。以下に、燃料供給機構3の一例について説明する。
【0027】
燃料供給機構3は、例えば、箱状に形成された容器30を備えている。この燃料供給機構3は、液体燃料を収容する燃料収容部4と流路5を介して接続されている。容器30は、燃料導入口30Aを有しており、この燃料導入口30Aと流路5とが接続されている。この容器30は、例えば樹脂製容器によって構成される。容器30を形成する材料としては、液体燃料に対する耐性を有している材料が選択される。
【0028】
燃料供給機構3は、膜電極接合体2のアノード13の面方向に燃料を分散並びに拡散させつつ供給する燃料供給部31を備えている。ここでは、特に、燃料供給部31が燃料分配板31Aを備えた構成について説明するが、燃料供給部31は他の構成であっても良い。
【0029】
すなわち、燃料分配板31Aは、1つの燃料注入口32と、複数の燃料排出口33とを有しており、細管34のような燃料通路を介して燃料注入口32と燃料排出口33とを接続した構成である。燃料通路は、燃料分配板31A内に形成した細管34に代えて燃料流通溝等で構成してもよい。この場合、燃料流通溝を有する流路板を複数の燃料排出口を有する拡散板で覆うことによって、燃料分配板31Aを構成することも可能である。
【0030】
細管34の一端(始端部)には、燃料注入口32が設けられている。細管34は、途中で複数に分岐しており、これらの分岐した細管34の各終端部に燃料排出口33がそれぞれ設けられている。燃料注入口32は、容器30の燃料導入口30Aと連通している。これにより、燃料分配板31Aの燃料注入口32が流路5を介して燃料収容部4に接続される。燃料排出口33は、例えば128箇所にあり、液体燃料もしくはその気化成分を排出する。
【0031】
燃料注入口32から注入された液体燃料は、複数に分岐した細管34を介して複数の燃料排出口33にそれぞれ導かれる。このような燃料分配板31Aを使用することによって、燃料注入口32から注入された液体燃料を方向や位置に係わりなく、複数の燃料排出口33に均等に分配することができる。従って、膜電極接合体2の面内における発電反応の均一性をより一層高めることが可能となる。
【0032】
さらに、細管34で燃料注入口32と複数の燃料排出口33とを接続することによって、燃料電池の特定箇所により多くの燃料を供給するような設計も可能となる。これは、膜電極接合体2の発電度合いの均一性の向上等に寄与する。
【0033】
膜電極接合体2は、そのアノード13が上述したような燃料分配板31Aの燃料排出口33に対向するように配置されている。カバープレート21は、燃料供給機構3との間に膜電極接合体2を保持した状態で容器30に対してカシメあるいはネジ止めなどの手法により固定されている。これにより、燃料電池(DMFC)1の発電ユニットが構成されている。
【0034】
燃料供給部31は、燃料分配板31Aと膜電極接合体2との間に燃料拡散室31Bとして機能する空間を形成するような構成であることが望ましい。この燃料拡散室31Bは、燃料排出口33から液体燃料が排出されたとしても気化を促進するとともに、面方向への拡散を促進する機能を有している。
【0035】
膜電極接合体2と燃料供給部31との間には、膜電極接合体2をアノード13側から支持する支持部材を配置しても良い。
【0036】
また、膜電極接合体2と燃料供給部31との間には、少なくとも1つの多孔体を配置しても良い。
【0037】
燃料収容部4には、膜電極接合体2に応じた液体燃料が収容されている。液体燃料としては、各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等のメタノール燃料が挙げられる。なお、液体燃料は、必ずしもメタノール燃料に限られるものではない。液体燃料は、例えば、エタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料収容部4には、膜電極接合体2に応じた液体燃料が収容される。
【0038】
さらに、流路5には、ポンプ6が介在していても良い。ポンプ6は、燃料を循環させる循環ポンプではなく、あくまでも燃料収容部4から燃料供給部31に液体燃料を送液する燃料供給ポンプである。燃料供給部31から膜電極接合体2に供給された燃料は、発電反応に使用され、その後に循環して燃料収容部4に戻されることはない。
【0039】
この実施の形態の燃料電池1は、燃料を循環しないことから、従来のアクティブ方式とは異なるものであり、装置の小型化等を損なうものではない。また、液体燃料の供給にポンプ6を使用しており、従来の内部気化型のような純パッシブ方式とも異なる。図1に示す燃料電池1は、例えばセミパッシブ型と呼称される方式を適用したものである。
【0040】
ポンプ6の種類は、特に限定されるものではないが、少量の液体燃料を制御性よく送液することができ、さらに小型軽量化が可能という観点から、ロータリーベーンポンプ、電気浸透流ポンプ、ダイアフラムポンプ、しごきポンプ等を使用することが好ましい。
【0041】
ロータリーベーンポンプは、モータで羽を回転させて送液するものである。電気浸透流ポンプは、電気浸透流現象を起こすシリカ等の焼結多孔体を用いたものである。ダイアフラムポンプは、電磁石や圧電セラミックスによりダイアフラムを駆動して送液するものである。しごきポンプは、柔軟性を有する燃料流路の一部を圧迫し、燃料をしごき送るものである。これらのうち、駆動電力や大きさ等の観点から、電気浸透流ポンプや圧電セラミックスを有するダイアフラムポンプを使用することがより好ましい。
【0042】
なお、ポンプ6と燃料供給部31との間にリザーバを設けてもよい。
【0043】
また、燃料電池1の安定性や信頼性を高めるために、ポンプ6と直列に燃料遮断バルブを配置してもよい。燃料遮断バルブには、電磁石、モータ、形状記憶合金、圧電セラミックス、バイメタル等をアクチュエータとして、開閉動作を電気信号で制御することが可能な電気駆動バルブが適用される。燃料遮断バルブは、状態保持機能を有するラッチタイプのバルブであることが好ましい。
【0044】
また、燃料収容部4や流路5には、燃料収容部4内の圧力を外気とバランスさせるバランスバルブを装着してもよい。燃料収容部4から燃料供給機構3で膜電極接合体2に燃料を供給する場合、ポンプ6に代えて燃料遮断バルブのみを配置した構成とすることも可能である。この際の燃料遮断バルブは、流路5による液体燃料の供給を制御するために設けられるものである。
【0045】
この実施の形態の燃料電池1においては、ポンプ6を用いて燃料収容部4から燃料供給部31に液体燃料が間欠的に送液される。ポンプ6で送液された液体燃料は、燃料供給部31を経て膜電極接合体2のアノード13の全面に対して均一に供給される。
【0046】
すなわち、複数の単セルCの各アノード13の平面方向に対して均一に燃料が供給され、これにより発電反応が生起される。燃料供給用(送液用)のポンプ6の運転動作は、燃料電池1の出力、温度情報、電力供給先である電子機器の運転情報等に基づいて制御することが好ましい。
【0047】
上述したように、燃料供給部31から放出された燃料は、膜電極接合体2のアノード13に供給される。膜電極接合体2内において、燃料は、アノードガス拡散層12を拡散してアノード触媒層11に供給される。液体燃料としてメタノール燃料を用いた場合、アノード触媒層11で下記の(1)式に示すメタノールの内部改質反応が生じる。なお、メタノール燃料として純メタノールを使用した場合には、カソード触媒層14で生成した水や電解質膜17中の水をメタノールと反応させて(1)式の内部改質反応を生起させる。あるいは、水を必要としない他の反応機構により内部改質反応を生じさせる。
【0048】
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- …(1)
この反応で生成した電子(e-)は、集電体40を経由して外部に導かれ、いわゆる電気として携帯用電子機器等を動作させた後、集電体40を経由してカソード16に導かれる。(1)式の内部改質反応で生成したプロトン(H+)は、電解質膜17を経てカソード16に導かれる。カソード16には、酸化剤として空気が供給される。カソード16に到達した電子(e-)とプロトン(H+)は、カソード触媒層14で空気中の酸素と下記の(2)式にしたがって反応し、この反応に伴って水が生成する。
【0049】
6e-+6H++(3/2)O2 → 3H2O …(2)
上述した燃料電池1の発電反応において、発電する電力を増大させるためには触媒反応を円滑に行わせるとともに、膜電極接合体2の電極全体に均一に燃料を供給し、電極全体をより有効に発電に寄与させることが重要となる。
【0050】
ところで、この第1実施形態の燃料電池は、図1及び図2に示したように、膜電極接合体2のアノード13に接触するアノード集電部41と、カソード16に接触するカソード集電部42と、カソード集電部42から延出した延出電極42Eと、を有する集電体40を備えている。これらの集電部及び延出電極は、導電性及び熱伝導性に優れた材料によって形成されている。例えば、アノード集電部41及びカソード集電部42は、膜電極接合体2に接触する表面が金(Au)によって形成されている。
【0051】
ここに示した例では、カソード集電部42及び延出電極42Eは、一体的に形成されている。このため、延出電極42Eは、カソード集電部42と同一材料によって形成されている。なお、アノード集電部41と、カソード集電部42及び延出電極42Eとは、別体である。
【0052】
アノード集電部41は、アノード13と略同等のサイズに形成されている。カソード集電部42は、カソード16と略同等のサイズに形成されている。延出電極42Eは、アノード集電部41と略同等のサイズに形成されている。この延出電極42Eは、カソード集電部42がカソード16(特に、カソードガス拡散層15)に接触するように配置された状態で、アノード13(特に、アノードガス拡散層12)に接触しているアノード集電部41に重なるように配置される。
【0053】
このように、アノード集電部41と延出電極42Eとが重なったとき、アノード集電部41とカソード集電部42との電気的な絶縁を確保するために、延出電極42Eとアノード集電部41との間に絶縁膜ISが挟持されている。この絶縁膜ISは、電気的絶縁性を有するものであれば良く、さらには、熱伝導性が比較的高いものであることが望ましい。なお、絶縁膜ISを形成するための材料として、熱伝導性が高い材料でなくても、熱伝導可能な程度に薄い厚みで十分な電気的絶縁性を確保できる材料であれば適用可能である。この実施形態においては、絶縁膜ISは、ポリエチレンテレフタレート(PET)によって形成されている。
【0054】
このように、第1実施形態においては、カソード集電部42及び延出電極42Eは、膜電極接合体2、アノード集電部41及び絶縁膜ISを挟み込むように配置されている。そして、延出電極42E及びアノード集電部41は、膜電極接合体2のアノード13と燃料供給機構3との間で絶縁膜ISを挟持している。
【0055】
アノード集電部41、延出電極42E、及び、絶縁膜ISは、燃料供給機構3から供給された燃料のアノード13への導入を促進するために複数の開口APを有している。また、カソード集電部42は、カバープレート21の開口部21Aから取り込んだ空気のカソード16への導入を促進するために複数の開口APを有している。
【0056】
このような第1実施形態によれば、膜電極接合体2のカソード16で発生した熱は、集電体40のカソード集電部42から延出電極42Eを経由してアノード集電部41からアノード13に導かれる。これにより、カソード16の放熱効率を向上することができ、カソード16で生成した水の過剰な蒸発を抑制することが可能となる。このため、適度な水を安定してアノード13に供給することが可能となる。一方で、カソード16の熱がアノード13に伝わってアノード13が適度に温められるため、燃料供給機構3から供給される液体燃料の気化を促進することが可能となる。したがって、アノード13での発電反応を効率よく生起させることが可能となり、長期にわたって高い出力を安定して得ることが可能となる。
【0057】
《第2実施形態》
第2実施形態の燃料電池は、図3及び図4に示したように、膜電極接合体2のアノード13に接触するアノード集電部41と、カソード16に接触するカソード集電部42と、アノード集電部41から延出した延出電極41Eと、を有する集電体40を備えている。なお、第1実施形態と同一構成については、同一の参照符号を付して詳細な説明を省略する。
【0058】
ここに示した例では、アノード集電部41及び延出電極41Eは、一体的に形成されている。このため、延出電極41Eは、アノード集電部41と同一材料によって形成されている。なお、アノード集電部41及び延出電極41Eと、カソード集電部42とは、別体である。
【0059】
延出電極41Eは、アノード集電部41がアノード13に接触するように配置された状態で、カソード16に接触しているカソード集電部42に重なるように配置される。このように、カソード集電部42と延出電極41Eとが重なったとき、アノード集電部41とカソード集電部42との電気的な絶縁を確保するために、延出電極41Eとカソード集電部42との間に絶縁膜ISが挟持されている。
【0060】
この第2実施形態においては、アノード集電部41及び延出電極41Eは、膜電極接合体2、カソード集電部42及び絶縁膜ISを挟み込むように配置されている。そして、延出電極41E及びカソード集電部42は、膜電極接合体2のカソード16と板状体20との間で絶縁膜ISを挟持している。
【0061】
このような第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0062】
《変形例》
この変形例は、上述した第1実施形態及び第2実施形態に適用可能である。
【0063】
すなわち、変形例においては、図5及び図6に示すように、膜電極接合体2は、同一の電解質膜17における一方の面17A上に配置された複数のアノード13と、電解質膜17における他方の面17B上に配置された複数のカソード16とを有しており、各アノード13と各カソード16とが電解質膜17を介して対向している。つまり、アノード13とカソード16との各組は、単セルCを構成し、それぞれが電解質膜17の平面上において、分離されて配置されている。
【0064】
ここに示した例では、膜電極接合体2は、単一の電解質膜17の一方の面17A上に配置された4個のアノード131〜134と、電解質膜17の他方の面17Bに配置された4個のカソード161〜164と、を有している。アノード131とカソード161とがそれぞれ対向するように配置されており、1組の単セルCを構成している。同様に、アノード132とカソード162とがそれぞれ対向するように配置され、アノード133とカソード163とがそれぞれ対向するように配置され、アノード134とカソード164とがそれぞれ対向するように配置されており、4組の単セルCが同一平面上に配列されている。
【0065】
燃料電池1は、これらのアノード13とカソード16との各組を電気的に直列に接続する集電体40を備えている。
【0066】
すなわち、図7に示すように、集電体40を備えた絶縁性のベースフィルムBFは、膜電極接合体2の外形寸法の概ね3倍の面積を有しており、膜電極接合体2における単セルCの並び方向とは直交する方向に延出している。このようなベースフィルムBFは、図中の位置B1及びB2で3つに折り曲げることによって膜電極接合体2を挟持するものである。
【0067】
ベースフィルムBFは、電気的に絶縁性を有することはもちろんのこと、使用する燃料や、発電反応によって生成される生成物に対する耐腐食性を有する材料によって形成されていることが望ましく、例えばポリプロピレン(PP)によって形成されている。
【0068】
集電体40は、複数のアノード集電部41と、複数のカソード集電部42とを有している。また、図7に示した例は、第1実施形態の変形例に相当し、集電体40は、各カソード集電部42から延出した延出電極42Eを有している。これらのアノード集電部41、カソード集電部42、及び、延出電極42Eは、ベースフィルムBF上における同一面上に配置されている。
【0069】
アノード集電部41は、アノード13のそれぞれに対応して設けられ、膜電極接合体2に含まれるアノード13と同数個備えられている。また、カソード集電部42は、カソード16のそれぞれに対応して設けられ、膜電極接合体2に含まれるカソード16と同数個備えられている。
【0070】
図7に示した例では、集電体40は、4個のアノード集電部411〜414、4個のカソード集電部421〜424、及び、4個の延出電極421E〜424Eを有している。アノード集電部411はアノード131に対応して配置され、同様に、アノード集電部412はアノード132に対応して配置され、アノード集電部413はアノード133に対応して配置され、アノード集電部414はアノード134に対応して配置される。カソード集電部421はカソード161に対応して配置され、同様に、カソード集電部422はカソード162に対応して配置され、カソード集電部423はカソード163に対応して配置され、カソード集電部424はカソード164に対応して配置される。
【0071】
集電体40は、アノード集電部41に接続された出力端子46及びカソード集電部42に接続された出力端子47を備えている。すなわち、集電体40において、互いに最も離れた位置に配置されたアノード集電部411及びカソード集電部424には、それぞれ集電した電子を取り出す出力端子46及び47が接続されている。
【0072】
出力端子を有していないアノード集電部41及びカソード集電部42は、それぞれ連結部48によって電気的に接続されている。図7に示した例では、アノード集電部412とカソード集電部421とが連結部481によって接続され、同様に、アノード集電部413とカソード集電部422とが連結部482によって接続され、アノード集電部414とカソード集電部423とが連結部483によって接続されている。
【0073】
上述したような構造の集電体40を3つ折りにした内側空間には、図8に示すように、膜電極接合体2が収容されている。すなわち、各アノード集電部41は対応するアノード13と接触して電気的に接続され、また、各カソード集電部42は対応するカソード16と接触して電気的に接続されるとともに、各延出電極42Eとアノード集電部41との間には絶縁膜ISが介在されている。なお、図8に示した通り、延出電極42Eとアノード集電部41との間には元々ベースフィルムBFが介在しており、ベースフィルムBFの絶縁性が十分であれば絶縁膜ISを省略しても良い。
【0074】
なお、ベースフィルムBF及び集電体40は、図7に示したように、アノード集電部及びカソード集電部に相当する部分に複数の開口APを有し、また、絶縁膜ISも図9に示すように延出電極42Eと重なる部分に複数の開口APを有することが望ましい。
【0075】
図8に示したような集電体40によって包まれた膜電極接合体2は、燃料供給機構3及び板状体20の間に挟持され、カバープレート21によってカバーされ、燃料電池を構成する。
【0076】
このように、同一平面上で互いに分離して配置された複数の単セルを電気的に直列に接続する集電体構成において、各単セルのカソード16の放熱効率を向上することができ、また、アノード13を適度に温めることができる。このため、発電反応を効率よく生起させることが可能となり、長期にわたって高い出力を安定して得ることが可能となる。
【0077】
《効果の検証》
第1実施形態に相当する構成の燃料電池を実施例1とし、第2実施形態に相当する構成の燃料電池を実施例2とし、延出電極をもたない集電体を適用した構成の燃料電池を比較例とし、それぞれ運転時間に対する初期出力の維持率を測定したところ、図10に示すような結果が得られた。実施例1及び実施例2では比較的長期にわたって初期出力を維持できているのに対して、比較例では、急激な出力低下の傾向が見られた。
【0078】
上述した各実施形態の燃料電池1は、各種の液体燃料を使用した場合に効果を発揮し、液体燃料の種類や濃度は限定されるものではない。ただし、燃料を面方向に分散させつつ供給する燃料供給部31は、特に燃料濃度が濃い場合に有効である。このため、各実施形態の燃料電池1は、濃度が80wt%以上のメタノールを液体燃料として用いた場合に、その性能や効果を特に発揮することができる。したがって、各実施形態は、メタノール濃度が80wt%以上のメタノール水溶液や純メタノールを液体燃料として用いた燃料電池1に好適である。
【0079】
さらに、上述した各実施形態は、本発明をセミパッシブ型の燃料電池1に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、内部気化型の純パッシブ型の燃料電池に対しても適用可能である。
【0080】
なお、本発明は液体燃料を使用した各種の燃料電池に適用することができる。また、燃料電池の具体的な構成や燃料の供給状態等も特に限定されるものではなく、MEAに供給される燃料の全てが液体燃料の蒸気、全てが液体燃料、または一部が液体状態で供給される液体燃料の蒸気等、種々形態に本発明を適用することができる。実施段階では本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。さらに、上記実施形態に示される複数の構成要素を適宜に組み合わせたり、また実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除したりする等、種々の変形が可能である。本発明の実施形態は本発明の技術的思想の範囲内で拡張もしくは変更することができ、この拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、この発明の第1実施形態に係る燃料電池の構成を概略的に示す断面図である。
【図2】図2は、図1に示した燃料電池の構造を概略的に示す分解斜視図である。
【図3】図3は、この発明の第2実施形態に係る燃料電池の構成を概略的に示す断面図である。
【図4】図4は、図3に示した燃料電池の構造を概略的に示す分解斜視図である。
【図5】図5は、図1に示した燃料電池における膜電極接合体の外観を概略的に示す平面図である。
【図6】図6は、図5に示した膜電極接合体をVI−VI線に沿って切断したときの斜視図である。
【図7】図7は、この発明の変形例に適用可能な集電体の構成を概略的に示す平面図である。
【図8】図8は、この発明の変形例に係る燃料電池の膜電極接合体及び集電体の構成を概略的に示す断面図である。
【図9】図9は、この発明の変形例に適用可能な絶縁膜の構成を概略的に示す平面図である。
【図10】図10は、各実施例と比較例との出力維持率の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1…燃料電池 2…膜電極接合体 3…燃料供給機構 4…燃料収容部
11…アノード触媒層 12…アノードガス拡散層 13…アノード(燃料極)
14…カソード触媒層 15…カソードガス拡散層 16…カソード(空気極)
17…電解質膜 19…シール部材
20…板状体(保湿層) 21…カバープレート
40…集電体 41…アノード集電部 41E…延出電極 42…カソード集電部 42E…延出電極
IS…絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間に挟持された電解質膜と、を有する膜電極接合体と、
前記アノードに接触するアノード集電部と、前記カソードに接触するカソード集電部と、前記カソード集電部から延出した延出電極と、を有する集電体と、
前記延出電極と前記アノード集電部との間に挟持された絶縁膜と、
前記膜電極接合体の前記アノードに燃料を供給する燃料供給機構と、
を備えたことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記延出電極及び前記アノード集電部は、前記膜電極接合体の前記アノードと前記燃料供給機構との間で前記絶縁膜を挟持することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間に挟持された電解質膜と、を有する膜電極接合体と、
前記アノードに接触するアノード集電部と、前記カソードに接触するカソード集電部と、前記アノード集電部から延出した延出電極と、を有する集電体と、
前記延出電極と前記カソード集電部との間に挟持された絶縁膜と、
前記膜電極接合体の前記アノードに燃料を供給する燃料供給機構と、
を備えたことを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
さらに、前記燃料供給機構との間で前記膜電極接合体を保持するカバープレートと、
前記カバープレートと前記膜電極接合体との間に配置された板状体と、を備え、
前記延出電極及び前記カソード集電部は、前記膜電極接合体の前記カソードと前記板状体との間で前記絶縁膜を挟持することを特徴とする請求項3に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記集電体は、前記絶縁フィルムの同一の面上に、前記膜電極接合体における複数の前記アノードのそれぞれに接触する複数のアノード集電部と、複数の前記カソードのそれぞれに接触する複数のカソード集電部と、前記アノード集電部と前記カソード集電部とを連結する連結部と、を有することを特徴とする請求項1または3に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記アノード集電部及び前記カソード集電部は、前記膜電極接合体に接触する表面が金(Au)によって形成されたことを特徴とする請求項5に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記膜電極接合体に供給される燃料は、メタノール濃度が80wt%以上のメタノール水溶液または純メタノールであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−295439(P2009−295439A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148365(P2008−148365)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000221339)東芝電子エンジニアリング株式会社 (238)
【Fターム(参考)】