説明

燃料電池

【課題】スタッキング時の所与の圧縮力を維持しながら、ガス流路層を形成する多孔体の端面から突出するエッジから集中的に圧縮力が作用した場合でも、少なくとも電極体の発電領域を構成するガス拡散層(拡散層基材)に該エッジが突き刺さることを効果的に抑止することのできる燃料電池を提供する。
【解決手段】膜電極接合体3と、これを挟持するガス拡散層4,4と、から電極体10が形成され、ガス流路層5を形成する多孔体とセパレータ7が該電極体10を挟持して燃料電池セル100を成し、該燃料電池セル100が積層されて形成される燃料電池において、電極体100は、その中央の発電領域A1と該発電領域A1の周縁の非発電領域A2を備えており、多孔体5は、発電領域A1に対応する第1の領域51と非発電領域A2に対応する第2の領域52とからなり、第2の領域52が第1の領域51に比して電極体側に突出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池に係り、特に、エキスパンドメタルや金属発泡焼結体などの多孔体をガス流路層として備える燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池の燃料電池セルは、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側およびカソード側の触媒層(電極層)とから膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を形成し、該膜電極接合体に燃料ガスもしくは酸化剤ガスを提供するとともに電気化学反応によって生じた電気を集電するためのアノード側およびカソード側のガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)が挟持して電極体(MEGA)を形成し、この電極体を直線状もしくは蛇行状のガス流路溝が一体に形成されたセパレータが挟持して構成されている。なお、このセパレータには、ガス流路層をたとえば特許文献1で開示されるようなエキスパンドメタルや金属発泡焼結体から形成してセパレータから分離させた、いわゆるフラットタイプ型のセパレータもある。燃料電池スタックは、所要電力に応じてこの燃料電池セルを所定数積層することによって形成されている。
【0003】
上記する燃料電池では、アノード電極に燃料ガスとして水素ガス等が提供され、カソード電極には酸化剤ガスとして酸素や空気が提供され、各電極では固有のガス流路層(またはセパレータのガス流路溝)にて面内方向にガスが流れ、次いでガス拡散層にて拡散されたガスが触媒層に導かれて電気化学反応がおこなわれるものである。
【0004】
燃料電池の組み付けにおいては、所定数の燃料電池セルを積層し、この両側端からテンションプレートを介して所与の圧縮力が付与されてスタッキングがおこなわれる。この圧縮力は、燃料電池セルの構成部材間(セパレータとガス拡散層の間や、ガス拡散層と膜電極接合体の間など)の界面の密着性を高め、もって界面における接触抵抗を可及的に低減させるようにその大きさが調整されている。さらには、燃料電池の使用環境(高負荷発電時の高温環境では構成部材が膨張したりガス圧が増加する、など)によって構成部材界面での相対的な圧縮力は変化するし、発電経過にともなう構成部材の厚み低減にともなって相対的な圧縮力が変化することなどから、これらを加味してスタッキング所期の圧縮力が設定されている。
【0005】
スタッキング時に上記圧縮力が各燃料電池セルに作用すると、その構成部材であるセパレータや多孔体からなるガス流路層を介してガス拡散層に圧縮力が伝達される。
【0006】
ガス流路層を形成する多孔体としては上記するエキスパンドメタルや金属発泡焼結体があるが、たとえばエキスパンドメタルからなるガス流路層を有する燃料電池セルにおいては、上記する圧縮力がエキスパンドメタルの電極体側のエッジからガス拡散層へ集中的に作用することは理解に易い。これを燃料電池セルのカソード側の構造を図示した図3を参照して説明する。図示する燃料電池セルは、電解質膜a1とカソード側およびアノード側の触媒層a2とから膜電極接合体aが形成され、これを拡散層基材b1と集電層b2(MPL)とからなるカソード側およびアノード側のガス拡散層bが挟持して電極体cを形成し、ガス拡散層bにガス流路層となるエキスパンドメタルeが当接し、エキスパンドメタルeにたとえば3層構造のフラットタイプセパレータfが当接して燃料電池セルが構成されている。なお、一般には、電解質膜a1のうち、触媒層a2で被覆されていない周縁の露出領域には、拡散層基材b1との間に保護フィルムdが介層されており、これが拡散層基材b1から突出する毛羽が電解質膜a1に突き刺さるのを効果的に防護している。また、燃料電池セルのうち、触媒層a2や集電層b2が存在する領域を発電領域(図中のA1領域で、発電に直接的に寄与する領域)、その外周の領域を非発電領域(図中のA2領域)とそれぞれ称呼することができる。
【0007】
図示する燃料電池セルが所定数積層され、スタッキングされた際には、各燃料電池セルにスタッキング時の圧縮力P(締結力)がセパレータfを介してエキスパンドメタルeおよび電極体cに作用することとなる。ここで、エキスパンドメタルeのうち、拡散層基材b1と当接する側面においては、図示するように多数のエッジが拡散層基材側に突出しており、上記する圧縮力Pは、これらのエッジを介して集中的に拡散層基材b1を押圧し(集中荷重P1)、場合によってはこの圧縮力Pにてエッジが拡散層基材b1を突き刺して拡散層基材b1内に埋め込まれた状態となってしまう。これらのエッジの突き刺さりにより、場合によっては拡散層基材b1が座屈してしまい、その破損に至ることもあり得る。また、エキスパンドメタルeのエッジが拡散層基材b1に突き刺さると、エッジを介して集中荷重が突き刺さり部位に作用し続けるため、突き刺さりに起因する亀裂が進展してガスのクロスリーク路を形成する可能性も生じてくる。
【0008】
ところで、図示する非発電領域A2では、比較的高剛性の保護フィルムdが電解質膜a1と拡散層基材b1の間に介在していることで、上記するエキスパンドメタルeが拡散層基材b1に突き刺さった場合でもガスのクロスリーク路の形成までには至らない。なお、図示のように保護フィルムdを具備しない他のセル構造形態、たとえば、電極体の周縁に形成される不図示の樹脂製ガスケット用の樹脂材が図中の保護フィルムの介在部位に含浸して、図示の保護フィルムのごとき保護層を形成するセル構造の場合でも同様である。
【0009】
しかし、保護フィルム等が存在しない発電領域A1においては、進展した亀裂が膜電極接合体のアノード側電極とカソード側電極を貫通し、クロスリーク路の形成に至るという危険性を否定することはできない。
【0010】
上記する課題を解消するべく、スタッキング時の圧縮力を低減させてエッジの突き刺さりを防止しようとすると、今度は圧縮力(締結力)不足によって燃料電池セルの構成部材間の界面における接触抵抗が増加してしまい、これは燃料電池の発電性能低下に直結することから適切な対処アプローチとは言えない。
【0011】
【特許文献1】特開2005−293944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、スタッキング時の所与の圧縮力を維持しながら、ガス流路層を形成する多孔体の端面から突出するエッジから集中的に圧縮力が作用した場合でも、少なくとも電極体の発電領域を構成するガス拡散層(拡散層基材)に該エッジが突き刺さることを効果的に抑止することのできる燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成すべく、本発明による燃料電池は、膜電極接合体と、これを挟持するガス拡散層と、から電極体が形成され、ガス流路層を形成する多孔体とセパレータが該電極体を挟持して燃料電池セルを成し、該燃料電池セルが積層されて形成される燃料電池において、前記電極体は、その中央の発電領域と、該発電領域の周縁の非発電領域と、からなり、前記多孔体は、前記発電領域に対応する第1の領域と、前記非発電領域に対応する第2の領域と、からなり、前記第2の領域が前記第1の領域に比して電極体側に突出しているものである。
【0014】
本発明の燃料電池を構成する燃料電池セルは、ガス流路層を形成する多孔体を2つの領域から構成し、電極体の発電領域に対応する領域(第1の領域)に比して発電領域周縁の非発電領域に対応する領域(第2の領域)を電極体側へ相対的に突出させておくものであり、この構成により、所望のスタッキング時の圧縮力(締結力)が該燃料電池セルに作用した際に、電極体側へ突出する第2の領域が電極体を構成する拡散層基材を先行して押圧することを可能としたものである。ある圧縮力に対して第2の領域が電極体の非発電領域を押圧し、場合によっては第2の領域のエッジが拡散層基材に突き刺さる場合もあるし、突き刺さることなく拡散層基材を弾性変形させることもある。いずれにしても、第2の領域が先行して拡散層基材(の非発電領域)を押圧し、次いで、相対的に電極体側に凹な第1の領域が拡散層基材の発電領域を押圧することとなる。たとえば、圧縮力が大きな場合は多孔体の第2の領域が拡散層基材の非発電領域に突き刺さることはあっても、既に第2の領域が拡散層基材へ圧縮力の相当分を伝達するような力の流れが形成されており、したがって、第1の領域は当初の圧縮力から格段に減じられた圧縮力で拡散層基材を押圧するに過ぎない。そのため、該第1の領域のたとえばエッジが拡散層基材の発電領域に突き刺さることが効果的に抑止される。
【0015】
ここで、ガス流路層を形成する多孔体は、エキスパンドメタル、金属発泡焼結体のいずれであってもよいが、多孔体の端面から突出するエッジ長が相対的に長く、かつ、エッジ数が相対的に少ない(したがって集中荷重が大きくなる)ために該エッジが拡散層基材に突き刺さり易いエキスパンドメタルを使用する場合に、上記特徴構成を有する本発明の燃料電池は特に効果を奏する。
【0016】
多孔体の第2の領域を電極体側へ相対的に突出させる形態としては、以下の形態を挙げることができる。たとえば多孔体がエキスパンドメタルからなる場合には、これがメタル板を連続的に押出しながら断続的にせん断加工され、せん断後のメタル板(メタルメッシュ)を引き伸ばした際に、台形、菱形等の気孔を有する多孔体が形成されることになる。それを縦断面的に見ると、この気孔を画成するメタルメッシュは傾斜したメタルビーム(該メタルビームの端部が上記するエッジとなる)が間欠的に並んだ態様を呈している。そこで、その第2の領域のメタルビームの傾斜角度を相対的に90度に近い角度とする(したがって、第2の領域のメタルビームの傾斜角度を相対的に立たせ、第1の領域の傾斜角度を相対的に寝かせる)ことにより、縦断面的に見た際に第2の領域を相対的に突出させることができる。
【0017】
なお、上記以外にも、予めメタル板にその部位ごとの厚み変化を持たせておいて、第1の領域となるべき部位の厚みが相対的に薄いメタル板をせん断加工することにより、第2の領域が相対的に突出した姿勢を形成することができる。
【0018】
また、多孔体が金属発泡焼結体からなる場合には、たとえば該焼結体を型内でプレス加工する際に、第2の領域を第1の領域に比して突出した(空間高さの大きな)キャビティを有する型を利用して多孔体を製造すればよい。
【0019】
さらに、多孔体の第2の領域が負担する圧縮力の分担量をより大きくするようにし、もって多孔体の第1の領域のエッジが拡散層基材の発電領域へ突き刺さることをより確実に防止するための方策として、多孔体の第2の領域の剛性を第1の領域のそれに比して高剛性とするのがよい。相対的に高い剛性の領域に相対的により多くの荷重が分担されるという一般原理を利用したものである。
【0020】
その第2の領域の剛性が第1の領域に比して相対的に高くなっている多孔体の製造方法としては、以下のような実施例を挙げることができる。たとえば、多孔体がエキスパンドメタルからなる場合には、たとえば、第2の領域において、エッジ間距離を短くすること(上記するメタルビーム間の離間を短くする)でメタル密度を高め、第1の領域に比して相対的に高剛性な領域とすることができる。
【0021】
また、多孔体を金属発泡焼結体から形成する場合には、相対的に第2の領域の気孔率を低く設定したり、発泡度(発泡倍率)を相対的に低く設定することにより、第1の領域に比して相対的に高剛性な領域とすることができる。
【0022】
上記する多孔体を具備する本発明の燃料電池によれば、スタッキング時の圧縮力を所望の値に維持しながら(スタッキング時の圧縮力を低減することなく)、電極体(拡散層基材)の発電領域に多孔体の端部エッジが突き刺さるのを効果的に抑止することができ、所望の圧縮力にて膜電極接合体の発電領域の全面を均一に押圧することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
以上の説明から理解できるように、本発明の燃料電池によれば、スタッキング時の圧縮力を所望の値に維持しながら、拡散層基材の発電領域に多孔体の端部エッジが突き刺さるのを効果的に抑止することができ、もってクロスリーク耐久性に優れた燃料電池を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の燃料電池を構成する燃料電池セルの一実施の形態の縦断面図であって、特にそのカソード電極側を示した図である。図1に示す燃料電池セル100の構造は、イオン交換膜である電解質膜1とカソード側およびアノード側の触媒層2,2とから膜電極接合体3(MEA)が形成され、これをカソード側およびアノード側のガス拡散層4(GDL)が挟持して電極体10(MEGA)が形成され、この電極体10をカソード側およびアノード側のガス流路層5が挟持し、さらにこのガス流路層5を3層構造のセパレータ7が挟持し、電極体10の周縁には樹脂製のガスケット8が一体に形成されたものである。さらに、触媒層2は電解質膜1に比してそれらの面積が狭小であり、したがって、電解質膜1の両側の触媒層2,2の周縁には該触媒層2,2が存在しない露出領域が形成されており、この露出領域には、カソード側およびアノード側の保護フィルム6,6が配されており、ガス拡散層4,4から突出する毛羽が電解質膜1に突き刺さるのを防護している。
【0025】
ここで、膜電極接合体3を構成する電解質膜1は、たとえば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成される。また、触媒層2は、触媒が担持された導電性担体(粒子状のカーボン担体など)と、電解質と、分散溶媒(有機溶媒)と、を混合して触媒溶液(触媒インク)を生成し、これを電解質膜1やガス拡散層4等の基材に塗工ブレードにて層状に引き伸ばして塗膜を形成し、温風乾燥炉等で乾燥することで触媒層が形成される。ここで、触媒溶液を形成する電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを挙げることができる。なお、市販素材としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標、デュポン社製)やフレミオン(Flemion)(登録商標、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、芳香族系あるいはハロゲン系の種々の溶媒を挙げることができ、さらには、これらを単独で、もしくは混合液として使用することができる。さらに、触媒が担持された導電性担体に関し、この導電性担体としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができ、この触媒(金属触媒)としては、たとえば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどのうちのいずれか一種を使用することができ、好ましくは白金または白金合金を使用するのがよい。さらに、この白金合金としては、たとえば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタンおよび鉛のうちの少なくとも一種との合金を挙げることができる。
【0026】
また、ガス流路層5を流れた酸化剤ガスや燃料ガスを膜電極接合体3に拡散提供するガス拡散層4は、拡散層基材41と集電層42(MPL)とからなるものであり、拡散層基材41としては、電気抵抗が低く、集電を行えるものであれば特に限定されるものではないが、たとえば、導電性無機物質を主とするものを挙げることができ、この導電性無機物質としては、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛等の炭素材やこれらのナノカーボン材料、ステンレススチール、モリブデン、チタン等を挙げることができる。また、拡散層基材41の導電性無機物質の形態は特に限定されるものではなく、たとえば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、ガス透過性の点から無機導電性繊維であって、特に炭素繊維が好ましい。無機導電性繊維を用いた拡散層基材41としては、織布あるいは不織布いずれの構造のものも使用することができ、カーボンペーパーやカーボンクロスなどを挙げることができる。織布としては、平織、紋織、綴織など、特に限定されるものではなく、不織布としては、抄紙法、ニードルパンチ法、ウォータージェットパンチ法によるものなどが挙げられる。さらに、この炭素繊維としては、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などを挙げることができる。さらに、集電層42はアノード側、カソード側の触媒層2,2から電子を集める電極の役割を果たすものであり、導電性材料である、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、金、銀、銅及びこれらの化合物または合金、導電性炭素材料などから形成できる。
【0027】
また、保護フィルム6は、ポリテトラフルオロエチレン、PVDF(二フッ化ポリビニル)、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、コポリアミド、ポリアミドエラストマ、ポリイミド、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマ、シリコーン、シリコンゴム、シリコンベースのエラストマなどから形成されるものである。
【0028】
また、電極体の周縁であってセパレータ7と電極体10で画成された領域に設けられたガスケット8は、たとえば成形型内に電極体を収容し、その周縁に樹脂を射出成形することで成形される。ここで、ガスケット8は、ブチル系ゴムやウレタン系ゴム、シリコーンRTVゴム、耐メタノール性を有するエポキシ系樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、炭化水素樹脂などの樹脂素材にて成形される。
【0029】
さらに、セパレータ7は、隣接する燃料電池セルとの間でセル間を画成するカソード側プレート71と、アノード側プレート73と、これらのプレート71,73間に介層され、プレート71,73の外周輪郭に沿う枠状(無端状)に形成されたスペーサ72と、から構成されている。このプレート71,73は、導電性金属であるステンレスやチタンなどから形成されており、スペーサ72は、同様の導電性金属もしくは樹脂から形成されている。一つの実施形態としては、プレート71におけるプレート73に対向する側面に多数のディンプルが備えてあり、このディンプルがスペーサ72の厚み分の高さを有していることにより、3層構造となった際に、ディンプルの先端がプレート73の側面と当接されて冷媒流路を形成する形態がある。また、他の形態としては、スペーサ72に直線状もしくは蛇行状の冷媒流路が形成された形態もある。この3層構造セパレータでは、燃料ガス、酸化剤ガス、冷媒のそれぞれがセパレータ内に流入し、さらに流出する固有のマニホールドMが形成されており、ガスケット8に同軸に形成されたマニホールドMと流体連通している。なお、ガスケット8のうち、マニホールドMの周縁には無端リブ81が形成されており、これをセパレータ7が押圧することで流体シール構造が形成される。
【0030】
図1で示すガス流路層5は、エキスパンドメタルから形成される。これは、メタル製の板材を回転ロール上で連続的に押出しながら、断続的に順次せん断加工をおこない、次いで、せん断後のメタル板(メタルメッシュ)を引き伸ばすことにより、台形や菱形等の気孔を有するエキスパンドメタル5を形成するものである。それを縦断面的に見ると、この気孔を画成するメタルメッシュは、図示のごとく傾斜したメタルビーム51,…、52、…(該メタルビーム51、52の端部がエッジ51a、52aとなる)が間欠的に並んだ態様を呈している(図示を省略するが、図に直交する方向から見ると、メタルビームにて台形や菱形形状に画成された多数の気孔を視認できる)。
【0031】
このエキスパンドメタル5は、電極体10の発電領域A1に対応する第1の領域のメタルビーム51,…と、電極体10の非発電領域A2に対応する第2の領域のメタルビーム52,…とから形成されており、第2の領域のメタルビーム52,…の傾斜角度が相対的に90度に近い角度に形成されていること、および双方のメタルビームのセパレータ7側の端部を面一とすることにより、図示のごとく縦断面的に見た際に、第2の領域のメタルビーム52,…を電極体10側に相対的に突出させることができる。
【0032】
図示する燃料電池セル100が所要電力に応じた基数だけ積層されて(たとえば200〜400基)セル積層体を形成し、この両側にエンドプレートが配され、さらに、テンションプレートやインシュレータ等が積層され、所与の圧縮力にてスタッキングされることによって燃料電池が形成される。電気自動車等に車載される燃料電池システムは、この燃料電池と、水素ガスや空気を収容する各種タンク、これらのガスを燃料電池に提供するためのブロア、燃料電池を冷却するためのラジエータ、燃料電池で生成された電力を蓄電するバッテリ、この電力で駆動する駆動モータ等から大略構成されるものである。
【0033】
上記するスタッキング時の圧縮力は、セパレータ7を介してエキスパンドメタル5に作用し、圧縮力が作用した当初は、圧縮力の全部が第2の領域を介して拡散層基材41に作用することから、まず、電極体10側に突出する第2の領域の端部エッジ52a,…が拡散層基材41を図示のごとく突き刺して該基材内に埋め込まれる。なお、端部エッジ52a,…が拡散層基材41を突き刺すことなく、拡散層基材41を弾性変形させた状態で留まるものであってもよい。第2の領域が先行して拡散層基材41を押圧することにより、電極体10側に凹な第1の領域の端面から拡散層基材41に作用する圧縮力は格段に低減され、そのために、その端部エッジ51a,…が拡散層基材41を突き刺すまでには至らない。
【0034】
なお、隣接するメタルビーム52、52間の離間を隣接するメタルビーム51,51間の離間よりも短くし、第2の領域の単位面積当たりのメタル密度を相対的に高くしてその剛性を高めることにより、エキスパンドメタル5の第2の領域のスタッキング時の圧縮力の負担荷重をより大きくすることもできる。これは、たとえば第2の領域が先行して拡散層基材を押圧し、次いで第1の領域の端面も拡散層基材を押圧した際に、第2の領域が相対的に高剛性となっていることで、エキスパンドメタル5の端面の全面(第1の領域および第2の領域の全部)が拡散層基材を押圧した最終姿勢において、非発電領域に対応する第2の領域からの圧縮力作用分を相対的に大きくするものである。すなわち、上記する最終姿勢において、第1の領域の端部エッジから過大な圧縮力が拡散層基材に作用して、該端部エッジが拡散層基材に突き刺さることをより効果的に防止することができる。
【0035】
また、図2は燃料電池セルの他の実施の形態を示した縦断面図であり、図1と同様にそのカソード側を示したものである。
【0036】
この燃料電池セル100Aでは、ガス流路層5Aがエキスパンドメタルではなく、金属発泡焼結体から形成されている。たとえば、ニッケル、チタン、ステンレス等の導電性金属粒子からなる金属粒子と、炭化水素ナトリウム、TiHなどからなる発泡材と、溶媒と、からなるペーストを焼成することで図示する金属発泡焼結体5Aが製造される。
【0037】
ここで、金属発泡焼結体5Aは、電極体10の発電領域に対応する第1の領域の焼結体5Aaと、非発電領域に対応する第2の領域の焼結体5Abと、から構成され、焼結体5Abが電極体10側に相対的に突出した形状を呈している。なお、金属発泡焼結体5Aは焼結体ゆえに、その端面には多数の気孔が臨んでいるとともに、その端面の凹凸(表面粗度)は比較的大きい(端面凸部5Aa1(エッジ)、端面凸部5Ab1(エッジ))。
【0038】
焼結体5Abが電極体10側に相対的に突出した形状を呈していることにより、図1で示すエキスパンドメタル5の場合と同様に、先行して第2の領域の焼結体5Abが拡散層基材41(の非発電領域)を押圧し、次いで第1の領域の焼結体5Aaが拡散層基材41(の発電領域)を押圧する。多孔体が金属発泡焼結体からなる場合は、エキスパンドメタルの場合に比して表面凹凸の数も多数であり、したがって、凸部(エッジ)からの集中荷重も小さくなることから同程度の作用圧縮力であっても、拡散層基材内へ凸部(エッジ)が突き刺さる可能性は相対的に低くなる。なお、図2は、端面凸部5Ab1が拡散層基材41に突き刺さることなく、金属発泡焼結体5Aの全面で拡散層基材41を弾性変形させている状態を示している。
【0039】
なお、金属発泡焼結体5Aにおいて、相対的に第2の領域の焼結体5Abの気孔率を低く設定したり、あるいは、その発泡倍率を相対的に低く設定することにより、第1の領域の焼結体5Aaに比して相対的に高剛性な領域とすることもできる。
【0040】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の燃料電池を構成する燃料電池セルの一実施の形態の縦断面図であって、特にそのカソード電極側を示した図である。
【図2】図1に対応する態様で、本発明の燃料電池を構成する燃料電池セルの他の実施の形態の縦断面図である。
【図3】従来の燃料電池セルにおいて、エキスパンドメタルからなる多孔体が拡散層基材に突き刺さっている状態を説明した図である。
【符号の説明】
【0042】
1…電解質膜、2…触媒層、3…膜電極接合体(MEA)、4…ガス拡散層、41…拡散層基材、42…集電層(MPL)、5…ガス流路層(多孔体、エキスパンドメタル)、5A…ガス流路層(金属発泡焼結体、多孔体)、51…第1の領域のメタルビーム、51a…エッジ、52…第2の領域のメタルビーム、52a…エッジ、5Aa…第1の領域の焼結体、5Aa1…端面凸部(エッジ)、5Ab…第2の領域の焼結体、5Ab1…端面凸部(エッジ)、6…保護フィルム、7…セパレータ、71…カソード側プレート、72…中間プレート、73…アノード側プレート、8…ガスケット、81…無端リブ、10…電極体(MEGA)、100,100A…燃料電池セル、M…マニホールド、A1…第1の領域(発電領域)、A2…第2の領域(非発電領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜電極接合体と、これを挟持するガス拡散層と、から電極体が形成され、ガス流路層を形成する多孔体とセパレータが該電極体を挟持して燃料電池セルを成し、該燃料電池セルが積層されて形成される燃料電池において、
前記電極体は、その中央の発電領域と、該発電領域の周縁の非発電領域と、からなり、
前記多孔体は、前記発電領域に対応する第1の領域と、前記非発電領域に対応する第2の領域と、からなり、
前記第2の領域が前記第1の領域に比して電極体側に突出している、燃料電池。
【請求項2】
前記第2の領域が前記第1の領域に比して高剛性である、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記多孔体は、エキスパンドメタルもしくは金属発泡焼結体のいずれか一方からなる、請求項1または2に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−108685(P2010−108685A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278052(P2008−278052)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】