説明

燃料電池

【課題】電流出力部材と電流取出部材の接触部分における腐食を抑制した燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池積層体1とこれを固定する締付板3との間に、燃料電池積層体からの電流をその外部に出力する炭素製の電流出力部材1a(燃料電池積層体1の端部)を配置する。炭素製電流出力部材1aに対して母材を金属とした電流取出部材(集電板2)を接触状態で固定し、この電流取出部材に対して電流ケーブルを電気的に接続する。電流取出部材を、電流出力部材を構成する炭素に対して電気化学的電位差が卑である母材によって構成する。電流取出部材の表面にその母材よりも炭素に対する電気化学的電位差が貴で、しかも、炭素に対する電気化学的電位差が卑である材料をコーティングする。電流出力部材と電流取出部材との電気化学的電位差を0.6V以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電板部分の構成に改良を施した燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池には、燃料電池積層体における燃料と酸化剤の化学反応によって発生した電流を、燃料電池積層体の外部に導通させるための集電板と電流ケーブルが設置されている。この集電板と電流ケーブルの接続方法としては、集電板に設置したネジ穴を使用して電流ケーブルの先端を集電板にネジ止めする方法や、集電板の一部に突き出し部を設けて電流ケーブルを接続する方法が取られている。
【0003】
この場合、集電板としては、導電性に優れ機械的強度の高い金属板が使用されている。集電板を金属板で構成した場合は、金属イオンの溶出や金属部の腐食により電池性能が低下する場合がある。そのため、燃料電池積層体の各単セルに供給される燃料ガスや酸化剤ガスまたは冷却水が、金属の集電板と接触しないようにシール部を設ける方法が提案されている。(例えば、特許文献1、2参照)また、集電板の腐食による接触抵抗増大を防止する方法として、腐食に対して安定な金または白金をコーティングする方法(特許文献3参照)が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−179992号公報
【特許文献2】第4090956号公報
【特許文献3】特許第3454838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や2の技術のように、集電板を金属板で構成し、燃料ガスや酸化剤ガスまたは冷却水が金属と接触しないようにシール部を設置する方法では、シール部からの微量リークにより燃料ガスや酸化剤ガスまたは冷却水が部分的に金属の集電板と接触したり、大気中の水分の影響により金属の集電板に腐食が発生する可能性がある。
【0006】
そのため、集電板が金属の場合は、耐食性と電気伝導性に優れた金もしくは白金コーティング品とすることが必要である。また、集電板として、耐食性と電気伝導性にすぐれた炭素板や黒鉛板、あるいは炭素質か黒鉛質を主体とする成型品などの非金属材料を採用し、金属部である電流ケーブル端子を燃料ガスや酸化剤ガスまたは冷却水が接触しない構成とすることが望ましい。
【0007】
しかし、前者のように金属に金や白金コーティングを施した材料は、耐食性が優れており、燃料ガスや酸化剤ガスまたは冷却水が接触しても技術的な問題はない一方、非常に高価であり、燃料電池の商用化に当たってのネックとなっている。また、後者のように金属部を燃料ガスや酸化剤ガスまたは冷却水が接触しない構造をとったとしても、電流ケーブル端子が一般的な錫コーティング品の場合は、急激な腐食は発生しないものの、錫と炭素の異種材料間の電気化学電位差による腐食(ガルバニック腐食)が発生し、経時的に電圧ロスが拡大する問題がある。
【0008】
なお、金や白金はその電気化学的電位差が炭素に対して貴であることから、金や白金をコーティングした材料の腐食が防止されるが、錫の場合は炭素に対してその電気化学的電位差が卑であることから、腐食が進むことになる。
【0009】
同様なことは、集電板を燃料電池積層体との間で腐食が生じない炭素で構成して、この炭素製の集電板に銅やアルミニウムで作製した電流ケーブル端子を接続した場合にも生ずる。このように、従来技術では、炭素製の電流出力部材と、これに接触している金属製の電流取出部材との間の電気化学的電位差による腐食を効果的に抑制することは困難であった。
【0010】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、電流出力部材と電流取出部材との接続部における腐食を防止し、経時的な電圧ロスの拡大を抑制した燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明では、電流出力部材を構成する炭素に対して電気化学的電位差が卑である母材によって電流取出部材を構成すると共に、その電流取出部材の表面にその母材よりも炭素に対する電気化学的電位差が貴で、しかも、炭素に対する電気化学的電位差が卑である材料をコーティングし、炭素製の電流出力部材と電流取出部材との電気化学的電位差を0.6V以下、好ましくは、0.35V以下としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、炭素に対して電気化学的電位差が貴の金属である金や白金を使用することなく、炭素に対して電気化学的電位差が卑の金属をコーティングすることによって、アルミニウムや銅などの母材を使用した電流取出金具と炭素部材との接触部分における腐食を効果的に防止することが可能になる。また、腐食に伴う電流ロスの発生を抑制することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を、その実施形態に基づいて、図面を参照して説明する。ここで、相互に同一または類似の構成部分には共通の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
[第1実施形態]
図1及び図2を用いて第1実施形態の構成を説明する。図1は、本発明による第1実施形態における燃料電池を示す斜視図である。図2は本発明による第1実施形態における燃料電池の断面図である。この第1実施形態は、燃料電池積層体の端部の炭素部分を電流出力部材とし、これに接触配置された集電板を電流取出部材としたものである。
【0015】
第1実施形態の燃料電池は、図1に示すように、単位電池を複数枚積層した燃料電池積層体1と、燃料電池積層体1の両端に設置された導電性の集電板2(図1では締付板3に隠れている)と、集電板2の両端に設置された電気絶縁性の締付板3と、締付板3を互いに近接する方向に締め付けているタイロッド4とを備えている。燃料電池積層体1の側面には、燃料電池積層体1に対向した面に開口部を有する箱型のガスマニホールド5が設置されている。
【0016】
図2に示すように、集電板2は、そのL字形の水平部分が燃料電池積層体1の端部1aに配置され、燃料電池積層体1と締付板3とに挟持されている。締付板3は電気絶縁性の材料で構成されているが、締付板3を導電性の材料で構成する場合には、起電部の露出を防止するために集電板2と締付板3の間に絶縁物を挿入することが望ましい。
【0017】
締付板3には、L字形に形成された集電板2の一部が外部に露出する形に形成された開口部6が設けられ、この開口部6部分における集電板2の外部露出部に、電流ケーブル端子10が電流ケーブル固定ネジ8で固定されている。この電流ケーブル端子10には、電流ケーブル9が接続されている。燃料電池積層体1の端部1aと集電板2は接触しており、集電板2の周囲部はシール7で囲まれ、ガスマニホールド5の内部空間あるいは燃料電池積層体の外部空間と遮蔽されている。集電板2はアルミニウム材から構成され、その表面に銀がコーティングされている。
【0018】
ここで、コーティングの手法は、母材の金属(第1実施形態ではアルミニウム)の表面を覆っていれば特に制約はなく、電気メッキ、溶融メッキ、イオンプレーティング、スパッタリング、化学的気相蒸着(CVD)、金属箔による物理的な被覆、塗装などが挙げられる。
【0019】
次に、上記の構成を有する第1実施形態の作用について説明する。この第1実施形態では、集電板2から取り出された電流は、集電板2→電流ケーブル端子10→電流ケーブル9の順に流れる。集電板2は導電性に優れる金属のため炭素板や黒鉛板に比して体積固有抵抗が小さく、集電板2を貫通する電流による電圧ロスが低減できる。また、集電板2は燃料電池積層体1と接しているが、接触面積を大きく取ることが可能となり、接触抵抗のロスを低減できる。
【0020】
一方、燃料電池積層体1は炭素材であるが、集電板2の表面が銀でコーティングされているため、炭素材との異種材料接触腐食(ガルバニック腐食)の発生が抑制される組合せであり、接触抵抗の長期安定性を確保できる。
【0021】
すなわち、集電板2表面のコーティング材料は、接触する炭素材との異種材料接触腐食を抑制する観点から、JIC6950で規定された異種材料間の電気化学的電位差0.6V以下であれば、一定の効果が得られる。第1実施形態で使用した集電板2はアルミニウム材で構成されているが、アルミニウムと炭素との電気化学的電位差は1.0Vであり、異種材料接触腐食が生じやすい。しかし、本実施形態では、アルミニウム材の表面に銀をコーティングしており、炭素と銀との電気化学的電位差は0.1Vであるため、アルミニウムと炭素を直接接触させた場合に比較して、接触腐食を抑制することができる。
【0022】
なお、炭素と銀との電気化学的電位差0.1Vは、母材として銀を使用した場合の値であるが、アルミニウムに銀をコーティングした場合においても、コーティングの肉厚などによって多少の上昇はあるが、JIC6950で規定された異種材料間の電気化学的電位差0.6V以下を十分確保できる。その結果、高価な白金や金などの希少金属を使用しなくても、比較的安価な銀、ニッケルなどのコーティング材料を適用することにより、炭素との異種材料間の腐食を抑制できる。
【0023】
更に、本実施形態では、集電板2の周囲はシール7に囲まれており、集電板2と燃料電池積層体1の間へ燃料電池の反応ガス中に含まれる湿分や空気が侵入するのを抑制しているため、集電板2にコーティングした銀の表面の酸化を抑制する効果がある。しかも、集電板2は機械的強度に優れる金属材料(アルミニウム)のため、電流ケーブル端子10との接続部での破損のリスクは、集電板2を炭素板にした場合と比較して小さい。
【0024】
以上説明したように、本実施形態では、集電板2と燃料電池積層体1との部分で発生する電圧ロスの低減、集電板2表面の接触抵抗の低減とその長期的安定性の維持が可能となる。また、電流ケーブル端子10の接続部の破損のリスクを小さくすることが可能となり、電圧ロスを抑制した高信頼性の燃料電池を提供することができる。
【0025】
[第2実施形態]
図3を用いて第2実施形態の構成を説明する。図3は本発明の第2実施形態における燃料電池の断面図である。この第2実施形態は、燃料電池積層体の端部に配置された炭素製の集電板を電流出力部材とし、これに接触配置された電流取出金具を電流取出部材としたものである。
【0026】
第2実施形態では、燃料電池積層体1の両端に設置された炭素製の集電板14と、集電板14の燃料電池積層体1とは逆の面に設置されたL字形の電流取出金具15を、電流取付ネジ12で固定した構造である。電流取出金具15の外部露出部に、電流ケーブル端子10が電流ケーブル固定ネジ8で固定されている。この電流ケーブル端子10に、電流ケーブル9が接続されている。燃料電池積層体1と集電板14は接触しており、集電板14の周囲部はシール7で囲まれている。電流取出金具15は銅材から構成され、その表面に銀が第1実施形態と同様な手段でコーティングされている。
【0027】
上記の構成を有する第2実施形態では、集電板14から取り出された電流は集電板14→電流取出金具15→電流ケーブル端子10→電流ケーブル9の順に流れる。集電板14は導電性に優れ、かつ積層体1と同一材料の炭素であり、積層体1と集電板14の間では腐食は起きない。炭素製の集電板14には電流取出金具15が接しているが、電流取出金具15の表面が銀でコーティングされているため、炭素材との異種材料接触腐食(ガルバニック腐食)の発生が抑制される組合せであり、接触抵抗の長期安定性を確保できる。更に、電流取出金具15はシール7によって積層体から隔離されているため、電流取出金具15にコーティングした銀の表面の酸化を抑制する効果がある。
【0028】
この実施の形態においては、電流取出金具15の母材として銅を使用している。銅と炭素との電気化学的電位差は0.35Vであり、銅単独でもJIC6950で規定された異種材料間の電気化学的電位差0.6V以下を満足できる。しかし、本実施形態では、母材である銅の表面に、炭素との電気化学的電位差がより小さい0.1Vの銀がコーティングされているので、その電気化学的電位差は0.35V以下となり、銅単独の母材を使用した場合に比較して耐腐食性能をより向上させることができる。
【0029】
以上説明したように、本実施形態においても、前記第1実施形態と同様に、集電板14と電流取出金具14間の接触抵抗の低減が可能となり、電圧ロスを抑制した高信頼性の燃料電池を提供することができる。
【0030】
[第3実施形態]
図4は本発明による第3実施形態における燃料電池の断面図である。本実施形態は、集電板14、銀コーティングの電流取出金具15および錫コーティングの電流ケーブル端子10の構成の第2実施形態に対し、ネジ部14aを有する炭素製の集電板14と銅の母材に銀コーティングを施した電流ケーブル端子11の構成である。この第3実施形態においても、前記第2実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0031】
[他の実施形態]
以上で説明した実施形態は単なる例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0032】
例えば、集電板2および電流取出金具15の表面のコーティング材料は接触する炭素との異種材料接触腐食を抑制する観点から、JIC6950で規定された異種材料間の電気化学的電位差0.6V以下であれば、ニッケルなども使用できる。その場合、母材となる金属に合わせて、コーティングする金属はそれよりも電気化学的電位差が貴のものを使用する。
【0033】
図示の実施形態は、外部マニホールド構成の燃料電池に本発明を適用したものであるが、内部マニホールド構成の燃料電池についても、本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の燃料電池の第1実施形態を示す斜視図。
【図2】本発明の燃料電池の第1実施形態を示す断面図。
【図3】本発明の燃料電池の第2実施形態を示す断面図。
【図4】本発明の燃料電池の第3実施形態を示す斜視図。
【符号の説明】
【0035】
1…燃料電池積層体
2…集電板(金属+銀コーティング)
3…締付板
4…タイロッド
5…ガスマニホールド
6…締付板の開口部
7…シール
8…電流ケーブル固定ネジ
9…電流ケーブル
10…電流ケーブル端子(錫コーティング品)
11…電流ケーブル端子(銀コーティング品)
12…電流ケーブル止めネジ
13…冷却水マニーホールド
14…集電板(炭素)
15…電流取出金具(金属+銀コーティング)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池積層体とこれを固定する締付板との間に、燃料電池積層体からの電流をその外部に出力する炭素製の電流出力部材を配置し、この炭素製電流出力部材に対して母材を金属とした電流取出部材を接触状態で固定し、この電流取出部材に対して電流ケーブルを電気的に接続してなる燃料電池において、
前記電流取出部材を、電流出力部材を構成する炭素に対して電気化学的電位差が卑である母材によって構成すると共に、その電流取出部材の表面にその母材よりも炭素に対する電気化学的電位差が貴で、しかも、炭素に対する電気化学的電位差が卑である材料をコーティングし、炭素と電流取出部材との電気化学的電位差を0.6V以下としたことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記電流取出部材の母材がアルミニウムであり、その表面にコーティングされる金属が銀、銅またはニッケルのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記電流取出部材の母材が銅であり、その表面にコーティングされる金属が銀またはニッケルのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記電流出力部材が、燃料電池積層体の端部に形成された炭素部材であり、前記電流取出部材が燃料電池積層体と締付板との間に配置された集電板であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記電流出力部材が、燃料電池積層体と締付板との間に配置された集電板であり、前記電流取出部材が集電板に固定された電流取出金具または電流ケーブル端子であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−135118(P2010−135118A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307765(P2008−307765)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(301060299)東芝燃料電池システム株式会社 (358)
【Fターム(参考)】