説明

燃料電池

【課題】セパレータにおいて冷却媒体流通路が存在しない燃料電池セルの周縁領域における発電経過時の異常過熱を抑制し、もって電極面積の利用率を効果的に向上させ、発電面積利用率の可及的に高い燃料電池を提供する。
【解決手段】膜電極接合体3とその両側のガス透過層と、セパレータ7と、マニホールドMを具備するガスケット8と、からなる燃料電池セル10を有する燃料電池であり、セパレータ7に形成されたガス供給用開口とガス排気用開口の間の内側に対応する中央領域に触媒層2b,2’bが形成され、中央領域の外側の周縁領域にも触媒層2a,2’aが形成されており、燃料電池セル10の周縁領域に対応する位置に吸熱材9が配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広範な発電面積を有する燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池の燃料電池セルは、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側およびカソード側の触媒層とから膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)が形成され、この膜電極接合体とこれを挟持するアノード側およびカソード側のガス拡散層(GDL)とから電極体(MEGA:Membrane Electrode & Gas Diffusion Layer Assembly)が形成され、電極体に燃料ガスもしくは酸化剤ガスを提供するとともに電気化学反応によって生じた電気を集電するための金属多孔体からなるガス流路層とセパレータが電極体の両側に配されて構成されている。なお、セパレータにガス流路溝が形成された燃料電池セルも従来一般のものであり、この形態の場合にはガス流路層となる金属多孔体は不要である。実際の燃料電池スタックは、所要電力に応じた基数の燃料電池セルが積層され、スタッキングされることによって形成されている。
【0003】
上記する燃料電池では、アノード電極に燃料ガスとして水素ガス等が提供され、カソード電極には酸化剤ガスとして酸素や空気が提供され、各電極では固有のガス流路層(またはセパレータに形成されたガス流路溝)にて面内方向にガスが流れ、次いでガス拡散層にて拡散されたガスが電極触媒層に導かれて電気化学反応がおこなわれるものである。
【0004】
上記する燃料電池セルにおいては、膜電極接合体に供給される燃料ガスや酸化剤ガス、さらにはセルの昇温を抑止するための冷却水などの冷却媒体をシールするためのガスケットが電極体や金属多孔体の周縁に形成されている。このガスケット成形は一般に射出成形や圧縮成形にておこなわれている。たとえばガス流路となる金属多孔体を具備する燃料電池セルにおいては、成形型のキャビティ内にアノード側もしくはカソード側の一方の金属多孔体を収容し、次いで電極体を収容し、次いでアノード側もしくはカソード側の他方の金属多孔体を収容した姿勢で、電極体および金属多孔体の周縁のガスケット形成用キャビティに樹脂を注入してガスケット成形がおこなわれている。なお、キャビティ内にアノード側もしくはカソード側いずれか一方のセパレータを最初に収容し、次いで上記する構成部材を収容して射出成形をおこなう方法もある。
【0005】
上記するセパレータには、たとえばチタンやステンレスからなる2枚のプレート(カソード側プレートとアノード側プレート)の間に流路が形成されたプレート(中間層、中間プレート)が介層された3層構造のものや、中間層を樹脂製の枠材とし、2枚のプレートの一方から多数のディンプルや流路を画成するリブを突出させて冷却水流路を形成するものなどがあり、この3層構造のセパレータを具備する燃料電池が特許文献1に開示されている。この構造のセパレータは、当該セル自体のアノード側もしくはカソード側のいずれか一方のセパレータであると同時に、積層姿勢において隣接するセルのアノード側もしくはカソード側の他方のセパレータとなるものである。すなわち、この3層構造セパレータを有する燃料電池セルのセル構成部材は、一つの3層構造セパレータと、アノード側およびカソード側のガス透過層(エキスパンドメタルや金属発泡焼結体などの金属多孔体からなるガス流路層)と、電極体(膜電極接合体およびガス拡散層)と、からなり、複数の燃料電池セルが積層された姿勢において、任意の燃料電池セルは、その両端にアノード側およびカソード側のセパレータを有することとなる。
【0006】
ここで、3層構造セパレータの理解を容易とするべく、図4に3層構造セパレータを具備する燃料電池セルの縦断面図を示している。
図4において、燃料電池セルは、電解質膜aとこれを挟持するカソード側およびアノード側の触媒層b1、b2とから膜電極接合体cが形成され、この膜電極接合体cをカソード側およびアノード側のガス拡散層d1、d2が挟持して電極体eが形成され、電極体eをカソード側およびアノード側のガス流路層f1、f2が挟持し、アノード側のガス流路層f2の下方に、3層構造のセパレータhが配され、電極体eの側方に流体流通用のマニホールドMを具備するガスケットgが射出成形等されてその全体が構成されている。この3層構造のセパレータhは、2枚のステンレス製もしくはチタン製の第1のプレートh1(アノード側プレート)と第2のプレートh2(カソード側プレート)と、このプレートh1、h2間に介在してガスや冷却水などの流体用の流路を画成する中間層h3(中間プレート)と、から構成されている。なお、燃料電池スタックは、図示する燃料電池セルが複数積層され、スタッキングされることによって形成されるものであり、不図示の燃料電池セルが図示する燃料電池セルの上下に積層されるものである。
【0007】
中間層h3には、酸化剤ガスを不図示の燃料電池セル(図示する燃料電池セルの下方に位置することとなる燃料電池セル)のカソード側ガス流路層に提供するための酸化剤ガス導入路h3a(酸化剤ガスの流れ:Z1)と、図示する燃料電池セル自身のアノード側ガス流路層f2に燃料ガスを提供するための燃料ガス導入路h3b(燃料ガスの流れ:Z2)、さらには、発電経過における電極体eの昇温を抑止するための冷却媒体が流通する冷却用流路h3cが形成されている。なお、図4は、酸化剤ガスが流通するマニホールドMを通る断面で切断した縦断面図である。
【0008】
ところで、燃料電池セルにおいては、その触媒層が形成された領域が一般に発電領域となっており、セパレータの全面積に対する該発電領域の割合は発電面積利用率と称され、この発電面積利用率を可及的に高くすることが求められている。
【0009】
しかし、図4からも明らかなように、3層構造セパレータでは、その構造上の制約(ガスの導入路を設けたり、酸化剤ガスと燃料ガスのそれぞれに固有のガス流路層等へガスを供給するための開口(燃料ガス用のガス供給用開口h1a、酸化剤ガス用のガス供給用開口h2a)およびガス流路層等からガスを排気するための排気用開口(不図示)を同じ側面領域に設けるなど)から、電極体eの触媒層形成領域は、冷却媒体が流通する冷却用流路が形成されている平面範囲にしか設けることができない。より具体的には、平面視でカソード側のガス供給用開口h2aおよびガス排気用開口(不図示)よりもアノード側のガス供給用開口h1aおよびガス排気用開口(不図示)が内側に形成されている場合には、このアノード側のガス供給用開口h1aおよびガス排気用開口の内側範囲に触媒層形成領域(図中の中央領域)が限定されている。なお、これらの開口は、ガス流路層の全範囲に効果的にガスを提供するとともに、ガス流路層等からのガスの効率的な排気を図るべく、触媒層と同程度の幅をその延長とする細長形状に形成される形態もあり、このような細長形状のガス開口は、いわゆるコモンレールと称されることもある。
【0010】
上記理由から触媒層形成領域が制限されているのに対して、発電領域を広げるべく、図4で示すように、この触媒層形成領域を中央領域のみならず、その外側の周縁領域まで広げた場合に(したがって、少なくとも上記コモンレールh1a、h2aに対応する平面位置、およびそれよりもさらに外側の領域に触媒層が形成される)、この周縁領域に対応するガス流路層等において(対応する位置には冷却用流路が形成されていない)、高密度電流通電時等の際に異常過熱が生じ、電解質膜にガスのクロスリーク路となり得る孔が開いたり、あるいは、異常過熱によってドライアップが助長され、燃料電池の局所的な発電落ち(発電性能低下、発電不可)が生じ得るという課題が危惧される。
【0011】
さらに、上記する周縁領域は、マニホールドMから導入されるガスリッチな酸化剤ガスや燃料ガスが流れ込んでくる領域でもあるため、発電経過において、電極体の中央領域よりも高温になり易く、上記する課題の発生が一層懸念される。
【0012】
その一方で、発電面積を可及的に広げ、もって発電面積利用率のより一層高い燃料電池の開発が当該分野における急務の課題の一つとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−250195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、セパレータにおいて冷却媒体が流れる冷却用流路が存在しない燃料電池セルの周縁領域にも触媒層を形成することができ、しかも、発電経過において、冷却用流路が存在しないこの周縁領域における上記異常過熱を効果的に緩和もしくは抑制することができ、もって、異常過熱が生じる場合の上記課題を解消しながら、発電面積を可及的に広範囲とし、発電面積利用率の可及的に高い燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成すべく、本発明による燃料電池は、電解質膜と、該電解質膜の両側で当接する触媒層と、から膜電極接合体が形成され、該膜電極接合体の両側にガス透過層が配され、いずれか一方のガス透過層側には、燃料ガスもしくは酸化剤ガスのいずれか一方を該ガス透過層に提供するセパレータが配されて燃料電池セルを成し、該燃料電池セルが積層されてなる燃料電池であって、前記セパレータには、アノード側もしくはカソード側のガス透過層に燃料ガスもしくは酸化剤ガスを提供するためのガス供給用開口と、該アノード側もしくはカソード側のガス透過層から燃料ガスもしくは酸化剤ガスを排出するためのガス排気用開口が開設されており、前記触媒層は、前記ガス供給用開口と前記ガス排気用開口の間の内側に対応する中央領域に加えて、該開口に対応する領域と該開口よりも外側の領域とからなる周縁領域にも形成されており、前記燃料電池セルの前記周縁領域に対応する位置に、吸熱材が配されているものである。
【0016】
本発明の燃料電池を構成する燃料電池セルは、たとえば3層構造のセパレータを有し、かつ、このセパレータに開設されて、ガス透過層へ燃料ガスや酸化剤ガスを提供するガス供給用開口と、ガス透過層からのガスを排気するためのガス排気用開口と、を有しているものである。そして、これらの開口の間の中央領域に触媒層が形成されるとともに、この開口に対応する位置、もしくはこの開口よりも外側の位置(周縁領域)にも同様に触媒層が形成されるものである。
【0017】
ここで、一般に、前記中央領域は、セパレータにおいて冷却媒体用流路が形成された領域で規定されるものである。
たとえば、第1のプレート(たとえばアノード側プレート)、中間層(もしくは中間プレート)、第2のプレート(たとえばカソード側プレート)の積層構造を呈した3層構造のセパレータを用いる場合には、その中間層に形成された冷却媒体用流路にて中央領域が規定でき、3層構造のセパレータ以外の形態、たとえば、セパレータの一方の側面にガス用の溝流路が形成され、他方の側面に冷却媒体用の溝流路が形成されたセパレータの場合には、該溝流路にて中央領域が規定できる。
【0018】
上記する周縁領域は、既述するように、従来構造においては冷却媒体用流路が形成されていないため、冷却効果が期待できないことから当該周縁領域に触媒層を形成することができなかった。これに対して、本発明の燃料電池では、燃料電池セル内の周縁領域に対応する任意の箇所に吸熱材が配されていることで、該周縁領域の冷却効果を期待することができ、したがって、この周縁領域にも触媒層を形成し、もって発電面積を従来構造の燃料電池に比して格段に広範囲にできるものである。
【0019】
なお、本発明の燃料電池を構成する燃料電池セルの構造において、膜電極接合体のアノード側とカソード側の双方に拡散層基材と集電層からなるガス拡散層を具備する形態、アノード側とカソード側のいずれか一方は集電層のみを具備する(拡散層基材が廃された)形態の双方を含んでいる。また、本明細書では、これらのいずれの形態も電極体(MEGA)と称呼している。また、電極体の両側にガス流路溝が形成されたセパレータが直接配された形態は勿論のこと、いわゆるフラットタイプのセパレータと電極体の間に、ガス流路層(エキスパンドメタル等の金属多孔体)が配された形態を含むものである。さらに、「ガス透過層」とは、ガス拡散層とガス流路層の双方を含む意味である。したがって、ガス流路層を具備しないセル形態においては「ガス透過層」は「ガス拡散層」を意味するものであり、ガス拡散層とガス流路層の双方を具備するセル形態においては「ガス透過層」は「ガス拡散層」と「ガス流路層」の双方もしくはいずれか一方を意味するものである。
【0020】
上記する吸熱材としては、ペルチェ素子(モジュール)、吸熱性ウレタン素材の定型材、吸熱性のシリコーンゲル材などを挙げることができる。
【0021】
また、この吸熱材の配設位置としては、燃料電池セルを構成する部材の中でも、ガス流れを阻害しない部材であるセパレータの内部に内蔵されるのが好ましい。尤も、セパレータ以外にも、ガス流路層やガス拡散層において、上記する周縁領域であって、ガス流れを阻害しない領域に設けられてもよい。
【0022】
たとえば、上記する3層構造セパレータを取り上げた場合、ガス流路層と直接当接する第1のプレートおよび/または第2のプレートの周縁領域に対応する位置に、ペルチェ素子等をその一側面がガス流路層に臨んだ姿勢で内蔵しておくことができる。
【0023】
このように、冷却効果が期待できない周縁領域の適所に適宜の吸熱材を配したことにより、冷却媒体による冷却効果が期待できる範囲が従来構造の燃料電池セルと同程度の範囲であっても、該周縁領域における異常過熱の発生を効果的に抑止しながら、発電面積を可及的に広範囲とすることができる。このことはすなわち、燃料電池セルの体格を増大させることなく、燃料電池セルの発電性能を向上させることに繋がるものである。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明から理解できるように、本発明の燃料電池によれば、冷却効果が期待できない領域(周縁領域)に適宜の吸熱材が配された構造を適用することで、当該周縁領域における異常過熱を効果的に抑制しながら、燃料電池セルの体格を増大させることなく、発電面積を可及的に広範囲とでき、もって、発電能力の高い燃料電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の燃料電池を構成する燃料電池セルの一実施の形態の一部を拡大した縦断面図である。
【図2】図1のII−II矢視図であって、吸熱材の配設位置を平面的に示した模式図である。
【図3】実験で使用した燃料電池セルにおける、触媒層、吸熱材(ペルチェ素子)の寸法を説明した模式図である。
【図4】従来の燃料電池を構成する燃料電池セルの実施の形態の一部を拡大した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示例は燃料電池セルの左側領域、より具体的には、燃料ガスが導入されるガス供給用開口を含む領域のみを取り出して拡大した図であり、実際の燃料電池セルはこれと同構造の右側領域であって、ガス排気用開口を具備する領域を有するものであることは言うまでもないことである。また、説明をより明瞭とするべく、酸化剤ガスの供給用開口などの図示は省略している。さらに、図示例は3層構造のセパレータを有する燃料電池セルを示しているが、従来構造のセパレータ、すなわち、その一方側にガス用の溝流路が形成され、その他方側に冷却媒体用の溝流路が形成され、いわゆるコモンレールをその一方側に有するセパレータを具備する燃料電池セルであってもよい。
【0027】
図1は、本発明の燃料電池を構成する燃料電池セルの一実施の形態の一部を拡大した縦断面図であり、図2は、図1のII−II矢視図であって、吸熱材の配設位置を平面的に示した模式図である。
【0028】
まず、図1で示す燃料電池セル10は、電解質膜1と、カソード側およびアノード側の触媒層2,2’と、から膜電極接合体3が形成され、これをカソード側およびアノード側のガス拡散層4,4’(ガス透過層)が挟持して電極体5が形成され、これをカソード側およびアノード側のガス流路層6,6’(ガス透過層、金属多孔体)が挟持し、さらに、アノード側のガス流路層6’側に3層構造のセパレータ7が配されて構成される。
【0029】
触媒層2,2’は電解質膜1に比してそれらの面積が狭小であり、したがって、電解質膜1の両側の触媒層2,2’の周縁には該触媒層2,2’が存在しない露出領域1aが形成され、この露出領域1aには、カソード側およびアノード側の不図示の保護フィルムが配されて、ガス拡散層4,4’から突出する毛羽が電解質膜1の露出領域に突き刺さるのを防護している。
【0030】
ここで、膜電極接合体3を構成する電解質膜1は、たとえば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成される。
【0031】
また、触媒層2,2’は、触媒が担持された導電性担体(粒子状のカーボン担体など)と、電解質と、分散溶媒(有機溶媒)と、を混合して触媒溶液(触媒インク)を生成し、これを電解質膜1やガス拡散層4,4’等の基材にたとえば塗工ブレードにて層状に引き伸ばして塗膜を形成し、温風乾燥炉等で乾燥することで触媒層が形成される。ここで、触媒溶液を形成する電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを挙げることができる。なお、市販素材としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標、デュポン社製)やフレミオン(Flemion)(登録商標、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、芳香族系あるいはハロゲン系の種々の溶媒を挙げることができ、さらには、これらを単独で、もしくは混合液として使用することができる。さらに、触媒が担持された導電性担体に関し、この導電性担体としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができ、この触媒(金属触媒)としては、たとえば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどのうちのいずれか一種を使用することができ、好ましくは白金または白金合金を使用するのがよい。さらに、この白金合金としては、たとえば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタンおよび鉛のうちの少なくとも一種との合金を挙げることができる。
【0032】
また、ガス拡散層4,4’は、拡散層基材と集電層(MPL)からなるものであり、拡散層基材としては、電気抵抗が低く、集電を行えるものであれば特に限定されるものではないが、たとえば、導電性無機物質を主とするものを挙げることができ、この導電性無機物質としては、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛等の炭素材やこれらのナノカーボン材料、ステンレススチール、モリブデン、チタン等を挙げることができる。また、拡散層基材の導電性無機物質の形態は特に限定されるものではなく、たとえば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、ガス透過性の点から無機導電性繊維であって、特に炭素繊維が好ましい。無機導電性繊維を用いた拡散層基材としては、織布あるいは不織布いずれの構造のものも使用することができ、カーボンペーパーやカーボンクロスなどを挙げることができる。織布としては、紋織、平織など、特に限定されるものではなく、不織布としては、抄紙法、ウォータージェットパンチ法によるものなどが挙げられる。さらに、この炭素繊維としては、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などを挙げることができる。さらに、集電層はアノード側、カソード側の触媒層2,2’から電子を集める電極の役割を果たすものであり、導電性材料である、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、金、銀、銅及びこれらの化合物または合金、導電性炭素材料などから形成できる。
【0033】
また、金属多孔体6,6’は、エキスパンドメタルや金属発泡焼結体などから形成でき、たとえば、チタンやステンレス、銅、ニッケル等の耐食性に優れた金属素材の発泡焼結体からガス流路層が形成されるものである。
【0034】
また、ガスケット8は、その端部のマニホールドMの周縁に該マニホールドMを囲繞する無端リブ8aを有するものである。その成形方法の概要は、不図示の成形型内にアノード側の金属多孔体6’、電極体5、カソード側の金属多孔体6の順に収容して型閉めし、膜電極接合体4の側方のガスケット用キャビティ内に樹脂を注入する(射出成形)等の方法でおこなわれる。ここで、このガスケットの材料としては、耐メタノール性を有するエポキシ系樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタンRTVゴムやブチルゴム系樹脂、シリコーンRTVゴム、EPDM系樹脂等が使用できる。
【0035】
さらに、3層構造のセパレータ7は、ステンレスやチタンからなる金属製の第1、第2のプレート71,72と、その間に介在する中間層73(中間プレート)と、がろう付け等で一体化されたものである。
【0036】
図示するセパレータ7を構成する中間層73には、自身が構成要素となる燃料電池セルのアノード側の金属多孔体6'に燃料ガスを供給するための燃料ガスの導入路73bと、セルの積層姿勢において、隣接する不図示の燃料電池セルのカソード側の金属多孔体6に酸化剤ガスを供給する(Z1方向)ための導入路73aが形成されている。さらには、冷却水等の冷却媒体が流通する冷却用流路73cが形成されている。
【0037】
ここで、中間層73には、その内側の領域に冷却用流路73cが形成されており、中間層73には燃料ガス用の導入路73bが形成され、これに連通する第1のプレート71には、細長形状の燃料ガス用のガス供給用開口71a(コモンレールとも称される)が形成され、このコモンレールを介して燃料ガスがガス流路層6’に提供されるようになっている(Z2方向)。また、同様に、酸化剤ガス用の導入路73aに連通する第2のプレート72には、細長形状の燃料ガス用のガス供給用開口72a(コモンレールとも称される)が形成されており、このコモンレールを介して酸化剤ガスが不図示の燃料電池セルのカソード側のガス流路層に提供されるようになっている(Z1方向)。なお、図示しない燃料ガスや酸化剤ガスの排出路やガス排気用開口も、不図示の燃料電池セルの右側領域に形成されている。なお、ガス流路層6’に提供された燃料ガスは、このガス流路層6’を面内方向に流れながら、ガス拡散層4’を介して膜電極接合体2’に提供される(Z3’方向)。
【0038】
図示する燃料電池セル10では、セパレータ7において冷却媒体用流路73cが形成され、したがって、冷却媒体にて冷却効果が期待できる領域(中央領域)と、その外側で、冷却媒体用流路が存在しないものの、冷却作用を奏するペルチェ素子9が第1のプレート71内に内蔵された領域(周縁領域)と、を有し、アノード側の触媒層2’、カソード側の触媒層2ともに、中央領域から周縁領域に亘る触媒層を有するものである。具体的には、アノード側の触媒層2’とカソード側の触媒層2において、中央領域に形成された触媒層2’b,2bと、これらと同素材の触媒層であって周縁領域に形成された触媒層2’a,2aと、から構成されている。
【0039】
周縁領域の触媒層2aに対応する位置に、吸熱作用を奏するペルチェ素子9が設けられたことで、コモンレールに対応する位置やこれよりも外側の領域にも燃料ガスを提供し(Z4方向およびZ4’方向)、この領域において、異常過熱を生じさせることなく発電を実施することが可能となる。
【0040】
したがって、中央領域のみで発電をおこなっていた従来構造の燃料電池セルに比して、発電利用面積を格段に広範囲とでき、燃料電池セル自体の体格を大きくすることなく、発電性能に優れた燃料電池セル、ひいては燃料電池スタックを得ることができる。
【0041】
[ペルチェ素子が周縁領域に配された燃料電池セル(実施例)と、ペルチェ素子がない従来構造の燃料電池セル(比較例)の発電量に関する実験とその結果]
本発明者等は、図3で平面的に示す燃料電池セル(実施例)と、従来構造の燃料電池セルを試作し、双方の発電面積を試算するとともに、双方の発電量の比較をおこなった。
図3において、触媒層Sの上下領域にコモンレールCR、CRが配され、このコモンレールCRにラップするようにしてさらにその上下領域に亘る範囲にペルチェ素子PSが(セパレータ内に)配された燃料電池セルを製造した。なお、その内部構造は、図1で示す基本構成を有するものである。一方、比較例の燃料電池セルは、図3で示すセル構造でペルチェ素子PSが存在しないものである。
【0042】
また、この実験において、燃料電池セルを構成する電解質膜にN111(デュポン社製)を使用し、カソード側触媒層は、その白金担持量が60%、高分子電解質(アイオノマ)にDE2020(デュポン社製)を使用し、I/C(導電性担体の質量(C)に対する高分子電解質の質量(I)の比)を0.8に調整している。また、アノード側触媒層は、その白金担持量が10%、高分子電解質にDE2020を使用し、I/Cを1.2に調整している。さらに、拡散層基材にTGP060を使用し、撥水ペースト処理(BMBA:PTFE=1:1)として膜電極接合体を形成している。以下の表1に実施例と比較例の出力(発電量)および発電面積、発電面積比を示している。
【0043】
【表1】

【0044】
表1より、発電面積比と出力には相間があり、いずれも、比較例に対して、実施例は20〜30%向上することが実証されている。
【0045】
したがって、本発明の燃料電池を構成する燃料電池セルの構造を用いることで、ペルチェ素子等の吸熱材を適所に、しかも所望範囲に設けることにより、一定体格の燃料電池セルにおいて、発電利用面積を最大にでき、最大の発電量を得ることが可能となる。
【0046】
なお、実際の燃料電池は、所望する発電量に応じて図示する燃料電池セル10が所定段積層されて燃料電池スタックが形成される。さらに、この燃料電池スタックは、最外側にターミナルプレート、絶縁プレート、およびエンドプレートが配され、セル積層方向に延設するテンションプレートを介して圧縮力が加えられて燃料電池が形成される。電気自動車等に車載される燃料電池システムは、この燃料電池と、水素ガスや空気を収容する各種タンク、これらのガスを燃料電池に提供するためのブロア、燃料電池を冷却するためのラジエータ、燃料電池で生成された電力を蓄電するバッテリ、この電力で駆動する駆動モータ等から大略構成されるものである。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0048】
1…電解質膜、1a…張り出している箇所、2…カソード側の触媒層、2a…第2の触媒層、2b…第1の触媒層、2’…アノード側の触媒層、2’a…第2の触媒層、2’b…第1の触媒層、3…膜電極接合体、4…カソード側のガス拡散層(ガス透過層)、4’…アノード側のガス拡散層(ガス透過層)、5…電極体、6…カソード側の金属多孔体(ガス透過層、ガス流路層)、6’…アノード側の金属多孔体(ガス透過層、ガス流路層)、7…セパレータ、71…第1のプレート(アノード側プレート)、72…第2のプレート(カソード側プレート)、73…中間層(中間プレート)、73a…酸化剤ガスの導入路、73b…燃料ガスの導入路、73c…冷却用流路、8…ガスケット、9…ペルチェ素子(吸熱材)、10…燃料電池セル、M…マニホールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、該電解質膜の両側で当接する触媒層と、から膜電極接合体が形成され、該膜電極接合体の両側にガス透過層が配され、いずれか一方のガス透過層側には、燃料ガスもしくは酸化剤ガスのいずれか一方を該ガス透過層に提供するセパレータが配されて燃料電池セルを成し、該燃料電池セルが積層されてなる燃料電池であって、
前記セパレータには、アノード側もしくはカソード側のガス透過層に燃料ガスもしくは酸化剤ガスを提供するためのガス供給用開口と、該アノード側もしくはカソード側のガス透過層から燃料ガスもしくは酸化剤ガスを排出するためのガス排気用開口が開設されており、
前記触媒層は、前記ガス供給用開口と前記ガス排気用開口の間の内側に対応する中央領域に加えて、該開口に対応する領域と該開口よりも外側の領域とからなる周縁領域にも形成されており、
前記燃料電池セルの前記周縁領域に対応する位置に、吸熱材が配されている、燃料電池。
【請求項2】
前記吸熱材が、セパレータの前記周縁領域に対応する位置に配されている、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記中央領域は、セパレータにおいて冷却媒体用流路が形成された領域で規定される、請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記吸熱材がペルチェ素子からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項5】
前記セパレータは、第1のプレート、中間層、第2のプレートが積層された3層構造を呈しており、該第1のプレートもしくは第2のプレートのいずれか一方に細長形状の前記開口が開設されており、該中間層のうち、前記中央領域に対応する位置において、冷却媒体が流通するようになっている、請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項6】
前記ガス透過層は、ガス拡散層、金属多孔体からなるガス流路層、該ガス拡散層と該ガス流路層の組み合わせ、のいずれかの形態からなり、
アノード側とカソード側双方のガス透過層が、複数の前記形態中の同一の形態、もしくは異なる形態のいずれかからなる、請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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