説明

燃料電池

【課題】燃料電池内で発生するフラッディングを抑制することができる燃料電池を提供する。
【解決手段】電解質膜10と電解質膜10の両側に配置されるアノード極12及びカソード極14とを備える膜電極接合体16と、膜電極接合体16の両側に配置される細孔層18,20と、細孔層18,20の外側に配置される反応ガス流路となる多孔体流路層22,24と、を備え、少なくともアノード極12側の細孔層18と多孔体流路層22との間にはガス拡散層21が配置されず、アノード極12側の細孔層18と多孔体流路層22とは接しており、アノード極12側の細孔層18は撥水性を有し、アノード極12側の多孔体流路層22は親水性を有する燃料電池1を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラッディングの発生を抑制する燃料電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に燃料電池は、電解質膜と電解質膜の両側に配置されるアノード極及びカソード極とを備える膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)、該膜電極接合体の両側に順に配置される細孔層(集電層、マイクロポーラスレイヤ(MPL)等とも言う)、ガス拡散層、セパレータ、を備える。上記の燃料電池では、アノード極に燃料ガスが提供され、また、カソード極には酸化剤ガスが提供され、電気化学反応が行われる。
【0003】
例えば、特許文献1では、細孔層のガス入口側を親水性領域とした燃料電池が開示されている。この燃料電池により、ガス入口側の乾燥(ドライアップ)が抑制される。
【0004】
ところで、近年、燃料電池の小型化、低コスト化、高性能化に応ずるべく、アノード極及びカソード極のいずれか一方に配置されるガス拡散層を廃したり、その膜厚を減少させたりする燃料電池構造が発案されている(例えば、特許文献2〜4参照)。
【0005】
しかし、例えば、アノード極側の細孔層を親水性にした燃料電池において、アノード極側のガス拡散層を廃すると、燃料電池内の水の排水性が悪くなり易く、フラッディングが引き起こされる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−282620号公報
【特許文献2】特開2010−182483号公報
【特許文献3】特開2009−64615号公報
【特許文献4】特開2008−53064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、燃料電池内で発生するフラッディングを抑制することができる燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電解質膜と前記電解質膜の両側に配置されるアノード極及びカソード極とを備える膜電極接合体と、前記膜電極接合体の両側に配置される細孔層と、前記細孔層の外側に配置される反応ガス流路となる多孔体流路と、を備える燃料電池であって、少なくとも前記アノード極側の細孔層と多孔体流路との間にはガス拡散層が配置されず、前記アノード極側の細孔層と前記多孔体流路とは接しており、前記アノード極側の細孔層は撥水性を有し、前記アノード極側の多孔体流路は親水性を有する。
【0009】
また、前記燃料電池において、前記アノード極側の細孔層のうち、燃料ガス供給における入口側から5/10〜9/10までの領域が撥水性を有し、前記領域以外は親水性を有することが好ましい。
【0010】
また、前記燃料電池において、前記アノード極側の細孔層のうち、前記多孔体流路側の面が撥水性を有し、前記膜電極接合体側の面が親水性を有することが好ましい。
【0011】
また、前記燃料電池において、前記アノード極側の細孔層のうち、撥水性を有する細孔層は撥水性導電性粉末と撥水性樹脂とを含むことが好ましい。
【0012】
また、前記燃料電池において、前記アノード極側の細孔層のうち、親水性を有する細孔層は撥水性又は親水性導電性粉末と親水性樹脂とを含むことが好ましい。
【0013】
また、前記燃料電池において、前記細孔層の平均細孔径は10μm以下であることが好ましい。
【0014】
また、前記燃料電池において、前記アノード極側の細孔層は、撥水性を有する細孔層用ペーストと、親水性を有する細孔層用ペーストを前記多孔体流路上に順次塗布することにより形成されることが好ましい。
【0015】
また、前記燃料電池において、前記アノード極側の細孔層は、親水性を有する細孔層シートを前記膜電極接合体側に載置し、撥水性を有する細孔層シートを前記多孔体流路層側に載置することにより形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、燃料電池内で発生するフラッディングを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る燃料電池の構成の一例を示す模式断面図である。
【図2】本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。
【図3】本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。
【図4】参考例の燃料電池の構成を示す模式断面図である。
【図5】図1,3,4の燃料電池における電流密度と電池電圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について以下説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る燃料電池の構成の一例を示す模式断面図である。図1に示すように、燃料電池1は、電解質膜10と電解質膜10の両側に設けられるアノード極12及びカソード極14とを備える膜電極接合体16、アノード極12及びカソード極14の外側に設けられる細孔層18,20、カソード極14側の細孔層20の外側に設けられるガス拡散層21、アノード極12側の細孔層18の外側及びカソード極14側のガス拡散層21の外側に設けられる多孔体流路層22,24、多孔体流路層22,24の外側に設けられるセパレータ26,28、を備えている。細孔層18,20は、集電層、マイクロポーラスレイヤ(MPL)等とも言われるものである。
【0020】
ここで、図1に示す燃料電池1では、アノード極12側の細孔層18の燃料ガス供給における上流側とカソード極14側の細孔層20の酸化剤ガス供給における下流側とが対向する燃料電池構造になっている。すなわち、図1に示すように、例えば、図の上方から燃料ガスが導入され、図の下方から燃料排ガスが排出されるのに対し、図の下方から酸化剤ガスが導入され、図の上方から酸化剤排ガスが排出されるガス流れとなっている。
【0021】
図1に示すセパレータ26,28は、ガス流路溝が形成されていないフラットタイプ型のセパレータ26,28である。なお、不図示であるが、セパレータ26,28の外周には、燃料ガス入口及び出口、酸化剤ガス入口及び出口が形成され、燃料ガス入口及び出口はアノード極12側の多孔体流路層22と連通し、酸化剤ガス入口及び出口はカソード極14側の多孔体流路層24と連通している。
【0022】
燃料電池1は、細孔層20と多孔体流路層24との間にガス拡散層21が配置された燃料電池構造を示しているが、本実施形態では、少なくともアノード極12側の細孔層18と多孔体流路層22との間にガス拡散層が配置されず、アノード極12側の細孔層18と多孔体流路層22とが接していれば、カソード極14側も同様に、細孔層20と多孔体流路層24との間にガス拡散層が配置されない燃料電池であってもよい。
【0023】
本実施形態で用いられるアノード極12側の細孔層18は撥水性を有し、多孔体流路層22は親水性を有するものである。ここで、親水性を有するとは、液滴法を利用した接触角測定装置を用いて測定した水の接触角が70度以下であることを言い、撥水性を有するとは、液滴法を利用した接触角測定装置を用いて測定した水の接触角が70度超であることを言う。なお、親水化処理、撥水化処理については後述する。
【0024】
次に、本実施形態の燃料電池1の動作について説明する。
【0025】
まず、水素ガス等の燃料ガスが、アノード極12側のセパレータ26の燃料ガス入口から多孔体流路層22に供給される。燃料ガスは、多孔体流路層22を流動しつつ、細孔層18を透過してアノード極12に到達する。アノード極12に到達した燃料ガス中の水素は、プロトンと電子とに分離される。プロトンは、電解質膜10を伝導し、カソード極14に到達する。電子は、アノード極12側の細孔層18により集められ、多孔体流路層22を介してセパレータ26へと伝達し、不図示の外部回路を通って、カソード極14側のセパレータ28、多孔体流路層24、ガス拡散層21、細孔層20を介してカソード極14へ到達する。
【0026】
一方、空気等の酸化剤ガスは、カソード極14側のセパレータ28の酸化剤ガス入口から多孔体流路層24に供給される。酸化剤ガスは、多孔体流路層24を流動しつつ、ガス拡散層21、細孔層20を透過してカソード極14に到達する。カソード極14においては、酸化剤ガス中の酸素とプロトンと電子とが反応して水が発生するとともに電力が発生する。以上の動作によって、燃料電池1は発電を行う。
【0027】
発電に伴ってカソード極14で生成される生成水(又は水蒸気)は、酸化剤排ガスと共に、細孔層20、ガス拡散層21、多孔体流路層24を通って、主に、セパレータ28の酸化剤ガス出口から排出される。また、発電に伴ってカソード極14で生成される生成水(水蒸気)は、電解質膜10を透過してアノード極12側に移動し、燃料排ガスと共に、細孔層18、多孔体流路層22を通って、主に、セパレータ26の燃料ガス出口から排出される。
【0028】
ここで、燃料電池内で発生するフラッディングについて考える。
【0029】
通常、燃料電池のアノード極側にガス拡散層が設置されていない場合(カソード極側にはガス拡散層が設置されている)、カソード極側でフラッディングが発生し易くなる。特に、アノード極側の細孔層が親水性を有する場合に顕著となる。これは、アノード極側の多孔体流路層内で凝縮する液水等が親水性のアノード極側の細孔層に浸透することにより、アノード極とカソード極との間の水分濃度勾配が小さくなり、カソード極側で生成される水が、電解質膜を透過してアノード極側へ移動し難くなるため、カソード極側で多くの水が滞留し、フラッディングが発生するからである。そして、フラッディングの発生によって、燃料電池の電圧低下等が起こり、燃料電池の発電性能の低下を引き起こすことになる。
【0030】
しかし、本実施形態の燃料電池1のように、アノード極12側の細孔層18を撥水性にし、多孔体流路層22を親水性にすることにより、多孔体流路層22内で凝縮した水が、撥水性の細孔層18側へ浸透することを抑制することができる。これにより、カソード極14側とアノード極12側との水の濃度差を大きくして、カソード極14からアノード極12への水の移動を促進させることができる。その結果、カソード極14側で生成した水は、電解質膜10を介してアノード極12側へ移動し易くなり、燃料電池1内のフラッディングの発生を抑制することができる。
【0031】
さらに、本実施形態では、カソード極14側の多孔体流路層24を親水性にし、(カソード極14側にガス拡散層21が設置される場合には)ガス拡散層21を撥水性にすることにより、カソード極14側での水の滞留を抑制し、より効果的にフラッディングの発生を抑制することができる。
【0032】
次に、燃料電池1の各部材の詳細について説明する。
【0033】
セパレータ26,28は、ガス流路溝が形成されていないフラットタイプ型のセパレータである。セパレータ26,28は、ガス不透過性であって、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではないが、例えば、ステンレス鋼、チタン合金、アルミニウム合金等に代表される金属、カーボン、導電性樹脂等が挙げられる。
【0034】
多孔体流路層22,24は、導電性多孔体から構成されるものであり、主に、多孔体流路層22,24に供給される反応ガスを電極の面全体に供給するガス流路としての機能、及び反応ガスを拡散させるガス拡散層としての機能を有する。本実施形態に用いられる多孔体流路層22,24は、例えば、ステンレス鋼やチタン、或いはチタン合金などの発泡焼結金属や、多数の細孔を備えたエキスパンドメタル等が挙げられる。また、多孔体流路層22,24は、導電性粉末、バインダー、メタノールやエタノール等の揮発性溶媒を混合した多孔体用のペーストをセパレータ26,28上に塗布することにより形成されるものであってもよい。導電性粉末は、例えば、カーボン材料、Au、Pt、Pd等の貴金属、Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cr、Ag、Cu、Zn、Su等の金属、Si、およびこれらの窒化物、炭化物、炭窒化物等、さらにステンレス、Cu−Cr、Ni−Cr、Ti−Pt等の合金等を挙げることができる。塗布方法は、スプレー、スクリーン印刷、アプリケータ、インクジェット等がある。
【0035】
多孔体流路層22,24の親水化処理は、多孔体流路層22,24に、例えば、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、レーザー処理、電子線による処理、イオン注入法による処理、イオンビームによる処理、イオン照射による処理、アルカリ水溶液等に浸漬させる溶剤処理等を施すことにより行われる。或いは、前述の多孔体用のペーストを用いる場合には、多孔体用のペーストに、SiO2、Al23、TiO2、ゼオライト等の親水性導電性粒子又はカーボン等の撥水性導電性粒子と、ポリアクリル酸等の親水性樹脂とを添加して、親水化させた多孔体用のペーストを用いることにより、多孔体流路層を親水化させてもよい。なお、多孔体用のペーストに親水性導電性粒子又は撥水性導電性粒子を添加する場合には、前述の導電性粉末は添加しなくてもよい。
【0036】
本実施形態に用いられる細孔層18,20は、ガス透過性及び導電性を有する材料から構成され、集電層、マイクロポーラスレイヤー(MPL)等とも言う。細孔層18,20は、主に、各極と電子の授受を行う集電機能を有する。また、細孔層18,20は、多孔体流路層(22,24等)やガス拡散層21と同様に、ガス透過性であるが、細孔層18,20は、ガス拡散層等より平均細孔径の小さい層であることが望ましく、10μm以下の平均細孔径を有する層であることが望ましい。
【0037】
細孔層18,20は、例えば、導電性粒子からなる層であり、導電性粒子と、メタノール、エタノール等の分散溶媒と、を混合した細孔層用のペーストを多孔体流路層(22,24等)等に塗布することにより形成される。塗布方法は、スプレー、スクリーン印刷、アプリケータ、インクジェット等がある。細孔層18,20を構成する導電性粒子としては、例えば、カーボン材料、Au、Pt、Pd等の貴金属、Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cr、Ag、Cu、Zn、Su等の金属、Si、およびこれらの窒化物、炭化物、炭窒化物等、さらにステンレス、Cu−Cr、Ni−Cr、Ti−Pt等の合金等を挙げることができる。
【0038】
細孔層18の撥水化処理は、例えば、細孔層用のペーストに、カーボン等の撥水性導電性粒子と撥水性樹脂を添加し、撥水化した細孔層用のペーストを用いる方法が挙げられる。細孔層用のペーストに撥水性導電性粒子を添加する場合、前述の導電性粒子を添加しなくてもよい。撥水性樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と言う。)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などのフッ素樹脂等が挙げられる。
【0039】
本実施形態では、カソード極14側の多孔体流路層24と細孔層20との間にはガス拡散層21を設置してもよい。ガス拡散層21は、主に反応ガスを拡散させる機能を有し、ガス拡散性及び導電性を有する材料から構成される。ガス拡散層21は、細孔層18,20より平均細孔径の大きい層であることが望ましく、例えば、100μmオーダーの平均細孔径を有する層であることが望ましい。
【0040】
ガス拡散層21としては、例えば、ガス拡散性の点から無機導電性繊維であって、特に炭素繊維が好ましい。無機導電性繊維を用いたガス拡散層としては、織布あるいは不織布いずれの構造のものも使用することができ、カーボンペーパーやカーボンクロスなどを挙げることができる。織布としては、平織、紋織、綴織など、特に限定されるものではなく、不織布としては、抄紙法、ウォータージェットパンチ法によるものなどが挙げられる。
【0041】
本実施形態の膜電極接合体16を構成する電解質膜10は、プロトン電導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材料から構成されている。膜電極接合体16を構成するアノード極12は、燃料の酸化を促進する触媒を備え、該触媒上で燃料が酸化反応を起こすことにより、プロトンと電子を生成する。また、膜電極接合体16を構成するカソード極14は、酸化剤の還元を促進する触媒を備え、該触媒上で酸化剤がプロトンと電子を取り込み、還元反応が起きる。
【0042】
膜電極接合体16を構成する電解質膜10は、プロトン電導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材料であれば特に限定されないが、例えば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成される。
【0043】
また、アノード極12及びカソード極14は、例えば、触媒が担持された導電性担体(粒子状のカーボン担体など)と、電解質と、分散溶媒(有機溶媒)と、を混合して触媒溶液(触媒インク)を電解質膜10等の基材に塗布することにより形成される。ここで、触媒溶液を形成する電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質等を挙げることができる。なお、市販素材としては、ナフィオン(登録商標)(Nafion、デュポン社製)やフレミオン(登録商標)(Flemion、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類等の溶媒を挙げることができる。
【0044】
触媒が担持される導電性担体としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができる。触媒(金属触媒)としては、例えば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどを挙げることができ、白金または白金合金を使用するのが好ましい。
【0045】
図2は、本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。図2の燃料電池2において、図1の燃料電池1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。図2に示す燃料電池2において、アノード極12側に設置される細孔層18は、燃料ガス供給における入口側から5/10〜9/10までの領域が撥水性を有し、それ以外の領域が親水性を有している。燃料ガス供給における入口側から5/10〜9/10までの領域とは、燃料ガス供給における入口側から燃料ガス流路長の50%〜90%までの領域であり、本明細書では上流領域18aとする。また、それ以外の領域を本明細書では、下流領域18bとする。燃料ガス流路長は、燃料ガス入口から燃料ガス出口までの長さであり、多孔体流路層の面方向の長さとなる。
【0046】
前述したように、アノード極12側の細孔層18のうち、燃料ガス供給における下流領域18bを親水性にすることにより、膜電極接合体16を介して対向する酸化剤ガス供給における上流側のカソード極14に水が留まり易くなる。そして、このような状態にすることにより、燃料電池2の高温運転性能を向上させることが可能となる。また、アノード極12側の細孔層18のうち、燃料ガス供給における上流領域18aは撥水性であるため、前述したように、膜電極接合体16を介して対向する酸化剤ガス供給における下流側のカソード極14側から多くの水が排出され易くなり、フラッディングの発生を抑制することができる。
【0047】
本実施形態の細孔層18のうち燃料ガス供給における上流領域18aは、撥水性導電性粒子と撥水性樹脂を添加し、撥水化した細孔層用のペーストを多孔体流路層22上に塗布することにより形成され、細孔層18のうち燃料ガス供給における下流領域18bは、親水性導電性粒子又は撥水性導電性粒子と、親水性樹脂とを添加し、親水化した細孔層用のペーストを多孔体流路層22上に塗布することにより形成される。
【0048】
図3は、本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。図3に示す燃料電池3において、図1に示す燃料電池1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0049】
図3に示す燃料電池において、アノード極12側の細孔層30は、多孔体流路層22側の面が撥水性を有し、膜電極接合体16側の面が親水性を有する構造になっている。より具体的には、アノード極12側の細孔層30は、多孔体流路層22側から膜電極接合体16側に向かって、撥水性を有する細孔層30aと親水性を有する細孔層30bが順次積層された2層構造を有している。なお、カソード極14側の細孔層20及び多孔体流路層24は親水性を有するものであるが、本実施形態においては特に制限されるものではない。
【0050】
本実施形態の細孔層30の形成方法について説明する。まず、撥水性導電性粒子と撥水性樹脂を添加し、撥水化した細孔層用のペーストを多孔体流路層22上に塗布し、撥水性を有する細孔層30aを形成する。その後、親水性導電性粒子又は撥水性導電性粒子と、親水性樹脂とを添加し、親水化した細孔層用のペーストを、撥水性を有する細孔層30a上に塗布することにより、親水性を有する細孔層30bを形成し、2層構造の細孔層30を形成する。また、撥水性導電性粒子と撥水性樹脂を添加し、撥水化した細孔層用のペーストを用いて撥水性を有する細孔層シート(30a)を作成し、親水性導電性粒子又は撥水性導電性粒子と、親水性樹脂とを添加し、親水化した細孔層用のペーストを用いて親水性を有する細孔層シート(30b)を作成した後、撥水性を有する細孔層シート(30a)を多孔体流路層22に接着し、撥水性を有する細孔層シート(30a)上に親水性を有する細孔層シート(30b)を接着して、2層構造の細孔層30を形成する等でもよい。
【0051】
図3の燃料電池3内の水の移動について説明する。まず、多孔体流路層22側の細孔層30aを撥水性にすることにより、温度の低いセパレータ26に隣接する多孔体流路層22内で凝縮した水が、撥水性を有する細孔層30a側へ浸透することが抑制される(図3の矢印A)。これにより、カソード極14側とアノード極12側との水の濃度差を大きくして、カソード極14からアノード極12への水の移動を促進させることができる(図3の矢印B)。その結果、カソード極14側で生成した水は、電解質膜10を介してアノード極12側へ移動し易くなるため、特に、水分の多いカソード極14の下流側(ガス出口側)の水の滞留を抑制することができるため、燃料電池3内のフラッディングの発生を抑制することができる。また、膜電極接合体16側の細孔層30bを親水性にすることにより、アノード極12の保水性を高めることができる。これにより、乾燥しやすいアノード極12の下流側での乾燥を抑制し、ひいてはアノード極12の下流側から、対向するカソード極14の上流側へと電解質膜10を介して水が移動するため(図3の矢印C)、カソード極14の上流側の乾燥を抑制することができる。その結果、燃料電池3内のドライアップの発生を抑制することができる。
【0052】
図4は、参考例の燃料電池の構成を示す模式断面図である。図4に示す燃料電池4において、図3に示す燃料電池3と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。図4に示す燃料電池4では、アノード極12側の細孔層32は親水性を有するものであり、1層構造である。なお、図3の燃料電池3と同様に、図4の燃料電池4のアノード極12側の多孔体流路層22、カソード極14側の細孔層20及び多孔体流路層24は親水性である。
【0053】
図4の燃料電池4内の水の移動について説明する。親水性を有する細孔層32の1層構造では、温度の低いセパレータ26に隣接する多孔体流路層22内で凝縮した水が、親水性を有する細孔層32側へ浸透し易くなっている(図4の矢印A)。これにより、カソード極14側とアノード極12側との水の濃度差が小さくなるため、カソード極14からアノード極12への水の移動量が減少する(図4の矢印B)。その結果、カソード極14側で生成した水は、電解質膜10を介してアノード極12側へ移動し難くなるため、特に、水分の多いカソード極14の下流側(ガス出口側)で水が滞留し易くなるため、燃料電池4内でフラッディングが発生する虞がある。なお、親水性を有する細孔層32により、アノード極12の保水性を高めることができる。これにより、乾燥しやすいアノード極12の下流側での乾燥を抑制し、ひいてはアノード極12の下流側から、対向するカソード極14の上流側へと電解質膜10を介して水が移動するため(図4の矢印C)、カソード極14の上流側の乾燥を抑制することができる。その結果、燃料電池4内のドライアップの発生を抑制することができる。
【0054】
なお、図1の燃料電池1内の水の移動については、前述したように、アノード極12側の細孔層18を撥水性にし、多孔体流路層22を親水性にすることにより、温度の低いセパレータ26に隣接する多孔体流路層22内で凝縮した水が、親水性を有する細孔層18側へ浸透することが抑制される(図1の矢印A)。これにより、カソード極14側とアノード極12側との水の濃度差を大きくして、カソード極14からアノード極12への水の移動を促進させることができる。その結果、カソード極14側で生成した水は、電解質膜10を介してアノード極12側へ移動し易くなり(図1の矢印B)、燃料電池1内のフラッディングの発生を抑制することができる。なお、撥水性を有する細孔層18により、アノード極12の保水性は低下するため、乾燥しやすいアノード極12の下流側での乾燥が促進され、ひいてはアノード極12の下流側から、対向するカソード極14の上流側へと電解質膜10を介して水が移動し難くなるため(図1の矢印C)、カソード極14の上流側が乾燥し易く、燃料電池1内でドライアップが発生する虞がある。
【0055】
図5は、図1,3,4の燃料電池における電流密度と電池電圧との関係を示す図である。図5に示すように、親水性の細孔層32(1層構造)を有する図4の燃料電池4は、電流密度が低い状態で、前述したようにフラッディングが発生し易い状態となり易く、電圧低下が起こる。これに対し、撥水性の細孔層18(1層構造)を有する燃料電池1、及び多孔体流路層22側の面が撥水性であり、膜電極接合体16側の面が親水性である細孔層30を有する図3の燃料電池3は、電流密度が低い状態でも、前述したようにフラッディングの発生を抑制することができるため、図4に示す燃料電池4より、低電流密度での電圧低下を抑えることができる。また、図5に示すように、撥水性の細孔層18(1層構造)を有する図1の燃料電池1は、電流密度が高い状態で、前述したようにドライアップ(乾燥)状態となり易く、電圧低下が起こる。これに対し、多孔体流路層22側の面が撥水性であり、膜電極接合体16側の面が親水性である細孔層30を有する図3の燃料電池3は、電流密度が高い状態でも、前述したようにドライアップの発生を抑制することができるため、図1に示す燃料電池1より、高電流密度での電圧低下を抑えることができる。
【0056】
以上のように、アノード極側に撥水性の細孔層(1層構造)を有する燃料電池、及び多孔体流路層側の面が撥水性であり、膜電極接合体側の面が親水性である細孔層を有する燃料電池はいずれも、燃料電池内で発生するフラッディングの発生を抑制することができる。特に、多孔体流路層側の面が撥水性であり、膜電極接合体側の面が親水性である細孔層を有する燃料電池は、燃料電池内で発生するドライアップの発生も抑制することができるため、広範囲の電流密度で安定して発電することが可能となる。
【0057】
本実施形態の燃料電池は、例えば、携帯電話、携帯用パソコン等のモバイル機器用小型電源、自動車用電源、家庭用電源等として好適に使用することができるが、これらに制限されるものではない。
【符号の説明】
【0058】
1〜4 燃料電池、10 電解質膜、12 アノード極、14 カソード極、16 膜電極接合体、18,20,30,30a,30b,32 細孔層、18a 上流領域、18b 下流領域、21 ガス拡散層、22,24 多孔体流路層、26,28 セパレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と前記電解質膜の両側に配置されるアノード極及びカソード極とを備える膜電極接合体と、前記膜電極接合体の両側に配置される細孔層と、前記細孔層の外側に配置される反応ガス流路となる多孔体流路と、を備える燃料電池であって、
少なくとも前記アノード極側の細孔層と多孔体流路との間にはガス拡散層が配置されず、前記アノード極側の細孔層と前記多孔体流路とは接しており、
前記アノード極側の細孔層は撥水性を有し、前記アノード極側の多孔体流路は親水性を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記アノード極側の細孔層のうち、燃料ガス供給における入口側から5/10〜9/10までの領域が撥水性を有し、前記領域以外は親水性を有することを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記アノード極側の細孔層のうち、前記多孔体流路側の面が撥水性を有し、前記膜電極接合体側の面が親水性を有することを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項4】
前記アノード極側の細孔層のうち、撥水性を有する細孔層は撥水性導電性粉末と撥水性樹脂とを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記アノード極側の細孔層のうち、親水性を有する細孔層は撥水性又は親水性導電性粉末と親水性樹脂とを含むことを特徴とする請求項2又は3記載の燃料電池。
【請求項6】
前記細孔層の平均細孔径は10μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記アノード極側の細孔層は、撥水性を有する細孔層用ペーストと、親水性を有する細孔層用ペーストを前記多孔体流路上に順次塗布することにより形成されることを特徴とする請求項3記載の燃料電池。
【請求項8】
前記アノード極側の細孔層は、親水性を有する細孔層シートを前記膜電極接合体側に載置し、撥水性を有する細孔層シートを前記多孔体流路層側に載置することにより形成されることを特徴とする請求項3記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−248341(P2012−248341A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117434(P2011−117434)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】