説明

燃料電池

【課題】簡単な構成で、ガス拡散層と固体高分子電解質膜との接触を確実に阻止することができ、前記固体高分子電解質膜を有効に保護することを可能にする。
【解決手段】燃料電池10は、電解質膜・電極構造体12とアノード側セパレータ14及びカソード側セパレータ16とを有する。電解質膜・電極構造体12は、固体高分子電解質膜38の両側に、前記固体高分子電解質膜38よりも小さな表面積を有するアノード電極40及びカソード電極42を設ける。アノード電極40では、電極触媒層40aとガス拡散層40bとの間に、発電面全面に亘って多孔質シート層44aが配置される一方、カソード電極42では、電極触媒層42aとガス拡散層42bとの間に、発電面全面に亘って多孔質シート層44bが配置される。多孔質シート層44a、44bは、ガス拡散層40b、42bの外周端部で折り返して前記外周端部を覆う折り返し部44aa、44bbを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質膜の両側にそれぞれ電極触媒層及びガス拡散層を有する電極が設けられた電解質膜・電極構造体と、セパレータとが積層される燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる固体高分子電解質膜を採用している。この燃料電池は、固体高分子電解質膜の両側に、それぞれ電極触媒(電極触媒層)と多孔質カーボン(ガス拡散層)からなるアノード電極とカソード電極とを配設した電解質膜・電極構造体(MEA)を、セパレータ(バイポーラ板)によって挟持する発電セルを構成している。通常、燃料電池では、発電セルを所定の数だけ積層した燃料電池スタックが、例えば、車載用燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
一般的に、電解質膜・電極構造体では、アノード電極及びカソード電極が固体高分子電解質膜よりも小さな表面積を有しており、前記固体高分子電解質膜の外周縁部が前記アノード電極及び前記カソード電極の外周から外部に露呈している。このため、電解質膜・電極構造体の製造時において、固体高分子電解質膜にガス拡散層を熱圧着する際、前記ガス拡散層を構成する繊維が前記固体高分子電解質膜に突き刺さるという問題がある。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている燃料電池セルが知られている。この燃料電池セルでは、図7に示すように、電解質膜1と、カソード側の触媒層2a及びアノード側の触媒層3aとから形成される膜電極接合体4が、カソード側のガス拡散層2b及びアノード側のガス拡散層3bにより挟持されている。触媒層2a、3aは、電解質膜1に比してそれらの面積が狭小であるため、前記電解質膜1の外周縁部には、前記触媒層2a、3aが存在しない露出領域1aが形成されている。
【0005】
さらに、膜電極接合体4の両側に配されるガス拡散層2b、3bの端部には、触媒層2a、3aの周縁となる箇所に窪み5a、5bが形成されている。窪み5a、5bと露出領域1aとで画成される凹溝には、触媒層2a、3aから前記露出領域1aに亘って樹脂材6a、6bが収容されている。このため、ガス拡散層2b、3bから突出する毛羽が、電解質膜1に突き刺さるのを防護する、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−146300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の燃料電池では、触媒層2a、3aの周縁となる箇所に窪み5a、5bを形成しなければならず、前記窪み5a、5bの加工作業が相当に煩雑化するとともに、製造費が高騰するという問題がある。
【0008】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、簡単な構成で、ガス拡散層と固体高分子電解質膜との接触を確実に阻止することができ、前記固体高分子電解質膜を有効に保護することが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、固体高分子電解質膜の両側に、それぞれ電極触媒層及びガス拡散層を有する電極が設けられた電解質膜・電極構造体と、セパレータとが積層される燃料電池に関するものである。
【0010】
この燃料電池では、少なくとも一方の電極は、固体高分子電解質膜よりも小さな表面積に設定されるとともに、一方の前記電極を構成する電極触媒層とガス拡散層との間には、発電面全面に亘って多孔質シート層が配置されている。そして、多孔質シート層は、ガス拡散層の外周端部で折り返して前記外周端部を覆う折り返し部を設けている。
【0011】
また、この燃料電池では、多孔質シート層の折り返し部位には、外周端部を覆う断面コ字状部が設けられるとともに、前記断面コ字状部は、ガス不透過処理が施されたガス不透過部を構成することが好ましい。
【0012】
さらに、この燃料電池では、ガス不透過部は、断面コ字状部にプレス処理又は樹脂含浸処理を施すことにより形成されることが好ましい。
【0013】
さらにまた、この燃料電池では、ガス拡散層の外周には、額縁状のガス不透過シートが配設されることが好ましい。
【0014】
また、ガス不透過部の内周と電極触媒層の外周とには、積層方向に重なり部が設けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電極触媒層とガス拡散層との間には、発電面全面に亘って多孔質シート層が配置されるとともに、前記多孔質シート層は、前記ガス拡散層の外周端部で折り返して前記外周端部を覆う折り返し部を設けている。このため、簡単な構成で、ガス拡散層と固体高分子電解質膜とが接触することを可及的に阻止することができる。従って、ガス拡散層を構成する繊維が、固体高分子電解質膜に突き刺さることがなく、前記固体高分子電解質膜を良好に保護することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池の要部分解斜視図である。
【図2】前記燃料電池の、図1中、II−II線断面図である。
【図3】前記燃料電池を構成する電解質膜・電極構造体の分解斜視説明図である。
【図4】前記電解質膜・電極構造体の製造方法を説明する分解断面図である。
【図5】前記電解質膜・電極構造体の製造工程の説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池の要部断面説明図である。
【図7】特許文献1に開示されている燃料電池セルの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池10は、電解質膜・電極構造体12がアノード側セパレータ14及びカソード側セパレータ16間に挟持されて、立位姿勢で矢印A方向(例えば、水平方向)に積層される。複数の燃料電池10が矢印A方向に積層されることにより、例えば、車載用燃料電池スタックが構成される。なお、アノード側セパレータ14及びカソード側セパレータ16としては、例えば、カーボンセパレータが使用されるが、これに代えて金属セパレータを用いてもよい。
【0018】
燃料電池10は、横長形状を有し、矢印B方向(水平方向)の一端縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給するための酸化剤ガス入口連通孔18a、及び燃料ガス、例えば、水素含有ガスを排出するための燃料ガス出口連通孔20bが、矢印C方向(鉛直方向)に配列して設けられる。
【0019】
燃料電池10の矢印B方向の他端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを供給するための燃料ガス入口連通孔20a、及び酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口連通孔18bが、矢印C方向に配列して設けられる。
【0020】
燃料電池10の矢印C方向の一端縁部(上端縁部)には、冷却媒体を供給するための冷却媒体入口連通孔22aが設けられるとともに、前記燃料電池10の矢印C方向の他端縁部(下端縁部)には、冷却媒体を排出するための冷却媒体出口連通孔22bが設けられる。
【0021】
アノード側セパレータ14の電解質膜・電極構造体12に向かう面14aには、燃料ガス入口連通孔20aと燃料ガス出口連通孔20bとに連通する燃料ガス流路24が、矢印B方向に延在して設けられる。燃料ガス流路24の入口側には、複数の突起部を有する入口バッファ部24aが設けられる一方、前記燃料ガス流路24の出口側には、複数の突起部を有する出口バッファ部24bが設けられる。
【0022】
燃料ガス入口連通孔20aと入口バッファ部24aとの間には、複数本の入口連結流路26aを蓋体27aで覆ったブリッジ部28aが形成される。燃料ガス出口連通孔20bと出口バッファ部24bとの間には、複数本の出口連結流路26bを蓋体27bで覆ったブリッジ部28bが形成される。
【0023】
カソード側セパレータ16の電解質膜・電極構造体12に向かう面16aには、酸化剤ガス入口連通孔18aと酸化剤ガス出口連通孔18bとに連通する酸化剤ガス流路30が設けられる。酸化剤ガス流路30は、燃料ガス流路24と同様に構成されており、その詳細な説明は省略する。アノード側セパレータ14とカソード側セパレータ16とは、互いに対向する面14b、16b同士の間に冷却媒体流路32を一体的に形成する。
【0024】
アノード側セパレータ14の面14a、14bには、このアノード側セパレータ14の外周縁部を周回して第1シール部材34が一体的又は個別に設けられる。カソード側セパレータ16の面16a、16bには、このカソード側セパレータ16の外周縁部を周回して第2シール部材36が一体的又は個別に設けられる。第1シール部材34は、燃料ガス流路24、入口バッファ部24a及び出口バッファ部24bを含む燃料ガス領域を囲繞する流路シール部34aを有する。第2シール部材36は、酸化剤ガス流路30、入口バッファ部(図示せず)及び出口バッファ部(図示せず)を含む酸化剤ガス領域を囲繞する流路シール部36aを有する。
【0025】
第1シール部材34及び第2シール部材36は、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコンゴム、フロロシリコンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン、又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材を使用する。
【0026】
電解質膜・電極構造体12は、横長形状を有するとともに、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜38と、前記固体高分子電解質膜38を挟持するアノード電極40及びカソード電極42とを備える。固体高分子電解質膜38の外形寸法は、アノード電極40及びカソード電極42の外形寸法よりも大きく設定される。なお、アノード電極40又はカソード電極42の一方のみが、固体高分子電解質膜38よりも小さな外形寸法に設定され、他方が前記固体高分子電解質膜38と同一の外形寸法に設定されてもよい。
【0027】
固体高分子電解質膜38は、フッ素系電解質の他、HC(炭化水素)系電解質が使用される。固体高分子電解質膜38は、例えば、主鎖がポリフェニレン構造であり、スルホン酸基を有する側鎖を有する構造でもよい。
【0028】
図2に示すように、アノード電極40及びカソード電極42は、後述するように、白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子を固体高分子電解質膜38の表面に一様に塗布して形成される電極触媒層40a、42aと、カーボンペーパ等からなるガス拡散層40b、42bとを有する。
【0029】
ガス拡散層40b、42bは、多孔質シート層44a、44bを介して電極触媒層40a、42aに積層される。多孔質シート層44a、44bは、電子伝導性物質と撥水性樹脂とを含み、導電性を有している。電子伝導性物質としては、例えば、カーボン繊維やカーボンナノチューブ等のカーボン粉末(カーボンブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック)が単独又は2種以上混合して使用されるとともに、撥水性樹脂としては、結晶性フッ素樹脂、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PVF(ポリフッ化ビニル)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、非晶質フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン及びシリコーン樹脂等の少なくとも1種を含有している。なお、これらに限定されるものではない。
【0030】
多孔質シート層44a、44bは、独立したシート形状の状態で、ガス拡散層40b、42bの外周端部で折り返して前記外周端部を覆う折り返し部44aa、44bbを設ける。折り返し部44aa、44bbには、ガス拡散層40b、42bの外周端部を覆う断面コ字状部45a、45bが設けられるとともに、前記断面コ字状部45a、45bは、ガス不透過処理が施されてガス不透過部を構成する。
【0031】
ガス不透過部は、例えば、断面コ字状部45a、45bにプレス処理又は樹脂材の含浸処理を施すことにより形成される。なお、断面コ字状部45a、45bは、各角部をR形状に湾曲させることが好ましい。また、断面コ字状部45a、45bは、組み付け時に積層方向に押圧されることにより、ガス拡散層40b、42bの外面と同一面上に配置され、全体として平坦面を構成する。固体高分子電解質膜38は、多孔質シート層44a、44bの外方まで延在しており、両極間で反応ガス(燃料ガスと酸化剤ガス)の混合を確実に阻止することができる。
【0032】
ガス拡散層40b、42bの外周には、額縁状のガス不透過シート46a、46bが配設される。ガス不透過シート46a、46bの表面位置は、ガス拡散層40b、42bの表面位置と同一位置に配置され、全体として段差のない略同一平面を形成する。第1シール部材34の流路シール部34aは、ガス拡散層40bの外周端を巻き込んで配置される断面コ字状部45aに配置される。第2シール部材36の流路シール部36aは、ガス拡散層42bの外周端を巻き込んで配置される断面コ字状部45bに配置される。なお、ガス不透過シート46a、46bは、例えば、PEN(ポリエチレンナフタレート)製のフィルム等で構成される。
【0033】
電極触媒層40a及びガス拡散層40bは、燃料ガス流路24、入口バッファ部24a及び出口バッファ部24bを含む燃料ガス領域よりも広い領域に設けられる。電極触媒層42a及びガス拡散層42bは、酸化剤ガス流路30、入口バッファ部(図示せず)及び出口バッファ部(図示せず)を含む酸化剤ガス領域よりも広い領域に設けられる。
【0034】
次いで、電解質膜・電極構造体12を製造する方法について、以下に説明する。
【0035】
先ず、図3及び図4に示すように、固体高分子電解質膜38が長方形状に作製された後、この固体高分子電解質膜38の面38a及び面38bには、電極触媒層40a及び電極触媒層42aが形成される。
【0036】
具体的には、電極触媒層40a及び電極触媒層42aは、例えば、それぞれ白金触媒とイオン伝導性ポリマー溶液とが混合された触媒ペーストを調整し、前記触媒ペーストをPTFEシート上に塗布することにより作製される。さらに、固体高分子電解質膜38の両方の面38a、38bに、電極触媒層40a及び電極触媒層42aの触媒層側が熱圧着された後、PTFEシートが剥離されることにより転写される。
【0037】
一方、多孔質シート層44a、44bが用意される。図5中、(a)に示すように、多孔質シート層44a、44bは、矩形状を有するとともに、各辺には、それぞれ折り返し部44aa、44bbが外方に突出して形成される。多孔質シート層44a、44bの外周部には、折り返し部44aa、44bbを含んで断面コ字状部45a、45bにプレス処理又は樹脂材の含浸処理を施すことにより、ガス不透過部が形成される。なお、上記のプレス処理は、多孔質シート層44a、44bの外周部を、予め他の部位よりも肉厚に構成しておき、前記外周部が前記他の部位と同等の厚さになるまで加圧することにより行ってもよい。
【0038】
次に、図5中、(b)に示すように、多孔質シート層44a、44bとガス拡散層40b、42bとにプレス処理が施され、前記多孔質シート層44a、44bと前記ガス拡散層40b、42bとが一体化される。さらに、図5中、(c)に示すように、多孔質シート層44a、44bの各折り返し部44aa、44bbがガス拡散層40b、42bの外周端部で折り返された後、プレス処理が施される。その際、折り返し部44aa、44bbには、断面コ字状部45a、45bが設けられるとともに、前記断面コ字状部45a、45bは、各角部をR形状に湾曲成形されることが好ましい(図4参照)。
【0039】
そこで、多孔質シート層44a、44bが一体化されたガス拡散層40b、42bは、固体高分子電解質膜38に一体化される。そして、固体高分子電解質膜38の外周縁部には、ガス拡散層40b、42bの外周を周回して額縁状のガス不透過シート46a、46bが被覆される。これにより、電解質膜・電極構造体12が製造される。
【0040】
このように構成される燃料電池10の動作について、以下に説明する。
【0041】
図1に示すように、酸化剤ガス入口連通孔18aに酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス入口連通孔20aに水素含有ガス等の燃料ガスが供給される。さらに、冷却媒体入口連通孔22aに純水やエチレングリコール等の冷却媒体が供給される。
【0042】
酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔18aからカソード側セパレータ16の酸化剤ガス流路30に導入される。酸化剤ガスは、酸化剤ガス流路30に沿って矢印B方向に流通し、電解質膜・電極構造体12のカソード電極42に沿って移動する。
【0043】
一方、燃料ガスは、燃料ガス入口連通孔20aからアノード側セパレータ14の燃料ガス流路24に導入される。この燃料ガス流路24では、燃料ガスが矢印B方向に流通することにより、電解質膜・電極構造体12のアノード電極40に沿って移動する。
【0044】
従って、電解質膜・電極構造体12では、カソード電極42に供給される酸化剤ガスと、アノード電極40に供給される燃料ガスとが、電極触媒層42a、40a内で電気化学反応により消費され、発電が行われる。
【0045】
次いで、カソード電極42に供給されて消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス出口連通孔18bに排出される。同様に、アノード電極40に供給されて消費された燃料ガスは、燃料ガス出口連通孔20bに排出される。
【0046】
一方、冷却媒体入口連通孔22aに供給された冷却媒体は、アノード側セパレータ14及びカソード側セパレータ16間に形成された冷却媒体流路32に導入される。この冷却媒体流路32では、冷却媒体が重力方向(矢印C方向)に移動する。従って、冷却媒体は、電解質膜・電極構造体12の発電面全面にわたって冷却した後、冷却媒体出口連通孔22bに排出される。
【0047】
この場合、第1の実施形態では、図2に示すように、電極触媒層40a、42aとガス拡散層40b、42bとの間には、発電面全面に亘って多孔質シート層44a、44bが配置されるとともに、前記多孔質シート層44a、44bには、前記ガス拡散層40b、42bの外周端部で折り返して前記外周端部を覆う折り返し部44aa、44bbが設けられている。
【0048】
このため、電解質膜・電極構造体12の製造時において、特にガス拡散層40b、42bを固体高分子電解質膜38に一体化させる際や、燃料電池10の組立時において、前記燃料電池10に締め付け荷重を付与する際に、前記ガス拡散層40b、42bを構成する繊維が前記固体高分子電解質膜38に突き刺さることがない。
【0049】
また、断面コ字状部45a、45bは、各角部をR形状に湾曲させることにより、固体高分子電解質膜38への繊維の突き刺さりを可及的に阻止することができる。従って、固体高分子電解質膜38を良好に保護することができるという効果が得られる。
【0050】
しかも、折り返し部44aa、44bbには、ガス拡散層40b、42bの外周端部を覆う断面コ字状部45a、45bが設けられるとともに、前記断面コ字状部45a、45bには、ガス不透過処理が施されている。特に、断面コ字状部45a、45bは、電極触媒層40a、42aの外周端部に跨っている(図2参照)。これにより、多孔質シート層44a、44bの外周縁部から固体高分子電解質膜38に反応ガス(燃料ガスや酸化剤ガス)が透過することがない。
【0051】
このため、反応ガスが固体高分子電解質膜38を透過してアノード電極40及びカソード電極42間で混在することを確実に抑制することが可能になる。従って、固体高分子電解質膜38等の劣化を有効に抑制することができ、燃料電池10を良好な状態で運転することが可能になる。
【0052】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池50の要部断面説明図である。なお、第1の実施形態に係る燃料電池10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0053】
燃料電池50は、アノード側セパレータ14とカソード側セパレータ16の間に、電解質膜・電極構造体52を挟持する。電解質膜・電極構造体52は、固体高分子電解質膜38をアノード電極54及びカソード電極56により挟持する。アノード電極54を構成する電極触媒層40aL及びガス拡散層40bLは、カソード電極56を構成する電極触媒層42aS及びガス拡散層42bSよりも大きな表面積に設定され、所謂、段差MEAを構成する。なお、上記とは反対に、カソード電極56がアノード電極54よりも外形寸法の大きな段差MEAを構成してもよい。
【0054】
固体高分子電解質膜38の一方の面38a側には、電極触媒層40aL、多孔質シート層44aL、ガス拡散層40bL及びガス不透過シート46aLが設けられる。固体高分子電解質膜38の他方の面38b側には、一方の面38a側の構成要素に比べて寸法の小さな電極触媒層42aS、多孔質シート層44bS、ガス拡散層42bS及びガス不透過シート46bSが設けられる。
【0055】
このように構成される第2の実施形態では、電極触媒層40aL、42aSとガス拡散層40bL、42bSとの間には、発電面全面に亘って多孔質シート層44aL、44bSが配置されるとともに、前記多孔質シート層44aL、44bSには、前記ガス拡散層40bL、42bSの外周端部で折り返して前記外周端部を覆う折り返し部44aa、44bbが設けられている。
【0056】
このため、第2の実施形態では、ガス拡散層40bL、42bSを構成する繊維が固体高分子電解質膜38に突き刺さることがなく、前記固体高分子電解質膜38を良好に保護することができる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0057】
10、50…燃料電池 12、52…電解質膜・電極構造体
14、16…セパレータ 18a…酸化剤ガス入口連通孔
18b…酸化剤ガス出口連通孔 20a…燃料ガス入口連通孔
20b…燃料ガス出口連通孔 22a…冷却媒体入口連通孔
22b…冷却媒体出口連通孔 24…燃料ガス流路
24a…入口バッファ部 24b…出口バッファ部
30…酸化剤ガス流路 32…冷却媒体流路
34、36…シール部材 34a、36a…流路シール部
38…固体高分子電解質膜 40、54…アノード電極
40a、40aL、42a、42aS…電極触媒層
40b、40bL、42b、42bS…ガス拡散層
42、56…カソード電極
44a、44aL、44b、44bS…多孔質シート層
44aa、44bb…折り返し部 45a、45b…断面コ字状部
46a、46aL、46b、46bS…ガス不透過シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜の両側に、それぞれ電極触媒層及びガス拡散層を有する電極が設けられた電解質膜・電極構造体と、セパレータとが積層される燃料電池であって、
少なくとも一方の前記電極は、前記固体高分子電解質膜よりも小さな表面積に設定されるとともに、一方の前記電極を構成する前記電極触媒層と前記ガス拡散層との間には、発電面全面に亘って多孔質シート層が配置され、
前記多孔質シート層は、前記ガス拡散層の外周端部で折り返して前記外周端部を覆う折り返し部を設けることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池において、前記多孔質シート層の前記折り返し部位には、前記外周端部を覆う断面コ字状部が設けられるとともに、
前記断面コ字状部は、ガス不透過処理が施されたガス不透過部を構成することを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池において、前記ガス不透過部は、前記断面コ字状部にプレス処理又は樹脂含浸処理を施すことにより形成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池において、前記ガス拡散層の外周には、額縁状のガス不透過シートが配設されることを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の燃料電池において、前記ガス不透過部の内周と前記電極触媒層の外周とには、積層方向に重なり部が設けられることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−114932(P2013−114932A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260707(P2011−260707)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】