説明

燃料電池

【課題】燃料電池内で発生するフラッディング又はドライアップを抑制することができる燃料電池を提供する。
【解決手段】電解質膜10と電解質膜10の両側に配置されるアノード極12及びカソード極14とを備える膜電極接合体16と、膜電極接合体16の両側に配置される細孔層18,20と、細孔層18,20の外側に配置される反応ガス流路となる多孔体流路層22,24と、を備える燃料電池1であって、少なくともカソード極14側の細孔層20と多孔体流路層24との間にはガス拡散層が配置されず、カソード極14側の細孔層20と多孔体流路層24とは接しており、多孔体流路24は、カソードガス供給における入口側領域24a及び出口側領域24bが、入口側領域24a及び出口側領域24bの間に位置する中央領域24cよりも、ガスに対する圧力損失が低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に燃料電池は、電解質膜と電解質膜の両側に配置されるアノード極及びカソード極とを備える膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)、該膜電極接合体の両側にガス拡散層、多孔体流路層を介して配置される一対のセパレータ、を備える。上記の燃料電池では、アノード極に燃料ガスが提供され、また、カソード極には酸化剤ガスが提供され、電気化学反応が行われる。
【0003】
例えば、特許文献1には、ガス上流側でガス下流側よりもガスに対する圧力損失が低くなる形状を有する多孔体流路層を備える燃料電池が提案されている。このような多孔体流路層を採用することで、ガス上流側のガス拡散層内を流れる反応ガス(主に酸化剤ガス)量を抑え、ガス下流側のガス拡散層内を流れる反応ガス(主に酸化剤ガス)量を増加させることができる。その結果、燃料電池内の水の排水性が悪くなることにより生じるフラッディングや燃料電池内の水の保持性が悪くなることにより生じるドライアップ(乾燥)を抑制することが可能となる。なお、多孔体流路層のガス上流側がガス下流側よりガスに対する圧力損失が低くても、ガス上流側のガス拡散層内を流れる反応ガス量が多ければドライアップが発生しやすく、ガス下流側のガス拡散層内を流れる反応ガス量が少なければフラッディングが発生しやすくなる。
【0004】
ところで、近年、燃料電池の小型化、低コスト化、高性能化に応ずるべく、アノード極及びカソード極のいずれか一方に配置されるガス拡散層を廃したり、その膜厚を減少させたりする燃料電池構造が発案されている(例えば、特許文献2〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−26476号公報
【特許文献2】特開2006−12546号公報
【特許文献3】特開2010−182483号公報
【特許文献4】特開2009−64615号公報
【特許文献5】特開2008−53064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ガス上流側でガス下流側よりもガスに対する圧力損失が低くなる形状を有する多孔体流路層を備える特許文献1の燃料電池において、ガス拡散層を廃した燃料電池構造にすると、反応ガスの流路は多孔体流路層のみとなるため、ガス下流側のガスに対する圧力損失が高くても、膜電極接合体近傍の反応ガス流量は増加せず、フラッディングが発生する虞がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、燃料電池内で発生するフラッディング又はドライアップを抑制することができる燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電解質膜と前記電解質膜の両側に配置されるアノード極及びカソード極とを備える膜電極接合体と、前記膜電極接合体の両側に配置される細孔層と、前記細孔層の外側に配置される反応ガス流路となる多孔体流路と、を備える燃料電池であって、少なくとも前記カソード極側の細孔層と多孔体流路との間にはガス拡散層が配置されず、前記カソード極側の細孔層と前記多孔体流路とは接しており、前記カソード極側の多孔体流路は、カソードガス供給における入口側領域及び出口側領域が、前記入口側領域及び前記出口側領域の間に位置する中央領域よりも、ガスに対する圧力損失が低い。
【0009】
また、前記燃料電池において、前記入口側領域から前記中央領域に向かって、及び前記出口側領域から前記中央領域に向かって、前記多孔体流路の気孔率が段階的又は連続的に低くなっていることが好ましい。
【0010】
また、前記燃料電池において、前記入口側領域から前記中央領域に向かって、及び前記出口側領域から前記中央領域に向かって、前記多孔体流路の厚さが段階的又は連続的に薄くなっていることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、電解質膜と前記電解質膜の両側に配置されるアノード極及びカソード極とを備える膜電極接合体と、前記膜電極接合体の両側に配置される細孔層と、前記細孔層の外側に配置される反応ガス流路となる多孔体流路と、を備える燃料電池であって、少なくとも前記カソード極側の細孔層と多孔体流路との間にはガス拡散層が配置されず、前記カソード極側の細孔層と前記多孔体流路とは接しており、前記カソード極側の多孔体流路は、カソードガス供給における入口側領域が、前記カソードガス供給における出口側領域よりも、ガスに対する圧力損失が高い。
【0012】
また、前記燃料電池において、前記入口側領域から前記出口側領域に向かって、前記多孔体流路の気孔率が段階的又は連続的に高くなっていることが好ましい。
【0013】
また、前記燃料電池において、前記入口側領域から前記出口側領域に向かって、前記多孔体流路の厚さが段階的又は連続的に厚くなっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、燃料電池内で発生するフラッディング又はドライアップを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る燃料電池の構成の一例を示す模式断面図である。
【図2】本実施形態の燃料電池におけるカソード極側の多孔体流路層の位置と圧力との関係を示した図である。
【図3】本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。
【図4】本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。
【図5】本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。
【図6】本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。
【図7】本実施形態の燃料電池におけるカソード極側の多孔体流路層の位置と圧力との関係を示した図である。
【図8】本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。
【図9】本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。
【図10】本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。
【図11】参考例の燃料電池の構成を示す模式断面図である。
【図12】参考例の燃料電池におけるカソード極側の多孔体流路層の位置と圧力との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について以下説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る燃料電池の構成の一例を示す模式断面図である。図1に示すように、燃料電池1は、電解質膜10と電解質膜10の両側に設けられるアノード極12及びカソード極14とを備える膜電極接合体16、アノード極12及びカソード極14の外側に設けられる細孔層18,20、細孔層18,20の外側に設けられる多孔体流路層22,24、多孔体流路層22,24の外側に設けられるセパレータ26,28、を備えている。細孔層18,20は、集電層、マイクロポーラスレイヤ(MPL)等とも言われるものである。
【0018】
図1に示すセパレータ26,28は、ガス流路溝が形成されていないフラットタイプ型のセパレータ26,28である。なお、不図示であるが、セパレータ26,28の外周には、燃料ガス入口及び出口、酸化剤ガス入口及び出口が形成され、燃料ガス入口及び出口はアノード極12側の多孔体流路層22と連通し、酸化剤ガス入口及び出口はカソード極14側の多孔体流路層24と連通している。
【0019】
燃料電池1は、細孔層(18,20)と多孔体流路層(22,24)との間にガス拡散層を配置しない燃料電池構造を示しているが、本実施形態では、カソード極14側の細孔層20と多孔体流路層24との間にガス拡散層が配置されず、カソード極14側の細孔層20と多孔体流路層24とが接していれば、アノード極12側の細孔層18と多孔体流路層22との間にガス拡散層を設置してもよい。
【0020】
本実施形態に用いられるカソード極14側の多孔体流路層24では、カソードガス供給における入口側領域24a(単に入口側領域24aと呼ぶ場合がある)及びカソードガス供給における出口側領域24b(単に出口側領域24bと呼ぶ場合がある)が、入口側領域24aと出口側領域24bとの間に位置する中央領域24cよりも、ガスの圧力損失が低い構造になっている。後述するように、圧力損失の調整は気孔率等で調整することができ、図1に示す多孔体流路層24は、入口側領域24a及び出口側領域24bは気孔率が高く、中央領域24cは気孔率が低い構造となっている。ここで、カソードガス供給における入口側領域24aとは、例えば、酸化剤ガス入口から出口側に向かって、酸化剤ガス流路長の90%未満の領域であり、カソードガス供給における出口側領域24bとは、例えば、酸化剤ガス出口から入口側に向かって、酸化剤ガス流路長の90%未満の領域である。酸化剤ガス流路長は、カソードガス入口からカソードガス出口までの長さであり、多孔体流路層24の面方向の長さである。
【0021】
次に、本実施形態の燃料電池1の動作について説明する。
【0022】
まず、水素ガス等の燃料ガスが、アノード極12側のセパレータ26の燃料ガス入口から多孔体流路層22に供給される。燃料ガスは、多孔体流路層22を流動しつつ、細孔層18を透過してアノード極12に到達する。アノード極12に到達した燃料ガス中の水素は、プロトンと電子とに分離される。プロトンは、電解質膜10を伝導し、カソード極14に到達する。電子は、アノード極12側の細孔層18により集められ、多孔体流路層22を介してセパレータ26へと伝達し、不図示の外部回路を通って、カソード極14側のセパレータ28、多孔体流路層24、細孔層20を介してカソード極14へ到達する。
【0023】
一方、空気等の酸化剤ガスは、カソード極14側のセパレータ28の酸化剤ガス入口から多孔体流路層24に供給される。酸化剤ガスは、多孔体流路層24を流動しつつ、細孔層20を透過してカソード極14に到達する。カソード極14においては、酸化剤ガス中の酸素とプロトンと電子とが反応して水が発生するとともに電力が発生する。以上の動作によって、燃料電池1は発電を行う。
【0024】
発電に伴ってカソード極14で生成される生成水(又は水蒸気)は、酸化剤排ガスと共に、細孔層20、多孔体流路層24を通って、主に、セパレータ28の酸化剤ガス出口から排出される。また、発電に伴ってカソード極14で生成される生成水(水蒸気)は、電解質膜10を透過してアノード極12側に移動し、燃料排ガスと共に、細孔層18、多孔体流路層22を通って、主に、セパレータ26の燃料ガス出口から排出される。
【0025】
ここで、燃料電池1内で発生するドライアップ及びフラッディングについて考える。
【0026】
ドライアップ及びフラッディングを抑制するためには、カソード極14側の多孔体流路層24を流れる酸化剤ガス(以下、空気)の体積流量(圧力を考慮した流量)を制御する必要がある。これは、膜電極接合体16からの水蒸気の蒸発量や排水性が温度一定の場合、膜電極接合体16を流れる空気の体積流量に依存するためである。
【0027】
図11は、参考例の燃料電池の構成を示す模式断面図である。図11の燃料電池9において、カソード極14側の多孔体流路層23は、カソードガス供給における入口側領域23a(単に入口側領域23aと呼ぶ場合がある)がカソードガス供給における出口側領域23b(単に出口側領域23bと呼ぶ場合がある)よりも、ガスの圧力損失が低い構造になっている。その他の構成は図1に示す燃料電池1と同様であり、同一の符号を付している。図12は、参考例の燃料電池におけるカソード極側の多孔体流路層の位置と圧力との関係を示した図である。図12の実線は、入口側領域23aが出口側領域23bよりも、ガスの圧力損失が低い多孔体流路層23を用いた場合であり、破線は均一な気孔率を有する多孔体流路層(すなわちガスの圧力損失が均一である多孔体流路層)を用いた場合である。多孔体流路層23の入口側領域23aのガスの圧力損失を低くし、出口側領域23bのガスの圧力損失を高くすることによって、図12に示すように、均一な気孔率を有する多孔体流路層よりも、入口側領域23aの圧力を高く維持することができる。したがって、その場における空気の体積流量を下げることができるため、水蒸気の蒸発量を抑えることができる。このように水蒸気の蒸発量を抑えることによって、ドライアップを抑制することができる。しかし、空気の流れる流路が多孔体流路層23の一層であると、ガス拡散層が存在する2層構造とは異なり、出口側領域23bのガスの圧力損失を高くしても、膜電極接合体16近傍の空気流量を十分に増加させることができないため、フラッディングを抑制することは困難となる。
【0028】
図2は、本実施形態の燃料電池におけるカソード極側の多孔体流路層の位置と圧力との関係を示した図である。図2の実線は、入口側領域24a及び出口側領域24bが、中央領域24cよりもガスの圧力損失の低い多孔体流路層24を用いた場合であり、破線は均一な気孔率を有する多孔体流路層(すなわちガスの圧力損失が均一である多孔体流路層)を用いた場合である。多孔体流路層24の入口側領域24a及び出口側領域24bのガスの圧力損失を低くし、中央領域24cのガスの圧力損失を高くすることにより、図2に示すように、均一な気孔率を有する多孔体流路層よりも、入口側領域24aの圧力を高く維持し、出口側領域24bの圧力を低く抑えることができる。したがって、入口側領域24aの空気の体積流量を下げ、出口側領域24bの空気の体積流量を高くすることができたるめ、ドライアップとフラッディング双方の発生を抑制することが可能となる。また、ドライアップ及びフラッディングの抑制は、多孔体流路層と細孔層との間にガス拡散層を設置しなくても可能である。すなわち、燃料電池の構造からガス拡散層を廃することができるため、燃料電池の小型化、低コスト化、高性能化も可能となる。
【0029】
次に、本実施形態で用いられる多孔体流路層22,24の詳細について説明する。
【0030】
多孔体流路層22,24は、導電性多孔体から構成されるものであり、主に、多孔体流路層22,24に供給される反応ガスを電極の面全体に供給するガス流路としての機能、及び反応ガスを拡散させるガス拡散層としての機能を有する。本実施形態に用いられる多孔体流路層22,24は、例えば、ステンレス鋼、アルミ、アルミ合金、チタン、或いはチタン合金などの金属多孔体や、カーボン多孔体、多数の細孔を備えたエキスパンドメタル等が挙げられる。
【0031】
多孔体流路層のガスの圧力損失を変化させる場合には、前述したように、多孔体流路層の気孔率を変化させてガスの圧力損失を変化させることが望ましい。この場合、多孔体流路層24の入口側領域24aから中央領域24cに向かって、及び出口側領域24bから中央領域24cに向かって多孔体流路層24の気孔率を段階的に低くすること又は連続的に低くすることが好ましい。多孔体流路層24の入口側領域24aから中央領域24cに向かって、及び出口側領域24bから中央領域24cに向かって多孔体流路層24の気孔率を段階的に低くする場合には、入口側領域24a及び出口側領域24bの気孔率は高いある範囲値を満たし、中央領域24c側の気孔率は低いある範囲値を満たしていればよい。
【0032】
金属多孔体の気孔率の調整は、金属粉末の密度の調整等により行われ、エキスパンドメタルの気孔率の調整は、細孔の形成加工等により行われ、導電性粉末からなる層の気孔率の調整は、揮発性溶媒や導電性粉末の量を調整すること等により行われる。
【0033】
図3は、本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。図3の燃料電池2において、図1に示す燃料電池1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。図3に示す燃料電池2のカソード極14側の多孔体流路層30では、カソードガス供給における入口側領域30aから中央領域30cに向かって、及びカソードガス供給における出口側領域30bから中央領域30cに向かって、多孔体流路層30の気孔率が連続的に低くなっている。このような多孔体流路層30を有する燃料電池2でも、図1の燃料電池1と同様に、入口側領域30aの空気の体積流量を下げ、出口側領域30bの空気の体積流量を高くすることができため、ドライアップとフラッディング双方の発生を抑制することが可能となる。
【0034】
図1及び3に示すカソード極14側の多孔体流路層(24,30)において、ドライアップとフラッディング双方の発生を効率的に抑制することができる点で、カソードガス供給における入口側領域(24a,30a)及び出口側領域(24b,30b)の気孔率は、80〜90%の範囲であることが好ましく、中央領域(24c,30c)の気孔率は、65〜80%の範囲であることが好ましい。
【0035】
多孔体流路層のガスの圧力損失を変化させる場合には、多孔体流路の厚さを変化させてガスの圧力損失を変化させることが望ましい。以下、図4,5を用いて説明する。
【0036】
図4,5は、本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。図4,5の燃料電池3,4において、図1に示す燃料電池1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。図4に示す燃料電池3のカソード極14側の多孔体流路層32では、カソードガス供給における入口側領域32aから中央領域32cに向かって、及びカソードガス供給における出口側領域32bから中央領域32cに向かって、多孔体流路層32の厚さが段階的に薄くなるような構造になっている。具体的には、図4に示すように多孔体流路層32の中央領域32cが凹部となっているが、入口側領域32a及び出口側領域32bの厚さは厚いある範囲値を満たし、中央領域32cの厚さはそれよりも薄いある範囲値を満たしていればよい。なお、カソード極14側のセパレータ34には、厚みを変化させた多孔体流路層32の面に沿うように凹凸部が形成され、セパレータ34の厚みが調整されている。図5に示す燃料電池では、図5に示す燃料電池4のカソード極14側の多孔体流路層36では、カソードガス供給における入口側領域36aから中央領域36cに向かって、及びカソードガス供給における出口側領域36bから中央領域36cに向かって、多孔体流路層36の厚さが連続的に薄くなっている。なお、カソード極14側のセパレータ38は、多孔体流路層36に沿うように、カソードガス供給における入口側領域36aから中央領域36cに向かって、及びカソードガス供給における出口側領域36bから中央領域36cに向かって、セパレータ38の厚さが連続的に厚くなっている。
【0037】
図4,5に示すように、多孔体流路層(32,36)の厚さを上記のように変化させることによっても、多孔体流路層(32,36)の入口側領域(32a,36a)及び出口側領域(32b,36b)のガスの圧力損失を低くし、中央領域(32c,36c)のガスの圧力損失を高くすることができるため、図2に示すように、均一な気孔率を有する多孔体流路層よりも、入口側領域(32a,36a)の圧力を高く維持し、出口側領域(32b,36b)の圧力を低く抑えることができる。したがって、入口側領域(32a,36a)の空気の体積流量を下げ、出口側領域(32b,36b)の空気の体積流量を高くすることができるため、ドライアップとフラッディング双方の発生を抑制することが可能となる。
【0038】
図4,5に示すカソード極14側の多孔体流路層(32,36)において、ドライアップ及びフラッディングの発生を効率的に抑制することができる点で、カソードガス供給における入口側領域(32a,36a)及び出口側領域(32b,36b)の厚さは、0.3mm〜0.4mmの範囲であることが好ましく、中央領域(32c,36c)の厚さは、0.1mm〜0.2mmの範囲であることが好ましい。
【0039】
以下に、燃料電池のその他の部材について説明する。
【0040】
セパレータ(26,28等)は、ガス不透過性であって、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではないが、例えば、ステンレス鋼、チタン合金、アルミニウム合金等に代表される金属、カーボン、導電性樹脂等が挙げられる。
【0041】
本実施形態に用いられる細孔層18,20は、ガス透過性及び導電性を有する材料から構成され、集電層、マイクロポーラスレイヤー(MPL)等とも言う。細孔層18,20は、主に、各極と電子の授受を行う集電機能を有する。また、細孔層18,20は、多孔体流路層(22,24等)や後述するガス拡散層と同様に、ガス透過性であるが、細孔層18,20は、ガス拡散層等より気孔径の小さい層であることが望ましく、例えば、0.1μmオーダーの気孔径を有する層である。
【0042】
細孔層18,20は、例えば、導電性粒子からなる層であり、導電性粒子と、メタノール、エタノール等の分散溶媒と、を混合した溶液を多孔体流路層(22,24等)、触媒層等に塗布することにより形成される。塗布方法は、スプレー、スクリーン印刷、アプリケータ、インクジェット等がある。細孔層18,20を構成する導電性粒子としては、例えば、カーボン材料、Au、Pt、Pd等の貴金属、Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cr、Ag、Cu、Zn、Su等の金属、Si、およびこれらの窒化物、炭化物、炭窒化物等、さらにステンレス、Cu−Cr、Ni−Cr、Ti−Pt等の合金等を挙げることができる。
【0043】
本実施形態では、アノード極12側の多孔体流路層22と細孔層18との間にはガス拡散層を設置してもよい。ガス拡散層は、主に反応ガスを拡散させる機能を有し、ガス拡散性及び導電性を有する材料から構成される。ガス拡散層は、細孔層18,20より気孔径の大きい層であることが望ましく、例えば、100μmオーダーの気孔径を有する層である。
【0044】
ガス拡散層としては、例えば、ガス拡散性の点から無機導電性繊維であって、特に炭素繊維が好ましい。無機導電性繊維を用いたガス拡散層としては、織布あるいは不織布いずれの構造のものも使用することができ、カーボンペーパーやカーボンクロスなどを挙げることができる。織布としては、平織、紋織、綴織など、特に限定されるものではなく、不織布としては、抄紙法、ウォータージェットパンチ法によるものなどが挙げられる。
【0045】
本実施形態の膜電極接合体16を構成する電解質膜10は、プロトン電導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材料から構成されている。膜電極接合体16を構成するアノード極12は、燃料の酸化を促進する触媒を備え、該触媒上で燃料が酸化反応を起こすことにより、プロトンと電子を生成する。また、膜電極接合体16を構成するカソード極14は、酸化剤の還元を促進する触媒を備え、該触媒上で酸化剤がプロトンと電子を取り込み、還元反応が起きる。
【0046】
膜電極接合体16を構成する電解質膜10は、プロトン電導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材料であれば特に限定されないが、例えば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成される。
【0047】
また、アノード極12及びカソード極14は、例えば、触媒が担持された導電性担体(粒子状のカーボン担体など)と、電解質と、分散溶媒(有機溶媒)と、を混合して触媒溶液(触媒インク)を電解質膜10等の基材に塗布することにより形成される。ここで、触媒溶液を形成する電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質等を挙げることができる。なお、市販素材としては、ナフィオン(登録商標)(Nafion、デュポン社製)やフレミオン(登録商標)(Flemion、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類等の溶媒を挙げることができる。
【0048】
触媒が担持される導電性担体としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができる。触媒(金属触媒)としては、例えば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどを挙げることができ、白金または白金合金を使用するのが好ましい。
【0049】
図6は、本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。図6に示す燃料電池5において、図1に示す燃料電池1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0050】
図6に示すように、燃料電池5は、電解質膜10と電解質膜10の両側に設けられるアノード極12及びカソード極14とを備える膜電極接合体16、アノード極12及びカソード極14の外側に設けられる細孔層18,20、細孔層18,20の外側に設けられる多孔体流路層22,40、多孔体流路層22,40の外側に設けられるセパレータ26,28、を備えている。
【0051】
図6に示すセパレータ26,28は、ガス流路溝が形成されていないフラットタイプ型のセパレータ26,28である。なお、不図示であるが、セパレータ26,28の外周には、燃料ガス入口及び出口、酸化剤ガス入口及び出口が形成され、燃料ガス入口及び出口はアノード極12側の多孔体流路層22と連通し、酸化剤ガス入口及び出口はカソード極14側の多孔体流路層40と連通している。
【0052】
燃料電池は、細孔層18,20と多孔体流路層22,40との間にガス拡散層を配置しない燃料電池構造を示しているが、本実施形態では、カソード極14側の細孔層20と多孔体流路層40との間にガス拡散層が配置されず、カソード極14側の細孔層20と多孔体流路層40とが接していれば、アノード極12側の細孔層18と多孔体流路層22との間にガス拡散層を設置してもよい。
【0053】
本実施形態に用いられるカソード極14側の多孔体流路層40において、カソードガス供給における入口側領域40a(単に入口側領域40aと呼ぶ場合がある)はカソードガス供給における出口側領域40b(単に出口側領域40bと呼ぶ場合がある)よりも、ガスの圧力損失が高い構造になっている。後述するように、ガスの圧力損失の調整は気孔率等で調整することができ、図6に示す多孔体流路層40において、入口側領域40aは気孔率が低く、出口側領域40bは気孔率が高い構造となっている。ここで、入口側領域40aとは、例えば、酸化剤ガス入口から出口側に向かって、酸化剤ガス流路長の90%未満の領域であり、出口側領域40bとは、例えば、酸化剤ガス出口から入口側に向かって、酸化剤ガス流路長の90%未満の領域である。酸化剤ガス流路長は、カソードガス入口からカソードガス出口までの長さであり、多孔体流路層40の面方向の長さである。
【0054】
図6では、多孔体流路層40の入口側領域40aはガスの圧力損失が高い構造になっており、出口側領域24bはガスの圧力損失が低い構造になっている。すなわち、多孔体流路層40において、カソードガス供給における上流側は、下流側よりもガスに対する圧力損失が高い構造になっている。
【0055】
図7は、本実施形態の燃料電池におけるカソード極側の多孔体流路層の位置と圧力との関係を示した図である。図7の実線は、入口側領域40aが出口側領域40bよりも、ガスの圧力損失の低い多孔体流路層40を用いた場合であり、破線は均一な気孔率を有する多孔体流路層(すなわちガスの圧力損失が均一である多孔体流路層)を用いた場合である。多孔体流路層40の入口側領域40aのガスの圧力損失を高くし、出口側領域40bのガスの圧力損失を低くすることにより、図7に示すように、均一な気孔率を有する多孔体流路層40よりも、出口側領域40bの圧力を低く抑えることができる。したがって、その場における空気の体積流量を高く維持することができるため、出口側領域40bの排水性を向上させることができる。フラッディングの発生は、特に出口側領域40bの排水性に起因するため、本実施形態のような構造の多孔体流路層40でも、フラッディングの発生を抑制することができる。また、本実施形態では、ガス拡散層を廃することができるため、燃料電池の小型化、低コスト化、高性能化も可能となる。
【0056】
次に、本実施形態で用いられる多孔体流路層40の詳細について説明する。
【0057】
多孔体流路層40のガスの圧力損失を変化させる場合には、前述したように、多孔体流路層40の気孔率を変化させてガスの圧力損失を変化させることが望ましい。この場合、カソード極14側の多孔体流路層40の入口側領域40aから出口側領域40bに向かって、多孔体流路層40の気孔率を段階的に高くすること又は連続的に高くすることが好ましい。カソード極14側の多孔体流路層40の入口側領域40aから出口側領域40bに向かって、多孔体流路層40の気孔率を段階的に高くする場合には、入口側領域40aの気孔率は低いある範囲値であり、出口側領域40bの気孔率はそれよりも高いある範囲値である。
【0058】
図8は、本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。図8の燃料電池6において、図6に示す燃料電池5と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。図8に示す燃料電池5のカソード極14側の多孔体流路層42では、カソードガス供給における入口側領域42aから出口側領域42bに向かって、多孔体流路層42の気孔率が連続的に低くなっている。このような多孔体流路層42を有する燃料電池6でも、図6の燃料電池5と同様に、出口側領域42bにおける空気の体積流量を高く維持することができるため、出口側領域42bの排水性を向上させ、フラッディングの発生を抑制することができる。
【0059】
図6及び8に示すカソード極14側の多孔体流路層(40,42)において、フラッディングの発生を効率的に抑制することができる点で、カソードガス供給における入口側領域(40a,42a)の気孔率は、65〜80%の範囲であることが好ましく、出口側領域(40b,42b)の気孔率は、80〜90%の範囲であることが好ましい。
【0060】
多孔体流路層のガスの圧力損失を変化させる場合には、多孔体流路層の厚さを変化させてガスの圧力損失を変化させることが望ましい。
【0061】
図9,10は、本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。図9,10の燃料電池(7,8)において、図6に示す燃料電池5と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。図9に示す燃料電池7のカソード極14側の多孔体流路層44では、カソードガス供給における入口側領域44a(単に入口側領域44aと呼ぶ場合がある)からカソードガス供給における出口側領域44b(単に出口側領域44bと呼ぶ場合がある)に向かって、多孔体流路層44の厚さが段階的に厚くなっている。カソード極14側の多孔体流路層44の入口側領域44aから出口側領域44bに向かって、多孔体流路層44の厚さを段階的に厚くする場合は、入口側領域44aの厚さは薄いある範囲値であり、出口側領域44bの厚さはそれよりも厚いある範囲値である。なお、カソード極14側のセパレータ46には、厚みを変化させた多孔体流路層44の面に沿うように凹凸部が形成され、セパレータ46の厚みが調整されている。図10に示す燃料電池8のカソード極14側の多孔体流路層48では、カソードガス供給における入口側領域48a(単に入口側領域48aと呼ぶ場合がある)からカソードガス供給における出口側領域48b(単に出口側領域48bと呼ぶ場合がある)に向かって、多孔体流路層48の厚さが連続的に厚くなっている。なお、カソード極14側のセパレータ50は、厚みを変化させた多孔体流路層48の面に沿うように、傾斜面が形成され、セパレータ50の厚みが調整されている。
【0062】
図9,10に示すように、多孔体流路層(44,48)の厚さを上記のように変化させることによっても、多孔体流路層(44,48)の入口側領域(44a,48a)のガスの圧力損失を高くし、出口側領域(44b,48b)のガスの圧力損失を低くすることができるため、図7に示すように、均一な気孔率を有する多孔体流路層よりも、出口側領域(44b,48b)の圧力を低く抑えることができる。したがって、出口側領域(44b,48b)における空気の体積流量を高く維持することができるため、出口側領域(44b,48b)の排水性を向上させ、フラッディングの発生を抑制することができる。
【0063】
図9,10に示すカソード極14側の多孔体流路層(44,48)において、フラッディングの発生を効率的に抑制することができる点で、カソードガス供給における入口側領域(44a,48a)の厚さは、0.1mm〜0.2mmの範囲であることが好ましく、出口側領域(44b,48b)の厚さは、0.3mm〜0.4mmの範囲であることが好ましい。
【符号の説明】
【0064】
1−9 燃料電池、10 電解質膜、12 アノード極、14 カソード極、16 膜電極接合体、18,20 細孔層、22,24,23,30,32,36,40,42,44,48 多孔体流路層、23a,24a,30a,32a,36a,40a,42a,44a,48a 入口側領域、23b,24b,30b,32b,36b,40b,42b,44b,48b 出口側領域、24c,30c,32c,36c 中央領域、26,28,34,38,46,50 セパレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と前記電解質膜の両側に配置されるアノード極及びカソード極とを備える膜電極接合体と、前記膜電極接合体の両側に配置される細孔層と、前記細孔層の外側に配置される反応ガス流路となる多孔体流路と、を備える燃料電池であって、
少なくとも前記カソード極側の細孔層と多孔体流路との間にはガス拡散層が配置されず、前記カソード極側の細孔層と前記多孔体流路とは接しており、
前記カソード極側の多孔体流路は、カソードガス供給における入口側領域及び出口側領域が、前記入口側領域及び前記出口側領域の間に位置する中央領域よりも、ガスに対する圧力損失が低いことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記入口側領域から前記中央領域に向かって、及び前記出口側領域から前記中央領域に向かって、前記多孔体流路の気孔率が段階的又は連続的に低くなっていることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記入口側領域から前記中央領域に向かって、及び前記出口側領域から前記中央領域に向かって、前記多孔体流路の厚さが段階的又は連続的に薄くなっていることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項4】
電解質膜と前記電解質膜の両側に配置されるアノード極及びカソード極とを備える膜電極接合体と、前記膜電極接合体の両側に配置される細孔層と、前記細孔層の外側に配置される反応ガス流路となる多孔体流路と、を備える燃料電池であって、
少なくとも前記カソード極側の細孔層と多孔体流路との間にはガス拡散層が配置されず、前記カソード極側の細孔層と前記多孔体流路とは接しており、
前記カソード極側の多孔体流路は、カソードガス供給における入口側領域が、カソードガス供給におけるカソードガス出口側領域よりも、ガスに対する圧力損失が高いことを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
前記入口側領域から前記出口側領域に向かって、前記多孔体流路の気孔率が段階的又は連続的に高くなっていることを特徴とする請求項4記載の燃料電池。
【請求項6】
前記入口側領域から前記出口側領域に向かって、前記多孔体流路の厚さが段階的又は連続的に厚くなっていることを特徴とする請求項4記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図3】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−12355(P2013−12355A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143428(P2011−143428)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】