説明

燃料電池

【課題】含水量の相違がもたらす発電性能の低下を簡便な構成で抑制する。
【解決手段】燃料電池10は、電池セルユニット40を複数積層したスタック構造を備え、電池セルユニット40のカソードは、触媒を担持した導電性粒子を、プロトン伝導性と酸素透過性を有するアイオノマで被覆して含む。このカソードにおけるアイオノマの酸素透過性を、スタック構造における電池セルの積層位置に応じて異なるものとするに当たり、ガスに含まれる含水量が多くなる積層位置の電池セルユニット40におけるカソードの酸素透過性を、含水量が少ない他の積層位置の電池セルユニット40より大きくした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜の両膜面にアノードとカソードの両電極を接合した膜電極接合体をガス拡散層で挟持した電池セルを有する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料とその酸化剤、例えば、水素と酸素の電気化学反応によって発電する。こうした燃料電池では、プロトン伝導性を有する電解質膜(例えば、固体高分子膜)の両膜面にアノードとカソードの両電極を形成し、この両電極に、ガス拡散層を経て燃料ガスと酸化ガス、例えば水素ガスと空気を供給する。
【0003】
燃料電池は、発電能力維持の上では所定の定常温度で運転されることが望ましいものの、例えば車両に搭載した燃料電池や寒冷地に設置された発電システムにおける燃料電池では、低温環境下で運転されることも少なくない。よって、こうした低温環境下での発電能力向上のため、種々の提案がなされている(例えば、下記特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−196220号公報
【特許文献2】特開2010−21056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1で提案された技術では、スタック構造における端部側の電池セル(端部セル)の電極(触媒層)の膜厚を増したりガス拡散層の水透過性を低くして、外気への放熱が起きやすい端部セルの発熱量を高めている。これにより、端部セルを低温環境での始動の際に早めに昇温させ、起動性の向上が図られている。しかしながら、通常運転に推移した状況では、発電運転に伴ってカソードの側で生成された生成水が供給されたガスに持ち去られて運ばれることから、ガス拡散層を通過するガスに含まれる含水量は、通常、ガス下流側で多くなる。端部セルはガス下流側に位置することから、膜厚を増した電極(触媒層)や水透過性の低いガス拡散層を有する端部セルでは、通常運転の状況においてガス流路が閉塞されるフラッディングによる発電性能の低下が危惧される。また、上記公報にもあるように、端部セルの発熱量は通常運転の際も大きいままであるので、通常運転の際には端部セルの昇温抑制が必要となり、煩雑である。なお、生成水が流路下流側にガスに運ばれる現象は、個々の電池セルにおいても見られることから、ガスに含まれる含水量の相違による発電能力の低下は、電池セル自体でもその抑制が望まれている。
【0006】
その一方、特許文献2では、低温時に起きる生成水の凍結への対処を図るべく、カソードを、触媒を担持したカーボン粒子にアイオノマを加えて形成し、この両者の重量比を規定している。こうした重量比の規定を通して、アイオノマが有するプロトン伝導性を利用した上で、カソードにおけるプロトン伝導を確保して、電気化学反応の円滑化を図っている。しかしながら、アイオノマをカソード形成に用いるとしても、生成水が流路下流側にガスに運ばれてガスの含水量が相違する点についての考慮が不足し、改善の余地が残されている。
【0007】
本発明は、上述した従来の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、生成水が流路下流側に運ばれてガスの含水量が相違するという新たな着眼点に立脚して、含水量の相違がもたらす発電性能の低下を簡便な構成で抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決することを目的としてなされたものであり、以下の構成を採用した。
【0009】
[適用1:燃料電池]
電解質膜の両膜面にアノードとカソードの両電極を接合した膜電極接合体をガス拡散層で挟持した電池セルを複数積層したスタック構造の燃料電池であって、
前記カソードは、触媒を、プロトン伝導性と酸素透過性を有するアイオノマで被覆して含み、
前記カソードにおける前記アイオノマの前記酸素透過性を前記スタック構造における前記電池セルの積層位置またはセル面内方向に応じて異なるものとした
ことを要旨とする。
【0010】
上記構成を備える燃料電池では、そのカソードにおいて、プロトン伝導性と酸素透過性を有するアイオノマで触媒を被覆する。よって、カソードのアイオノマは、プロトン伝導を図ると共に、その被覆した触媒に酸素を透過させ、大きな酸素透過性を有するアイオノマは、多くの酸素を触媒に透過させ、酸素透過性の小さいアイオノマでは酸素透過が少なくなる。上記構成を備える燃料電池では、アイオノマの前記酸素透過性は、前記スタック構造における前記電池セルの積層位置またはセル面内方向に応じて異なることから、電池セルの積層位置またはセル面内方向に起因して相違することになる状況、例えば、ガス拡散層を通過するガスに含まれる含水量の相違や、触媒の溶出や劣化による触媒機能低下の相違、電位変動が起きる程度の相違、異常電位の発生程度の相違等に適合させて該当する積層位置の電池セルまたは電池セルにおけるセル面内方向でカソードのアイオノマの前記酸素透過性を変えて、電池セルの積層位置またはセル面内方向に起因した相違を是正することが可能となる。この場合、触媒が導電性粒子に担持された状態であれば、この触媒担持済み導電性粒子をアイオノマで被覆することにより、触媒も当該アイオノマで被覆されることになる。そして、そのアイオノマは、導電性粒子に担持済みの触媒に対しての上記した酸素透過を担うことになる。
【0011】
例えば、ガス拡散層を通過するガスに含まれる含水量と言った電池セル当たりの含水量に着目し、この含水量が多くなる電池セルにおける前記カソードの前記酸素透過性を、前記含水量が少ない他の前記電池セルにおける前記カソードの前記酸素透過性より大きくできる。こうすれば、含水量が多くなる積層位置の前記電池セルにおける前記カソードや含水量が多くなるセル面内でのカソードでは、含水量が少ない他の電池セルにおける前記カソードと比べて前記酸素透過性は大きくなっている。よって、含水量が多い積層位置の電池セルまたは含水量が多いセル面内箇所では、そのカソードにおいて、含水量が少ない電池セルに比して多くの酸素を触媒担持済み導電性粒子に透過させることができることになる。触媒機能低下の相違や電位変動程度の相違等についても同様である。
【0012】
電池セルの積層位置でそのカソードにおいてガスの含水量に差が生じる現象は、発電運転に伴ってカソードの側で生成された生成水が下流側にガスに運ばれることに主に起因する。そして、ガスの含水量が多い積層位置の電池セルでは、発電運転停止後における低温環境下において、ガス中の水成分が氷結し、触媒担持済み導電性粒子を被覆したアイオノマの表面が氷で覆われる現象が起き得る。しかしながら、上記構成を備える燃料電池では、ガスの含水量が多い積層位置の電池セルのカソードにおいて、アイオノマを経て多くの酸素を触媒担持済み導電性粒子に透過させて電気化学反応を進行させることができるので、低温環境下での始動に際して、氷で覆われていないアイオノマ表面からその被覆した触媒担持済み導電性粒子に酸素を透過させる。この結果、上記構成を備える燃料電池によれば、低温環境下での始動性を、膜厚を増した電極や水透過性の低いガス拡散層とすることなく簡便に高めて、始動時の発電能力の低下を抑制できる。そして、通常運転に推移した後にあっては、ガスの含水量が多い積層位置の電池セルであっても、上記したようにアイオノマを経て多くの酸素を触媒担持済み導電性粒子に透過させることができるので、通常運転の状況下での発電能力の低下についてもこれを抑制できる。しかも、始動時と通常運転時とにおいて、特段の処置を要しないので、簡便である。
【0013】
ところで、ガスの含水量が少ない積層位置の電池セルでは、アイオノマの酸素透過性が低い分、ガスの含水量が多い積層位置の電池セルより、アイオノマを経て触媒担持済み導電性粒子に透過する酸素の量は少なくなる。しかし、含水量が少ない分、氷や水で覆われないアイオノマ表面が増えて酸素透過機会が増すので、ガスの含水量が少ない積層位置の電池セルにおける発電能力の低下を抑制できる。このため、スタック構造の燃料電池全体としての能力低下を抑制できる。含水量が少ないセル面内箇所においても同様である。
【0014】
上記構成を備える燃料電池のカソードにおいて、触媒担持済み導電性粒子を被覆するアイオノマは、イオン交換基を有する高分子電解質樹脂であって、その有するイオン交換基にてプロトン伝導性を発揮する。その一方、USP4533741に記載の化学構造を有するアイオノマなどを用いることで、所望する酸素透過性を発揮するようにもできる。
【0015】
上記した燃料電池は、次のような態様とすることができる。例えば、前記スタック構造の端部の側において、前記スタック構造に含まれるそれぞれの前記電池セルへのガスの給排を行うようにした上で、前記スタック構造の端部の側の積層位置の前記電池セルにおける前記カソードの前記酸素透過性を、前記スタック構造の中央の側の積層位置の前記電池セルにおける前記カソードの前記酸素透過性より大きくできる。こうすれば、上記のようにスタック構造端部の側でガス給排を行う都合からガスの含水量が多くなるスタック端部の側の電池セルについての低温環境下での始動性を上記したように簡便に高めて、始動時の発電能力の低下を抑制できる。
【0016】
[適用2:燃料電池]
電解質膜の両膜面にアノードとカソードの両電極を接合した膜電極接合体をガス拡散層で挟持した電池セルと、前記カソードの電極面と対向する前記ガス拡散層に対してガスを供給するガス供給流路とを有する燃料電池であって、
前記カソードは、触媒を、プロトン伝導性と酸素透過性を有するアイオノマで被覆して含み、
前記カソードにおける前記アイオノマの前記酸素透過性を前記ガス供給流路の流路軌跡における流路位置に応じて異なるものとし、電池セル面における含水量が多くなる流路位置を占める領域の前記カソードの前記酸素透過性を、前記含水量が少ない他の流路位置を占める領域の前記カソードの前記酸素透過性より大きくした
ことを要旨とする。
【0017】
上記構成を備える燃料電池では、電池セルのカソードにおいて、その有するアイオノマの前記酸素透過性は、前記ガス供給流路の流路軌跡における流路位置に応じて異なり、電池セル面における含水量、例えばガス拡散層を通過するガスに含まれる含水量が多くなる流路位置を占める領域の前記カソードでは、前記含水量が少ない他の流路位置を占める領域の前記カソードと比べて前記酸素透過性は大きくなっている。よって、ガスの含水量が多い流路位置を占める領域では、ガスの含水量が少ない他の流路位置を占める領域に比して多くの酸素を触媒担持済み導電性粒子に透過させることができことになる。この結果、上記構成を備える燃料電池では、電池セルのカソードにおいて含水量が多い領域においても、アイオノマを経た導電性粒子への酸素透過により電気化学反応を進行させることができるので、発電能力の簡便な低下抑制に加え、電池セルの電極面内における発電分布の均一化、延いては電池セルとしての発電能力の向上を図ることができる。
【0018】
上記した燃料電池は、次のような態様とすることができる。例えば、前記流路軌跡における流路末端の側を占める領域の前記カソードの前記酸素透過性を、前記流路末端より上流の側を占める領域の前記カソードの前記酸素透過性より大きくできる。こうすれば、電池セルにおいて、ガスの含水量が多くなる流路軌跡における流路末端の側を占める領域についての発電能力の低下を簡便に抑制できる。
【0019】
また、前記電池セルを複数積層したスタック構造を備えるようにした上で、前記電池セルにおいて前記流路位置を占める領域の前記カソードの前記酸素透過性を前記流路位置に応じて異なるものとしつつ、前記発電セルごとの前記カソードにおける前記アイオノマの前記酸素透過性を、前記スタック構造において前記ガスに含まれる含水量が多くなる積層位置を占める前記電池セルほど大きくなるように、前記積層位置に応じて異なるものとできる。こうすれば、個々の電池セルでの発電分布の均一化、延いては発電能力の向上を図った上で、スタック構造の燃料電池全体での発電能力も高めることができる。
【0020】
本発明は、上記した燃料電池のほか、燃料電池用の膜電極接合体やその製造方法もしくは燃料電池の製造方法としても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例としての燃料電池10の概略構成とその構成単位である電池セルユニット40を示す説明図である。
【図2】電池セルユニット40を図1の2−2線に沿って概略的に断面視して示す概略断面図である。
【図3】セル内エアー流路43の流路軌跡を概略的に示す説明図である。
【図4】カソード53の構成をアイオノマ154による触媒担持カーボン粒子150の被覆の様子と併せて模式的に示す説明図である。
【図5】セル内エアー流路43の流路軌跡における流路位置に応じてカソード53の含水量が相違する様子を模式的に示す説明図である。
【図6】スタック構造の燃料電池10における電池セルユニット40の積層位置に応じて電池セル単位での含水量が相違する様子を模式的に示す説明図である。
【図7】インク調合に用いる複数種類のアイオノマの特性を説明する説明図である。
【図8】カソード形成用インクの調合手法を含んで燃料電池10の製造工程を示す工程図である。
【図9】セル積層位置を考慮したインク調合の様子を模式的に示す説明図である。
【図10】端部側セルについて更にセル内ガス流路軌跡を考慮したインク調合の様子を模式的に示す説明図である。
【図11】中央セルについて更にセル内ガス流路軌跡を考慮したインク調合の様子を模式的に示す説明図である。
【図12】スタック端部の積層位置を取る電池セルユニット40におけるカソード53の形成の様子を示す説明図である。
【図13】スタック中央の積層位置を取る電池セルユニット40におけるカソード53の形成の様子を示す説明図である。
【図14】電池セルユニット40を単位とした発電性能の向上の様子を示す説明図である。
【図15】比較例電池セルと実施例電池セルの高含水量流路領域SECHにおける酸素透過の様子をアイオノマの酸素透過性と関連付けて模式的に示す説明図である。
【図16】電池セルユニット40における空気の入口側と出口側との間においてセル内エアー流路43が平行配設された形態を示す説明図である。
【図17】スタックに対するガス給排をそれぞれのエンドプレート10aで行う燃料電池10Aを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の実施例としての燃料電池10の概略構成とその構成単位である電池セルユニット40を示す説明図、図2は電池セルユニット40を図1の2−2線に沿って断面視した断面図である。
【0023】
図示するように、燃料電池10は、水素と酸素との電気化学反応によって発電する電池セルユニット40を、一対のエンドプレート10aの間に複数積層させたスタック構造として備える。この場合、電池セルユニット40の積層数は、燃料電池10に要求される出力に応じて任意に設定可能である。
【0024】
燃料電池10は、電池セルユニット40の各コーナ周辺に締結シャフト100を配置して備える。締結シャフト100は、そのシャフト端においてボルトにてエンドプレート10aに当接して固定されることで、上記した電池セルユニット40のそれぞれをスタック構造として一対のエンドプレート10aの間において締結する。
【0025】
燃料電池10は、電池セルユニット40を挟持するに当たり、エンドプレート10aの側にそれぞれ絶縁板20aと前端側ターミナルプレート31と後端側ターミナルプレート32とを介在させる。エンドプレート10aは、剛性を確保するため、鋼等の金属によって形成されている。絶縁板20aは、ゴムや、樹脂等の絶縁性部材によって形成されている。前端側ターミナルプレート31と後端側ターミナルプレート32は、緻密質カーボンや、銅板などのガス不透過な導電性部材によって形成され、その表面に金メッキ層を有する。
【0026】
前端側のエンドプレート10aと絶縁板20aおよび前端側ターミナルプレート31は、それぞれの電池セルユニット40に水素供給口12IN、水素排気口12OUT、空気供給口14IN、空気排気口14OUT、冷却水供給口16INおよび冷却水排出口16OUTを備える。その一方、後端側のエンドプレート10aと絶縁板20aおよび後端側ターミナルプレート32は、これら給排口を備えない。これは、空気および水素を前端側のエンドプレート10aからそれぞれの電池セルユニット40に供給しつつ、その余剰分とアノードオフガスおよびカソードオフガスを後端側ターミナルプレート32に接合した電池セルユニット40にて(詳しくは当該ユニットのセパレーターにて)折り返して前端側のエンドプレート10aに戻すタイプの燃料電池であることによる。つまり、燃料電池10は、電池セルユニット40のスタック構造の端部の側、具体的には前端側のエンドプレート10aにおいて、それぞれの電池セルユニット40へのガスの給排を行う。電池セルユニット40におけるガス給排については、後述する。冷却水についても、前端側のエンドプレート10aからそれぞれの電池セルユニット40に供給されて折り返され、前端側のエンドプレート10aに戻る。
【0027】
前端側ターミナルプレート31と後端側ターミナルプレート32の両ターミナルプレートは、水素供給口12IN等の開口を有する点で相違するものの、共に、燃料電池10の前端側の電池セルユニット40或いは後端側の電池セルユニット40に接合して用いられ、燃料電池10の発電電力を出力端子33から外部に出力する。
【0028】
それぞれの電池セルユニット40は、電池セル50を対向するセパレーター41で挟持する。電池セル50は、図2に示すように、電解質膜51の両側にアノード52とカソード53の両電極を備える。このアノード52とカソード53は、電解質膜51の両膜面に接合され電解質膜51と共に膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)を形成する。この他、電池セル50は、電極形成済みの電解質膜51をその両側からアノード側ガス拡散層54とカソード側ガス拡散層55にて挟持する。セパレーター41は、この両ガス拡散層の外側に位置し、ガス拡散層を含んで電池セル50を挟持する。アノード側ガス拡散層54とカソード側ガス拡散層55は、ガス透過性を有する導電性部材、例えば、カーボンペーパやカーボンクロスによって形成される。
【0029】
セパレーター41は、電池セルユニット40ごとに反応ガス(水素ガスを含有する燃料ガス又は酸素を含有する酸化ガス)が流れるガス流路を形成する部材であって、水素透過性が低く導電性の良好な材料で形成される。例えば、樹脂に導電材料を混入して成形したプレート状の導電性複合材や金属鋼板などがセパレーター41の形成に用いられる。セパレーター41は、その外周近くの互いに対応する位置に、貫通孔44〜49を備えている。貫通孔44〜47は、電池セルユニット40をスタック構造に複数積層させた場合に、互いに重なり合って、電池セルユニット40の積層方向に沿って燃料電池内部を貫通するガス流路を形成する。貫通孔48〜49にあっては、電池セルユニット40をスタック構造に複数積層させた場合に、互いに重なり合って、電池セルユニット40の積層方向に沿って燃料電池内部を貫通する冷媒流路を形成する。そして、貫通孔44と貫通孔45は、セル内水素ガス流路42の両端に位置して、それぞれエンドプレート10aの水素供給口12INと水素排気口12OUTに接合し、ガス給排マニホールドとして機能する。貫通孔46と貫通孔47にあっては、セル内エアー流路43の両端に位置して、それぞれエンドプレート10aの空気供給口14INと空気排気口14OUTに接合し、ガス給排マニホールドとして機能する。貫通孔48と貫通孔49にあっては、図示しないセル内冷却流路の両端に位置して、それぞれエンドプレート10aの冷却水供給口16INと冷却水排出口16OUTに接合し、冷却水給排マニホールドとして機能する。
【0030】
セパレーター41は、上記した各マニホールドを介したガス給排を電池セルごとに行うべく、その表裏面に、セル内水素ガス流路42とセル内エアー流路43とを備える。本実施例では、セル内水素ガス流路42とセル内エアー流路43とは、セル面内(電極面内)において直交配列された流路とされ、セル内水素ガス流路42は図において上下に延びる多列の直線状流路とされ、流路上下流側で貫通孔44と貫通孔45に接続している。よって、電池セル50は、水素供給口12INを経て供給された水素ガスを、貫通孔44からセル内水素ガス流路42に流入させ、当該流路軌跡に沿ってアノード52に水素ガスを供給する。余剰の水素ガスは、貫通孔45を経て水素排気口12OUTから排出される。
【0031】
図3はセル内エアー流路43の流路軌跡を概略的に示す説明図である。この図3に示すように、セル内エアー流路43は、貫通孔46と貫通孔47の両貫通孔と流路上下流側にて接続し、貫通孔46から貫通孔47に到る間において折り返した折り返し軌跡の流路とされている。この場合、図3において横方向に延びる流路は更に複数に細分化されている。この電池セル50は、空気供給口14INを経て供給された空気を、貫通孔46からセル内エアー流路43に流入させ(エアーイン)、図3に示すような折り返し流路軌跡に沿ってカソード53に空気を供給する。余剰の空気は、貫通孔47を経て空気排気口14OUTから排出される(エアーアウト)。なお、電池セル50は、貫通孔48から流入した冷却水をセパレーター41における図示しない冷却水系路に沿って流して貫通孔49から排出することで、セルの冷却を図る。
【0032】
電解質膜51は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。アノード52およびカソード53は、例えば白金、あるいは白金合金等の触媒を担持した導電性粒子、例えばカーボン粒子(以下、触媒担持カーボン粒子と称する)を、アイオノマで被覆して構成された触媒層である。本実施例では、少なくともカソード53については、これを、触媒担持カーボン粒子をプロトン伝導性と酸素透過性を有するアイオノマで被覆して含む触媒層とした。通常、アイオノマは、電解質膜51と同質の固体高分子材料である高分子電解質樹脂(例えばフッ素系樹脂)であり、その有するイオン交換基によりプロトン伝導性を有する。その一方、USP4533741に記載の化学構造を有するアイオノマなどを用いることで、所望する酸素透過性を有するアイオノマを得ることができる。本実施例では、異なる酸素透過性を有するアイオノマを、カソード53における触媒担持カーボン粒子の被覆アイオノマとして使い分けた。この詳細については、後述する。
【0033】
図4はカソード53の構成をアイオノマによる触媒担持カーボン粒子の被覆の様子と併せて模式的に示す説明図である。図示するように、カソード53は、白金等の触媒152を担持したカーボン粒子150をアイオノマ154で被覆した状態で、電解質膜51とカソード側ガス拡散層55との間に介在する。アノード52(図1〜図2参照)の側で生成されたプロトンは、電解質膜51を透過しカソード53に達する。カソード53に達したプロトンは、カソード53に含まれるアイオノマ154がプロトン伝導性を有することから、このアイオノマ154を透過して、カーボン粒子150の表面の触媒152に到達する。
【0034】
カソード側ガス拡散層55からカソード53に供給された空気中の酸素は、カソード53の形成の際にカソード中に残存する空隙156を通ることでカソード53において拡散する。カーボン粒子150を被覆するアイオノマ154が酸素透過性を有することから、カソード53に拡散した酸素は、このアイオノマ154を透過して、カーボン粒子150の表面の触媒152に到達する。また、アノード52の側で生成した電子(図示略)は、外部回路を通ってカソード53に達し、カソード53に含まれるカーボン粒子150を介して触媒152に到達する。こうして触媒152に達したプロトンと電子と酸素が反応(電気化学反応)して水が生成される。
【0035】
生成された生成水は、カソード53における電気化学反応の熱を受けて蒸発し、その蒸発した水(水蒸気)はカソード側ガス拡散層55に達する。このカソード側ガス拡散層55にはセパレーター41が接合して、そのセル内エアー流路43において空気が流路に沿って流れているので、カソード側ガス拡散層55に達した水蒸気は、セル内エアー流路43の空気の流れにより当該流路に引き込まれつつ、カソード側ガス拡散層55からセル内エアー流路43のガス(空気)に持ち去られてセル内エアー流路43の流路下流側に運ばれる。このため、図3に示すセル内エアー流路43では、セル内エアー流路43の末端の側ほど水蒸気が集まり、このセル内エアー流路43から空気の供給を受けるカソード側ガス拡散層55およびカソード53についても、セル内エアー流路43の流路軌跡の末端の側で含水量が増えることになる。
【0036】
図5はセル内エアー流路43の流路軌跡における流路位置に応じてカソード53の含水量が相違する様子を模式的に示す説明図である。図示するように、セル内エアー流路43の流路軌跡の末端の側を含む流路領域は、それより上流の側の流路領域よりも含水量が多い領域である。以下、説明の便宜上、セル内エアー流路43の流路軌跡の末端の側を含み含水量の多い領域を高含水量流路領域SECHと称し、それより上流の側で含水量の少ない領域を低含水量流路領域SECLと称する。
【0037】
こうした含水量の相違は、次のように確認できる。例えば、カソード53の全域を単一のアイオノマ154にてカーボン粒子150を被覆して構成し、このカソード53を含む電池セルユニット40を、過加湿ガス供給の状態で継続運転させて運転を停止後、セルを分解してセル内エアー流路43の流路軌跡の各流路位置におけるカソード53の含水量を実際に測定することで、上記した含水量の大小規定が可能である。また、各流路位置の含水量は、コンピューターを用いたシミュレーション計算にて行うことができるほか、電池セルユニット40の流路各部位に歪みゲージや圧力センサーなどを設置し、これらのセンシング結果に基づいて算出できるので、これによりセル内エアー流路43の流路軌跡においてのカソード53の含水量の大小規定が可能である。
【0038】
カソード53の含水量が多いと、既述した空隙156(図4参照)が水で閉塞されることから、電池セルユニット40の発電能力の低下が起き得る。よって、図5に示すようにセル内エアー流路43の流路軌跡の各流路位置にて含水量が相違すると、各流路位置で発電状況が相違することになる。こうした含水量の相違に基づく発電状況の相違は、次のように確認できる。例えば、カソード53の全域を単一のアイオノマ154にてカーボン粒子150を被覆して構成し、このカソード53を含む電池セルユニット40を所定の運転条件で運転(−20℃の低温環境下での始動運転)させる。そして、運転中の電流密度をセル内エアー流路43の流路軌跡の各流路位置ごとに測定することで、含水量の相違に基づく発電状況の相違を確認できる。図5に示す含水量の大小がある場合、−20℃の低温環境下での始動運転において、高含水量流路領域SECHでは、低含水量流路領域SECLよりも電流密度が低いことが確認でき、低電流密度の領域は、高含水量流路領域SECHに、高電流密度の領域は、低含水量流路領域SECLとほぼ一致する。
【0039】
カソード53において上記したように含水量が相違するように、電池セルユニット40をスタック構造とした燃料電池10としても、電池セルユニット40の積層位置により当該セルユニットとしての含水量も相違する。図6はスタック構造の燃料電池10における電池セルユニット40の積層位置に応じて電池セル単位での含水量が相違する様子を模式的に示す説明図である。
【0040】
図示するように、本実施例の燃料電池10は、一方のエンドプレート10a(詳しくは、図1に示す前端側のエンドプレート10a)にてガス給排を行うので、既述した貫通孔46の積層で形成される流路に空気通過させつつそれぞれの電池セルユニット40に供給する。そして、未消費の余剰空気を他端側のエンドプレート10aにて折り返すようにして、ガス供給側のエンドプレート10aから排出する。この際のガス流路は図6において点線で示され、このようにしてガス給排を行う燃料電池10では、ガス折り返しエンドプレート10aの側に積層された電池セルユニット40の側に余剰生成水やガス加湿用の水蒸気が運ばれるので、ガス折り返しエンドプレート10aの積層位置では、スタック構造の中央位置より電池セルユニット40における含水量が多くなる。
【0041】
また、ガス給排を行う側のエンドプレート10aの側に積層された電池セルユニット40にあっても、余剰生成水やガス加湿用の水蒸気が排気により運ばれるので、スタック構造の中央位置より電池セルユニット40における含水量が多くなる。よって、電池セルユニット40のセル内エアー流路43の流路軌跡の流路位置に応じた含水量の大小規定に倣って、ガス折り返しエンドプレート10aの側の積層位置の電池セルユニット40とガス給排側のエンドプレート10aの側の積層位置の電池セルユニット40については、スタック構造の中央位置より高い含水量の高含水量流路領域SECHとし、スタック構造の中央位置では、含水量の少ない低含水量流路領域SECLとした。この場合、ガス折り返しの都合から、ガス折り返しエンドプレート10aの側で高含水量流路領域SECHに含まれる電池セルユニット40の数を増やしたり、ガス折り返し側と給排側で、高含水量流路領域SECHに含まれる電池セルユニット40の数を同じとすることもできる。
【0042】
次に、燃料電池10の製造手法について説明する。本実施例では、既述したように電池セルユニット40におけるセル内エアー流路43の流路軌跡における流路位置と、スタック構造におけるセル積層位置により相違する含水量に対処すべく、以下に説明するようなカソード形成用インク調合を行った。図7はインク調合に用いる複数種類のアイオノマの特性を説明する説明図である。
【0043】
図7は、アイオノマA〜Cのそれぞれについての酸素透過性と生成水生成量との関係を示しており、次のようにして求めた。測定用の電池セルユニット40として、触媒152を担持済みのカーボン粒子150をアイオノマAで被覆して形成したカソード53を有する試験用電池セルと、触媒152を担持済みのカーボン粒子150をアイオノマBで被覆して形成したカソード53を有する試験用電池セルと、触媒152を担持済みのカーボン粒子150をアイオノマCで被覆して形成したカソード53を有する試験用電池セルとを準備する。このようにカーボン粒子150をアイオノマで被覆することにより、触媒152が当該アイオノマで被覆されることになる。この場合、アイオノマA〜Cは、USP4533741に記載の化学構造を有するアイオノマを使い分けることで固有の酸素透過性を備え、アイオノマCが最も大きな酸素透過性を有し、アイオノマBはアイオノマCより小さい酸素透過性を、アイオノマAはアイオノマBより小さい酸素透過性を有する。このように各アイオノマは、共に電解質膜51と同質の高分子電解質樹脂(例えばフッ素系樹脂)ではあるものの、その有する酸素透過性は相違し、その酸素透過性は電池セルの発電能力に影響を与える。よって、上記した各試験用電池セルを、−20℃の低温環境下で0.1Vの発電電力が得られるように継続運転させ、発電不能となるまでに各試験用電池セルでの生成水水量を、各アイオノマの酸素透過性と関係付けた。その結果が図7である。上記した低温環境下で発電を継続すると、発電により生じた生成水が凍結して最終的には発電不能となる。こうして発電不能となるまでにより多くの生成水が得られる電池セルほど氷点下始動性が高まることから、図7では、アイオノマCで最も優れた氷点下始動性を得られることが読み取られ、アイオノマBではアイオノマAより低く、アイオノマCではアイオノマBよりも低い氷点下始動性となることが読み取れる。
【0044】
本実施例では、アイオノマをその酸素透過性の相違を考慮して使い分け、インク調合を行った。図8はカソード形成用インクの調合手法を含んで燃料電池10の製造工程を示す工程図、図9はセル積層位置を考慮したインク調合の様子を模式的に示す説明図、図10は端部側セルについて更にセル内ガス流路軌跡を考慮したインク調合の様子を模式的に示す説明図、図11は中央セルについて更にセル内ガス流路軌跡を考慮したインク調合の様子を模式的に示す説明図である。
【0045】
図8に示すカソード形成用インクの調合手法では、まず、スタック構造とした燃料電池10における電池セルユニット40の積層位置に応じたインク調合(ステップS100)を行う。
【0046】
ステップS100のセル積層位置に応じたインク調合では、図6に示す低含水量の低含水量流路領域SECL(スタック構造の中央位置)に属する電池セルユニット40と、高含水量の高含水量流路領域SECH(エンドプレート側の積層位置)に属する電池セルユニット40とで、アイオノマを使い分け、電池セル当たりの含水量が高い高含水量流路領域SECHに属する電池セルユニット40では、高い酸素透過性を有するアイオノマを用いる。つまり、高含水量流路領域SECHに属する電池セルユニット40では、高い酸素透過性のアイオノマ、例えば図7のアイオノマCにてカーボン粒子150を被覆してカソード53を構成する。その一方、低含水量流路領域SECLに属する電池セルユニット40では、例えばアイオノマCよりも酸素透過性の低いアイオノマBにてカーボン粒子150およびこれに担持済みの触媒152を被覆してカソード53を構成する。
【0047】
こうして、スタック構造におけるセル積層位置に応じたアイオノマを規定すると、図9に示すように、高含水量流路領域SECH(エンドプレート側の積層位置)に属する電池セルユニット40と、低含水量流路領域SECL(スタック構造の中央位置)に属する電池セルユニット40とについて、それぞれインク調合を行う(ステップS100)。まず、高含水量流路領域SECH(エンドプレート側の積層位置)に属する電池セルユニット40について説明すると、触媒152を担持済みのカーボン粒子150(図4参照)とアイオノマCとを混合・攪拌して、高含水量のセル積層位置としての高含水量流路領域SECHに対応したインクを調合する。低含水量流路領域SECLに属する電池セルユニット40については、触媒152を担持済みのカーボン粒子150(図4参照)とアイオノマBとを混合・攪拌して、高含水量のセル積層位置としての高含水量流路領域SECHに対応したインクを調合する。通常、カソード53におけるカーボン粒子150とアイオノマの配合比(例えば、重量比)は、完成品としての電池セルユニット40において一定とされる。上記したステップS100でのインク調合は、中間段階のものであるので、アイオノマCおよびアイオノマBの配合量は、セル完成品としての最終的な配合量より控えられている。つまり、後述のインク調合に際して、更にアイオノマが配合されることから、その配合量を見込んだ量のアイオノマCおよびアイオノマBがステップS100では配合される。
【0048】
上記のステップS100に続いては、電池セルユニット40におけるセル内エアー流路43の流路軌跡の流路位置に応じたインク調合(ステップS110)を行う。このステップS110では、図10に示すように、高含水量のセル積層位置(スタック端部)としての高含水量流路領域SECHに対応して調合済みのインクに、高い酸素透過性のアイオノマCを追加配合して混合・攪拌し、その電極インク200を、図5で示した高含水量の流路位置に対応した高含水量流路領域SECHに相当するカソード領域形成用の電極インクとする。この電極インク200におけるアイオノマCの追加配合量(例えば、重量比)は、セル完成品としての最終的な配合量から上記したステップS100での配合量を差し引いたものとなる。また、高含水量のセル積層位置(スタック端部)としての高含水量流路領域SECHに対応して調合済みのインクに、低い酸素透過性のアイオノマBを追加配合して混合・攪拌し、その電極インク202を、図5で示した低含水量の流路位置に対応した低含水量流路領域SECLに相当するカソード領域形成用の電極インクとする。この電極インク202におけるアイオノマBの追加配合量(例えば、重量比)も上記した電極インク200の場合と同様であり、こうしたアイオノマの追加配合により、カソード53におけるカーボン粒子150とアイオノマの配合比(例えば、重量比)は、完成品としての電池セルユニット40におけるものとなる。なお、セル積層位置やセル面方向についてアイオノマ配合量を予め算出して、1回のステップにて当該配合量にて上記各アイオノマを配合し、上記各電極インクを得るようにすることもできる。また、酸素透過性が高低相違する二つのアイオノマを高含水量流路領域SECHと低含水量流路領域SECLとで使い分けるようにもできるので、酸素透過性において高低相違するアイオノマを含んだ電極インクをそれぞれ調合することもできる。
【0049】
得られた電極インク200は、酸素透過性のアイオノマCのみを含み、電極インク202は、高い酸素透過性のアイオノマCとこれより低い酸素透過性のアイオノマBを混在して含む。よって、完成品としての電池セルユニット40におけるカソード53では、電極インク200を用いて形成されたカソード領域の方が、電極インク202を用いて形成されたカソード領域より高い酸素透過性を備えることになる。
【0050】
また、このステップS110では、図11に示すように、低含水量のセル積層位置(スタック中央)としての低含水量流路領域SECLに対応して調合済みのインクに、アイオノマBを追加配合して混合・攪拌し、その電極インク204を、図5で示した高含水量の流路位置に対応した高含水量流路領域SECHに相当するカソード領域形成用の電極インクとする。また、低含水量のセル積層位置(スタック中央)としての高含水量流路領域SECHに対応して調合済みのインクに、アイオノマBよりも酸素透過性の低いアイオノマA(図7参照)を追加配合して混合・攪拌し、その電極インク206を、図5で示した低含水量の流路位置に対応した低含水量流路領域SECLに相当するカソード領域形成用の電極インクとする。このアイオノマの追加配合により、カソード53におけるカーボン粒子150とアイオノマの配合比(例えば、重量比)は、完成品としての電池セルユニット40におけるものとなる。なお、電極インク204については、ステップS100と同じアイオノマBを配合することから、ステップS100においてステップS110での追加配合を見越してインク調合を行うこともできる。
【0051】
得られた電極インク204は、酸素透過性のアイオノマBのみを含み、電極インク206は、アイオノマBとこれより低い酸素透過性のアイオノマAを混在して含む。よって、完成品としての電池セルユニット40におけるカソード53では、電極インク204を用いて形成されたカソード流域の方が、電極インク206を用いて形成されたカソード流域より高い酸素透過性を備えることになる。既述した電極インク200と電極インク202との関係では、電極インク200、202、204、206の順で酸素透過性が低下することになる。
【0052】
こうしてインクが調合されると、図8に示すように、電池セルユニット40の積層位置およびセル内流路位置を考慮してカソード形成用インクを使い分け、電解質膜51にカソード53を形成する(ステップS120)。図12はスタック端部の積層位置を取る電池セルユニット40におけるカソード53の形成の様子を示す説明図、図13はスタック中央の積層位置を取る電池セルユニット40におけるカソード53の形成の様子を示す説明図である。
【0053】
図12に示すように、電極インク200と電極インク202のそれぞれに専用のインクノズル201とインクノズル203を割り付け、各インクを専用ノズルから噴射するようにする。その上で、高含水量のセル積層位置(スタック端部)に属することになる電池セルユニット40の枚数分、次のようにしてカソード53を形成する。まず、剥離性を有する図示しない基板の表面に、図示する低含水量流路領域SECLに相当する形状のマスクを設置し、マスクされていない範囲において、インクノズル201から電極インク200を噴射しつつ、このインクノズル201を図示する高含水量流路領域SECHに相当する領域に亘って走査する。これにより、高い酸素透過性を有するアイオノマ(アイオノマC)含有の電極インク200を用いて高含水量流路領域SECHに相当するカソード領域が形成される。
【0054】
次いで、低含水量流路領域SECLに相当する領域のマスクを除去して、電極インク200にて形成済みのカソード領域を新たにマスクし、マスク除去領域において、インクノズル203から電極インク202を噴射しつつ、このインクノズル203を図示する低含水量流路領域SECLに相当する領域に亘って走査する。これにより、電極インク200より低い酸素透過性を有するアイオノマ(アイオノマCとアイオノマBの混在)含有の電極インク202を用いて低含水量流路領域SECLに相当するカソード領域が形成される。その後、マスクを除去すると、電極インク200にて形成済みのカソード領域(高含水量流路領域SECH)と電極インク202にて形成済みのカソード領域(低含水量流路領域SECL)とが接合したカソード53がインクにて基台に形成される。こうして基板に形成済みのカソード53を、電解質膜51の一方膜面に転写して、カソード53を電解質膜51に形成する。
【0055】
低含水量のセル積層位置(スタック中央)に属することになる電池セルユニット40についても、その枚数分、同様にしてカソード53を形成する。即ち、図13に示すように、剥離性を有する図示しない基板の表面に、図示する低含水量流路領域SECLに相当する形状のマスクを設置し、マスクされていない範囲において、インクノズル205から電極インク204を噴射しつつ、このインクノズル205を図示する高含水量流路領域SECHに相当する領域に亘って走査する。これにより、電池セル内で比較した場合に高い酸素透過性を有するアイオノマ(アイオノマB)含有の電極インク204を用いて高含水量流路領域SECHに相当するカソード領域が形成される。
【0056】
次いで、低含水量流路領域SECLに相当する領域のマスクを除去して、電極インク204にて形成済みのカソード領域を新たにマスクし、マスク除去領域において、インクノズル207から電極インク206を噴射しつつ、このインクノズル207を図示する低含水量流路領域SECLに相当する領域に亘って走査する。これにより、電極インク204より低い酸素透過性を有するアイオノマ(アイオノマBとアイオノマAの混在)含有の電極インク206を用いて低含水量流路領域SECLに相当するカソード領域が形成される。その後、マスクを除去すると、電極インク204にて形成済みのカソード領域(高含水量流路領域SECH)と電極インク206にて形成済みのカソード領域(低含水量流路領域SECL)とが接合したカソード53がインクにて基台に形成される。こうして基板に形成済みのカソード53を、電解質膜51の一方膜面に転写して、カソード53を電解質膜51に形成する。
【0057】
こうしたカソード53の形成と前後して、電解質膜51の他方の膜面にアノード52を転写・形成する(ステップS130)。アノード52の形成用インクは、単一のアイオノマで触媒152を担持済みカーボン粒子150を被覆したインクとできるほか、カソード形成用インクと同様に、異なる酸素透過性を有するよう調合したインクを用いることができる。アノード52の形成により、図2に示すMEAが得られる。
【0058】
次に、アノード52とカソード53を電解質膜51に形成済みのMEAを、その両側からアノード側ガス拡散層54とカソード側ガス拡散層55とで挟持し、更にこれをセパレーター41で挟持する。これにより、高含水量のセル積層位置(スタック端部)に属する枚数分の電池セルユニット40と、低含水量のセル積層位置(スタック中興)に属する枚数分の電池セルユニット40とが得られる(ステップS140)。その後は、エンドプレート10aや絶縁板20a、並びに締結シャフト100を準備して、電池セルユニット40を図1に示すようにスタック構造に積層して、燃料電池10を製造する(ステップS150)。
【0059】
こうして製造された本実施例の燃料電池10では、次の利点がある。図14は電池セルユニット40を単位とした発電性能の向上の様子を示す説明図である。この図は、比較例電池セルと実施例セル(電池セルユニット40)とにおけるセル内エアー流路43の流路軌跡に沿った電流密度の状況を示している。比較例電池セルは、カソード53の全域を図7に示す低酸素透過性を有する単一のアイオノマAにて触媒152を被覆して構成し、このカソード53を含む電池セルユニットである。よって、この比較例電池セルは、セル内エアー流路43の流路軌跡における高含水量流路領域SECHと低含水量流路領域SECLの両領域において、共に、低い酸素透過性アイオノマを有する。実施例電池セルは、図12に示すように、セル内エアー流路43の流路軌跡における高含水量流路領域SECHについては、電極インク200を用いて形成し、低含水量流路領域SECLについては、電極インク202を用いて形成したカソード53を含む電池セルユニット40である。即ち、この実施例電池セルは、セル内エアー流路43の流路軌跡における高含水量流路領域SECHでは高い酸素透過性を有するアイオノマAにて触媒152を被覆して高酸素透過性を備え、低含水量流路領域SECLではこれより低い酸素透過性を有するアイオノマ(アイオノマAとアイオノマBの混在)にて触媒152を被覆した低酸素透過性を備える。
【0060】
上記の比較例電池セルと実施例電池セルとを、共に所定の運転条件で運転させ、その運転中の電流密度をセル内エアー流路43の流路軌跡の各流路位置ごとに測定して、各電池セルの含水量の相違に基づく発電状況を調べた。上記の運転を−20℃の低温環境下での始動運転とした場合の結果が図14である。そして、この図14(A)に示すように、カソード53を構成するアイオノマの酸素透過性が低く、セル内エアー流路43の流路軌跡において酸素透過性に差のない比較例電池セルでは、低含水量流路領域SECLでは、比較的高い電流密度が得られるものの、高含水量流路領域SECHでは、低い電流密度しか得られないことが判った。つまり、この比較例電池セルでは、セル面内、詳しくは電極面内において電流密度が相違することから、セル全体としての発電能力の向上の余地が見られる。
【0061】
これに対し、カソード53を構成するアイオノマの酸素透過性を高含水量流路領域SECHで低含水量流路領域SECLより大きくした実施例電池セル(電池セルユニット40)では、図14(B)に示すように、低含水量流路領域SECLで比較的高い電流密度を得ることができる共に、高含水量流路領域SECHにあっても、低含水量流路領域SECLとほぼ同程度の高い電流密度を得ることができた。従って、電池セル単位で比較した場合、本実施例の電池セルユニット40によれば、低温環境下での始動運転を図るに当たり、電池セルの電極面内における発電分布の均一化、延いては電池セルとしての発電能力の向上を図ることができる。こうした現象は、次のように説明できる。図15は比較例電池セルと実施例電池セルの高含水量流路領域SECHにおける酸素透過の様子をアイオノマの酸素透過性と関連付けて模式的に示す説明図である。
【0062】
−20℃の低温環境下での始動運転させる場合、高含水量流路領域SECHでは、その高い含水量により、カーボン粒子を被覆したアイオノマ表面は、その多くの領域で氷により覆われる。この状態では、氷に覆われていないアイオノマ表面に酸素が接触する。比較例電池セルでは、触媒担持済みのカーボン粒子を被覆するアイオノマ(アイオノマA)の酸素透過性が高含水量流路領域SECHにおいて既述したように低いので、アイオノマ表面に接触した酸素は、アイオノマを透過してカーボン粒子表面に担持済みのPt触媒にまで達し難くなる。このため、高含水量流路領域SECHのカソードにおいて電気化学反応が緩慢となり、図14(A)に示すように、高含水量流路領域SECHの電流密度が低含水量流路領域SECLに比べて低くなる。なお、低含水量流路領域SECLでは、アイオノマの酸素透過性は低いものの、含水量が少ない分、氷で覆われないアイオノマ表面が増えて酸素透過機会が増すので、低含水量流路領域SECLでの能力低下は現実的な問題とはならない。
【0063】
これに対し、実施例電池セルでは、高含水量流路領域SECHのアイオノマの酸素透過性を大きくしたので、氷に覆われていないアイオノマ表面に接触した酸素は、アイオノマを透過してカーボン粒子表面に担持済みのPt触媒にまで達し易くなる。よって、実施例電池セルによれば、高含水量流路領域SECHのカソードにおける電気化学反応を上記の低温環境下での始動運転の際に活発化させ、図14(B)に示すように、高含水量流路領域SECHの電流密度を低含水量流路領域SECLとほぼ同程度に高めて電池セルの電極面内における発電分布の均一化、延いては電池セル(電池セルユニット40)としての発電能力の向上を図ることができる。本実施例の燃料電池10では、こうした発電分布の均一化とそれによる発電能力の向上を、スタック構造として含むそれぞれの電池セルユニット40にて達成するので、電池全体としての発電能力の向上を図ることができる。
【0064】
しかも、始動の後に推移した通常運転にあっては、高含水量流路領域SECHにおいては、上記したようにアイオノマを経て多くの酸素を触媒担持済みカーボン粒子に透過させることができる。このため、本実施例の燃料電池10によれば、通常運転の状況下でも発電能力の向上を図ることができ、こうした能力向上に際して特段の処置を要しないので、簡便である。
【0065】
また、本実施例の燃料電池10では、電池セルユニット40のそれぞれにおけるセル内エアー流路43の流路軌跡の流路位置に応じた既述したようなアイオノマの酸素透過性の設定に加え、電池セルユニット40の積層位置に応じた含水量の大小に応じても、電池セルユニット40についてそのカソード53のアイオノマの酸素透過性を設定した。つまり、本実施例の燃料電池10では、まず、含水量の少ない積層位置となるスタック構造の中央に積層される電池セルユニット40と、含水量の多い積層位置となるスタック構造の端部側に積層される電池セルユニット40とを、電池セルにおける含水量差と同様に、低含水量流路領域SECLと高含水量流路領域SECHとに区別する(図6参照)。次いで、高含水量流路領域SECH(エンドプレート側の積層位置)に属する電池セルユニット40については、その電解質膜51のアイオノマの酸素透過性を、低含水量流路領域SECL(スタック構造の中央位置)に属する電池セルユニット40より大きくし、積層位置による酸素透過性に差異を持たせた。より詳しくは、高含水量流路領域SECH(エンドプレート側の積層位置)に属する電池セルユニット40と、低含水量流路領域SECL(スタック構造の中央位置)に属する電池セルユニット40とにおいて、それぞれの電池セルユニット40におけるセル内エアー流路43の流路軌跡の流路位置に応じた高含水量流路領域SECHで上記した積層位置による酸素透過性に差異を持たせると共に、それぞれの電池セルユニット40におけるセル内エアー流路43の流路軌跡の流路位置に応じた低含水量流路領域SECLでも上記した積層位置による酸素透過性に差異を持たせた。
【0066】
この結果、本実施例の燃料電池10では、高含水量流路領域SECH(エンドプレート側の積層位置)に属する電池セルユニット40のカソード53において、アイオノマを経て多くの酸素を触媒担持済みカーボン粒子150に透過させて電気化学反応を進行させることができるので、低温環境下での始動に際して、氷で覆われていないアイオノマ表面からその被覆した触媒担持済みカーボン粒子150に酸素を透過させる。よって、本実施例の燃料電池10によれば、低温環境下での始動性を、膜厚を増した電極や水透過性の低いガス拡散層とすることなく簡便に高めて、始動時の発電能力を向上できる。しかも、通常運転に推移した後にあっては、高含水量流路領域SECH(エンドプレート側の積層位置)に属する電池セルユニット40であっても、上記したようにアイオノマを経て多くの酸素を触媒担持済みカーボン粒子150に透過させることができるので、通常運転の状況下での発電能力の低下についてもこれを抑制できる。しかも、始動時と通常運転時とにおいて、特段の処置を要しないので、簡便である。
【0067】
また、本実施例では、電池セルユニット40の積層位置、および電池セルユニット40におけるセル内エアー流路43の流路軌跡の流路位置に応じたインク調合(図8のステップS100〜110、図9〜図11)と、その調合済みのインクによるカソード形成を経たMEAの形成、その後のガス拡散層とセパレーターでのMEA挟持により、上記したように発電能力の高い燃料電池10を容易に製造することができる。
【0068】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、上記の実施例では、電池セルユニット40の積層位置に応じたカソード53のアイオノマの酸素透過性の設定と、電池セルユニット40におけるセル内エアー流路43の流路軌跡の流路位置に応じたアイオノマの酸素透過性の設定とを併用したが、いずれか一方を行うようにでき、こうしても、電池性能の向上を図ることができる。
【0069】
また、本実施例では、カソード53について、その有するアイオノマの酸素透過性の設定を行ったが、アノード52についてもアイオノマの酸素透過性の設定を行うようにすることもできる。固体高分子型の電解質膜51は、適宜な湿潤状態にあるときにプロトン伝導を好適に発揮することから、燃料ガスである水素ガスを加湿供給することがある。加湿のため水素ガスに加えられた水蒸気は、カソード53における生成水の水蒸気と同様、アノード52の側のセル内水素ガス流路42に下流側に運ばれるので、アノード52においても、ガスに含まれる含水量がセル内水素ガス流路42の流路軌跡の流路位置に応じて異なる。よって、アノード52についても、セル内水素ガス流路42の流路軌跡の流路位置に応じたアイオノマの酸素透過性の設定を行えば、電池セルユニット40、延いては燃料電池10としての電池能力の向上に有益である。
【0070】
電池セルユニット40のカソード53におけるセル内エアー流路43の流路軌跡は、上記した実施例で示した軌跡以外を取り得るので、この点につき説明する。図16は電池セルユニット40における空気の入口側と出口側との間においてセル内エアー流路43が平行配設された形態を示す説明図である。
【0071】
図16に示す電池セルユニット40Aは、空気の入口側において、その下流に平行で多列とされたセル内エアー流路43に空気を分流し、各流路の末端から流れ出た空気を合流させて出口から排出させる。こうした流路軌跡のセル内エアー流路43を有する電池セルユニット40Aでは、入口側での分流と出口側での合流を起こす都合から、セル内エアー流路43を上流下流に2分割して、それぞれの領域についての含水量の大小規定を行った。その結果、上流側領域は、図5で説明した低含水量流路領域SECLに相当する低含水量であり、下流領域は、高含水量流路領域SECHに相当する低含水量であった。このため、下流領域(高含水量流路領域SECH)を占めるカソード53のアイオノマの酸素透過性を、上流領域(低含水量流路領域SECL)を占めるカソード53のアイオノマの酸素透過性より大きくした。そして、図16に示す分流・合流を起こす流路軌跡のセル内エアー流路43を有する電池セルユニット40Aにあっても、既述したように電流分布の均一化、電池性能の向上を図ることができる。
【0072】
スタック構造の燃料電池10では、各電池セルユニット40へのガス給排を上記した実施例のように一方のエンドプレート10aの側で行う以外のガス給排を取り得るので、この点につき説明する。図17はスタックに対するガス給排をそれぞれのエンドプレート10aで行う燃料電池10Aを示す説明図である。
【0073】
図17に示す燃料電池10Aは、一方のエンドプレート10aの側からガスを供給し、その供給したガスを、それぞれの電池セルユニット40に行き渡らせ、電池セルユニット40で未消費のガスを、他方のエンドプレート10aの側から排出する。こうしたガス給排を行う燃料電池10Aでは、ガス入口側の電池セルユニット40で生成された生成水やガス加湿用の水蒸気は、下流側の電池セルユニット40に運ばれる。このため、スタック構造におけるガス入口側から出口側に掛けての含水量は、電池セルユニット40の積層位置に応じて相違し、スタック構造におけるガス入口側の積層位置に属する電池セルユニット40と、スタック中央の積層位置に属する電池セルユニット40と、スタック構造におけるガス出口側の積層位置に属する電池セルユニット40とについての含水量の大小規定を行った。その結果、スタック中央の積層位置に属する電池セルユニット40は、図6で説明した低含水量流路領域SECLに相当する低含水量であり、ガス入口側の積層位置に属する電池セルユニット40とガス出口側の積層位置に属する電池セルユニット40とは、図6で説明した高含水量流路領域SECHに相当する高含水量であった。この場合、ガス出口側の積層位置では、ガスが集まって通過する都合上、当該積層位置に属する電池セルユニット40の数はガス入口側より多い。
【0074】
こうしたことを踏まえ、ガス入口側およびガス出口側の積層位置に属する電池セルユニット40については、そのカソード53のアイオノマの酸素透過性を、スタック中央の積層位置(高含水量流路領域SECH)に属する電池セルユニット40におけるカソード53のアイオノマの酸素透過性より大きくし、ガス出口側では、このように高い酸素透過性とした電池セルユニット40の数を多くした。そして、図17に示すようにガス給排を両エンドプレートで行う燃料電池10Aあっても、既述したように電池性能の向上を図ることができる。なお、それぞれの電池セルユニット40においては、図12〜図13或いは図16で示したように流路軌跡における流路位置(低含水量流路領域SECLと高含水量流路領域SECH)でそのカソード53のアイオノマの酸素透過性を高低設定するようにすることもできる。
【0075】
また、上記した実施例では、電池セルユニット40を単位にそのカソード53のアイオノマの酸素透過性を設定するに当たり、スタック構造における電池セル積層位置に応じた含水量の大小に着目したが、次のように変形することもできる。例えば、図4に示すカーボン粒子150に担持した触媒152の溶出或いは劣化等の形態変化により触媒機能の低下が、スタック構造における電池セルユニット40の積層位置に応じて起き、その低下の程度が積層位置に起因して相違することがある。具体的には、高電位に晒され得る積層位置の電池セルユニット40や、フラッディング等により電位変動が大きくなり得る積層位置の電池セルユニット40、複数スタックを並列或いは直列に備えた電池構成では各スタックにガス分配を行う分配器の近傍の積層位置の電池セルユニット40等では、触媒溶出や触媒機能の低下が他の積層位置の電池セルユニット40より顕著となる。このため、高電位に晒されたり電位変動が大きくなる積層位置の電池セルユニット40や分配器の近傍の積層位置の電池セルユニット40については、そのカソード53のアイオノマの酸素透過性を、他の積層位置の電池セルユニット40より大きくすることができる。こうすれば、触媒溶出や触媒機能の低下等により発電能力の低下が想定される積層位置の電池セルユニット40については、アイオノマの酸素透過性を大きくして酸素を触媒担持済みのカーボン粒子150まで透過させ易くして、発電能力の低下を抑制できる。なお、分配器の近傍の積層位置の電池セルユニット40については、分配後の空気が流入する領域(空気流入領域)で高電位に晒されることから、当該空気流入領域を占めるカソード53のアイオノマ154の酸素透過性を大きくするだけでもよい。
【0076】
また、燃料電池10の運転状態を好適に維持するには、スタック構造における一つ或いは複数の電池セルユニット40にセンサーを設けてセル発電状態をセンシングし、その結果に基づき運転制御を行うことが望ましい。例えば、こうしたセンシング対象となる電池セルユニット40を、他の電池セルユニット40よりも触媒量を減らしたり、ガス供給流路や冷却方法を変えるようにして、センシング対象となる電池セルのストイキ感度を他の電池セルより上げてセンシングする。こうしたセンシング対象の電池セルユニット40は、センシング対象以外の他の電池セルユニット40に比べて電位変動の程度はもとより、電位変動の頻度が大きくなるので、発電能力の低下が顕著となることが想定される。センシング対象の電池セルユニット40とセンシング対象以外の他の電池セルユニット40とは、スタック構造における積層位置が相違するとも言えるので、センシング対象となる電池セルとして積層される積層位置の電池セルユニット40については、そのカソード53のアイオノマの酸素透過性を、他の積層位置のセンシング対象以外の電池セルユニット40より大きくすることができる。こうすれば、大きな電位変動を高い頻度で受けることで発電能力の低下が想定されるセンシング対象の電池セルユニット40については、アイオノマの酸素透過性を大きくして酸素を触媒担持済みのカーボン粒子150まで透過させ易くして、発電能力の低下を抑制できるので、センシング対象となる電池セルとしての長期間の使用も可能となる。
【0077】
この他、上記の実施例では、触媒152をカーボン粒子150に担持させ、カソード53にあっては、触媒152を担持済みのカーボン粒子150をアイオノマで被覆するようにしたが、触媒152をアイオノマで被覆した状態で含むカソード53とすることもできる。また、カーボン粒子150に代わり、導電性の他の担体、例えば、カーボン繊維を担体として当該繊維に触媒152を担持させ、これをアイオノマで被覆して含むカソード53とすることもできる。
【符号の説明】
【0078】
10、10A…燃料電池
10a…エンドプレート
12IN…水素供給口
12OUT…水素排気口
14IN…空気供給口
14OUT…空気排気口
16IN…冷却水供給口
16OUT…冷却水排出口
20a…絶縁板
31…前端側ターミナルプレート
32…後端側ターミナルプレート
33…出力端子
40、40A…電池セルユニット
41…セパレーター
42…セル内水素ガス流路
43…セル内エアー流路
44〜49…貫通孔
50…電池セル
51…電解質膜
52…アノード
53…カソード
54…アノード側ガス拡散層
55…カソード側ガス拡散層
100…締結シャフト
150…カーボン粒子
152…触媒
154…アイオノマ
156…空隙
200…電極インク
201…インクノズル
202…電極インク
203…インクノズル
204…電極インク
205…インクノズル
206…電極インク
207…インクノズル
SECH…高含水量流路領域
SECL…低含水量流路領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両膜面にアノードとカソードの両電極を接合した膜電極接合体をガス拡散層で挟持した電池セルを複数積層したスタック構造の燃料電池であって、
前記カソードは、触媒を、プロトン伝導性と酸素透過性を有するアイオノマで被覆して含み、
前記カソードにおける前記アイオノマの前記酸素透過性を前記スタック構造における前記電池セルの積層位置またはセル面内方向に応じて異なるものとした
燃料電池。
【請求項2】
前記酸素透過性を異なるものとするに当たり、前記電池セル当たりの含水量が多くなる前記電池セルにおける前記カソードの前記酸素透過性を、前記含水量が少ない他の前記電池セルにおける前記カソードの前記酸素透過性より大きくした請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池であって、
前記スタック構造の端部の側において、前記スタック構造に含まれるそれぞれの前記電池セルへのガスの給排を行うガス給排系を備え、
前記スタック構造の端部の側の積層位置の前記電池セルにおける前記カソードの前記酸素透過性を、前記スタック構造の中央の側の積層位置の前記電池セルにおける前記カソードの前記酸素透過性より大きくした
燃料電池。
【請求項4】
電解質膜の両膜面にアノードとカソードの両電極を接合した膜電極接合体をガス拡散層で挟持した電池セルと、前記カソードの電極面と対向する前記ガス拡散層に対してガスを供給するガス供給流路とを有する燃料電池であって、
前記カソードは、触媒を、プロトン伝導性と酸素透過性を有するアイオノマで被覆して含み、
前記カソードにおける前記アイオノマの前記酸素透過性を前記ガス供給流路の流路軌跡における流路位置に応じて異なるものとし、電池セル面における含水量が多くなる流路位置を占める領域の前記カソードの前記酸素透過性を、前記含水量が少ない他の流路位置を占める領域の前記カソードの前記酸素透過性より大きくした
燃料電池。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池であって、
前記流路軌跡における流路末端の側を占める領域の前記カソードの前記酸素透過性を、前記流路末端より上流の側を占める領域の前記カソードの前記酸素透過性より大きくした燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−4251(P2013−4251A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133037(P2011−133037)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】