説明

燃料電池

【課題】膜電極ガス拡散層接合体を備える燃料電池において、膜電極接合体の耐久性を向上させる。
【解決手段】燃料電池において、膜電極ガス拡散層接合体は、アノード側セパレータプレート、および、カソード側セパレータプレートと向かい合う面内に、アノード側セパレータプレート、および、カソード側セパレータプレートによって挟持されたときに作用する押圧力が比較的高い領域Aと、上記押圧力が領域Aよりも低い領域Bと、を含む。そして、領域Bには、膜電極接合体120のアノード側触媒層120aとアノード側ガス拡散層122(撥水層122p)との間に、イオン交換樹脂からなり、膜電極接合体120のアノード側触媒層120aとアノード側ガス拡散層122(撥水層122p)とを接合する接合層126が設けられる。一方、領域Aには、接合層126が設けられない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池がエネルギ源として注目されている。この燃料電池には、電解質膜として固体高分子膜を用いた固体高分子型燃料電池がある。そして、固体高分子型燃料電池には、膜電極接合体の表面にガス拡散層を接合してなる膜電極ガス拡散層接合体が用いられることが多い。なお、膜電極接合体は、電解質膜の両面に電極層を形成してなる。
【0003】
このような燃料電池について、膜電極ガス拡散層接合体において、膜電極接合体の電極層(触媒層)とガス拡散層との密着強度を上げる技術が提案されている。例えば、下記特許文献1に記載された技術では、触媒層とガス拡散層との間の少なくとも一部の非発電部位に、カーボンに対するナフィオン(登録商標)の比率であるN/Cの値を高くした接着部を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−266578号公報
【特許文献2】特開2010−27284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載された技術では、接合部がカーボンを含むため、接合部において、触媒層やガス拡散層との密着強度(密着性)を弱めるおそれがあった。そして、触媒層とガス拡散層との密着強度が低い場合、膜電極接合体では、電解質膜の変形(膨潤/収縮(乾燥))に起因して、触媒層にひび割れが生じやすくなり、膜電極接合体の耐久性の低下を招く。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、膜電極ガス拡散層接合体を備える燃料電池において、膜電極接合体の耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
燃料電池であって、
電解質膜の両面に電極層を形成してなる膜電極接合体と、該膜電極接合体の表面に接合されたガス拡散層と、を有する膜電極ガス拡散層接合体と、
前記膜電極ガス拡散層接合体を挟持し、該膜電極ガス拡散層接合体の表面に発電に供する反応ガスが流れるガス流路を形成するガス流路形成部材と、
を備え、
前記膜電極ガス拡散層接合体は、前記ガス流路形成部材と向かい合う面内に、
第1の領域と、
前記ガス流路形成部材によって挟持されたときに作用する押圧力が前記第1の領域よりも低い第2の領域と、
を含み、
前記第2の領域の少なくとも一部には、前記膜電極接合体と前記ガス拡散層との間に、前記膜電極接合体と前記ガス拡散層とを接合する接合層が設けられている、
燃料電池。
【0009】
膜電極ガス拡散層接合体を備える燃料電池では、膜電極ガス拡散層接合体において、ガス流路形成部材によって挟持されたときに作用する押圧力が比較的高い第1の領域では、電極層とガス拡散層との密着強度は、比較的高くなる。一方、ガス流路形成部材によって挟持されたときに作用する押圧力が第1の領域よりも低い第2の領域では、電極層とガス拡散層との密着強度は、第1の領域における電極層とガス拡散層との密着強度よりも低くなる。
【0010】
適用例1の燃料電池では、上記第2の領域の少なくとも一部に接合層を設けることによって、電極層とガス拡散層との密着強度を向上させることができる。なお、上記第1の領域では、接合層を設けなくても、上記押圧力によって、十分に高い密着強度を得ることができる。適用例1の燃料電池によって、膜電極接合体の耐久性を向上させることができる。
【0011】
適用例1の燃料電池において、接合層は、イオン交換樹脂からなるものとし、接合層には、電極層とガス拡散層との密着強度を低下させる材料(例えば、カーボン粒子等)が含まれないようにすることが好ましい。こうすることによって、接合層に電極層とガス拡散層との密着強度を低下させる材料が含まれる場合よりも、電極層とガス拡散層との密着強度を向上させることができる。なお、適用例1の燃料電池において、接合層は、膜電極接合体のアノード側のみに設けるようしてもよいし、カソード側のみに設けるようにしてもよいし、アノード側とカソード側の双方に設けるようにしてもよい。
【0012】
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池であって、
前記ガス流路形成部材は、前記膜電極ガス拡散層接合体と当接する側の表面に、前記ガス流路を形成する凸部および凹部であって、前記膜電極ガス拡散層接合体と当接する凸部と、前記膜電極ガス拡散層接合体と当接しない凹部と、を備え、
前記接合層は、前記第2の領域において、前記ガス流路形成部材における前記凹部と対向する領域に設けられている、
燃料電池。
【0013】
適用例2の燃料電池では、上記第2の領域において、ガス流路形成部材における凹部と対向する領域における電極層とガス拡散層との密着強度を向上させることができる。
【0014】
なお、ガス流路形成部材における凹部は、反応ガスが流れる空間を形成する。このため、接合層は、第2の領域において、ガス流路形成部材における凹部と対向する領域の全部ではなく、一部に設けられているようにすることが好ましい。こうすることによって、接合層を設けることによるガス拡散層から電極層への反応ガスの拡散性の低下を抑制することができる。
【0015】
[適用例3]
適用例1または2記載の燃料電池であって、
前記接合層は、イオン交換樹脂からなり、
前記第2の領域において、前記膜電極ガス拡散層接合体の外部から内部に燃料ガスが導入される入口領域、および、前記膜電極ガス拡散層接合体の外部から内部に酸化剤ガスが導入される入口領域の少なくとも一方に設けられている、
燃料電池。
【0016】
一般に、膜電極接合体(膜電極ガス拡散層接合体)において、燃料ガスの入口領域、および、酸化剤ガスの入口領域では、電解質膜が乾燥しやすい。そして、電解質膜が乾燥すると、プロトン伝導性が低下し、燃料電池の発電性能の低下を招く。一方、上記接合層は、イオン交換樹脂からなるので、比較的高い保水性を有している。したがって、適用例3の燃料電池によって、電解質膜の燃料ガスの入口領域、および、酸化剤ガスの入口領域の少なくとも一方の乾燥を抑制することができる。
【0017】
[適用例4]
適用例1記載の燃料電池であって、
前記膜電極ガス拡散層接合体は、前記ガス拡散層として、
前記膜電極接合体のアノード側の表面に接合されたアノード側ガス拡散層と、
前記膜電極接合体のカソード側の表面に接合されたカソード側ガス拡散層と、
を有しており、
前記アノード側ガス拡散層と前記カソード側ガス拡散層とうちの一方のガス拡散層は、前記膜電極接合体を挟んで他方のガス拡散層と対向する領域であって、前記膜電極接合体の面内において、前記他方のガス拡散層が接合された領域よりも内側の領域に接合されており、
前記接合層は、さらに、前記膜電極接合体の前記一方のガス拡散層が接合される側の表面において、前記一方のガス拡散層の周縁部と前記膜電極接合体との間から前記一方のガス拡散層が接合される領域よりも外側の領域に亘って設けられている、
燃料電池。
【0018】
適用例4の燃料電池によって、膜電極接合体からの上記一方のガス拡散層、すなわち、上記他方のガス拡散層が接合された領域よりも内側の領域に接合されたガス拡散層の周縁部の剥離を抑制することができる。なお、適用例4の燃料電池において、膜電極接合体において上記一方のガス拡散層が接合される領域よりも外側の領域であって、接合層が設けられる領域には、電解質膜上に電極層が形成されていなくてもよい。
【0019】
[適用例5]
適用例1ないし4のいずれかに記載の燃料電池であって、
前記ガス拡散層は、前記膜電極接合体と接合される側の面に、撥水層を備える、
燃料電池。
【0020】
適用例5の燃料電池によって、膜電極接合体からの排水性を向上させ、フラッディングを抑制することができる。
【0021】
本発明は、上述した種々の特徴を必ずしも全て備えている必要はなく、その一部を省略したり、適宜、組み合わせたりして構成することができる。また、本発明は、上述の燃料電池としての構成の他、燃料電池の製造方法、膜電極ガス拡散層接合体の製造方法の発明として構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例としての燃料電池の概略構成を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施例としての燃料電池の概略構成を示す説明図である。
【図3】アノード側セパレータプレート15の構成を示す説明図である。
【図4】カソード側セパレータプレート16の構成を示す説明図である。
【図5】樹脂フレーム13の概略構成を示す説明図である。
【図6】樹脂フレーム14の概略構成を示す説明図である。
【図7】膜電極ガス拡散層接合体12の断面構造を示す説明図である。
【図8】膜電極ガス拡散層接合体12の製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき説明する。
A.実施例:
図1,2は、本発明の一実施例としての燃料電池の概略構成を示す説明図である。本実施例の燃料電池は、複数の単セル10を積層したスタック構造を有している。図1に、単セル10の分解斜視図を示した。また、図2に、燃料電池の断面模式図を示した。図示するように、単セル10は、膜電極ガス拡散層接合体12と、膜電極ガス拡散層接合体12の周縁部を挟持して支持する一対の樹脂フレーム13,14と、膜電極ガス拡散層接合体12を挟持する一対のセパレータプレート(アノード側セパレータプレート15、および、カソード側セパレータプレート16)と、を備えている。
【0024】
膜電極ガス拡散層接合体12は、後から示すように(図7参照)、電解質膜の両面に電極層を形成してなる膜電極接合体と、膜電極接合体の表面に接合されたガス拡散層と、を備えている。本実施例の燃料電池は、固体高分子型燃料電池であり、電解質膜は、固体高分子材料、例えば、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜によって構成されている。電極層(アノード、および、カソード)は、触媒として、例えば、白金あるいは白金合金を備えており、これらの触媒を、導電性を有する担体上に担持させることによって形成されている。具体的には、電極層は、上記触媒を担持したカーボン粒子と、電解質膜を構成する高分子電解質と同じ種類の電解質と、を含有する触媒ペーストを作製し、この触媒ペーストを電解質膜上に塗布することにより形成されている。ガス拡散層は、例えば、カーボンペーパなどの導電性を有する多孔質体によって構成されている。
【0025】
なお、本実施例の燃料電池では、膜電極ガス拡散層接合体12の構成が、面内の領域ごとに異なっている(図2に示した領域A,B,C)。この膜電極ガス拡散層接合体12については、後から詳しく説明する。
【0026】
樹脂フレーム13は、膜電極ガス拡散層接合体12とアノード側セパレータプレート15との間に配置されて、膜電極ガス拡散層接合体12とアノード側セパレータプレート15との間に形成されるガス流路(水素流路)におけるガスシール性を確保する。また、樹脂フレーム14は、膜電極ガス拡散層接合体12とカソード側セパレータプレート16との間に配置されて、膜電極ガス拡散層接合体12とカソード側セパレータプレート16との間に形成されるガス流路(空気流路)におけるガスシール性を確保する。
【0027】
アノード側セパレータプレート15は、膜電極ガス拡散層接合体12との間に、燃料ガスとしての水素が流れるガス流路(水素流路)を形成するガス流路形成部材である。アノード側セパレータプレート15の表面には、ガス流路を形成するための凹凸形状(凹部および凸部)が形成されている。また、カソード側セパレータプレート16は、膜電極ガス拡散層接合体12との間に、酸化剤ガスとしての空気(酸素)が流れるガス流路(空気流路)を形成するガス流路形成部材である。カソード側セパレータプレート16の表面には、ガス流路を形成するための凹凸形状(凹部および凸部)が形成されている。
【0028】
本実施例のアノード側セパレータプレート15、および、カソード側セパレータプレート16は、略四角形の金属製薄板部材であり、プレス成形によって上記凹凸形状が形成されるとともに、所定の位置に穴部22〜27が設けられている。このように、金属製薄板をプレス成形することによって凹凸形状が形成されているアノード側セパレータプレート15、および、カソード側セパレータプレート16では、一方の面に形成された凹凸部と、他方の面に形成された凹凸部とは、互いに裏返し形状となっている。なお、裏返し形状とは、一方の面に形成された凸部の形状が、他方の面に形成された凹部の形状に対応し、一方の面に形成された凹部の形状が、他方の面に形成された凸部の形状に対応する関係が、両面間で成立する形状を指す。すなわち、アノード側セパレータプレート15、および、カソード側セパレータプレート16が有する凹凸形状は、表裏で凹凸が反転する形状となっている。このような凹凸形状によって、アノード側セパレータプレート15と膜電極ガス拡散層接合体12との間には、水素流路が形成される。図2では、水素流路となる空間に、「H2」と記している。また、カソード側セパレータプレート16と膜電極ガス拡散層接合体12との間には、空気流路が形成される。図2では、空気流路となる空間に、「O2」と記している。なお、隣接する単セル10間では、一方の単セル10が備えるアノード側セパレータプレート15の上記凹凸形状と、他方の単セル10が備えるカソード側セパレータプレート16の上記凹凸形状とによって、冷媒が流れる冷媒流路が形成される。図2では、冷媒流路となる空間に、「冷媒」と記している。
【0029】
図3は、アノード側セパレータプレート15の構成を示す説明図である。図3(A)に、ガス流路面側から見た平面図を示した。また、図3(B)に、冷媒流路面側から見た平面図を示した。なお、図3では、燃料電池を設置した際の水平方向に対応する方向を矢印Aで示し、鉛直方向に対応する方向を矢印Bで示している。
【0030】
アノード側セパレータプレート15は、その外周部に、6つの穴部22〜27を備えている。具体的には、アノード側セパレータプレート15には、図3(A)に示した鉛直方向の辺20に沿って、鉛直方向上方から順に、穴部22,23,24が形成されている。また、アノード側セパレータプレート15には、辺20に対向する辺21に沿って、鉛直方向上方から順に、穴部25,26,27が形成されている。これらの穴部22〜27は、後述するように、カソード側セパレータプレート16、および、樹脂フレーム13,14にも同様に形成されている。そして、アノード側セパレータプレート15、カソード側セパレータプレート16、および、樹脂フレーム13,14が積層されて燃料電池が組み立てられたときには、対応する穴部同士が積層方向に重なり合って、燃料電池内部を積層方向に貫通する流体流路を形成する。
【0031】
すなわち、穴部22は、燃料電池の外部から供給されて各単セル10のアノードに分配される水素が流れる水素供給マニホールドを形成し(図3〜5において、H2inと表す)、穴部27は、各単セル10のアノードから排出されたアノードオフガスを燃料電池の外部に導くアノードオフガス排出マニホールドを形成する(図3〜5において、H2outと表す)。また、穴部26は、燃料電池の外部から供給されて各単セル10に分配される空気が流れる空気供給マニホールドを形成し(図3〜5において、O2inと表す)、穴部23は、各単セル10のカソードから排出されたカソードオフガスを燃料電池の外部に導くカソードオフガス排出マニホールドを形成する(図3〜5において、O2outと表す)。また、穴部24は、燃料電池の外部から供給されて各単セル10間の冷媒流路に分配される冷媒が流れる冷媒供給マニホールドを形成し(図3〜5において、Refinと表す)、穴部25は、各単セル10間の冷媒流路を通過した冷媒を燃料電池の外部に導く冷媒排出マニホールドを形成する(図3〜5において、Refoutと表す)。
【0032】
また、アノード側セパレータプレート15のガス流路面には、膜電極ガス拡散層接合体12の表面とともにガス流路の内壁面を形成する第1の凹凸部が形成されている。第1の凹凸部が形成されて、表面上に水素が流れる略四角形の領域を、以下、発電領域30と呼ぶ。図3(A)では、発電領域30を破線で囲んで示した。本実施例では、第1の凹凸部は、略四角形状に形成されており、凸部として、2つの分割線状凸部40と、多数の分割領域内線状凸部41と、多数の突起部42と、を備えている。
【0033】
分割線状凸部40は、発電領域30内を略水平方向に伸長している線状の凸部である。一方の分割線状凸部40は、発電領域30の外周における辺20の近傍の辺に達する一端と、辺20に対向する辺21の近傍の辺から離間した他端と、を有する。また、他方の分割線状凸部40は、発電領域30の外周における辺21の近傍の辺に達する一端と、辺21に対向する辺20の近傍の辺から離間した他端と、を有する。
【0034】
分割領域内線状凸部41は、略水平方向に形成され、その両端が発電領域30の外周から離間した線状凸部であって、複数(本実施例では5つ)の分割領域内線状凸部41がまとまって、分割線状凸部40間、あるいは、分割線状凸部40と発電領域30の外周との間に配置されている。分割線状凸部40によって区画され、分割領域内線状凸部41がまとまって配置される領域を、以下、分割領域32と呼ぶ。本実施例では、2つの分割線状凸部40によって、3つの分割領域32が形成されている。分割領域32を、図3(A)において、一点鎖線で囲んで示した。
【0035】
突起部42は、上記分割領域32の外側に配置されて、分割領域32に流入あるいは分割領域32から流出するガスが流れる領域に、規則的に、すなわち、規則性を有する間隔で配置されている。突起部42が設けられたこのような領域としては、流出入領域33、および、接続領域34がある。流出入領域33は、穴部22の近傍、および、穴部27の近傍において、分割領域32の端部と、発電領域30の外周と、分割線状凸部40の一部分によって囲まれる領域である。接続領域34は、分割線状凸部40の上記他端と発電領域30の外周との間の離間部を含む領域であって、隣り合う2つの分割領域32の端部と、発電領域30の外周と、分割線状凸部40の一部分とによって囲まれる領域である。これら流出入領域33および接続領域34を、図3(A)において、二点鎖線で囲んで示した。なお、流出入領域33、および、接続領域34には、上記規則性を有する間隔で配置された突起部42間において、同じく規則性を有する間隔で配置された多数の凹部43が形成されている。具体的には、突起部42と凹部43とは、分割線状凸部40に平行な方向および垂直な方向に等間隔に交互に形成されている。
【0036】
本実施例では、発電領域30の外周における辺20近傍の辺に達する上記一端を有する分割線状凸部40と、辺21近傍の辺に達する上記一端を有する分割線状凸部40とが1つずつ設けられており、各々の分割線状凸部40における上記他端の近傍には、上記接続領域34が形成されている。これにより、本実施例では、3つの分割領域32が、接続領域34を介して、全体として直列に接続されている。
【0037】
アノード側セパレータプレート15の冷媒流路面には、発電領域30の裏面領域(以下の説明では、裏面領域も発電領域30と呼ぶ)において、対向するカソード側セパレータプレート16の表面とともに冷媒流路の内壁面を形成する第2の凹凸部が形成されている。第2の凹凸部は、凸部として、多数の冷媒流線状凸部45と、多数の突起部46と、を備えている(図3(B)参照)。
【0038】
冷媒流線状凸部45は、水平方向に設けられた線状凸部であって、その両端が、発電領域30の外周から離間している線状凸部である。この冷媒流線状凸部45は、ガス流路面における分割領域内線状凸部41間、あるいは、分割領域内線状凸部41と分割線状凸部40との間に形成される凹部の裏返し形状として形成されている。突起部46は、ガス流路面における流出入領域33および接続領域34の裏面において、ガス流路面に形成された既述した凹部43の裏返し形状として形成されている。なお、冷媒流路面には、ガス流路面に形成された突起部42の裏返し形状として、凹部48が形成されている。
【0039】
図4は、カソード側セパレータプレート16の構成を示す説明図である。図4(A)に、ガス流路面側から見た平面図を示した。また、図4(B)に、冷媒流路面側から見た平面図を示した。カソード側セパレータプレート16は、アノード側セパレータプレート15と略同一の外形形状を有する金属製薄板部材である。そして、カソード側セパレータプレート16には、アノード側セパレータプレート15と同様に、プレス成形によって表面に凹凸形状が形成されるとともに、穴部22〜27が設けられている。
【0040】
カソード側セパレータプレート16のガス流路面には、膜電極ガス拡散層接合体12の表面とともにガス流路の内壁面を形成する第1の凹凸部が形成されている。第1の凹凸部が形成されて、表面上に空気が流れる略四角形の領域を、以下、発電領域30と呼ぶ。図4(A)では、発電領域30を破線で囲んで示した。第1の凹凸部は、凸部として、2つの分割線状凸部60と、多数の分割領域内線状凸部61と、多数の突起部62と、を備えている。
【0041】
分割領域内線状凸部61は、アノード側セパレータプレート15のガス流路面に形成された分割領域内線状凸部41と同様に、略水平方向に形成され、その両端が発電領域30の外周から離間した線状凸部である。これらの分割領域内線状凸部61は、複数(本実施例では5つ)がまとまって分割線状凸部60と発電領域30の外周との間に配置され、分割領域32を形成する。また、分割線状凸部60は、アノード側セパレータプレート15のガス流路面に形成された分割線状凸部40と同様に、発電領域30の外周上に達する一端と、発電領域30の外周から離間した他端と、を有している。この分割線状凸部60は、上記分割領域32の間に設けられ、分割領域内線状凸部61と同様の長さであって発電領域30内を略水平方向に伸長する水平部と、水平方向に対して傾斜して設けられて発電領域30の外周に達する傾斜部とを備えている。本実施例では、2つの分割線状凸部60によって、3つの分割領域32が形成されている。
【0042】
また、突起部62は、上記分割領域32の外側に配置されて、分割領域32に流入あるいは分割領域32から流出するガスが流れる領域、すなわち、流出入領域33および接続領域34に、規則的に配置されている。流出入領域33は、穴部25,26の近傍、および、穴部23,24の近傍において、分割領域32の端部と、発電領域30の外周と、分割線状凸部60の上記傾斜部によって囲まれる領域である。接続領域34は、分割線状凸部40の上記他端と発電領域30の外周との間の離間部を含む領域であって、隣り合う2つの分割領域32の端部と、発電領域30の外周と、分割線状凸部40の上記傾斜部とによって囲まれる領域である。これら流出入領域33および接続領域34を、図4(A)において、二点鎖線で囲んで示した。なお、流出入領域33および接続領域34には、上記規則的に配置された突起部62間において、同じく規則的に配置された多数の凹部63が形成されている。カソード側セパレータプレート16では、このように、2つの分割線状凸部60が形成されることで、2つの接続領域34を介して3つの分割領域32が直列に接続されている。
【0043】
カソード側セパレータプレート16の冷媒流路面には、発電領域30において、対向するアノード側セパレータプレート15の表面とともに冷媒流路の内壁面を形成する第2の凹凸部が形成されている。第2の凹凸部は、凸部として、多数の冷媒流線状凸部65と、多数の突起部66と、を備えている。
【0044】
冷媒流線状凸部65は、アノード側セパレータプレート15に形成された冷媒流線状凸部45と同様に、略水平方向に設けられるとともに、その両端が発電領域30の外周から離間している線状凸部である。この冷媒流線状凸部65は、ガス流路面における分割領域内線状凸部61間、あるいは、分割領域内線状凸部61と分割線状凸部60との間に形成される凹部の裏返し形状として形成されている。突起部66は、ガス流路面に形成された既述した凹部63の裏返し形状として形成されている。なお、冷媒流路面には、ガス流路面に形成された突起部62の裏返し形状として、凹部68が形成されている。
【0045】
図5は、樹脂フレーム13の概略構成を示す説明図である。図5では、アノード側セパレータプレート15のガス流路面と接する側から見た平面図を示した。樹脂フレーム13には、中央部に、穴部50が形成されている。穴部50は、略四角形状であって、膜電極ガス拡散層接合体12よりも若干小さく形成されている。また、樹脂フレーム13では、穴部22と穴部50とを連通させる凹部51と、穴部27と穴部50とを連通させる凹部52とが形成されている。凹部51は、アノード側セパレータプレート15との間で、穴部22により形成される水素供給マニホールドと、単セル10内のガス流路(水素流路)とを接続する流路を形成する。また、凹部52は、アノード側セパレータプレート15との間で、穴部27により構成されるアノードオフガス排出マニホールドと、単セル10内のガス流路(水素流路)とを接続する流路を形成する。
【0046】
図6は、樹脂フレーム14の概略構成を示す説明図である。図6では、カソード側セパレータプレート16のガス流路面と接する側から見た平面図を示した。樹脂フレーム14には、中央部に、樹脂フレーム13の穴部50と重なる同様の形状の穴部53が形成されている。また、樹脂フレーム14では、穴部23と穴部53とを連通させる凹部55と、穴部26と穴部53とを連通させる凹部54とが形成されている。凹部55は、カソード側セパレータプレート16との間で、穴部23により形成されるカソードオフガス排出マニホールドと、単セル10内のガス流路(空気流路)とを接続する流路を形成する。また、凹部54は、カソード側セパレータプレート16との間で、穴部26により構成される空気供給マニホールドと、単セル10内のガス流路(空気流路)とを接続する流路を形成する。
【0047】
これらの樹脂フレーム13,14は、絶縁性の樹脂によって形成されており、樹脂フレーム13、14によって膜電極ガス拡散層接合体12を狭持することで、膜電極ガス拡散層接合体12の両面間で、絶縁性が確保されている。また、樹脂フレーム13は、所定の高さの凹凸を有するアノード側セパレータプレート15と膜電極ガス拡散層接合体12との間に配置されて、上記凹凸に対応する距離を、アノード側セパレータプレート15と膜電極ガス拡散層接合体12との間で確保するためのスペーサとしての役割を果たしている。このことは、樹脂フレーム14についても同様である。
【0048】
燃料電池を組み立てる際には、アノード側セパレータプレート15と樹脂フレーム13とを、これらの間に接着剤などからなるシール材(図示せず)を介して重ね合わせる。また、同様にして、カソード側セパレータプレート16と樹脂フレーム14とを、これらの間に接着剤などからなるシール材(図示せず)を介して重ね合わせる。その後、膜電極ガス拡散層接合体12を、樹脂フレーム13、14によって挟持して、接着剤などからなるシール材(図示せず)を介して貼り合わせることで、単セル10を完成させる。なお、膜電極ガス拡散層接合体12と樹脂フレーム13、14とを貼り合わせる際には、樹脂フレーム13の穴部50、および、樹脂フレーム14の穴部53を、膜電極ガス拡散層接合体12が覆うように、各部材を配置する。このようにして作製した単セル10を、各単セル10間に接着剤などからなるシール材17(図2参照)を配置しながら所定数積層することにより、燃料電池スタックを作製することができる。上記のように各部材間にシール材を設けることで、単セル10内のガス流路、および、各種マニホールドにおけるシール性が確保されている。
【0049】
また、このように各部材を積層して燃料電池を組み立てたときには、アノード側セパレータプレート15の分割線状凸部40と、カソード側セパレータプレート16の分割線状凸部60の水平部とは、膜電極ガス拡散層接合体12を間に介して互いに対向する。同様に、アノード側セパレータプレート15の分割領域内線状凸部41は、カソード側セパレータプレート16の分割領域内線状凸部61と対向し、アノード側セパレータプレート15の突起部42は、カソード側セパレータプレート16の突起部62と対向する。また、アノード側セパレータプレート15の突起部46の頭頂部は、隣接するカソード側セパレータプレート16の突起部66の頭頂部と当接する。このように、対応する凸部が積層方向で互いに支持し合うことにより、燃料電池における積層体全体の剛性が確保されている。なお、図2に示した断面は、各線状凸部の長手方向に垂直な方向の断面であり、図2に示した断面図の位置は、図3(A)において、2−2断面として示している。図2では、特に、樹脂フレーム13,14を含む燃料電池の外周部近傍の断面の様子を示している。
【0050】
燃料電池において、穴部22が形成する水素供給マニホールドに水素が供給されると、この水素は、各単セル10内の水素流路に分配される。この水素流路において、水素およびアノードオフガスは、図3(A)に白抜き矢印で示したように、分割領域32では水平方向に流れつつ、全体としては鉛直方向下方へと流れる。そして、アノードオフガスは、穴部27が形成するアノードオフガス排出マニホールドに排出される。
【0051】
また、穴部26が形成する空気供給マニホールドに空気が供給されると、この空気は、各単セル10内の空気流路に分配される。この空気流路において、空気およびカソードオフガスは、図4(A)に白抜き矢印で示したように、分割領域32では水平方向に流れつつ、全体としては鉛直方向下方へと流れる。そして、カソードオフガスは、穴部23が形成するカソードオフガス排出マニホールドに排出される。
【0052】
また、穴部24が形成する冷媒供給マニホールドに冷媒が供給されると、この冷媒は、アノード側セパレータプレート15とカソード側セパレータプレート16との間に形成された冷媒流路に分配される。この冷媒流路において、冷媒は、図3(B)および図4(B)に白抜き矢印で示したように、全体として水平方向に流れる。冷媒流路を流れた冷媒は、穴部25が形成する冷媒排出マニホールドに排出される。
【0053】
なお、本実施例の燃料電池では、アノード側セパレータプレート15、および、カソード側セパレータプレート16において、マニホールドを形成する穴部22〜27の近傍に、各面に突出する複数の突起部42,46,62,66を形成した流出入領域33および接続領域34を設けている。このため、表裏で互いに反転する形状でありながら、折れ曲がり部を有するガス流路と、一方向に直進する冷媒流路とを、表裏で両立させることができる。すなわち、アノード側セパレータプレート15、および、カソード側セパレータプレート16において、互いに離間した複数の突起部を両面に設けることで、一方の面では、冷媒を一方向に導くとともに、他方の面では、ガス流れを反転させることが可能になる。
【0054】
ところで、本実施例の燃料電池では、膜電極ガス拡散層接合体12の構成が、面内の領域ごとに異なっている。具体的には、本実施例の燃料電池では、図2に示した領域A,B,Cごとに、膜電極ガス拡散層接合体12の構成が異なっている。
【0055】
ここで、領域Aは、膜電極ガス拡散層接合体12が、アノード側セパレータプレート15とカソード側セパレータプレート16とによって挟持されたときに、アノード側セパレータプレート15、および、カソード側セパレータプレート16における膜電極ガス拡散層接合体12側の凸部が当接して、直接的に押圧される領域である。また、領域Bは、膜電極ガス拡散層接合体12が、アノード側セパレータプレート15とカソード側セパレータプレート16とによって挟持されたときに、アノード側セパレータプレート15、および、カソード側セパレータプレート16における膜電極ガス拡散層接合体12側の凹部と対向する領域である。換言すれば、領域Bは、膜電極ガス拡散層接合体12が、アノード側セパレータプレート15とカソード側セパレータプレート16とによって挟持されたときに、アノード側セパレータプレート15、および、カソード側セパレータプレート16と当接せず、アノード側セパレータプレート15、および、カソード側セパレータプレート16によって直接的には押圧されない領域である。したがって、膜電極ガス拡散層接合体12がアノード側セパレータプレート15とカソード側セパレータプレート16とによって挟持されたときに領域Bに作用する押圧力は、領域Aに作用する押圧力よりも低い。また、領域Cは、膜電極ガス拡散層接合体12の周縁の領域である。
【0056】
図7は、膜電極ガス拡散層接合体12の構成を示す説明図である。図7(A)に、図2に示した領域Aにおける膜電極ガス拡散層接合体12の断面構造を示した。また、図7(B)に、図2に示した領域Bにおける膜電極ガス拡散層接合体12の断面構造を示した。また、図7(C)に、図2に示した領域Cにおける膜電極ガス拡散層接合体12の断面構図を示した。
【0057】
膜電極ガス拡散層接合体12は、概ね、膜電極接合体120のアノード側に、アノード側ガス拡散層122を接合し、膜電極接合体120のカソード側に、カソード側ガス拡散層124を接合することによって作製されている。膜電極接合体120は、電解質膜120mの両面に、電極層として、アノード側触媒層120a、および、カソード側触媒層120cを形成してなる。
【0058】
なお、本実施例の膜電極ガス拡散層接合体12では、アノード側ガス拡散層122の膜電極接合体120側の表面に、撥水層122pが形成されている。また、カソード側ガス拡散層124の膜電極接合体120側の表面に、撥水層124pが形成されている。
【0059】
また、本実施例の膜電極ガス拡散層接合体12では、カソード側ガス拡散層124のサイズが、アノード側ガス拡散層122のサイズよりも小さい。そして、図7(C)に示したように、カソード側ガス拡散層124は、膜電極接合体120を挟んでアノード側ガス拡散層122と対向する領域であって、膜電極接合体120の面内において、アノード側ガス拡散層122が接合された領域よりも内側の領域に接合されている。
【0060】
そして、領域Aでは、膜電極ガス拡散層接合体12は、図7(A)に示したように、膜電極接合体120のアノード側触媒層120aにアノード側ガス拡散層122(撥水層122p)を接合し、膜電極接合体120のカソード側触媒層120cにカソード側ガス拡散層124(撥水層124p)を接合した構成を有している。
【0061】
これに対し、領域Bでは、膜電極ガス拡散層接合体12は、図7(B)に示したように、領域Aにおける構成に加え、膜電極接合体120のアノード側触媒層120aとアノード側ガス拡散層122(撥水層122p)との間に、接合層126が設けられている。ただし、本実施例では、接合層126を設けることによるアノード側ガス拡散層122からアノード側触媒層120aへの水素の拡散性の低下を抑制することができるように、領域Bの全部ではなく一部の領域に、接合層126が設けられるものとした。なお、本実施例では、接合層126は、イオン交換樹脂からなり、接合層126には、アノード側触媒層120aとアノード側ガス拡散層122(撥水層122p)との密着強度を低下させる材料(例えば、カーボン粒子等)は含まれない。
【0062】
また、領域Cでは、膜電極ガス拡散層接合体12は、図7(C)に示したように、領域Aにおける構成に加え、膜電極接合体120のカソード側触媒層120cとカソード側ガス拡散層124(撥水層124p)との間に、接合層127が設けられている。膜電極接合体120の表面において、接合層127が設けられる部位に、カソード側触媒層120cが形成されないものとしてもよい。そして、この接合層127は、膜電極接合体120のカソード側の表面において、カソード側ガス拡散層124の周縁部と膜電極接合体120との間からカソード側ガス拡散層124が接合される領域よりも外側の領域に亘って設けられている。なお、接合層127は、接合層126と同様に、イオン交換樹脂からなり、接合層127には、カソード側触媒層120cとカソード側ガス拡散層124(撥水層124p)との密着強度を低下させる材料(例えば、カーボン粒子等)は含まれない。
【0063】
なお、図2では、膜電極ガス拡散層接合体12において、分割領域32と対向する領域について、領域A,Bを示したが、流出入領域33と対向する領域、および、接続領域34と対向する領域についても同様である(図3(A)参照)。すなわち、膜電極ガス拡散層接合体12において、流出入領域33と対向する領域、および、接続領域34と対向する領域では、アノード側セパレータプレート15の突起部42、および、カソード側セパレータプレート16の突起部62と当接する領域が領域Aとなり、これらと当接しない領域が領域Bとなる。そして、膜電極ガス拡散層接合体12において、これらの領域Bにも、図7(B)に示したように、接合層126が設けられる。
【0064】
上述した膜電極ガス拡散層接合体12は、例えば、以下の製造工程によって製造される。図8は、膜電極ガス拡散層接合体12の製造工程を示す説明図である。
【0065】
まず、膜電極接合体120を作製する(ステップS100)。この膜電極接合体120は、先に説明したように、電解質膜120mの両面に、触媒ペーストを塗布し、電極層として、アノード側触媒層120a、および、カソード側触媒層120cを形成することによって作製される。
【0066】
次に、膜電極接合体120上の所望の部位に、接合層を積層する(ステップS110)。本実施例では、膜電極接合体120の領域B,Cに対応する部位に、それぞれ、接合層126,127として、イオン交換樹脂であるナフィオン(登録商標)からなる厚さが10(μm)のフィルムを貼り付けるものとした。このフィルムの厚さは、例えば、アノード側ガス拡散層122(122p)の膜電極接合体120側の表面のうねりの高さに基づいて、設定される。アノード側ガス拡散層122(122p)の膜電極接合体120側の表面のうねりの高さとフィルムの厚さとをほぼ等しい値とすることによって、後のステップS120でホットプレス接合を行ったときに、フィルムが軟化・変形して上記うねりを吸収し、膜電極ガス拡散層接合体12の厚さの均一化をはかることができる。
【0067】
そして、接合層が積層された膜電極接合体120に、アノード側ガス拡散層122、および、カソード側ガス拡散層124を、ホットプレス接合する(ステップS120)。本実施例では、このホットプレス接合を、70(℃)で行うものとした。以上の製造工程によって、膜電極ガス拡散層接合体12は完成する。
【0068】
本実施例の燃料電池の効果について説明する。膜電極ガス拡散層接合体の全面が図7(A)に示した構成を有する、すなわち、膜電極ガス拡散層接合体が、膜電極ガス拡散層接合体12における接合層126を備えない燃料電池では、膜電極ガス拡散層接合体において、アノード側セパレータプレート15、および、カソード側セパレータプレート16によって挟持されたときに作用する押圧力が領域Aよりも低い領域Bでは(図2参照)、膜電極接合体120のアノード側触媒層120aとアノード側ガス拡散層122(撥水層122p)との密着強度は、領域Aにおけるアノード側触媒層120aとアノード側ガス拡散層122(撥水層122p)との密着強度よりも低くなる。これに対し、本実施例の燃料電池では、領域Bに接合層126を設けることによって、膜電極接合体120のアノード側触媒層120aとアノード側ガス拡散層122との密着強度を向上させることができる。なお、領域Aでは、接合層126を設けなくても、上記押圧力によって、十分に高い密着強度を得ることができる。また、本実施例の燃料電池では、接合層126がイオン交換樹脂からなり、接合層126には、アノード側触媒層120aとアノード側ガス拡散層122(撥水層122p)との密着強度を低下させる材料(例えば、カーボン粒子等)が含まれない。したがって、接合層126にアノード側触媒層120aとアノード側ガス拡散層122(撥水層122p)との密着強度を低下させる材料が含まれる場合よりも、アノード側触媒層120aとアノード側ガス拡散層122(撥水層122p)との密着強度を向上させることができる。そして、本実施例の燃料電池によって、膜電極接合体120の耐久性を向上させることができる。
【0069】
また、一般に、膜電極接合体120(膜電極ガス拡散層接合体12)において、水素の入口領域、および、空気の入口領域では、電解質膜120mが乾燥しやすい。そして、電解質膜120mが乾燥すると、プロトン伝導性が低下し、燃料電池の発電性能の低下を招く。一方、本実施例の燃料電池では、膜電極ガス拡散層接合体12において、接合層126は、水素の入口領域、および、空気の入口領域、換言すれば、流出入領域33(図3,4参照)と対向する領域に設けられている。なお、水素の入口領域と対向する領域では、アノード側に接合層126を設け、また、空気の入口と対向する領域では、カソード側に接合層126を設けるようにすることが好ましい。そして、接合層126は、イオン交換樹脂からなるので、比較的高い保水性を有している。したがって、本実施例の燃料電池によって、電解質膜120mの水素の入口領域、および、空気の入口領域の乾燥を抑制することができる。
【0070】
また、本実施例の燃料電池では、図7(C)に示したように、膜電極ガス拡散層接合体12において、カソード側ガス拡散層124は、膜電極接合体120を挟んでアノード側ガス拡散層122と対向する領域であって、膜電極接合体120の面内において、アノード側ガス拡散層122が接合された領域よりも内側の領域に接合されている。そして、接合層127が、膜電極接合体120のカソード側の表面において、カソード側ガス拡散層124の周縁部と膜電極接合体120との間からカソード側ガス拡散層124が接合される領域よりも外側の領域に亘って設けられている。こうすることによって、膜電極接合体120からのカソード側ガス拡散層124の周縁部の剥離を抑制することができる。
【0071】
また、本実施例の燃料電池では、アノード側ガス拡散層122は、膜電極接合体120と接合される側の表面に、撥水層122pを備える。また、カソード側ガス拡散層124は、膜電極接合体120と接合される側の表面に、撥水層124pを備える。こうすることによって、膜電極接合体120からの排水性を向上させ、燃料電池におけるフラッディングを抑制することができる。
【0072】
B.変形例:
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、以下のような変形が可能である。
【0073】
B1.変形例1:
上記実施例では、膜電極ガス拡散層接合体12の領域Bにおいて、アノード側触媒層120aとアノード側ガス拡散層122との間に、接合層126を設けるものとしたが、本発明は、これに限られない。膜電極ガス拡散層接合体12の領域Bにおいて、カソード側触媒層120cとカソード側ガス拡散層124との間にも、接合層126を設けるものとしてもよい。また、膜電極ガス拡散層接合体12の領域Bにおいて、アノード側触媒層120aとアノード側ガス拡散層122との間に、接合層126を設ける代わりに、カソード側触媒層120cとカソード側ガス拡散層124との間に、接合層126を設けるものとしてもよい。
【0074】
B2.変形例2:
上記実施例では、膜電極ガス拡散層接合体12において、分割領域32と対向する領域、流出入領域33と対向する領域、および、接続領域34と対向する領域のすべてにおける領域Bに、接合層126を設けるものとしたが、本発明は、これに限られない。分割領域32と対向する領域、流出入領域33と対向する領域、および、接続領域34と対向する領域の少なくとも1つにおける領域Bに、接合層126を設けるものとしてもよい。
【0075】
B3.変形例3:
上記実施例の燃料電池において、アノード側セパレータプレート15、および、カソード側セパレータプレート16の形状は、図1〜4に示した形状に限られない。例えば、アノード側セパレータプレート15、および、カソード側セパレータプレート16には、ガス流路を形成する凹凸形状以外の凹凸形状、すなわち、ガス流路を形成しない凹凸形状が形成されるものとしてもよい。本発明は、アノード側セパレータプレート、および、カソード側セパレータプレートの形状に関わらず、膜電極ガス拡散層接合体が、ガス流路形成部材としてのアノード側セパレータプレート、および、カソード側セパレータプレートによって挟持されたときに作用する押圧力が比較的高い第1の領域と、上記押圧力が第1の領域よりも低い第2の領域と、を含み、第2の領域の少なくとも一部には、膜電極接合体とガス拡散層との間に、膜電極接合体とガス拡散層とを接合する接合層が設けられており、第1の領域には、接合層が設けられていないようにすればよい。
【0076】
B4.変形例4:
上記実施例では、膜電極ガス拡散層接合体12において、接合層126,127は、ナフィオン(登録商標)からなるフィルムを用いて形成するものとしたが、本発明は、これに限られない。膜電極接合体120の表面に、イオン交換樹脂が分散された分散溶液(アイオノマ溶液)を、ダイコーターやスプレーを用いて塗布することによって、接合層126,127を形成するようにしてもよい。この場合、分散溶液におけるイオン交換樹脂の割合は、50重量%以上であることが好ましい。
【0077】
B5:変形例5:
上記実施例では、膜電極ガス拡散層接合体12において、接合層126,127として、ナフィオン(登録商標)以外の他のイオン交換樹脂(例えば、フレミオン(登録商標))を用いるようにしてもよい。なお、接合層126,127に用いられるイオン交換樹脂は、アノード側触媒層120aや、カソード側触媒層120cとの密着強度との観点から、アノード側触媒層120a、カソード側触媒層120cに含まれるイオン交換樹脂と同じ種類であることが好ましい。
【0078】
B6.変形例6:
上記実施例では、接合層126,127は、イオン交換樹脂からなるものとしたが、本発明は、これに限られない。接合層126,127は、イオン交換樹脂の代わりに、接着性を有するゴム系の材料や、熱可塑性樹脂等、ホットプレス接合によって、膜電極接合体120とガス拡散層とを接合可能な材料からなるものとしてもよい。
【0079】
B7.変形例7:
上記実施例では、図7(C)に示したように、膜電極ガス拡散層接合体12において、カソード側ガス拡散層124は、膜電極接合体120を挟んでアノード側ガス拡散層122と対向する領域であって、膜電極接合体120の面内において、アノード側ガス拡散層122が接合された領域よりも内側の領域に接合されているものとしたが、本発明は、これに限られない。例えば、膜電極ガス拡散層接合体12において、アノード側ガス拡散層122が、膜電極接合体120を挟んでカソード側ガス拡散層124と対向する領域であって、膜電極接合体120の面内において、カソード側ガス拡散層124が接合された領域よりも内側の領域に接合されているものとしてもよい。この場合、接合層127は、膜電極接合体120のアノード側の表面において、アノード側ガス拡散層122の周縁部と膜電極接合体120との間からアノード側ガス拡散層122が接合される領域よりも外側の領域に亘って設けられる。こうすることによって、膜電極接合体120からのアノード側ガス拡散層122の周縁部の剥離を抑制することができる。
【符号の説明】
【0080】
10…単セル
12…膜電極ガス拡散層接合体
13,14…樹脂フレーム
15…アノード側セパレータプレート
16…カソード側セパレータプレート
17…シール材
20,21…辺
22〜27…穴部
30…発電領域
32…分割領域
33…流出入領域
34…接続領域
40,60…分割線状凸部
41,61…分割領域内線状凸部
42,46,62,66…突起部
43,48,63,68…凹部
45,65…冷媒流線状凸部
50,53…穴部
51,52,54,55…凹部
120…膜電極接合体
120m…電解質膜
120a…アノード側触媒層
120c…カソード側触媒層
122…アノード側ガス拡散層
122p…撥水層
124…カソード側ガス拡散層
124p…撥水層
126,127…接合層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
電解質膜の両面に電極層を形成してなる膜電極接合体と、該膜電極接合体の表面に接合されたガス拡散層と、を有する膜電極ガス拡散層接合体と、
前記膜電極ガス拡散層接合体を挟持し、該膜電極ガス拡散層接合体の表面に発電に供する反応ガスが流れるガス流路を形成するガス流路形成部材と、
を備え、
前記膜電極ガス拡散層接合体は、前記ガス流路形成部材と向かい合う面内に、
第1の領域と、
前記ガス流路形成部材によって挟持されたときに作用する押圧力が前記第1の領域よりも低い第2の領域と、
を含み、
前記第2の領域の少なくとも一部には、前記膜電極接合体と前記ガス拡散層との間に、前記膜電極接合体と前記ガス拡散層とを接合する接合層が設けられている、
燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記ガス流路形成部材は、前記膜電極ガス拡散層接合体と当接する側の表面に、前記ガス流路を形成する凸部および凹部であって、前記膜電極ガス拡散層接合体と当接する凸部と、前記膜電極ガス拡散層接合体と当接しない凹部と、を備え、
前記接合層は、前記第2の領域において、前記ガス流路形成部材における前記凹部と対向する領域に設けられている、
燃料電池。
【請求項3】
請求項1または2記載の燃料電池であって、
前記接合層は、イオン交換樹脂からなり、
前記第2の領域において、前記膜電極ガス拡散層接合体の外部から内部に燃料ガスが導入される入口領域、および、前記膜電極ガス拡散層接合体の外部から内部に酸化剤ガスが導入される入口領域の少なくとも一方に設けられている、
燃料電池。
【請求項4】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記膜電極ガス拡散層接合体は、前記ガス拡散層として、
前記膜電極接合体のアノード側の表面に接合されたアノード側ガス拡散層と、
前記膜電極接合体のカソード側の表面に接合されたカソード側ガス拡散層と、
を有しており、
前記アノード側ガス拡散層と前記カソード側ガス拡散層とのうちの一方のガス拡散層は、前記膜電極接合体を挟んで他方のガス拡散層と対向する領域であって、前記膜電極接合体の面内において、前記他方のガス拡散層が接合された領域よりも内側の領域に接合されており、
前記接合層は、さらに、前記膜電極接合体の前記一方のガス拡散層が接合される側の表面において、前記一方のガス拡散層の周縁部と前記膜電極接合体との間から前記一方のガス拡散層が接合される領域よりも外側の領域に亘って設けられている、
燃料電池。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の燃料電池であって、
前記ガス拡散層は、前記膜電極接合体と接合される側の面に、撥水層を備える、
燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−93284(P2013−93284A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236120(P2011−236120)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】