説明

燃料電池

【目的】 燃料電池のマニホールドの内面に施されたコーティング被膜の剥離を防止することができるようにする。
【構成】 マニホールド10の側板部10a,周縁部10b及び素電池積層体の側面に接するフランジ部10cが、金属材を曲げ構成することにより一体に形成されている。そして、周縁部10bの四隅10dが溶接によって接合されている。また、マニホールド10の内面には、下地処理として金属またはセラミックを溶射処理することによって溶射被膜11が形成されている。そして、この被膜の上にフッ素樹脂を塗布し、焼付け塗装を施すことによって、フッ素樹脂被膜12が形成されている。なお、この場合、フランジ部10c及びその近傍部分のフッ素樹脂被膜12の厚さに対して、他のマニホールド内面部分の厚さが1/1.5〜1/5となるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、マニホールドの構成に改良を施した燃料電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】燃料電池は、燃料の有している化学的エネルギーを直接電気エネルギーに変換する装置である。この燃料電池は、通常、電解質を挟んで燃料極(アノード)及び酸化剤極(カソード)の一対の多孔質電極を配置すると共に、アノードの背面に水素などの燃料ガスを接触させ、また、カソードの背面に酸素等の酸化剤ガスを接触させ、この時に起こる電気化学的反応により発生する電気エネルギーを、上記一対の電極から取り出すようにしたものである。
【0003】図3は、従来から用いられている燃料電池の構成を分解斜視図によって示したものである。即ち、素電池積層体1はその上下に配設された補強材2によって挟持され、その対向する側面には、燃料入口マニホールド3及び燃料出口マニホールド4がシール材5を介して取り付けられ、素電池積層体1に燃料を供給・排出できるように構成されている。また、素電池積層体1の対向する他の側面には、空気入口マニホールド6及び空気出口マニホールド7がシール材5を介して取り付けられ、素電池積層体1に空気を供給・排出できるように構成されている。さらに、これらマニホールドは気密を保持するため、全体が窒素等の不活性ガスを充填した図示しない密閉容器内に収納されている。
【0004】ところで、上述したマニホールドとしては、内外の圧力の変動に耐えられるような構造が要求されるだけでなく、約200℃の運転温度での使用に耐えられる構造が要求されている。また、燃料電池の運転中、もしくは運転開始・停止時に、燃料電池の電解質であるリン酸の蒸発または飛散によって、マニホールドの構成材料が腐食することにより、積層体1との絶縁性が低下する危険性を考慮する必要もある。これらの要請は、近年の大容量化構想により積層体からのリン酸の蒸散量の増大、高電圧化に伴う高絶縁性の必要から非常に高くなっている。
【0005】そこで、これらの要請に応えるべく、図4(A)(B)に示した様に、高温のリン酸に対して十分な耐性を有するフッ素樹脂等のコーティング被膜9を、マニホールド8の内面に施す方法が用いられ、防食と同時に積層体との絶縁を確保できるように構成されている。
【0006】なお、従来用いられているフッ素樹脂のコーティング方法は、マニホールド8の内面にサンドブラスト処理を行った後、接着用プライマーを用いて、マニホールドの内面に一様にフッ素樹脂コーティング被膜を形成するものであった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した様な従来のマニホールドでは、フッ素樹脂自体の耐熱性・耐薬品性は強くても、コーティング被膜が接着用プライマーの接着力だけに依存するものであるため、200℃の長時間の運転に耐えられる接着力を確保することは困難であった。
【0008】また、フッ素樹脂の線膨脹係数は鉄の約10倍であるため、温度変化によって鉄板とのずれが生じ、コーティング被膜が剥がれやすくなっていた。さらに、一般に、マニホールド8は側板部8a、周縁部8b及びフランジ部8cを互いに溶接して構成されているため、溶接部でフッ素樹脂コーティングの欠陥が出ないように、数百ミクロンの厚さでコーティング被膜が形成されている。そのため、上述した温度変化による鉄板とのずれが生じやすく、コーティング被膜が剥がれやすいという現象は一層顕著なものとなっていた。
【0009】さらに、フッ素樹脂自体のガス透過性によって、反応ガスに含まれる水蒸気が樹脂を透過するが、運転サイクルによる加圧、減圧が繰り返されると、樹脂の接着面に到達したガスが減圧時に膨脹してコーティング材を剥離させることがある。その結果、剥離したコーティング材がガスの均一な流れを妨害し、燃料電池の運転を停止せざるを得ないといった問題が生じる危険性があった。
【0010】本発明は、上記の様な従来技術の欠点を解消するために提案されたもので、その目的は、燃料電池運転中の圧力変動によるコーティング被膜の剥離を防止することができるマニホールドを備えた燃料電池を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、ガス流路を有する空気極と燃料極との間に電解質を挟んだ単電池を複数個積層してなる燃料電池積層体の側面周囲に、複数個のマニホールドを締め付け固定した燃料電池において、前記マニホールドの内面及び燃料電池積層体と接するフランジ部に、金属またはセラミックを溶射処理することにより溶射被膜を形成し、さらにその上面に絶縁性を有するコーティング被膜を形成し、このコーティング被膜の厚さを、前記フランジ部及びその近傍部分の厚さに対して他の部分の厚さが1/1.5〜1/5となるように構成したことを特徴とするものである。
【0012】
【作用】本発明の燃料電池によれば、マニホールドの構成部材とコーティング被膜の中間層として溶射被膜を設けたことにより、両者間の結着力がより強固なものとなり、マニホールドの内面に施したコーティング被膜の剥離を防止することができるので、マニホールドの耐久性が大幅に向上する。また、コーティング被膜の厚さを、マニホールドのフランジ部及びその近傍部分の厚さに対して、他の部分の厚さが1/1.5〜1/5となるように構成することにより、積層体と接する部分においては高電圧に耐えることができ、また、マニホールドの他の内面においては薄膜化を可能として、剥離耐久性を大幅に向上することができる。
【0013】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図1及び図2に基づいて具体的に説明する。
【0014】即ち、本実施例においては、図1(A)(B)に示した様に、マニホールド10の側板部10a,周縁部10b及び素電池積層体の側面に接するフランジ部10cが、金属材を曲げ構成することにより一体に形成されている。そして、周縁部10bの四隅10dが溶接によって接合されている。なお、前記溶接部はグラインダなどによって表面が滑らかになるように加工されている。
【0015】また、図2に示した様に、マニホールド10の内面には、下地処理として金属またはセラミックを溶射処理することによって溶射被膜11が形成されている。そして、この被膜の上にフッ素樹脂を塗布し、焼付け塗装を施すことによって、フッ素樹脂被膜12が形成されている。なお、この場合、フランジ部10c及びその近傍部分のフッ素樹脂被膜12の厚さに対して、他のマニホールド内面部分の厚さが1/1.5〜1/5となるように形成されている。
【0016】次に、上述したマニホールド10の内面にフッ素樹脂被膜12を形成する方法について詳述する。まず、サンドブラストによって、マニホールド10の内表面の汚れ、錆等を除去すると共に、溶射被膜11の付着性を高めるために表面調整を行う。また、溶射被膜11は、金属溶射であれば、例えば、ニッケル・アルミを用いて、その金属を溶融しながらマニホールドの表面に吹き付け、溶着させて形成する。あるいは、セラミック溶射であれば、例えば、アルミナを用いてプラズマ溶射により、マニホールドの表面に溶着させて形成する。
【0017】続いて、前記溶射被膜11の上にフッ素樹脂被膜12を形成させるが、この材料としては、例えば、粉末状のフッ素樹脂の4フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を主材としたものが用いられる。そして、予熱または静電気を与えることにより、溶射被膜11の表面に付着させた後、フッ素樹脂の溶融温度である300〜400℃に加熱し、フッ素樹脂の粉末を溶射被膜11の隙間に溶け込ませ、さらに、その上側表面を覆うようにフッ素樹脂被膜を形成する。なお、フッ素樹脂の粉末を付着させて焼成する工程は、表面被膜のピンホールをなくすため、場合によっては数回繰り返して行う。
【0018】また、マニホールド10のフランジ部10cとそれに近い周縁部10b部分のフッ素樹脂被膜12の厚さをT1 とし、他の部分の厚さをT2 とした場合、T1:T2 =1.5〜5:1となるように構成されている。
【0019】この様な構成を有する本実施例の燃料電池は、以下に述べる様に作用する。即ち、マニホールド10を曲げ加工により形成することによって、数mmの曲げ半径を一様にとることができる。これにより、従来問題となっていた、側板部10aの内面に形成したフッ素樹脂被膜12が、熱サイクルによって膨脹・収縮しようとする際の伸縮力により、曲げ部が弱点となって剥離するのを防止することができる。
【0020】また、周縁部10bとフランジ部10cとを一体の曲げ構成とすることにより、従来、溶接部ピンホールなどで生じていたフッ素樹脂被膜の欠陥が生じにくくなり、被膜の厚さが100μ〜200μでも、被膜自体にピンホールのないものを得ることができる。これにより、従来、全体の被膜厚さを500μ確保しなければならなかったものに比べ、薄膜化が実現できる。この薄膜化によって、フッ素樹脂の蒸気透過は早まるものの、圧力降下時の蒸気の排出も早まるため、圧力変動に対応しやすくなるという利点もある。
【0021】さらに、マニホールドのフランジ部10cは、素電池積層体にシール材5を介して接するため、電気的短絡を起こさないように絶縁を確保する必要がある。このため、フッ素樹脂被膜12は耐電圧被膜となるよう厚膜としなければならないが、積層体に押し付けられているため、剥離の問題は生じない。これに対し、マニホールドの側板部10aについては、リン酸に対する防食だけを目的とし、しかも、リン酸自体も蒸気体、霧状体であり、フッ素樹脂の持つ特有の撥水性から若干のピンホールは許容できるので、全体の薄膜化が可能となる。これにより、フランジ部以外の被膜の厚さを、1/1.5〜1/5とすることが可能となり、その結果、熱サイクルによる被膜の伸縮力は大幅に減少し、且つ、圧力変動に対しても、蒸気浸透の呼吸作用が同期化して、被膜の剥離耐久性が大幅に向上するという効果が得られる。
【0022】一方、マニホールドの構成部材とフッ素樹脂被膜12の中間層として、溶射被膜11を設けたことにより、従来、プライマー材による接着力だけに頼っていた結着力がより強固なものとなる。これは、溶射被膜11の微小な隙間にフッ素樹脂が溶け込み、両者が物理的に結合されるためである。また、この溶射被膜11は、マニホールドの構成部材である、例えば鉄板の融点近くの高い温度に耐えられるものであるため、マニホールドの内面に施したコーティング被膜12が全体として耐久性の高いものとなる。
【0023】この様に、本実施例によれば、マニホールドを曲げ構造を主体とした構成とすることにより、内面の防食被膜を薄膜化でき、これにより、剥離耐久性を向上させることができる。また、素電池積層体に対しても十分な耐電圧を有する被膜を形成することができる。さらに、溶射被膜を中間層に設けることによって、結着力を大幅に増強させることができる。
【0024】なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、マニホールド全体を、プレス型成形等による絞り加工法によって形成しても良い。この場合は、溶接部を完全になくすことができるので、曲げ半径も十分にとることができ、さらに安定した、高品質で耐久性のある防食被膜を形成することができる。
【0025】また、コーティング被膜の材料はフッ素樹脂に限定されるものではなく、耐酸性を有する樹脂であれば同様の効果を得ることができる。
【0026】
【発明の効果】以上述べた通り、本発明によれば、マニホールドの内面及び燃料電池積層体と接するフランジ部に、金属またはセラミックを溶射処理することにより溶射被膜を形成し、さらにその上面に絶縁性を有するコーティング被膜を形成し、このコーティング被膜の厚さを、前記フランジ部及びその近傍部分の厚さに対して他の部分の厚さが1/1.5〜1/5となるように構成することにより、燃料電池運転中の圧力変動によるコーティング被膜の剥離を防止することができるマニホールドを備えた燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の燃料電池に用いられるマニホールドの一実施例を示すもので、(A)は縦断面図、(B)は斜視図
【図2】図1(A)の“A部”の詳細断面図
【図3】従来の燃料電池の構成を示す分解斜視図
【図4】従来の燃料電池に用いられるマニホールドの一例を示すもので、(A)は縦断面図、(B)は斜視図
【符号の説明】
1…素電池積層体
2…補強材
3…燃料入口マニホールド
4…燃料出口マニホールド
5…シール材
6…空気入口マニホールド
7…空気出口マニホールド
8…マニホールド
9…コーティング被膜
10…マニホールド
10a…側板部
10b…周縁部
10c…フランジ部
10d…溶接部
11…溶射被膜
12…フッ素樹脂被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガス流路を有する空気極と燃料極との間に電解質を挟んだ単電池を複数個積層してなる燃料電池積層体の側面周囲に、複数個のマニホールドを締め付け固定した燃料電池において、前記マニホールドの内面及び燃料電池積層体と接するフランジ部に、金属またはセラミックを溶射処理することにより溶射被膜を形成し、さらにその上面に絶縁性を有するコーティング被膜を形成し、このコーティング被膜の厚さを、前記フランジ部及びその近傍部分の厚さに対して他の部分の厚さが1/1.5〜1/5となるように構成したことを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平6−176789
【公開日】平成6年(1994)6月24日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−325365
【出願日】平成4年(1992)12月4日
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)