説明

燃焼エンジンのEGR回路に一体化されているEGR弁を制御する方法

【課題】 圧力差検出器を備えているエンジンの吸気部分で気体の組成の実時間での制御を可能にする代替の方法を提供する
【解決手段】 少なくとも1つのシリンダ2と吸気マニフォールド3とを有している燃焼エンジン1を制御する方法であって、エンジンにはEGR弁6を有する燃焼気体再循環回路が備わっており、EGR弁の位置で圧力差ΔPを計測するステップと、b)吸気マニフォールド3内の燃焼気体分率設定値BGRspを選択するステップと、c)EGR弁6の位置で適用されるバレー−サン・ヴナンの関係などの正確な圧力低下の関係からEGR弁の開口度設定値Ospを計算するステップであって、正確な圧力低下によりEGR弁の開口度をEGR弁の位置の圧力差ΔPと吸気マニフォールド3内の気体分率設定値BGRspとに関係付けるステップと、d)EGR弁6をEGR弁6の開口度設定値Ospの関数として制御するステップとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御の分野に関し、特にEGR回路が備わっているガソリンエンジンの燃焼気体再循環率の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
小型化したガソリンエンジンは、ガソリンの消費を減少させる好ましい選択対象として現在出現している。実際、この技術によってエンジンの動作点をより効率の高い区間にシフトし、したがって内燃エンジンの動作に固有のポンピングロスを限定することができる。それから、この種類のエンジンでは排気ラインに配置されているタービンによって駆動される圧縮器の存在が必要である。そのような装置は、シリンダの空気の充填を改善し、従来の排気量のエンジンのトルクと同等のトルクを実現するために使用される。したがって、消費を大幅に減少させながら同じ性能を有することができる。
【0003】
しかし、そのような技術の使用は、エンジンノックの出現の危険性を大幅に増加させる。エンジンが全負荷状態で動作している時に、燃焼室内の熱動力学条件は、混合気の安定性に対して有害な可能性があって、混合気の自己着火を発生させることもある。この現象は、結局は燃焼室を大幅に劣化させる可能性がある。
【0004】
この問題を解決するために、点火進角を通常遅らせる。この選択肢によって、燃焼サイクルの最後で、したがって排気ライン全体で気体温度が上昇する。それゆえ、この現象に対応するために、吸気の位置で混合気がリッチにされる。
【0005】
そのような方法には2つの欠点がある。まず、この方法はエンジン消費を増加させ、さらに、排気マニフォールドの下流に配置されており、混合気が理論空燃比にあるときに燃焼に起因する汚染物質の最適な変換をもたらす触媒の効率を悪化させる。
【0006】
この状態において、排気部分から吸気部分への燃焼気体再循環(EGR)は有望な選択肢である。実際に、燃焼中に反応していない燃焼気体をエンジンのシリンダに供給することによって、全体の燃焼温度を低下させ、エンジンノックの発生を限定することができる。そのため、効率と消費に関して小型化の利点が維持される。さらに、燃焼気体の導入によって、排気気体の温度を低下させ、そのため、触媒やタービンに対するその影響を限定することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】仏国特許出願公開第2,947,007号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第2,098,710号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0,485,089号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、そのような方法は、エンジンの動作条件全体に大きな影響がある。たとえば、シリンダ内にとらわれている空気質量はEGR構成ではより少なくなる。それは燃焼気体がシリンダ内の新鮮な空気に置き換わるからである。理論空燃比状態で動作させるには、燃料ループを空気ループに対して調整し、したがって、シリンダ内の燃焼気体の量を正確に制御することが必要である。それ以外に、高性能制御方法が、トルク遷移管理、特に燃焼気体の割合が高すぎると燃焼が消えてしまう可能性のある低負荷でのトルク遷移管理に対して不可欠である。
【0009】
燃焼気体の量を制御するために、現在の装置(たとえば、特許文献1、特許文献2、および特許文献3に記載されている)は空気流検出器を使用しており、それは不正確であるという欠点がある。この検出器の不正確さによって、吸気マニフォールド内の気体の組成の最適な制御ができず、したがって、理論空燃比条件下での動作ができず、それによってエンジン制御としての不正確さが発生し、エンジンの全体の動作に影響する。
【0010】
吸気部分での混合気の組成の制御は、過給ガソリンエンジンの燃焼制御の不可欠の構成要素である。本発明の目的は、圧力差検出器を備えているエンジンの吸気部分で気体の組成の実時間での制御を可能にする代替の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の方法は、少なくとも1つのシリンダと吸気マニフォールドとEGR弁を一体化している燃焼気体再循環回路とを有している燃焼エンジンを制御する方法に関する。
【0012】
本発明によれば、制御方法は、
a)EGR弁の位置で圧力差ΔPを計測するステップと、
b)吸気マニフォールド内の燃焼気体分率設定値BGRspを選択するステップと、
c)EGR弁の位置で適用されるバレー−サン・ヴナンの関係などの正確な圧力低下の関係からEGR弁の開口度設定値Ospを計算するステップであって、正確な圧力低下によりEGR弁の開口度をEGR弁の位置の圧力差ΔPと吸気マニフォールド内の気体分率設定値BGRspとに関係付けるステップと、
d)EGR弁をEGR弁の開口度設定値の関数として制御するステップと、を有する。
【0013】
一実施態様において、正確な圧力低下の関係を、空気吸気回路とEGR燃焼気体循環回路の動的なモデルである空気ループモデルによってエンジンに適合させている。この場合、空気ループのモデルは、燃焼気体動力学のモデルと吸気マニフォールドの動的モデルに組み込まれている静的シリンダ充填モデルとからなる。
【0014】
空気ループモデルは、以下のステップを実行することによって構成できることが有利である。
【0015】
i)複数のエンジンパラメータからシリンダ充填質量流量Daspを計算するように、静的なシリンダ充填モデルを適用するステップ、
ii)シリンダ充填質量流量Daspと複数のエンジンパラメータからから圧縮器の下流の質量流量Dthrを計算するように、吸気マニフォールドの動的モデルを適用するステップ、
iii)吸気マニフォールド内の燃焼気体分率設定値BGRspからEGR弁の下流の容積中の燃焼気体分率設定値(式A)を求めるように、動的気体搬送モデルを適用するステップ、および
iv)複数のエンジンパラメータとEGR弁の下流の容積中の燃焼気体分率設定値(式A)と圧縮器の下流の質量流量DthrとからEGR弁を通して供給される燃焼気体の質量流量設定値(式B)を求めるように、動的な新鮮な気体と燃焼気体との混合モデルを適用するステップであり、正確な圧力低下の関係はこの設定値の関数であるステップ。
【0016】
【数1】

【0017】
【数2】

【0018】
EGR弁の位置での圧力差ΔPと吸気マニフォールド内の燃焼気体分率設定点BGRspとの関数としてEGR弁の有効表面積設定点Ssp(ΔP)を定める正確な圧力低下の関係を適用し、それから有効表面積設定点Ssp(ΔP)をEGR弁のマップからEGR弁の開口設定点Ospとして表現することが好ましい。
【0019】
一実施態様において、新鮮な気体と燃焼気体の混合動的モデルは以下の公式によって定義される。
【0020】
【数3】

【0021】
ここで、BGRbp:EGR弁の下流の容積中の燃焼気体分率、
r:理想気体定数、
atm:大気温度、
atm:大気圧、
bp:新鮮な空気と燃焼気体との混合体積、
gb:EGR弁を通して供給される燃焼気体の質量流量、および
air:吸気ライン入口の新鮮な空気の質量流量である。
【0022】
そのうえ、動的気体搬送モデルは、エンジンのEGR弁と吸気マニフォールドとの間の空間距離を表すことが可能で、距離は純粋な遅延に相当している。
【0023】
さらに、正確な圧力低下の関係は、バレー−サン・ヴナンの関係に基づいて、不等式ΔP<10%Patmを満たすEGR弁の位置での圧力差の値ΔPに対して線形化されている。
【0024】
EGR弁の位置での圧力差は、EGR弁の上流と下流のうちの少なくとも一方の、少なくとも1つの圧力検出器によって計測されることが有利である。
【0025】
吸気マニフォールド内の燃焼気体分率設定値BGRspの選択は、静的な較正から得られるエンジンマップによって決定されることが好ましい。
【0026】
さらに、本発明は、燃焼エンジンであって、少なくとも1つのシリンダと、吸気マニフォールドと、圧力差検出器を自身の位置に備えているEGR弁を有している燃焼気体再循環回路と、エンジンを制御する手段とを有しており、制御手段は本発明の制御方法を適用するようになっているエンジンに関する。
【0027】
本発明の圧力差検出器は、複数の計測値の精度を増加させ、そのため、エンジン制御の精度を向上させる利点がある。そのような検出器の使用には、正確な圧力低下の関係の適用が必要である。したがって、EGR弁が燃焼気体分率設定値を遵守するように制御される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】低圧EGR回路(EGR−BP)を有している過給ガソリンエンジンの図である。
【図2】本発明の方法のフローチャートである。
【図3】有効表面積とEGR弁の開口度との間の関係を示しているEGR弁のマップの図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の方法のその他の特徴と利点とは、添付の図面を参照して、非限定的な実施形態の以降の説明を読むことで明らかになろう。
【0030】
図1は、EGR燃焼気体再循環回路が備わっているガソリンエンジン1を示している。本実施形態については、EGR(燃焼気体再循環)回路は低圧EGR回路である。燃焼エンジン1の少なくとも1つのシリンダ2には、吸気マニフォールド3から空気と燃焼気体とが供給される。吸気回路にはクーラー4とターボチャージャー7の圧縮器とが備わっている。排気ラインは、排気マニフォールド、ターボチャージャー7のタービン、燃焼気体の一部を吸気回路に噴射するバイパスラインからなる。回路のこの部分には、クーラー4’と、EGR(燃焼気体再循環)弁6と呼ばれ、吸気回路に噴射される燃焼気体の量を制御する制御弁とが特に設けられている。このエンジン1には、EGR弁6の上流と下流との間に、圧力差検出器5が特に備わっている。図1に示しているようなエンジン1には、直噴装置と可変弁タイミング装置も備わっており、これらの要素は小型化されたエンジン(減少しているエンジン排気量)に通常存在しているが、その存在を本発明の方法においては考慮しない。
【0031】
対象となる燃焼気体再循環回路は、ターボチャージャー7のタービンの下流の触媒11の出口のエンジン排気部分の位置で燃焼気体を引き込み、ターボチャージャー7の圧縮器の上流のシリンダ2の吸気部分に再噴射する。吸気ラインに再噴射される燃焼気体の量は、EGR燃焼気体再循環回路の下流に配置されており制御されているEGR弁6によって制御される。
【0032】
ガソリンエンジンは、空気/ガソリン混合気の割合が、空気が過剰ではなく、燃料を完全に燃焼させることができるときに最適な条件で動作するので、排気気体は燃焼気体だけからなると概ね考えられる。したがって、EGR燃焼気体再循環回路は燃焼気体だけで占められている。
【0033】
本発明の方法によって、排気気体再循環回路のEGR弁6を正確に制御することができる。本方法は、EGR弁の位置での圧力差検出器5の使用と、EGR弁の位置での圧力低下の関係の適用とに基づいている。
【0034】
本発明の方法は以下のステップを有している。
【0035】
a)EGR弁の位置で圧力差ΔPを計測するステップ、
b)吸気マニフォールド3内の燃焼気体分率設定値BGRspを選択するステップ、
c)EGR弁の位置で適用されるバレー−サン・ヴナンの関係式などの正確な圧力低下の関係からEGR弁6の開口度設定値Ospを計算するステップであって、正確な圧力低下によりEGR弁の開口度をEGR弁の位置の圧力差ΔPと吸気マニフォールド内の燃焼気体分率設定値BGRspとに関係付けるステップ、および
d)EGR弁6をEGR弁6の開口度設定値Ospの関数として制御するステップである。
【0036】
[表記]
説明において、上流と下流という用語は空気ループ10内の流れの方向に対して定められている。さらに以下の表記が使用される。
【0037】
エンジンパラメータ
−Padm、Tadm:吸気マニフォールド内の圧力と温度。従来、吸気温度は一定であると見なされる。実際、マニフォールドの上流に配置されている交換器はそのような調整を行うように寸法が設定されている。
−Patm、Tatm:大気の圧力と温度。それらは一定と見なすことができる。
−Tam:EGR弁の入口の位置での上流の温度。この温度は、燃焼気体再循環回路内に配置されている交換器(クーラー)4’を通過することによってもたらされる。
−Vbp:新鮮な空気と燃焼気体との混合空間であり、EGR弁の下流。新鮮な空気の送達ラインと燃焼気体の送達ラインとの交差部分のラインによって占められる容積であって、この空間はターボチャージャー7の圧縮器まで延びている。この空間は、図1のハッチングされた区間12に該当している。排気気体再循環回路の実施形態では、マニフォールドをEGR弁と圧縮器との間に一体化することが可能で、この場合Vbpはこのマニフォールドの体積を表している。
−Φadm、Φech:吸気弁8と排気弁9の弁アクチュエータの位置。これらの変数は基準位置に対する位相差を定量化している。
−N:エンジンの回転数。
【0038】
空気ループモデルの変数
−BGR:吸気マニフォールド内の燃焼気体質量分率。吸気弁が閉じたときにシリンダ内に存在している燃焼気体の質量を条件付ける。
−BGRbp:EGR弁から下流の容積中の燃焼気体質量分率。
−Dthr:空気クーラー4を通過する質量流量。
−Dgb:EGR弁6を通して供給される燃焼気体の質量流量。
−Dair:吸気ライン入口の新鮮な空気の質量流量。
−Dasp:シリンダを充填する質量流量。
−S:EGR弁の有効表面積。この量は弁を通して流れることができる流体の量を特徴付けており、対象のEGR弁の特徴マップを介して弁の開口に関連している。
−τ:新鮮な空気と燃焼気体との混合の時間と吸気マニフォールド3内への送達との間の気体搬送遅延。
−Pam:EGR弁入口の位置での上流の圧力。
−Pav:EGR弁出口の位置での下流の圧力。
−ΔP:EGR弁の上流と下流との間の圧力差:ΔP=Pam−Pav。この量は、EGR弁の計装を使用して計測できる。
−O:弁の開口。この量は弁の開口度を特徴付ける。
【0039】
空気ループモデルの定数
−r:本明細書に関連するすべての気体については同じ値で288J/kg/Kである比気体定数(排気気体と空気)。
−γ:気体の比熱比。気体は理想的だと仮定され、この比は、関連する全ての気体について同一の定数であって値が1.4である。
【0040】
これらの表記に添え字spが付いていれば、考慮している量に関連付けられている設定点の値を表している。
【0041】
ステップa)−EGR弁の位置での圧力差の計測
EGR弁6を正確に制御するために、本発明ではEGR弁6の位置の圧力差ΔPに依存するEGR弁制御方法を使用する。実施形態において、この値はEGR弁6の位置の圧力差検出器5を使用して知ることができる。その代わりに、弁入口での圧力Pavと弁出口での圧力Pamとをそれぞれ計測する2つの別個の検出器を使用することができる。複数の圧力検出器を空気ループ10の他の複数の点に配置して、複数の計測値からΔPの値を推定することもできる。
ステップb)−マニフォールド内の燃焼気体分率設定値の選択
最適なエンジン制御のために、吸気マニフォールド内の燃焼気体分率設定値BGRspを選択する。この設定値BGRspを選択するには、静的な較正または燃焼エンジンの燃焼気体制御方法から得られるエンジンマップを使用することができる。本方法の進行中に時間を節約するには、このステップをEGR弁6の位置で圧力差を計測するステップと同時に実施することが好ましい。
ステップc)−EGR弁開口度設定値の計算
EGR弁開口度設定値を計算するには、EGR弁の位置での正確な圧力低下の関係を使用する。この関係によって、弁開口度設定値OspをEGR弁6の位置の圧力差ΔPと吸気マニフォールド内の燃焼気体分率設定値BGRspの関数として求めることができる。正確な圧力低下の関係は、EGR弁に適用されるバレー−サン・ヴナンの関係に基づいていることが好ましく、この関係はΔPの小さい値(たとえば、ΔP<10%Patm)について線形化できる。
【0042】
一実施形態において、燃焼気体分率設定点BGRspからの値のための、吸気マニフォールド内の有効表面積設定値Ssp(ΔP)を求めるために、EGR弁6の位置の圧力差ΔPに依存している正確な圧力低下の関係が適用され、それから弁の有効表面積設定値Ssp(ΔP)は弁マップから弁開口度設定値Ospとして表される。そのような弁マップの例を図3に示している。
【0043】
正確な圧力低下の関係を、空気吸気回路とEGR燃焼気体再循環回路の動的なモデルである空気ループ10のモデルによってエンジンに適合させていることが有利である。空気ループ10は、全体が吸気回路と気体再循環回路とから構成されている。空気ループモデルの入力データは、複数のエンジンパラメータ、燃焼気体分率設定値BGRsp、EGR弁の位置での圧力差ΔPである。エンジンの実際の振る舞いを制御し、空気ループモデルをできるだけ正確に構成するためには、エンジンのいくつかのパラメータ、つまりエンジン1を特徴付けるデータとエンジンの動作に関連するデータを知ることが重要である。これらのパラメータについては、計測する、シミュレーションする、および製造者のデータからの取得する、の少なくとも1つを行うことができる。計測されたまたはシミュレーションされたパラメータは、吸気マニフォールド内の圧力Padm、吸気マニフォールド内の温度Tadm、大気圧Patm、大気温度Tatm、EGR弁出口の温度Tam、吸気弁アクチュエータと排気弁アクチュエータの位置φadmとφech、およびエンジン回転数Nとすることができる。
【0044】
一実施形態において、大気圧Patmと大気温度Tatmとは、モデルを単純化するために一定であると考えられる。そのうえ、吸気温度Tadmは一定であると考えられ、実際、マニフォールドの上流に配置されている交換器はそのような調整を行うように寸法が設定されている。
【0045】
空気ループモデルは、燃焼気体動力学と吸気マニフォールドの動的モデルに結合されている静的シリンダ充填モデルとからなることができる。
【0046】
有利な実施形態において、空気ループモデルは、以下のステップを実行することによって構築される。
i)のエンジンパラメータからシリンダ充填質量流量Daspを計算するように静的なシリンダ充填モデルを適用する。
ii)シリンダ充填質量流量Daspとのエンジンパラメータからから圧縮器の下流の質量流量Dthrを計算するように、吸気マニフォールドの動的モデルを適用する。
iii)吸気マニフォールド内の燃焼気体分率設定値BGRspからEGR弁の下流の容積中の燃焼気体分率設定点(式A)を求めるように、動的気体搬送モデルを適用する。
【0047】
【数4】



【0048】
および、
iv)エンジンパラメータと、EGR弁の下流の容積中の燃焼気体分率設定値(式A)と、圧縮器の下流の質量流量Dthrと、からEGR弁を通して供給される燃焼気体の質量流量設定値(式B)を求めるように、動的な新鮮な気体と燃焼気体との混合モデルを適用する。
【0049】
【数5】



【0050】
本方法の本実施形態は、図2のフローチャートにその全体を記述している。ステップa)からd)は時間的に順序付けられている複数のブロックで表されており、ステップi)からiv)はステップc)に統合されている。
【0051】
空気ループモデルの構成後、EGR弁6の位置における、EGR弁を通して供給される燃焼気体の質量流量設定値(式B)の関数である正確な圧力低下の関係を適用する。
【0052】
ステップi)−静的なシリンダ充填モデル
このモデルによって、シリンダ充填質量流量を計算することができる。そのようなモデルの例は、T.LEROYとJ.CHAUVINによってフランスのIFP Energies nouvellesにおいて開発され、特許文献1に開示されている。
【0053】
したがって、インタークーラーを通過する全流量を予測する。そのような予測は、動的な吸気マニフォールドモデルに結合されている静的なシリンダ充填モデルによって実施される。
【0054】
エンジン回転数、吸気温度と圧力、および複数のアクチュエータの位置の関数としてシリンダ内の燃焼気体質量を予測する静的な充填モデルを考える。
【0055】
方程式(1)は次式である。
【0056】
【数6】

【0057】
ここで、次式はシリンダ内の燃焼気体の質量であり
【0058】
【数7】

【0059】
次式はシリンダの排気部分での燃焼気体の質量であり、
【0060】
【数8】

【0061】
−α、α、α:既知のマップであり、PadmとNの関数(テストベンチで実験的に求められる)。
-Vivc:ivc(吸気弁が閉じる)時のシリンダの容積であり、吸気弁アクチュエータの位置Φadmとエンジン寸法の関数。
−Vevc:evc(排気弁が閉じる)時のシリンダの容積であり、排気弁アクチュエータの位置Φechとエンジン寸法の関数。
−OF:オーバーラップ因子。これは、吸気と排気の弁アクチュエータの位置ΦadmとΦechの関数である。
【0062】
この方程式の系から、シリンダ内の燃焼気体の質量を、エンジンパラメータPadm、N、Φadm、およびΦechとオーバーラップ因子OFによって表すことができる。
【0063】
オーバーラップ因子OFは以下の関係によって求められる。
【0064】
【数9】

【0065】
ここで、
−AadmおよびAech:吸気と排気の弁の両開口面積、エンジンパラメータ。
−θ:クランク角度。
−θivo:ivc(吸気弁が閉じる)時のクランク角度、吸気弁アクチュエータの位置Φadmの関数。
−θevc:evc(排気弁が閉じる)時のクランク角度、排気弁アクチュエータΦevcの位置の関数。
−θiv=θev:両方の弁が同じ開口面積を有しているときのクランク角度。
【0066】
方程式の系(1)を組み合わせることによって、燃焼気体の質量の関数gを3つのパラメータPadm、Φadm、およびΦechの関数である以下の方程式(2)として定めることができる。
【0067】
【数10】

【0068】
それから以下の関係式(3)によって空気で充填されるシリンダ2の質量流量を求めることができる。
【0069】
【数11】

【0070】
それから方程式(2)と(3)を組み合わせるが、明確さのために、エンジン回転数と吸気温度を式では考慮しない。したがって、シリンダを充填する質量流量と3つのパラメータPadm、Φadm、およびΦechとの間の関数fを以下の方程式(4)と定義することができる。
【0071】
【数12】

【0072】
ステップii)−動的吸気マニフォールドモデル
吸気マニフォールドを通過する流れをモデル化することによって、シリンダ充填質量流量Daspといくつかのエンジンパラメータからバタフライバルブの下流の質量流量Dthrを計算することができる。たとえば、方程式を以下のように書くことができる。
【0073】
【数13】

【0074】
ここで、Vadmは吸気マニフォールド3の容積である。
【0075】
それから、バタフライ13の下流の質量流量Dthrと変数Daspおよび式Cとの間の関数h(方程式(5))を以下のように求めることができる。
【0076】
【数14】

【0077】
【数15】

【0078】
したがって、方程式(4)と(5)を組み合わせることによって、バタフライ13の下流の質量流量Dthrと変数とPadm、Φadm、Φechおよび式Cとの間の関数H(方程式(6))を以下のように書くことができる。
【0079】
【数16】

【0080】
ステップiii)−動的気体搬送モデル
本方法のこのステップは、吸気マニフォールド内の燃焼気体分率設定値を求めることにある。搬送動力学は、アクチュエータと吸気マニフォールドとの間の空間的な距離を表しており、時間の経過による純粋な遅延変数τに相当している。そのため、この遅延の位置でのモデル化は以下のように書くことができる。
【0081】
【数17】

【0082】
この関係を設定値に適用することによって、等式(7)は以下のようになる。
【0083】
【数18】

【0084】
したがって、吸気マニフォールド3内の燃焼気体の組成を制御するためには、EGR弁の下流の容積内の組成を直接制御する。このステップは、計算時間を節約するためにステップi)とii)と同時に実施したり、これらのステップの前に実施したりすることができる。
【0085】

ステップiv)−動的気体混合モデル
EGR弁6から供給される燃焼気体の質量流量設定点(式B)を求めるために、新鮮な気体と燃焼気体の動力学をモデル化しなければならない。
【0086】
そのため、以下の方程式(8)のようなモデル化を使用することができる。
【0087】
【数19】

【0088】
定常条件下では、複数の流量について以下の方程式(9)を得ることができる。
【0089】
【数20】

【0090】
したがって、方程式(6)から(9)を組み合わせることによって、EGR弁を通して供給される燃焼気体の質量流量設定値と様々な変数との間の関係式(10)を以下のように書くことができる。
【0091】
【数21】

【0092】
それから、EGR弁の位置での正確な圧力低下の関係、たとえばバレー−サン・ヴナンの関係を適用し、EGR弁を通して供給される燃焼気体の質量流量Dgb、弁の有効表面積S、弁の上流の温度Tam、および弁の位置での圧力差の間の関係を書くことができる(以下の方程式(11))。
【0093】
【数22】

【0094】
この関係は、バレー−サン・ヴナンの関係を点1(上流)から点x(下流)に流れる流体に適用して得られ、それによって点xでの流体の速度Vを求めることができる。
【0095】
【数23】

【0096】
それから、速度は以下の式によって質量流量に関連付けられる。
【0097】
【数24】

【0098】
それから以下のような公式が方程式11を得るために適用される。
【0099】
【数25】

【0100】
このモデルを簡略化するように、弁の下流の圧力を大気圧と同じと見なし、そのため以下の関係を量ΔP=Pam−PavとPatmだけによって表現することができる。本発明の有利な実施形態において、このモデルはΔPの小さい値(たとえば、ΔP<10%Patm)について線形化することができる。それから、弁の有効表面積Sと弁を通して供給された燃焼気体の質量流量Dgbと、弁の上流の温度Tamと、弁の位置での圧力差ΔPとの間の関数jを求めるためにこの関係を反転させる。設定値に関してこの関係を書くことによって、以下の等式12が得られる。
【0101】
【数26】

【0102】
したがって、弁の有効表面積の設定値は、既知のエンジンパラメータ、吸気マニフォールド内の選択された燃焼気体分率設定値、および変数ΔPのみの関数として書くことが可能である。
【0103】
最後に、弁開口度Oが対象の弁について特徴的なマップ(図3参照)によって有効表面積Sに関連付けられる。EGR弁のこのマップは、製造者のデータから知ることができるし、実験によって求めることもできる。したがって弁開口度設定値は、その有効表面積設定値から求めることができる。
【0104】
ステップd)−EGR弁制御
それから、弁開口度設定値Ospが弁に適用される。手動、油圧、空気圧、電気、電子、または機械制御をEGR弁に対して選択することができる。
【0105】
したがって、本発明の制御方法は以下のようになる。
−EGR装置とEGR弁の上流と下流との間に圧力差検出器とが備わっているガソリンエンジンの吸気マニフォールド内の気体の組成を制御し、
−よりよい運転性能を得るために燃焼気体分率の過渡応答を改善し、
−比較的広い運転範囲にわたってEGR装置を使用し、したがって、乗り物の性能を向上させ、そして
−エンジン消費を増加させる必要なしに、排気ガス排出を減少させる。
【0106】
さらに、本発明は、少なくとも1つのシリンダと吸気マニフォールドとを有している燃焼エンジンにも関し、燃焼エンジンは、圧力差検出器を自身の位置に備えているEGR弁を有している燃焼気体再循環回路を備えており、EGR弁は、前述の方法によって、たとえば電子的に制御される。
【符号の説明】
【0107】
1 燃焼エンジン
2 シリンダ
3 吸気マニフォールド
5 圧力差検出器
6 EGR弁
10 空気ループ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのシリンダ(2)と、吸気マニフォールド(3)と、EGR弁(6)を一体化している燃焼気体再循環回路とが備わっている燃焼エンジン(1)を制御する方法であって、
a)前記EGR弁(6)の位置で圧力差ΔPを計測するステップと、
b)前記吸気マニフォールド(3)内の燃焼気体分率設定値BGRspを選択するステップと、
c)前記EGR弁(6)の位置で適用されるバレー−サン・ヴナンの関係などの正確な圧力低下の関係から前記EGR弁(6)の開口度設定値Ospを計算するステップであって、前記正確な圧力低下により、前記EGR弁(6)の開口度を前記EGR弁(6)の位置の前記圧力差ΔPと前記吸気マニフォールド(3)内の前記気体分率設定点BGRspとに関係付けるステップと、
d)前記EGR弁(6)を前記EGR弁(6)の開口度設定値Ospの関数として制御するステップと、
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記正確な圧力低下の関係を、前記空気吸気回路と前記燃焼気体再循環回路の動的なモデルである空気ループ(10)のモデルによって前記エンジン(1)に適合させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記空気ループ(10)の前記モデルは、燃焼気体動力学のモデルと前記吸気マニフォールド(3)の動的モデルに組み込まれている静的シリンダ充填モデルとからなる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記空気ループの前記モデルは、
i)複数のエンジンパラメータからシリンダ充填質量流量Daspを計算するように、静的なシリンダ充填モデルを適用するステップと、
ii)前記シリンダ充填質量流量Daspと複数のエンジンパラメータから圧縮器の下流の質量流量Dthrを計算するように、前記吸気マニフォールド(3)の動的モデルを適用するステップと、
iii)前記吸気マニフォールド(3)内の前記燃焼気体分率設値BGRspから前記EGR弁(6)の下流の容積中の燃焼気体分率設定値(式A)を求めるように、動的気体搬送モデルを適用するステップと、
iv)複数の前記エンジンパラメータと前記EGR弁(6)の下流の前記容積中の前記燃焼気体分率設定値(式A)と前記圧縮器の下流の質量流量Dthrとから前記EGR弁(6)を通して供給される前記燃焼気体の質量流量設定値(式B)であって、正確な圧力低下の関係はこの設定点の関数である、質量流量設定値を求めるように、動的な新鮮な気体と燃焼気体との混合モデルを適用するステップと、
を実行することによって構成される、請求項2または3に記載の方法。
【数1】

【数2】

【請求項5】
前記新鮮な気体と燃焼気体の混合動的モデルは以下の公式によって定義される、請求項3または4に記載の方法。
【数3】

ここで、BGRbp:EGR弁(6)の下流の体積中の燃焼気体分率、
r:理想気体定数、
atm:大気温度、
atm:大気圧力、
bp:新鮮な空気と燃焼気体との混合体積、
gb:EGR弁(6)を通して供給される燃焼気体の質量流量、および
air:吸気ライン入口の新鮮な空気の質量流量である。
【請求項6】
前記動的気体搬送モデルは、前記エンジン(1)の前記EGR弁(6)と前記吸気マニフォールド(3)との間の空間距離を表しており、前記距離は純粋な遅延に相当している、請求項3から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記EGR弁(6)の位置での前記圧力差ΔPと前記吸気マニフォールド(3)内の前記燃焼気体分率設定値BGRspとの関数として前記EGR弁(6)の有効表面積設定値Ssp(ΔP)を定める正確な圧力低下の関係が適用され、それから前記有効表面積設定値Ssp(ΔP)が前記EGR弁(6)のマップから前記EGR弁(6)の開口度設定値Ospとして表現される、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記正確な圧力低下の関係は、バレー−サン・ヴナンの関係に基づいて、不等式ΔP<10%Patmを満たす前記EGR弁(6)の位置での前記圧力差の値ΔPに対して線形化されている、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記EGR弁(6)の位置での前記圧力差は、前記EGR弁(6)の上流と下流のうちの少なくとも一方の、少なくとも1つの圧力検出器によって計測される、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記吸気マニフォールド(3)内の前記燃焼気体分率設定値BGRspの前記選択は、静的な較正から得られるエンジンマップによって決定される、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つのシリンダ(2)と、吸気マニフォールド(3)と、圧力差検出器(5)を自身の位置に備えているEGR弁(6)を有している燃焼気体再循環回路と、を備えている燃焼エンジン(1)であって、
前記エンジン(1)の制御手段を有しており、前記制御手段は請求項1から10のいずれか1項に記載の制御方法を適用するようになっていることを特徴とする、燃焼エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−83261(P2013−83261A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−227357(P2012−227357)
【出願日】平成24年10月12日(2012.10.12)
【出願人】(591007826)イエフペ エネルジ ヌヴェル (261)
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
【Fターム(参考)】