説明

燃焼ガス抽気プローブ

【課題】燃焼ガスを冷却しながら抽気するためのプローブの寿命を延長させ、セメント製造設備の塩素バイパスシステム等の安定運転を確保する。
【解決手段】内部を高温の燃焼ガスが流れる内筒2と、内筒を囲繞して内筒との間に形成された通路8を燃焼ガスより低温のガスが流れる外筒3とを備え、低温ガスによって冷却された燃焼ガスを抽気する燃焼ガス抽気プローブ1において、内筒の先端部と外筒の先端部とを一体化することなく、内筒の先端部を、外筒の先端部に対して、プローブの軸線方向に相対移動可能とした。燃焼ガスを冷却しながら抽気した際に、内筒の先端部が熱膨張によりプローブの長手方向に伸長したとしても、熱膨張の少ない外筒の先端部に対して相対的に移動するため、プローブの先端部に過大な熱負荷がかかるのを防止することができ、熱応力によるプローブ先端部の破断、脱落を回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼ガス抽気プローブに関し、特に、セメントキルンのキルン尻からボトムサイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気して塩素を除去するための塩素バイパスシステム等に用いられるプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント製造設備におけるプレヒーターの閉塞等の問題を引き起こす原因となる塩素、硫黄、アルカリ等の中で、塩素が特に問題となることに着目し、セメントキルンの入口フード付近より燃焼ガスの一部を抽気して塩素を除去する塩素バイパスシステムが用いられている。この塩素バイパスシステムには、セメントキルンの排ガス流路より燃焼ガスを冷却しながら抽気するためのプローブが設置される。
【0003】
このプローブの一例として、特許文献1には、ガス抽気系に接続されている内管と、この内管のダクト内への突出先端の近傍に大気を導く外管とで構成される二重管構造のバイパス管が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、二重管構造のプローブをキルン排ガス流路に連通させ、該プローブの内管を介してキルン排ガスの一部を抽気するとともに、該プローブの内管と外管との間の流体通路に冷却気体を供給し、該冷却気体を内管の先端部内方に案内して該プローブの先端部に混合急冷域を形成するキルンバイパスにおける排ガス冷却装置が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、プローブの先端金物の焼損を防止し、プローブ内で均一に燃焼ガスを急冷することがきるとともに、外径を小さく抑えるため、高温の燃焼ガスが流れる円筒状の内筒と、内筒を囲繞する円筒状の外筒と、内筒に穿設された低温のガスの吐出孔と、内筒と外筒との間に低温ガスを供給し、吐出孔から低温のガスを、高温の燃焼ガスの吸引方向に対して略々直角中心方向に吐出させる低温ガス供給手段とを備える燃焼ガス抽気プローブが提案されている。
【特許文献1】特開平02−116649号公報
【特許文献2】特開平11−35355号公報
【特許文献3】国際公開WO2005/050114号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、塩素含有リサイクル資源の活用量の増加に伴い、セメントキルンに持ち込まれる塩素の量が増加している。そのため、セメント製造設備の安定運転を継続する上で、塩素バイパスシステムの安定運転及び稼働率の向上が不可欠の状況になっている。
【0007】
しかし、上記特許文献1乃至3に記載のプローブなどは、二重管を構成する内筒の先端部と、外筒の先端部とが先端金物等を介して一体化されているため、内筒を通過する高温の燃焼ガスによって内筒が熱膨張し、内筒の先端部がプローブの長手方向に伸長すると、外筒側は、高温の燃焼ガスに直接曝されないことから熱膨張が少ないため、プローブの先端部に過大な熱負荷がかかり、熱応力が発生する。この熱応力により、先端金物と内筒との接合部に亀裂が生じたり、先端金物等が破断して脱落することによりプローブの寿命が短くなり、塩素バイパスシステムの安定運転及び稼働率の向上を図ることができないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、プローブの寿命を延長させ、塩素バイパスシステム設備等の安定運転を確保することのできる燃焼ガス抽気プローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、内部を高温の燃焼ガスが流れる内筒と、該内筒を囲繞し、該内筒との間に形成された通路を前記燃焼ガスより低温のガスが流れる外筒と、前記通路から前記低温のガスを前記通路に供給する冷却空気入口部と、前記内筒に穿設され、前記低温ガスを前記内筒の内部に吐出する吐出孔とを備え、該吐出孔から吐出された前記低温ガスによって冷却された前記燃焼ガスを抽気する燃焼ガス抽気プローブであって、前記内筒の先端部と前記外筒の先端部とを一体化することなく、該内筒の先端部を、前記外筒の先端部に対して、該プローブの軸線方向に相対移動可能としたことを特徴とする。
【0010】
そして、本発明によれば、燃焼ガス抽気プローブの内筒の先端部と外筒の先端部とを一体化せずに、内筒の先端部を、外筒の先端部に対して、該プローブの軸線方向に相対移動可能としたため、該プローブを燃焼排ガス流路に設置して燃焼ガスを冷却しながら抽気した際に、内筒の先端部が熱膨張により長手方向に伸長しても、熱膨張の少ない外筒の先端部に対して相対的に移動し、該プローブの先端部に過大な熱負荷がかかるのを防止することができる。これによって、従来発生していた熱応力によるプローブ先端部の破断、脱落を回避することができる。
【0011】
前記燃焼ガス抽気プローブにおいて、前記外筒の先端部に固定され、該外筒と前記内筒の両先端部で形成される開口部を覆うように配置されるリング状の板状部材を備え、前記内筒の先端部と前記リング状の板状部材とを一体化することなく、該内筒の先端部を、前記リング状の板状部材に対して、前記プローブの軸線方向に相対移動可能とすることができる。これによって、内筒の先端部と外筒の先端部との間にリング状の板状部材が介在する燃焼ガス抽気プローブでも、上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0012】
また、前記燃焼ガス抽気プローブにおいて、前記内筒の上半周の先端を、前記リング状の板状部材との間に、該プローブの長手方向に隙間を有するように構成することができる。これにより、内筒の上半周の先端とリング状の板状部材との間から、低温ガスが内筒側に流れ、内筒の先端近傍におけるコーチングの生成を防止することができる。
【0013】
前記燃焼ガス抽気プローブにおいて、前記内筒の下半周の先端を、該下半周の先端を上にして、該プローブの取付部と上下方向に重なり合うように構成することができる。これにより、内筒の先端部等に生成されたコーチングが内筒と該プローブの取付部との間に落下することを防止することができる。
【0014】
前記燃焼ガス抽気プローブにおいて、前記リング状の板状部材を、前記外筒の先端部の内周面に固定される補強部材を介して固定することができ、簡易な構成にて外筒に対してリング状の板状部材を強固に保持するとともに、外筒先端部の垂れ下がりを防止することができる。
【0015】
前記燃焼ガス抽気プローブにおいて、前記低温ガスとして、該プローブの周囲から取り入れた空気、又は悪臭を含む換気空気を用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明にかかる燃焼ガス抽気プローブによれば、プローブの寿命を延長させ、塩素バイパスシステム等の安定運転を確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明にかかる燃焼ガス抽気プローブ(以下、「プローブ」と略称する)の一実施の形態を示し、このプローブ1は、円筒状の内筒2と、内筒2を囲繞する円筒状の外筒3と、外筒3の先端部に固定された、リング状の板状部材としての鏡板6と、内筒2と外筒3との間に形成された冷却空気通路8と、冷却ファン(不図示)からの冷却空気を冷却空気通路8に供給する冷却空気入口部(不図示)等を備え、セメントキルンの立上り部5に取付座4を介して設置される。
【0019】
内筒2は、立上り部5を流れる高温の燃焼ガスを、吐出口2cから導入された冷却空気によって冷却しながら矢印S方向に抽気するために備えられる。この内筒2は、円筒状に形成され、燃焼ガスの入口部2aは、セメントキルンの立上り部5の燃焼ガス流路に面し、出口部2bは、後段の抽気ガス処理設備に接続される。吐出口2cは、内筒2の相対向する位置に2つ設けられる。
【0020】
図2に示すように、内筒2の上半周の先端2dは、鏡板6との間に隙間Cを有し、冷却空気通路8内を矢印方向に流れる冷却空気が、隙間Cより矢印D方向に吹き込まれることによって、立上り部5の内側に蓄積されるコーチングを除去することができる。
【0021】
一方、内筒2の下半周の先端2eは、図3に示すように、この先端2eを上にして、取付座4の縁部4aと上下方向に重なり合うように構成され、これにより、立上り部5や、内筒2の先端部に生成されたコーチングが内筒2と取付座4との間に落下することを防止することができる。
【0022】
図1に示すように、外筒3は、内筒2を囲繞するように、断面が内筒2と同心円状の円筒状に形成される。この外筒3は、フランジ部3aを介して取付座4に固定される。外筒3の内面と、内筒2の外面との間には、冷却空気通路8が形成され、この冷却空気通路8に、図示しない冷却空気入口部を介して外部から冷却空気が供給され、吐出口2cを介して内筒2の内部に導入される。
【0023】
鏡板6は、内筒2と外筒3の両先端部の開口部を覆うようにリング状に形成される。但し、図2及び図3に示したように、開口部全体を覆うのではなく、内筒2との間には隙間が形成される。この鏡板6と外筒3との間には、補強部材としての補強リブ7が装着され、外筒3に対して鏡板6を強固に保持するとともに、外筒3の先端部の垂れ下がりを防止している。
【0024】
上記プローブ1を用いてセメントキルン内で発生した1000℃程度のキルン排ガスの一部を抽気する際には、図示しない冷却ファン及び冷却空気入口部から冷却空気通路8に冷却空気が供給され、冷却空気は、冷却空気通路8を矢印方向に流れた後、吐出孔2cから内筒2内に導入され、高温の燃焼ガスと混合される。これによって、燃焼ガスは、プローブ1の出口ガス温度が450℃程度になるように急冷されながら矢印S方向に抽気される。
【0025】
ここで、内筒2の先端部は、高温雰囲気に曝されて熱膨張する一方、外筒3の先端部及び鏡板6の部分は、高温雰囲気に直接曝されることはなく、また、冷却空気通路8に冷却気体が流れるため熱膨張が少ない。その結果、図2に示すように、外筒3の先端部及び鏡板6に対して、内筒2の先端部が相対的にプローブ1の軸線方向(矢印E方向)に移動するが、内筒2の先端部と鏡板6とは一体化されず、隙間が設けられているため、内筒2の先端部と鏡板6との間に熱応力が発生することはなく、従来この熱応力により発生していた内筒2の先端部と鏡板6との間の亀裂、鏡板6の脱落等を回避することができる。
【0026】
尚、上記実施の形態においては、内筒2及び外筒3の先端部の開口部を覆う鏡板6を有するプローブ1について説明したが、鏡板6を備えずに、外筒3の先端部を内径が先端部に向かうにつれて漸減するような構成としたり、鏡板6を有していてもリング状ではなく、円錐台状に形成するなど、プローブ1の先端部の構成は種々変更可能であるが、いずれにしても、本発明においては、内筒2の先端部を外筒3の先端部等と一体化することなく、外筒3の先端部等に対して、プローブ1の軸線方向に相対移動可能としたことを特徴とする。
【0027】
また、上記実施の形態においては、高温の燃焼ガスをプローブ1の周囲から取り入れた空気によって冷却する場合について説明したが、セメント焼成設備において廃棄物(例えば、都市ごみ焼却灰、下水汚泥、建設発生処理土等)を乾燥する際に発生する悪臭を含む換気空気等を冷却用ガスとして用いることもできる。
【0028】
さらに、内筒2や外筒3は、鉄板又は鋳鋼で製作することができるが、これらに限定されることなく、その他の金属等、高温に耐えることができ、加工性に優れる材料等を用いることもできる。また、鏡板6や補強リブ7についても鉄板等で製作することができるが、鉄板等に限定されることなく、他の材料を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明にかかる燃焼ガス抽気プローブの一実施の形態を示す一部破断全体図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】図1のB部拡大図である。
【符号の説明】
【0030】
1 燃焼ガス抽気プローブ
2 内筒
2a 入口部
2b 出口部
2c 吐出口
2d 先端(上半周)
2e 先端(下半周)
3 外筒
3aフランジ部
4 取付座
4a縁部
5 立上り部
6 鏡板
7 補強リブ
8 冷却空気通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を高温の燃焼ガスが流れる内筒と、
該内筒を囲繞し、該内筒との間に形成された通路を前記燃焼ガスより低温のガスが流れる外筒とを備え、
前記低温ガスによって冷却された前記燃焼ガスを抽気する燃焼ガス抽気プローブにおいて、
前記内筒の先端部と前記外筒の先端部とを一体化することなく、該内筒の先端部を、前記外筒の先端部に対して、該プローブの軸線方向に相対移動可能としたことを特徴とする燃焼ガス抽気プローブ。
【請求項2】
前記外筒の先端部に固定され、該外筒と前記内筒の両先端部で形成される開口部を覆うように配置されるリング状の板状部材を備え、
前記内筒の先端部と前記板状部材とを一体化することなく、該内筒の先端部を、前記板状部材に対して、前記プローブの軸線方向に相対移動可能としたことを特徴とする請求項1に記載の燃焼ガス抽気プローブ。
【請求項3】
前記内筒の上半周の先端は、前記リング状の板状部材との間に、該プローブの長手方向に隙間を有することを特徴とする請求項2に記載の燃焼ガス抽気プローブ。
【請求項4】
前記内筒の下半周の先端は、該下半周の先端を上にして、該プローブの取付部と上下方向に重なり合うことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の燃焼ガス抽気プローブ。
【請求項5】
前記リング状の板状部材は、前記外筒の先端部の内周面に固定される補強部材を介して支持されることを特徴とする請求項2、3又は4に記載の燃焼ガス抽気プローブ。
【請求項6】
前記低温ガスは、該プローブの周囲から取り入れた空気、又は悪臭を含む換気空気であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の燃焼ガス抽気プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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