説明

燃焼化学気相蒸着装置及び加飾品の製造方法

【課題】イトロ処理などの燃焼化学気相蒸着で表面改質が行われる被加飾体への異物の付着を防止し、歩留まりを向上させた加飾品の製造装置を提供する。
【解決手段】被加飾体である蓋部材103をワークとして、移動テーブル30がワークをスライダーに沿って移動させる。バーナー21は、移動テーブル30の上方に取り付けられており、下方を移動するワークに向かって、改質剤化合物の入っている火炎をあてる。吸気部40は、移動テーブル30の下方に中空の台座32の開口部32aを有しており、バーナー21及び移動テーブル30の下方に向かってブロアー41により行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼化学気相蒸着装置及び、加飾シートを用いた加飾品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や釣具や自動販売機などの屋外で使用される被着体の外装部分に図柄や絵柄を施すために加熱転写シートが用いられている。そして、屋外使用での耐久性を得るために、例えば特許文献1(特開2009−56788号公報)では、被着体の表面にプラズマ処理やイトロ処理などの酸化処理を適用して表面の濡れ性を上げて接着性を上げることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−56788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、パーソナルコンピュータや携帯電話機などのような屋内でも使用される被加飾体に対してイトロ処理を適用すると、イトロ処理で用いられる改質剤化合物などによって生じる細かな異物が被加飾体に付着することがある。屋外で使用される被着体では問題にされない細かな異物の被加飾体への付着で起こる外観不良は、パーソナルコンピュータや携帯電話機などの特に外観の美しさを求められる製品では問題となり、歩留まりの低下を招くことになる。
本発明の目的は、イトロ処理などの燃焼化学気相蒸着で表面改質が行われる被加飾体への異物の付着を防止して、加飾品の製造時における歩留まりを向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合わせることができる。
本発明の一見地に係る燃焼化学気相蒸着装置は、被加飾体及び加飾シートの少なくとも一方をワークとして、ワークを移動経路に沿って移動させるための移動テーブルと、移動テーブルの上方に取り付けられ、下方を移動するワークに向かって、改質剤化合物の入っている火炎を形成するバーナーと、移動テーブルの下方に下部吸気口を持ち、移動経路においてバーナー及び移動テーブルの下方に向かって吸気する第1吸気経路とを備えるものである。
この燃焼化学気相蒸着装置では、第1吸気経路によって、ワークがバーナーの下方を移動経路に沿って移動するときに下方に向かって吸気することができる。それにより、バーナーからバーナーの下方を移動するワークに向かって火炎とともに吹き付けられる改質剤化合物をワークの下方の下部吸気口から除去することができる。その結果、改質剤化合物が変質した異物や余分な改質剤化合物がワークに付着するのを防止することができる。
【0006】
この燃焼化学気相蒸着装置は、バーナーの上方に設けられている上部吸気口を有し、バーナーの上方に向かって吸気する第2吸気経路をさらに備え、第2吸気経路は、移動テーブルがバーナーの下方を通過しないときに吸気が行われるものであってもよい。
第2吸気経路によってバーナーの上方に向かう吸気を行なうと、バーナーの火炎によって生じる熱をワークある下方とは反対側の上方に逃がすことができ、ワークに対する熱の影響を抑制することができる。また、バーナーの下方をワークが通過するとき以外に行なうことで火炎の揺れを防止して蒸着の均一性を向上させることができる。
移動テーブルは、バーナーに対するワークの角度を変えてワークに対して異なる方向から火炎をあてるためワークの保持角度を変えられる角度変更機構を有する構成としてもよい。
【0007】
立体形状を持つ被加飾体に対して加飾シートを立体的に密着させる場合に、角度変更機構によりワークの保持角度を変えて蒸着することにより、被加飾体の角度の異なる面に改質剤化合物を蒸着することができ、被加飾体の角度の異なる面にわたって加飾部位の密着度を向上させることができる。
移動テーブルは、複数の開口部を持ち、ワークを載置するためのテーブル面を有するものであってもよい。
ワークにバーナーの火炎をあてるときに、開口部を通して吸気して、熱を効率よく取り除くことができる。それにより、ワークがバーナーの熱によって劣化するのを防止することができる。
移動テーブルは、テーブル面の下にテーブル面を支える中空の台座をさらに有し、第1吸気経路は、移動テーブルの下方に設けられている吸入口を持つ吸気装置と、中空の台座とを含み、中空の台座は、移動テーブルとともに移動し、バーナーの下方を移動テーブルが通過するときに、吸気装置の吸入口の近傍から移動テーブルの下方近傍まで延びて下部吸気口を形成するものであってもよい。
【0008】
このような第1吸気経路によると、中空の台座の長さだけ、吸気装置の吸入口を移動テーブルから離して移動テーブルの下方に設けることができ、吸気装置の周辺には改質剤化合物が溜まり難い。また、中空の台座は移動テーブルとともに移動するため、移動テーブルがバーナーから離れると中空の台座をバーナーから離すことができる。そのため、常時バーナーの近傍に中空の台座が存在しないため中空の台座に改質剤化合物や改質剤化合物が変質した異物が溜まり難くなり、被加飾体や加飾シートに異物が付着し難くなる。
移動テーブルは、中空の台座の底部近傍にテーブル搬送機構を有するものであってもよい。それにより、中空の台座の長さの分だけテーブル搬送機構とワークの載置位置との距離を離すことができ、テーブル搬送機構における塵埃の飛散によるワークへの影響を避けることができる。
【0009】
バーナー及び移動テーブルは、バーナーの下方を移動するワークとバーナーとの距離を調節する距離調節機構を有するものであってもよい。
距離調節機構により、ワークの蒸着の仕方にバリエーションを持たせることができる。
本発明の一見地に係る加飾品の製造方法は、被加飾体及び加飾シートの少なくとも一方をワークとして、バーナーにより形成される改質剤化合物の入った火炎にワークの表面をあてる燃焼化学気相蒸着を行う燃焼化学気相蒸着工程と、被加飾体と加飾シートとを、燃焼化学気相蒸着工程で改質された表面で密着させて加飾する加飾工程とを備え、燃焼化学気相蒸着工程は、バーナーの下方を移動するワークに向かってバーナーから火炎をあてるとともにバーナー及びワークの下方に向かって吸気することを特徴とする。
この加飾品の製造方法では、バーナー及びワークの下方に向かって吸気することによって、バーナーからバーナーの下方を移動するワークに向かって火炎とともに吹き付けられる改質剤化合物をワークの下方に除去することができる。それにより、改質剤化合物が変質した異物や余分な改質剤化合物がワークに付着するのを防止することができる。
【0010】
燃焼化学気相蒸着工程は、バーナーで生じる熱の除去のためにバーナーの上方に向かう吸気を、ワークがバーナーの下方を通過しないときに行うものであってもよい。
バーナーの上方に向かう吸気を行なうことで、バーナーの火炎によって生じる熱をワークのある下方とは反対側の上方に逃がすことができ、ワークに対する熱の影響を抑制することができる。また、バーナーの下方をワークが通過するとき以外に吸気を行なうことで火炎の揺れを防止して蒸着の均一性を向上させることができる。
燃焼化学気相蒸着工程及び加飾工程は、クリーンルームで行われるものであってもよい。
クリーンルームで行なわれることで、塵埃など改質剤化合物以外の異物の付着も低減させることができ、歩留まりをさらに向上させることができる。
【0011】
加飾工程は、被加飾体と加飾シートとを改質後の表面で密着させて被加飾体に加飾シートをラミネートする工程又は、被加飾体と加飾シートとを改質後の表面で密着させて被加飾体に加飾シートから転写層を転写する工程を含むものであってもよい。
異物が加飾シートと被加飾体との間に入り込むことを防止できるので、加飾シートのような薄いシートをラミネートしても、加飾シートの一部が浮き上がったり、加飾シートと被加飾体との間に空気が溜まる箇所ができたりするのを防止することができる。
燃焼化学気相蒸着工程は、立体形状を持つ被加飾体をワークとして、バーナーに対するワークの角度を変えてワークに対して異なる方向から火炎をあてるものであってもよい。
立体形状を持つ被加飾体に対して加飾シートを立体的に密着させる場合に、被加飾体の角度の異なる面に改質剤化合物を蒸着することができ、被加飾体の角度の異なる面にわたって加飾部位の密着度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被加飾体及び加飾シートの少なくとも一方の上方に位置するバーナー並びに被加飾体及び加飾シートの少なくとも一方から下方に向かって吸気することにより、燃焼化学気相蒸着で表面改質が行われる被加飾体及び加飾シートへの異物の付着を防止するなどして、加飾品などの製造時における歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】被加飾体であるパーソナルコンピュータの外観を示す斜視図。
【図2】加飾シートの一例を示す斜視図。
【図3】加飾シートの構成の一例を示す断面図。
【図4】加飾の一工程の例を説明するための断面図。
【図5】加飾の一工程の例を説明するための断面図。
【図6】加飾の一工程の例を説明するための断面図。
【図7】加飾品の製造工程の概要を示すフローチャート。
【図8】フレーム処理装置の外観を示す模試的な正面図。
【図9】フレーム処理装置の外観を示す模試的な側面図。
【図10】図9のII-II線における模式的な断面図。
【図11】図8のI-I線における模式的な断面図。
【図12】(a)移動テーブルを斜め上から見た斜視図、(b)移動テーブルの周辺の構造を模式的に示す上面図。
【図13】(a)待機ポジションにある移動テーブルを示す模式的な側面図、(b)搬出ポジションにある移動テーブルを示す模式的な側面図。
【図14】中空の台座の模式的な断面図。
【図15】(a)蓋部材のセット工程を模式的に示す断面図、(b)第1回目の蒸着工程を模式的に示す断面図、(c)折り返す折返工程を模式的に示す断面図、(d)第2回目の蒸着工程を模式的に示す断面図、(e)取出工程を模式的に示す断面図。
【図16】(a)蓋部材のセット工程を模式的に示す断面図、(b)第1回目の蒸着工程を模式的に示す断面図、(c)折り返す折返工程を模式的に示す断面図、(d)搬送工程を模式的に示す断面図、(e)取出工程を模式的に示す断面図。
【図17】(a)蓋部材のセット工程を模式的に示す断面図、(b)折り返す折返工程を模式的に示す断面図、(c)第1回目の蒸着後の昇降動作を説明するための模式的な断面図。
【図18】(a)第3回目の蒸着後の昇降動作を説明するための模式的な断面図、(b)第3回目の蒸着後の昇降動作を説明するための模式的な断面図。
【図19】(a)第4回目の蒸着後の昇降動作を説明するための模式的な断面図、(b)第4回目の蒸着後の昇降動作を説明するための模式的な断面図。
【図20】(a)第5回目の蒸着後の昇降動作を説明するための模式的な断面図、(b)第5回目の蒸着後の昇降動作を説明するための模式的な断面図。
【図21】(a)昇降動作を説明するための模式的な断面図、(b)昇降動作を説明するための模式的な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1)加飾品の概要
まず、加飾品の概要、被加飾体及び加飾シートについて図1及び図2を用いて簡単に説明する。図1には、加飾品であるパーソナルコンピュータ100が示されている。
パーソナルコンピュータ100は、種々の部品の集合体である。例えば、パーソナルコンピュータ100の部品である蓋101も加飾品である。図1に示されている蓋101は、星型の図柄102が加飾された蓋部材103からなる。蓋部材103の材質は金属、樹脂、木材など種々の材質の中から選択することができるが、以下では蓋部材103が金属であるものを中心に説明する。蓋101は、パーソナルコンピュータ100の外観の大きな面積を占めており、パーソナルコンピュータ101の中の最も重要な外観の一つを構成する。そのため、蓋101の外観が悪いとパーソナルコンピュータ100の購買意欲を低下させることがあり、蓋101の加飾においては、僅かな異物の混入でも蓋101が不良品になる場合がある。
【0015】
(2)加飾シートの概要
図2には、星型をあしらった長方形の図柄102を持つ転写層230が形成されている加飾シート200が示されている。加飾シート200は、図3に示されているように、基材フィルム210の上に、転写層230と接着層240とが順に積層された構造を有している。また、加飾シート200は、転写層230と基材フィルム210との境界に、離型層220を有している。転写層230は、透明保護層231とインキ層232とからなる。
基材フィルム210は、例えばポリエチレンテレフタレートやポリエステルなどの樹脂で形成され、厚さが0.01〜0.2mm程度の極めて薄いフィルムである。離型層220は、例えばエポキシ樹脂やウレタン樹脂などで形成され、厚さが0.1〜0.2μm程度の薄い層である。離型層220は、ロールコート法やスプレーコート法やグラビア印刷法などで形成される。
【0016】
透明保護層231は、転写層230被加飾体である蓋部材103に転写されたときに最も外側の表面となり、蓋部材103を保護する役目を果たす。この透明保護層231によって、蓋101の表面には、高い耐擦傷性及び高い耐磨耗性などの高い耐久性が付与される。透明保護層231は、例えばウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂及びアクリル系樹脂などの熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、あるいは紫外線や電子線で硬化するように調整された紫外線硬化樹脂や電子線硬化樹脂などで形成される。
インキ層232は、上述の図柄102などの図柄を表現するための層である。インキ層232は、例えば、透明保護層231の上に印刷法などによって形成することができる。インキ層232を形成する材質は、例えばアクリル系樹脂、硝化綿系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂などの樹脂と、それに添加される顔料又は染料を含むものである。また、インキ層232を形成する材質は、例えば真空蒸着法やスパッタリング法などを使って薄膜状に形成する場合には金属とすることもできる。インキ層232に金属薄膜を使用する場合には、エッチング法を用いて図柄を形成することができる。インキ層232は、樹脂を用いる場合には例えば0.5〜50μm程度の膜厚で形成でき、金属を用いる場合には例えば50〜1200μm程度の膜厚で形成することができる。
【0017】
接着層240は、被加飾体である蓋部材103と転写層230とを接着させる重要な役割を担っている。そのため、接着層240は、蓋部材103と転写層230とを密着させて接着させたい部分に形成される。接着層240と蓋部材103との接着強度を向上させるためには接着層240の蓋部材103に対するぬれ性が良好な方が好ましい。そのために、蓋部材103及び接着層240のうちの少なくとも一方に、後述するイトロ処理を施して蓋部材103や接着層240の表面改質が行われる。
接着層240には、通常、接着層240を加熱あるいは加圧して接着させるため、素材に適した感熱性あるいは感圧性の樹脂が使用される。接着層240の主となる材質は、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂などの樹脂である。例えば、被加飾体がポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合には、ポリアクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂などのこれらの樹脂と親和性の高い樹脂が用いられる。接着層240には、これらの主材に粘着性や接着性を向上させるために粘着剤などの種々の添加剤が添加される。接着層240は、厚みが例えば0.5〜50μm程度であり、例えばロールコート法やグラビア印刷などのコート法や印刷法によって透明保護層231やインキ層232の上から印刷される。
【0018】
(3)加飾工程の概要
加飾工程の一つとして、加飾シートを用いて転写する転写工程がある。転写工程には、転写だけを行うロール式熱転写工程、アップダウン式熱転写工程、真空プレス転写工程及び真空圧空転写工程などと、転写と同時に成形を行う成形同時加飾転写などとがある。ロール式熱転写工程には、上述の加飾シート200が用いられる。ロール式熱転写工程では、例えば、平面台上に被加飾体がセットされ、加熱されたシリコンロールによって加飾シート200が被加飾体に押し付けられる状態になる。そして、平面台が水平方向に前進することにより、加飾シート200が加熱・加圧される。加飾シート200が剥がされると、図柄の形成されている転写層230及び接着層240が被加飾体に残り、基材フィルム210と離型層220が被加飾体から離れる。この加熱・加圧により接着層240が被加飾体に接着される。
【0019】
アップダウン式熱転写工程では、熱盤に取り付けられたシリコンラバーが、下方に降下して加飾シート200を被加飾体に押し付ける。このシリコンラバーによって加飾シート200と被加飾体が加熱・加圧されて、ロール式熱転写工程と同様に、被加飾体に転写層230の転写が行われる。
真空プレス転写工程では、被加飾体を載せた台に吸引孔が設けてあり、この吸引孔から吸引することで加飾シート200がクランプされる。その後、加飾シート200と被加飾体の空気を吸引孔から抜くことにより、加飾シート200をある程度、被加飾体に沿わせる。その後、加飾シート200の上からシリコンラバーに空気圧(熱風)をかけ、シリコンラバーを膨らませることで加飾シート200を被加飾体に押し付けてシリコンラバーから加飾シート200と被加飾体に圧力をかける。このときのシリコンラバーによる加熱・加圧により、ロール式熱転写工程と同様に、被加飾体に転写層230の転写が行われる。真空プレス転写工程は、例えば立体形状を有する被加飾体の加飾に用いられる。
【0020】
真空圧空転写工程では、例えば特願2010-125173号に記載されているように、上下容器内を真空にした後に、上下容器内の被加飾体に転写層230が圧空で転写される。真空圧空転写工程ではまず、被加飾体が下容器の載置部に載置された状態で、加飾シート200が被加飾体の上方に配置されて、加飾シート200がクランプ機構によって挾持される。上下容器が型締めされて、加飾シート200の下方(被加飾体と載置部の側)が第1密閉空間となり、この第1密閉空間から空気が抜かれて被加飾体の上面に加飾シート200が密着させられる。次に、加飾シート200と上容器とによって形成される第2密閉空間に高圧空気が送り込まれる。この送り込まれる高圧空気により加飾シート200が被加飾体の表面側に押し付けられるとともにヒータによって加飾シート200が加熱され、この加熱・加圧によって加飾が行われる。つまり、転写層230及び接着層240が被加飾体に残り、基材フィルム210と離型層220が被加飾体から離れる。
【0021】
次に、成形同時加飾転写の一例について図4乃至図6を用いて簡単に説明する。図4に第1型310と第2型320とが型開きされた状態が示されている。第1型310と第2型320とによって加飾同時転写される被加飾体は、蓋部材103であって、金属製の薄板をプレス加工して立体形状に形成されたものである。
蓋部材103は、第1型310のキャビティ面312に載置される。このとき蓋部材103は、図示を省略している吸引孔から吸引されて固定される。この載置された蓋部材103とキャビティ面312との間には、樹脂が注入されるキャビティ313が形成される。キャビティ面312には、蓋部材103の裏面に樹脂成形が行われた後に蓋部材103を取り出すため、キャビティ面312から突き出るスライド部313が設けられている。また、このキャビティ313に樹脂を注入するため、第1型310にはキャビティ面312に達するゲート315が設けられている。
【0022】
第2型320は、蓋部材103の表面に沿った形状を持つキャビティ面322を有している。また、第2型320には、加飾シート200を保持する加飾シート保持機構323が設けられている。加飾シート保持機構323は、図示を省略している加飾シート200の送り機構によって順次送られる加飾シート200を適切な位置でクランプできるように制御される。
図5には、第1型310と第2型320が型締めされて樹脂が注入されている状態が示されている。第1型310と第2型320が型締めされた状態で、第2型320のキャビティ面322に押されて蓋部材103と加飾シート200が密接する。蓋部材103と加飾シート200が密接した状態で、蓋部材103の裏面を構成する樹脂104が射出されると、樹脂104の温度と圧力によって加飾シート200が加熱・加圧される。
【0023】
この樹脂による加飾シート200の加熱・加圧によって加飾シート200から転写層230の転写が行われる。転写される転写層230と蓋部材103との接着力を向上させるため、この射出同時転写の前に、後述するイトロ処理により蓋部材103の表面が表面改質を受けている。
蓋部材103の裏面の射出成形が終了すると、図6に示されているように、第1型310と第2型320の型開きが行われる。このとき、スライド部304が突き出て蓋部材103を第1型310から取り外す。
加飾工程には、上述の転写工程以外に、加飾シートごと成形を行うラミネート工程やインモールド工程などがある。本発明においては、これらのいずれの加飾工程においても、被加飾体の表面に転写層あるいは加飾シートが接着されるため、イトロ処理などの燃焼化学気相蒸着によって被加飾体及び加飾シートの少なくとも一方の表面を改質する。
【0024】
(4)加飾品の製造方法の概要
次に、上述のパーソナルコンピュータ100の蓋101を例に、加飾品の製造方法の全体的な概要を図7のフローチャートに沿って説明する。
上述の第1型310及び第2型320並びに加飾シート200が、図示を省略している射出成形機にセットされてクリーンルームの中に設置されている。また、後ほど詳細に説明するイトロ処理を行うフレーム処理装置も同じクリーンルームの中に設置されている。
このようなクリーンルームに、清掃又は洗浄されて塵埃が除去された状態で、蓋部材103が搬入される(ステップS10)。
次に、フレーム処理装置の移動テーブルに、ワークである蓋部材103がセットされる(ステップS11)。
【0025】
移動テーブルを移動しながら、改質剤化合物の入った火炎をワークにあててフレーム処理を行う(ステップS12)。
移動テーブルが火炎のあたらないところまで移動して停止するので、フレーム処理されたワークを移動テーブルから外してフレーム処理装置から取り出す(ステップS13)。
フレーム処理されたワークを、射出成形機の第1型310にセットする。第1型310と第2型320の型締めを行った後、射出成形を行って加飾シート200からワーク(蓋部材103)に転写層230を転写する。(ステップS14)。
そして、射出成形した樹脂104が冷えたら、第1型310及び第2型320から転写層230が転写されたワーク即ち蓋101が取り出され、加飾されたワーク(蓋101)は、一旦クリーンルームから搬出される(ステップS15)。例えば、CPUや液晶などの電子部品と蓋101や筐体との組み立てを別の工場で行うような場合には、クリーンルームから搬出された後、蓋101のまま運搬が行われる。しかし、クリーンルーム内でパーソナルコンピュータ100に組み立ててもよく、その場合にはクリーンルームから搬出する工程は省かれる。
【0026】
(5)フレーム処理装置の構成
図8はフレーム処理装置の外観を示す模試的な正面図であり、図9はフレーム処理装置の外観を示す模式的な側面図である。
フレーム処理装置10は、イトロ処理部20と、移動テーブル30と、吸気部40と、排熱部50とを備えている。このフレーム処理装置10は、クリーンルームCL内に設置されている。
(5−1)イトロ処理部20
イトロ処理部20は、バーナー21と、図示を省略している燃焼ガス供給装置とを備えて構成されている。燃焼ガス供給装置は、バーナー21で燃焼して火炎を形成するための燃焼ガスをバーナー21に供給する。
【0027】
燃焼ガスは、通常、引火性ガスと、気化された改質剤化合物と、改質剤化合物を運ぶキャリアガスとを含んでいる。火炎温度の制御が容易になるころから、燃焼ガスには、引火性ガス(助燃性ガスを含む)を添加することが好ましい。引火性ガス(助燃性ガスを含む)としては、プロパンガスや天然ガス等の炭化水素ガス、水素、及び酸素(空気)等が挙げられる。
改質剤化合物としては、例えば、シラン化合物が挙げられる。例えば、シラン化合物としては、アルキルシラン化合物、アルコキシシラン化合物、アルキルチタン化合物、アルコキシチタン化合物、アルキルアルミニウム化合物、及びアルコキシアルミニウム化合物などが挙げられる。例えば、アルキルシラン化合物としては、テトラメチルシランやテトラエチルシランなどがあり、アルキルアルミニウム化合物としては、テトラメチルチタンやテトラエチルチタンなどがあり、アルキルアルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウムやトリエチルアルミニウムなどがある。
【0028】
キャリアガスとしては、上述の引火性ガスと同種類のガスを使用することが好ましい。キャリアガスは、改質剤化合物を燃焼ガス中に均一に混合するためのガスである。従って、改質剤化合物とキャリアガスとを予め混合した後、引火性ガスに混合することが好ましい。
バーナー21には、例えば、予混合型バーナー、拡散型バーナー、部分予混合型バーナー、噴霧バーナー、及び蒸発バーナー等が用いられる。
(5−2)移動テーブル30
図10は、図8におけるI−I線断面図であり、図11は、図9におけるII−II線断面図である。また、図12(a)は、ワークが載置されていない状態で、移動テーブルを斜め上から見た斜視図であり、図12(b)は、ワークが載置されている移動テーブルの周辺の構造を模式的に示す上面図である。
【0029】
移動テーブル30は、テーブル面31と、台座32と、クランプ機構33と、テーブル搬送機構34を備えている。
テーブル面31は、2枚の板状部材31a,31bからなり、板状部材31a,31bの全面にわたって円形の開口部31cが多数形成されている。
テーブル面31の正面側にはスリット31dが形成されており、テーブル面31のスリット31dのところで棒状ストッパ33aがテーブル面31から上方に突き出ている。一方、テーブル面31の背面側端部のところでは、板状ストッパ33dがテーブル面31から上方に突き出ている。ワークである蓋部材103は、テーブル面31に載置された後、棒状ストッパ33aと板状ストッパ33dに挟まれて固定される。このとき、板状ストッパ33dは、バネ33cによって引っ張られ、蓋部材103を棒状ストッパ33aの方に押し付ける。
【0030】
フレーム処理装置10の上部枠体11からは、解除バー15が移動テーブル30の方向に向かって突出している。図11及び図12(b)に示されているのは、移動テーブル30がバーナー21から離れた待機ポジションにある状態である。待機ポジションにあるときには、解除バー15が板状ストッパ33dをバネ33cの力に逆らって押して棒状ストッパ33aと板状ストッパ33dとの間隔を押し広げる。それにより、蓋部材103に対する棒状ストッパ33aと板状ストッパ33dによる固定が解除される。図13(a)には、待機ポジションにある移動テーブル30を側面から見た状態が示されている。
搬出ポジションは、待機ポジションよりもバーナー21に近づいたポジションであり、解除バー15が板状ストッパ33dを押さなくなるポジションである。上述したワークである蓋部材103が棒状ストッパ33aと板状ストッパ33dに挟まれて固定されるポジションが、搬出ポジションである。図13(b)には、搬出ポジションにある移動テーブル30を側面から見た状態が示されている。
【0031】
棒状ストッパ33aは、調節機構33bの調節ネジ33b1によって正面側から背面側の所定の範囲Ar1で位置を変更することができるように構成されている。ワークの大きさや形状に合わせて棒状ストッパ33aの位置を変えることにより、棒状ストッパ33aと板状ストッパ33dは、大きさや形状の異なる様々な形態のワークを固定することができる。
図14には、台座32の断面が示されている。台座32は中空になっており、テーブル面31を支える役目を果たすが、同時に下方に向かって吸気するためのダクトの役目も果たす。つまり、台座32は、テーブル面31の近傍に開口部32aを持つとともに、底部にも開口部32bを持っている。バーナー21の下方にワークがある状態において、この底部の開口部32bが後述するブロアーの吸入口の近傍に位置し、ブロアーのダクトの役目を果たす。
【0032】
また、図14には、テーブル搬送機構34が示されている。テーブル搬送機構34は、水平に延びるスライダー34aを有しており、このスライダー34aにより移動テーブル30を正面側から背面側へ、また背面側から正面側へ搬送する動力を発生する。このスライダー34aは、移動距離及び移動速度の設定が可能であり、ワークの材質や形態あるいは接着領域などに応じて移動距離や移動速度が設定される。また、スライダー34aは、移動テーブル30を支えて移動テーブル30の移動方向を限定する役目も果たしている。このようなスライダー34aを用いることで、塵埃の発生を大幅に抑え、ワークへの塵埃の飛散を防止できる。
テーブル搬送機構34は、スライダー34aによって片側だけで支えると片持ちによる歪やカジリによるテーブル移動の停止などの不具合が発生する。そこで、移動テーブル30のスライダー34aの配置側とは反対側で、フレーム処理装置10の下部枠体12とテーブル搬送機構34のローラー34bとによって移動テーブル30が支えられている。ローラー34bは、移動テーブル30の台座32に取り付けられており、下部枠体12の上を転がる。また、テーブル搬送機構34は、移動テーブル30をスムーズに移動させるために、スライダー34aの情報をスライダー34aに平行して配置されている下部枠体13の上を転がるローラー34cを有している。このスライダー34aの側にあるローラー34cによってカジリなどが防止される。
【0033】
(5−3)吸気部40
図10及び図11に示されているように、フレーム処理装置10の吸気部40は、ブロアー41と、吸気側ダクト42と排気側ダクト43と中空の台座32とによって構成されている。図11において、吸気部40の空気の流れが矢印で示されている。
ブロアー41は、移動テーブル30の下方に配置されている。そして、ブロアー41の吸気側には吸気側ダクト42が接続され、吸気側ダクト42の上部の開口部42aが吸気口になる。この吸気側ダクト42の開口部42aは、バーナー21の直下に配置され、急気装置の吸入口として機能する。この吸気側ダクト42の開口部42aの長さL42は、バーナー21の長さL21よりも長く、開口部42aの幅W42は、バーナー21の幅W21よりも大きい。
【0034】
ブロアー41の排気側には排気側ダクト43が接続されている。排気側ダクト43は、ブロアー41で吸い込んだ空気をクリーンルームCLの外へ排気する。
移動テーブル30の中空の台座32は、移動テーブル30がバーナー21の下方に来てワークにバーナー21の火炎があたる状態では、バーナー21の直下に位置して吸気部40のダクトとして機能する。すなわち、テーブル面31の近傍にある台座32の開口部32aが、ワークの移動経路においてバーナー21及び移動テーブル30の下方に向かって吸気する下部吸気口として機能する。
(5−4)排熱部50
図10及び図11に示されているように、フレーム処理装置10の排熱部50は、ブロアー51と、フード52と、吸気側ダクト53と排気側ダクト54とによって構成されている。図11において、排熱部50の空気の流れが矢印で示されている。
【0035】
フード52は、バーナー21の上方に配置され、フード52の開口部52aが上部吸気口として機能する。フード52の長さL52は、バーナー21の長さL21よりも長く、フード52の幅W52は、バーナー21の幅W21よりも大きい。フード52の上部からブロアー51までは、吸気側ダクト53によって接続されており、ブロアー51からクリーンルームCLの外側へは排気側ダクト54が延びている。このような排熱部50により、バーナー21で発生する熱をクリーンルームCLの外へ逃がしている。
(5−5)イトロ処理工程
次に、図15を用いてイトロ処理工程について説明する。図15(a)は、待機ポジションにおいてワークである蓋部材をセットするセット工程を模式的に示す断面図、図15(b)は、往路においてバーナーの下に到達したワークに対する蒸着が行われている第1回目の蒸着工程を模式的に示す断面図、図15(c)は、往路の蒸着が終了して移動テーブルを折り返す折返工程を模式的に示す断面図、図15(d)は、復路においてバーナーの下に到達したワークに対する蒸着が行われている第2回目の蒸着工程を模式的に示す断面図、図15(e)は、待機ポジションにおいてワークを取り出している取出工程を模式的に示す断面図である。
【0036】
図15(a)に示されているセット工程では、蓋部材103は、転写が行われる面を上にして移動テーブル30のテーブル面31に棒状ストッパ33aに突き当てて載置される。
次に、移動テーブル30をスタートさせるスタートスイッチが押されると、火炎の揺れを止めるために、排熱部50のブロアー51が停止して排熱のための吸気を停止する。
図15(a)に示されている待機ポジションから移動テーブル30が少し背面側に移動した時点で、板状ストッパ33dがワークを押す状態となって蓋部材103が固定される。
図15(b)に示されている第1回目の蒸着工程では、正面側から背面側に向かって一定の速度で移動テーブル30が移動しながら蓋部材103がバーナー21の火炎に炙られる。
【0037】
さらに、図15(c)に示されている折り返しが行われ、移動テーブル30が背面側から正面側へと移動を始める。この折り返し時点で、蓋部材103の熱を取るために少し停止時間を設けてもよい。
図15(d)に示されている第2回目の蒸着工程では、背面側から正面側に向かって一定の速度で移動テーブル30が移動しながら蓋部材103がバーナー21の火炎に炙られる。
図15(e)の待機ポジションに戻る前に、板状ストッパ33dが解除バー15に当たって蓋部材103の固定が解除される。そして、待機ポジションにおいて移動テーブル30から2回の表面改質が終了した蓋部材103が取り出される。
<変形例1>
上記実施形態では、被加飾体である蓋部材103が金属である場合について説明したが、蓋部材103などの被加飾体は、樹脂や木材など他の材質であってもよい。
【0038】
<変形例2>
上記実施形態では、一つの被加飾体である蓋部材103に対して、一度のイトロ処理で2回の表面改質が行われる場合について説明したが、被加飾体が熱に対して比較的弱い樹脂などの場合には、一度のイトロ処理で1回の表面改質を行うにとどめ、被加飾体であるワークが火炎に炙られる回数を減らしてもよい。
図16に示されているフレーム処理装置10Aは、一度のイトロ処理で1回の表面改質を行うために、バーナー21を上下させるシリンダー60を備えている。
図16(a)に示されているセット工程では、上述の実施形態と同様に、蓋部材103がテーブル面31に載置される。このとき、シリンダー60によってバーナー21は蒸着が可能な位置に配置されている。
【0039】
次に、スタートスイッチが押されると、火炎の揺れを止めるために、排熱部50のブロアーが停止して排熱のための吸気を停止し、待機ポジションから少し背面側に移動した時点で蓋部材103が固定されるのは、上記実施形態と同様である。
図16(b)に示されている第1回目の蒸着工程では、バーナー21が蒸着可能位置に固定されている状態(火炎の有効範囲内をワークが通過し得る状態)で、正面側から背面側に向かって一定の速度で移動テーブル30が移動しながら蓋部材103が火炎に炙られる。
さらに、図16(c)に示されている折り返しが行われ、移動テーブル30が背面側から正面側へと移動を始める。この折り返し時点で、シリンダー60によって、蓋部材103が火炎の熱をほとんど受けない位置(火炎の有効範囲外)までバーナー21が上昇する。また、バーナー21の熱を排出するため、ブロアー51が吸気を始める。
【0040】
図16(d)に示されている復路では、背面側から正面側に向かって一定の速度で移動テーブル30が移動するが、蓋部材103が火炎の影響をほとんど受けない。
図16(e)の待機ポジションに戻る前に、蓋部材103の固定が解除され、待機ポジションにおいて移動テーブル30から1回の表面改質が終了した蓋部材103が取り出される。
<変形例3>
上記実施形態では、上方から下方に向かって一方向からのみ火炎をワークである蓋部材103に当ててイトロ処理を行う場合について説明した。図1及び図2に示したように、蓋部材103の図柄102が転写される面は平面であったため、上述のように一方向のみから火炎処理を行なうだけで必要にして十分である。
【0041】
しかし、例えば、蓋部材103の側面に数字や他の図柄などを転写する場合もある。そのような場合、上方から下方に向かって一方向からのみバーナー21の火炎をワークに当てたのでは不十分な場合がある。
図17、図18、図19及び図20に示されているフレーム処理装置10Bは、ワークの保持角度を変更するために移動テーブルを昇降させる昇降装置70(図18(b)及び図19(b)参照)を備えている。この昇降装置70は、正面側、背面側、右側面側及び左側面側の4箇所に配置されており、正面側、背面側、右側面側及び左側面側の4箇所を個別に昇降させて移動テーブル30を傾けることができる。
図17乃至図20には、この昇降装置70を使用しながら行われるイトロ処理の一例が示されている。
【0042】
図17(a)に示されているセット工程では、上述の実施形態と同様に、蓋部材103がテーブル面31に載置される。このとき、シリンダー60によってバーナー21は蒸着が可能な位置に配置されている。
次に、スタートスイッチが押されると、火炎の揺れを止めるために、排熱部50のブロアー51が停止して排熱のための吸気を停止する。
図17(a)に示されている待機ポジションから移動テーブル30が少し背面側に移動した時点で、板状ストッパ33dがワークを押す状態となって蓋部材103が固定される。
次に、スタートスイッチが押されると、火炎の揺れを止めるために、排熱部50のブロアー51が停止して排熱のための吸気を停止し、待機ポジションから少し背面側に移動した時点で蓋部材103が固定されるのは、上記実施形態と同様である。
【0043】
第1回目の蒸着工程では、バーナー21が蒸着可能位置に固定されている状態で、正面側から背面側に向かって一定の速度で移動テーブル30のテーブル面31が水平を保った状態で移動しながら蓋部材103が火炎に炙られ、図17(b)の折返し地点まで移動テーブル30が移動する。
さらに、図17(b)に示されている折り返し時点で、昇降装置70が移動テーブル30の背面側を上昇させて背面側が正面側よりも上になるようにテーブル面31を傾ける。このときテーブル面31の右側面側と左側面側は同じ高さになっている。
図17(b)に示されているようにテーブル面31を傾けたまま、バーナー21が蒸着可能位置に固定されている状態で、背面側から正面側に向かって移動テーブル30が移動し、第2回目の蒸着が行われる。
【0044】
第2回目の蒸着が行われた後、図17(c)に示されているように、待機ポジションの手前で移動テーブル30が停止する。そして、蓋部材103の固定が行われた状態で、昇降装置70が移動テーブル30の背面側を下降させるとともに正面側を上昇させて、正面側が背面側よりも上になるようにテーブル面31を傾ける。このときテーブル面31の右側面側と左側面側は同じ高さになっている。
図17(c)に示されているようにテーブル面31を傾けたまま、バーナー21が蒸着可能位置に固定されている状態で、正面側から背面側に向かって移動テーブル30が移動し、第3回目の蒸着が行われる。
第3回目の蒸着が行われて、図18に示されている折り返し点に移動テーブル30が来ると、図18(a)に示されているように、昇降装置70が移動テーブル30の正面側を下げてテーブル面31の正面側と背面側の高さを同じにする。また、この折り返し点において、図18(b)に示されているように、昇降装置70が、移動テーブル30の左側面側を上げてテーブル面31の左側面側が右側面側よりも高くなるように昇降させる。
【0045】
図18に示されているようにテーブル面31を傾けたまま、バーナー21が蒸着可能位置に固定されている状態で、正面側から背面側に向かって移動テーブル30が移動し、第4回目の蒸着が行われる。
第4回目の蒸着が行われた後、図19(a)に示されているように、待機ポジションの手前で移動テーブル30が停止する。そして、図19(b)に示されているように、蓋部材103の固定が行われた状態で、昇降装置70が移動テーブル30の左側面側を下降させるとともに右側面側を上昇させて、右側面側が左側面側よりも上になるようにテーブル面31を傾ける。このときテーブル面31の正面側と背面側は同じ高さになっている。
図19に示されているようにテーブル面31を傾けたまま、バーナー21が蒸着可能位置に固定されている状態で、正面側から背面側に向かって移動テーブル30が移動し、第5回目の蒸着が行われる。
【0046】
第5回目の蒸着が行われて図20(a)に示されている折り返し点に達すると、図20(b)に示されているように、昇降装置70が移動テーブル30の右側面側を下降させてテーブル面31を水平に戻す。また、この折返し時点で、シリンダー60によって、蓋部材103が火炎の熱をほとんど受けない位置(火炎の有効範囲外)までバーナー21が上昇する。また、バーナー21の熱を排出するため、ブロアー51が吸気を始める。
復路では、背面側から正面側に向かって一定の速度で移動テーブル30が移動するが、蓋部材103が火炎の影響をほとんど受けない。そして、上述の実施形態と同様に、待機ポジション(図15(e)参照)に戻る前に、蓋部材103の固定が解除され、待機ポジションにおいて移動テーブル30から5回の表面改質が終了した蓋部材103が取り出される。
【0047】
<変形例4>
上記変形例3では、移動テーブル30を昇降する昇降装置70によりテーブル面31を傾け、ワークの保持角度を変更する場合について説明した。しかし、ワークの保持角度の変更は、テーブル面31を傾けるフレーム処理装置や処理方法に限られるものではない。例えば、図21に示されているフレーム処理装置10Cのように、ワークを直接昇降させる昇降装置80を設けてもよい。図21(a)には、昇降装置80により蓋部材103の正面側が持ち上げられている状態が示されており、図21(b)には、蓋部材103の左側面側が持ち上げられている状態が示されている。
<変形例5>
上記実施形態では、ワークとして被加飾体である蓋部材103のみに対してイトロ処理を施す場合について説明したが、加飾シート200に対してイトロ処理を施してもよい。加飾シート200にイトロ処理を施す場合には、フレーム処理装置は、移動テーブルに代えて、加飾シート200を高速で巻き出すとともに巻き取りを行うシート巻取り装置を備えるものになる。図2に示されている巻き出し側ロール280から巻取り側ロール290に高速で加飾シート200を移動させることで、基材フィルム210が熱で変形するのを防止する。また、高速で加飾シート200を移動させるとともに、加飾シート200を金属フィルムに密着させるなどして冷却しながら移動させるようにしてもよい。改質する箇所は、例えば、加飾シート200の接着層240のある側である。
【0048】
<変形例6>
上記実施形態では、第1型310及び第2型320をクリーンルーム内に入れてクリーンルーム内で加飾を行い、またフレーム処理装置10,10A,10B,10CもクリーンルームCL内に入れてイトロ処理を行う場合について説明した。このように、燃焼化学気相蒸着工程及び加飾工程をクリーンルーム内で行なうことで、被加飾体や加飾シートに付着する塵埃を極度に少なくできるので好ましい。しかし、燃焼化学気相蒸着工程及び加飾工程のいずれか若しくは両方をクリーンルーム外の比較的塵埃の少ない環境で実施してもよく、その場合でもフレーム処理装置10,10A,10B,10Cにおいて、余分な改質剤化合物やそれに関連する異物の付着を防止する効果を奏する。
<特徴>
(1)フレーム処理装置10,10A,10B,10Cは、移動テーブル30をスライダー34a(移動経路)に沿って移動し、バーナー21の下方を移動するワークである蓋部材103に向かって改質剤化合物の入っている火炎をあててイトロ処理(燃焼化学気相蒸着)を行う(ステップS12)。上方から下方に向かってバーナー21でワークに火炎をあてる際、吸気部40(第1吸気経路)のブロアー41(吸気装置)が中空の台座32及び吸気側ダクト42を通じてバーナー21及び移動テーブル30の下方に向かって吸気する。このとき、中空の台座32の開口部32aが、移動テーブルの下方の下部吸気口と指定の役目を果たす。
【0049】
このように下方に吸気しながら火炎により蒸着が行われるので、改質剤化合物やそれが変質したものが異物としてワークである蓋部材103に付着するのが防止される。
そして、イトロ処理された蓋部材103の表面に加飾シート200の転写層230が転写される(ステップS14)。上述のように、蓋部材103の表面に異物の付着が低減されることによって蓋101の図柄102が美しく転写される。そのため、蓋101の外観不良を低減して歩留まりを向上させることができる。
(2)イトロ処理において、バーナー21の下方でワークに火炎をあてるときは、排熱部50(第2吸気経路)のブロアー51が停止して上方への吸気を止めて火炎が揺れるのを防止する。それにより蒸着の均一性を保ち、蓋部材103の表面の均一な改質を行う。その一方で、バーナー21の下方でワークに火炎をあてないとき、つまりワークがバーナーの下方を通過しないときに排熱部50によって上方へ吸気することにより、バーナー21で発生する熱をワークのある下方だけでなく反対側の上方にも逃がすことができ、ワークに対する熱の影響を抑制することができる。
【0050】
(3)フレーム処理装置10,10A,10B,10C並びに第1型310及び第2型320をクリーンルーム内に設置して、燃焼化学気相蒸着工程及び加飾工程をクリーンルーム内で行なう。それにより、被加飾体である蓋部材103と加飾シート200が密着するところに付着する塵埃を低減でき、図柄102の転写された蓋101を非常に美しく仕上げることができる。
(4)蓋部材103の側面に火炎を当てるなど被加飾体の立体的な形状に対応したイトロ処理を行うために、フレーム処理装置10B,10Cは、ワークの保持角度を変えられる昇降装置70,80(角度変更機構)を備えている。イトロ処理において、昇降装置70,80により蓋部材103の側面に対して火炎があたり易いバーナー21と蓋部材103との角度が保持される。それにより、蓋部材103の側面も十分に改質することができ、側面に形成される図柄の耐久性を向上させることができる。被加飾体が立体的な形状をしており、例えば落ち込みなどの部分がある形状に対してもフレーム処理装置10B,10Cによって良好なイトロ処理を行なうことができ、フレーム処理装置の汎用性が向上する。
【0051】
(5)移動テーブル30のテーブル面31には、複数の開口部31cが形成されている。ワークである蓋部材103にバーナー21の火炎があたるときに、開口部31cを通して吸気されるので熱が効率よく取り除かれる。それにより、ワークがバーナー21の熱によって劣化するのを防止することができる。上記実施形態では、蓋部材103が金属である場合について説明したが、被加飾体が樹脂など熱に比較的弱い場合などには被加飾体の劣化を防ぐために複数の開口部31cが有効に作用する。
(6)吸気部40(第1吸気経路)は、中空の台座32の長さだけ、ブロアー41(吸気装置)に接続されている吸気側ダクト42の開口部42a(吸入口)を移動テーブル30から離して移動テーブル30の下方に設けられている。そのため、吸気側ダクト42など(吸気装置の周辺)には改質剤化合物が溜まり難い構造となっている。また、中空の台座32は移動テーブル30とともに移動するため、移動テーブル30がバーナー21から離れると中空の台座32をバーナー21から離すことができる。そのため、中空の台座32にも改質剤化合物や改質剤化合物が変質した異物が溜まり難くなり、被加飾体である蓋部材103などに異物が付着し難くなる。
【0052】
(7)移動テーブル30は、中空の台座32の底部近傍にテーブル搬送機構34のスライダー34aを有しており、中空の台座32の長さの分だけテーブル搬送機構34とワークの載置位置との距離が離れている。そのため、テーブル搬送機構34における塵埃の飛散によるワークへの影響を避けることができる。
(8)バーナー21及び移動テーブル30は、バーナーの下方を移動するワークとバーナーとの距離を調節するシリンダー60(距離調節機構)を備えている。それにより、バーナー21からワークに当たる火炎の影響を調節でき、フレーム処理にバリエーションを持たせることができる。
【符号の説明】
【0053】
10,10A,10B,10C フレーム処理装置
21 バーナー
30 移動テーブル
31 テーブル面
34a スライダー
41,51 ブロアー
70,80 昇降装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加飾体及び加飾シートの少なくとも一方をワークとして、前記ワークを移動経路に沿って移動させるための移動テーブルと、
前記移動テーブルの上方に取り付けられ、下方を移動する前記ワークに向かって、改質剤化合物の入っている火炎を形成するバーナーと、
前記移動テーブルの下方に下部吸気口を持ち、前記移動経路において前記バーナー及び前記移動テーブルの下方に向かって吸気する第1吸気経路と、
を備える、燃焼化学気相蒸着装置。
【請求項2】
前記バーナーの上方に設けられている上部吸気口を有し、前記バーナーの上方に向かって吸気する第2吸気経路をさらに備え、
前記第2吸気経路は、前記移動テーブルが前記バーナーの下方を通過しないときに吸気が行われる、
請求項1に記載の燃焼化学気相蒸着装置。
【請求項3】
前記移動テーブルは、前記バーナーに対する前記ワークの角度を変えて前記ワークに対して異なる方向から火炎をあてるため前記ワークの保持角度を変えられる角度変更機構を有する、
請求項1又は請求項2に記載の燃焼化学気相蒸着装置。
【請求項4】
前記移動テーブルは、複数の開口部を持ち、前記ワークを載置するためのテーブル面を有する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の燃焼化学気相蒸着装置。
【請求項5】
前記移動テーブルは、前記テーブル面の下に前記テーブル面を支える中空の台座をさらに有し、
前記第1吸気経路は、前記移動テーブルの下方に設けられている吸入口を持つ吸気装置と、前記中空の台座とを含み、
前記中空の台座は、前記移動テーブルとともに移動し、前記バーナーの下方を前記移動テーブルが通過するときに、前記吸気装置の前記吸入口の近傍から前記移動テーブルの下方近傍まで延びて前記下部吸気口を形成する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の燃焼化学気相蒸着装置。
【請求項6】
前記移動テーブルは、前記中空の台座の底部近傍にテーブル搬送機構を有する、
請求項5に記載の燃焼化学気相蒸着装置。
【請求項7】
前記バーナー及び前記移動テーブルは、前記バーナーの下方を移動する前記ワークと前記バーナーとの距離を調節する距離調節機構を有する、
請求項1から6のいずれか一項に記載の燃焼化学気相蒸着装置。
【請求項8】
被加飾体及び加飾シートの少なくとも一方をワークとして、バーナーにより形成される改質剤化合物の入った火炎に前記ワークの表面をあてる燃焼化学気相蒸着を行う燃焼化学気相蒸着工程と、
前記被加飾体と前記加飾シートとを、前記燃焼化学気相蒸着工程で改質された前記表面で密着させて加飾する加飾工程とを備え、
前記燃焼化学気相蒸着工程は、前記バーナーの下方を移動する前記ワークに向かって前記バーナーから火炎をあてるとともに前記バーナー及び前記ワークの下方に向かって吸気することを特徴とする、加飾品の製造方法。
【請求項9】
前記燃焼化学気相蒸着工程は、前記バーナーで生じる熱の除去のために前記バーナーの上方に向かう吸気を、前記ワークが前記バーナーの下方を通過しないときに行う、
請求項8に記載の加飾品の製造方法。
【請求項10】
前記燃焼化学気相蒸着工程及び前記加飾工程は、クリーンルームで行われる、
請求項8又は請求項9に記載の加飾品の製造方法。
【請求項11】
前記加飾工程は、前記被加飾体と前記加飾シートとを改質後の前記表面で密着させて前記被加飾体に前記加飾シートをラミネートする工程又は、前記被加飾体と前記加飾シートとを改質後の前記表面で密着させて前記被加飾体に前記加飾シートから転写層を転写する工程を含む、
請求項8から10のいずれか一項に記載の加飾品の製造方法。
【請求項12】
前記燃焼化学気相蒸着工程は、立体形状を持つ前記被加飾体を前記ワークとして、前記バーナーに対する前記ワークの角度を変えて前記ワークに対して異なる方向から火炎をあてる、
請求項8から11のいずれか一項に記載の加飾品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−49878(P2013−49878A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187298(P2011−187298)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】