説明

燃焼合成方法および誘電体セラミックス

【課題】副生する分解ガスや副生塩の除去を容易に行なうことができ、高品位な酸化物系の誘電体セラミックスが得られる燃焼合成方法、および、該方法で製造されるBaRe2Ti514 系、または、CaO−SrO−Li2O−Re23−TiO2系等の誘電体セラミックスを提供する。
【解決手段】比表面積が 0.01 m2/g〜2 m2/g の4族元素を含む金属粉末と、酸素供給源となる物質とを少なくとも含む反応原料を用いた誘電体セラミックスの燃焼合成方法であって、該燃焼合成方法は、少なくとも上記金属粉末と、上記酸素供給源となる物質とを混合して原料粉末とする混合工程と、該混合工程で得られた原料粉末を、大気圧未満の圧力条件下において、断熱火炎温度が 1500℃以上の燃焼合成反応により焼結体とする燃焼合成工程とを備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧未満の圧力条件下で行なう誘電体セラミックスの燃焼合成方法であって、特に誘電体セラミックスとして、BaRe2Tim2m+4系(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )、または、CaO−SrO−Li2O−Re23−TiO2系の誘電体セラミックスの製造に利用する燃焼合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンテナ、コンデンサ、共振器、フィルター、圧力センサ、超音波モータ等の電子部品において利用される良好な誘電特性を有する誘電体セラミックスとして、BaRe2Ti514 、BaRe2Ti412 、CaO−SrO−Li2O−Re23−TiO2系等の酸化物系セラミックスが知られている。
【0003】
従来の上記のような誘電体セラミックスの合成には、1000℃から 2000℃前後に加熱できる炉を用いて長時間、外部加熱を行なわなくてはならない。このため、セラミックスの合成には、膨大なエネルギーと大型の加熱機構を必要とし、これが製造コストを高くする原因となっている。例えば、BaRe2Ti514系の誘電体セラミックスを製造する場合では、BaO、Nd23 、TiO2 の各粉末をボールミルで湿式混合し、乾燥粉を 1100℃×5 時間の仮焼処理し、粉砕して誘電体セラミックス粉末としている。同様に、CaO−SrO−Li2O−Re23−TiO2系の誘電体セラミックスを製造する場合では、CaCO3と、SrCO3と、Li2Oと、Re23と、TiO2の各粉末をボールミルで湿式混合し、乾燥粉を 1100℃×5 時間の仮焼処理し、粉砕して誘電体セラミックス粉末としている。
【0004】
これに対して外部加熱を行なわない製造方法として、燃焼合成法(自己伝播高温合成(self propagating high temperature synthesis:SHS))によるセラミックス粉末の合成が提案されている。この方法は、金属間化合物やセラミックスの生成時の発熱を利用するものであり、化合物の構成元素となる粉体をよく混合して圧粉体をつくり、その一部に高熱を与えると着火して、生成熱を発しながら合成反応が進行することで焼結体を得る方法である。
燃焼合成法を利用するものとして、1種類の金属酸化物と2種類の異なる金属元素の計3種類の原料を出発原料とし、金属間化合物あるいは非酸化物セラミックスと酸化物セラミックスの2種類を合成する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、2種以上の金属酸化物粉末からなる混合粉末を所定時間、高周波加熱して燃焼合成することにより、酸化物系セラミックスを製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献1の燃焼合成方法では酸化物系の誘電体セラミックスを得ることはできない。特許文献2の燃焼合成方法では、従来の長時間焼成を行なう製造方法と比較すれば、短時間で酸化物系の誘電体セラミックスの製造が可能であるが、金属酸化物のみを反応原料とするため反応系の反応熱が小さく、外部から加熱を行なう高周波加熱装置が必要になる。また、上記特許文献1および特許文献2の燃焼合成法では、BaRe2Tim2m+4系やCaO−SrO−Li2O−Re23−TiO2系の誘電体セラミックスは得られていない。燃焼合成法において、外部加熱を一切行なわず、最初の着火のみで燃焼波を完全に伝播させるためには、各構成元素源となる粉体の配合割合や、発熱源となる金属粉末等の物性(比表面積)、合成物中に残存する分解ガスや塩の除去等が重要となり、該方法により所望組成のセラミックスを高品位で製造することは容易ではない。
【0006】
本発明者等は、BaRe2Tim2m+4系やCaO−SrO−Li2O−Re23−TiO2系の誘電体セラミックスの燃焼合成方法について出願をしている(特願2005−177001、特願2005−282394)。これらの燃焼合成反応時において、原料粉から多量に分解ガスである炭酸ガスや副生塩であるNaClが発生し、冷却するとNaClが固化して炉内や合成物表面を覆う現象が認められた。また、分解ガスの圧力で炉内圧が上昇し、原料粉からの分解ガスの生成が抑えられ、合成反応が断続的になるという現象も認められた。
【特許文献1】特開平5−9009号公報
【特許文献2】特開2002−211907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、副生する分解ガスや副生塩の除去を容易に行なうことができ、高品位な酸化物系の誘電体セラミックスが得られる燃焼合成方法、および、該方法で製造されるBaRe2Ti514 系、または、CaO−SrO−Li2O−Re23−TiO2系の誘電体セラミックスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の燃焼合成方法は、比表面積が 0.01 m2/g〜2 m2/g の4族元素を含む金属粉末と、酸素供給源となる物質とを少なくとも含む反応原料を用いた誘電体セラミックスの燃焼合成方法であって、該燃焼合成方法は、少なくとも上記金属粉末と、上記酸素供給源となる物質とを混合して原料粉末とする混合工程と、該混合工程で得られた原料粉末を、大気圧未満の圧力条件下において、断熱火炎温度が 1500℃以上の燃焼合成反応により焼結体とする燃焼合成工程とを備えてなることを特徴とする。なお、大気圧とは 101.325 kPaである。
【0009】
上記燃焼合成工程は、真空ポンプに接続されたチャンバー内で上記原料粉末を燃焼合成させる工程であることを特徴とする。
【0010】
上記誘電体セラミックスは、BaRe2Tim2m+4系(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )のセラミックスであって、上記4族元素はTiであり、上記反応原料として、Re23またはRe(OH)2と、BaO2とが含まれることを特徴とする。なお、各元素記号は、それぞれBa(バリウム)、Ti(チタン)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Li(リチウム)、O(酸素)である。
【0011】
上記誘電体セラミックスは、CaO−SrO−Li2O−Re23−TiO2系(Re は希土類元素)のセラミックスであって、上記4族元素はTiであり、上記反応原料として、CaCO3と、SrCO3と、Li2CO3と、Re23とが含まれることを特徴とする。
【0012】
本発明の誘電体セラミックスは、酸化物系の誘電体セラミックスであって、上記の燃焼合成方法により製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の燃焼合成方法は、酸化物系の誘電体セラミックスを外部加熱を一切行なわず最初の着火のみで合成できるとともに、減圧下で燃焼合成反応を行なうので副生する分解ガスや副生塩が系外に排出されやすくなり、合成物中に残存する分解ガスや副生塩を低減することができる。その結果、合成物から副生塩を除去するための洗浄工程を簡素化することができ、合成物である誘電体セラミックスの品質を向上させることができる。
【0014】
本発明の誘電体セラミックスは、上記製造方法により製造されるので、短時間で製造することができ、量産性に優れる。また、比表面積が 0.01 m2/g〜2 m2/g のTi粉末等を用い、断熱火炎温度が 1500℃以上の燃焼合成により得られるので焼結体特性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の燃焼合成方法は、比表面積が 0.01 m2/g〜2 m2/g の4族元素を含む金属粉末と、酸素供給源となる物質とを少なくとも含む反応原料を用い、これらの反応原料を混合する混合工程と、この混合工程で得られた原料粉末を、大気圧未満の圧力条件下において、断熱火炎温度が 1500℃以上の燃焼合成反応により焼結体とする燃焼合成工程とにより、誘電体セラミックスを合成する方法である。
【0016】
本発明に使用できる発熱源となる4族元素を含む金属粉末としては、4族A元素の金属粉末が好ましい。具体的には、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)が挙げられ、その中でも特にTiが誘電特性に優れるセラミックスが得られるので好ましい。なお、Tiとしては、Ti金属粉末の他、水素化Ti金属粉末を使用することもできる。また、4族A元素は単独でもあるいは混合しても使用できる。
【0017】
本発明に使用できる4族元素を含む金属の形状は、微粉末であることが好ましく、比表面積が 0.01 m2/g〜2 m2/g である。燃焼波が伝播し、かつ取り扱いやすいので好ましい比表面積の範囲は 0.1 m2/g〜0.6 m2/g である。比表面積が 0.01 m2/g 未満の場合、発熱源となる金属粉未と酸素供給源となる過酸化物との接触面積が少ないため、燃焼波が伝播せず、誘電体セラミックスが合成できない場合がある。また、比表面積が 2 m2/g をこえる金属粉未は極めて活性であり、取り扱いが困難となるため好ましくない。
本発明において、金属粉未の比表面積は、BET法により測定された値をいう。
【0018】
燃焼合成に使用できる金属粉末は、平均粒子径が同一であっても、比表面積が異なると反応性に差が認められた。すなわち、球状よりも比表面積が大きくなる形状の金属粉末を用いると燃焼合成反応がより速やかに進行した。比表面積が大きくなる形状としては、球状粒子表面に複数の凹凸が形成された粒子、粒子全体としていびつな形状の粒子、またはこれらの組み合わせがある。
本発明に使用できる平均粒子径としては 150 μm 以下、好ましくは 0.1μm〜100 μm である。150 μm をこえると、他の原材料との混合が十分でなくなり、燃焼波が伝播しない場合が生じる。
表面に凹凸が形成された粒子またはいびつな形状の平均粒子径の測定方法は、画像解析法が好ましい。
【0019】
また、金属粉末の一部を、同種の4族元素の金属酸化物に置き換えて、これらを併用することができる。TiO2 等の金属酸化物は、燃焼合成反応において反応希釈剤として働き、該金属酸化物の配合量を調整することで断熱火炎温度を制御できる。具体的には、金属酸化物の配合割合を上げると、反応の進行速度が低下し、断熱火炎温度が下がる。
また、一般に金属単体とするためには精製が必要であり、例えば、Ti粉末はコストが高いので、該Ti粉末とTiO2 粉末とを併用することにより、コスト削減を図れるという効果も有する。
ただし、TiO2 等の金属酸化物粉末を多量に使用すると、反応生成物への不純物の混入のおそれがあり、また、所定量をこえて使用すると燃焼波が伝播しなくなるので、コスト面、反応に必要な断熱火炎温度等を考慮して、併用することが好ましい。
【0020】
本発明に用いる酸素供給源となる物質としては、加熱により酸素を発生させるイオン結合性物質が配合される。該イオン結合性物質としては、KClO3、NaClO3、NH4ClO3等の塩素酸塩類、KClO4、NaClO4、NH4ClO4等の過塩素酸塩類、NaClO2などの亜塩素酸塩類、KBrO3などの臭素酸塩類、KNO3、NaNO3、NH4NO3等の硝酸塩類、NaIO3、KIO3等のよう素酸塩類、KMnO4、NaMnO4・3H2Oの過マンガン酸塩類、K2Cr27、(NH42Cr27等の重クロム酸塩類、NaIO4などの過よう素酸塩類、HIO4・2H2Oなどの過よう素酸類、CrO3などのクロム酸類、NaNO2などの亜硝酸塩類、Ca(ClO)2・3H2Oなどの次亜塩素酸カルシウム三水塩類等が挙げられる。
これらの中で過塩素酸塩類、塩素酸塩類、亜塩素酸塩類が好ましく、繰り返し純水で洗浄することで副生成物であるNaCl、KClを除去できるNaClO4、KClO4を用いることがより好ましい。さらにコストの面で有利なNaClO4を用いることが特に好ましい。なお、過塩素酸塩類の場合、生成する炭酸ガスがガス化するため、合成粉末には残存しない。
【0021】
目的生成物である誘電体セラミックスが希土類元素Reを含む場合、該希土類元素Reの供給源として、希土類元素の酸化物(Re23)または水酸化物(Re(OH)2)を使用する。Reとしては、Nd(ネオジム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)が挙げられる。これらの中で工業的に特に重要となるのは、La、Pr、Nd、Sm等である。
また、本発明の誘電体セラミックスにおけるReは、上記希土類元素が1種単独であっても、2種以上を混合したものであってもよい。また、上記以外でも、誘電特性を向上させることができる元素を配合することも可能である。
【0022】
本発明の燃焼合成方法により得られる誘電体セラミックスとしては、(イ)BaRe2Tim2m+4系(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )、(ロ)CaO−SrO−Li2O−Re23−TiO2系(Re は希土類元素)などの酸化物系の誘電体セラミックスが挙げられる。これらは、上記金属粉末および酸素供給源となる物質に、適宜必要な反応原料を配合して燃焼合成することで得られる。
【0023】
本発明の燃焼合成方法により得られる誘電体セラミックスとして、上記(イ)のBaRe2Tim2m+4系(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )において、m=5、ReがNd(ネオジム)であるBaNd2Ti514を合成する場合の反応系を例示する。
該反応系においてBaNd2Ti514は、金属粉末としてTi粉末を、酸素供給源となる物質として過塩素酸ナトリウム(NaClO4)を用い、他の反応原料として、Re23またはRe(OH)2と、BaO2とを用い、これらの反応原料を所定割合で混合した後、大気圧未満の圧力条件下で、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により得られる。この燃焼合成反応の化学反応式は下記式(1)または(2)に示すとおりである。
【化1】

【0024】
上記式(1)および(2)において、BaO2は、Ba供給源であると同時に酸素供給源でもある。また、Ba供給源としてBaCO3 も使用可能である。
反応希釈剤としてTiO2 を含む場合には、上記式(1)および(2)において x ≠10 である。x =1である場合、Ti粉末の量が少なく発熱源が不足するため、燃焼波が伝播せず焼結体を得ることができない。また、TiO2 を完全に含有しない場合 x =10 では、反応が急激に進行し、合成粉がチャンバー内に飛散するため、合成粉の回収が困難となる場合がある。
【0025】
各反応原料を所定割合で配合するとは、上記式を満たすモル質量比で配合することをいう。すなわち、上記式(1)の場合、Ti粉末の配合モル質量を x モルとすると、TiO2 は(10-x)モル、NaClO4 は(x-1)/2モルとなり、Ti粉末の配合モル質量に関係なく、BaO2 は 2 モル、Nd23 は 2 モル配合する。上記式(2)の場合は、Nd23の代わりにNd(OH)2を 4 モル、NaClO4 を x/2 モル配合する。
この割合で各反応原料を配合して燃焼合成することにより、目的のBaRe2Ti514を容易に短時間で得ることができる。また、副生成物も分解ガスは殆んどが減圧下で吸引除去され、合成物中に残存するのは副生塩であるNaClのみであり、このNaClは後述する水洗浄により容易に合成物から分離・除去することができる。
【0026】
上記のようにTi粉末と、TiO2 との配合比は上記式(1)または(2)中における x の値で決定される。BaNd2Ti514 合成時における好ましい x の範囲としては、2 ≦ x ≦ 8 である。x が 2 未満であると、発熱源であるTi粉末が不足するとともに、反応希釈剤であるTiO2 が多すぎるため、燃焼波が完全には伝播しないこと等により焼結体特性に劣る可能性がある。また、x が 8 を越えると発熱源量が多く反応の進行が急激になり合成粉が飛散する等の問題が生じる可能性がある。
【0027】
本発明の燃焼合成方法により得られる誘電体セラミックスとして、(ロ)CaO−SrO−Li2O−Re23−TiO2系(Re は希土類元素)のセラミックスを合成する場合の反応系を例示する。
該反応系においてCaO−SrO−Li2O−Re23−TiO2系セラミックスは、金属粉末としてTi粉末を、酸素供給源となる物質として過塩素酸ナトリウム(NaClO4)を、反応原料として、CaCO3粉末と、SrCO3粉末と、Li2CO3粉末と、Re23とを用い、これらの反応原料を所定割合で混合した後、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により得られる。
【0028】
酸素供給源となる物質は、分子内部から放出できる酸素原子によりTi金属を酸化してTiO2 にすることができる量を配合する。具体的には、Ti金属粉末 2 モルに対して、NaClO4 粉末 1 モルの割合で配合する。
また、各金属炭酸塩の配合量は、NaClO4 を除く原料全体に対してCaCO3 粉末と、SrCO3粉末との合計量が 16 モル%、Li2CO3 粉末が 9 モル%である。CaCO3 粉末の配合量を(16−x)モル%(0<x<16)とすると、各種誘電特性に優れることから xは 0.5〜6 であることが好ましく、最も好ましくはx=1 である。
【0029】
Re23 粉末の配合量はNaClO4 を除く原料全体に対して 12 モル%である。Re23 粉末は、Sm23 粉末と、他のRe’23(Re’はSm以外の希土類元素)) 粉末とを併用することが好ましい。ここで、他のRe23 粉末としては、La23 粉末、Nd23 粉末等があり、誘電特性の改善効果の大きいNd23 粉末を用いることが好ましい。NaClO4 を除く原料全体に対してSm23 粉末、Nd23 粉末の配合量をそれぞれ(12−y)モル%およびyモル%(0<y<12)とすると、yは 3〜9 であることが好ましく、最も好ましくはy=6 である。
【0030】
(ロ)CaO−SrO−Li2O−Re23−TiO2系(Re は希土類元素)において最適組成の誘電体セラミックスを得るための燃焼合成反応の一例を下記式(3)〜(6)に示す。
【化2】

【0031】
上記反応式に示す配合割合で各反応原料を混合した後、大気圧未満の圧力条件下で、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により、目的のCaO−SrO−Li2O−Sm23−Nd23−TiO2系の誘電体セラミックスを容易に短時間で得ることができる。
副生成物であるCO2ガスは殆んどが減圧下で吸引除去され、合成物中に残存するのは副生塩であるNaClのみであり、このNaClは後述する水洗浄により容易に合成物から分離・除去することができる。
【0032】
Ti粉末(x モル%)と、TiO2粉末((63−x)モル%)との配合比は、 x の値で決定される。好ましい x の範囲としては、15≦ x ≦50 である。反応式(6)に示すように x が 15 未満であると、発熱源であるTi粉末が不足するとともに、反応希釈剤であるTiO2 が多すぎるため、燃焼波が完全には伝播しないこと等により焼結体特性に劣る可能性がある。また反応式(5)に示すようにTiO2を配合しない場合を含め、x が 50 を越えると発熱源量が多く反応の進行が急激になり、原料粉末や反応生成物の飛散等の問題が生じる可能性がある。
【0033】
本発明における混合工程において、反応原料の混合方法は、撹拌機による混合、または、乳鉢と乳棒を用いた混合等、特に制限されることなく採用できる。撹拌機としては、タンブラー、ヘンシェルミキサ、ボールミル等が挙げられる。量産性に優れるとともに、金属粉末や過酸化物粉末に対してせん断力等の負荷が少ないヘンシェルミキサやボールミル等を使用することが好ましい。
【0034】
混合された原料は、るつぼに投入して燃焼合成を行なうが、そのるつぼの材質としては好ましくは非酸化物である炭素(C)、炭化珪素(SiC)、窒化珪素Si34 等が使用できる。これらの中で炭素(C)材が熱伝導と形状加工性に優れているので好ましい。
混合された原料粉末をるつぼへ投入する方法としては、原料粉末をパウダーベット状に敷き詰めたり、敷き詰めた後圧縮したり、ペレット状に押し固めたものをるつぼへ投入する方法等が使用できる。
【0035】
燃焼合成法の条件については、大気圧未満の減圧下で行ない、燃焼合成反応の断熱火炎温度は 1500℃以上である。1500℃以上であれば、燃焼波が伝播するからである。
燃焼合成はチャンバー内で行なうが、その雰囲気としては、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)等の希ガス雰囲気が好ましい。なお、反応生成物の誘電特性を劣化させなければ、窒素ガス、炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気等を利用することも可能である。
【0036】
燃焼合成はチャンバー内を大気圧(101.325kPa = 1 気圧)よりも低い減圧下で行なう。好ましい減圧度は 0.003気圧〜0.1気圧(0.3kPa 〜 10.1kPa)である。燃焼合成時に混合原料から発生する分解ガスや副生塩をチャンバー内から吸引除去することによって、燃焼合成反応における圧力平衡が合成物生成側に進み、分解ガスや副生塩も合成物中から脱ガス、脱塩しやすくなり、合成物中に残存する副生塩を減少でき、合成物を脱塩処理するための洗浄工程を簡素化できる。
チャンバー内を減圧する手段として真空ポンプを用い、配管にてチャンバーと真空ポンプとを接続し、チャンバー内を減圧に保つ。チャンバーと真空ポンプとを結ぶ配管には粉末を捕捉するためのフィルターやトラップ装置を設けることによって、燃焼合成反応の進行に伴いチャンバー内から、吸引される副生塩等が真空ポンプ内に閉塞するのを防止することができる。
【0037】
燃焼合成を開始させるための混合粉末への着火方法は、金属粉が着火発熱可能となる方法であれば特に限定されない。カーボンフイルムを着火発熱させて熱源とし、混合粉末に接触させて着火発熱させる方法が取り扱いに優れているので好ましい。燃焼合成反応は、約 1秒〜60 秒で終了する。
【0038】
反応生成物は、るつぼ中において塊状である。該反応生成物の粉砕は、平均粒子径が 100μm 以下となる粉砕方法であれば特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、乳鉢と乳棒等で行なうことができる。平均粒子径が 100μm をこえると、後工程の洗浄工程での洗浄が十分でなくなり、副生塩であるイオン結合性塩が残留しやすくなる。
【0039】
粉砕工程後の微粉末には、副生塩であるイオン結合性塩が含まれている。例えばNaClO4 を原料に用いた場合はNaClが、KClO4 を原料に用いた場合はKClがそれぞれ生成する。水で洗浄することでこれらの副生塩を除去できる。
副生塩類が燃焼合成反応後の合成粉末に存在すると焼結性が阻害される。焼結性を阻害しない程度まで副生塩類を減らす基準としては、洗浄液の電気伝導率が 150 μS/cm 以下である。すなわち洗浄回数、洗浄量の如何にかかわらず、上記合成粉末を水で洗浄したとき洗浄後の洗浄水の電気伝導率が 150μS/cm 以下であればよい。
【0040】
上記合成粉末は、洗浄乾燥後、焼結することにより、誘電体セラミックスが得られる。焼結するとき、ポリビニルブチラールなどの成形用粘結剤を配合できる。焼結条件としては、10 MPa〜100 MPa の圧力で成形後、大気雰囲気下、1200℃〜1500℃の温度で焼成する条件が挙げられる。
また、燃焼合成で得られた合成粉末の結晶構造をさらに安定させたり、微量な不純物を除去するため、900℃〜1100℃で仮焼することも可能である。
【0041】
上記燃焼合成法により得られる誘電体セラミックスは、燃焼合成後の焼結体特性に優れ、理論密度に近く緻密化されるので、誘電体アンテナ、コンデンサ、共振器、圧力センサ、超音波モータ等に好適に使用できる。
【実施例】
【0042】
実施例1〜実施例4
表1に示す各成分を所定のモル配合比(モル%)でボールミルを用いて 5 時間、乾式混合することにより中間原料粉末を得た。得られた中間原料粉末が収容されているボールミルにTi粉末を加えて、5 時間、乾式混合することにより混合原料粉末を得た。
燃焼合成装置内のチャンバー内にカーボンるつぼを設置し、混合原料粉末(100 g )をカーボンるつぼ内で敷き詰め、着火用のカーボンフイルムを混合粉の一部と接触させて、チャンバーを閉じた。真空ポンプを用いてチャンバー内の残留酸素を減少させた後、アルゴン(Ar)ガスを封入し、チャンバーの内圧を 0.1 MPa とした。次に真空ポンプを連続稼動させチャンバーの内圧を 0.3 kPa に減圧した。
実施例1〜実施例4の組成物について燃焼波が伝播し、燃焼合成法により合成粉末が得られた。反応中のチャンバー内の圧力は 10 kPa未満に保たれた。アルミナ製乳鉢を用いて合成粉末を粉砕し、平均粒子径が 1μm の未洗浄誘電体セラミックス粉末を得た。
【0043】
なお、表1中において、Ti粉末は住友チタニウム社製TSP−350を、TiO2、NaClO4は和光純薬工業社製、各試薬を、BaO2は関東化学工業社製、試薬を、Nd23は信越化学工業社製品を、それぞれ用いた。
【0044】
比較例1〜比較例3
チャンバー内を 0.1 MPa の大気圧状態で燃焼合成反応を開始し、燃焼合成反応の進行とともにチャンバー内圧は最大で500kPa まで上昇し、燃焼波の伝播が断続的に行なわれた。比較例1および比較例2では、実施例1と同様に処理して平均粒子径が 1μm の粉砕セラミックス粉末を得た。なお、比較例3では燃焼波が伝播せず、合成粉末を得ることができなかった。
【0045】
得られた未洗浄誘電体セラミックス粉末を十分水洗し、この粉末に付着したNaClを除去して誘電体セラミックスを得た。得られた誘電体セラミックス粉末の結晶相の同定をX線回折装置(XRD)を用いて行なった。結果をセラミックス組成として表1に示す。
また、比誘電率および誘電正接を以下の方法で測定した。
得られたセラミックス粉末に成形用バインダ(ポリビニルブチラール樹脂)を1重量%添加して混合した。次に混合粉末を 10 mm×80 mm の金型に投入し、1.5トン/cm2の圧力を加えてグリーン体(10 mm×90 mm×3 mm )を得た。このグリーン体を600℃で 1 時間保持し、有機分を除去した後、1300℃で 3 時間焼成した。得られた焼結体を70 mm×1.5 mm×1.5 mm の試験片に加工し、空洞共振器法を用いて、1、5 GHz の周波数帯で比誘電率および誘電正接を測定した。ここで、比誘電率および誘電正接は 25℃での値である。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例5〜実施例9
各反応原料を表2に示すモル配合比(モル%)でボールミルを用いて 5 時間混合することにより混合粉末を得た。合成装置内のチャンバー内にカーボンるつぼを設置し、混合粉末(100 g )をカーボンるつぼ内に敷き詰め、着火用のカーボンフイルムを混合粉の一部と接触させて、チャンバーを閉じた。真空ポンプを用いて、チャンバー内の残留酸素を減少させた後、アルゴン(Ar)ガスを封入し、チャンバーの内圧を 0.1 MPa とした。次に真空ポンプを連続稼動させチャンバーの内圧を 0.3kPa に減圧し、着火した。燃焼波が伝播し、燃焼合成法により合成粉末と副生成物(NaCl)が得られた。反応中のチャンバー内の圧力は 10kPa未満に保たれた。アルミナ製乳鉢を用いて合成粉末を粉砕し、平均粒子径 2μm の未洗浄誘電体セラミックス粉末を得た。
【0048】
なお、表2において、Ti金属粉末は住友チタニウム社製TSP−350およびTILOP−150(分級して比表面積を 0.005 m2/g に調整)を、CaCO3、TiO2、SrCO3、Li2CO3、NaClO4は和光純薬工業社製各試薬を、Sm23、Nd23は信越化学工業社製品を、それぞれ用いた。
【0049】
比較例4〜比較例11
チャンバー内を 0.1 MPa の大気圧状態で燃焼合成反応を開始し、燃焼合成反応の進行とともにチャンバー内圧は最大で800kPa まで上昇し、燃焼波の伝播が断続的に行なわれた。実施例5と同様に処理して平均粒子径 2μm の粉砕セラミックス粉末を得た。
【0050】
得られた未洗浄誘電体セラミックス粉末を十分水洗し、この粉末に付着したNaClを除去して誘電体セラミックスを得た。得られた誘電体セラミックス粉末の結晶相の同定をX線回折装置(XRD)を用いて行なった。結果をセラミックス組成として表2に示す。
また、比誘電率および誘電正接を以下の方法で測定した。
得られたセラミックス粉末に成形用バインダ(ポリビニルブチラール樹脂)を1重量%添加して混合した。次に混合粉末を 10 mm×80 mm の金型に投入し、1.5トン/cm2の圧力を加えてグリーン体(10 mm×90 mm×3 mm )を得た。このグリーン体を 600℃で 1 時間保持し、有機分を除去した後、1300℃で 3 時間焼成した。得られた焼結体を 70 mm×1.5 mm×1.5 mm の試験片に加工し、空洞共振器法を用いて、1、5 GHz の周波数帯で比誘電率および誘電正接を測定した。ここで、比誘電率および誘電正接は 25℃での値である。
【0051】
【表2】

【0052】
表1および表2に示すように、大気圧未満の減圧下で燃焼合成を行なった各実施例では、合成粉末中の副生塩が少なく、合成後30分の洗浄工程で副生塩をほぼ除去することができた。また、各実施例は、各比較例と比較して誘電特性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の燃焼合成方法は副生する分解ガスや塩の除去を容易に行ない円滑な化学反応で誘電体セラミックスを製造することができるので、安全かつ低コストで誘電体セラミックスを製造することができる。得られた誘電体セラミックスは、アンテナ、コンデンサ、共振器、フィルター、圧力センサ、超音波モータ等の電子部品分野において好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が 0.01 m2/g〜2 m2/g の4族元素を含む金属粉末と、酸素供給源となる物質とを少なくとも含む反応原料を用いた誘電体セラミックスの燃焼合成方法であって、
該燃焼合成方法は、少なくとも前記金属粉末と、前記酸素供給源となる物質とを混合して原料粉末とする混合工程と、
該混合工程で得られた原料粉末を、大気圧未満の圧力条件下において、断熱火炎温度が 1500℃以上の燃焼合成反応により焼結体とする燃焼合成工程とを備えてなることを特徴とする燃焼合成方法。
【請求項2】
前記燃焼合成工程は、真空ポンプに接続されたチャンバー内で前記原料粉末を燃焼合成させる工程であることを特徴とする請求項1記載の燃焼合成方法。
【請求項3】
前記誘電体セラミックスは、BaRe2Tim2m+4系(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )のセラミックスであって、前記4族元素はTiであり、前記反応原料として、Re23またはRe(OH)2と、BaO2とが含まれることを特徴とする請求項1または請求項2記載の燃焼合成方法。
【請求項4】
前記誘電体セラミックスは、CaO−SrO−Li2O−Re23−TiO2系(Re は希土類元素)のセラミックスであって、前記4族元素はTiであり、前記反応原料として、CaCO3と、SrCO3と、Li2CO3と、Re23とが含まれることを特徴とする請求項1または請求項2記載の燃焼合成方法。
【請求項5】
酸化物系の誘電体セラミックスであって、請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の燃焼合成方法により製造されることを特徴とする誘電体セラミックス。

【公開番号】特開2007−141531(P2007−141531A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330860(P2005−330860)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】