説明

燃焼合成方法および誘電体セラミックス

【課題】過酸化物粉末の保管時、および、該過酸化物粉末と発熱源である金属粉末との混合時において発火・爆発などの危険性がない安全な燃焼合成方法、および、該方法で製造されるBaRe2Ti514 、BaRe2Ti412 等の酸化物系の誘電体セラミックスを提供する。
【解決手段】酸素供給源となる過酸化物粉末と、発熱源である金属粉末とを少なくとも含む反応原料を用いた燃焼合成方法であって、該燃焼合成方法は、予め上記過酸化物粉末と、安定な原料粉末とを混合して中間原料粉末とする予備混合工程と、該予備混合工程で得られた中間原料粉末に、上記予備混合工程において未混合の反応原料を混合して原料粉末を得る混合工程と、該混合工程で得られた原料粉末を燃焼合成して焼結体とする燃焼合成工程とを備えてなり、上記混合工程は、未混合の反応原料のうち、上記金属粉末を最後に混合して原料粉末を得る工程である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合時に発火・爆発等の危険性がある反応原料を用いる場合の燃焼合成方法に関し、特に組成式 BaRe2Tim2m+4(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )で表される酸化物系の誘電体セラミックスを製造する場合の燃焼合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動電話や衛星通信等の高周波通信技術の著しい発展に伴い、誘電体共振器、フィルター等の高周波デバイス用の誘電体セラミックスに対する需要はますます増えている。通信信号の周波数および通信機の大きさは、例えば、通信機内部に組み込まれたアンテナ基板の比誘電率が高くなると、より一層の高周波化および小型化が図れる。比誘電率は、誘電体内部の分極の程度を示すパラメータであり、アンテナ材料に用いられる誘電体セラミックスの比誘電率が高いほど、電子部品回路を伝播する信号の波長は短くなり、信号は高周波化する。従って、比誘電率の高い電子部品を使用できれば、高周波化ひいては回路の短縮化および通信機等の小型化が図れる。また、上記のようなデバイスに用いられる誘電体セラミックスに対しては、低い誘電損失および良好な温度安定性も同時に要求される。
このような要求特性を満たす誘電体セラミックスとして、BaRe2Ti514 、BaRe2Ti412 等(Re:希土類元素、以下に同じ)、が知られており、多種の用途に使用されている。これらは、常誘電相をベースとすることで、誘電損失を低く抑えている。
【0003】
従来の誘電体セラミックスの合成には、1000℃から 2000℃前後に加熱できる炉を用いて外部加熱を行なわなくてはならない。このため、セラミックスの合成には、膨大なエネルギーと大型の加熱機構を必要とし、これが製造コストを高くする原因となっている。上記BaRe2Ti514 、BaRe2Ti412 を製造する場合も例外ではなく、例えば希土類元素としてネオジムを用いる場合では、BaO、Nd23 、TiO2 の各粉末をボールミルで湿式混合し、乾燥粉を 1100℃×5 時間の仮焼処理し、粉砕して誘電体セラミックス粉末としている。
【0004】
これに対して外部加熱を行なわない製造方法として、燃焼合成法(自己伝播高温合成(self propagating high temperature synthesis:SHS))によるセラミックス粉末の合成が提案されている。該方法は、金属間化合物やセラミックスの生成時の発熱を利用するものであり、化合物の構成元素となる粉体をよく混合して圧粉体をつくり、その一部に高熱を与えると着火して、生成熱を発しながら合成反応が進行することで焼結体を得る方法である。
燃焼合成法を利用するものとして、1種類の金属酸化物と2種類の異なる金属元素の計3種類の原料を出発原料とし、金属間化合物あるいは非酸化物セラミックスと酸化物セラミックスの2種類を合成する方法が提案されている(特許文献1参照)。
また、本出願人は酸素供給源であるNaClO4等のイオン結合性物質と、発熱源であるTi粉末と、BaO2と、Nd23等を乾式混合したものを反応原料とする燃焼合成法により、BaNd2Ti514等の酸化物系の誘電体セラミックスを製造することを提案している(特願2005−177001)。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の燃焼合成法では、酸化物系の誘電体セラミックスを得ることができない。これに対し、上記酸素供給源および発熱源を用いたものでは、酸化物系の誘電体セラミックスを得ることができるが、反応原料であるBaO2やNaClO4等の過酸化物粉末が不安定物質であるため、原料粉の調整時や、原料保管時において取り扱いに注意を必要とする。例えば、発熱源である金属粉末と、過酸化物粉末とを直接乾式混合すると発火・爆発などのおそれがある。また、原料粉の混合にはボールミル等を使用するが、Ti等の硬い金属粉末を混合初期から投入すると、ボールが摩耗するなどの問題がある。
【特許文献1】特開平5−9009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題に対処するためになされたものであり、過酸化物粉末の保管時、および、該過酸化物粉末と発熱源である金属粉末との混合時において発火・爆発などの危険性がない安全な燃焼合成方法、および、該方法で製造されるBaRe2Ti514 、BaRe2Ti412 等の酸化物系の誘電体セラミックスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の燃焼合成方法は、酸素供給源となる過酸化物粉末と、発熱源である金属粉末とを少なくとも含む反応原料を用いた燃焼合成方法であって、該燃焼合成方法は、予め上記過酸化物粉末と、安定な原料粉末とを混合して中間原料粉末とする予備混合工程と、該予備混合工程で得られた中間原料粉末に、上記予備混合工程において未混合の反応原料を混合して原料粉末を得る混合工程と、該混合工程で得られた原料粉末を燃焼合成して焼結体とする燃焼合成工程とを備えてなり、上記混合工程は、未混合の反応原料のうち、上記金属粉末を最後に混合して原料粉末を得る工程であることを特徴とする。
また、上記燃焼合成工程は、断熱火炎温度が 1500℃以上であることを特徴とする。
また、上記金属粉末は、比表面積が 0.01〜2 m2/g の4族元素を含む金属粉末であることを特徴とする。
【0008】
上記過酸化物粉末はBaO2およびNaClO4であり、上記金属粉末は比表面積が 0.01〜2 m2/g であるTi粉末であり、上記安定な原料粉末はRe23(Re は希土類元素)およびTiO2であり、それぞれの粉末を所定割合で混合することを特徴とする。なお、各元素記号は、それぞれBa(バリウム)、Ti(チタン)、Na(ナトリウム)、Cl(塩素)、O(酸素)である。
【0009】
本発明の誘電体セラミックスは、酸化物系の誘電体セラミックスであって、上記の燃焼合成方法により製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の燃焼合成方法は、反応性粉末同士、すなわち酸素供給源となる過酸化物粉末と発熱源となる金属粉末とを、直接に接触させずに、酸素供給源となる過酸化物粉末を予め安定な他の原料粉末と予備混合して反応因子を低減させているので、安定な状態で予備混合原料として保管できる。燃焼合成を行なう直前に発熱源となる金属粉末を混合して原料粉末とするので、燃焼合成方法における原料調整時において、発火・爆発などの危険性がなく安全である。
原料調整の最終段階で反応性粉末のうち硬いTi粉末を配合するので、最初から配合した場合に比べて混合装置の撹拌翼、ポットおよびボールなどの摩耗を低減させることができる。
また、反応原料として、BaO2、NaClO4、比表面積が 0.01〜2 m2/g であるTi粉末、Re23(Re は希土類元素)、TiO2をそれぞれ所定割合で用いるので、組成式 BaRe2Tim2m+4(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )の誘電体セラミックスを製造することができる。
【0011】
本発明の誘電体セラミックスは、上記製造方法により製造されるので、安全にかつ短時間で製造することができ、量産性に優れる。また、比表面積が 0.01〜2 m2/g のTi粉末等を用い、断熱火炎温度が 1500℃以上の燃焼合成により得られるので焼結体特性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の燃焼合成法は、酸素供給源である過酸化物粉末と、発熱源である金属粉末とを少なくとも含む反応原料を用いた酸化物系の誘電体セラミックスを製造するための燃焼合成方法である。
酸化物系の誘電体セラミックスを得るために必要となる、上記過酸化物粉末、金属粉末などの反応原料、およびこれらを用いた場合の燃焼合成時の化学反応式などについて以下に説明する。
なお、以下は本発明の燃焼合成法の一例であり、組成式 BaRe2Tim2m+4(式中 3 ≦ m ≦ 7 ; m は整数 Re は希土類元素 )の誘電体セラミックスを得るために、酸素供給源となる過酸化物粉末としてBaO2およびNaClO4等のイオン結合性物質を、金属粉末として比表面積が 0.01〜2 m2/g であるTi粉末を、安定な原料粉末としてRe23(Re は希土類元素)を用い、必要に応じてTiO2を用いた場合である。
【0013】
発熱源となるTi粉末は、微粉末であることが好ましく、比表面積が0.01〜2 m2/gである。燃焼波が伝播し、かつ取り扱いやすいので好ましい比表面積の範囲は 0.1〜0.6 m2/g である。比表面積が0.01 m2/g 未満の場合、発熱源となるTi粉未と酸素供給源となる物質との接触面積が少ないため、燃焼波が伝播せず、誘電体セラミックスが合成できない場合がある。また、比表面積が 2 m2/g をこえるTi粉未は極めて活性であり、取り扱いが困難となるため好ましくない。また、Ti粉末に代えて水素化Ti粉末を使用することもできる。なお、本発明においてTi粉未の比表面積は、BET法により測定された値をいう。
【0014】
燃焼合成に使用できるTi微粉末は、平均粒子径が同一であっても、比表面積が異なると反応性に差が認められた。すなわち、球状よりも比表面積が大きくなる形状の金属粉末を用いると燃焼合成反応がより速やかに進行した。比表面積が大きくなる形状としては、球状粒子表面に複数の凹凸が形成された粒子、粒子全体としていびつな形状の粒子、またはこれらの組み合わせがある。
本発明に使用できる平均粒子径としては 150μm 以下、好ましくは 0.1〜100μm である。150μmをこえると、他の原材料との混合が十分でなくなり、燃焼波が伝播しない場合が生じる。
表面に凹凸が形成された粒子またはいびつな形状の平均粒子径の測定方法は、画像解析法が好ましい。
【0015】
また、安定な原料粉末としてTiの酸化物であるTiO2(酸化チタン)を併用することが好ましい。TiO2等の金属酸化物は、燃焼合成反応において反応希釈剤として働き、該金属酸化物の配合量を調整することで断熱火炎温度を制御できる。具体的には、TiO2の配合割合を上げると、反応の進行速度が低下し、断熱火炎温度が下がる。TiO2は、目的となる本発明の誘電体セラミックスを構成する元素のみからなるため、併用しても副生成物を生じない。また、一般に金属単体とするためには精製が必要であり、Ti粉末はコストが高いので、該Ti粉末とTiO2とを併用することにより、コスト削減を図れるという効果も有する。
【0016】
酸素供給源となる過酸化物粉末としては、BaO2、および、NaClO4等のイオン結合性物質を使用する。BaO2は、酸素供給源であると同時に BaRe2Tim2m+4におけるバリウム供給源である。
過酸化物粉末であるイオン結合性物質としては、KClO4 、NaClO4 、NH4ClO4 などの過塩素酸塩類、KMnO4 、NaMnO4・3H2O の過マンガン酸塩類、NaIO4 などの過よう素酸塩類等が挙げられる。これらの中で過塩素酸塩類が好ましく、特にNaClO4 、KClO4 は、副生成物であるNaCl、KClが繰り返し純水で洗浄することで除去できるので好適である。なお、過塩素酸塩類の場合、生成する炭酸ガスがガス化するため、合成粉末には残存しない。
【0017】
希土類元素の供給源であり安定な原料粉末としては、希土類元素の酸化物(Re23)を使用する。Reとしては、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)が挙げられる。これらの中で工業的に特に重要となるのは、La、Pr、Nd、Sm等である。
本願発明の誘電体セラミックス(BaRe2Tim2m+4)におけるReは、上記希土類元素が1種単独であっても、2種以上を混合したものであってもよい。複合材とする場合には、希土類供給源となるRe23を異なる元素(Re)で複数種類用いる。
【0018】
本発明の誘電体セラミックスは、上記各反応原料を所定割合で配合した後、断熱火炎温度が1500℃以上である燃焼合成法により得られる。本発明の誘電体セラミックスの一例としてBaRe2Ti514を合成する場合の化学反応式は下記式(1)に示すとおりである。
【化1】

反応希釈剤としてTiO2を含む場合には、上記式(1)において x≠10 である。x=1である場合、Ti粉末量が少なく発熱源が不足するため、燃焼波が伝播せず焼結体を得ることができない。また、TiO2を完全に含有しない場合(x=10)では、反応が急激に進行し、合成粉がチャンバー内に飛散するため、合成粉の回収が困難となる場合がある。
各反応原料を所定割合で配合するとは、上記式を満たすモル質量比で配合することをいう。すなわち、Ti粉末の配合モル質量を x モルとすると、TiO2は(10-x)モル、NaClO4は(x-1)/2モルとなり、Ti粉末の配合モル質量に関係なく、BaO2は 2 モル、Re23は 2 モル配合する。ここで、Re23を複数種類使用する場合には、それらの合計量で 2 モルとなるように配合する。
この割合で各反応原料を配合して燃焼合成することにより、目的のBaRe2Ti514を容易に短時間で得ることができる。また、副生成物もNaClのみであり、後述する水洗浄により容易に分離することができる。
【0019】
上記のようにTi粉末と、TiO2との配合比は上記式(1)中における x の値で決定される。BaRe2Ti514合成時における好ましい x の範囲としては、2 ≦ x ≦ 8 である。x が 2 未満であると、発熱源であるTi粉末が不足するとともに、反応希釈剤であるTiO2が多すぎるため、燃焼波が完全には伝播しないこと等により焼結体特性に劣る可能性がある。また、x が 8 を越えると発熱源量が多く反応の進行が急激になり飛散等の問題が生じる可能性がある。
【0020】
本発明は、上記化学反応式などに基づいて進行する燃焼合成方法において、その原料となる混合反応粉末を安全に得ることに特徴を有する。すなわち、予め過酸化物粉末と、安定な原料粉末とを混合して中間原料粉末を得る予備混合工程と、該予備混合工程で得られた中間原料粉末に、未混合の原料粉末(金属粉末を最後)を混合して原料粉末を得る混合工程とを備えるものである。
【0021】
該燃焼合成方法の具体例を、上記式(1)を用いて説明する。
予め過酸化物粉末であるBaO2およびNaClO4を、安定な原料粉末であるRe23およびTiO2とともに予備混合して安定な中間原料粉末とする。なお、これは過酸化物粉末の単体での取り扱いを避けることを目的とするためであり、過酸化物粉末と少なくとも1種の安定な酸化物粉末とを混合すればよい。このように過酸化物粉末を、安定な酸化物粉末と予め混合した中間原料粉末とすることで、過酸化物粉末は中間原料粉末の中で安定な原料粉末によって周囲を覆われた安定な状態となる。この結果、合成前において過酸化物単体で保管する場合よりも安全に保管できる等、取り扱い性に優れる。
この中間原料粉末に、予備混合において未混合の反応原料を混合して原料粉末を得る。上記式(1)においてTi粉末以外の反応原料を予備混合で混合していなかった場合は、それらの反応原料を混合した後、最後にTi粉末を混合する。原料調整の最終段階で反応性粉末のうち硬いTi粉末を配合するので、最初から配合した場合に比べて混合装置の撹拌翼、ポットおよびボールなどの摩耗を低減させることができる。
得られた原料粉末を用いて、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成を行なうことで上記式(1)に従いセラミックス焼結体が得られる。
【0022】
以上のように本発明は、過酸化物粉末を安定な中間原料として保管した後、燃焼合成を行なう直前に金属粉末を加えて混合することで、過酸化物粉末と、金属粉末と、安定な原料粉末とによる燃焼合成反応を安全に行なうものである。過酸化物粉末は上述のように中間原料粉末の中で安定な原料粉末によって周囲を覆われているため、金属粉末を加えて原料粉末を作製する際も、混合原料中における過酸化物粉末の濃度が低く反応因子が低減されるので、発火に至ることなく安全に乾式混合することができる。
【0023】
安定な中間原料粉末を得るために予備混合工程に用いる撹拌機は、過酸化物粒子にシェアのかからないタンブラー、ヘンシェルミキサ、ボールミル等を使用できる。これらの中で、好ましい撹拌機としては、量産性に優れるヘンシェルミキサやボールミルである。
得られた中間原料に金属粉末を加えて混合する混合工程に用いる撹拌機は、撹拌翼と撹拌機壁面とのクリアランスが十分にあり、金属粉末と、過酸化物粉末とに撹拌によるせん断力の加わることの少ないヘンシェルミキサや撹拌翼のないボールミル等を使用することが好ましい。
【0024】
混合された原料は、るつぼに投入して燃焼合成を行なうが、そのるつぼの材質としては好ましくは非酸化物である炭素(C)、炭化珪素(SiC)、窒化珪素Si34 等が使用できる。これらの中で炭素(C)材が熱伝導と形状加工性に優れているので好ましい。
混合された原料粉末をるつぼへ投入する方法としては、原料粉末をパウダーベット状に敷き詰めたり、敷き詰めた後圧縮したり、ペレット状に押し固めたものをるつぼへ投入する方法等が使用できる。
【0025】
燃焼合成法の条件について、反応系の断熱火炎温度は 1500℃以上である。1500℃以上であれば、燃焼波が伝播するからである。
燃焼合成はチャンバー内で行なうが、その雰囲気としては、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)等の希ガス雰囲気が好ましい。なお、反応生成物の誘電特性を劣化させなければ、窒素ガス、炭酸ガス雰囲気等を利用することも可能である。また、酸素分圧を制御可能であれば、酸素ガスを使用することも可能である。
燃焼合成を開始させるための混合粉末への着火方法は、金属粉が着火発熱可能となる方法であれば特に限定されない。カーボンフイルムを着火発熱させて熱源とし、混合粉末に接触させて着火発熱させる方法が取り扱いに優れているので好ましい。燃焼合成反応は、約 1〜60 秒で終了する。
【0026】
反応生成物は、るつぼ中において塊状である。該反応生成物の粉砕は、平均粒径が 100 μm 以下となる粉砕方法であれば特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、乳鉢と乳棒等で行なうことができる。平均粒径が 100 μm をこえると、後工程の洗浄工程での洗浄が十分でなくなり、副生成物であるイオン結合性塩が残留しやすくなる。
【0027】
粉砕工程後の微粉末には、副生成物であるイオン結合性塩が含まれている。例えばNaClO4 を原料に用いた場合はNaClが、KClO4 を原料に用いた場合はKClがそれぞれ生成する。水で洗浄することでこれらの塩を除去できる。
塩類が燃焼合成反応後の合成粉末に存在すると焼結性が阻害される。焼結性を阻害しない程度まで塩類を減らす基準としては、洗浄液の電気伝導率が 150 μS/cm 以下である。すなわち洗浄回数、洗浄量の如何にかかわらず、上記合成粉末を水で洗浄したとき洗浄後の洗浄水の電気伝導率が 150 μS/cm 以下であればよい。
【0028】
上記合成粉末は、洗浄乾燥後、焼結することにより、誘電体セラミックスが得られる。焼結するとき、ポリビニルブチラールなどの成形用粘結剤を配合できる。焼結条件としては、10〜100 MPa の圧力で成形後、大気雰囲気下、1200〜1500℃の温度で焼成する条件が挙げられる。
また、燃焼合成で得られた合成粉末の結晶構造をさらに安定させたり、微量な不純物を除去するため、900〜1100℃で仮焼することも可能である。
【0029】
上記燃焼合成法により得られる誘電体セラミックスは、燃焼合成後の焼結体特性に優れ、理論密度に近く緻密化されるので、誘電体アンテナ、コンデンサ、共振器、圧力センサ、超音波モータ等に好適に使用できる。
【実施例】
【0030】
実施例1〜実施例4
表1に示す各成分を所定のモル配合比でボールミルを用いて 5 時間、乾式混合することにより中間原料粉末を得た(予備混合工程)。得られた中間原料粉末が収容されているボールミルにTi粉末を加えて、5 時間、乾式混合することにより混合原料粉末を得た(混合工程)。各実施例について工程の安全性を調べた。結果を表1に示す。
燃焼合成装置内のチャンバー内にカーボンるつぼを設置し、混合原料粉末(100 g )をカーボンるつぼ内で敷き詰め、着火用のカーボンフイルムを混合粉の一部と接触させて、チャンバーを閉じた。真空ポンプを用いて、チャンバー内の残留酸素を減少させた後、アルゴン(Ar)ガスを封入し、チャンバーの内圧を 0.1 MPa とした。
なお、表1中において、Ti粉末は住友チタニウム社製TSP−350を、TiO2、NaClO4は和光純薬工業社製、各試薬を、BaO2は関東化学工業社製、試薬を、Nd23は信越化学工業社製品を、それぞれ用いた。
【0031】
実施例1〜実施例4のすべての組成物について燃焼波が伝播し、燃焼合成法により合成粉末が得られた。反応は 1〜60 秒で終了した。アルミナ製乳鉢を用いて合成粉末を粉砕し、平均粒子径が 1μm の粉砕セラミックス粉末を得た。該セラミックス粉末の結晶相の同定をX線回折装置(XRD)を用いて行なった。測定結果を表1に示す。
【0032】
比較例1〜比較例2
表1に示すように、各成分の混合粉末を所定のモル比でボールミルを用いて乾式混合したところ、混合開始から 20 分で、ボールミル内で発火した。このため、次の燃焼合成反応工程に進むための混合粉末が得られなかった。
【0033】
【表1】

表1より、すべての実施例において原料混合工程を安全に実施でき、燃焼合成工程で安定な燃焼波が伝播し、それぞれ酸化物系の誘電体セラミックスを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の燃焼合成方法は発火等の危険のない安定な化学反応で誘電体セラミックスを製造することができるので、安全かつ低コストで誘電体セラミックスを製造することができ、アンテナ、コンデンサ、共振器、圧力センサ、超音波モータ等の電子部品分野において好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素供給源となる過酸化物粉末と、発熱源である金属粉末とを少なくとも含む反応原料を用いた燃焼合成方法であって、
該燃焼合成方法は、予め前記過酸化物粉末と、安定な原料粉末とを混合して中間原料粉末とする予備混合工程と、該予備混合工程で得られた中間原料粉末に、前記予備混合工程において未混合の反応原料を混合して原料粉末を得る混合工程と、該混合工程で得られた原料粉末を燃焼合成して焼結体とする燃焼合成工程とを備えてなり、
前記混合工程は、未混合の反応原料のうち、前記金属粉末を最後に混合して原料粉末を得る工程であることを特徴とする燃焼合成方法。
【請求項2】
前記燃焼合成工程は、断熱火炎温度が 1500℃以上であることを特徴とする請求項1記載の燃焼合成方法。
【請求項3】
前記金属粉末は、比表面積が 0.01〜2 m2/g の4族元素を含む金属粉末であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の燃焼合成方法。
【請求項4】
前記過酸化物粉末はBaO2およびNaClO4であり、前記金属粉末は比表面積が 0.01〜2 m2/g であるTi粉末であり、前記安定な原料粉末はRe23(Re は希土類元素)およびTiO2であり、それぞれの粉末を所定割合で混合することを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の燃焼合成方法。
【請求項5】
酸化物系の誘電体セラミックスであって、請求項1、請求項2または請求項3のいずれか一項記載の燃焼合成方法により製造されることを特徴とする誘電体セラミックス。

【公開番号】特開2007−91523(P2007−91523A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282524(P2005−282524)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】