説明

燃焼状態解析装置及び燃焼状態解析システム

【課題】エンジンのシリンダの内圧及び容積等の情報を取得して燃焼状態の解析を行うことができる燃焼状態解析装置、及び船舶に搭載されたエンジンの燃焼状態の解析を陸上にて行うことができる燃焼状態解析システムを提供する。
【解決手段】燃焼状態解析装置3の情報収集装置10は、回転センサ25によりエンジン2のクランクの1回転を検知し、クランクが1回転する間のシリンダの内圧を内圧センサ26により繰り返し取得する。取得した複数の内圧の検出値から上死点を探索し、上死点でのクランクの回転位置を基準位置として、内圧の各検出値でのクランクの回転角を算出する。この回転角からエンジン2のシリンダ内の容積を算出し、内圧、回転角及び容積を対応付けてハードディスク15に蓄積する。PC30は情報収集装置10から蓄積した情報を取得し、ディスプレイに内圧−回転角のグラフ、及び内圧−容積のグラフ等を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶などに搭載されたエンジンの燃焼状態を解析するための燃焼状態解析装置及び燃焼状態解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図11は、エンジンの特性の一例を示すグラフであり、(a)にはエンジンのクランクの回転角及びシリンダ内圧の関係を示してあり、(b)にはエンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の関係を示してある。エンジンのクランクが一回転した場合、クランクの回転運動によりシリンダ内を往復運動するピストンが一往復し、シリンダ内容積が変化してシリンダ内のガスが圧縮され、シリンダ内圧が所定値まで上昇した後に下降する(図11(a)の破線参照)。このとき、ピストンがシリンダの最上端に達した位置は上死点と呼ばれており、上死点又はこの近傍にてピストン運動によるシリンダ内圧の上昇が最大となる。ピストンが上死点の位置を若干通り過ぎたときにシリンダ内のガスに点火して燃焼させることにより、ガスの爆発力によってシリンダ内圧が更に上昇する(図11(a)の実線参照)。このシリンダ内圧の上昇分がエンジンの原動力となる。
【0003】
このときのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の関係は、図11(b)に示すように、シリンダ内容積の上昇時と下降時とで異なる曲線を示すため、これらの曲線で囲まれた領域の面積からエンジンの馬力を算出することができる。よって、エンジンからシリンダ内圧、クランクの回転角及びシリンダ内容積等の情報を取得することによって、エンジンの燃焼状態を解析することができ、エンジンの不具合及び故障等を発見することができる。
【0004】
特許文献1においては、機関の回転数及び筒圧力を検出し、1回転あたりの時間から整数分の1°に相当する時間間隔を演算し、この時間間隔のパルス毎に回転数及び筒圧力に係るデータを取得して、取得したデータを1°間隔のデータとして再配列するディーゼル機関の筒内圧入力装置が提案されている。この装置は、回転角を基準とした筒内圧の入力が不可能な場合であっても、時間基準のパルス信号により精度のよい角度基準データを取得することができる。
【0005】
特許文献2においては、多気筒エンジンの気筒毎に設けられ、各気筒の燃焼圧を検出する筒内圧センサと、筒内圧センサが出力する電荷信号を電圧信号に変換し、筒内圧センサの電荷発生開始前及び終了後に電圧出力レベルが同一レベルとなるように補正する機能を有するアンプユニットと、各気筒のアンプユニットが接続されるチャンネル切替ユニットとを備え、電子制御ユニットから出力されるチャンネル選択信号により、アンプユニットからの複数系統の信号のうち、計測対象となる系統の信号を選択して出力することにより、気筒毎の燃焼圧データを複雑な処理を要することなく簡単な構成で効率的に収集できる多気筒エンジンの燃焼圧データ収集システムが提案されている。
【0006】
特許文献3においては、エンジンサイクル毎に取得した筒内圧信号、クランク角信号及びカム軸トップ信号の計測データと、計測データの表示処理に必要なパラメータと、データを取得した時刻とをファイルデータとしてリングメモリ状に格納し、現場エンジンサイドにネットワークで接続された現地事務所及び遠隔監視センタへファイルデータを送信し、現地事務所又は遠隔監視センタにて受信したファイルデータを基に燃焼診断用波形を表示処理するエンジンの遠隔燃焼診断システムが提案されている。
【特許文献1】特開昭59−100834号公報
【特許文献2】特開2005−90464号公報
【特許文献3】特開2005−291106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のディーゼル機関の筒内圧入力装置では、取得することができるデータは筒内圧及び回転角の対応関係のみであり、図11(b)に示すようなシリンダ内容積に係るデータを取得することはできない。同様に、特許文献2に記載の多気筒エンジンの燃焼圧データ収集システムは筒内圧センサのみを搭載する構成であるため、シリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応に係るデータを取得することはできない。よって、エンジンの燃焼状態の解析に必要なデータを十分に得られないという問題がある。
【0008】
特許文献3に記載のエンジンの遠隔燃焼診断システムは、エンジンの筒内圧信号、クランク角信号及びカム軸トップ信号の3つの計測データを取得することができるため、これらの計測データを基にシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応に係るデータを取得することが可能であるが、クランク角信号を取得するためには例えばロータリエンコーダなどにより回転角の検出を行う必要がある。しかし、船舶に搭載されるエンジンなどの大型のエンジンでは回転角の検出を行うことが困難であるという問題がある。
【0009】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、エンジンのシリンダ内圧及びクランクの回転を検出し、検出結果を基にクランクの回転角の変化量に対するシリンダ内圧の変化量、即ちクランクの回転角に対するシリンダ内圧の変化率を算出し、変化率に応じてクランクの回転の基準位置を決定し、基準位置を基にしたクランクの回転角に対するシリンダ内容積を算出してシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応を取得する構成とすることにより、エンジンのクランクの回転角を直接的に検出することなく、シリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応を取得してエンジンの燃焼状態の解析を行うことができる燃焼状態解析装置を提供することにある。
【0010】
また本発明の他の目的とするところは、エンジンのシリンダ内圧が最大となるクランクの回転位置を取得し、この位置に達する以前の所定の回転角範囲内で変化率の算出を行う構成とすることにより、変化率を算出するための演算量を低減することができる燃焼状態解析装置を提供することにある。
【0011】
また本発明の他の目的とするところは、算出した変化率が所定の範囲内に収まる回転位置をクランクの回転の基準位置とする構成とすることにより、所定の範囲を規定する上限値及び下限値等との比較のみで基準位置を簡単に取得することができる燃焼状態解析装置を提供することにある。
【0012】
また本発明の他の目的とするところは、算出した変化率が最も0に近い回転位置をクランクの回転の基準位置とする構成とすることにより、エンジンの上死点を簡単に取得し、上死点の回転位置を基準位置として簡単に取得することができる燃焼状態解析装置を提供することにある。
【0013】
また本発明の他の目的とするところは、基準位置を基にしたクランクの回転角からピストンの位置を算出し、ピストンの位置及びシリンダ径を基にシリンダ内容積を算出する構成とすることにより、エンジンのクランクの回転角を直接的に検出することなく、シリンダ内容積を精度よく算出することができる燃焼状態解析装置を提供することにある。
【0014】
また本発明の他の目的とするところは、エンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応を表示する手段を備える構成とすることにより、エンジンの燃焼状態を簡単且つ確実に確認することができる燃焼状態解析装置を提供することにある。
【0015】
また本発明の他の目的とするところは、エンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応に係る情報を他の装置へ送信する送信手段を備える構成とすることにより、エンジンの燃焼状態に係る情報を遠隔地で取得し、燃焼状態の解析を行うことができる燃焼状態解析装置を提供することにある。
【0016】
また本発明の他の目的とするところは、船舶に搭載されたエンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応に係る情報を燃焼状態解析装置にて取得し、取得した情報を燃焼状態解析装置が送信して陸上の受信装置が受信する構成とすることにより、遠隔地を航海する船舶のエンジンの燃焼状態を陸上の管理会社などで解析する事ができる燃焼状態解析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1発明に係る燃焼状態解析装置は、エンジンの燃焼状態を解析する燃焼状態解析装置において、前記エンジンのシリンダ内圧を検出する内圧検出手段と、前記エンジンのクランクの回転を検出する回転検出手段と、前記内圧検出手段が検出したシリンダ内圧及び前記回転検出手段が検出した回転を基に、クランクの回転角の変化量に対するシリンダ内圧の変化量を算出する変化率算出手段と、該変化率算出手段が算出した変化率に応じて、クランクの回転の基準位置を決定する基準位置決定手段と、前記基準位置を基にしたクランクの回転角に対する前記エンジンのシリンダ内容積を算出する容積算出手段とを備え、前記エンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応を取得することを特徴とする。
【0018】
本発明においては、エンジンのシリンダ内圧(P)及びクランクの回転を検出する。検出結果から回転角の変化量(dθ)に対するシリンダ内圧の変化量(dP)、即ち変化率(dP/dθ)を算出することができる。算出した変化率が所定条件となるクランクの回転位置を探索して、この回転位置をクランクの回転の基準位置(θ0 )とする。例えばこの位置が上死点となるように所定条件を定めた場合、シリンダ内容積が最小となるクランクの回転位置を基準位置とすることができ、基準位置に対するクランクの回転角(θ)からシリンダ内容積(V(θ))を算出して、エンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応(P−V)を取得することができる。
【0019】
また、第2発明に係る燃焼状態解析装置は、前記内圧検出手段が検出したシリンダ内圧が最大となるクランクの回転位置を取得する最大位置取得手段を備え、前記変化率算出手段は、前記最大位置取得手段が取得した回転位置に達する以前の所定の回転角範囲内にて変化率の算出を行うようにしてあることを特徴とする。
【0020】
本発明においては、シリンダ内圧及びクランクの回転の対応関係から、まずシリンダ内圧が最大となるクランクの回転位置を取得する。次いで、シリンダ内圧がこの位置に達するより前の所定の回転角範囲内にて、シリンダ内圧の変化率を算出する。例えば所定の回転角範囲を最大点より前45°の範囲とすれば、回転の一周に亘って変化率を算出する場合と比較して、45°/360°=12.5%に演算量を低減することができる。
【0021】
また、第3発明に係る燃焼状態解析装置は、前記基準位置決定手段が、前記変化率算出手段が算出した変化率が所定範囲内に収まる回転位置をクランクの回転の基準位置として決定するようにしてあることを特徴とする。
【0022】
本発明においては、算出した変化率(dP/dθ)が例えば上限値(A)及び下限値(B)で規定される所定の範囲内に収まる(B<dP/dθ<A)回転位置を求め、この位置を回転の基準位置(θ0 =0°)とする。変化率の算出後に、上限値及び下限値との比較のみで簡単に基準位置を取得することができる。例えば、上限値を+1などの値の小さい正の値とし、下限値を−1などの値の小さい負の値とした場合、変化率が0に近い位置を求めることができ、所謂上死点を簡単に取得することができる。
【0023】
また、第4発明に係る燃焼状態解析装置は、前記基準位置決定手段が、前記変化率算出手段が算出した変化率が最も0に近い回転位置をクランクの回転の基準位置として決定するようにしてあることを特徴とする。
【0024】
本発明においては、算出した変化率(dP/dθ)が最も0に近い回転位置(dP/dθ≒0)を求めて、この位置を回転の基準位置(θ0 =0°)とする。この位置は上死点であり、上死点でのクランクの回転位置を基準位置とすることができる。上死点ではエンジンのシリンダ内容積が最小となるため、上死点を基準位置とすることでシリンダ内容量を正確に算出することが可能となる。
【0025】
また、第5発明に係る燃焼状態解析装置は、前記容積算出手段が、前記基準位置を基にしたクランクの回転角に応じて、前記エンジンのシリンダ内を往復移動するピストンの位置を算出し、算出したピストンの位置及び前記エンジンのシリンダ径を基に、前記エンジンのシリンダ内容積を算出するようにしてあることを特徴とする。
【0026】
本発明においては、基準位置に対する回転角に応じて、エンジンのシリンダ内を往復移動するピストンの位置を算出する。エンジンのシリンダ内容積はピストンの位置に応じて変化するため、ピストンの位置及びシリンダ径からシリンダ内容量を算出することができる。基準位置を上死点でのクランクの回転位置とした場合、ピストンの位置はクランクの回転半径、並びにクランク及びシリンダを連結する連結棒の長さ等から算出することができる。
【0027】
また、第6発明に係る燃焼状態解析装置は、前記エンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応を表示する表示手段を備えることを特徴とする。
【0028】
本発明においては、エンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応を例えばグラフなどにより表示する。これにより、エンジンの燃焼状態の変化を視覚的に簡単且つ確実に確認することができる。
【0029】
また、第7発明に係る燃焼状態解析装置は、前記エンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応に係る情報を他の装置へ送信する送信手段を備えることを特徴とする。
【0030】
本発明においては、エンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応に係る情報を、例えば無線通信又はLAN等を利用して他の装置へ送信する。これにより、エンジンから離隔した場所で燃焼状態に係る情報を取得することができる。特に無線通信の場合、船舶又は自動車等の移動体に搭載されたエンジンの燃焼状態を無線通信を利用して遠隔地で取得し、エンジンの燃焼状態を解析する事が可能となる。
【0031】
また、第8発明に係る燃焼状態解析システムは、船舶に搭載されたエンジン及び上述の燃焼状態解析装置と、陸上に配され、前記燃焼状態解析装置が送信する前記エンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応に係る情報を受信する受信手段を有する受信装置とを備えることを特徴とする。
【0032】
本発明においては、船舶に搭載されたエンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応に係る情報を上述の燃焼状態解析装置にて取得し、取得した情報を例えば無線通信により陸上に設置された受信装置へ送信する。陸上の船舶管理会社などに受信装置を設置することによって、航海中の船舶からエンジンの燃焼状態に関する情報を取得して解析する事ができる。また、複数の船舶に搭載された燃焼状態解析装置からの情報を船舶管理会社などで集中して管理することが可能となる。
【発明の効果】
【0033】
第1発明による場合は、エンジンのシリンダ内圧及びクランクの回転を検出し、クランクの回転角に対するシリンダ内圧の変化率を算出して、算出した変化率に応じてクランクの回転の基準位置を決定し、基準位置を基にしたクランクの回転角に対するシリンダ内容積を算出してシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応を取得する構成とすることにより、エンジンのクランクの回転角を直接的に検出することなくシリンダ内容積を算出することができ、クランクの回転角を直接的に検出することが難しい船舶などの大型のエンジンであっても、シリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応を取得して燃焼状態の解析を行うことができる。よって、エンジンの不具合又は故障等を確実に且つ早期に発見することができるため、エンジンの信頼性を高めることができ、エンジンを搭載する船舶の航海又は車両の走行等の安全性を高めることができる。
【0034】
また、第2発明による場合は、エンジンのシリンダ内圧が最大となるクランクの回転位置を取得し、この回転位置に達する以前の所定の回転角範囲内で変化率の算出を行う構成とすることにより、回転の一周に亘って変化率を算出する場合と比較して、変化率を算出するための演算量を低減することができるため、演算能力の低いCPU又はMPU等であっても演算を行うことが可能であり、燃焼状態解析装置のコストを低減することができる。
【0035】
また、第3発明による場合は、算出した変化率が所定の範囲内に収まるクランクの回転位置を基準位置とする構成とすることにより、所定の範囲を規定する上限値及び下限値等との比較のみで簡単に基準位置を取得することができるため、処理能力の低いCPU又はMPU等であっても基準位置を簡単に取得することができ、燃焼状態解析装置のコストを低減することができる。また、所定の範囲の設定によっては、エンジンの上死点を簡単に取得することができ、エンジンのシリンダ内容積の算出を高精度に行うことができる。
【0036】
また、第4発明による場合は、算出した変化率が最も0に近いクランクの回転位置を基準位置とする構成とすることにより、エンジンの上死点でのクランクの回転位置を基準位置として取得することができ、エンジンのシリンダ内容積を精度よく算出することができるため、クランクの回転角を直接的に検出することが難しい船舶などの大型のエンジンであっても、シリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応を精度よく取得して燃焼状態の解析を行うことができる。よって、燃焼状態の解析をより効率よく行うことができ、エンジンの信頼性をより高めることができ、エンジンを搭載する船舶の航海又は車両の走行等の安全性をより高めることができる。
【0037】
また、第5発明による場合は、基準位置を基にしたクランクの回転角からピストンの位置を算出し、ピストンの位置及びシリンダ径を基にシリンダ内容積を算出する構成とすることにより、クランクの回転角を直接的に検出することが難しい船舶などの大型のエンジンであっても、シリンダ内容積を精度よく算出することができるため、燃焼状態の解析を効率よく行うことができ、エンジンの信頼性をより高めることができ、エンジンを搭載する船舶の航海又は車両の走行等の安全性をより高めることができる。
【0038】
また、第6発明による場合は、エンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応を例えばグラフなどにより表示する構成とすることにより、エンジンの燃焼状態の変化を視覚的に簡単且つ確実に確認することができるため、燃焼状態解析装置の利便性を高めることができる。
【0039】
また、第7発明による場合は、エンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応に係る情報を、例えば無線通信又はLAN等を利用して他の装置へ送信する構成とすることにより、エンジンの燃焼状態に係る情報を遠隔地で取得し、燃焼状態の解析を行うことができるため、燃焼状態解析装置の利便性をより高めることができる。
【0040】
また、第8発明による場合は、船舶に搭載されたエンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応に係る情報を上述の燃焼状態解析装置にて取得し、取得した情報を例えば無線通信により陸上に設置された受信装置へ送信する構成とすることにより、航海中の船舶からエンジンの燃焼状態に関する情報を陸上の船舶管理会社などで解析する事ができると共に、複数の船舶に搭載された燃焼状態解析装置からの情報を船舶管理会社などで集中して管理することができるため、船舶の管理効率を高めることができると共に、船舶の航海の安全性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。図1は、本発明に係る燃焼状態解析システムの概略を示す模式図である。図において1は海洋上を航海する船舶である。船舶1は、推進力を発生させるためのエンジン2と、エンジン2の燃焼状態に係る情報を取得して解析するための燃焼状態解析装置3とを搭載している。燃焼状態解析装置3は、エンジン2に取り付けられた種々のセンサからの情報を収集する情報収集装置10と、船舶1に乗船したユーザが燃焼状態に係る情報の表示及び解析等を行うためのPC(パーソナルコンピュータ)30とにより構成されるものである。情報収集装置10は、船舶1内のエンジン2が設置された場所の近傍、例えば機関室などに設置するようにしてある。PC30は、船内LAN(Local Area Network)などのネットワーク101を介して情報収集装置10に接続してあり、船舶1内の例えば船橋などに設置するようにしてある。
【0042】
船舶1に搭載されたPC30は、通信衛星70などを介した無線通信を行う機能を有しており、情報収集装置10が収集した情報を陸上のサービス提供会社50へ無線通信により送信することができるようにしてある。サービス提供会社50は、本発明に係る燃焼状態解析システムを利用したサービスを提供する会社であり、通信衛星70などを介した無線通信を行う機能を有するサーバ装置50aが設置してある。サーバ装置50aは、無線通信により船舶1のPC30から受信した情報を蓄積すると共に、インターネットなどのネットワーク102を介して船舶1を管理する管理会社60に蓄積した情報を提供するようにしてある。
【0043】
管理会社60は、船舶1に搭載された設備の状態及び船舶1の航海等の管理を行う会社であり、船舶1を所有する会社であってもよい。管理会社60には、ネットワーク102を介して情報の送受信を行うことができるPC60aが設置してあり、サービス提供会社50から送信された情報を受信して表示及び解析等を行うことができるようにしてある。なお、図示は省略するが、サービス提供会社50は複数の船舶1から情報を受信して蓄積することができるようにしてあり、且つ、複数の管理会社60に情報を提供することができる。この場合、サーバ装置50aは、複数の船舶1に係る情報から、管理会社60が管理する船舶1のみの情報を選別して、各管理会社60へそれぞれ提供するようにしてある。
【0044】
図2は、本発明に係る燃焼状態解析装置3の情報収集装置10の構成を示すブロック図である。情報収集装置10は、船舶1のエンジン2の適所に設置された給気圧センサ24、回転センサ25及び内圧センサ26等の各種センサが検出した検出結果の収集・蓄積及びPC30への送信等を行う機能を有している。また、情報収集装置10は、回転センサ25が検出するエンジン2のクランクの回転及び内圧センサ26が検出するエンジン2のシリンダ内圧から、エンジン2のシリンダ内容積を算出する機能を有している。
【0045】
情報収集装置10は、回転センサ25及び内圧センサ26の検出結果の収集・蓄積及びシリンダ内容積の算出等の処理を行う本体部11を備えており、本体部11はCPU12、ROM13、RAM14、ハードディスク15、LANインタフェース(図中にはLAN I/Fと表記する)16、回転検出部17及びセンサ入力部18等がバスを介して接続された構成である。CPU12は、本体部11の各部の制御を行って情報の収集・蓄積を行うと共に、シリンダ内容積の算出などの演算処理を行うものである。
【0046】
ROM13は、CPU12にて実行されるプログラム及び処理に必要な設定値などのデータが予め記憶してあり、マスクROM、EEPROM又はフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ素子で構成してある。RAM14は、各種のセンサから与えられた情報の一時的な蓄積及びCPU12が行う演算処理の過程で生じた一時的なデータの記憶等を行うものであり、SRAM又はDRAM等の容量の大きい書き換え可能なメモリ素子で構成してある。ハードディスク15は、各種センサから与えられた情報を蓄積するためのものであり、数GB〜数十GB程度の容量を有する記憶媒体である。
【0047】
LANインタフェース16は、他の装置との間で情報の送受信を行うためのハードウェアである。ただし、情報収集装置10は、内部にHUB21を備えており、LANインタフェース16は直接的に船内LANなどのネットワーク101に接続されておらず、HUB21を介して間接的にネットワーク101に接続してある。HUB21は、通信機能を有する複数の機器を相互に接続するための機器であり、リピータHUB又はスイッチングHUB等の種々のHUBを用いることができる。
【0048】
エンジン2の適所に配された回転センサ25は、エンジン2のクランクの回転を検出するセンサであり、クランクの1回転毎に1つのパルスを出力するようにしてある。本体部11の回転検出部17は、回転センサ25から与えられるパルス信号の立ち上り又は立ち下がりのエッジを検出することでエンジン2のクランクの1回転を検出し、これをCPU12へ通知するようにしてある。これによりCPU12は、エンジン2のクランクの回転数又はクランクの1回転に要する時間等を算出することができる。
【0049】
エンジン2の適所に配された内圧センサ26は、エンジン2のシリンダ内の圧力を検出し、圧力に応じた微弱な電圧を発生させるセンサである。内圧センサ26が出力する微弱な電圧は内圧センサ用アンプ23にて増幅され、本体部11のセンサ入力部18へ入力される。センサ入力部18は、内圧センサ用アンプ23にて増幅された電圧の値をデジタル値に変換し、変換したデジタルの電圧値をRAM14に与えて記憶すると共に、電圧値の取得をCPU12に通知するようにしてある。これによりCPU12は、ROM13に記憶されたテーブルを参照して電圧値を圧力値に変換し、エンジン2の内圧を取得することができる。
【0050】
エンジン2の適所に配された給気圧センサ24は、エンジン2に供給されるガスの気圧を検出し、気圧に応じた電圧を発生させるセンサであり、給気圧センサ24が出力する電圧は変換部22に与えられる。変換部22は与えられた電圧の値をデジタル値に変換すると共に、デジタルの電圧値をネットワーク101を介した通信を行うためのプロトコルに適したデータ形式に変換し、本体部11を介さずにHUB21からネットワーク101に接続されたPC30へ給気圧センサ24の検出結果を送信するようにしてある。また、本体部11へHUB21を介して給気圧センサ24の検出結果を与えることも可能である。
【0051】
なお、図2においては、船舶1に搭載されたエンジン2を1つのみ図示してあるが、船舶1が複数のエンジン2を搭載していてもよく、この場合にはエンジン2毎に給気圧センサ24、回転センサ25及び内圧センサ26をそれぞれ設ければよい。また、エンジン2には給気圧センサ24、回転センサ25及び内圧センサ26がそれぞれ1つずつ設けてあるが、これはエンジン2がシリンダを1つ有する場合であり、エンジン2が複数のシリンダを有する場合、所謂多気筒エンジンの場合には、シリンダ毎に給気圧センサ24、回転センサ25及び内圧センサ26を設ければよい。このような場合、情報収集装置10には、給気圧センサ24、回転センサ25及び内圧センサ26の配設数に応じて、回転検出部17、センサ入力部18、変換部22及び内圧センサ用アンプ23を複数設けるものとする。
【0052】
図3は、本発明に係る燃焼状態解析装置3のPC30の構成を示すブロック図である。PC30は、一般的なコンピュータに通信衛星70を介した通信を行う機能を付与した構成であり、CPU31、ROM32、RAM33、ハードディスク34、ディスプレイ35、無線通信部36及びLANインタフェース37等がバスを介して接続された構成である。CPU31は、PC30の各部の制御及び各種の演算等を行うものであり、ROM32又はハードディスク34に予め記憶されたプログラムを読み出して実行することによりこれらの処理を行うようにしてある。
【0053】
ROM32は、CPU31にて実行されるプログラム及び処理に必要な設定値などのデータが予め記憶してあり、マスクROM、EEPROM又はフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ素子で構成してある。RAM33は、通信衛星70を介した無線通信又はネットワーク101を介した船舶1内の通信により受信した情報の一時的な蓄積、及びCPU31が行う演算処理の過程で生じた一時的なデータの記憶等を行うものであり、SRAM又はDRAM等の容量の大きい書き換え可能なメモリ素子で構成してある。ハードディスク34は、CPU31にて実行されるプログラム及び通信により受信した情報等を記憶するためのものであり、数GB〜数十GB程度の容量を有する記憶媒体である。
【0054】
ディスプレイ35は、例えば液晶などの表示デバイスを用いて構成されるものであり、与えられた表示用の画像データを表示するようにしてある。情報収集装置10が収集したエンジン2に係る情報をPC30が取得し、取得した情報をグラフ又は表等の表示用の画像にCPU31が加工し、このグラフ又は表等をディスプレイ35に表示することによって、ユーザが把握しやすい状態でエンジン2に係る情報を表示することができ、ユーザは表示された情報を解析してエンジン2の不具合又は故障等を容易に発見できる。
【0055】
無線通信部36は通信衛星70との間で無線により情報の送受信を行うためのハードウェアであり、これによりPC30は通信衛星70を介して陸上のサービス提供会社50に設けられたサーバ装置50aと情報の送受信を行うことができるようにしてある。LANインタフェース37は、他の装置との間で有線にて情報の送受信を行うためのハードウェアであり、船舶1のネットワーク101に接続してある。これにより、PC30は情報収集装置10からエンジン2に係る情報を取得することができると共に、情報収集装置10の動作の設定又は各種の命令の送信等を行うことができるようにしてある。
【0056】
図4は、船舶1に搭載されたエンジン2の構成を示す模式図である。エンジン2は、シリンダ2a、ピストン2b、クランク2c及び連接棒2d等により構成されている。シリンダ2aは一側(以下、上側という)が密閉された略円筒形をなす容器であり、シリンダ2a内を略円柱形のピストン2bが同軸に上下に摺動するように収容してある。また、クランク2cは、ピストン2bの摺動方向に略垂直な方向の回転軸を有する軸体であり、連接棒2dによりピストン2bに接続され、ピストン2bの上下運動をクランク2cの回転運動に変換するようにしてある(図4(a)参照)。
【0057】
ピストン2bは、図4(b)に示すクランク2cに最も近づく位置、即ち下死点から、図4(c)に示すよクランク2cから最も遠ざかる位置、即ち上死点までの間を、クランク2cの回転半径rの2倍の距離を移動することができる。この移動距離が所謂ストロークSであり、以下の(1)式が成立する。
S = 2×r …(1)
【0058】
また、ピストン2bが上死点に位置する場合のシリンダ2a内の容積と下死点に位置する場合の容積との差、所謂ストロークボリュームVsは、シリンダ2aの直径をDとした場合、以下の(2)式で表すことができる。
Vs = (πD2 /4)×S …(2)
更に、ピストン2bが上死点に位置する場合のシリンダ2a内の容積、所謂クリアランスボリュームVcは、エンジン2の圧縮比をεとした場合、以下の(3)式で表すことができる。
Vc = Vs/(εー1) …(3)
【0059】
また、ピストン2bの上死点からの変位量をXとし、連接棒の長さをLrとし、上死点に対応する位置を基準としたクランク2cの回転角をθとした場合、以下の(4)式が成立する。
X(θ) = (Lr+r)
−Lr(1−r2 /Lr2 ・sin2 θ)1/2
−r・cosθ …(4)
よって、シリンダ2a内の容積Vは、以下の(5)式で表すことができる。
V(θ) = Vc+(πD2 /4)×X(θ) …(5)
【0060】
以上の(4)及び(5)式により、上死点に対応する位置を基準位置としたクランク2cの回転角θから、エンジン2のシリンダ2a内の容積を算出することができる。しかしながら、クランク2c及びピストン2bの詳細な位置をエンジン2の外部から直接的に把握することは難しいため、クランク2cの回転角θの基準位置となる上死点に対応する位置が容易に把握できないという問題がある。そこで、本発明に係る燃焼状態解析装置3では、エンジン2のシリンダ2aの内圧を検出する内圧センサ26の検出結果を基に、ピストン2bが上死点に位置するタイミングを算出し、このタイミングでのクランク2cの回転位置を基準位置(θ=0°)としてシリンダ2aの容積Vを算出するようにしてある。
【0061】
図5は、本発明に係る燃焼状態解析装置が行う基準位置の決定方法を説明するための模式図である。上述の通り、エンジン2のクランク2cの1回転毎に1つのパルスを発するパルス信号を回転センサ25が出力する。図示のグラフは、回転センサ25が出力するパルス信号から一の立ち上りエッジを検出し、次の立ち上りエッジを検出するまでの間に、内圧センサ26により検出したエンジン2のシリンダ2aの内圧Pの検出値をグラフとして示したものである。なお、横軸はパルス信号の立ち上りエッジでのクランク2cの回転角を仮に0°とし、0°〜360°の範囲の回転角θとしてある。
【0062】
シリンダ2aの内圧は、クランク2cの回転と共に傾きを増しながら徐々に上昇して最大点aに到達するが、上昇の途中で傾きが減じる期間が存在する。この期間で最も傾きが小さい点bが上死点である。エンジン2ではピストン2bが上死点に到達したときにシリンダ2a内のガスに点火して燃焼させるようにしてあり、これによりシリンダ2aの内圧が更に上昇し、最大点aに到達した後、クランク2cの回転と共に徐々に下降する。
【0063】
情報収集装置10のCPU12は、クランク2cの1回転分の内圧の情報を取得した後、まず、シリンダ2aの内圧が最大となる最大点aの探索を行うようにしてある。探索により最大点aを取得した後、最大点aより前の所定区間Mの検出値を対象に、上死点bの探索を行うようにしてある。なお、図5においては、所定区間Mとしてクランク2cが45°回転する区間を一例として採用してあるが、これに限るものではない。クランク2cが45°回転する区間は、パルス信号の立ち上りエッジ間にクランク2cが360°回転するため、立ち上りエッジ間の1/8の区間に相当する。
【0064】
上死点bの探索は最大点aに最も遠い点から順に、各点でのクランク2cの回転角の変化量に対するシリンダ2aの内圧Pの変化量、即ち各点での傾き(dP/dθ)を算出し、算出した傾きと予め定められた2つの閾値A及びBとを比較して、A<dP/dθ<Bの条件が成立するか否かを判定することによって行うようにしてある。CPU12は、最大点aに最も遠い点からこの条件判定を順次行い、条件が成立した点を上死点bとするようにしてある。なお、閾値Aは0近傍の負の値とし、閾値Bは0近傍の正の値とすることで傾きが0又は0近傍の点を探索することができる。閾値A及びBの値は、内圧センサ26の精度及び内圧の取得頻度に応じて適切な値を予め設定する。
【0065】
探索により上死点bを取得した後、上死点bでのクランク2cの回転角を回転の基準位置θ0 (θ=0°)と決定し、シリンダ2aの内圧Pの検出値毎に、基準位置θ0 を基にした回転角θをそれぞれ算出する。また、上死点bでの回転角を基準位置θ0 とした回転角θが得られるため、上述の(4)及び(5)式により、シリンダ2a内の容積Vを算出することができる。よって、情報収集装置10のCPU12は、シリンダ2aの内圧Pの検出値と、基準位置θ0 を基にして算出した回転角θと、上述の(4)及び(5)式により算出したシリンダ2a内の容積Vとを対応付け、このデータ(P、θ、V)をハードディスク15に蓄積するようにしてある。
【0066】
なお、これらのデータを取得したときの回転センサ25の出力信号を基に算出できるエンジン2のクランク2cの回転数、及び給気圧センサ24が検出した給気圧等の情報を、これらのデータと共にハードディスク15に蓄積してもよい。また、シリンダ2aの内圧P及び容積Vからエンジン2の馬力を算出することができるため、これを予め算出してハードディスク15に蓄積してもよい。
【0067】
その後、PC30から与えられるユーザの指示に応じて、情報収集装置10はハードディスク15から蓄積したデータ(P、θ、V)を読み出し、ネットワーク101を介してPC30へ送信するようにしてある。PC30では、このデータ(P、θ、V)を受信した後、例えば、縦軸をPとし横軸をθとしたグラフ(P−θ線図)、又は縦軸をPとし横軸をVとしたグラフ(P−V線図)等にデータを加工してディスプレイ35に表示するようにしてある。
【0068】
図6は、本発明に係る燃焼状態解析装置3のPC30が表示するP−θ線図の表示例を示す模式図である。図示の例では、情報収集装置10が蓄積したエンジン2に関する情報のうち、シリンダ2aの内圧P及びクランク2cの回転角θに係る情報を抽出してグラフ化したものが略中央に表示してあり、グラフの上側にグラフの種別などが表示してあり、下側にその他の数値情報を表として表示してある。表示されるグラフは、縦軸をシリンダ内圧とし、横軸をクランクの回転角とした図5に示すものと同じグラフであるが、上死点の位置をクランクの回転角が0°として表示してある。
【0069】
なお、船舶1にエンジン2が複数搭載されている場合、又はエンジン2が多気筒エンジンの場合には、同一時刻に測定した他のエンジン2又は他のシリンダ2aの情報を重ねて又は切り替えて表示することも可能である。また、異なる時刻での情報を重ねて表示することができる構成としてもよい。また、グラフとして表示したデータ(P、θ)をCSV(Comma Separated Values)ファイルなどのテキストファイルとして出力することもできるようにしてある。
【0070】
図7は、本発明に係る燃焼状態解析装置3のPC30が表示するP−V線図の表示例を示す模式図である。図示の例では、情報収集装置10が蓄積したエンジン2に関する情報のうち、シリンダ2aの内圧P及び容積Vに係る情報を抽出してグラフ化したものが略中央に表示してあり、グラフの上側にグラフの種別などが表示してあり、下側にその他の数値情報を表として表示してある。表示されるグラフは、縦軸をシリンダ内圧とし、横軸をシリンダ内容積としてあるが、シリンダ内容積は最大容積(図4(b)の状態での容積)を100%とする比率として示してある。また、数値情報として示すエンジン2の馬力に係る情報は、P−V線図中の曲線で囲まれた領域の面積がエンジン2の馬力に相当するため、積分計算を行うことによって算出することができる。
【0071】
なお、この例では、異なる時刻に取得したエンジン2のデータを重ねて又は切り替えて表示することが可能にしてある。船舶1にエンジン2が複数搭載されている場合、又はエンジン2が多気筒エンジンの場合に、同一時刻に測定した他のエンジン2又は他のシリンダ2aの情報を重ねて又は切り替えて表示することができる構成としてもよい。また、図6と同様に、グラフとして表示したデータ(P、V)をCSVファイルなどのテキストファイルとして出力することもできるようにしてある。
【0072】
図8は、本発明に係る燃焼状態解析装置3のPC30のその他の表示例を示す模式図である。図示の例では、例えば船舶1が4つのエンジン2を搭載しており、各エンジン2が4つのシリンダ2aを有している4気筒エンジンの場合に、シリンダ2aの内圧Pの最大値Pmaxを、全てのシリンダ2aについてグラフにプロットしたものである。表示されるグラフは、縦軸を内圧Pの最大値Pmaxとし、横軸をエンジン2の各シリンダ2aに対応付けられた番号としてある。グラフの上側にグラフの種別(Pmaxプロット図)などが表示してあり、下側に4つのエンジン2の全シリンダ2aに関する数値情報が表示してある。なお、内圧Pの最大値Pmaxに代えて、内圧Pの平均値、エンジン2の回転数、エンジン2の給気圧、又はエンジン2の馬力等をプロットしたグラフを表示する構成としてもよい。
【0073】
図9は、本発明に係る燃焼状態解析装置3の情報収集装置10が行う情報収集処理の手順を示すフローチャートであり、本体部11のCPU12にて行われる処理である。CPU12は、まず、回転センサ25の出力信号の立ち上りエッジを検出して処理を開始し、内圧センサ26からエンジン2のシリンダ2aの内圧Pを検出して取得し(ステップS1)、検出値をRAM14に一時的に記憶する(ステップS2)。次いで、クランク2cの1回転分についてシリンダ2aの内圧Pの取得を完了したか否かを(ステップS3)、回転センサ25の出力信号の立ち上りエッジの有無に基づいて調べ、1回転分の内圧Pの取得を完了していない場合には(S3:NO)、ステップS1へ戻り、内圧センサ26による内圧Pの取得とRAM14への記憶とを繰り返し行う。回転センサ25の出力信号の立ち上りエッジを検出し、クランク2cの1回転分についての内圧Pの取得を完了した場合(S3:YES)、RAM14に記憶した1回転分の内圧Pの検出値を基に、上死点の探索処理を行う(ステップS4)。
【0074】
図10は、本発明に係る燃焼状態解析装置3の情報収集装置10が行う上死点探索処理の手順を示すフローチャートであり、図9に示すフローチャートのステップS4にて行われる処理である。上死点探索処理では、まず、RAM14に記憶した一回転分の内圧Pの検出値から、内圧Pが最大となる最大点を探索する(ステップS21)。次いで、探索して取得した最大点からクランク2cの回転の45°前に対応する点のデータを取得し(ステップS22)、この点での傾き(dP/dθ)の算出を行う(ステップS23)。なお、傾き(dP/dθ)の算出は、この点を(P1、θ1)とし、次の点を(P2、θ2)とした場合、dP/dθ=(P2−P1)/(θ2−θ1)として行うことができる。
【0075】
傾き(dP/dθ)を算出した後、この傾きが閾値A及び閾値Bの間に収まるか否か、即ちA<dP/dθ<Bの関係が成立するか否かを調べる(ステップS24)、この関係が成立しない場合には(S24:NO)、処理対象の点として次の点のデータを取得し(ステップS25)、ステップS23へ戻って、傾きの算出及び閾値との比較を行う。A<dP/dθ<Bの関係が成立する場合(S24:YES)、この点を上死点と判定して(ステップS26)、上死点探索処理を終了し、図9に示す処理へ戻る。
【0076】
上死点探索処理の終了後、上死点でのクランク2cの回転位置を回転の基準位置θ0 (θ=0°)と決定し(ステップS5)、RAM14に記憶した内圧Pの検出値毎に、基準位置θ0 を基にしたクランク2cの回転角θを算出する(ステップS6)。更に、算出した回転角θを基に、(4)及び(5)式によりシリンダ2aの容積Vを内圧Pの検出値毎に算出し(ステップS7)、ステップS1、S6及びS7にて得られたデータ(P、θ、V)を検出値毎に対応付けてハードディスク15に蓄積して(ステップS8)、処理を終了する。
【0077】
なお、図9に示す情報収集処理は、例えばユーザが予め定めた時刻に定期的に行う構成としてもよく、ステップS1〜S8の処理を常時繰り返して行う構成としてもよく、又は、ユーザがPC30からこれらの情報を取得する要求を与えたときに行う構成としてもよい。情報収集装置10は、PC30から情報の送信要求が与えられた場合に、ハードディスク15に蓄積された情報を読み出してPC30へ送信するようにしてある。PC30は、ユーザの指示に従って、受信した情報を図6〜8に示すグラフに加工して表示するようにしてある。
【0078】
船舶1に乗船したユーザは、PC30を利用して定期的にエンジン2の燃焼状態をグラフで確認し、過去のデータと比較することによって、グラフの変化からエンジン2の不具合又は故障等を発見することができる。P−θ線図及びP−V線図等のグラフに示された曲線の形状は、エンジン2の不具合又は故障等に応じてある程度決まったパターンに変化する可能性が高いため、エンジン2に不具合又は故障等が生じた場合の曲線の形状をデータベースとして保存しておくことによって、これらとの比較により不具合又は故障等の原因を推定することも可能となる。
【0079】
また、PC30は、定期的に情報収集装置10からエンジン2に係る情報を取得し、通信衛星70を介した無線通信により陸上のサービス提供会社50のサーバ装置50aへ送信するようにしてある。サービス提供会社50のサーバ装置50aは、受信した情報を蓄積すると共に、受信した情報に係る船舶1を管理する管理会社60のPC60aへ情報を転送するか、又は、管理会社60からの情報の取得要求に応じて情報をPC60aへ送信するかするようにしてある。また、管理会社60から情報の取得要求をサービス提供会社50のサーバ装置50aへ送信し、サーバ装置50aが対応する船舶1のPC30へ情報の取得要求を送信し、これを受信したPC30が情報収集装置10からエンジン2に係る情報を取得してサーバ装置50aへ送信し、サーバ装置50aから管理会社60のPC60aへ情報を送信することもできる。
【0080】
以上の構成の燃焼状態解析システムにおいては、船舶1を管理する陸上の管理会社60が、サービス提供会社50を介して船舶1のエンジン2に係る情報を取得することができるため、船舶1が遠隔の海洋上を航海している場合であっても、船舶1の管理及びエンジン2の燃焼状態の解析等を容易に行うことができる。また、船舶1に搭載する燃焼状態解析装置3を、情報収集装置10及びPC30を船内LANなどのネットワーク101を介して接続した構成とすることによって、エンジン2が設置された場所に近い機関室内のみでなく、船橋などの他の場所でエンジン2の燃焼状態の解析を行うことができる。
【0081】
また、内圧センサ26の検出値から上死点の探索を行って回転の基準位置θ0 を決定し、基準位置θ0 を基にクランクの回転角θを算出することによって、エンジン2のクランク2cの回転角θを直接的に検出するためのロータリエンコーダなどを設ける必要がなく、ロータリエンコーダなどを設けることが難しい大型のエンジンであっても、図7に示すP−V線図を表示してエンジン2の燃焼状態の解析を行うことが可能となる。また、上死点の探索を行う場合に、最大点より前のクランク2cの回転の45°に対応する範囲で探索を行うことによって、上死点を探索するための傾きの算出及び閾値との比較等の処理に必要な演算量を低減できると共に、下死点近傍の点を上死点と誤判定することを防止できる。
【0082】
なお、本実施の形態においては、燃焼状態解析装置3は情報収集装置10及びPC30がネットワーク101を介して接続された構成としたが、これに限るものではなく、情報収集装置10及びPC30の両機能を兼ね備えた一体の装置であってもよい。また、船舶1のPC30が通信衛星70を介して陸上のサービス提供会社50のサーバ装置50aと通信を行う構成としたが、これに限るものではなく、直接的に管理会社60のPC60aと通信を行う構成としてもよい。また、通信衛星70を利用するのではなく、携帯電話網を利用して通信を行う構成としてもよい。
【0083】
また、情報収集装置30がHUB21を備え、本体部11のLANインタフェース16がHUB21を介してネットワーク101に接続される構成としたが、これに限るものではなく、LANインタフェース16がネットワーク101に直接的に接続される構成としてもよい。また、エンジン2の給気圧を検出する給気圧センサ24を備える構成としたが、これに限るものではなく、給気圧センサ24を備えない構成としてもよい。また、給気圧センサ24の検出結果を本体部11が直接的に取得する構成としてもよい。また、エンジン2の燃焼状態を情報収集装置10のハードディスク15に蓄積する構成としたが、これに限るものではなく、PC30のハードディスクに蓄積する構成としてもよい。
【0084】
また、内圧センサ26が内圧に応じた電圧を出力する構成としたが、電流を出力する構成としてもよい。給気圧センサ24についても同様である。また、上死点を探索する際に、A<dP/dθ<Bの条件が成立する点を探索する構成としたが、これに限るものではなく、最大点以前の所定範囲内の全点について傾きdP/dθを算出し、これらの中から最も0に近い傾きを有する点を探索して、この点を上死点とする構成としてもよい。また、PC30にてグラフを表示した場合に、データをCSVファイルなどのテキストファイルに出力することができる構成としたが、テキストファイルに限らず、表計算ソフト又はワープロソフト等のデータ形式のファイルに出力することができる構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明に係る燃焼状態解析システムの概略を示す模式図である。
【図2】本発明に係る燃焼状態解析装置の情報収集装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る燃焼状態解析装置のPCの構成を示すブロック図である。
【図4】船舶に搭載されたエンジンの構成を示す模式図である。
【図5】本発明に係る燃焼状態解析装置が行う基準位置の決定方法を説明するための模式図である。
【図6】本発明に係る燃焼状態解析装置のPCが表示するP−θ線図の表示例を示す模式図である。
【図7】本発明に係る燃焼状態解析装置のPCが表示するP−V線図の表示例を示す模式図である。
【図8】本発明に係る燃焼状態解析装置のPCのその他の表示例を示す模式図である。
【図9】本発明に係る燃焼状態解析装置の情報収集装置が行う情報収集処理の手順を示すフローチャートである。
【図10】本発明に係る燃焼状態解析装置の情報収集装置が行う上死点探索処理の手順を示すフローチャートである。
【図11】エンジンの特性の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0086】
1 船舶
2 エンジン
2a シリンダ
2b ピストン
2c クランク
3 燃焼状態解析装置
10 情報収集装置
11 本体部(変化率算出手段、容積算出手段、基準位置決定手段、最大位置取得手段)
12 CPU
15 ハードディスク
16 LANインタフェース
17 回転検出部
18 センサ入力部
21 HUB
22 変換部
23 内圧センサ用アンプ
24 給気圧センサ
25 回転センサ(回転検出手段)
26 内圧センサ(内圧検出手段)
30 PC
31 CPU
34 ハードディスク
35 ディスプレイ(表示手段)
36 無線通信部(送信手段)
37 LANインタフェース
50 サービス提供会社
50a サーバ装置(受信装置)
60 管理会社
60a PC
70 通信衛星

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの燃焼状態を解析する燃焼状態解析装置において、
前記エンジンのシリンダ内圧を検出する内圧検出手段と、
前記エンジンのクランクの回転を検出する回転検出手段と、
前記内圧検出手段が検出したシリンダ内圧及び前記回転検出手段が検出した回転を基に、クランクの回転角の変化量に対するシリンダ内圧の変化量を算出する変化率算出手段と、
該変化率算出手段が算出した変化率に応じて、クランクの回転の基準位置を決定する基準位置決定手段と、
前記基準位置を基にしたクランクの回転角に対する前記エンジンのシリンダ内容積を算出する容積算出手段と
を備え、
前記エンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応を取得することを特徴とする燃焼状態解析装置。
【請求項2】
前記内圧検出手段が検出したシリンダ内圧が最大となるクランクの回転位置を取得する最大位置取得手段を備え、
前記変化率算出手段は、前記最大位置取得手段が取得した回転位置に達する以前の所定の回転角範囲内にて変化率の算出を行うようにしてある請求項1に記載の燃焼状態解析装置。
【請求項3】
前記基準位置決定手段は、前記変化率算出手段が算出した変化率が所定範囲内に収まる回転位置をクランクの回転の基準位置として決定するようにしてある請求項1又は請求項2に記載の燃焼状態解析装置。
【請求項4】
前記基準位置決定手段は、前記変化率算出手段が算出した変化率が最も0に近い回転位置をクランクの回転の基準位置として決定するようにしてある請求項1又は請求項2に記載の燃焼状態解析装置。
【請求項5】
前記容積算出手段は、
前記基準位置を基にしたクランクの回転角に応じて、前記エンジンのシリンダ内を往復移動するピストンの位置を算出し、
算出したピストンの位置及び前記エンジンのシリンダ径を基に、前記エンジンのシリンダ内容積を算出するようにしてある請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の燃焼状態解析装置。
【請求項6】
前記エンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応を表示する表示手段を備える請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の燃焼状態解析装置。
【請求項7】
前記エンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応に係る情報を他の装置へ送信する送信手段を備える請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の燃焼状態解析装置。
【請求項8】
船舶に搭載されたエンジン及び請求項7に記載の燃焼状態解析装置と、
陸上に配され、前記燃焼状態解析装置が送信する前記エンジンのシリンダ内容積及びシリンダ内圧の対応に係る情報を受信する受信手段を有する受信装置と
を備えることを特徴とする燃焼状態解析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−75584(P2008−75584A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256894(P2006−256894)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(391013092)渦潮電機株式会社 (10)
【Fターム(参考)】