説明

燻煙剤組成物及び燻煙装置

【課題】屋内汚染の防止を図りつつ、刺激性が低く、異臭の残留が少ない燻煙剤組成物及び燻煙装置。
【解決手段】遷移金属を含有する無機系薬剤と、有機発泡剤と、カルシウム化合物とを含有する燻煙剤組成物。前記無機系薬剤は、殺菌剤、抗菌剤、防カビ剤、抗カビ剤又は消臭剤であることが好ましく、銀、銅、亜鉛及びこれらの化合物からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。燻煙剤組成物が充填され形成された燻煙剤部32と、前記燻煙剤部32を加熱する加熱部20とを設ける。さらに、前記加熱部20で生じた熱を前記燻煙剤部32に伝える伝熱部を設けることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燻煙剤組成物及び燻煙装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燻煙剤(燻蒸剤)は、種々の燃焼剤又は発泡剤等を混合した発熱性基剤と、有害生物駆除用薬剤等の薬剤(有効成分)とを主成分とするものである。このような燻煙剤は、その使用時に発熱性基剤の燃焼又は分解により薬剤を気化し、あるいは発熱性基剤の分解により発生するガス及び煙粒子の働きにより気化した薬剤を短時間で空気中に噴出、拡散し、対象物となる有害生物の防除等を行うものである。
【0003】
燻煙剤において、薬剤の煙化及び拡散は、燃焼剤や有機発泡剤の配合量に大きく影響される。このため、従来、対象物への薬剤の効果をより高めるため、発熱性基剤の配合量を増加することで薬剤の煙化又は拡散性を向上させていた。
発熱性基剤の増加に伴い、発熱性基剤の燃焼又は分解に伴う煙の発生量も増加する。このため、燻煙剤の使用時又は使用直後において、強い刺激を感じたり、異臭の残留、燃えカスの飛散による屋内の汚染等を引き起こすことがあった。
【0004】
こうした問題に対し、アゾジカルボンアミドの分解促進剤として作用する添加剤を用い、有害生物駆除用薬剤の揮散を向上させる燻煙剤組成物が提案されている(例えば、特許文献1、2)。このような燻煙剤は、いずれも燃焼反応をコントロールすることにより有効成分の分解を防ぎ、薬剤の気化の効率を上げることができる。
また、例えば、薬剤の揮散向上剤として作用する無機多孔体を5〜20重量%となるように配合する方法が提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3054789号明細書
【特許文献2】特許第3453292号明細書
【特許文献3】特開2007−326851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の技術は、薬剤の煙化効率を上げると屋内汚染を低減できるが、薬剤を加熱により気化するため、気化した薬剤による刺激や異臭の残留を十分に低減できなかった。
そこで、本発明は、屋内汚染の防止を図りつつ、刺激性が低く、異臭の残留が少ない燻煙剤組成物及び燻煙装置を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
遷移金属を含有する無機系薬剤は、抗菌、殺菌、防カビ、抗カビ等の微生物抑制効果、あるいは消臭効果を有し、使用者への刺激や臭気の残留がない薬剤として知られているものの、燻煙剤組成物に配合する発熱性基剤の発熱程度では気化しない。このため、従来の燻煙装置の機構においては、無機系薬剤の十分な煙化及び拡散は困難であった。
加えて、前述の特許文献1〜3の技術は、いずれも加熱気化を利用する有機系薬剤に適用するものである。有機系の薬剤においては、煙化効率の向上が屋内汚染の低減に有効な手段となりうる。しかしながら、無機系薬剤のように加熱による気化を伴わない薬剤を用いる場合には、特許文献1〜3の技術を用いても煙化及び拡散性が不十分となり、発熱性基剤を増量することが必要となる。このため、無機系薬剤を用いる場合には、屋内汚染や燻煙ガスの臭気の低減が図れなかった。
本発明者らは鋭意検討した結果、従来、有機発泡剤の分解抑制に用いられていたカルシウム化合物を有機発泡剤に添加することで、意外にも無機系薬剤を少量の有機発泡剤によっても、屋内に拡散できることを見出し本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明の燻煙剤組成物は、遷移金属を含有する無機系薬剤と、有機発泡剤と、カルシウム化合物とを含有することを特徴とする。前記無機系薬剤は、殺菌剤、抗菌剤、防カビ剤、抗カビ剤又は消臭剤であることが好ましく、銀、銅、亜鉛及びこれらの化合物からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、前記有機発泡剤は、アゾジカルボンアミドであることが好ましい。
【0009】
本発明の燻煙装置は、前記燻煙剤組成物が充填された燻煙剤部と、前記燻煙剤部を加熱する加熱部とを有することを特徴とする。本発明の燻煙装置は、前記加熱部で生じた熱を前記燻煙剤部に伝える伝熱部を有することが好ましく、前記加熱部には、酸化カルシウムが充填されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、屋内汚染の防止を図りつつ、刺激性と異臭の残留を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の燻煙装置の一例を示す断面図である。
【図2】ガス発生量の測定に用いた実験装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(燻煙剤組成物)
本発明の燻煙剤組成物は、遷移金属を含有する無機系薬剤(以下、(A)成分という)と、有機発泡剤(以下、(B)成分という)と、カルシウム化合物(以下、(C)成分という)とを含有する。
【0013】
<(A)成分:遷移金属を含有する無機系薬剤>
本発明の(A)成分は、遷移金属を含有する無機系薬剤である。(A)成分は、燻煙剤組成物の目的に応じ、従来用いられている遷移金属を含有する無機化合物等を使用することができる。無機系薬剤とは、例えば、殺菌剤、抗菌剤、防カビ剤、抗カビ剤、消臭剤、殺虫剤等として作用する薬剤が挙げられ、中でも、殺菌剤、抗菌剤、防カビ剤、抗カビ剤、消臭剤を好適に用いることができる。
遷移金属は、銀、銅、亜鉛、ニッケル等が挙げられ、中でも銀、銅、亜鉛が好ましく、銀がより好ましい。このような遷移金属が殺菌、抗菌、防カビ又は抗カビ等の微生物抑制効果に優れるためである。
(A)成分としては、例えば、有効成分として、銀、銅、亜鉛等の抗菌・殺菌・防カビ・消臭作用を持つ遷移金属単体、遷移金属又は遷移金属イオンの塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、炭酸塩、蟻酸塩、酢酸塩等の遷移金属化合物が挙げられる。中でも、(A)成分としては、銀、銅、亜鉛又はこれらの化合物が好ましく、銀又は銀化合物がより好ましい。
【0014】
また、(A)成分は、これらの有効成分をゼオライト、シリカゲル、低分子ガラス、リン酸カルシウム、ケイ酸塩、酸化チタン等の物質に担持させたもの等が挙げられる。
このような(A)成分としては、酸化銀、硝酸銀、硫酸銅、塩化亜鉛等、これら金属化合物を担持したゼオライト系抗菌剤、シリカゲル系抗菌剤、酸化チタン系抗菌剤、ケイ酸塩系抗菌剤等が挙げられる。このような(A)成分を用いることで、燻煙剤組成物を煙化した際において、刺激性を低減すると共に臭気の残留を防止できる。ここで、「煙化」とは、(A)成分を処理対象とする空間に拡散させることを意味する。
また、(A)成分は1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0015】
(A)成分の形態は特に限定されず、燻煙の処理対象とする空間の広さ等を勘案して決定できる。(A)成分は、粒子が微細であるほど煙化率を向上できると共に、広域に拡散できる。一方、(A)成分の粒子は、小さすぎると拡散した後に落下しにくくなり、処理対象とする空間の下方への薬剤効果の発現までに時間を要する。例えば、(A)成分の平均粒径は、1000μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、1〜5μmがさらに好ましい。本発明の燻煙剤組成物においては、このような比較的大きな粒子径の(A)成分であっても、煙化して拡散することができる。
なお、平均粒径は、レーザ回析/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA910等)により求められる値をいう。
【0016】
燻煙剤組成物における(A)成分の配合量は、(A)成分の種類や有効成分濃度、燻煙剤組成物に求める機能に応じて決定することができる。例えば、銀又はその化合物を有効成分とする(A)成分を用いる場合、燻煙剤組成物中の銀濃度を0.0001〜1質量%とすることが好ましく、0.01〜1質量%とすることがより好ましい。上記下限値未満であると、所望する薬剤効果が発揮されにくく、上記上限値を超えて配合しても薬剤の効果が飽和し、さらなる効果の向上が望めないためである。
【0017】
<(B)成分:有機発泡剤>
有機発泡剤である(B)成分は、特に限定されず、従来公知のものを利用できる。
(B)成分としては、加熱により熱分解して多量の熱を発生すると共に炭酸ガスや窒素ガス等(以下、総じてガスという)を発生するものが用いられ、例えば、アゾジカルボンアミド、p,p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。中でも、分解温度、ガス発生量等の観点から、アゾジカルボンアミドが好ましい。
これらの(B)成分は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0018】
燻煙剤組成物中の(B)成分の配合量は、(B)成分の種類や(A)成分の粒子径等を勘案して決定することができ、例えば、50〜80質量%が好ましく、60〜70質量%がより好ましい。上記範囲内であれば、他の成分とのバランスが取れ、(A)成分を良好に煙化し拡散できるためである。
【0019】
<(C)成分:カルシウム化合物>
カルシウム化合物である(C)成分は、例えば、炭酸カルシウム、炭化カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸化カルシウム等が挙げられ、中でも炭酸カルシウム、リン酸カルシウムが好ましく、炭酸カルシウムがより好ましい。このような(C)成分を配合することで、(A)成分を良好に煙化し拡散することができると共に、臭気の残留と室内汚染を防止できる。
【0020】
燻煙剤組成物中の(C)成分の配合量は、(B)成分の種類等を勘案して決定することができ、例えば、1〜15質量%が好ましく、5質量%以上10質量%未満がより好ましい。燻煙剤組成物中の(C)成分が1質量%未満であると(A)成分の拡散向上が図れないおそれがある。15質量%を超えて配合すると、(C)成分の発熱抑制効果による(B)成分の分解不良により、(A)成分を十分に拡散できないおそれがある。
【0021】
<任意成分>
燻煙剤組成物には、本発明の効果を疎外しない範囲で(A)〜(C)成分以外の任意成分を配合できる。任意成分としては、例えば、安定剤、結合剤、賦形剤、香料、色素等の添加剤が挙げられる。これらのうち、特に、安定剤、結合剤及び賦形剤のいずれか1種又は2種以上を含有することが好ましい。
安定化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドキシアニソール、没食子酸プロピル、エポキシ化合物(エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等)等が挙げられる。
結合剤としては、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、デキストリン、ヒドロキシプロピルスターチ、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。
賦形剤としては、クレー(含水ケイ酸アルミニウム)、タルク、珪藻土、カオリン、ベントナイト、ホワイトカーボン、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0022】
<製造方法>
本発明の燻煙剤組成物は、粉状、粒状、錠剤等の固形製剤として調製される。固形製剤は、目的とする剤形に応じて、公知の製造方法を用いて調製することができる。例えば、粒状の製剤とする場合は、押出し造粒法、圧縮造粒法、撹拌造粒法、転動造粒法、流動層造粒法等、公知の造粒物の製造方法により製造できる。
押出し造粒法による製造方法の具体例としては、燻煙剤組成物の各成分を、ニーダー等により混合し、さらに適量の水を加えて混合し、得られた混合物を一定面積の開孔を有するダイスを用い、前押し出しあるいは横押し出し造粒機を用い造粒する。該造粒物は、さらにカッター等を用いて一定の大きさに切断し乾燥してもよい。
【0023】
<燻煙方法>
本発明の燻煙剤組成物を用いた燻煙方法は、一般的な燻煙剤の使用方法により行うことができ、任意に金属製容器、セラミック製容器等の容器に収容して、直接的又は間接的に加熱することによって燻煙でき、中でも間接的に加熱することが好ましい。燻煙剤組成物を間接的に加熱することで、燻煙剤組成物の燃えカス等による屋内汚染をさらに低減できるためである。また、後述する燻煙装置に組み込んで、燻煙処理の対象とする空間(部屋等)を燻煙してもよい。
燻煙剤組成物を間接的に加熱する手段としては、燻煙剤組成物を燃焼することなく、(B)成分の熱分解を起こさせ得る温度(熱エネルギー)を燻煙剤組成物に供給できるものであればよく、間接加熱方式の燻煙剤に従来用いられている手段が利用できる。
間接加熱方式としては、例えば、水と接触して発熱する物質を水と接触させ、その反応熱を利用する方法;鉄粉と酸化剤(塩素酸アンモニウム等)との混合、金属と該金属よりイオン化傾向の小さい金属酸化物又は酸化剤とを混合し酸化反応を利用する方法等が挙げられる。水と接触して発熱する物質としては、酸化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化鉄等が挙げられる。中でも、実用性の観点から、水と接触して発熱する物質を水と接触させ、その反応熱を利用する方法が好ましく、酸化カルシウムと水との反応熱を利用する方法がより好ましい。
【0024】
燻煙剤組成物を直接的に加熱する方法、即ち、燻煙剤組成物を燃焼させる方法としては、点火具等を熱源として燻煙剤組成物の一部分を加熱し燻煙剤組成物の自己熱分解を利用する方法が挙げられる。前記点火具としては、発熱剤として塩素酸カリウム、硝酸カリウム、鉛丹、酸化鉄、酸化銅等の酸化剤のいずれかと、還元剤として糖類、珪素、鉄、珪素鉄、アルミニウム等のいずれかを混合したものが挙げられる。
【0025】
本発明の燻煙剤組成物の使用量は、処理対象の空間の容積に応じて適宜設定すればよく、通常、1m当たり、0.2〜1.0gが好ましく、0.3〜0.8gがより好ましい。
燻煙処理時間(燻煙開始後、処理対象の密閉する時間)は、特に限定されず、1〜4時間が好ましく、2〜3時間がより好ましい。
【0026】
(燻煙装置)
本発明の燻煙装置は、上述した燻煙剤組成物が充填された燻煙剤部と、前記燻煙剤部を加熱する加熱部とを有する。
【0027】
燻煙装置について、一例を挙げて説明する。図1は、本発明の燻煙装置10の断面図である。燻煙装置10は、筐体12と、筐体12の内部に設けられた加熱部20と、筐体12の内部に設けられた燻煙剤部32とで概略構成されている。筐体12は略円筒状の本体14と、底部16と、蓋部18とで構成されている。筐体12内には、燻煙剤容器30が設けられ、燻煙剤容器30には燻煙剤組成物が充填され燻煙剤部32が形成されている。
【0028】
蓋部18は、孔を有するものであり、メッシュ、パンチングメタル、格子状の枠体等が挙げられる。蓋部18の材質は、例えば、金属、セラミック等が挙げられる。
本体14の材質は蓋部18と同じである。
【0029】
燻煙剤容器30は、燻煙剤部32を充填する容器として機能すると共に、加熱部20で生じた熱エネルギーを燻煙剤部32に伝える伝熱部として機能するものである。燻煙剤容器30は、例えば金属製の容器等が挙げられる。
【0030】
加熱部20は、特に限定されず、燻煙剤部32の煙化に必要な熱量を考慮して決定することができ、例えば、水と接触して発熱する物質(例えば、酸化カルシウム等)を充填しておいてもよいし、鉄粉と酸化剤とを仕切り材で仕切って充填しておいてもよいし、金属と該金属よりイオン化傾向の小さい金属酸化物又は酸化剤とを仕切り材で仕切って充填しておいてもよい。中でも、水と接触して発熱する物質を充填しておくことが好ましく、酸化カルシウムを充填しておくことが好ましい。
【0031】
底部16は、加熱部20の機構に応じて決定することができ、例えば、加熱部20が水と接触して発熱する物質(酸化カルシウム等)により構成されている場合、底部16には不織布や金属製のメッシュ等を用いることができる。底部16を不織布やメッシュとすることで、底部16から水を加熱部20内に浸入させ加熱することができる。
【0032】
燻煙装置10を用いた燻煙方法について説明する。まず、燻煙装置10を燻煙処理対象とする空間に設置する。次いで、加熱部20の機構に応じて加熱部20を発熱させる。例えば、酸化カルシウムを充填した加熱部20が設けられている場合、底部16を水に浸漬する。加熱部20が発熱すると、燻煙剤容器30を介して燻煙剤部32が加熱される。加熱された燻煙剤部32の燻煙剤組成物は、その(B)成分の分解によりガスを生じ、生じたガスと共に(A)成分が煙化し、蓋部18の孔を通過して拡散する。こうして、処理対象の空間に(A)成分が拡散することで、殺菌等の効果を得ることができる。
【0033】
以上、説明したとおり、(C)成分を用いることで、(B)成分の配合量を増加することなく、ガスの生成量を増大することができる。このため、薬剤が一般的な燻煙の加熱温度(300〜400℃)では気化しない(A)成分であっても、気化しない状態のまま大量のガスで、処理対象とする空間に薬剤を拡散できる。(A)成分は、元来、刺激性が低い上に臭気が低い。加えて、(A)成分自体は熱分解しにくいため、刺激性の高い副生物や、異臭を発する副生物を生じない。さらに、(A)成分自体は燃焼や分解に伴う燃焼カスの発生がない。この結果、燻煙剤組成物を用いて処理対象の空間を燻煙しても、屋内汚染の防止を図りつつ、刺激性の低減と異臭の残留を低減できる。
【0034】
このように、本発明の燻煙剤組成物は、従来、燻煙剤の有効成分として利用されていなかった(A)成分を処理対象とする空間に拡散することができる。このため、スプレー剤等を使用しにくい天井や、浴室、押入れ、空気調和装置(エアーコンディショナー)の内部等、日常の製造では対処が困難な場所の微生物抑制、消臭等に特に有効である。加えて、(A)成分は無機物であるため、有効成分が分解されず、長期にわたってその効力を維持することができる。
【0035】
従来技術において、薬剤は比較的蒸気圧が高く、かつ燻煙時に熱分解されにくい物質、即ち気化しやすい物質に限られていた。本発明によれば、(A)成分以外にも、従来の技術では気化しにくい薬剤を処理対象の空間に拡散し、微生物抑制等の効果を発揮することができる。このため、薬剤の選択範囲を広げることができる。
【0036】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
例えば、上述の実施形態では、燻煙装置には伝熱部が設けられているが、加熱部の機構が点火具であり、燻煙剤組成物に着火するものである場合には、伝熱部が設けられていなくてもよい。
【0037】
上述の実施形態では、燻煙装置の本体は略円筒上であったが、燻煙装置の形状はこれに限定されず、角柱状であってもよい。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(使用原料)
<(A)成分:遷移金属を含有する無機系薬剤>
銀担持シリカ・アルミナ系無機抗菌剤(商品名:ATOMY BALL−(UA)、平均粒径15nm、日揮触媒化成株式会社製)
銀担持ゼオライト系無機抗菌剤(商品名:セラメディックCW、平均粒径2μm、真比重2g/cm(20℃)、嵩比重0.4g/cm(20℃)、株式会社シナネンゼオミック製)
酸化銀(特級、平均粒径0.1μm、和光純薬工業株式会社製)
亜鉛担持酸化チタン系無機消臭剤(商品名:ATOMY BALL−(TZ−R)、平均粒径10nm、日揮触媒化成株式会社製)
【0039】
<(B)成分:有機発泡剤>
アゾジカルボンアミド(商品名:ダイブローAC.2040(C)、大日精化工業株式会社製)
【0040】
<(C)成分:カルシウム化合物>
炭酸カルシウム(試薬鹿1級、関東化学株式会社製)
リン酸三カルシウム(食品添加物、関東化学株式会社製)
<(C)’成分:(C)成分の比較品>
水酸化マグネシウム(試薬鹿1級、関東化学株式会社製)
【0041】
<結合剤>
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名:メトローズ60SH−50、信越化学工業株式会社製)
<賦形剤>
クレー(商品名:NK−300、昭和KDE株式会社製)
【0042】
(評価方法)
<煙化率の測定>
燻煙剤組成物100mgをアルミニウム製カップに入れ、該アルミニウム製カップを350℃に設定したホットプレート上に置き、加熱燻煙した。燻煙後にアルミニウム製カップに残っている残渣を全て回収し、5質量%希硝酸により成分を溶出させ、これをIPC発光分析により定量することにより、煙化されずに残っている有効成分量を求めた。
また、燻煙の燻煙剤組成物についても、該組成物中の有効成分量を上記と同様の方法で成分を溶出させ、IPC発光分析にて求めた。これらの値から、下記(1)式により煙化率を算出した。
【0043】
煙化率(%)=[(燻煙前の燻煙剤組成物中の有効成分量)−(燻煙後の残渣中の有効成分量)]÷(燻煙前の燻煙剤組成物中の有効成分量)×100 ・・・(1)
【0044】
<汚染性評価>
汚染性評価は、図1の燻煙装置10と同様の燻煙装置を下記仕様で作製し、作製した燻煙装置で燻煙した後の床の汚染状況を目視で評価した。
まず、底面に不織布を用い略円筒状の本体からなる筐体に酸化カルシウム37gを充填し加熱部とした。燻煙剤容器に各例の燻煙剤組成物10gを充填し燻煙装置を作製した。
次に、縦3.42m×横3.82m×高さ2.40mの試験室内中央に、23mLの水を入れた給水用プラスチック容器を設置し、該プラスチック容器内に燻煙装置を入れ、燻煙を開始した。燻煙は前記試験室を密閉した状態で行った。燻煙開始2時間後に、試験室の床面に設置しておいたフローリング板(CR−53、ライトブラウン、和以美株式会社製)及び塩化ビニル板(黒色)を取出し、燻煙暴露されていない各板材との比較において、下記基準により目視で評価した。
○・・・表面状態にほとんど差が確認されない
△・・・若干の汚染は見られるが差が分かり難い
×・・・容易に汚染が判別でき、汚れの付着が明らかである
【0045】
<ガス発生量の測定>
図2に示す実験装置を用いて、ガス発生量を測定した。図2は、本実験例に用いた実験装置100の模式図である。実験装置100は、スタンド102に、シリンダー122とピストン124とからなる注射器120(10mL、硬質ガラス製)が固定されている。注射器120は、シリンダー122がスタンド102に固定され、ピストン124は摺動可能となっている。注射器120の先端には接続用コック114が接続され、接続用コック114はシリコンキャップ112と接続されている。シリコンキャップ112は、サンプル管110(φ13mm×長さ100mm)の開口部に設置されている。サンプル管110の底部の下方には、ガスバーナー104が配置されている。
【0046】
燻煙剤組成物20mgをサンプル130としてサンプル管110に入れ、サンプル管110の底部からガスバーナー104にてサンプル130を加熱した。サンプル130を加熱することで、燻煙剤組成物の(B)成分が分解しガスが発生する。発生したガスは、ピストン124をシリンダー122から押し出すように動かす。燻煙開始1分後、ガスバーナー104による加熱を停止した。加熱停止後、サンプル管110内のガスが室温になるまで放置した。そして、ピストン124が動いた分をシリンダー122の目盛りから読み取り、ガス発生量を測定した。表1中、ガス発生量は、燻煙剤組成物1g当たりのガス発生量に換算し記載した。
【0047】
(実施例1〜10、比較例1〜5)
表1に示す組成に従い、各成分をニーダー(S5−2G型、株式会社モリヤマ製)で攪拌混合した後、水を加えて混合し混合物を得た。得られた混合物を直径2mmの開孔を有するダイスの前押し出し造粒機(EXK−1、株式会社不二パウダル製)を用い造粒し造粒物を得た。得られた造粒物を長さ2〜5mmに切断し、70℃に設定した乾燥機(RT−120HL、アルプ株式会社製)により乾燥させ、顆粒状の燻煙剤組成物を得た。得られた燻煙剤組成物について、煙化率の測定、汚染性評価、ガス発生量の測定を行い、その結果を表1に示す。なお、ガス発生量の測定は、(C)成分の有無と、その種類による傾向を調べるため、実施例2、4、10、比較例2についてのみ行った。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示すとおり、(C)成分を含有する実施例2、4、10は、(C)成分を含有しない比較例2に比べ、ガス発生量が11〜20%向上していた。
燻煙剤組成物中に(C)成分を含有する実施例1〜10では、銀ナノコロイドのように熱による気化を伴わない有効成分でも、60%を超える煙化率が確認された。加えて、実施例1〜10は、フローリング板に対する汚染性が「○」であった。
実施例1〜4は、(B)成分の含有量が等しい比較例2と比べ、煙化率が10ポイント程度上昇した。加えて、比較例2ではフローリング板に対する汚染性が「△」であった。
実施例6は、(B)成分の含有量が等しい比較例1と比べ、煙化率が18ポイント上昇した。
【0050】
比較例1〜4に示すとおり、(B)成分の含有量を増大させるに伴って、煙化率が上昇するものの、(C)成分を含有しないため、比較例2〜4はフローリング板に対する汚染性が「△」、比較例4は塩化ビニル板に対する汚染性が「×」であった。炭酸カルシウムに換えて、水酸化マグネシウムを添加した比較例5では、煙化率が54%という低い値であった。
以上の結果から、本発明の燻煙剤組成物は、(C)成分を含むことで、(A)成分の煙化率が上昇すると共に、屋内汚染を抑制できる。
【符号の説明】
【0051】
燻煙装置 10
加熱部 20
燻煙剤容器 30
燻煙剤部 32

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属を含有する無機系薬剤と、有機発泡剤と、カルシウム化合物とを含有する燻煙剤組成物。
【請求項2】
前記無機系薬剤は、殺菌剤、抗菌剤、防カビ剤、抗カビ剤又は消臭剤である、請求項1に記載の燻煙剤組成物。
【請求項3】
前記無機系薬剤は、銀、銅、亜鉛及びこれらの化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の燻煙剤組成物。
【請求項4】
前記有機発泡剤は、アゾジカルボンアミドである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燻煙剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の燻煙剤組成物が充填された燻煙剤部と、前記燻煙剤部を加熱する加熱部とを有する、燻煙装置。
【請求項6】
前記加熱部で生じた熱を前記燻煙剤部に伝える伝熱部を有する、請求項5に記載の燻煙装置。
【請求項7】
前記加熱部には、酸化カルシウムが充填されている、請求項6に記載の燻煙装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−280577(P2010−280577A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133120(P2009−133120)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】