説明

燻製材の製造方法および食品の加工方法

【課題】種々多様なニーズに応えることができる食品用の燻製材等を提供する。
【解決手段】食品用の燻製材は、ピートと粉砕した木片とを混合して混合物を得る第1工程(STEP11)と、第1工程で得られた前記混合物を型枠内に挿入して加圧脱水した脱水物を得る第2工程(STEP12)と、第2工程により得られた脱水物を乾燥する第3工程(STEP13)とにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用の燻製材、燻製材の製造方法、食品の加工方法および加工方法により加工された食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燻製材を利用した燻製方法としては、例えば、桜や胡桃等の木の木片を燻製時間や燻煙濃度等の条件を変えることにより、種々のニーズに応じた燻製食品が提供されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−82413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年の燻製食品に求められる嗜好の広がりに鑑みて、従来にない風味や食感を楽しむことができる燻製材や当該燻製材を利用した食品の出現が望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、種々多様なニーズに応えることができる食品用の燻製材等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明は、食品用の燻製材であって、
ピート由来の水以外の成分と粉砕した木片とを含むことを特徴とする。
【0007】
第2発明は、食品用の燻製材の製造方法であって、
ピートと粉砕した木片とを混合して混合物を得る第1工程と、
前記第1工程により得られた前記混合物を型枠内に挿入して加圧脱水した脱水物を得る第2工程と、
前記第2工程により得られた脱水物を乾燥する第3工程と
を備えることを特徴とする。
【0008】
第3発明は、燻製材により風味と食感とを付加する食品の加工方法であって、
ピート由来の水以外の成分と粉砕した木片とを含む前記燻製材により、前記食品を燻製処理することを特徴とする。
【0009】
第4発明の食品は、第3発明の食品の加工方法により加工されたことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、燻製材として、例えば、桜や胡桃等の木を粉砕した木片による風味や食感を食品に付加することができることに加えて、ピートを混合することで、ピートが有する木片にはない独特の風味や食感を食品に重畳的に付加することができる。
【0011】
これにより、近年の燻製食品に求められる嗜好の広がり対して、従来にない風味や食感を楽しむことができ、種々多様なニーズに応えることができる食品用の燻製材等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態の燻製材の製造方法を示すフローチャート。
【図2】図1の加圧脱水処理の処理内容を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態の食品用の燻製材は、ピート(泥炭)由来の水以外の成分と粉砕した木片と含むものであって、図1に示す製造方法により製造される。
【0014】
ヨシ、スゲやガマなどの植物が枯死して、低温多湿の条件下で分解不十分なまま蓄積してできたピート層から採掘されたピートは含水率が高いため、これを一次脱水した状態で輸送される。
【0015】
まず、この一次脱水されたピートは、含水量が調整される(図1/STEP10)。
【0016】
本実施形態では、ピートの含水量が300%〜400%に調整される。含水量をある程度高めておくことで、後述するように、混合時にピートに含まれる繊維を相互に絡み付いた状態とすることができる。
【0017】
次に、含水量が調整されたピートは、粉砕木片と混合される(図1/STEP11、本発明の第1工程に相当する)。
【0018】
具体的には、含水量を調整したピートと、粉砕した木片とを乾燥重量比が所定の割合となるようにして、これらを撹拌器に投入し、投入量に応じた所定時間、撹拌混合させる。
【0019】
ここで、粉砕した木片は、例えば、桜、胡桃、檜、楢、林檎、ブナ(オーク)等、通常、燻製材に用いられる木質チップであり、これらの一種類または複数種類を用いてもよい。
【0020】
また、含水量を調整したピートと粉砕した木片との混合割合は、後述するように、求められる燻製食品の食感および風味から任意に決定される。
【0021】
次に、混合処理されたピートと粉砕した木片との混合物は、加圧脱水処理される(図1/STEP12、本発明の第2工程に相当する)。
【0022】
加圧脱水処理には、図2に示すように、筒状の型枠1と、型枠1の内径(内径60mm)に対応した直径を有する円盤状の水抜き部材2,2と、図示しないプレス装置とが用いられる。なお、水抜き部材2,2には、上下方向に複数の貫通孔21が設けられており、貫通孔21を介して水分が流出可能となっている。
【0023】
具体的に、加圧脱水処理では、載置された筒状の型枠1に対して、混合物Mをその上下を水抜き部材2,2で挟んだ状態で型枠1内に投入し、上側の水抜き部材2に対してプレス装置を用いて、下方に外力F(例えば、2トン)を所定時間(例えば、30〜60分)作用させる。
【0024】
これにより、上下の水抜き部材2,2の貫通孔21から混合物M内の水分が流れ出し、混合物Mはタブレット状の脱水物を得る。この脱水物は、直径60mm、厚さが約7〜13mmである。
【0025】
次いで、得られた脱水物を乾燥処理する(図1/STEP13、本発明の第3工程に相当する)。
【0026】
具体的に乾燥処理では、STEP12により得られた脱水物を定温乾燥機を用いて所定条件で乾燥させて、ピート混合燻製材を得る。このときの乾燥条件としては、例えば、30℃〜40℃で2日間、または、約90℃で1日間であり、得られたピート混合燻製材は、質量がその厚さに応じて、10〜14g程度である。
【0027】
このピート混合燻製材は、乾燥させることでピートの繊維が絡み付いた状態で固化するため、成形のための別処理を必要とせず、定形の固形物を得ることができる。
【0028】
以上が食品用の燻製材の製造方法の詳細であり、このようにして製造されたピート混合燻製材は、1個(10〜14g)あたりの燃焼時間が約3〜4時間と長く、これは粉砕された木片のみの燻製材の約200gに相当する。すなわち、ピート混合燻製材は、小体積で長時間の燃焼を行うことができる。これにより、小さい燻製材で、燻製時間や燻煙濃度等の条件を変えた種々の燻製処理を行うことができると共に、食品を入れ替えて燻製の連続処理を実現することができる。
【0029】
さらに、表1に示すように、このようにして製造されたピート混合燻製材により燻製処理された加工食品は、次のような特質を有する。
【0030】
【表1】

【0031】
まず、食品としてチーズを燻製処理した場合の実験結果によれば、まず、含水量を調整したピートと粉砕した木片との混合割合が、これらの乾燥重量比が1:9(ピート10%:木片90%)から1:1(ピート50%:木片50%)に向って、燻煙の着色が薄くなる。すなわち、ピートの割合を増大させることにより、燻製処理された加工食品の着色を少なくすることができる。
【0032】
一方、食品としてチーズを燻製処理した場合の披検者15人のアンケート調査によれば、含水量を調整したピートと粉砕した木片との混合割合が、これらの乾燥重量比が1:9(ピート10%:木片90%)から1:1(ピート50%:木片50%)に向って、ピートの風味が付加されると共に苦味が出ることを知見した。すなわち、ピートの割合を増大させることにより、ピートの風味の付加と程よい苦味とを加工食品に与えることができる。
【0033】
参考のために行った、含水量を調整したピートと粉砕した木片との混合割合が、3:2(ピート60%:木片40%)の場合には、苦味が強くなり食味があまりよくないとの披検者の指摘があった。さらに、ピートのみの燻製材では、苦味やえぐみが強く、加工食品としては不適であった。一方、含水量を調整したピートと粉砕した木片との混合割合が、1:9(ピート10%:木片90%)の場合には、やや木片の燻煙が強く、味がくどいとの指摘があった。
【0034】
そこで、本願発明者の知見によれば、含水量を調整したピートと粉砕した木片との混合割合は、これらの乾燥重量比が1:4(ピート20%:木片80%)から1:1(ピート50%:木片50%)の範囲が好適であるものと考えられる。
これにより、燻煙の着色が少なくピートの風味や食感を生かした加工食品を提供することができる。
【0035】
さらに、本願発明者が、(1)ピート混合燻製材の燻煙と、(2)桜の粉砕木片のみによる燻煙との成分分析を行ったところ、(有害物質が存在しないことは言うまでもなく)ピート混合燻製材の燻煙には次のような特徴的な成分が含まれることを知見した。
【0036】
成分分析は、(1)ピート混合燻製材の燻煙、(2)桜の粉砕木片のみによる燻煙をそれぞれプラチナに凝着させ、これをジエチルエーテルを溶媒として溶離させる、ガスクロマトグラフ付き質量分析試験を行った。
【0037】
その結果、メチルフェノール、メチルヘキサノール、ガラクトフラノース類およびブチルウンデカニルフタレートが検出され、これらが、桜由来でない物質であり、ピート特有の風味や食感を食品に付加しているものと推察される。
【0038】
以上、詳しく説明したように、本実施形態のピート混合燻製材によれば、桜や胡桃等の木を粉砕した木片による風味や食感を食品に付加することができることに加えて、ピートを混合することで、ピートが有する木片にはない独特の風味や食感を食品に重畳的に付加することができる。
【0039】
これにより、近年の燻製食品に求められる嗜好の広がり対して、従来にない風味や食感を楽しむことができ、種々多様なニーズに応えることができる食品用の燻製材等を提供することができる。
【0040】
加えて、従来、燃料としてのみ着目されてきたピートを燃料以外の材料として利用して、ピートの食感と風味とを付加した食品を提供することができる。
【符号の説明】
【0041】
1…型枠、2…水抜き部材、21…貫通孔、M…混合物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品用の燻製材であって、
ピート由来の水以外の成分と粉砕した木片とを含むことを特徴とする燻製材。
【請求項2】
食品用の燻製材の製造方法であって、
ピートと粉砕した木片とを混合して混合物を得る第1工程と、
前記第1工程により得られた前記混合物を型枠内に挿入して加圧脱水した脱水物を得る第2工程と、
前記第2工程により得られた脱水物を乾燥する第3工程と
を備えることを特徴とする燻製材の製造方法。
【請求項3】
燻製材により風味と食感とを付加する食品の加工方法であって、
ピート由来の水以外の成分と粉砕した木片とを含む前記燻製材により、前記食品を燻製処理することを特徴とする食品の加工方法。
【請求項4】
請求項3記載の食品の加工方法により加工されたことを特徴とする食品。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−115204(P2012−115204A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267523(P2010−267523)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)