説明

爪中抗真菌剤の簡易測定法

【課題】爪白癬に対して従来から行われている内服治療法や外用療法では患部の爪中に浸透している抗真菌剤の量がきわめて少ないため爪中に浸透している抗真菌剤の量を定量測定することはもちろん爪中に浸透している抗真菌剤の量を定量測定して、その結果を爪白癬の治療にフィードバックするような治療法は行われていなかった。本願発明は爪中に抗真菌剤を100ng/mg以上の高濃度に浸透させた患者の爪中の抗真菌剤を可視的に定量測定することにより迅速に精密に治療を行う。
【解決手段】、少なくとも爪中に100ng/mg以上のテルビナフィンを含有する白癬菌に侵された爪をNaOH液で加熱溶解した後、ヘキサン液で抽出するとともにヘキサン溶液を濃縮しクロマトグラフに付着させた後その上面からメタノール−塩化メチレン溶液からなる展開溶剤を用いてリング状に展開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は爪白癬の治療薬として用いられているテルビナフィンを定量測定する方法に関する。特に、本願発明は爪白癬の治療薬として汎用されているラミシール外用液の主要成分である塩酸テルビナフィンが浸透した爪中のテルビナフィン量を可視的に測定することができる簡易定量測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
靴を履くことを余儀なくされている世界中の多くの人々にとって白癬(水虫)の罹病率は極めて高い。しかも、この白癬罹病後の完治は難しいとされている。
特に爪白癬(つめ水虫)は爪が3層構造からなっており表面のエナメル層が硬く強固であるため爪表面から抗真菌剤を始め種々の治療薬が浸透するのが難しい。しかも通常使用されている液状やクリーム状の抗真菌外用剤を爪表面に塗布するだけでは直ぐに溶媒が揮発してしまうため爪の中に抗真菌剤が十分に浸透しなくなってしまう。これまでにも爪白癬を治療するための抗真菌剤が数多く開発されてもいるし内服用抗真菌剤が使用できない患者のための爪白癬用殺菌消毒薬等も開発されている(特許文献1〜4)。また、この様な新規な治療剤だけでなく爪表面に外用剤を塗布した後、超音波を照射して外用剤を爪の深層への浸透を促進する装置等の技術も開発されているが(特許文献5)、これまで開発された抗真菌剤や治療器具は効果的にも価格的にも十分とは言い難い。
【0003】
爪白癬に使用される抗真菌剤の多くはその化学的性質上、種々の溶媒に溶け難いため溶液の濃度を高くすることができず最高濃度でもせいぜい2%程度であることが爪白癬の治療において外用剤を用いてもその効果が十分でないことの一因でもあった。このため現在では爪白癬の治療法として最も普通に用いられている治療法は内服療法であるが、この内服療法は一般に内服期間が1年前後と長期に亘ること、副作用等の問題で基礎疾患がある患者や妊婦などは採用できないこと、内服しても抗真菌剤の吸収性が低く爪への移行率が低いこと等々の問題がある。しかも、この内服療法は治療費が高いこともありこの治療方法も現時点では広く採用されているわけではない。
【0004】
そこで、本出願人は従来から用いられている内服療法や爪の表面に抗真菌剤を塗布する外用療法に代えて爪の中に液状の抗真菌剤を効率的に直接圧入することができる特殊な構造をしたアプリケーターを創案し既に特許出願している(特願2009−107244号)。このアプリケーターを用いた場合、爪中に浸透する抗真菌剤の濃度は従来の内服治療において有効とされている抗真菌剤の濃度に比較して約3000倍以上であることが判明している。本出願人はこのアプリケーターを用いることにより爪中に高濃度の抗真菌剤を浸透させることが可能になるとともに、爪中に浸透されている抗真菌剤を定量的に測定して爪白癬の治療にフィードバックすることにより爪白癬の治療を迅速で精密に行うことが可能であることを知得した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002− 68975号公報
【特許文献2】特開2003−160488号公報
【特許文献3】特開2005−225850号公報
【特許文献4】特開2007−204461号公報
【特許文献5】特開2004−135954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
爪白癬に対して従来から行われている内服治療法や外用療法では患部の爪中に浸透している抗真菌剤の量がきわめて少ないため爪中に浸透している抗真菌剤の量を定量測定することはもちろん爪中に浸透している抗真菌剤の量を定量測定して、その結果を爪白癬の治療にフィードバックするような治療法は行われていなかった。ところが、抗真菌剤を効率的に浸透できるアプリケーターを用いることにより爪中に抗真菌剤を100ng/mg(爪)以上の高濃度に浸透させることが可能になることから爪中の抗真菌剤を薄層クロマトグラフ法(以下、TLC法)等の簡易な方法を用いて定量的に測定することができれば該測定結果を治療にフィードバックして迅速に精密な処理が可能になるという見解によるものである。具体的には爪白癬の抗真菌剤としてはテルビナフィンを含むものが最も普通に用いられているが(ラミシール外用液1%)、本願発明はこの爪中に浸透しているテルビナフィンをTLC法等の簡易な方法を用いて定量測定可能にすることを課題とするものである。なお、本願発明はアプリケーターを用いて爪中に抗真菌剤が高濃度に浸透した患者を主として対象にするものであるが、従来の方法を用いて長期間治療した結果、爪中のテルビナフィンが高濃度になった患者に対しても同様に本願発明の測定方法を用いることができるのは言うまでもない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は肝臓疾患等の基礎疾患を有する患者や妊婦および授乳中の患者等の内服治療ができない爪白癬の患者や外用抗真菌剤を用いる方法により長期の治療を余儀なくされている爪白癬の患者が抱える課題を解決するものとして、第1には、少なくとも爪中に100ng/mg以上のテルビナフィンを含有する爪から抽出したテルビナフィン溶液を濃縮してクロマトグラフに付着させた後その上面から展開溶剤でリング状に展開する爪中テルビナフィンの測定方法を提供する。
第2および第3には、テルビナフィンの抽出液として爪をNaOH液で加熱溶解した後、ヘキサンを加え、激しく降り混ぜたのちへキサン層を分離し、窒素ブローの下で濃縮したヘキサン濃縮液を使用する上記の爪中テルビナフィンの測定方法を提供する。
第4には、展開溶剤として0.5〜2.0%のメタノール−塩化メチレン溶液を用いる上記の爪中テルビナフィンの測定方法を提供する。
第5および第6には、テルビナフィン含有量が既知の標準品とリングの大き
さ、太さおよび色の1つ以上を比較することを特徴とする上記の爪中テルビナ
フィンの測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
爪白癬の治療法は爪中に浸透する薬剤の量が少ないため効果が少ないだけでなく爪白癬の主な治療法である内服療法は肝臓疾患など基礎疾患がある患者や妊婦および授乳中の患者に対して治療が困難である。本願発明は近年開発された爪中に100ng/mg以上のテルビナフィンを浸透することができる方法に主として適応できるものであり、爪中のテルビナフィンの量を従来のTLC法を改良することにより簡単な操作で可視的に測定できるため爪白癬の治療をより迅速および精密に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】テルビナフィンを従来のTLC法を用いて展開溶剤で下から上へ展開したもの
【図2】試料の上面から1%メタノール−塩化メチレン溶液の200μLを用いてリング状に展開したもの
【図3】試料の上面から1%メタノール−塩化メチレン溶液の200μLを用いてリング状に展開したもの
【図4】試料を従来のTLC法を用いて展開溶剤で下から上へ展開したもの
【発明を実施するための形態】
【0010】
本出願人は爪白癬に侵された爪中に治療薬の成分であるテルビナフィンを短時間で高濃度に浸透させることができる特殊な構造のアプリケーターを先に提案したが、この爪中に高濃度に浸透されたテルビナフィンを簡易な方法で可視的に定量測定できれば、それを治療にフィードバックして爪白癬の治療をさらに迅速、精密に行うことができるのではないかと考えて爪中のテルビナフィンをTLC法のような簡易な手段を用いて定量測定することが可能であるかどうかを検討した。そこで、爪中に浸透したテルビナフィンをTLC法で定量測定するに先立って、ポリオキシエチレンセトステアリルエーテル、プロピレングリコール等の添加物が含まれているラミシール外用液中に含有されているテルビナフィンがTLC法で定量測定できるかどうかを検討するために(イ)ラミシール原液(塩酸テルビナフィン、10ng/1μL)(ロ)ラミシール原液(塩酸テルビナフィン、10ng/1μL)と精製されたテルビナフィン(標準品)の重ね合わせおよび(ハ)精製されたテルビナフィン(標準品)の3種類を調整して該(イ)(ロ)(ハ)の試料を1%メタノール−塩化メチレン溶液からなる展開溶剤を用いて、下から上へ展開する従来のTLC法で展開した。展開結果を示したものが図1(写真)であるが、図1からも分かるように(イ)(ロ)(ハ)の展開図に示されているものは、同じ位置にまで移動しているとともに、それぞれ1つのスポットとなって展開されていることから判断してラミシール外用液中のテルビナフィンをTLC法で測定するのにラミシール外用液中の添加物は何ら障害になっていないことが確認された。
【0011】
次に、テルビナフィンが浸透した爪をNaOH溶液で加熱溶解して室温まで冷却した後、n−へキサンで抽出したものを濃縮して1%メタノール−塩化メチレン溶液からなる展開溶剤を用いてTLC法で展開したところテルビナフィンに相当する部分と爪由来の油成分に相当すると思われる部分に分離した。
しかしながら、いずれの場合もテルビナフィンは単独のスポットとして分離されてはいるが従来から用いられているTLC法では展開されたスポットの輪郭は明確であるとは言えずテルビナフィンを定量的に測定することはできないことが判明した。そこで、本出願人は爪白癬の治療剤として一般に使用されているラミシール液中のテルビナフィンを定量的に測定することができる方法について検討した結果、従来から行われているクロマトグラフィの下方部に試料を付着させて展開溶剤で下から上へ移行させるTLC法では下方から上方に展開して行くに従って拡散されてしまいスポットの輪郭が不明瞭になることが分かった。そこで、本出願人は試料をクロマトグラフィの下方部に付着させて展開溶剤で下から上へ移行させる従来のTLC法に代えて、クロマトグラフィの中央部に試料を付着させてその試料表面に展開溶剤を滴下してリング状に展開することにより明瞭な輪郭の展開が可能であることを知得したものである。
【実施例】
【0012】
<実施例1>
ラミシール液のテルビナフィンがラミシール原液やラミシール原液のアルコール希釈液と同様にリング状に展開した時に明瞭に判別可能かどうかを検討するためにラミシール原液を試料(A)とし、また、ラミシール原液をエタノールで10倍希釈したもの(10ng/1μL)を(B)試料とし、ラミシール原液をエタノールで100倍希釈したもの(10ng/1μL)を(C)試料とした。そして、試料(A)(B)(C)をTLCアルミニウムシートおよびシリカゲル60F254のクロマトグラフの中央部に付着させ、それぞれの試料の上面から1%メタノール−塩化メチレン溶液の200μLを用いてリング状に展開した。その展開した状態を示したものが図2(写真)である。
この図2(写真)からも明らかなように試料(A)(B)(C)はリング状が明確であり定量測定が可能であることが分かる。
【0013】
<実施例2>
爪中に浸透しているラミシール液のテルビナフィンがラミシール原液やラミシール原液のアルコール希釈液と同様にTLC法を用いて測定できるかどうかを調べるために、8.6mgの爪をラミシール外用液(テルビナフィン液1.5mLを34kPa下)で2日間浸透したものをメタノールおよび精製水で3回洗浄した後、1モルNaOH溶液の1mLに入れて60℃で30分加熱して爪を完全に溶解した。この溶液を室温まで冷却した後、1mLのn−へキサンで抽出した。そして、爪の成分が抽出されたn−へキサン溶液を窒素ブローの下に容量が約10μLになるまで濃縮して(a)試料を作成した。
また、精製されたテルビナフィン(標準品)をメタノールで10倍希釈したもの(10ng/1μL)を(b)試料とし、20倍希釈したもの(500ng/1μL)を(c)試料とし、100倍希釈したもの(10ng/1μL)を(d)試料とした。そして、試料(a)(b)(c)(d)をTLCアルミニウムシートおよびシリカゲル60F254のクロマトグラフの中央部に付着させ、それぞれの試料の上面から1%メタノール−塩化メチレン溶液の200μLを用いてリング状に展開した。その展開した状態を示したものが図3(写真)である。この図3(写真)からも明らかなように試料(a)(b)(c)(d)はリング状が明確であり定量測定が可能であることが分かる。
【0014】
<比較例1>
実施例2で使用した試料の1部を実施例2と同じように(a)(b)(c)に分割してTLCアルミニウムシートおよびシリカゲル60F254からなるクロマトグラフの下方部に付着させて1%メタノール−塩化メチレン溶液からなる展開溶剤で下から上へ移行させる従来の方法で展開させた。展開の状態を示したものが図4である。図4(写真)からも明らかなように展開部分の輪郭は不明確であり定量測定は困難であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本願発明は爪白癬に侵された患者の爪を切り取り該爪中に浸透しているテルビナフィンを定量測定しその測定結果を指標として治療にフィードバックさせて迅速で精密な処置が可能になる。従って、本願発明は従来から行われている内服治療や外用治療に比較して基礎疾患の患者を制限することなく効率的な治療が可能となる。
【符号の説明】
【0016】
図1(イ)ラミシール原液
図1(ロ)ラミシール原液と精製されたテルビナフィンを重ね合せたもの
図1(ハ)精製されたテルビナフィン
図2(A)ラミシール原液
図2(B)ラミシール原液をエタノールで10倍希釈したもの
図2(C)ラミシール原液をエタノールで100倍希釈したもの
図3(a)爪の成分が抽出されたn−へキサン溶液
図3(b)精製テルビナフィンをメタノールで10倍希釈したもの
図3(c)精製テルビナフィンをメタノールで20倍希釈したもの
図3(d)精製テルビナフィンをメタノールで100倍希釈したもの
図4(a)爪の成分が抽出されたn−へキサン溶液
図4(b)精製テルビナフィンをメタノールで10倍希釈したもの
図4(c)精製テルビナフィンをメタノールで20倍希釈したもの








【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも爪中に100ng/mg以上のテルビナフィンを含有する爪から抽出したテルビナフィン含有液を濃縮してクロマトグラフに付着させた後その上面から展開溶剤でリング状に展開することを特徴とする爪中テルビナフィンの測定方法。
【請求項2】
テルビナフィンの抽出液が爪をNaOH液で加熱溶解した後、ヘキサン液で抽出したものであることを特徴とする請求項1に記載の爪中テルビナフィンの測定方法。
【請求項3】
クロマトグラフに付着させるテルビナフィン含有ヘキサン濃縮液が加温窒素を吹付けながら濃縮したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の爪中テルビナフィンの測定方法。
【請求項4】
展開溶剤として0.5〜2.0%のメタノール−塩化メチレン溶液を用いることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の爪中テルビナフィンの測定方法。
【請求項5】
標準品の展開リングと比較して爪中のテルビナフィンを定量測定することを
特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の爪中のテルビナフィンの測定
方法。
【請求項6】
標準品との比較の指標が形成されたリングの大きさ、太さおよび色の1つ以
上であることを特徴とする請求項5に記載の爪中テルビナフィンの測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−69673(P2011−69673A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219829(P2009−219829)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(509267616)株式会社DIMPLEホールディングス (1)
【Fターム(参考)】