爪真菌症治療用組成物及び方法
ジンクピリチオン、ジンクピリチオンに対する可溶化剤、フィルム形成剤及び揮発性溶媒を含む局所性組成物を利用する、爪の真菌感染症(爪真菌症)の治療用の製剤及び方法を開示する。製剤はラッカーの形態であることが好ましい。金属ピリチオン錯体を含有する組成物は、好ましくは、スポイト、スワブなどを用いて、患った爪の表面に適用できるマニキュア又はラッカーとして、感染した爪に局所適用される。治療は、数週間から数カ月或いは治癒がもたらされる又は感染の有意な減少が得られるまで継続する治療期間で、少なくとも一日に2回実施できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局所性ピリチオン抗菌組成物及びこれらの組成物を爪の微生物感染症の治療のために使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
爪真菌症(nail fungus又はonychomycosis)と称される爪の真菌感染症は、北米において人口のおよそ10から14%を侵す一般的な障害である。世界的には、人口の1から2%がこの障害を患っていることが報告されている。爪のこの真菌性疾患は、爪床下に現れ、爪に実質的な損傷を起こす。この疾患の症状は、酵母菌(毛瘡白癬菌(Trichophyton mentagrophytes)及び紅色白癬菌(Trichophyton rubrum))により起こる、爪甲の分裂、肥厚、硬化及び凸凹である。通常、真菌感染症は、抗真菌薬の局所適用及び/又は薬剤の経口投与により治療される。
【0003】
一部の経口投与の投薬計画に伴っている副作用の可能性から、この疾患は局所的に治療することが望ましい。しかし、爪の真菌性疾患の局所治療は、今までのところ問題があった。1つの問題は、厚い爪甲が、局所性抗真菌薬が爪に浸透して感染症の部位に到達することを妨げることである。爪真菌症の治療の標的部位は、爪甲、爪床及び爪母にある。爪甲は硬く、密度があり、治療必要量で透過し得る薬剤に対して手ごわい障壁を提示する。爪の素材は皮膚の角質層と同様であり、表皮に由来するが、主に、高度にジスルフィド結合された硬ケラチンからなり、角質層よりおよそ100倍厚い。十分量の薬剤を爪甲内に送達するために、薬剤の有効成分は、この薬剤が爪甲に浸透可能となるのに十分な程度に、理想的に有利に水溶性であるべきである。
【0004】
さまざまな水溶性抗真菌薬を含む特定の爪治療用製剤が公知である。例示的には、米国特許第6,846,837号は、抗真菌薬と、皮膚浸透を強化するのに有効な量の1種又は複数種の無機水酸化物との一緒の使用を開示する。上記の理由から、皮膚浸透の強化剤は、爪浸透強化の提供において有効でない可能性がある。‘837号特許は、他の抗真菌薬を含むリストにピリチオンナトリウム及びシクロピロクスオラミンを開示している。ピリチオンナトリウムは光分解に供され、要求されるであろうものを超える水溶性を有する。爪真菌症治療コミュニティーにおいて、より優れた安定性及び抗真菌有効性を有する別の殺真菌化合物の必要性がある。本発明は、その必要性に対する1つの答えを提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、有効な局所性ピリチオン抗菌組成物を調製すること及び爪の真菌感染症の治療である。
【0006】
別の目的は、ジスルフィド結合を形成するケラチンと相互作用可能な可溶化金属ピリチオン錯体を含有し、それによって、真菌感染症を解消するための治療十分量で爪床及び周辺皮膚を通過する抗菌組成物を調製することである。
【0007】
本発明のより具体的な目的は、ジンクピリチオンの可溶化錯体、透過強化剤及びフィルム形成剤を含む、爪真菌症用局所性組成物を提供することである。局所性組成物は、爪真菌症に対して持続的な利益を提供する。
【0008】
これら及び他の目的は、以下の本発明の詳細な説明を読むことで明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ジンクピリチオン、ジンクピリチオンに対する可溶化剤、フィルム形成剤及び揮発性溶媒を含む、局所性組成物を利用する、爪の真菌感染症(爪真菌症)の治療用の製剤及び方法を提供することである。この製剤は、ラッカーの形態であることが好ましい。ジンクピリチオン錯体は、約0.01%から約2%、好ましくは0.01%から約1%、より好ましくは約0.5%の量で、可溶化剤は、約1から約20%の量で、フィルム形成剤は約1から約20%の量で、及び揮発性溶媒は約1から30%の量で組成物中に存在することができ、全てのパーセントは総組成物の重量である。場合によって、局所性組成物は、スルフヒドリル(SH)基、テルペン及び角質溶解薬を含有する化合物などの爪浸透強化剤もまた、約1から約20重量%の量で含むことができる。場合によって、この組成物は、ピリチオンの抗真菌活性を強化するために、ジンクピリチオン中の亜鉛によって提供される金属の他にさらなる金属を含有する。使用するのであれば、さらなる金属は、銅、銀、亜鉛及びこれらの組合せからなる群から選択され、1から約20%の量である。
【0010】
本発明の方法又は治療によれば、金属ピリチオン錯体を含有する組成物は、感染した爪に、好ましくはスポイト、スワブなどを用いて適用できるマニキュア又はラッカーとして、患った爪の表面に局所適用される。治療は、数週間から数カ月或いは治癒がもたらされる又は感染の有意な減少が得られるまで継続する治療期間で、少なくとも一日に2回実施できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
ジンクピリチオンは、他の局所性抗真菌薬と比較した場合、爪真菌症の生物の治療において有用である非常に有効な抗真菌添加剤である。しかし、ジンクピリチオンは水への溶解度が低いため、爪真菌症に達するために爪に浸透し、所望のレベルの生体利用効率を提供するその能力に限界がある。本発明は、ジンクピリチオンの爪への透過及び爪の下に位置する爪真菌症部位におけるジンクピリチオンの生体利用効率を改善するために、浸透強化剤に加えてジンクピリチオンに対する可溶化剤を含有する組成物を提供することによって、この限界に取り組む。
【0012】
したがって、本発明の組成物は、爪感染症を起こす酵母菌(毛瘡白癬菌及び紅色白癬菌)の成長を阻害する、可溶化金属ピリチオン抗真菌有効成分を含む。本方法及び組成物は、局所適用の場合、感染の原因である真菌を標的とするために爪を透過できる、フィルム形成ビヒクル中の可溶化されたピリチオンの多価金属塩を利用する。本発明によって、不溶性金属ピリチオン錯体は、完全に可溶化又は錯体化でき、爪真菌症に対して生体利用性にできること、及び爪床を透過でき罹患患者に緩和を提供できる製剤を開発できることが実証された。いかなる特定の理論に縛られるつもりはないが、可溶化された場合、爪のケラチン中に存在するジスルフィド結合に関して一連のジスルフィド経路カスケードを介して爪の透過に役立つジスルフィド結合の形成に、ジンクピリチオン中のチオ基の存在が利用可能であると考えられる。さらに、ジンクピリチオンが可溶化される時に放出される亜鉛イオンは、可溶化ピリチオンの抗真菌活性を増強するために機能する。
【0013】
ネイルコーティング、マニキュア、エナメル及び/又はニスとしても知られるネイルラッカーは、簡便であり使いやすいので、本発明に従って爪にジンクピリチオンを送達するためのビヒクルとして有用である。ジンクピリチオンを含有するラッカー製剤は、皮膚に対して刺激性が無いことが望ましく、許容可能な保存期間を有する。
【0014】
ネイルラッカーはフィルム形成剤を含有し、爪の上に塗った時にラッカーのコーティングの形成を容易にする。さらに、爪への透過を強化するために、ネイルラッカー中にジンクピリチオンに対する可溶化剤を、場合によって爪の浸透強化剤と一緒に使用する。場合によって、ピリチオン部分の抗真菌活性の増強において、ジンクピリチオンにより提供される亜鉛イオンの作用をさらに強化するために、元素金属又は金属塩をラッカーに加えることができる。組成物の作用をさらに強化するために、他の有効成分もまたラッカーに加えることができるであろう。例示的有効成分は、アリルアミン(テルビナフィンを含む)、グリセオフルビン、トリアゾール(イトラコナゾール及びフルコナゾールを含む)、イミダゾール誘導体(ケトコナゾール、ミコナゾール、クロトリマゾール及びエコナゾールを含む)、アモロルフィン、ビフォナゾール、ヒドロキシピリドン、シクロピロクスオラミン、オクトピロックス塩及び2−ヒドロキシ−6−オクチルピリジンである。
【0015】
さまざまなフィルム形成剤、可溶化剤、増強剤及び爪への透過強化剤をこれ以降に記載する。
【0016】
可溶化剤
米国特許第4,835,149号は、ピリチオンの不溶性金属塩が、以下の式を有するアミンと組み合わせることによって、一般的な有機溶媒及び/又は水の中で可溶化できることを開示している。
【0017】
HxN[(CH2)yX]z
式中、xは0から約2であり、yは約1から3であり、zは約1から3であり、x+z=3であり、XはH、OH、又はCOOH且つ特定のアミノカルボン酸である。アルコールの添加により、より短い脂肪鎖のアミン及びアミノカルボン酸がピリチオン塩の可溶化に使用できる。上記の組成物はpH約4.0から7.4において有用である。
【0018】
Terry Gersteinは、ジンクピリチオンが、多くの1級脂肪族アミンに非常に可溶性であることを開示した。(「純粋なジンクピリチオン調製品(Clear Zinc Pyrithione Preparations)、J.Soc.Cosmetic.chem.23、90−114(1972)を参照されたい)。
【0019】
窒素塩基が可溶化剤として使用できることもまた発見されている。適切な窒素塩基は、以下のいずれか1つ又は組み合わせを含有することができる:
【0020】
1級アミノ基(−NH2);一置換(2級)アミノ基−NHR、式中Rはヒドロカルビルであり、一般的にアルキル又はアリール、例えば低級アルキル又はフェニルのどちらかであり、1つ又は複数の非ヒドロカルビル置換基、例えば1から3のハロ、ヒドロキシル、チオール又は低級アルコキシ基(例えば、−NHR基は、例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、イソプロピルアミノ、ブチルアミノ、シクロプロピルアミノ、シクロヘキシルアミノ、n−ヘキシルアミノ、フェニルアミノ、ベンジルアミノ、クロロエチルアミノ、ヒドロキシエチルアミノなどを含む)で置換されてもよい;二置換(3級)アミノ基−NRaRb、式中、Ra及びRbは、同一であっても異なってもよく、Rに関して上で定義される(適切な、−NRaRbは、例えば、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジイソプロピルアミノ、ジブチルアミノ、メチルプロピルアミノ、メチルヘキシルアミノ、メチルシクロヘキシルアミノ、エチルシクロプロピルアミノ、エチルクロロエチルアミノ、メチルベンジルアミノ、メチルフェニルアミノ、メチルトルイルアミノ、メチル−p−クロロフェニルアミノ、メチルシクロヘキシルアミノなどを含む);アミド−(CO)−NRcRd、式中Rc及びRdは同一であっても異なってもよく、水素又はRのどちらかであり、式中Rは上で定義された通りである(例えば、Rc及びRdの一方がHであり、他方がメチル、ブチル、ベンジルなどであるアミドを含む);シアノ(−CN);芳香族窒素含有複素環、通常、五員又は六員の単環式置換基又は二環式の縮合又は連結の五員又は六員環(例えば、ピロリル、ピロリジニル、ピリジニル、キノリニル、インドリル、ピリミジニル、イミダゾリル、1,2,4−トリアゾリル、テトラゾリルなど);及び非芳香族窒素含有複素環、通常、ラクタム及びイミドを含む四から六員環、例えば、ピロリジノ、モルホリノ、ピペラジノ、ピペリジノ、N−フェニル−プロピオラクタム、ブチロラクタム、カプロラクタム、アセトイミド、フタルイミド、スクシンイミドなど。1級アミン、2級アミン及び3級アミンは、分子構造NR1R2R3により包含されるように一般的に分類でき、式中、R1、R2及びR3は、R1、R2及びR3の少なくとも1つはHではないという条件で、H、アルキル、ヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、アルケニル、ヒドロキシアルケニル、アルコキシアルケニル、シクロアルキル、シクロアルキル置換アルキル、単環アリール及び単環アリール置換アルキルから選択される。このようなアミンの例は、限定するものではないが、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、トリブタノールアミン、N−ドデシルエタノールアミン、N−(2−メトキシエチル)ドデシルアミン、N−(2,2−ジメトキシエチル)ドデシルアミン、N−エチル−N−(ドデシル)エタノールアミン、N−エチル−N−(2−メトキシエチル)ドデシルアミン、N−ヘキシル−N−(2,2−ジメトキシエチル)ドデシルアミン、ジメチルドデシルアミン−N−オキシド、モノラウロイルリシン、ジパルミトイルリシン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、フェニルエチルアミン、トリエチルアミン、PEG−2オレアミン、PEG−5オレアミン、ポリエチレンイミン、ドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオネート、ビス(2−ヒドロキシエチル)オレイルアミン及びそれらの組合せを含む。例示的1級アミンは、2−アミノエタノール、2−アミノヘプタン、2−アミノ−2−アミノ−2−メチル−1,3プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、n−アミルアミン、ベンジルアミン、1,4−ブタンジアミン、n−ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、エチルアミン、エチレンジアミン、メチルアミン、α−メチルベンジルアミン、フェネチルアミン、プロピルアミン及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを含む。例示的2級アミンは、メチルアミノ、エチルアミノ、イソプロピルアミノ、ブチルアミノ、シクロプロピルアミノ、シクロヘキシルアミノ、n−ヘキシルアミノ、フェニルアミノ、ベンジルアミノ、クロロエチルアミノ、ヒドロキシエチルアミノなどの基を含有する化合物を含む。例示的2級アミンは、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン及びジメチルアミンを含む。例示的3級アミンは、ジブチルアミノ、ジエチルアミノ、ジメチルアミノ、ジイソプロピルアミノ、エチルクロロエチルアミノ、エチルシクロプロピルアミノ、メチルヘキシルアミノ、メチルシクロヘキシルアミノ、メチルプロピルアミノ、メチルベンジルアミノ、メチルトルイルアミノなどの基を含有する化合物を含む。例示的3級アミンは、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチルグリシン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン及びトリメチルアミンを含む。
【0021】
可塑剤
可塑剤及び非揮発性のジンクピリチオン可溶化剤は、本発明の製剤に、場合によって使用できる。これらの物質の例は、限定するものではないが、フタル酸エステル(例えば、フタル酸ジブチル)、クエン酸エステル、トリアセチン、ミリスチン酸イソプロピル、N−メチル−2−ピロリドン、脂肪酸及び脂肪酸エステル、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、プロピレンカーボネート、ポリプロピレングリコール、メトキシポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンを含む。可塑剤を使用する場合、可塑剤は、総組成物の重量で、約0.001から約10%であることが好ましい。
【0022】
増強剤
本発明の組成物及び治療に使用する増強剤は、亜鉛、銅又は銀のイオンを提供する任意の元素又は組成物であってよい。適切な増強剤の例は以下を含む:酢酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、水酸化亜鉛、クエン酸亜鉛、フッ化亜鉛、ヨウ化亜鉛、乳酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、リン酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、サリチル酸亜鉛、セレン酸亜鉛、ケイ酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、硫化亜鉛、タンニン酸亜鉛、酒石酸亜鉛、吉草酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、炭酸水酸化亜鉛、水亜鉛土、炭酸水酸化亜鉛銅(zinc copper carbonate hydroxide)、緑亜鉛鉱、炭酸水酸化銅亜鉛(copper zinc carbonate hydroxide)、亜鉛孔雀石、亜鉛イオンを含有するフィロケイ酸塩、層状複水酸化物、複水酸化物塩、銅の塩、例えば炭酸銅、水酸化銅、銀種、例えば臭化銀、クエン酸銀、硝酸銀、酸化銀及びそれらの混合物。
【0023】
フィルム形成剤
ポリマーフィルム形成剤は、揮発性溶媒に加えることができるポリマー及びフィルム形成に適用できるポリマー溶液を形成する他の物質を指す。本発明の組成物及び治療に使用できるポリマーフィルム形成剤の例は、限定するものではないが、アクリルコポリマー/アクリルポリマー、例えば、CARBOSET(登録商標)又はAVALURE(登録商標)(これらは双方ともB F Goodrichの商標である);メタクリル酸及びそのエステルのポリマー、例えばEUDRAGIT(登録商標)(これはRohm Pharmaの商標である):S,L,RS及びRLのシリーズ、セルロースポリマー、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース(例えば、三酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース);ナイロン、ポリビニルアセテートフタレート、ホルムアルデヒド樹脂及び前述のポリマーのポリマーブレンドを含む。好ましいポリマーフィルム形成剤は、アクリルコポリマー/アクリルポリマー、メタクリル酸及びそのエステルのポリマーからなる群から選択される。
【0024】
揮発性溶媒
揮発性溶媒の例は、限定するものではないが、水を含む。他の適切な揮発性溶媒は、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン及びそれらの混合物を含む。
【0025】
爪浸透強化剤
スルフヒドリル(SH)基を保有する化合物、すなわち、メルカプタン化合物が、爪への透過を強化することは公知であり、爪用の組成物及び治療におけるそれらの目的にとって有用であり得る。硫黄を含有するシステイン誘導体もまた、爪の疾患、例えば爪真菌症の治療用の局所調製品に有用であり得る。Sunらの米国特許第5,696,164号は、爪甲中の薬剤浸透性を増加するための、スルフヒドリル含有システイン及びN−アセチルシステインと、尿素とを組み合わせた使用を開示している。米国特許第6,123,930号は、爪の治療用の硫黄担持アミノ酸と四ホウ酸ナトリウムとが一緒になった組成物を提供している。
【0026】
テルペンもまた、有効な皮膚透過強化剤であることが公知である。特にメントンは、いくつかの異なる薬剤の皮膚を横切る透過を強化することが発見されている。2つのSH基を含有するジチオスレイトールは、特に有効な還元剤であることが示されており、使用が可能である。
【0027】
角質溶解剤、例えばサリチル酸(SA)、尿素(U)及び塩酸グアニジン(GnHCl)は、ケラチンの三次構造及び場合により二次結合(例えば水素結合)を崩壊でき、したがって、爪の中の透過を促進する物質である。好ましい透過強化剤は、尿素及び尿素基を含有する化合物である。
【0028】
実験
ピリチオン金属錯体、可溶化剤、フィルム形成剤及び揮発性溶媒を含有する、いくつかの水ベースの溶液及び水非含有溶液を作製し、爪真菌症微生物に対する有効性及び製剤の安定性の双方に関して研究した。
【0029】
これらの製剤は、4℃及び45℃の温度で、少なくとも4週間の期間保存後、安定であったことが見出された。
【0030】
微生物学的有効性試験
以下の製剤を試験に使用した。
【0031】
製剤A(10−01/1)はおよそ0.5%のジンクピリチオン錯体(ZPT)を含有し、無水であった。
【0032】
製剤B(10−01/2)はおよそ0.75%のZPTを含有し、無水であった。
【0033】
製剤C(10−01/10)はおよそ1.0%のZPTを含有し、無水であった。
【0034】
製剤D(10−2/4)はおよそ1.0%のZPTを含有し、水溶液であった。
【0035】
製剤E(10−7/1)はおよそ1.0%のピリチオンナトリウム錯体(NaPT)を含有し、無水であった。
【0036】
各試験製剤(50マイクロリットル)を、滅菌した1/2インチのペーパーディスク上にピペットで取り、風乾させた。毛瘡白癬菌及び紅色白癬菌の胞子の懸濁液を、標準的な微生物学的技術を使用して作製した。得られた懸濁液は、およそ10,000,000胞子/mlを含有した。滅菌スワブを使用し、胞子懸濁液をPotato Dextrose Agarプレートの表面上に広げ、1つのサンプルディスクを各プレートの中心に配置した。これらの試験の平均結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
阻害領域は、ピリチオン塩(ZPT)を最も大きいパーセント(1.0%)で含有する製剤Dにおいて最も大きかった(29.75mm)ことが、表1より分かるであろう。最も少量(0.5%)のZPTを含有する製剤Aは、対照製剤の阻害領域よりは大きいにもかかわらず、最も小さい阻害領域(18.5mm)を示した。
【0039】
追加試験として、合成爪物質であるIMS VITRO−NAILSを使用し、ヒトの爪の中を通る有効成分の浸透を刺激した。この材料は、ヒトの爪の湿潤性、厚み及び柔軟性を有することが報告されている。この実験は、製剤を3/4〜1インチ四方のVITRO−NAILS上にピペットで取り、試験前2日間乾燥させるか、又は接種した寒天プレート上に湿っているうちに直接配置するかのどちらかであることを除いて、上記の第1の実験と同じ手法で実施した。試験の結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
本発明の爪治療製剤は、全てのZPT濃度範囲にわたって対照と比較して真菌の成長の阻害においてより大きな作用を示したことが、表2より分かるであろう。阻害領域は、この場合も同様に、ピリチオン塩(ZPT)を最も大きいパーセント(1.0%)で含有する製剤Dにおいて最も大きかった(26.75mm)。最も少量(0.5%)のZPTを含有する製剤Aは、最も小さい阻害領域(16mm)を示し、これは対照製剤の阻害領域のほぼ2倍である。対照製剤は、成長阻害において、未処理の人工爪サンプルよりわずかに優れていた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、局所性ピリチオン抗菌組成物及びこれらの組成物を爪の微生物感染症の治療のために使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
爪真菌症(nail fungus又はonychomycosis)と称される爪の真菌感染症は、北米において人口のおよそ10から14%を侵す一般的な障害である。世界的には、人口の1から2%がこの障害を患っていることが報告されている。爪のこの真菌性疾患は、爪床下に現れ、爪に実質的な損傷を起こす。この疾患の症状は、酵母菌(毛瘡白癬菌(Trichophyton mentagrophytes)及び紅色白癬菌(Trichophyton rubrum))により起こる、爪甲の分裂、肥厚、硬化及び凸凹である。通常、真菌感染症は、抗真菌薬の局所適用及び/又は薬剤の経口投与により治療される。
【0003】
一部の経口投与の投薬計画に伴っている副作用の可能性から、この疾患は局所的に治療することが望ましい。しかし、爪の真菌性疾患の局所治療は、今までのところ問題があった。1つの問題は、厚い爪甲が、局所性抗真菌薬が爪に浸透して感染症の部位に到達することを妨げることである。爪真菌症の治療の標的部位は、爪甲、爪床及び爪母にある。爪甲は硬く、密度があり、治療必要量で透過し得る薬剤に対して手ごわい障壁を提示する。爪の素材は皮膚の角質層と同様であり、表皮に由来するが、主に、高度にジスルフィド結合された硬ケラチンからなり、角質層よりおよそ100倍厚い。十分量の薬剤を爪甲内に送達するために、薬剤の有効成分は、この薬剤が爪甲に浸透可能となるのに十分な程度に、理想的に有利に水溶性であるべきである。
【0004】
さまざまな水溶性抗真菌薬を含む特定の爪治療用製剤が公知である。例示的には、米国特許第6,846,837号は、抗真菌薬と、皮膚浸透を強化するのに有効な量の1種又は複数種の無機水酸化物との一緒の使用を開示する。上記の理由から、皮膚浸透の強化剤は、爪浸透強化の提供において有効でない可能性がある。‘837号特許は、他の抗真菌薬を含むリストにピリチオンナトリウム及びシクロピロクスオラミンを開示している。ピリチオンナトリウムは光分解に供され、要求されるであろうものを超える水溶性を有する。爪真菌症治療コミュニティーにおいて、より優れた安定性及び抗真菌有効性を有する別の殺真菌化合物の必要性がある。本発明は、その必要性に対する1つの答えを提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、有効な局所性ピリチオン抗菌組成物を調製すること及び爪の真菌感染症の治療である。
【0006】
別の目的は、ジスルフィド結合を形成するケラチンと相互作用可能な可溶化金属ピリチオン錯体を含有し、それによって、真菌感染症を解消するための治療十分量で爪床及び周辺皮膚を通過する抗菌組成物を調製することである。
【0007】
本発明のより具体的な目的は、ジンクピリチオンの可溶化錯体、透過強化剤及びフィルム形成剤を含む、爪真菌症用局所性組成物を提供することである。局所性組成物は、爪真菌症に対して持続的な利益を提供する。
【0008】
これら及び他の目的は、以下の本発明の詳細な説明を読むことで明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ジンクピリチオン、ジンクピリチオンに対する可溶化剤、フィルム形成剤及び揮発性溶媒を含む、局所性組成物を利用する、爪の真菌感染症(爪真菌症)の治療用の製剤及び方法を提供することである。この製剤は、ラッカーの形態であることが好ましい。ジンクピリチオン錯体は、約0.01%から約2%、好ましくは0.01%から約1%、より好ましくは約0.5%の量で、可溶化剤は、約1から約20%の量で、フィルム形成剤は約1から約20%の量で、及び揮発性溶媒は約1から30%の量で組成物中に存在することができ、全てのパーセントは総組成物の重量である。場合によって、局所性組成物は、スルフヒドリル(SH)基、テルペン及び角質溶解薬を含有する化合物などの爪浸透強化剤もまた、約1から約20重量%の量で含むことができる。場合によって、この組成物は、ピリチオンの抗真菌活性を強化するために、ジンクピリチオン中の亜鉛によって提供される金属の他にさらなる金属を含有する。使用するのであれば、さらなる金属は、銅、銀、亜鉛及びこれらの組合せからなる群から選択され、1から約20%の量である。
【0010】
本発明の方法又は治療によれば、金属ピリチオン錯体を含有する組成物は、感染した爪に、好ましくはスポイト、スワブなどを用いて適用できるマニキュア又はラッカーとして、患った爪の表面に局所適用される。治療は、数週間から数カ月或いは治癒がもたらされる又は感染の有意な減少が得られるまで継続する治療期間で、少なくとも一日に2回実施できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
ジンクピリチオンは、他の局所性抗真菌薬と比較した場合、爪真菌症の生物の治療において有用である非常に有効な抗真菌添加剤である。しかし、ジンクピリチオンは水への溶解度が低いため、爪真菌症に達するために爪に浸透し、所望のレベルの生体利用効率を提供するその能力に限界がある。本発明は、ジンクピリチオンの爪への透過及び爪の下に位置する爪真菌症部位におけるジンクピリチオンの生体利用効率を改善するために、浸透強化剤に加えてジンクピリチオンに対する可溶化剤を含有する組成物を提供することによって、この限界に取り組む。
【0012】
したがって、本発明の組成物は、爪感染症を起こす酵母菌(毛瘡白癬菌及び紅色白癬菌)の成長を阻害する、可溶化金属ピリチオン抗真菌有効成分を含む。本方法及び組成物は、局所適用の場合、感染の原因である真菌を標的とするために爪を透過できる、フィルム形成ビヒクル中の可溶化されたピリチオンの多価金属塩を利用する。本発明によって、不溶性金属ピリチオン錯体は、完全に可溶化又は錯体化でき、爪真菌症に対して生体利用性にできること、及び爪床を透過でき罹患患者に緩和を提供できる製剤を開発できることが実証された。いかなる特定の理論に縛られるつもりはないが、可溶化された場合、爪のケラチン中に存在するジスルフィド結合に関して一連のジスルフィド経路カスケードを介して爪の透過に役立つジスルフィド結合の形成に、ジンクピリチオン中のチオ基の存在が利用可能であると考えられる。さらに、ジンクピリチオンが可溶化される時に放出される亜鉛イオンは、可溶化ピリチオンの抗真菌活性を増強するために機能する。
【0013】
ネイルコーティング、マニキュア、エナメル及び/又はニスとしても知られるネイルラッカーは、簡便であり使いやすいので、本発明に従って爪にジンクピリチオンを送達するためのビヒクルとして有用である。ジンクピリチオンを含有するラッカー製剤は、皮膚に対して刺激性が無いことが望ましく、許容可能な保存期間を有する。
【0014】
ネイルラッカーはフィルム形成剤を含有し、爪の上に塗った時にラッカーのコーティングの形成を容易にする。さらに、爪への透過を強化するために、ネイルラッカー中にジンクピリチオンに対する可溶化剤を、場合によって爪の浸透強化剤と一緒に使用する。場合によって、ピリチオン部分の抗真菌活性の増強において、ジンクピリチオンにより提供される亜鉛イオンの作用をさらに強化するために、元素金属又は金属塩をラッカーに加えることができる。組成物の作用をさらに強化するために、他の有効成分もまたラッカーに加えることができるであろう。例示的有効成分は、アリルアミン(テルビナフィンを含む)、グリセオフルビン、トリアゾール(イトラコナゾール及びフルコナゾールを含む)、イミダゾール誘導体(ケトコナゾール、ミコナゾール、クロトリマゾール及びエコナゾールを含む)、アモロルフィン、ビフォナゾール、ヒドロキシピリドン、シクロピロクスオラミン、オクトピロックス塩及び2−ヒドロキシ−6−オクチルピリジンである。
【0015】
さまざまなフィルム形成剤、可溶化剤、増強剤及び爪への透過強化剤をこれ以降に記載する。
【0016】
可溶化剤
米国特許第4,835,149号は、ピリチオンの不溶性金属塩が、以下の式を有するアミンと組み合わせることによって、一般的な有機溶媒及び/又は水の中で可溶化できることを開示している。
【0017】
HxN[(CH2)yX]z
式中、xは0から約2であり、yは約1から3であり、zは約1から3であり、x+z=3であり、XはH、OH、又はCOOH且つ特定のアミノカルボン酸である。アルコールの添加により、より短い脂肪鎖のアミン及びアミノカルボン酸がピリチオン塩の可溶化に使用できる。上記の組成物はpH約4.0から7.4において有用である。
【0018】
Terry Gersteinは、ジンクピリチオンが、多くの1級脂肪族アミンに非常に可溶性であることを開示した。(「純粋なジンクピリチオン調製品(Clear Zinc Pyrithione Preparations)、J.Soc.Cosmetic.chem.23、90−114(1972)を参照されたい)。
【0019】
窒素塩基が可溶化剤として使用できることもまた発見されている。適切な窒素塩基は、以下のいずれか1つ又は組み合わせを含有することができる:
【0020】
1級アミノ基(−NH2);一置換(2級)アミノ基−NHR、式中Rはヒドロカルビルであり、一般的にアルキル又はアリール、例えば低級アルキル又はフェニルのどちらかであり、1つ又は複数の非ヒドロカルビル置換基、例えば1から3のハロ、ヒドロキシル、チオール又は低級アルコキシ基(例えば、−NHR基は、例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、イソプロピルアミノ、ブチルアミノ、シクロプロピルアミノ、シクロヘキシルアミノ、n−ヘキシルアミノ、フェニルアミノ、ベンジルアミノ、クロロエチルアミノ、ヒドロキシエチルアミノなどを含む)で置換されてもよい;二置換(3級)アミノ基−NRaRb、式中、Ra及びRbは、同一であっても異なってもよく、Rに関して上で定義される(適切な、−NRaRbは、例えば、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジイソプロピルアミノ、ジブチルアミノ、メチルプロピルアミノ、メチルヘキシルアミノ、メチルシクロヘキシルアミノ、エチルシクロプロピルアミノ、エチルクロロエチルアミノ、メチルベンジルアミノ、メチルフェニルアミノ、メチルトルイルアミノ、メチル−p−クロロフェニルアミノ、メチルシクロヘキシルアミノなどを含む);アミド−(CO)−NRcRd、式中Rc及びRdは同一であっても異なってもよく、水素又はRのどちらかであり、式中Rは上で定義された通りである(例えば、Rc及びRdの一方がHであり、他方がメチル、ブチル、ベンジルなどであるアミドを含む);シアノ(−CN);芳香族窒素含有複素環、通常、五員又は六員の単環式置換基又は二環式の縮合又は連結の五員又は六員環(例えば、ピロリル、ピロリジニル、ピリジニル、キノリニル、インドリル、ピリミジニル、イミダゾリル、1,2,4−トリアゾリル、テトラゾリルなど);及び非芳香族窒素含有複素環、通常、ラクタム及びイミドを含む四から六員環、例えば、ピロリジノ、モルホリノ、ピペラジノ、ピペリジノ、N−フェニル−プロピオラクタム、ブチロラクタム、カプロラクタム、アセトイミド、フタルイミド、スクシンイミドなど。1級アミン、2級アミン及び3級アミンは、分子構造NR1R2R3により包含されるように一般的に分類でき、式中、R1、R2及びR3は、R1、R2及びR3の少なくとも1つはHではないという条件で、H、アルキル、ヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、アルケニル、ヒドロキシアルケニル、アルコキシアルケニル、シクロアルキル、シクロアルキル置換アルキル、単環アリール及び単環アリール置換アルキルから選択される。このようなアミンの例は、限定するものではないが、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、トリブタノールアミン、N−ドデシルエタノールアミン、N−(2−メトキシエチル)ドデシルアミン、N−(2,2−ジメトキシエチル)ドデシルアミン、N−エチル−N−(ドデシル)エタノールアミン、N−エチル−N−(2−メトキシエチル)ドデシルアミン、N−ヘキシル−N−(2,2−ジメトキシエチル)ドデシルアミン、ジメチルドデシルアミン−N−オキシド、モノラウロイルリシン、ジパルミトイルリシン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、フェニルエチルアミン、トリエチルアミン、PEG−2オレアミン、PEG−5オレアミン、ポリエチレンイミン、ドデシル2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピオネート、ビス(2−ヒドロキシエチル)オレイルアミン及びそれらの組合せを含む。例示的1級アミンは、2−アミノエタノール、2−アミノヘプタン、2−アミノ−2−アミノ−2−メチル−1,3プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、n−アミルアミン、ベンジルアミン、1,4−ブタンジアミン、n−ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、エチルアミン、エチレンジアミン、メチルアミン、α−メチルベンジルアミン、フェネチルアミン、プロピルアミン及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを含む。例示的2級アミンは、メチルアミノ、エチルアミノ、イソプロピルアミノ、ブチルアミノ、シクロプロピルアミノ、シクロヘキシルアミノ、n−ヘキシルアミノ、フェニルアミノ、ベンジルアミノ、クロロエチルアミノ、ヒドロキシエチルアミノなどの基を含有する化合物を含む。例示的2級アミンは、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン及びジメチルアミンを含む。例示的3級アミンは、ジブチルアミノ、ジエチルアミノ、ジメチルアミノ、ジイソプロピルアミノ、エチルクロロエチルアミノ、エチルシクロプロピルアミノ、メチルヘキシルアミノ、メチルシクロヘキシルアミノ、メチルプロピルアミノ、メチルベンジルアミノ、メチルトルイルアミノなどの基を含有する化合物を含む。例示的3級アミンは、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチルグリシン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン及びトリメチルアミンを含む。
【0021】
可塑剤
可塑剤及び非揮発性のジンクピリチオン可溶化剤は、本発明の製剤に、場合によって使用できる。これらの物質の例は、限定するものではないが、フタル酸エステル(例えば、フタル酸ジブチル)、クエン酸エステル、トリアセチン、ミリスチン酸イソプロピル、N−メチル−2−ピロリドン、脂肪酸及び脂肪酸エステル、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、プロピレンカーボネート、ポリプロピレングリコール、メトキシポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンを含む。可塑剤を使用する場合、可塑剤は、総組成物の重量で、約0.001から約10%であることが好ましい。
【0022】
増強剤
本発明の組成物及び治療に使用する増強剤は、亜鉛、銅又は銀のイオンを提供する任意の元素又は組成物であってよい。適切な増強剤の例は以下を含む:酢酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、水酸化亜鉛、クエン酸亜鉛、フッ化亜鉛、ヨウ化亜鉛、乳酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、リン酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、サリチル酸亜鉛、セレン酸亜鉛、ケイ酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、硫化亜鉛、タンニン酸亜鉛、酒石酸亜鉛、吉草酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、炭酸水酸化亜鉛、水亜鉛土、炭酸水酸化亜鉛銅(zinc copper carbonate hydroxide)、緑亜鉛鉱、炭酸水酸化銅亜鉛(copper zinc carbonate hydroxide)、亜鉛孔雀石、亜鉛イオンを含有するフィロケイ酸塩、層状複水酸化物、複水酸化物塩、銅の塩、例えば炭酸銅、水酸化銅、銀種、例えば臭化銀、クエン酸銀、硝酸銀、酸化銀及びそれらの混合物。
【0023】
フィルム形成剤
ポリマーフィルム形成剤は、揮発性溶媒に加えることができるポリマー及びフィルム形成に適用できるポリマー溶液を形成する他の物質を指す。本発明の組成物及び治療に使用できるポリマーフィルム形成剤の例は、限定するものではないが、アクリルコポリマー/アクリルポリマー、例えば、CARBOSET(登録商標)又はAVALURE(登録商標)(これらは双方ともB F Goodrichの商標である);メタクリル酸及びそのエステルのポリマー、例えばEUDRAGIT(登録商標)(これはRohm Pharmaの商標である):S,L,RS及びRLのシリーズ、セルロースポリマー、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース(例えば、三酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース);ナイロン、ポリビニルアセテートフタレート、ホルムアルデヒド樹脂及び前述のポリマーのポリマーブレンドを含む。好ましいポリマーフィルム形成剤は、アクリルコポリマー/アクリルポリマー、メタクリル酸及びそのエステルのポリマーからなる群から選択される。
【0024】
揮発性溶媒
揮発性溶媒の例は、限定するものではないが、水を含む。他の適切な揮発性溶媒は、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン及びそれらの混合物を含む。
【0025】
爪浸透強化剤
スルフヒドリル(SH)基を保有する化合物、すなわち、メルカプタン化合物が、爪への透過を強化することは公知であり、爪用の組成物及び治療におけるそれらの目的にとって有用であり得る。硫黄を含有するシステイン誘導体もまた、爪の疾患、例えば爪真菌症の治療用の局所調製品に有用であり得る。Sunらの米国特許第5,696,164号は、爪甲中の薬剤浸透性を増加するための、スルフヒドリル含有システイン及びN−アセチルシステインと、尿素とを組み合わせた使用を開示している。米国特許第6,123,930号は、爪の治療用の硫黄担持アミノ酸と四ホウ酸ナトリウムとが一緒になった組成物を提供している。
【0026】
テルペンもまた、有効な皮膚透過強化剤であることが公知である。特にメントンは、いくつかの異なる薬剤の皮膚を横切る透過を強化することが発見されている。2つのSH基を含有するジチオスレイトールは、特に有効な還元剤であることが示されており、使用が可能である。
【0027】
角質溶解剤、例えばサリチル酸(SA)、尿素(U)及び塩酸グアニジン(GnHCl)は、ケラチンの三次構造及び場合により二次結合(例えば水素結合)を崩壊でき、したがって、爪の中の透過を促進する物質である。好ましい透過強化剤は、尿素及び尿素基を含有する化合物である。
【0028】
実験
ピリチオン金属錯体、可溶化剤、フィルム形成剤及び揮発性溶媒を含有する、いくつかの水ベースの溶液及び水非含有溶液を作製し、爪真菌症微生物に対する有効性及び製剤の安定性の双方に関して研究した。
【0029】
これらの製剤は、4℃及び45℃の温度で、少なくとも4週間の期間保存後、安定であったことが見出された。
【0030】
微生物学的有効性試験
以下の製剤を試験に使用した。
【0031】
製剤A(10−01/1)はおよそ0.5%のジンクピリチオン錯体(ZPT)を含有し、無水であった。
【0032】
製剤B(10−01/2)はおよそ0.75%のZPTを含有し、無水であった。
【0033】
製剤C(10−01/10)はおよそ1.0%のZPTを含有し、無水であった。
【0034】
製剤D(10−2/4)はおよそ1.0%のZPTを含有し、水溶液であった。
【0035】
製剤E(10−7/1)はおよそ1.0%のピリチオンナトリウム錯体(NaPT)を含有し、無水であった。
【0036】
各試験製剤(50マイクロリットル)を、滅菌した1/2インチのペーパーディスク上にピペットで取り、風乾させた。毛瘡白癬菌及び紅色白癬菌の胞子の懸濁液を、標準的な微生物学的技術を使用して作製した。得られた懸濁液は、およそ10,000,000胞子/mlを含有した。滅菌スワブを使用し、胞子懸濁液をPotato Dextrose Agarプレートの表面上に広げ、1つのサンプルディスクを各プレートの中心に配置した。これらの試験の平均結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
阻害領域は、ピリチオン塩(ZPT)を最も大きいパーセント(1.0%)で含有する製剤Dにおいて最も大きかった(29.75mm)ことが、表1より分かるであろう。最も少量(0.5%)のZPTを含有する製剤Aは、対照製剤の阻害領域よりは大きいにもかかわらず、最も小さい阻害領域(18.5mm)を示した。
【0039】
追加試験として、合成爪物質であるIMS VITRO−NAILSを使用し、ヒトの爪の中を通る有効成分の浸透を刺激した。この材料は、ヒトの爪の湿潤性、厚み及び柔軟性を有することが報告されている。この実験は、製剤を3/4〜1インチ四方のVITRO−NAILS上にピペットで取り、試験前2日間乾燥させるか、又は接種した寒天プレート上に湿っているうちに直接配置するかのどちらかであることを除いて、上記の第1の実験と同じ手法で実施した。試験の結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
本発明の爪治療製剤は、全てのZPT濃度範囲にわたって対照と比較して真菌の成長の阻害においてより大きな作用を示したことが、表2より分かるであろう。阻害領域は、この場合も同様に、ピリチオン塩(ZPT)を最も大きいパーセント(1.0%)で含有する製剤Dにおいて最も大きかった(26.75mm)。最も少量(0.5%)のZPTを含有する製剤Aは、最も小さい阻害領域(16mm)を示し、これは対照製剤の阻害領域のほぼ2倍である。対照製剤は、成長阻害において、未処理の人工爪サンプルよりわずかに優れていた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジンクピリチオン、ジンクピリチオンに対する可溶化剤、フィルム形成剤及び揮発性溶媒を含み、金属ピリチオンが約0.01から約2.0重量%の量で存在し、可溶化剤が約1.0から約20重量%の量で存在し、フィルム形成剤が約1.0から約20重量%の量で存在し、及び揮発性溶媒が約1.0から約30重量%の量で存在する、爪真菌症の局所治療用組成物。
【請求項2】
組成物中に存在するピリチオンの有効性を強化するために、亜鉛供給源、銅供給源、銀供給源及びそれらの組合せから選択される増強剤をさらに含み、増強剤が約1.0から約20重量%の量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
亜鉛供給源が、酢酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、水酸化亜鉛、クエン酸亜鉛、フッ化亜鉛、ヨウ化亜鉛、乳酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、リン酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、サリチル酸亜鉛、セレン酸亜鉛、ケイ酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、硫化亜鉛、タンニン酸亜鉛、酒石酸亜鉛、吉草酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、炭酸水酸化亜鉛、水亜鉛土、炭酸水酸化亜鉛銅、緑亜鉛鉱、炭酸水酸化銅亜鉛、亜鉛孔雀石、亜鉛イオンを含有するフィロケイ酸塩、層状複水酸化物、複水酸化物塩、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
爪浸透強化剤を、組成物の約1.0から約20重量%の量でさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
浸透強化剤が尿素又は尿素基含有化合物である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
可溶化剤が、式
HxN[(CH2)yX]z
を有するアミンと組み合わせた有機溶媒又は水であり、
式中、xは0から約2であり、yは約1から3であり、zは約1から3であり、x+z=3であり、XはH、OH、又はCOOH且つアミノカルボン酸である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
アルコールをさらに含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
pHが約4.0から約7.4である、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
可溶化剤が、1級アミノ基、2級アミノ基、芳香族窒素含有複素環、非芳香族窒素含有複素環及びアミンから選択される窒素塩基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
可溶化剤が、n−ドデシルアミン、1,2−アミノプロパン、エタノールアミン、ジグリコールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、混合イソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMPとも呼ばれる)、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール(AEPDとも呼ばれる)、2−2−アミノエトキシ)エタノール(ジグリコールアミンとも呼ばれる)、n−メチルジエタノールアミン、n,n−ジメチルエタノールアミン、n,n−ジエチルエタノールアミン、n,n−ジブチルアミノエタノール、n,n−ジメチルアミノ−2−プロパノール及びそれらの組合せから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
窒素塩基がポリエチレンイミンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
フィルム形成剤が、アクリルコポリマー、アクリルポリマー、メタクリル酸及びそのエステルのポリマー、セルロースポリマー、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、ナイロン、ポリビニルアセテートフタレート、ホルムアルデヒド樹脂及び前述のポリマーのポリマーブレンドの群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
揮発性溶媒が、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
アリルアミン、グリセオフルビン、トリアゾール、イミダゾール誘導体、アモロルフィン、ビフォナゾール、ヒドロキシピリドン、シクロピロクスオラミン、オクトピロックス塩及び2−ヒドロキシ−6−オクチルピリジン並びにそれらの混合物の群から選択される有効成分をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
爪に請求項1に記載の組成物を接触させるステップを含む、真菌感染症に対するヒトの爪の治療方法。
【請求項1】
ジンクピリチオン、ジンクピリチオンに対する可溶化剤、フィルム形成剤及び揮発性溶媒を含み、金属ピリチオンが約0.01から約2.0重量%の量で存在し、可溶化剤が約1.0から約20重量%の量で存在し、フィルム形成剤が約1.0から約20重量%の量で存在し、及び揮発性溶媒が約1.0から約30重量%の量で存在する、爪真菌症の局所治療用組成物。
【請求項2】
組成物中に存在するピリチオンの有効性を強化するために、亜鉛供給源、銅供給源、銀供給源及びそれらの組合せから選択される増強剤をさらに含み、増強剤が約1.0から約20重量%の量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
亜鉛供給源が、酢酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、水酸化亜鉛、クエン酸亜鉛、フッ化亜鉛、ヨウ化亜鉛、乳酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、リン酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、サリチル酸亜鉛、セレン酸亜鉛、ケイ酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、硫化亜鉛、タンニン酸亜鉛、酒石酸亜鉛、吉草酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、炭酸水酸化亜鉛、水亜鉛土、炭酸水酸化亜鉛銅、緑亜鉛鉱、炭酸水酸化銅亜鉛、亜鉛孔雀石、亜鉛イオンを含有するフィロケイ酸塩、層状複水酸化物、複水酸化物塩、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
爪浸透強化剤を、組成物の約1.0から約20重量%の量でさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
浸透強化剤が尿素又は尿素基含有化合物である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
可溶化剤が、式
HxN[(CH2)yX]z
を有するアミンと組み合わせた有機溶媒又は水であり、
式中、xは0から約2であり、yは約1から3であり、zは約1から3であり、x+z=3であり、XはH、OH、又はCOOH且つアミノカルボン酸である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
アルコールをさらに含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
pHが約4.0から約7.4である、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
可溶化剤が、1級アミノ基、2級アミノ基、芳香族窒素含有複素環、非芳香族窒素含有複素環及びアミンから選択される窒素塩基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
可溶化剤が、n−ドデシルアミン、1,2−アミノプロパン、エタノールアミン、ジグリコールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、混合イソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMPとも呼ばれる)、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール(AEPDとも呼ばれる)、2−2−アミノエトキシ)エタノール(ジグリコールアミンとも呼ばれる)、n−メチルジエタノールアミン、n,n−ジメチルエタノールアミン、n,n−ジエチルエタノールアミン、n,n−ジブチルアミノエタノール、n,n−ジメチルアミノ−2−プロパノール及びそれらの組合せから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
窒素塩基がポリエチレンイミンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
フィルム形成剤が、アクリルコポリマー、アクリルポリマー、メタクリル酸及びそのエステルのポリマー、セルロースポリマー、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、ナイロン、ポリビニルアセテートフタレート、ホルムアルデヒド樹脂及び前述のポリマーのポリマーブレンドの群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
揮発性溶媒が、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
アリルアミン、グリセオフルビン、トリアゾール、イミダゾール誘導体、アモロルフィン、ビフォナゾール、ヒドロキシピリドン、シクロピロクスオラミン、オクトピロックス塩及び2−ヒドロキシ−6−オクチルピリジン並びにそれらの混合物の群から選択される有効成分をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
爪に請求項1に記載の組成物を接触させるステップを含む、真菌感染症に対するヒトの爪の治療方法。
【公表番号】特表2011−522046(P2011−522046A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512514(P2011−512514)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2009/044056
【国際公開番号】WO2009/148794
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(500000175)アーチ ケミカルズ,インコーポレイテッド (19)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2009/044056
【国際公開番号】WO2009/148794
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(500000175)アーチ ケミカルズ,インコーポレイテッド (19)
【Fターム(参考)】
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