片側開放型磁気回路
【課題】 本発明の課題は、NMRセンサーに必須のコイルを収納するためのスペースが十分であり、また渦電流などの悪影響がない片側開放型磁気回路を提供することである。
【解決手段】 円筒軸方向に磁化された円筒型磁石の内周に沿って、円筒軸に垂直な方向に磁化された角形磁石を複数個対称に配列したことを特徴とする片側解放型磁気回路である。
【解決手段】 円筒軸方向に磁化された円筒型磁石の内周に沿って、円筒軸に垂直な方向に磁化された角形磁石を複数個対称に配列したことを特徴とする片側解放型磁気回路である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片側開放型磁気回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance、以下NMRと略記)とは、磁石とコイルを用いて原子核の状態を測定する方法である。例えばコンクリート欠陥の評価においては、コンクリート中の空洞や亀裂中の水分子中の1H核(水素原子の原子核、プロトン)を測定する。このように、NMRは水分子を非破壊で直接的に計測できることを最大の特徴としており、弾性波や電気伝導度を用いた他の物理探査技術に比べて水の定量能力で抜きん出ている。
【0003】
片側解放型磁気回路は、特許文献1、2にもあるように、コイルとともに、プロトンNMR表面スキャナーの心臓部分であるセンサーユニットを構成する。上手に工夫された磁気回路は磁石表面から数cm離れた空間に、磁束密度が均一な領域をかもしだす。これを感度領域という。
プロトンNMR表面スキャナーは、大きな試料表面(岩盤や農産物)をスキャンして、表面から数cm内部を屋外でしかも非破壊でリアルタイムにNMR分析できることを特徴とする。なお「NMR分析」とは、水素原子を含む物質の緩和や拡散過程を計測することであり、その生データを解析することによって、例えば、水や油の量、水素を含む流体の拡散係数、流体分子の運動特性を評価できる。
【0004】
また片側解放型磁気回路は、土木建設業における、水を含むコンクリートの養生過程や地盤・岩盤中の欠陥(亀裂など)の非破壊点検作業にも使える。図1ではコンクリート壁内部に隠れている、水で満たされた欠陥(空洞)をスキャンして、水分子中の水素原子核の歳差運動をセンサーで計測するものである。
また農林水産業における、獣肉及び魚肉の肉質の非侵襲評価、例えば、生牛内部をスキャンして牛肉の霜降り判定をしたり(図2)、マグロのトロの霜降り判定にも使える。
あるいは、石油井戸に装置をおろして、孔壁を核磁気共鳴(NMR)でスキャンして、深度ごとの地層の含油量を推定することにも使える(非特許文献1参照)。
【0005】
図3にあるような従来の片側開放型磁気回路は、NMRセンサーの感度領域のサイズが小さく、また磁束密度も弱い。そのため、水や脂肪に対する感度が悪く実用化において問題がある。それを解決する公知の磁気回路デザイン(特許文献2参照)も提案されてはいる(図4参照)が、NMRセンサーに必須のコイル(特許文献1、3参照)を収納するためのスペースが不十分であったり、導体である永久磁石と導体であるコイルの距離が接近しており渦電流などの悪影響で十分な電力パワーをコイルから発振できない、という欠点があった(図5参照)。
【特許文献1】特開平4−24588号公報
【特許文献2】米国特許第6489872号明細書
【特許文献3】米国特許第4590427号明細書
【非特許文献1】Dunn K.-J.,Bergman D.J. and Latorraca G.A. 2002. Nuclear Magnetic Resonance Petrophysicaland Logging Applications. Pergamon, New York.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記欠点を除去し、NMRセンサーに必須のコイルを収納するためのスペースが十分であり、また渦電流などの悪影響がない片側開放型磁気回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は次のような手段により解決される。
(1)円筒軸方向に磁化された円筒型磁石の内周に沿って、円筒軸に垂直な方向に磁化された磁石を配列したことを特徴とする片側解放型磁気回路。
(2)円筒軸方向に磁化された円筒型磁石の内周に沿って、円筒軸に垂直な方向に磁化された角形磁石を複数個対称に配列したことを特徴とする片側解放型磁気回路。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、NMRセンサーに必須のコイルを収納するためのスペースが十分であり、また渦電流などの悪影響がない片側開放型磁気回路が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る片側解放型磁気回路の基本デザインは、図6に示すように、円筒軸方向に磁化された円筒型磁石の内周に沿って、円筒軸に垂直な方向に磁化された磁石を配列したものである。
図4では、円柱磁石を採用して、円筒磁石の内部に置いた。この円柱磁石の作る磁力線の概略を図8に示す。磁石内部の矢印は、磁石の磁化の方向である。NMRセンサーの感度領域(点線で囲った領域)では、磁力線は上下方向にほぼそろった均一な磁力線をかもしだしている。一方、磁化方向を横倒しした図6の角形磁石がつくりだす磁力線の概略を図9に示す。これも、点線で囲った領域では、磁力線は上下方向にほぼそろった均一な磁力線をかもしだしている。したがって、両者は等価であり、円柱磁石を角形磁石で置き換えれば、NMRセンサーの感度領域にほぼ同じ磁場を作ることができ、しかも、角形磁石を図6のように配置すれば、コイルを置くための広いスペースを確保できる(図7)。これが、基本的なアイデアである。
【0010】
図10は、図6の磁気回路の2種類のパーツ(円筒軸方向に磁化された円筒磁石と円筒軸に垂直な方向に磁化された角形磁石)が作り出すz軸上の磁束密度のz成分(Bz)の概略である。各パーツは、それぞれ独自のプロファイルを作るが、注目すべきは、増減の挙動が異なる点である。その結果、2カ所の暗色の区間(A、B)では、両者の増加・減少のセンスが逆挙動を示している。したがって、両者を合成すれば、増減がうまくキャンセルされてほぼ平坦な(空間微分がほぼゼロの)Bz値、すなわち均一度の高い磁場空間(NMRセンサーの感度領域として使える空間)を、かもしだせる可能性がある。
【0011】
この基本デザインを実証するため、磁場シミュレーションを行って、図6の磁気回路が図4と遜色のない磁場均一度空間を作ることができることを確認した。2種類の磁石パーツ(円筒軸方向に磁化された円筒磁石と円筒軸に垂直な方向に磁化された角形磁石)の寸法や互いの位置関係を記載した片側解放型磁気回路の具体的なデザインの一例を、図11、12に示した。図11、12は、複数(n個)の磁石を組み上げた、ほぼ軸対称な磁石ユニットである。「ほぼ軸対称」というのは、角形磁石の配置が完全には軸対称にならないからである。各磁石内部の白抜き頭の矢印は、磁石の磁化の方向である。図4にあるような円柱磁石は、図6の片側解放型磁気回路には含まれていないが、図4に示す従来の片側解放型磁気回路との性能比較をするために、図11、12ではあえて、円柱磁石を記載してある。なお、シミュレーションでは、ASL社の有限要素法による3次元静磁場シミュレーション用ソフトAMazeを使用した。
【0012】
図11、12の片側解放型磁気回路が作り出す静磁場を3次元シミュレーションした結果を図13〜15に示す。これらの図は、磁束密度(B)のz成分(すなわちBz)のラインプロファイル(1次元分布)である。磁場シミュレーションは、図11、12の3種類の磁石はすべて残留磁束密度が1.42Tのネオジム磁石とした。また、磁石以外の空間は真空の物性(透磁率等について)を与えた。
【0013】
比較のため、本発明に係る図6の片側解放型磁気回路に加えて、従来の図3の円筒磁石のみ(図11、12から角形と円柱磁石を撤去)のケース、及び図4の円筒磁石と円柱磁石のペア(図11、12から角形磁石を撤去)のケースについても計算した。その磁石パラメータは、図3のケースについて、r1=15.5cm, t1=4cm, a1=20cmである。図4のケースについて、r1=15.5cm, t1=4cm, a1=20cm, t3=20cm, a3=5cm, b3=7.5cmである。図6のケースについて、r1=15.5cm, t1=4cm, a1=20cm, r2=7cm, t2=7cm, a2=5cm, b2=5.4cm, c2=4.5cm, n=10である。
【0014】
図13は、z軸上(つまりx=y=0)における磁束密度(B)のz成分(すなわちBz)のラインプロファイルを、3種類の磁気回路について図示した。NMRセンサーの感度領域(磁場均一区間)をBzの揺らぎが±1%以内の空間として定義し、その領域を図示してある。図14、15は、感度領域付近のBzの直交3方向(x、y、z方向)のラインプロファイルを示す。ただし、Bz値は、感度領域の中心(探査深度の位置)における値で規格化した。感度領域をBzの揺らぎが±1%以内の空間(したがって、この図の縦軸の0.99〜1.01の範囲)として定義し、その感度領域のサイズを矢印で図示した。ただし、図3,4については、完全にz軸対称ゆえにx方向プロファイルとy方向プロファイルは完全に一致するので、x方向プロファイルのみグラフ表示した。
【0015】
図13から分かるように、図3のケースは、探査深度つまり感度領域の位置が約15cmもあるものの、磁場の強さBzが30mT程度しかない。しかも、図14、15から分かるように、Bzの揺らぎが±1%以内の空間として定義したNMRセンサーの感度領域(磁場均一区間)のサイズが、x、y方向にそれぞれ3.5cm、z方向に2.4cmしかない。このように感度領域の磁場が弱く、しかもサイズも小さいことは、NMRシグナル強度の低下をもたらすので好ましいことではない。
【0016】
一方、図4のケースは、図13にあるように探査深度で図3のケースより劣るものの、図13〜15にあるとおり、感度領域のBz値の高さ(56mT)及び感度領域のサイズの大きさの2点で上回っており、高いS/N比を約束してくれるという意味で価値のある片側解放型磁気回路である。さて、本発明に係る図6のケースは、図13にあるように感度領域のBz値で図4のケースよりほんの少し劣るものの(56mTよりわずかに小さい52mT)、図13〜15にあるとおり、探査深度(ともに6.4cm)及び感度領域のサイズの大きさ(ともに、x方向に8.0cm、z方向に5.6cm)の2点で図4と同等である。磁石を半径r2のスペースに置くことが許されないという厳しい制約条件にもかかわらず、図4と遜色のない感度領域をかもしだすことに成功した点を強調したい。
【0017】
以上、まとめると、図6のケースで、片側解放型磁気回路の中央に半径7cm (図11、12でr2=7cm)のスペースを確保できた。このゆったりした空間を、コイル収納スペースに使える(図7)。それでいて、NMRセンサーの感度領域の位置、サイズ、及び磁束密度の強さは、公知の片側解放型磁気回路と遜色ないレベルを維持できた。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明に係る片側解放型磁気回路は、サンプルが大きくて固い、あるいは貴重であるがために破壊検査が困難なケースに適用できる。これを例示すると次のとおりである。
(1)油田のボーリング孔に入れて、孔壁をNMRでスキャンして、深度ごとの地層の含油量を推定する。
(2)生きた肉牛や生マグロの表面スキャンをして、価格を左右する脂肪交雑(霜降りの程度)を推定する。
(3)土木建設業における、水を含むコンクリートの養生過程の監視や地盤・岩盤中の欠陥(水を含む亀裂など)の非破壊点検作業にも使える。
(4)天然記念物や文化財の検査にも使える。例えば樹齢千年の桜の表面をスキャンしてプロトン緩和時間の大小で健康状態を診断する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】片側開放型磁気回路を用いた核磁気共鳴(NMR)表面スキャナーのイメージ図
【図2】片側開放型磁気回路を用いた核磁気共鳴(NMR)表面スキャナーのイメージ図
【図3】片側解放型磁気回路の基本デザイン(円筒磁石のみ)。矢印は、磁石の磁化の方向。
【図4】片側解放型磁気回路の基本デザイン(軸方向に磁化された円柱磁石を追加したもの)
【図5】図4の片側解放型磁気回路のデザインの欠点
【図6】本発明に係る片側解放型磁気回路の基本デザイン(円筒軸に垂直な方向に磁化された角形磁石を円筒内部に追加したもの)
【図7】図6の片側解放型磁気回路のデザインの長所
【図8】図4の円柱磁石がつくりだす磁力線
【図9】図6の横倒しした角形磁石がつくりだす磁力線
【図10】図6の片側解放型磁気回路が作り出す、z軸上における、磁束密度ベクトル場のz方向成分 (Bz)の空間分布の概念図
【図11】本発明に係る片側解放型磁気回路の縦断面図
【図12】本発明に係る片側解放型磁気回路の横断面図
【図13】本発明に係る片側解放型磁気回路がつくり出す静磁場の計算機シミュレーション結果
【図14】本発明に係る片側解放型磁気回路のNMRセンサーとしての感度領域付近の磁場成分(Bz)のx、y方向の1次元プロファイル
【図15】本発明に係る片側解放型磁気回路のNMRセンサーとしての感度領域付近の磁場成分(Bz)のz方向の1次元プロファイル
【技術分野】
【0001】
本発明は、片側開放型磁気回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance、以下NMRと略記)とは、磁石とコイルを用いて原子核の状態を測定する方法である。例えばコンクリート欠陥の評価においては、コンクリート中の空洞や亀裂中の水分子中の1H核(水素原子の原子核、プロトン)を測定する。このように、NMRは水分子を非破壊で直接的に計測できることを最大の特徴としており、弾性波や電気伝導度を用いた他の物理探査技術に比べて水の定量能力で抜きん出ている。
【0003】
片側解放型磁気回路は、特許文献1、2にもあるように、コイルとともに、プロトンNMR表面スキャナーの心臓部分であるセンサーユニットを構成する。上手に工夫された磁気回路は磁石表面から数cm離れた空間に、磁束密度が均一な領域をかもしだす。これを感度領域という。
プロトンNMR表面スキャナーは、大きな試料表面(岩盤や農産物)をスキャンして、表面から数cm内部を屋外でしかも非破壊でリアルタイムにNMR分析できることを特徴とする。なお「NMR分析」とは、水素原子を含む物質の緩和や拡散過程を計測することであり、その生データを解析することによって、例えば、水や油の量、水素を含む流体の拡散係数、流体分子の運動特性を評価できる。
【0004】
また片側解放型磁気回路は、土木建設業における、水を含むコンクリートの養生過程や地盤・岩盤中の欠陥(亀裂など)の非破壊点検作業にも使える。図1ではコンクリート壁内部に隠れている、水で満たされた欠陥(空洞)をスキャンして、水分子中の水素原子核の歳差運動をセンサーで計測するものである。
また農林水産業における、獣肉及び魚肉の肉質の非侵襲評価、例えば、生牛内部をスキャンして牛肉の霜降り判定をしたり(図2)、マグロのトロの霜降り判定にも使える。
あるいは、石油井戸に装置をおろして、孔壁を核磁気共鳴(NMR)でスキャンして、深度ごとの地層の含油量を推定することにも使える(非特許文献1参照)。
【0005】
図3にあるような従来の片側開放型磁気回路は、NMRセンサーの感度領域のサイズが小さく、また磁束密度も弱い。そのため、水や脂肪に対する感度が悪く実用化において問題がある。それを解決する公知の磁気回路デザイン(特許文献2参照)も提案されてはいる(図4参照)が、NMRセンサーに必須のコイル(特許文献1、3参照)を収納するためのスペースが不十分であったり、導体である永久磁石と導体であるコイルの距離が接近しており渦電流などの悪影響で十分な電力パワーをコイルから発振できない、という欠点があった(図5参照)。
【特許文献1】特開平4−24588号公報
【特許文献2】米国特許第6489872号明細書
【特許文献3】米国特許第4590427号明細書
【非特許文献1】Dunn K.-J.,Bergman D.J. and Latorraca G.A. 2002. Nuclear Magnetic Resonance Petrophysicaland Logging Applications. Pergamon, New York.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記欠点を除去し、NMRセンサーに必須のコイルを収納するためのスペースが十分であり、また渦電流などの悪影響がない片側開放型磁気回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は次のような手段により解決される。
(1)円筒軸方向に磁化された円筒型磁石の内周に沿って、円筒軸に垂直な方向に磁化された磁石を配列したことを特徴とする片側解放型磁気回路。
(2)円筒軸方向に磁化された円筒型磁石の内周に沿って、円筒軸に垂直な方向に磁化された角形磁石を複数個対称に配列したことを特徴とする片側解放型磁気回路。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、NMRセンサーに必須のコイルを収納するためのスペースが十分であり、また渦電流などの悪影響がない片側開放型磁気回路が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る片側解放型磁気回路の基本デザインは、図6に示すように、円筒軸方向に磁化された円筒型磁石の内周に沿って、円筒軸に垂直な方向に磁化された磁石を配列したものである。
図4では、円柱磁石を採用して、円筒磁石の内部に置いた。この円柱磁石の作る磁力線の概略を図8に示す。磁石内部の矢印は、磁石の磁化の方向である。NMRセンサーの感度領域(点線で囲った領域)では、磁力線は上下方向にほぼそろった均一な磁力線をかもしだしている。一方、磁化方向を横倒しした図6の角形磁石がつくりだす磁力線の概略を図9に示す。これも、点線で囲った領域では、磁力線は上下方向にほぼそろった均一な磁力線をかもしだしている。したがって、両者は等価であり、円柱磁石を角形磁石で置き換えれば、NMRセンサーの感度領域にほぼ同じ磁場を作ることができ、しかも、角形磁石を図6のように配置すれば、コイルを置くための広いスペースを確保できる(図7)。これが、基本的なアイデアである。
【0010】
図10は、図6の磁気回路の2種類のパーツ(円筒軸方向に磁化された円筒磁石と円筒軸に垂直な方向に磁化された角形磁石)が作り出すz軸上の磁束密度のz成分(Bz)の概略である。各パーツは、それぞれ独自のプロファイルを作るが、注目すべきは、増減の挙動が異なる点である。その結果、2カ所の暗色の区間(A、B)では、両者の増加・減少のセンスが逆挙動を示している。したがって、両者を合成すれば、増減がうまくキャンセルされてほぼ平坦な(空間微分がほぼゼロの)Bz値、すなわち均一度の高い磁場空間(NMRセンサーの感度領域として使える空間)を、かもしだせる可能性がある。
【0011】
この基本デザインを実証するため、磁場シミュレーションを行って、図6の磁気回路が図4と遜色のない磁場均一度空間を作ることができることを確認した。2種類の磁石パーツ(円筒軸方向に磁化された円筒磁石と円筒軸に垂直な方向に磁化された角形磁石)の寸法や互いの位置関係を記載した片側解放型磁気回路の具体的なデザインの一例を、図11、12に示した。図11、12は、複数(n個)の磁石を組み上げた、ほぼ軸対称な磁石ユニットである。「ほぼ軸対称」というのは、角形磁石の配置が完全には軸対称にならないからである。各磁石内部の白抜き頭の矢印は、磁石の磁化の方向である。図4にあるような円柱磁石は、図6の片側解放型磁気回路には含まれていないが、図4に示す従来の片側解放型磁気回路との性能比較をするために、図11、12ではあえて、円柱磁石を記載してある。なお、シミュレーションでは、ASL社の有限要素法による3次元静磁場シミュレーション用ソフトAMazeを使用した。
【0012】
図11、12の片側解放型磁気回路が作り出す静磁場を3次元シミュレーションした結果を図13〜15に示す。これらの図は、磁束密度(B)のz成分(すなわちBz)のラインプロファイル(1次元分布)である。磁場シミュレーションは、図11、12の3種類の磁石はすべて残留磁束密度が1.42Tのネオジム磁石とした。また、磁石以外の空間は真空の物性(透磁率等について)を与えた。
【0013】
比較のため、本発明に係る図6の片側解放型磁気回路に加えて、従来の図3の円筒磁石のみ(図11、12から角形と円柱磁石を撤去)のケース、及び図4の円筒磁石と円柱磁石のペア(図11、12から角形磁石を撤去)のケースについても計算した。その磁石パラメータは、図3のケースについて、r1=15.5cm, t1=4cm, a1=20cmである。図4のケースについて、r1=15.5cm, t1=4cm, a1=20cm, t3=20cm, a3=5cm, b3=7.5cmである。図6のケースについて、r1=15.5cm, t1=4cm, a1=20cm, r2=7cm, t2=7cm, a2=5cm, b2=5.4cm, c2=4.5cm, n=10である。
【0014】
図13は、z軸上(つまりx=y=0)における磁束密度(B)のz成分(すなわちBz)のラインプロファイルを、3種類の磁気回路について図示した。NMRセンサーの感度領域(磁場均一区間)をBzの揺らぎが±1%以内の空間として定義し、その領域を図示してある。図14、15は、感度領域付近のBzの直交3方向(x、y、z方向)のラインプロファイルを示す。ただし、Bz値は、感度領域の中心(探査深度の位置)における値で規格化した。感度領域をBzの揺らぎが±1%以内の空間(したがって、この図の縦軸の0.99〜1.01の範囲)として定義し、その感度領域のサイズを矢印で図示した。ただし、図3,4については、完全にz軸対称ゆえにx方向プロファイルとy方向プロファイルは完全に一致するので、x方向プロファイルのみグラフ表示した。
【0015】
図13から分かるように、図3のケースは、探査深度つまり感度領域の位置が約15cmもあるものの、磁場の強さBzが30mT程度しかない。しかも、図14、15から分かるように、Bzの揺らぎが±1%以内の空間として定義したNMRセンサーの感度領域(磁場均一区間)のサイズが、x、y方向にそれぞれ3.5cm、z方向に2.4cmしかない。このように感度領域の磁場が弱く、しかもサイズも小さいことは、NMRシグナル強度の低下をもたらすので好ましいことではない。
【0016】
一方、図4のケースは、図13にあるように探査深度で図3のケースより劣るものの、図13〜15にあるとおり、感度領域のBz値の高さ(56mT)及び感度領域のサイズの大きさの2点で上回っており、高いS/N比を約束してくれるという意味で価値のある片側解放型磁気回路である。さて、本発明に係る図6のケースは、図13にあるように感度領域のBz値で図4のケースよりほんの少し劣るものの(56mTよりわずかに小さい52mT)、図13〜15にあるとおり、探査深度(ともに6.4cm)及び感度領域のサイズの大きさ(ともに、x方向に8.0cm、z方向に5.6cm)の2点で図4と同等である。磁石を半径r2のスペースに置くことが許されないという厳しい制約条件にもかかわらず、図4と遜色のない感度領域をかもしだすことに成功した点を強調したい。
【0017】
以上、まとめると、図6のケースで、片側解放型磁気回路の中央に半径7cm (図11、12でr2=7cm)のスペースを確保できた。このゆったりした空間を、コイル収納スペースに使える(図7)。それでいて、NMRセンサーの感度領域の位置、サイズ、及び磁束密度の強さは、公知の片側解放型磁気回路と遜色ないレベルを維持できた。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明に係る片側解放型磁気回路は、サンプルが大きくて固い、あるいは貴重であるがために破壊検査が困難なケースに適用できる。これを例示すると次のとおりである。
(1)油田のボーリング孔に入れて、孔壁をNMRでスキャンして、深度ごとの地層の含油量を推定する。
(2)生きた肉牛や生マグロの表面スキャンをして、価格を左右する脂肪交雑(霜降りの程度)を推定する。
(3)土木建設業における、水を含むコンクリートの養生過程の監視や地盤・岩盤中の欠陥(水を含む亀裂など)の非破壊点検作業にも使える。
(4)天然記念物や文化財の検査にも使える。例えば樹齢千年の桜の表面をスキャンしてプロトン緩和時間の大小で健康状態を診断する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】片側開放型磁気回路を用いた核磁気共鳴(NMR)表面スキャナーのイメージ図
【図2】片側開放型磁気回路を用いた核磁気共鳴(NMR)表面スキャナーのイメージ図
【図3】片側解放型磁気回路の基本デザイン(円筒磁石のみ)。矢印は、磁石の磁化の方向。
【図4】片側解放型磁気回路の基本デザイン(軸方向に磁化された円柱磁石を追加したもの)
【図5】図4の片側解放型磁気回路のデザインの欠点
【図6】本発明に係る片側解放型磁気回路の基本デザイン(円筒軸に垂直な方向に磁化された角形磁石を円筒内部に追加したもの)
【図7】図6の片側解放型磁気回路のデザインの長所
【図8】図4の円柱磁石がつくりだす磁力線
【図9】図6の横倒しした角形磁石がつくりだす磁力線
【図10】図6の片側解放型磁気回路が作り出す、z軸上における、磁束密度ベクトル場のz方向成分 (Bz)の空間分布の概念図
【図11】本発明に係る片側解放型磁気回路の縦断面図
【図12】本発明に係る片側解放型磁気回路の横断面図
【図13】本発明に係る片側解放型磁気回路がつくり出す静磁場の計算機シミュレーション結果
【図14】本発明に係る片側解放型磁気回路のNMRセンサーとしての感度領域付近の磁場成分(Bz)のx、y方向の1次元プロファイル
【図15】本発明に係る片側解放型磁気回路のNMRセンサーとしての感度領域付近の磁場成分(Bz)のz方向の1次元プロファイル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒軸方向に磁化された円筒型磁石の内周に沿って、円筒軸に垂直な方向に磁化された磁石を配列したことを特徴とする片側解放型磁気回路。
【請求項2】
円筒軸方向に磁化された円筒型磁石の内周に沿って、円筒軸に垂直な方向に磁化された角形磁石を複数個対称に配列したことを特徴とする片側解放型磁気回路。
【請求項1】
円筒軸方向に磁化された円筒型磁石の内周に沿って、円筒軸に垂直な方向に磁化された磁石を配列したことを特徴とする片側解放型磁気回路。
【請求項2】
円筒軸方向に磁化された円筒型磁石の内周に沿って、円筒軸に垂直な方向に磁化された角形磁石を複数個対称に配列したことを特徴とする片側解放型磁気回路。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図1】
【図2】
【公開番号】特開2008−268133(P2008−268133A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114796(P2007−114796)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
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