説明

片面アーク溶接装置

【課題】 アーク電流を集電する際に、磁気吹きが発生することなく、また集電時の集電装置と被溶接鋼板との接触不良が発生することがないと共に、集電作業が容易である片面アーク溶接装置を提供する。
【解決手段】 フラックス裏当部材21の側部に配列された複数個の磁気吸着部材29を、被溶接鋼板1,2の固定に使用すると共に、被溶接鋼板からアース電流を逃がし、溶接電源6に戻すための、電流経路としても使用する。この磁気吸着部材29は、裏当部材21の長手方向に複数個配列されているので、溶接電流は常に所謂前アースとなる。また、磁気吸着部材29は被溶接鋼板1,2を磁気的に吸着しているので、確実に接触し、電流の通電が不安定になることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏当装置上に、複数個の被溶接鋼板が仮付けされたパネルが搬送されてきて、その溶接線に沿って溶接機が走行することにより、自動アーク溶接を行う片面アーク溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
片面溶接装置は、1対の被溶接鋼板の側端同士を突き合わせ、この突き合わせ溶接線の下部に裏当装置を配置して溶融金属の垂れ落ちを防止しつつ、この溶接線に沿って走行する溶接機により、突き合わせ溶接線を片面から溶接する(特許文献1)。この片面溶接装置においては、一方向に延びるように、フラックス裏当装置及び/又は銅板裏当装置が設けられており、この裏当装置上に複数個の被溶接鋼板が仮付けされたパネルが搬送されてきて、その溶接線が裏当装置に一致するように配置される。そして、裏当装置上に設けられた裏当装置と平行の溶接機ビーム上を走行する溶接機から、トーチを溶接線の近傍に向け、このトーチから溶接ワイヤを送出し、アークを形成し、溶接機を溶接機ビーム上で走行させることにより、アークを溶接線に沿って移動させ、開先を溶接する。
【0003】
即ち、パネルにおける仮付けされた被溶接鋼板の開先の上方に溶接機が配置され、この溶接機の1又は複数個のトーチから溶接ワイヤが送出され、この溶接ワイヤと被溶接鋼板との間に電圧を印加することにより溶接ワイヤの先端から被溶接鋼板の開先部に向けてアークが形成され、このアーク熱により溶接ワイヤ及び被溶接鋼板の開先部が溶融する。そして、溶接機を溶接線に沿って移動させ、アークを溶接線に沿って移動させることにより、開先が溶融接合される。このとき、アーク形成により、溶接ワイヤと被溶接鋼板との間に、溶接電流が流れる。このため、被溶接鋼板から溶接電流のアース電流を集電する必要がある。従来のアース電流の集電方法として、以下に示すものがある。
【0004】
先ず、被溶接鋼板に直接アースケーブルを接続する方法があり、この場合は、パネルが搬送されてくる都度、その被溶接鋼板にアースケーブルを万力等により接続している。また、被溶接鋼板を支持する支持装置に、溶接電源のアースケーブルを接続する方法がある。更に、鋼板支持装置にアース集電装置を複数個設ける方法がある。このアース集電装置は、被溶接鋼板をローラで搬送する場合に対処するため、集電接触子を油圧シリンダ等で被溶接鋼板に向けて進出退避移動させることにより、被溶接鋼板に接触させるものである。
【0005】
なお、片面溶接装置のものではないが、被溶接鋼板にアース端子を接続した技術が特許文献2に記載されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3539886号
【特許文献2】実開昭50−53430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、アース電流の集電装置には、以下に示す問題点がある。先ず、アースの集電位置により溶接アーク状態が不安定になる。集電位置を溶接スタート側にするか、溶接エンド側にするか、又は、中間位置にするかにより、アークの状態が変化する。この現象は一般的に磁気吹きといわれ、溶接電流が直流である場合は、特にこの現象が著しく現れる。このため、良好な溶接ビードを得ることができない。
【0008】
この磁気吹き現象は、電流経路が被溶接鋼板上で複数になった場合に、各電流に発生する磁界が反発したり、吸い寄せられたりして、アークが真っ直ぐに被溶接鋼板に向かないで偏向することをいう。溶接前の被溶接鋼板同士は開先で溶接線方向に点在する仮付け部により連結されているにすぎない。このため、アース電流がいずれの被溶接鋼板をいずれの方向に通流していくか予想がつかない。この被溶接鋼板を流れる電流の方向と向きに対し、アーク中を流れる電流が直交しているため、被溶接鋼板を流れる電流により、アークがアーク方向と垂直の方向に電磁力を受ける。このため、被溶接鋼板を流れる電流の経路が安定しないと、アークが所望の方向に向かず、また不安定になる。
【0009】
また、集電部の被溶接鋼板の接触が不安定であると、アーク状態が不安定になり、接触不安定な鋼板との接触部でスパークが生じ、被溶接鋼板及び集電部にアーク痕が生じる。
【0010】
特に、被溶接鋼板に直接アークケーブルを接続した場合は、溶接電流が大きい場合、アースケーブルが重くなり、パネルを交換する都度、アースケーブルを取り付けたり、取り外したりする作業が煩雑である。また、パネルを交換するときに、アースケーブルの取り外しを忘れると、ケーブルを切断してしまうような不慮の事故が発生する。更に、パネルの被溶接鋼板の大きさが変われば、アースの取付位置も変わるため、重いケーブルをその都度新しい取付位置まで運ぶ必要がある。
【0011】
また、被溶接鋼板を支持する支持装置に、溶接電源のアースケーブルを接続する方法では、特に以下に示す問題点がある。鋼板支持装置は、複数個のローラ又は支持台等の支持物で鋼板を受けるが、アース電流は被溶接鋼板からこの支持物を通って電源に戻る。被溶接鋼板は全ての支持点で鋼板支持装置に密着又は接触しているわけではなく、鋼板の曲がり及び支持物の支持高さの不均一等で接触点が不均一となる。更に、溶接中は溶接熱により被溶接鋼板に歪みが発生し、接触していた箇所が溶接中に離れてスパークが発生することがある。また、接触点が移動することにより、良好な集電状態が崩れ、磁気吹きが発生することがある。特に、被溶接鋼板が薄くて、単位面積あたりの質量が軽い場合には、上述の全ての問題点が起きる可能性がある。更に、ローラで被溶接鋼板を支持している場合は、ローラ内の軸受ベアリングにアース電流が流れるため、ベアリングを損傷することがある。ベアリングにかかる荷重が大きい場合には、電流の通過抵抗が小さいが、荷重が小さい場合は、通過抵抗が大きくなり、損傷を促進する。
【0012】
更に、鋼板支持装置にアース集電装置を複数個設ける方法においては、特に以下に示す問題点がある。集電装置は、溶接線の終端(エンド)に設ける所謂前アースが、磁気吹きの抑制に好ましいといわれている。即ち、被溶接鋼板における溶接が進行する先の位置にアース集電接触子を接触させる。しかしながら、この集電装置の集電接触子を溶接線終端位置に接触させたとしても、被溶接鋼板の大きさ及び置き方によっては、正確に溶接線終端位置になるとは限らない。従って、集電接触子が接触する位置が鋼板の溶接線終端位置よりも手前になった場合、その位置までは溶接が良好にできたとしても、この集電接触子の接触位置を通過した後は、溶接アークに磁気吹きが発生し、必ずしも、磁気吹きを防止できるものではない。また、集電装置の機構は、前述の如く、集電接触子を油圧シリンダ等で被溶接鋼板に押しつけるものであるため、被溶接鋼板が薄くて軽い場合には、シリンダによる押しつけ力が被溶接鋼板を持ち上げてしまい、被溶接鋼板に対する集電接触子の接触圧力が十分に伝わらず、接触不良が発生することがある。
【0013】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、アーク電流を集電する際に、磁気吹きが発生することなく、また集電時の集電装置と被溶接鋼板との接触不良が発生することがないと共に、集電作業が容易である片面アーク溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る片面アーク溶接装置は、一方向に延びる裏当部材と、この裏当部材の側部にて裏当部材の長手方向に複数個配列され裏当部材上に位置した被溶接鋼板を磁気的に吸着して拘束する複数個の磁気吸着部材と、前記被溶接鋼板の溶接線に沿って移動し溶接ワイヤを送出するトーチと、前記溶接ワイヤに給電して溶接ワイヤと被溶接鋼板との間にアークを生成する溶接電源と、を有し、前記各磁気吸着部材と前記溶接電源のアース端子とを接続することにより、アース電流が前記磁気吸着部材を介して溶接電源に戻るようにしたことを特徴とする。
【0015】
この片面アーク溶接装置において、前記磁気吸着部材は、前記裏当部材の両側に、この裏当部材の長手方向に夫々複数個配列されており、1又は全ての磁気吸着装置が前記溶接電源のアース端子に接続されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、裏当部材の側部に配列された複数個の磁気吸着部材を、被溶接鋼板の固定に使用すると共に、被溶接鋼板からアース電流を逃がし、溶接電源に戻すための、電流経路としても使用する。この磁気吸着部材は、裏当部材の長手方向に複数個配列されているので、溶接電流は常に所謂前アースとなり、常に、安定したアークが得られ、アーク変動が生じない高品質の溶接が可能となる。また、磁気吸着部材は被溶接鋼板を磁気的に吸着しているので、両者の接点は、確実に接触し、電流の通電が不安定になることがなく、従って、安定したアークが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は本発明の実施形態に係る片面アーク溶接装置を示す横断面図、図2(a)はその磁気吸着装置を示す平面図、(b)は正面図、図3は片面アーク溶接装置の裏当装置及び磁気吸着装置の配置を示す斜視図である。図3に示すように、裏当装置20は、フラックス裏当部材21と銅板裏当部材22とが並行に設けられた2列の裏当部材を備えている。このフラックス裏当部材21と銅板裏当部材22とは、溶接方法により、いずれかが選択的に使用される。そして、これらのフラックス裏当部材21と銅板裏当部材22との間には、磁気吸着部材29が複数個1列になって配置されており、裏当装置の上に供給されたパネルを磁力により吸引して、浮き上がらないように固定することができるようになっている。各磁気吸着部材29の近傍には、ローラ10がその回転軸を裏当部材21,22の長手方向に垂直にして配置されており、その上に搬送されてくるパネルの被溶接鋼板1,2(図1参照)の下面に転動して、この被溶接鋼板1,2を支持するようになっている。また、2列のフラックス裏当部材21と銅板裏当部材22の外側には、夫々ローラ23,24がその回転軸を裏当部材21,22の長手方向に直交させて設置されている。このローラ23,24は夫々モータ25,26により回転駆動されて、パネルを裏当部材21,22の長手方向に移動させることができる。更に、隣接するローラ23間及び隣接するローラ24間には、夫々磁気吸着部材27,28が配置されており、磁気吸着部材29と同様にパネルを磁力により吸引固定するようになっている。
【0018】
ローラ装置30は複数個のローラ31が裏当部材21,22の長手方向(パネル搬送方向)に沿って配置されている。各ローラ31はその回転軸が裏当部材21,22の長手方向に直交するように配置されており、モータ32により回転駆動されて、パネルを裏当部材21,22の長手方向に移動させることができる。
【0019】
図1は裏当部材21,22の長手方向に直交する方向の断面図である。フラックス裏当部材21、銅板裏当部材22,磁気吸着部材29及びローラ23,24は、1台の台車14上に搭載されており、このような台車14が複数台配置されていて、複数の溶接線の下方に裏当部材(フラックス裏当部材21又は銅板裏当部材22)を配置して、複数個の溶接機により、複数の溶接線を同時に溶接できるようになっている。
【0020】
図1は、フラックス裏当部材21を使用して溶接する場合のものであり、これらの裏当装置の上に、被溶接鋼板1,2を仮付けしたパネルが搬送されてくる。被溶接鋼板1,2の側縁部は相互に突き合わされ、突き合わせ端部に開先が形成されて、図1の紙面に垂直に延びる溶接線3が形成されている。開先部は仮付け溶接され、溶接線に沿って複数個の仮付け部が点在している。パネルは、この溶接線3がフラックス裏当装置21の上に位置するように搬送される。そして、この溶接線3の上に、溶接機(図示せず)が配置され、溶接機が溶接機ビーム(図示せず)上を溶接線3に沿って走行するようになっている。そして、溶接機からは、トーチ4が下方に向けて延び、その先端が溶接線3の直上に位置するようになっている。このトーチ4から溶接ワイヤ5が開先に向けて送出され、溶接ワイヤ5と被溶接鋼板1,2との間に溶接電源6から電圧を印加することにより、アークが形成され、溶接が実施される。
【0021】
台車14上に搭載されたフラックス裏当部材21は、そのトイの中にフラックスを散布して貯留するようになっており、このフラックスを開先下面に押し当てることにより、溶接時の溶融金属の垂れ落ちを防止する。そして、このフラックス裏当部材21には、その下部にエアホース15が配置されており、このエアホース15に圧縮空気を供給することにより、このエアホース15が膨らんで、その上のフラックス裏当装置21を上方の被溶接鋼板1,2の開先部下面に押圧するようになっている。一方、銅板裏当装置22においても、エアホース15が配置されており、同様に、エアホース15に圧縮空気を供給すれば、このエアホース15が膨らみ、銅板裏当装置22が被溶接鋼板1,2の下面に押圧されるようになっている。これらのフラックス裏当装置21及び銅板裏当装置22の下方には、使用後のフラックス等の回収部材16が配置されている。
【0022】
なお、これらのフラックス裏当部材21,磁気吸着部材29及び銅板裏当部材22は台車17上に搭載されており、この台車17は台車1上を裏当部材の長手方向に垂直の方向に走行することができる。従って、フラックス裏当部材21,磁気吸着部材29及び銅板裏当部材22は、台車17が移動することにより、その位置を微調整することができるようになっている。
【0023】
そして、磁気吸着部材29においては、その基台13が台車17上に設置されており、この基台13上に支持部18が固定され、この支持部18上に磁気吸着部材29が固定されている。この磁気吸着部材29は、電磁マグネットをもち、この電磁マグネットに通電することにより、磁気吸着部材29はその上方のパネル、即ち被溶接鋼板1,2を吸着し、被溶接鋼板1,2を拘束するようになっている。電磁マグネットに通電しない場合は、図2(b)に示すように、1対の支持ローラ10の上側共通接線(2点鎖線で示す)と磁気吸着部材29との間隔x、即ち、1対の支持ローラ10上に支持される被溶接鋼板1,2の下面と磁気吸着部材29との間隔xが、約10mmになるように、磁気吸着部材29が前記共通接線より下方に位置している。そして、磁気吸着部材29の上方に被溶接鋼板が位置している状態で、電磁マグネットに通電すると、磁気吸着部材29はガイドボルト40に案内されて被溶接鋼板に吸着するために、飛び上がる。この飛び上がり量は、ガイドボルト40により、例えば12mmに制限されているので、被溶接鋼板が熱歪み等でそれ以上持ち上がろうとしても、磁気吸着部材29がクランプして被溶接鋼板の変形及び持ち上がりを制限する。これにより、裏当部材が被溶接鋼板の開先部下面に押しつけられて、被溶接鋼板に上方への力が作用しても、被溶接鋼板が浮き上がらないようになっている。また、磁気吸着部材29により被溶接鋼板を吸着固定することにより、鋼板の曲がりを矯正し、溶接中の歪みによる鋼板の曲がり及び移動を防止することもできる。
【0024】
このような磁気吸着部材29がフラックス裏当部材21と銅板裏当部材22との中間に配置され、複数個の磁気吸着部材29が裏当部材の長手方向に配列されている。また、裏当部材21,22の外側に配置されたローラ23,24の近傍にも、磁気吸着部材29と同様の構成の複数個の磁気吸着部材27,28が配置されている。従って、各裏当装置21,22の両側に上述の磁気吸着部材29,27,28が配置されている。
【0025】
本実施形態においては、これらの全ての磁気吸着部材29,27,28に、溶接電源6のアース端子を接続する。各磁気吸着部材29等には、図3に示すように、基台13上に、板状の接続端子12が立設されており、この接続端子12と磁気吸着部材29等とが、ケーブル11により接続されている。溶接電源6のアース端子は、溶接台車14又は溶接台車17等の鉄製の架台にケーブルを介して接続されており、接続端子12が架台に固定されているので、この接続端子12も溶接電源6のアース端子に接続されている。従って、磁気吸着部材29等は、接続端子12を中継点として溶接電源のアース端子に接続されている。
【0026】
次に、上述の如く構成された片面アーク溶接装置の動作について説明する。パネルが裏当装置の配設位置に搬送されてくると、その被溶接鋼板1,2間の溶接線3の位置が裏当部材21又は22の直上に位置するように位置決めされる。必要に応じて、台車14が移動して位置調整し、台車17が移動して位置の微調整をする。そして、磁気吸着部材29等に通電して、被溶接鋼板1,2を磁気的に吸着し、拘束する。これにより、被溶接鋼板1,2は磁気吸着部材29等に接触する。この場合に、被溶接鋼板1,2は磁気的に磁気吸着部材29等に吸引されているので、両者は確実に電気的に接触する。次いで、溶接線3の下方のフラックス裏当装置21のエアホース15に圧縮空気が供給され、エアホース15が膨らんで、フラックス裏当装置21が被溶接鋼板1,2の開先下面に押しつけられる。その後、トーチ4から繰り出される溶接ワイヤ5と被溶接鋼板1,2の開先との間に電圧を印加すると、アークが生成し、アーク電流が流れ、溶接がなされる。溶接電源6からの供給電流は溶接ワイヤ5からアーク電流となって被溶接鋼板1,2に入り、被溶接鋼板1,2から磁気吸着部材29,27,28に流れ、架台を介して、溶接電源6に戻る。つまり、アース電流は、磁気吸着部材29等を介して溶接電源6に戻される。そして、溶接機を溶接線3に沿って走行させ、溶接ワイヤ5を溶接線3に沿って移動させると、溶接ワイヤ及び被溶接鋼板の溶融及び溶接金属の凝固が溶接方向に連続的になされ、片面アーク溶接がなされる。
【0027】
この場合に、磁気吸着部材29、27,28は、溶接線3の両側に、溶接線3に沿って多数配置されている。例えば、フラックス裏当装置21を使用する場合は、溶接線3の両側近傍には、磁気吸着部材29,27が位置し、銅板裏当装置22を使用する場合は、溶接線の両側近傍には、磁気吸着部材29,28が位置する。このように、溶接線3に沿って多数の磁気吸着部材が溶接線の両側に配置されているので、アーク点から被溶接鋼板に入るアース電流は、常に前方の磁気吸着部材29等を流れて溶接電源に戻るので、常に所謂前アースとなり、磁気吹きが発生しない。そして、磁気吸着部材29等は磁力により確実に鋼板下面に接触しているので、接触状態も良好であり、また溶接中の鋼板の歪みにより接触状態が悪化することもなく、アース電流は確実に磁気吸着部材を通って流れる。よって、電流経路がふらつくこともなく、アークの偏向が防止される。なお、2種類の裏当装置21,22の間の磁気吸着部材29の列のみで、アース電流を流しても良い。
【0028】
磁気吹き現象は、特に、溶接電流が直流電流である場合に顕著であり、また被溶接鋼板が仮付けされただけの状態の場合に、電流経路が不安定になって、著しくなる。このため、本発明は、片面溶接において、特に先行する第1電極が直流電流を使用し、フラックス裏当部材を裏当部材に使用したときに、特に、有益である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る片面アーク溶接装置を示す裏当部材に垂直方向の断面図である。
【図2】同じく、本実施形態の片面アーク溶接装置の磁気吸着部材を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図3】本実施形態の片面アーク溶接装置の裏当部材及び磁気吸着部材の配置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
1,2:被溶接鋼板
3:溶接線
4:トーチ
5:溶接ワイヤ
10,23,24:ローラ
11:ケーブル
12:接続端子
13:基台
14,17:台車
15:エアホース
16:回収部材
20:裏当装置
21:フラックス裏当装置
22:銅板裏当装置
27,28,29:磁気吸着装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延びる裏当部材と、この裏当部材の側部にて裏当部材の長手方向に複数個配列され裏当部材上に位置した被溶接鋼板を磁気的に吸着して拘束する複数個の磁気吸着部材と、前記被溶接鋼板の溶接線に沿って移動し溶接ワイヤを送出するトーチと、前記溶接ワイヤに給電して溶接ワイヤと被溶接鋼板との間にアークを生成する溶接電源と、を有し、前記各磁気吸着部材と前記溶接電源のアース端子とを接続することにより、アース電流が前記磁気吸着部材を介して溶接電源に戻るようにしたことを特徴とする片面アーク溶接装置。
【請求項2】
前記磁気吸着部材は、前記裏当部材の両側に、この裏当部材の長手方向に夫々複数個配列されており、1又は全ての磁気吸着装置が前記溶接電源のアース端子に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の片面アーク溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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