説明

片面プリント配線板およびその製造方法

【課題】導体層が絶縁基板の片面にパターン形成された片面プリント配線板で、導体層のうちの端子部導体層の表面に保護用金属被覆層を形成した場合、端子部導体層間スペースを狭小化しても、保護用金属の異常析出、ブリッジ現象により端子部導体層間が導通することを防止して、従来よりも高精細化したプリント配線板を提供する。
【解決手段】絶縁基材10の片面(第1面)側に導体層12が埋め込まれ、その導体層のうちの端子部導体層12aの表面に、保護用金属被覆層14が形成された片面プリント配線板において、端子部導体層は、その表面が絶縁基材の第1面10Aから窪んだ状態で形成され、その窪んだ導体層の表面が被覆層によって覆われ、しかもその被覆層の表面が、絶縁基材の第1面と実質的に同一面以下に位置するように形成され、かつ絶縁基材の反対側の面(第2面)10Bから絶縁基材内の導体層に達する開口穴13A,13Bが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子・電気機器に使用されるプリント配線板、特に片面プリント配線板として、その端子部の導体パターンの高精細化を図ったプリント配線板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
片面プリント配線板(片面基板ともいう)は、板状もしくはシート状、フィルム状の絶縁基材の片面のみに、回路配線や端子部を構成するパターンで導体層を形成したものであり、両面に導体層パターンを形成した両面プリント配線板や、多層プリント配線板と比べて低コストで製造することができるため、回路パターンが比較的簡単なプリント配線板として広く使用されている。なお、片面プリント配線板における導体パターンを形成した面(パターン面)に対して反対側の面は、半導体チップや抵抗などの電子部品を搭載する実装面として使用されるのが通常であるが、マザーボード上に接続するための接続面として使用されることもある。一方、前述のパターン面にも、フリップチップ接続などによって半導体チップなどを直接的に接続、搭載することもある。
【0003】
このような片面プリント配線板は、導体パターンが片面のみに形成されるため、本来は、両面プリント配線板と比較して高密度化することが困難ではあるが、微細なパターンを形成することができれば、両面プリント配線板と同程度近くまで高密度化が可能となることから、片面プリント配線板についても、従来より一層の導体パターン微細化が求められるようになっている。
【0004】
ところで従来のプリント配線板の製造方法、特に回路配線および端子部を構成するパターンの導体層を絶縁基材上に形成するための方法は、サブトラクティブ法、アディティブ法(フルアディティブ法、セミアディティブ法)に大別される。片面プリント配線板の場合は、コスト面などから、従来はサブトラクティブ法を適用することが多かったが、セミアディティブ法が、他の方法と比較して微細な導体パターンを精度良く形成することができるため、最近では、片面プリント配線板についても、微細なパターンが求められる場合にはセミアディティブ法が多用されるようになっている。
【0005】
セミアディティブ法は、基本的には、例えば特許文献1に示されているように、絶縁材料からなる基材上に、無電解めっきによって銅などの薄質な金属層(シード層)を形成し、その上に導体パターンを反転したパターンでめっきレジスト層を形成した後、電解めっきによってレジスト層非形成部分に銅などの導体層を形成し、その後にめっきレジスト層を剥離除去し、さらに電解めっきによる導体層が形成されていない部分のシード層をフラッシュエッチングによって除去するものである。
【0006】
このようなセミアディティブ法によって作製された片面プリント配線板における導体パターン形成部分の断面構造を、図14(A)に模式的に示す。導体層12は、絶縁基材10の上面のシード層11に載った状態、すなわち絶縁基材10の上面から突出した状態で形成されている。
【0007】
ここで、セミアディティブ法を適用した場合、電解めっきにより導体層が形成されていない部分(隣り合う導体層12の間のスペース)のシード層を、前述のようにフラッシュエッチングによって除去する必要がある。ここでフラッシュエッチングでは、実際には、導体層の間のシード層が除去されるだけではなく、図14(B)に示しているように、導体層12も若干エッチングされてしまう。そのため、導体層12の幅、特に端子部における他の電子部品との接合のために有効な平坦部分の幅WAが狭くなってしまう。したがってセミアディティブ法を適用した場合でも、ある程度以上は高密度、高精度の導体パターンを形成することが困難である。
【0008】
そこで最近では、回路配線や端子部の導体パターンを構成する導体層をプリプレグなどからなる絶縁基材の表面に埋め込んで、導体パターンの側の表面を平滑にしたプリント配線板が実用化されるようになっている。このようなプリント配線板は、例えば特許文献2あるいは特許文献3などに示されており、その断面構造の一例を図15(A)に示す。図15(A)において、導体パターンを構成する導体層12は、絶縁基材10の表面層に埋め込まれて、導体層12の表面12Aは、絶縁基材10の上面10Aとほぼ同一面とされている。
【0009】
図15(A)に示すような基板の製造方法は種々考えられているが、基本的にはサブトラクティブ法やセミアディティブ法などの任意の手法によって、支持体表面上に所定のパターンでその表面から突出する導体層を形成しておき、それを反転させて、導体層の側をプリプレグなどの比較的軟質な絶縁基材の表面に押し付ける(積層圧着する)ことによって、絶縁基材の表面層に導体層を押し込み、その後、支持体を任意の手法で除去するのが一般的である。このような工法について、以下この明細書では、平埋め法と称することとし、またこのようにして得られる基板を埋め込み基板と称することとする。
【0010】
ところで、一般にプリント配線板におけるその表面上の導体層(導体パターン)のうち、ある部分の導体層は、他の電子部品を、ワイヤボンディングやフリップチップボンディングなどにより接合するための端子部として使用されるのが通常である。このような端子部において、導体層の銅がそのまま露出していれば、その導体層は容易に酸化し得る。このように導体層の銅表面が酸化した端子部と電子部品とを接続すれば、両者の間の金属結合が不十分になることがあり、接続信頼性が劣るおそれがある。
【0011】
そこで端子部については、銅からなる導体層の表面に、無電解めっきもしくは電解めっきにより金(Au)めっきを施すことが行なわれている。またその場合、金(Au)めっきだけでは、導体層中の銅(Cu)が金(Au)の中に拡散してしまって接合強度が低下する。その拡散防止のためには、Auめっきの下地としてニッケル(Ni)が最適であるところから、実際上は、銅からなる導体層上に、先ず無電解めっきもしくは電解めっきによりNiめっきを施してから、その上にAuめっきを施すのが通常である。また場合によっては、先ずNiめっきを施し、次いでその上にパラジウム(Pd)めっきを施し、そのPdめっき層上にAuめっきを施すこともある。このような、Ni/AuめっきやNi/Pd/Auめっきで代表される導体層保護のためのめっき層を、ここでは保護用金属の被覆層と称することとする。なお上記のNi/Auめっきや、Ni/Pd/Auめっきとしては、最近では無電解めっきを用いることが多くなっている。
【0012】
上述のような保護用金属の被覆層を導体層上に形成する場合、従来の方法では、次のような問題があった。
すなわち、図14(B)に示すようなセミアディティブ法によって導体層12を形成したプリント配線板について、その導体層12を覆うための保護用金属被覆層14として、例えばNi/Auめっきを施した場合、導体層12の側面にもめっき金属が析出するから、隣り合う導体層12の間のスペースが小さい場合には、図14(C)に示すように、保護用金属被覆層14が、隣り合う導体層間でブリッジ状に繋がってしまう現象(ブリッジ現象)が生じてしまうことがある。このブリッジ現象が生じれば、隣り合う導体層間で保護用金属被覆層14が連続してしまい、電気的にも導通してしまうため、プリント配線板としては不良品となってしまう。またこのブリッジ現象は、電解めっき、無電解めっきのいずれでも生じるが、無電解めっきの場合は、隣り合う導体層間のスペースにおける絶縁基材10表面へのめっき金属の異常析出も問題となる。すなわち、無電解めっきでは、原理的には銅などの金属のみならず絶縁材料にもめっき金属を析出させることができるから、銅からなる導体層上にだけめっき金属を析出させるためには、導体層の表面のみに触媒を担持させたり、めっき処理液に選択性を付与させたりする方策が採られている。
【0013】
しかしながらこのような方策を講じても、隣り合う導体層間のスペースにおける絶縁基材10表面に、わずかながらもめっき金属が析出してしまう現象、すなわち異常析出が生じてしまうことがある。そしてこのような異常析出が生じれば、前述のブリッジ現象が助長されて、隣り合う導体層間で保護用金属被覆層14が連続し、電気的導通が生じてしまうことがある。
【0014】
そしてセミアディティブ法によって導体層12を形成したプリント配線板では、隣り合う導体層間のスペースが40μm程度以下となれば、ブリッジ現象が頻発するようになり、そのため従来のセミアディティブ法によるプリント配線板では、端子部の導体層上に保護用金属被覆層を形成する場合の端子部導体層間のスペースの狭小化は、40μm程度が限界とされていた。
【0015】
一方、図15(A)に示した、平埋め法によるプリント配線板(埋め込み基板)の場合は、導体層12が絶縁基材10上に突出していないため、保護用金属めっき時、例えばNi/Auめっき時において、導体層12の側面へのめっき金属の析出はなく、そのためセミアディティブ法によるプリント配線板の場合よりはブリッジ現象が生じにくい。しかしながら、めっき金属は、図15(B)に示すように、絶縁基材10表面に露出する導体層12の表面を覆うように丘陵状に隆起しながら析出するから、その隆起した保護用金属被覆層14が、絶縁基材10の表面に沿ってその水平方向にある程度延出することを避け得ない。また特に無電解めっきの場合には、隣り合う導体層間において絶縁基材10の表面に異常析出が生じやすく、そのためブリッジ現象を助長しやすい。
【0016】
したがって、平埋め法を適用した場合におけるブリッジ現象が発生し始めるスペース幅は、セミアディティブ法で発生し始めるスペース幅より小さいといえども、導体間のスペースを、より小さくしたい場合には、このような現象が問題となる。
【0017】
特に、導体層12のうちでも、端子部となる部分は、配線回路部となる部分と比較して、その幅(プリント配線板の板面側から見たときのパターン幅)が広くなるように形成されるのが通常であり、その場合、隣り合う端子部導体層間のスペースは、隣り合う配線回路導体層間のスペースよりも小さくなるのが一般的である。したがって、前述のような導体間のスペースを、より狭小化したい場合の問題は、導体層12のうちでも、端子部となる部分において顕著となる。また一般に酸化防止などのために保護用金属被覆層を導体層上に形成しておくことが望まれるのは、端子部であり、したがってこの点からも、前述の問題は、端子部の導体において発生しやすいのである。
【0018】
上述のような問題について詳細に検討した結果、平埋め法を適用した場合、隣り合う導体層間のスペースが30μm程度以下であってしかも保護用金属のめっきによって形成される保護金属被覆層14の表面14Aと絶縁基材表面10Aとの段差dsが2μmを越えれば、異常析出が発生しやすくなり、導体層間で保護用金属が部分的に連続してしまって、隣り合う導体層間で電気的導通が生じやすくなることが判明した。そのため、埋め込み基板を用いた場合の最小スペース幅は、30μm程度が限界であった。
【0019】
以上のように、平埋め法によって導体パターンを形成した埋め込み基板を用いた場合は、従来の一般的なセミアディティブ法による場合と比較すれば、導体パターンの隣り合う導体間のスペースを狭くすることが可能ではあったが、より高精細な回路パターンを形成することが望まれる場合には、未だ不充分と言わざるを得なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2004−335751号公報
【特許文献2】特開平5−299816号公報
【特許文献3】特開2010−80568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は以上の事情を背景としてなされたもので、片面プリント配線板としてその片面に形成された配線回路および端子部となる導体パターンを構成する導体層のうち、端子部となる端子部導体層の表面に、Ni/Auめっきなどの保護用金属被覆層を形成する場合において、隣り合う端子部導体層の間のスペースを30μm以下、さらには25μm以下まで狭小化しても、端子部導体層の間での導体保護用金属のブリッジ現象、異常析出現象によって、隣り合う端子部導体層間が導通してしまうような事態が発生することを未然に防止し、これによって従来よりも一層高精細化することを可能とした片面プリント配線板を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明では、基本的には、平埋め法によって、絶縁基材の2面のうちの一方の面(第1面)に所定のパターンで導体層を埋め込んだ構成とすることを前提とし、その場合に端子部となる導体層上に被覆される保護用金属の被覆層が絶縁基材表面から突出しないようにし、これによって、隣り合う端子部の導体層間のスペースでの保護用金属被覆層のブリッジ現象、異常析出により導体層間が電気的に導通してしまうことがないようにし、同時に絶縁基材の他方の面(第2面)から絶縁基材内の導体層に達する開口穴を形成して、片面プリント配線板として有効に使用し得るようにした。
【0023】
したがって本発明の基本的な態様(第1の態様)による片面プリント配線板は、
絶縁基材の平行な二つの面を第1面および第2面とし、そのうちの第1面に、配線回路および端子部を構成するパターンで導体層が埋め込まれており、かつその導体層のうちの端子部の導体層の表面に、導体層の金属とは異なる保護用金属からなる1層以上の被覆層が形成されてなる片面プリント配線板において、
前記端子部の導体層は、その表面が絶縁基材の第1面から窪んだ状態で形成されており、かつその窪んだ導体層の表面が前記1層以上の被覆層によって覆われており、しかもその1層以上の被覆層は、その表面が、前記絶縁基材の前記第1面と実質的に同一面以下に位置するように形成されており、さらに前記絶縁基材の前記第2面から、絶縁基材内の導体層のうち少なくとも1以上の導体層に達する1以上の開口穴が形成されていることを特徴とするものである。
【0024】
このような本発明の基本的な態様によれば、絶縁基材に埋め込まれた導体層のうち、端子部を構成する導体層は、絶縁基材の第1面から窪んだ状態で形成されており、その端子部導体層における絶縁基材第1面の側の面に被覆された保護用金属の被覆層は、その表面が絶縁基材の第1面と実質的に同一面(同一レベル)以下とされているため、隣り合う導体層の間での被覆金属(保護用金属)のブリッジ現象の発生が回避される。したがって、隣り合う端子部の導体層間のスペース(最小間隔)を従来よりも狭小化しても、隣り合う導体層の間が保護用金属によって連続して、その間が電気的に導通してしまうことが防止できる。その結果、端子部の導体パターンのスペース(最小間隔)を従来より小さくして、より高精細なパターンを有する片面プリント配線板とすることができる。また絶縁基材の第2面の側から形成された開口穴は、絶縁基材内の導体層に達しているから、第2面の側に実装される電子部品の接続のために使用することができる。
【0025】
また本発明の第2の態様による片面プリント配線板は、
前記第1の態様による片面プリント配線板において、
前記開口穴底部の導体層の表面に、前記保護用金属と同種の金属からなる1以上の被覆層が形成されていることを特徴とするものである。
【0026】
このような態様では、開口穴底部の導体層に、その開口部の側からはんだ接続などを行なうに当たって、接続の信頼性を高めることができる。
【0027】
また本発明の第3の態様による片面プリント配線板は、前記第1もしくは第2の態様によるプリント配線板において、
前記第1面の側の保護用金属の被覆層の表面が、前記絶縁基材の前記第1面より2μm高い位置以下に位置するように形成されていることを特徴とするものである。
【0028】
前述の第1の態様で記載したように、端子部を構成する導体層の表面に被覆された保護用金属の被覆層は、その表面が絶縁基材の第1面と実質的に同一面(実質的に同一レベル)以下とされていれば良く、保護用金属の被覆層が絶縁基材の第1面の位置からわずかに突出している場合も許容されるが、その許容範囲は、第2の態様で、前記絶縁基材の第1面より2μm高い位置までとしている。本発明者等の詳細な実験、検討によれば、保護用金属の被覆層が絶縁基材の第1面の位置からわずかに突出していても、その範囲が2μm以下であれば、保護用金属被覆層形成時において、隣り合う導体層の間で絶縁基材の第1面に保護用金属の異常析出がほとんど生じないことが確認されている。すなわち、保護用金属被覆層表面と絶縁基材第1面との段差が2μm以下であれば、保護用金属被覆層表面と絶縁基材第1面とが実質的に平坦となっているとみなすことができるのである。
【0029】
また本発明の第4の態様による片面プリント配線板は、前記第1〜第3のいずれかの態様による片面プリント配線板において、
前記導体層のうちの配線回路の導体層は、その表面が絶縁基材の前記一面と実質的に面一に形成されていて、その配線回路の導体層の表面に前記保護用金属被覆層が形成されていないことを特徴とするものである。
【0030】
導体パターンのうちでも、他の電子部品との接合のために使用される端子部は、Ni/AuめっきあるいはNi/Pd/Auめっきで代表される保護用金属の被覆層を形成しておく必要性が高い部分である。一方、保護用金属の被覆層は、導体層(通常は銅)よりも電気抵抗が格段に大きいため、端子部以外の配線回路を構成する導体層についても絶縁基材の表面から窪ませて保護用金属被覆層を形成すれば、配線抵抗が高くなってしまう。この場合、近年の駆動電圧が低い半導体用のプリント配線板では、配線抵抗の増大により正常に機能しなくなってしまうおそれがある。しかるに第4の態様のプリント配線板では、配線回路の導体層は、その表面が絶縁基材の前記一面と実質的に面一に形成されていて、保護用金属の被覆層が形成されていないため、配線回路の電気抵抗の低下は回避され、低電圧駆動でも正常に機能させることができる。
【0031】
また第4の態様の片面プリント配線板では、配線回路および端子部を構成するパターンで形成された導体層のうち、端子部を構成する導体層の表面のみに保護用金属の被覆層が形成されるため、導体層を構成する銅などに比較して高価なAuやNiなどの使用量を抑えて、コスト上昇を防止することができる。
なお、配線回路を構成する導体層の表面に保護用金属の被覆層を形成した場合には、その配線回路を構成する導体層に関しても、隣り合う導体層の間での被覆金属(保護用金属)のブリッジ現象の発生が懸念されるが、第3の態様のプリント配線板では、配線回路を構成する導体層の表面には保護用金属の被覆層を形成していないから、このような懸念は生じない。
【0032】
さらに本発明の第5の態様による片面プリント配線板は、前記第1〜第4のいずれかの態様による片面プリント配線板において、
前記被覆層で覆われた端子部の導体層における、隣り合う導体層間の最小間隔が25μm以下であることを特徴とするものである。
【0033】
従来は、平埋め法でも、前述のような保護用金属の被覆時におけるブリッジ現象、異常析出の発生により、隣り合う端子部導体層間の最小間隔(スペース)を30μm程度以下まで小さくすることは困難であったが、本発明によれば、第4の態様として記載したように、25μm以下の狭小なスペースでも、隣り合う端子部導体層の間での保護用金属による電気的導通の発生を防止し、より高精細な片面プリント配線板を得ることができる。
【0034】
そしてまた本発明の第6の態様による片面プリント配線基板は、前記第1〜第5の態様のうちのいずれかの態様による片面プリント配線板において、
前記第1面の側において被覆層で覆われた端子部の導体層は、その被覆層で覆われた面と前記絶縁基材の第1面との間の距離が、1〜7μmの範囲内となるように形成されていることを特徴とするものである。
【0035】
ここで、端子部の導体層における被覆層で覆われた面と絶縁基材の第1面との間の距離は、導体層の窪み深さと言い換えることができるが、その距離(導体層窪み深さ)が1μm未満では、導体層上の保護用金属被覆層を絶縁基材第1面から突出しないように形成するためには、被覆層の厚みが薄くなりすぎ、そのため保護用金属としての保護機能を充分に発揮できなくなる。一方、前記距離(導体層窪み深さ)が7μmを越える厚さに形成するためには、無電解めっきなどによる保護用金属被覆処理時間が長くなって、生産性が悪くなる。そこで、第6の態様として記載したように、前記距離は1〜7μmの範囲内とすることが望ましい。なお、より好ましくは、前記距離を2〜5μmの範囲内とする。
【0036】
また本発明の第7の態様による片面プリント配線板は、前記第1〜第6の態様のうちのいずれかの態様による片面プリント配線板において、前記被覆層で覆われた端子部の導体層は、被覆層で覆われた面と前記絶縁基材の前記一面との間の距離が、導体層の幅方向の中央部で小さく、幅方向両端部で大きくなるように形成されていることを特徴とするものである。
【0037】
このように端子部の導体層における被覆層で覆われた面と前記絶縁基材の前記一面との間の距離が、幅方向中央部で小さく、幅方向両端部で大きくなるように形成されていることは、端子部導体層の幅方向両端近くの表面に傾斜面が形成されていることを意味する。そしてこのような傾斜面によって、端子部導体層と被覆金属層との間の接触面積を大きく確保することができる。その結果、被覆金属層の端子部導体層に対する被覆金属層の密着強度を高めることができ、被覆金属層を端子部導体層から剥離しにくくすることができる。
【0038】
さらに本発明の第8の態様による片面プリント配線板は、前記第1〜第7の態様のうちのいずれかの態様による片面プリント配線板において、前記導体層が、銅もしくは銅合金によって形成されており、かつ前記保護用金属の材料が、Ni、Au、Pd、Sn、Ag、はんだ合金のうちから選ばれた1種以上のものであることを特徴とするものである。
【0039】
さらに第9〜第15の態様では、片面プリント配線板の製造方法を規定している。
すなわち本発明の第9の態様による片面プリント配線板の製造方法は、第1〜第7の態様のうちのいずれかの態様の片面プリント配線板を製造する方法であって:
絶縁基材の平行な二つの面を第1面および第2面とし、そのうちの第1面に、配線回路および端子部を構成するパターンで導体層を埋め込む埋め込み基板形成工程と、
絶縁基材の前記第2面から、前記絶縁基材内の導体層のうち少なくとも1以上の導体層に達する1以上の開口穴を形成する開口穴形成工程と、
前記開口穴形成工程の後、もしくはその前に、前記導体層のうちの端子部の導体層の前記絶縁基材第1面の側の表面をエッチングして、その表面を絶縁基材の第1面から凹状に窪ませるエッチング工程と、
前記エッチングされた端子部の導体層の表面を、導体層の金属とは異なる保護用金属によって、1層以上に被覆して保護用被覆層を形成する被覆工程と、
を有し、かつ前記被覆工程では、保護用被覆層を、その表面が絶縁基材の第1面と実質的に同一面以下に位置するように形成することを特徴とするものである。
【0040】
このような第9の態様の製造方法においては、埋め込み基板形成工程によって絶縁基材の第1面の側に埋め込まれた導体層のうち、端子部を構成する導体層は、エッチング工程によってその表面が絶縁基材の第1面から窪んだ状態となる。そしてその窪んだ端子部導体層の表面を、被覆工程においてNi/AuあるいはNi/Pd/Auなどの保護用金属により被覆するにあたっては、被覆層の表面が絶縁基材の第1面と実質的に同一面(同一レベル)となるようにする。ここで、保護用金属の被覆時には、端子部導体層は絶縁基材第1面から窪んだ状態となっているから、保護用金属被覆のための無電解めっきや電解めっきなどにおいて、保護用金属の析出が導体層の側方(水平方向)に進行することがなく、そのためブリッジ現象も生じない。また仮に隣り合う端子部導体層の間の絶縁基材第1面に保護用金属の異常析出が若干生じたとしても、上述のようにブリッジ現象そのものが生じないため、異常析出によりブリッジ現象が助長されることもない。そのため、隣り合う端子部導体層間の最小間隔(スペース)を従来よりも狭小化しても、隣り合う導体層が連続して、その間が電気的に導通してしまうことが防止できる。その結果、端子部の導体パターンの間隔を従来より小さくして、より高精細なパターンを有する片面プリント配線板とすることができる。
【0041】
また本発明の第10の態様の片面プリント配線板の製造方法は、第9の態様の片面プリント配線板の製造方法において、
前記開口穴形成工程で形成された開口穴の底部の導体層表面にも、前記被覆工程において保護用金属の被覆層を形成することを特徴とするものである。
【0042】
また本発明の第11の態様の片面プリント配線板の製造方法は、第9もしくは第10の態様の片面プリント配線板の製造方法において、
前記エッチング工程で、端子部の導体層の前記絶縁基材第1面側の表面をエッチングし、その後の被覆工程で、そのエッチングされた端子部の導体層の表面に保護用金属の被覆層を形成することを特徴とするものである。
【0043】
また本発明の第12の態様の片面プリント配線板の製造方法は、第9〜第11のいずれかの態様の片面プリント配線板の製造方法において、
前記被覆工程で、保護用金属の被覆層を、その表面が前記絶縁基材第1面から2μm高い位置以下となるように形成するものである。
【0044】
既に第2の態様に関して説明したように、保護用金属の被覆層が絶縁基材の第1面の位置からわずかに突出している場合も許容され、その突出高さが2μm以下であれば、保護用金属被覆層形成時において、隣り合う端子部導体層の間で絶縁基材の第1面に保護用金属の異常析出がほとんど生じないが確認されている。したがって、プリント配線板の製造時においても、保護用金属被覆層表面と絶縁基材表面との段差が2μm以下となるように保護用金属被覆層を形成すれば、隣り合う端子部導体層の間での保護用金属異常析出の発生を回避することができる。
【0045】
また本発明の第13の態様の片面プリント配線板の製造方法は、第9〜第12のいずれかの態様の片面プリント配線板の製造方法において、
前記エッチング工程で、端子部の導体層を、その絶縁基材第1面の側の表面の最上部が、絶縁基材第1面から1〜7μmだけ窪むまでエッチングすることを特徴とするものである。
【0046】
さらに本発明の第14の態様の片面プリント配線板の製造方法は、第9〜第13のいずれかの態様の片面プリント配線板の製造方法において、前記被覆工程が、無電解めっきもしくは電解めっきにより保護用金属を被覆する工程であることを特徴とするものである。
【0047】
また本発明の第15の態様の片面プリント配線板の製造方法は、第9〜第14のいずれかの態様の片面プリント配線板の製造方法において、
前記埋め込み基板形成工程が、支持体の表面上に導体層をパターンめっきにより形成した後、前記絶縁基材第1面に前記導体層を押し込み、その後、支持体を除去する工程であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0048】
本発明の片面プリント配線基板においては、パターン形成された導体層のうちの端子部となる導体層が、絶縁基材の第1面から窪んだ状態で形成されており、その端子部導体層の表面に被覆された保護用金属の被覆層が絶縁基材の第1面と実質的に同一面(同一レベル)とされているため、隣り合う端子部導体層の間において被覆金属(保護用金属)が異常析出やブリッジ現象により連続してしまうことが容易に回避される。そのため、隣り合う端子部導体間の最小間隔(スペース)を従来よりも狭小化しても、隣り合う端子部導体が電気的に導通してしまうことが防止でき、その結果、導体パターン、特に端子部の導体パターンの間隔を従来より小さくして、より高精細なパターンを有する片面プリント配線板とすることができる。さらに、絶縁基材の第2面の側から絶縁基材内の導体層に達する開口穴が形成されているため、その開口穴を、第2面の側に実装する電子部品の接続や、マザーボードへの搭載・接続のために使用することができ、したがって片面プリント配線板として有効活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施形態のプリント配線基板の原理的な平面構造を、略解的に示す平面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態のプリント配線基板の原理的な断面構造を、図1におけるII−II線で切断して示す縦断面である。
【図3】本発明の第1の実施形態の片面プリント配線基板の原理的な断面構造を、図1におけるIII−III線で切断して示す略解的に示す縦断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態の片面プリント配線基板の原理的な断面構造を、図3と同様な位置で略解的に示す縦断面図である。
【図5】本発明の片面プリント配線基板の製造方法の一実施形態の工程の前半を段階的にかつ原理的に示す略解図である。
【図6】図5に示される工程の続きを、段階的にかつ原理的に示す略解図である。
【図7】本発明の片面プリント配線基板の製造方法の別の実施形態の工程の前半を、段階的にかつ原理的に示す略解図である。
【図8】図7に示される工程の続きを、段階的にかつ原理的に示す略解図である。
【図9】本発明の片面プリント配線基板の製造方法の準備工程として、埋め込み基板を製造する方法の一例の工程の前半を段階的かつ原理的に示す略解的図である。
【図10】図9に示される工程の続きを、段階的にかつ原理的に示す略解図である。
【図11】本発明の片面プリント配線基板の製造方法の一実施形態のうちの初期の工程を、より具体的かつ段階的に示す略解図である。
【図12】図11に続く工程を、具体的かつ段階的に示す略解図である。
【図13】図12に続く工程を、具体的かつ段階的に示す略解図である。
【図14】従来のプリント配線板の一例の導体層付近の状況を示す略解的な断面図である。
【図15】従来のプリント配線板の他の例の導体層付近の状況を示す略解的な断面図である。
【図16】本発明実験例1〜3および比較実験例1、2によるプリント配線板の導体層付近の断面の光学顕微鏡で観察した写真である。
【図17】本発明実験例1によるプリント配線板についての平面および断面を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。
【図18】本発明実験例2によるプリント配線板についての平面および断面を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。
【図19】本発明実験例3によるプリント配線板についての平面および断面を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。
【図20】比較実験例1によるプリント配線板についての平面および断面を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。
【図21】比較実験例2によるプリント配線板についての平面および断面を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1〜図3には、本発明の第1の実施形態の片面プリント配線板の要部を原理的に示し、図4には、本発明の第2の実施形態の片面プリント配線板の要部を原理的に示す。
【0051】
図1〜図3、および図4において、絶縁基材10はプリプレグ、あるいは液晶ポリマー(LCP)で代表される高耐熱性熱可塑性樹脂などの絶縁性材料からなる薄板状もしくはシート状のものであり、その絶縁基材10の2面10A、10Bのうち、一方の面(以下、第1面と記す)10Aの側には、プリント配線板としての配線回路および端子部を構成する金属銅(Cu)もしくはCu合金などの良導電材料からなる複数の導体層12が、所定のパターン(絶縁基材10の板面と平行な方向に伸びるパターン)、所定の幅W1もしくはW2、所定の間隔(スペース)Sで埋め込まれている。
ここで、導体層12のうち、符号12aの領域は、導体パターンのうちの端子部に相当する部分であり、以下これを端子部導体層12aと称する。また導体層12のうち、符号12bの領域は、導体パターンのうちの配線回路に相当する部分であり、以下これを配線回路導体層12bと称する。
【0052】
端子部導体層12aは、図1〜図3に示す例では、幅W1の幅広な領域12aと、その領域12aから配線回路導体層12bに向かって連続する幅W1´の相対的に幅狭の領域12aとによって構成されている。そして配線回路導体層12bは、前記端子部導体層12aにおける幅狭の領域12aに、同じ幅W1´をもって連続している。そして隣り合う導体層12は、所定の間隔(スペース)を置いて互いに平行となっている。ここで隣り合う端子部導体層12aにおける幅広な領域12aの相互間の間隔(スペース)を、符号Sで示す。この間隔Sは、隣り合う導体層12の間における最も小さい間隔と言うことができる。
なお場合によっては、端子部導体層12aを、その全長にわたって同じ幅とし、かつその端子部導体層12aに連続する配線回路導体層12bも同じ幅とすることもある。
【0053】
端子部導体層12aおよび配線回路導体層12bを含め、導体層12の厚みは特に限定しないが、通常は10〜20μm程度とされる。導体層12の厚みが10μm未満では、導体層による配線や端子部の電気抵抗が過大となるおそれがあり、一方20μを越える厚さとすることは、性能的に無駄で、コストアップを招くばかりでなく、埋め込み基板製造に困難を伴うおそれがある。なお図1〜図4では、導体層12は、パターンの長さ方向に対して直交する方向、すなわちパターンの幅方向の断面で示している。またこれらの図では、導体層12として三つのもの(12―1、12―2、12―3)を示しているが、これらの導体層12―1〜12―3のうち、図面上で最も左側のもの12―1は、ワイヤボンディングなどを行なう端子部(端子部導体層12a)を想定し、中央の導体層12―2は、配線の導体層(配線回路導体層12b)を想定し、さらに右側の幅の広い導体層12―3は、部品実装を行うためのランドを想定している(本明細書においては、ランドも一種の端子部とし、その導体層12―3を端子部導体層12aとしている)。但し、これらの導体層12―1〜12―3の使用態様は、あくまで例示に過ぎず、上記の記載に限定されないことはもちろんである。
【0054】
前記端子部導体層12aは、絶縁基材10の第1面10Aから凹状に窪んだ状態で形成されている。すなわち端子部導体層12aは、その表面12Aが、絶縁基材10の第1面10Aの位置から所定の深さDの位置に位置している。その深さDは、1〜7μmの範囲内とすることが望ましく、より好ましくは2〜5μmの範囲内とする。
【0055】
端子部導体層12aの表面12A上には、保護用金属の被覆層14として、例えばNiめっき層(第1層)14−1とAuめっき層(第2層)14−2との2層構造の被覆層が形成されている。この被覆層14の厚みTは、実質的に導体層表面の窪み深さDと同等とされている。したがって被覆層14は、その表面14Aの位置が、絶縁基材10の第1面10Aと実質的に同一の面もしくはそれ以下の位置となっていて、絶縁基材の第1面10Aから実質的に突出しない状態となっている。
【0056】
さらに、絶縁基材10の2面10A、10Bのうち、他方の面(以下、第2面と記す)10Bには、前記導体層のうち、図面上の中央の導体層12−2を除く左右の導体層12−1、12−3(端子部導体層12a)に向かって開口穴13A、13Bが形成されている。そしてこれらの開口穴13A、13Bにおける底面には、導体層12−1、12−3(端子部導体層12a)における絶縁基材第2面10B側の表面12Bを覆うように、前記被覆層14と同種の保護用金属からなる被覆層15が形成されている。すなわちこの被覆層15も、例えばNiめっき層(第1層)15−1とAuめっき層(第2層)15−2との2層構造とされている。
【0057】
ここで、図2、図3では、端子部導体層12aにおける絶縁基材第1面10A側の表面12Aが平坦な場合について示しているが、端子部導体層12aに対するエッチングをある程度以上進行させた場合には、図4に示すように、幅方向中央部121よりも幅方向両端部122で窪み深さが大きくなることが分かった。すなわち、幅方向中央部121の窪み深さD1よりも幅方向両端部122の窪み深さD2が大きくなるような断面凸形状に形成されることが分かった。このように端子部導体層12aの幅方向断面形状が凸形状となった場合でも、後に製造方法に関して説明するように、端子部導体層表面に被覆される保護用金属の被覆層14は、その上面14Aを平坦面(絶縁基材10の第1面10Aと実質的に面一の平坦面、もしくはそれよりも下方の位置での平坦面)とすることができる。特に無電解めっきを適用した場合は、より平坦とすることができる。
【0058】
なお以上の説明においては、保護用金属の被覆層14の上面14Aが絶縁基材第1面10Aから実質的に突出しない、あるいは保護用金属の被覆層14の上面14Aが絶縁基材第1面10Aと実質的に同一の面以下となると記載したが、ここで“実質的に”とは、保護用金属の被覆層14の上面14Aが絶縁基材第1面10Aと完全に同一な面もしくはその下方に位置している場合のみならず、保護用金属の被覆層14の上面14Aが絶縁基材第1面10Aからわずかに突出する場合を許容していることを意味する。そのわずかな突出許容寸法は、通常は+2μmまでは許容される。すなわち、絶縁基材第1面10Aからの保護用金属被覆層14の上面14Aの最大突出寸法が2μmを越えれば、図12(B)に示したと同様に、保護用金属が隣り合う端子部導体層12a間で部分的に連続してしまうおそれがあるが、その突出寸法が2μm以下であれば、隣り合う端子部導体層12a間で、部分的にも連続してしまうおそれが少ない。そこで、保護用金属被覆層14の上面14Aの位置は、絶縁基材第1面10Aの位置から上方へ2μmまでは許容され、その許容範囲を含めて、本明細書では、保護用金属被覆層14の上面14Aの位置について、絶縁基材第1面10Aの位置と実質的に同一の面以下と表現しているのである。
【0059】
なお、保護用金属被覆層14自体の厚みは特に限定しないが、通常は端子部導体層12aの表面12Aの絶縁基材第1面10Aからの窪み深さ(好ましくは1〜7μm)および保護用金属被覆層14の絶縁基材表面10Aからの突出許容高さ(好ましくは2μm以下)との関係からは、1〜9μmの範囲内とすることが望ましい。
【0060】
さらに、保護用金属被覆層14の上面14Aが絶縁基材第1面10Aから窪んでいる場合には、隣り合う端子部導体層12a間での保護用金属の連続は原理的に生じ得ず、従ってその窪み寸法については特に限定しない。但し、保護用金属被覆層14の上面14Aの絶縁基材第1面10Aからの窪み深さが10μmを越えれば、端子部導体層12aの厚みを10μm程度以上に確保することが困難となって、端子部の抵抗が過大となってしまうおそれがあるから、通常は10μm以下とすることが望ましく、より好ましくは7μm以下とする。
【0061】
また上記の例では、絶縁基材第1面10A側の保護用金属被覆層14を、Niめっき層(第1層)14−1とAuめっき層(第2層)14−2との2層構造とし、同時に開口部底面の保護用金属被覆層15も、同様な2層構造として説明したが、これらの保護用金属被覆層は、Niめっき層(第1層)、Pdめっき層(第2層)、およびAuめっき層(第3層)の3層構造とすることもでき、さらに場合によっては単層構造としても良い。また保護用金属の種類も特に限定されず、端子部導体層を構成する金属、および端子部として接合される相手側の金属の種類に応じて適切な1種又は2種以上の金属を保護用金属として選択すればよい。具体的には、例えばNi、Au、Pd、Sn、Ag、はんだ合金のうちから選ばれた1種以上のものを、保護用金属として用いることができる。
【0062】
なお、上述のように導体層のうちの端子部導体層12aは、絶縁基材表面10Aから窪ませて、その上面に保護用金属被覆層14を形成しているが、導体層のうちの配線回路導体層12bは、絶縁基材表面10Aから窪ませず、その上面を絶縁基材表面10Aと実質的に面一のままとしている。そしてその配線回路導体層12bの表面には、保護用金属被覆層14を形成していない。
【0063】
さらに上記の実施形態において、開口穴13A、13Bは、片面プリント配線板として、第2面10Bの側に半導体チップその他の電子部品を搭載するにあたり、それらの電子部品の端子からのリードワイヤを挿入して半田接合などによりボンディング(ワイヤボンディング)したり、またプリント配線板自体をマザーボード上に搭載・接続するためのはんだボールを挿入したりするために使用される。ここで、開口穴13A、13Bの底面の保護金属被覆層15は必ずしも必要ではなく、導体層12−1,12−3(端子部導体層12a)の絶縁基材第2面10Bの側の表面12Bが、開口穴13A、13Bの底部に露出したままとしても良いが、はんだとの接合性を良好にし、かつ導体層の銅の酸化を防止して接続信頼性を向上させるためには、絶縁基材第1面10Aの側の表面と同様に、保護用金属被覆層15を形成しておくことが望ましい。
【0064】
次に図1〜図3、または図4に示される第1、第2実施形態の片面プリント配線板を製造する方法について、図5の(A)〜(C)および図6の(A)〜(C)を参照して原理的に説明する。なお図5(A)〜(C)から図6(A)〜(C)は、連続する工程を示している。また図5、図6においては、導体層のうち端子部導体層12aについては、その幅広な領域12a0(図1参照)が現れている断面について示している。
【0065】
図5(A)は、埋め込み基板形成工程によって、プリプレグ、あるいは液晶ポリマー(LCP)で代表される高耐熱性熱可塑性樹脂などの絶縁性材料からなる絶縁基材10に、既に複数の導体層12−1、12−2、12−3(端子部導体層12a、配線回路導体層12b)が埋め込まれている状態の基板(埋め込み基板)18を示す。なおこの状態では、各導体層の絶縁基材第1面10Aの側の表面12Aは、絶縁基材10の第1面10Aのレベルと同一のレベルとなっている。すなわち導体層によるパターン形成面は平坦な面となっている。
このような状態のもの(埋め込み基板18)を得るまでの埋め込み基板形成工程の具体的なプロセスは従来の平埋め法と同様であれば良く、その具体例については後に改めて説明する。
【0066】
本実施形態では、図5(A)に示す段階の埋め込み基板18について、先ず開口穴形成工程を実施する。すなわち、図5(B)に示すように、絶縁基材10の第2面10Bの側から、絶縁基材10内部の導体層12−1、12−3(端子部導体層12a)に達する開口穴15A,15Bを形成する。この開口穴形成手段としては、レーザ加工を適用することが望ましいが、機械的穿孔加工によって形成してもよい。
【0067】
次いで、導体層12に対して、エッチング工程を施す。すなわち、導体層12を構成しているCuもしくはCu合金を溶解させるエッチング液、例えば過硫酸ナトリウムと硫酸とからなるエッチング液を用いて、導体層のうちの端子部導体層12aをエッチングする。そのエッチングの初期段階の状況を図5(C)に示す。この段階では、端子部導体層12aは、絶縁基材第1面10Aに対しほぼ均一な深さで窪んでいる。さらにエッチングを進行させれば、端子部導体層12aは、絶縁基材第1面10A側の幅方向両端部付近で大きくエッチングされ、図6(A)に示すような、中央部121よりも両端部122付近の窪み深さが大きい状態となる。すなわち、幅方向の断面が凸状をなす状態となる。
【0068】
なお上記のエッチング工程では、導体層のうち、配線回路導体層12bは、適宜エッチングマスクなどでカバーして、エッチングされることを防止する。したがってエッチング工程終了後の段階では、導体層は、端子部導体層12aのみが窪んだ状態となっており、配線回路導体層12bは、その表面が絶縁基材表面10Aと実質的に面一のままとなっている。
【0069】
次いで、保護用金属被覆工程として、図6の(B)〜(C)に示すように、端子部導体層12aにおける絶縁基材第1面10Aの側の表面12A上を、保護用金属で被覆し、被覆層14を形成する。本実施形態では、先ず無電解めっきもしくは電解めっきにより端子部導体層12aの表面12Aに第1層14−1としてNiめっきを施し、続いて無電解めっきもしくは電解めっきにより第2層14−2としてAuめっきを施して、2層構造の被覆層14としている。
またこの保護用金属被覆工程では、端子部導体層12aにおける絶縁基材第2面10Bの側の表面12B、すなわち開口穴13の底部の導体層露呈面12Bも、保護用金属で被覆され、導体層露呈面12Bに上記と同様な2層構造の被覆層15が形成される。
【0070】
ここで、絶縁基材第1面10A側の被覆層14はその表面14Aが、絶縁基材10の第1面10Aとほぼ面一となるように、めっき条件(特にめっき速度)に応じてめっき処理時間を適切に調整する。なお本実施形態においては、保護用金属めっき前の段階(図6(A))では、端子部導体層12aが、幅方向の断面が凸状をなす状態となっているが、被覆層第1層14−1のNiめっきを施すに当たっては、無電解めっき、電解めっきのいずれによる場合も、Niをある程度以上の厚みでめっきすることにより、そのNiめっき層(第1層)14−1の表面14−1Aをほぼ平坦な面とすることができる(図6(B)参照)。したがって、その後に第2層14−2としてAuめっきを施すにあたっては、均一な厚みでめっきすることにより、容易にその表面14−2A(図4の被覆層表面14Aに相当)を平坦な面とすることができる。その結果、図4に示した第2の実施形態のプリント配線板と同様なプリント配線板を得ることができる。
【0071】
ここで、上述の保護用金属被覆工程においては、無電解めっき、電解めっきのいずれの場合も、絶縁基材第1面10A側のめっき金属(Ni、Au)は、絶縁基材第1面10Aから窪んだ凹部(端子部導体層12aの表面12A上でかつ絶縁基材第1面10Aの面より低い空間)の内側に析出されるから、隣り合う端子部導体層間で保護用金属のブリッジ現象が生じてしまうことはない。また無電解めっきを適用した場合において、保護金属被覆層14の表面14Aが絶縁基材第1面10Aからわずかに突出したとしても、その保護金属被覆層14の表面14A(14−2A)と絶縁基材第1面10Aとの段差が2μm以下であれば、異常析出の発生がほとんどなく、そのため電気的に導通してしまうことを防止できる。そして、隣り合う端子部導体層12aの間のスペース(例えば図1、図3、図4に示す端子部導体層12aの幅広な領域12aについての隣り合う導体層間の間隔S;すなわち導体層間の最小間隔)が25μm以下と、極めて小さい場合でも、そのスペースで保護用金属が連続して電気的導通が生じてしまうことを回避できるため、端子部導体層12a間の最小間隔を25μm以下として、高精細な導体パターンを有するプリント配線板を作製することができる。なお本発明者らが鋭意検討した結果、上記の最小間隔は十数μmまで狭小化しても特に問題はないことを確認している。
【0072】
なお、図5の(C)に示す段階、すなわちエッチング工程の比較的初期の、端子部導体層12aが未だ断面凸状となっていない段階で、次の被覆工程としてNi/Auめっきを施すこともあり、その場合には図3に示したような断面形状を有する第1の実施形態のプリント配線板と同様なプリント配線板を得ることができる。
【0073】
ここで、図5、図6に示す製造方法の実施形態では、開口穴形成工程の後にエッチング工程を実施しているが、場合によっては、先にエッチング工程を実施した後、開口穴形成工程を実施しても良い。その場合の工程例を、図7の(A)〜(C)および図8の(A)〜(C)に示す。なお図7の(A)〜(C)から図8の(A)〜(C)は、連続する工程を示している。
この場合においても、エッチング工程における端子部導体層12aの絶縁基材第1面10Aの側のエッチング深さは、図5、図6の実施形態と同様に調整することが望ましい。なお、開口穴形成工程の後の保護用金属被覆工程(図8の(B)〜(C))は、図5、図6の実施形態と同様に行なえばよい。
【0074】
次に、図5(A)あるいは図7(A)に示した埋め込み基板18を製造する工程、すなわち埋め込み基板形成工程の原理的な一例について、図9の(A)〜(D)および図10の(A)〜(D)を参照して説明する。なお図9の(A)〜(D)から図10の(A)〜(D)は、連続する工程を示している。
先ず図9の(A)に示すような支持体20を用意する。この支持体20は、特に限定されるものではないが、本実施形態では、銅箔20Aの片面上にニッケル膜20Bをめっきなどにより形成したものが用いられている。
【0075】
次いで、図9の(B)に示すように、支持体20におけるニッケル膜20Bの側の面に、めっきレジスト層22を形成する。このめっきレジスト層22は、レジストパターン形成のためにフォトリソグラフィ技術を適用する場合は、感光性レジストフィルムを用いればよい。続いて公知のフォトリソグラフィ技術などにより、図9の(C)に示すように、めっきレジスト層22にパターンを形成する。その後、図9の(D)に示すように、例えば電解めっきにより、支持体20上のめっきレジスト非形成部分に、Cuなどの導体層12a、12bを形成する。その後、めっきレジスト層22を、剥離あるいは溶解などによって除去し、図10の(A)の状態とする。この状態では、支持体20の表面に導体層12a、12bが所定のパターンで突出形成されている。
【0076】
その後、図10の(B)に示すように、プリプレグなどの比較的軟質な絶縁基材10を用意して、その絶縁基材10の表面10Aを、支持体20上の導体層12a、12bに対向させ、必要に応じて加熱しながら加圧して、積層圧着させる。これによって、図10の(C)に示すように、導体層12a、12bが絶縁基材10に押し込まれる。その後、支持体20をエッチングなどの適宜の手段によって除去すれば、図10の(D)に示すような埋め込み基板18が得られる。
【0077】
さらに本発明の片面プリント配線板の製造方法を、より具体化した実施形態を、図11〜図13に示す。なお図11の(A)〜(F)から図12の(A)〜(D)、さらに図13の(A)〜(C)までは、埋め込み基板18を作成するための埋め込み基板形成工程に相当し、図13の(D)〜(G)は、その後の工程を示している。また図11〜図13の各図においても、図7、図8と同様に、導体層のうち端子部導体層12aについては、その幅広な領域12a(図1参照)が現れている断面について示している。
【0078】
本実施形態においては、先ず図11の(A)に示すように、第1の支持体としての片面銅張積層板30と、第2の支持体としての比較的軟質な絶縁材、例えばプリプレグ32と、小サイズの銅箔34と、大サイズの銅箔36とを用意する。そしてこれらを上記の順序で積層して加圧し、図11の(B)に示すような積層体38を得る。この積層加圧によって、小サイズの銅箔34は、第2支持体32の表面層に埋め込まれた状態となる。なお小サイズ銅箔34と大サイズ銅箔36との間は接着されていないが、小サイズ銅箔34の端部よりも外側の領域では大サイズ銅箔36がプリプレグ32に直接接して、その間で接合力が作用している。
【0079】
次いで図11の(C)に示すように、大サイズの銅箔36の表面に、電解めっきなどによって、Ni層40を形成する。その後、図11の(D)に示すように、Ni層40の表面に、めっきレジスト42として、例えば感光性レジストフィルムを積層する。そしてフォトリソグラフィなどの公知の手法によって、図11の(E)に示すように、めっきレジスト42にパターンを形成する。
【0080】
その後、導体金属としてのCuの電解めっきを行なって、めっきレジスト42の非形成部分に導体層を形成し、続いてめっきレジスト42を剥離もしくは溶解によって除去し、図11の(F)に示すように、積層体38におけるNi層40上に導体層12a、12bのパターンを形成する。
【0081】
次いで、図12の(A)に示すように、プリプレグや液晶ポリマーなどの絶縁基材10と、銅箔44とを、積層体38のNi層40上における導体層12a、12bの側に配置し、図12の(B)に示すように、積層、加圧する。これによって導体層12a、12bは、絶縁基材10に埋め込まれた状態となる。
【0082】
その後、図12の(C)に示すように、小サイズ銅箔34の端部よりも内側の部分で、パターン幅方向に平行な垂直方向に切断し、両端側の部分を中央部側の部分から切り離す。その切断位置を2点鎖線46で示す。ここで、小サイズ銅箔34と大サイズ銅箔36との間は特に接合されていないため、上述のように切り離した後の中央部側の部分は、小サイズ銅箔34と大サイズ銅箔36との間で容易に剥離することが可能な状態となる。そこで、図12の(D)に示すように、小サイズ銅箔34と大サイズ銅箔36との間を剥離させる。このようにして剥離した上側の部分を図13の(A)に示す。
【0083】
この後、図13の(A)〜(B)に示すように、エッチング液として、Cuは溶解するがNiは溶解しにくいエッチング選択性を有する第1の選択エッチング液、例えばメルテックス製エープロセスを用いて、大サイズ銅箔36をエッチング除去する。これによって、図13の(B)に示すように、Ni層40が露呈した状態となる。なお、この第1の選択エッチングによって、大サイズ銅箔36とは反対側の銅箔44も、その全体がエッチング除去される。
【0084】
上述のようにして大サイズ銅箔36が除去されてNi層40が露呈した後には、図13の(B)〜(C)に示すように、Niは溶解するがCuは溶解しにくいエッチング選択性を有する第2の選択エッチング液、例えばメルテックス製メルストリップN−950を用いて、Ni層40をエッチング除去する。これによって、図13の(C)に示すように、絶縁基材10の第1面10Aに所定のパターンで埋め込まれた導体層12a、12bの表面が露呈した状態となる。すなわち、図10の(D)で示したものと同様な埋め込み基板(但し図面上では上下が反転している)が得られる。
【0085】
その後の工程は、図5の(A)〜(C)および図6の(A)〜(C)を参照して説明したプロセス、あるいは図7の(A)〜(C)および図8の(A)〜(C)のプロセスと実質的に同様であれば良いが、ここでは、図5(A)〜(C)および図6の(A)〜(C)のプロセスに従った例を示す。
すなわち、図13の(D)に示すように、絶縁基材10における導体層12a、12bに対して反対側の面(第2面)10Bから、レーザ加工や機械加工によって、絶縁基材10に開口穴13A、13Bを、導体層12aに届くように形成する。さらに、必要に応じて、図13の(E)に示すように、ソルダレジスト層48を所定のパターンで形成する。
【0086】
その後、導体層のうちの端子部導体層12aを、絶縁基材10の第1面10Aの側から所定の深さDまでエッチングして、図13の(F)に示す状態とする。その後、図13の(G)に示すように、端子部導体層12aの表面に、保護用金属被覆層14、15として、Niめっき層(第1層)14−1、15−1およびAuめっき層(第2層)14−2、15−2を、無電解めっきもしくは電解めっきにより形成する。このとき、絶縁基材第1面10A側の保護用金属被覆層14の表面が絶縁基材10の第1面10Aと実質的に同一の面以下となるようにめっき厚を調整することは、既に述べたとおりである。
【0087】
以下に本発明の実験例を、比較実験例とともに説明する。ここで、以下の本発明実験例、比較実験例は、端子部導体層における絶縁基材第1面からの高さが、異常析出現象、ブリッジ現象の発生に及ぼす影響を調べるために行なったものであり、そこで、いずれの実験例でも、絶縁基材の第2面の側に開口穴を形成していない状態で実験を行なった。なお以下の各実験例は、本発明の作用効果を確認するためのものであって、実験例に記載された条件が本発明の技術的範囲を限定しないことはもちろんである。
【0088】
本発明実験例1:
図5の(A)に準じて、プリプレグからなる絶縁基材10の第1面10Aに所定のパターンでCuからなる導体層12a、12bが埋め込み形成された埋め込み基板18を準備した。ここで、導体層間の幅(パターンの幅)は20μm、隣り合う導体層間の間隔、とりわけ端子部導体層12aにおける幅広な領域12aの間隔(パターン間の最小間隔)Sは、14μmとした。このような埋め込み基板18の導体層のうち、端子部導体層12aの表面を、過硫酸ナトリウムと硫酸からなるエッチング液によって、1μmの深さまでエッチングし、絶縁基材10の第1面10Aから端子部導体層12aの表面が窪んでいる状態とした(図5(C))。次いで、上記の端子部導体層12aについて、脱脂処理を行ってから、エッチング量0.3μmのソフトエッチング処理、脱スマット処理、プリディップ処理、さらに無電解めっきのためのPd触媒の付与処理、ポストディップ処理をその順に行った後、約2μmの無電解Niめっき、0.3μmの無電解Pdめっき、0.1μmの置換無電解Auめっきを行ない、端子部導体層12a上においてAuめっき層表面が絶縁基材第1面10Aから1.0μm突出しているプリント配線板を得た。
【0089】
本発明実験例1により得られたプリント配線板の端子部導体層付近の断面の状況を光学顕微鏡によって観察した結果を図16の(A)に示し、またそのプリント配線板の平面および断面について走査型電子顕微鏡により観察した結果を図17に示す。なお、図16の(A)〜(E)、及び図17〜図21(B)において、符号AはCuからなる導体層を示し、符号Bは、Ni/Auめっき層を示す。
【0090】
本発明実験例2:
図5の(A)に準じて、プリプレグからなる絶縁基材10の第1面10Aに所定のパターンでCuからなる導体層12a、12bが埋め込み形成された埋め込み基板18を準備した。ここで、導体層の幅(パターンの幅)は20μm、隣り合う導体層間の間隔、とりわけ端子部導体層12aにおける幅広な領域12aの間隔(パターン間の最小間隔)Sは、15μmとした。このような埋め込み基板18の導体層のうち、端子部導体層12aの表面を、過硫酸ナトリウムと硫酸からなるエッチング液によって、1μmの深さまでエッチングし、絶縁基材10の第1面10Aから端子部導体層12aの表面が窪んでいる状態(図5(C)参照)とし、さらにエッチングを継続させて、幅方向の断面が凸状をなす端子部導体層12aとした(図6(A)参照)。ここで、上記のエッチングは、断面凸状の端子部導体層の幅方向中央部の表面(凸状の頂面)が、絶縁基材第1面10Aの位置から4.5μmの深さに位置するまで行なった。なおこの状態では、断面凸状の端子部導体層の両端部は、絶縁基材第1面の位置から7.5μmの深さに位置していた。次いで、上記の端子部導体層について、脱脂処理を行ってから、エッチング量0.3μmのソフトエッチング処理、脱スマット処理、プリディップ処理、さらに無電解めっきのためのPd触媒の付与処理、ポストディップ処理をその順に行った後、無電解Niめっきを行なった(図6(B)参照)。この無電解Niめっきは、凸状端子部導体層の頂部が絶縁基材第1面の位置から0.3μmの深さの位置に達するまで行なったが、この状態では、Niめっき層は、全体として平坦となっていることが確認された。さらにNiめっき層上に、0.2μmの無電解Pdめっき、および0.1μmの置換無電解Auめっきを行ない、Auめっき層表面が絶縁基材第1面10Aとほぼ同じ位置となっている平坦なプリント配線板を得た(図6(C)、図4参照)。
【0091】
以上の本発明実験例2により得られたプリント配線板の端子部導体層付近の断面の状況を光学顕微鏡によって観察した結果を図16の(B)に示し、またそのプリント配線板の平面および断面について走査型電子顕微鏡により観察した結果を図18に示す。
【0092】
本発明実験例3:
図5の(A)に準じて、プリプレグからなる絶縁基材10の第1面10に所定のパターンでCuからなる導体層12a、12bが埋め込み形成された埋め込み基板18を準備した。ここで、導体層の幅(パターンの幅)は13μm、隣り合う導体層間の間隔、とりわけ端子部導体層12aにおける幅広な領域12aの間隔(パターン間の最小間隔)Sは、22μmとした。このような埋め込み基板18の導体層12における端子部導体層12aの表面を、硫酸と過酸化水素水からなるエッチング液によって、1μmの深さまでエッチングし、絶縁基材10の第1面10Aから端子部導体層12aの表面が窪んでいる状態(図5(C))とし、さらにエッチングを継続させて、幅方向の断面が凸状をなす導体層とした(図6(A))。ここで、上記のエッチングは、断面凸状の端子部導体層の幅方向中央部の表面(凸状の頂面)が、絶縁基材第1面10Aの位置から2.5μmの深さに位置に達するまで行なった。なおこの状態では、断面凸状の端子部導体層の両端部は、絶縁基材第1面の位置から5.3μmの深さに位置していた。次いで、上記の端子部導体層について、脱脂処理を行ってから、エッチング量0.3μmのソフトエッチング処理、電解Niめっきを行なった(図6(B)参照)。この電解Niめっきは、凸状の端子部導体層の頂部が絶縁基材第1面10Aの位置から1.4μmの高さの位置に達するまで行なったが、この状態では、Niめっき層は、全体として平坦となっていることが確認された。さらにNiめっき層上に、0.1μmの電解Auめっきを行ない、端子部導体層12a上のAuめっき層表面が絶縁基材第1面10Aから1.5μm突出しているプリント配線板を得た。
【0093】
本発明実験例3により得られたプリント配線板の端子部導体層付近の断面の状況を光学顕微鏡によって観察した結果を図16の(C)に示し、またそのプリント配線板の平面および断面について走査型電子顕微鏡により観察した結果を図19に示す。
【0094】
比較実験例1:
図15(A)に示すように、プリプレグからなる絶縁基材10の第1面10Aに所定のパターンでCuからなる導体層12が埋め込み形成された埋め込み基板18を準備した。ここで、導体層の幅(パターンの幅)は20μm、隣り合う導体層間の間隔、とりわけ端子部導体層における幅広な領域の間隔(パターン間の最小間隔)は、15μmとした。このような埋め込み基板18の端子部導体層の表面について、脱脂処理を行ってから、エッチング量0.3μmのソフトエッチング処理、脱スマット処理、プリディップ処理、さらに無電解めっきのためのPd触媒の付与処理、ポストディップ処理をその順に行った後、約3.5μmの無電解Niめっき、0.2μmの無電解Pdめっき、0.1μmの置換無電解Auめっきを行ない、Ni/Pd/Auの保護用金属被覆層(無電解めっき層)14の表面が絶縁基材10の第1面10Aから3.5μm突出しているプリント配線板を得た(図15(B))。
【0095】
比較実験例1により得られたプリント配線板の導体層付近の断面の状況を光学顕微鏡によって観察した結果を図16の(D)に示し、またそのプリント配線板の平面および断面について走査型電子顕微鏡により観察した結果を図20に示す。
【0096】
比較実験例2:
図14(A)に示すように、プリプレグからなる絶縁基材10上に所定のパターンでCuからなる導体層12が突出形成された基板をセミアディティブ工法により準備した。ここで、導体層12の幅(パターンの幅)は21μm、隣り合う導体層間の間隔、とりわけ端子部導体層における幅広な領域の間隔(パターン間の最小間隔)は、30μmとした。このような絶縁基材10上の導体層12の表面について、脱脂処理を行ってから、エッチング量0.3μmのソフトエッチング処理、脱スマット処理、プリディップ処理、さらに無電解めっきのためのPd触媒の付与処理、ポストディップ処理をその順に行った後、約2μmの無電解Niめっき、0.2μmの無電解Pdめっき、0.1μmの置換無電解Auめっきを行ない、絶縁基材10上に突出する導体層12がNi/Pd/Auの保護用金属被覆層(無電解めっき層)14で覆われたプリント配線板を得た(図14(C)参照)。
【0097】
比較実験例2により得られたプリント配線板の導体層付近の断面の状況を光学顕微鏡によって観察した結果を図16(E)に示し、またそのプリント配線板の平面および断面について走査型電子顕微鏡により観察した結果を図21に示す。
【0098】
以上の本発明実験例および比較実験例によるプリント配線板についての観察結果(図16の(A)〜(E)、図17〜図21)から、次のような事実が確認された。
すなわち、本発明実験例1〜3の場合は、いずれも、隣り合う端子部導体層の間の絶縁基材表面(第1面10A)に、保護用金属の異常析出が生じておらず、またとそれに伴うブリッジ現象も生じておらず、隣り合う端子部導体層の間が完全に分離していることが確認された。
これに対して、埋め込み基板を適用したが、導体層をエッチングにより窪ませずに保護用金属のめっきを行なった比較実験例1では、走査型電子顕微鏡での観察の結果、隣り合う導体層の間の絶縁基材表面に保護用金属の異常析出が生じて、ブリッジ現象が発生したことが確認された。
さらに、導体層を絶縁基材上に突出した状態で形成した比較実験例2の場合は、導体層の上面のみならず側面を覆う保護用金属が隣り合う導体層の間で連続してしまって、明確なブリッジ現象が発生していることが確認された。
【0099】
ここで、比較実験例2は、従来の一般的なセミアディティブ法を適用した例であり、この場合には、隣り合う導体層間の最小間隔Sが30μmで、保護用金属のブリッジ現象により隣り合う導体層の間が連続してしまっていた。
これに対して、本発明実験例1〜3では、隣り合う端子部導体層間の最小間隔Sを25μm以下に狭小化し、特に本発明実験例1、2では15μm以下に著しく狭小化しているが、これらの場合でも、隣り合う端子部導体層の間で保護用金属の異常析出やブリッジが認められなかった。したがって本発明によれば、端子部導体層間の最小間隔を25μm以下、さらには15μm以下まで狭小化しうることが明らかである。
なお比較実験例1では、導体層間の最小間隔が15μmであるが、異常析出していることから、25μm以下まで狭小化することは実際上困難と解され、特に15μm以下まで狭小化することは不可能であることが明らかである。
【符号の説明】
【0100】
10 絶縁基材
10A 第1面
10B 第2面
12 導体層
12a 端子部導体層
12b 配線回路導体層
13A、13B 開口穴
14 保護用金属の被覆層
15 保護用金属の被覆層
18 平埋め基板
20 支持体
121 幅方向中央部
122 幅方向両端部
S 最小間隔(スペース)
W1、W2 幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基材の平行な二つの面を第1面および第2面とし、そのうちの第1面に、配線回路および端子部を構成するパターンで導体層が埋め込まれており、かつその導体層のうちの端子部の導体層の表面に、導体層の金属とは異なる保護用金属からなる1層以上の被覆層が形成されてなる片面プリント配線板において、
前記端子部の導体層は、その表面が絶縁基材の第1面から窪んだ状態で形成されており、かつその窪んだ導体層の表面が前記1層以上の被覆層によって覆われており、しかもその1層以上の被覆層は、その表面が、前記絶縁基材の前記第1面と実質的に同一面以下に位置するように形成されており、さらに前記絶縁基材の前記第2面から、絶縁基材内の導体層のうち少なくとも1以上の導体層に達する1以上の開口穴が形成されていることを特徴とする片面プリント配線板。
【請求項2】
請求項1に記載された片面プリント配線板において、
前記開口穴底部の導体層の表面に、前記保護用金属と同種の金属からなる1以上の被覆層が形成されていることを特徴とする片面プリント配線板。
【請求項3】
請求項1、請求項2のいずれかの請求項に記載された片面プリント配線板において、
前記第1面の側の保護用金属の被覆層の表面が、前記絶縁基材の前記第1面より2μm高い位置以下に位置するように形成されていることを特徴とする片面プリント配線板。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかの請求項に記載された片面プリント配線板において、
前記導体層のうちの配線回路の導体層は、その表面が絶縁基材の前記一面と実質的に面一に形成されていて、その配線回路の導体層の表面に前記保護用金属被覆層が形成されていないことを特徴とする片面プリント配線板。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかの請求項に記載された片面プリント配線板において、
前記被覆層で覆われた端子部の導体層における、隣り合う導体層間の最小間隔が25μm以下であることを特徴とする片面プリント配線板。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかの請求項に記載された片面プリント配線板において、
前記第1面の側において被覆層で覆われた端子部の導体層は、その被覆層で覆われた面と前記絶縁基材の第1面との間の距離が、1〜7μmの範囲内となるように形成されていることを特徴とする片面プリント配線板。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかの請求項に記載された片面プリント配線板において、
前記被覆層で覆われた端子部の導体層は、被覆層で覆われた面と前記絶縁基材の前記一面との間の距離が、導体層の幅方向の中央部で小さく、幅方向両端部で大きくなるように形成されていることを特徴とする片面プリント配線板。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかの請求項に記載された片面プリント配線板において、
前記導体層が、銅もしくは銅合金によって形成されており、かつ前記保護用金属の材料が、Ni、Au、Pd、Sn、Ag、はんだ合金のうちから選ばれた1種以上のものであることを特徴とする片面プリント配線板。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれかの請求項に記載された片面プリント配線板を製造する方法であって:
絶縁基材の平行な二つの面を第1面および第2面とし、そのうちの第1面に、配線回路および端子部を構成するパターンで導体層を埋め込む埋め込み基板形成工程と、
絶縁基材の前記第2面から、前記絶縁基材内の導体層のうち少なくとも1以上の導体層に達する1以上の開口穴を形成する開口穴形成工程と、
前記開口穴形成工程の後、もしくはその前に、前記導体層のうちの端子部の導体層の前記絶縁基材第1面の側の表面をエッチングして、その表面を絶縁基材の第1面から凹状に窪ませるエッチング工程と、
前記エッチングされた端子部の導体層の表面を、導体層の金属とは異なる保護用金属によって、1層以上に被覆して保護用被覆層を形成する被覆工程と、
を有し、
かつ前記被覆工程では、保護用被覆層を、その表面が絶縁基材の第1面と実質的に同一面以下に位置するように形成することを特徴とする片面プリント配線板の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載された片面プリント配線板の製造方法において、
前記開口穴形成工程で形成された開口穴の底部の導体層表面にも、前記被覆工程において保護用金属の被覆層を形成することを特徴とする片面プリント配線板の製造方法。
【請求項11】
請求項9、請求項10のいずれかの請求項に記載された片面プリント配線板の製造方法において、
前記エッチング工程で、端子部の導体層の前記絶縁基材第1面側の表面をエッチングし、その後の被覆工程で、そのエッチングされた端子部の導体層の表面に保護用金属の被覆層を形成することを特徴とする片面プリント配線板の製造方法。
【請求項12】
請求項9〜請求項11のいずれかの請求項に記載された片面プリント配線板の製造方法において、
前記被覆工程で、保護用金属の被覆層を、その表面が前記絶縁基材第1面から2μm高い位置以下となるように形成することを特徴とする片面プリント配線板の製造方法。
【請求項13】
請求項9〜請求項12のいずれかの請求項に記載された片面プリント配線板の製造方法において、
前記エッチング工程で、端子部の導体層を、その絶縁基材第1面の側の表面の最上部が、絶縁基材第1面から1〜7μmだけ窪むまでエッチングすることを特徴とする片面プリント配線板の製造方法。
【請求項14】
請求項9〜請求項13のいずれかの請求項に記載された片面プリント配線板の製造方法において、
前記被覆工程が、無電解めっきもしくは電解めっきにより保護用金属を被覆する工程であることを特徴とする片面プリント配線板の製造方法。
【請求項15】
請求項9〜請求項14のうちのいずれかの請求項に記載された片面プリント配線板の製造方法において、
前記埋め込み基板形成工程が、支持体の表面上に導体層をパターンめっきにより形成した後、前記絶縁基材第1面に前記導体層を押し込み、その後、支持体を除去する工程であることを特徴とする片面プリント配線板の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−70043(P2013−70043A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−193878(P2012−193878)
【出願日】平成24年9月4日(2012.9.4)
【出願人】(597079681)株式会社 大昌電子 (42)
【Fターム(参考)】