説明

牛用面綱及びこれに用いられる綱結合具

【課題】汎用性が高く経済的で、且つ牛への着脱作業とか大きさの変更作業における作業性が良好な牛用面綱及び該面綱に用いられる綱結合具を提供する。
【解決手段】綱2を略格子状に組んで構成される牛用面綱において、上記綱2の三叉状の結合部に、略T形又は略Y形に延びて外周面上に開口する受溝33を備えた綱受材31と、該綱受材31に対して受溝33を覆うように螺着されるとともにその螺着側端面を綱押え面34とした綱押材32を備え、綱受材31の受溝33に綱2を二本並びで嵌入させた状態で該綱受材31に対して綱押材32を螺着し、綱受材31の受溝33と綱押材32の綱押え面34の間で綱2を挟圧保持するように構成した綱結合具を用いる。係る構成によれば、従来のような綱の結び方についての特殊技能を要することなく、素人でも上記面綱1を容易に作ることができ、該面綱1をより安価に提供することができるとともに、使用によって綱2が損傷したような場合には、該綱2のみを交換すればよく、極めて経済的である。

【発明の詳細な説明】
【技術の分野】
【0001】
本願発明は、畜産牛、特に子牛の頭部に装着して管理用綱の取付け等に使用される牛用面綱及びこれに使用される綱結合具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
畜産牛は、牛舎内で飼育される牛も牧場で放牧される牛も、その管理を容易とするために、管理用綱によって拘引するのが通例である。この場合、管理用綱を結ぶために、牛の鼻隔壁部分に鼻環あるいは鼻木を取り付け、この鼻環等に管理用綱を結び付けるのが一般的である。
【0003】
しかし、これら鼻環等は、牛の鼻隔壁部分を串刺しして取付けるものであるため、鼻隔壁の発達していない子牛には鼻環等を取付けることができず、このため、綱を格子状に結んで作った面綱を取付け、この面綱に対して、必要に応じて管理用綱を結びつけるようにしている。この面綱を用いる場合、一度装着したらいつまでもそのまま使用できるものではなく、子牛の頭部もその成長につれて大きくなるため、成長に合わせて面綱の大きさを変える必要がある。また、鼻環等を取付けることのできる成牛も、例えば、畜産市場での「競り」にかける場合等においては、鼻環等に代えて面綱が装着される。
【0004】
一方、この面綱91は、図12に示すように、綱92を二本並び状態で格子状に結んで作られる。そして、この面綱91は、図13に示すように、牛51の鼻部54から下顎55の部分に装着するとともに、その両端部分を側頭部56から後頭部57側へ引き出して結ぶことで、牛51に取付けられる。
【0005】
ところが、綱92を結んで上記面綱91を作る場合における綱92の結び方は特殊であり(即ち、使用中においては結び目が緩むことはなく、その一方、面綱91の大きさの調整時等においては結び目を容易に緩めることができるような結び方)、これを作ることのできる人が少なくなり、その入手が難しくなりつつある。さらに、このように綱92を結んで作られる面綱91においては、当然のことながら幾つかの結び目93〜96ができるが、これらの結び目93〜96は、上記綱92として比較的太い綱が用いられることから、比較的大きな球状に近い形状となる。このため、上記面綱91を牛51の頭部52部分に取付けた場合、上記結び目93〜96が牛51の皮膚に当たって擦られ、牛51に無用の苦痛を与えることも有り得る。
【0006】
このような事情を背景として、例えば、特許文献1に示されるように、布ベルトとD環を組み合わせて形成される面綱(特許文献1では、「子牛おもて」と称している)が提案されている。
【0007】
【特許文献1】 特開2004−141006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、この特許文献1に示される面綱では、これを構成する布ベルトが専用材であって、汎用性が乏しいことから、この布ベルトが使用によって損傷したような場合、例えD環は未だ十分に使用に耐え得るとしても、該D環を含めた面綱全体の交換が必要となり、不経済である。
【0009】
また、D環は、その構造上、結合と解除の二つの作動形態を択一的に採らざるを得ないことから、例えば、面綱の大きさを変更するような場合には、全てのD環について、一旦、結合状態を解除し、調整後に再度結合しなければならず、変更調整作業が煩雑であるという問題もある。
【0010】
そこで本願発明は、汎用性が高く経済的で、且つ牛への着脱作業とか大きさの変更作業における作業性が良好で、しかも装着状態において牛に与えるダメージが極めて少ない牛用面綱及び該面綱に用いられる綱結合具を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明ではかかる課題を解決するための具体的手段として次のような構成を採用している。
【0012】
本願の第1の発明に係る綱結合具では、綱2を二本並び状態で略T形又は略Y形に結合して三方へ延出させるための綱結合具であって、略T形又は略Y形に延びて外周面上に開口する受溝33を備えた綱受材31と、該綱受材31に対して上記受溝33を覆うように螺着されるとともにその螺着側端面を綱押え面34とした綱押材32を備え、上記綱受材31の上記受溝33に上記綱2を二本並びで嵌入させた状態で該綱受材31に対して上記綱押材32を螺着し、上記綱受材31の上記受溝33と上記綱押材32の上記綱押え面34の間で上記綱2を挟圧保持するように構成したことを特徴としている。
【0013】
本願の第2の発明では、上記第1の発明に係る綱結合具において、上記綱押材32の綱押え面34に、上記綱2に対して弾圧係止する掛止爪39を設けたことを特徴としている。
【0014】
本願の第3の発明に係る綱結合具では、綱2を二本並び状態で略T形又は略Y形に結合して三方へ延出させるための綱結合具において、厚さ方向に弾性変形可能で且つ面方向には引張剛性をもつ素材で構成された板状体に、綱2を二本並び状態で挿通可能な三個の開口30A〜30Cを、該各開口30A〜30Cが三角形の各頂点にそれぞれ対応するようにして設けて構成したことを特徴としている。
【0015】
本願の第4の発明では、綱2を二本並び状態で略格子状に組んで構成される牛用面綱であって、上記綱2の三叉状の結合部に、上記第1、第2又は第3の発明に係る綱結合具を用いたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
(a) 本願の第1の発明に係る綱結合具によれば、
(a−1) 上記綱結合具3が、上記綱受材31と綱押材32の螺回結合構造であることから、その着脱操作が容易であるとともに、その螺回量の調整によって上記綱2の結合力を容易に変更設定できる、
(a−2) 上記綱受材31と綱押材32を完全に分離させずとも、その螺回量を調整することで、上記綱2に対する結合力を緩めてその長さ調整等を行うことができ、例えば、従来のD環を用いる場合に比して、調整作業等を容易且つ迅速に行うことができる、
(a−3) 上記綱結合具3の端面を平坦面とすることができることから、例えば、上記綱結合具3を用いて面綱1を形成した場合には、該綱結合具3が牛51の皮膚に当たっても、これによって牛51に無用の苦痛を与えることが極めて少ない、
(a−4) 上記綱結合具3に意匠性をもたせることができ、例えば、従来のような綱の結び目に比して、美観性が良好となる、
等の効果が得られる。
【0017】
(b) 本願の第2の発明に係る綱結合具によれば、上記(a)に記載の効果に加えて以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、上記綱押材32の綱押え面34に、上記綱2に対して弾圧係止する掛止爪39を設けているので、上記綱受材31に対して上記綱押材32を螺合させ、これを締め込んで上記綱押え面34で綱2を弾圧することで、上記掛止爪39が上記綱2に自動的に掛止され、この掛止作用によって、上記綱押材32の使用中における不用意な緩みが阻止できる。この結果、上記綱結合具3による信頼性の高い結合作用が確保されるとともに、格別な緩み止め部材の付設が不要である分だけその低コスト化が図れる。
【0018】
(c) 本願の第3の発明では、綱2を二本並び状態で略T形又は略Y形に結合して三方へ延出させるための綱結合具を、厚さ方向に弾性変形可能で且つ面方向には引張剛性をもつ素材で構成された板状体に、綱2を二本並び状態で挿通可能な三個の開口30A〜30Cを設けて構成している。
【0019】
従って、この発明に係る綱結合具によれば、上記開口30A〜30Cに上記綱2を順次二本並び状態で挿通することで、何ら特別の技術を要することなく、上記綱2を二本並び状態で略T形又は略Y形に結合して三方へ延出させることができ、上記綱2を用いて牛用面綱を容易に得ることができる。
【0020】
また、上記綱結合具が、素材板材から所定形状に切り出した平板体に三個の開口30A〜30Cを打ち抜き形成することで得られることから、例えば、該綱結合具を切削加工等の製作作業を要する剛体構成とする場合に比して、低コスト化が図れ、延いては該綱結合具を用いて形成される面綱の低コスト化が図れる。
【0021】
また、上記綱結合具の上記各開口30A〜30Cに上記綱2を順次二本並び状態で挿通させた場合、該綱2の引出方向に対応して上記綱結合具がその板厚方向へ弾性変形し、該綱2と上記開口縁部との間に適度の挟圧による保持作用が働き、上記綱2の緩み止めがなされる。さらに、上記綱結合具が、その面方向に引張剛性をもっていることから、該綱結合具の上記各開口3A〜3Cに該綱結合具の面方向に上記綱2によって引張荷重が掛かっても、これを確実に出力状態することができる。これら両者の相乗作用によって、上記綱結合具を用いて結合される部分の結合強度の信頼性が確保される。
【0022】
一方、上記綱結合具が板状体で構成されていることから、特に上記綱結合具の厚さ方向のコンパクト化が促進され、特に上記綱結合具を用いて牛用面綱を制作した場合、この牛用面綱を牛の鼻部分に装着したときに、該鼻部分の表面上への盛り上がりを低く抑えることができ、牛用面綱を装着した場合における牛への違和感を軽減できるという効果も得られる。
【0023】
(d) 本願の第4の発明に係る牛用面綱によれば、綱2を二本並び状態で略格子状に組んで構成される牛用面綱において、上記綱2の三叉状の結合部に、上記第1、第2又は第3の発明に係る綱結合具を用いているので、
(d−1) 上記綱結合具3を用いることで、従来のような綱の結び方についての特殊技能を要することなく、素人でも上記面綱1を容易に作ることができ、該面綱1をより安価に提供することができる、
(d−2) 上記綱2は広く流通している汎用性が高いものであることから、使用によって上記綱2が損傷したような場合には、該綱2のみを交換すればよく、例えば、上掲の特許文献1のように、布ベルトの損傷等に際して、該布ベルトのみならず、未だ使用できるD環をも交換しなければならない場合に比して、極めて経済的である、
(d−3) 上記綱結合具3の端面を平坦面とすることができることから、上記綱結合具3を用いて作られた面綱1においては、該綱結合具3が牛51の皮膚に当たっても、これによって牛51に無用の苦痛を与えることが極めて少なく、牛51に対する保護性能に優れた面綱1を提供できる、
(d−4) 上記綱結合具3に装飾を施して意匠性を持たせることで、美観性に優れた面綱1を得ることができ、延いては該面綱1の商品価値が向上する、
(d−5) 特に、請求項1又は2に係る綱結合具3を用いて面綱1を構成した場合にあっては、上記綱結合具3の螺回量の調整によって、全て螺解せずに上記綱2の長さ調整ができるので、面綱1の着脱作業あるいはその大きさの変更調整作業が極めて容易であり、延いては牛51の管理コストの低減が可能であり、
(d−6) 特に、請求項3に係る綱結合具3を用いて面綱1を構成した場合にあっては、上記綱結合具3が弾性を持ち且つ平板体で構成されているので、面綱1によってこれを装着した牛の皮膚を傷めるようなことが可及的に防止される、
等の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を好適な実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0025】
「第1の実施形態」
図1には、本願発明の第1の実施形態に係る面綱1を牛51の頭部52に装着した状態を示している。また、図2には、上記面綱1の単体状態を示している。
【0026】
ここで、図1のように、上記牛51に上記面綱1を装着した状態では、牛51の鼻部54には第1綱部1Aと第2綱部1Bが上下から巻き掛けられ、下顎部55には第3綱部1Cが下側から巻き掛けられている。そして、上記第1綱部1Aと第2綱部1Bの左右両端と上記第3綱部1Cの左右両端は、それぞれ第4綱部1D、第5綱部1Eによって結合されている。さらに、上記第3綱部1Cの左右両端と上記第4、第5綱部1D,1Eの結合部からは、それぞれ第6、第7綱部1F,1Gが延出しており、これら第6、第7綱部1F,1Gを、それぞれ牛51の側頭部56を通して後頭部57側へ引き出し、ここでこれらを結ぶことで上記面綱1が牛51に装着保持される。
【0027】
そして、この面綱1が最も特徴とする点は、上記各綱部間の結合部に設けられた次述する綱結合具3の構成と、該綱結合具3を用いることで上記面綱1を一本の綱2で形成した点である。以下、これらについて詳述する。
【0028】
上記面綱1は、図2に示すように、一本の綱2を、上記各綱部1A〜1Gがそれぞれ二本並び状態となるように、所定手順で組み合わせて作られるものであって、上記第1綱部1Aと第2綱部1Bと第4綱部1Dの結合部と、上記第1綱部1Aと第2綱部1Bと第5綱部1Eの結合部と、上記第3綱部1Cと第4綱部1Dの結合部、及び上記第3綱部1Cと第5綱部1Eの結合部は、共に次述する綱結合具3を用いて三本の綱を結合するようにしている。
【0029】
上記綱結合具3は、図3〜図5に示すように、相互に螺着される綱受材31と綱押材32で構成される。
【0030】
上記綱受材31は、木材、樹脂材あるいは金属材で構成された略短柱状形態をもつものであって、その上面31aには、直径線に沿って直状に延び且つその両端が外周面31b上に開口する略U形の断面形状をもつ第1溝31Aと、該第1溝31Aの長さ方向略中央部に連続してこれと略直交方向へ延び且つその両端が外周面31b上に開口する略U形の断面形状をもつ第2溝33Bが設けられるとともに、その外周面の上面31a寄り部分にはオネジ38が設けられている。なお、上記綱押材32は、矢印R方向が螺締方向(締め込み方向)、矢印B方向が螺解方向(緩め方向)とされている。
【0031】
綱押材32は、上記綱受材31と同様に、木材、樹脂材あるいは金属材で構成された円板状形態をもち、その下面32b側には円形の嵌合凹部35が設けられるとともに、該嵌合凹部35の内周壁面には、上記綱受材31のオネジ38に噛合するメネジ40が設けられている。
【0032】
さらに、上記嵌合凹部35の周壁となる部分の端面(即ち、綱押材32の下面外周部分)は、後述のように上記綱受材31の受溝33に嵌入された綱2を上方から上記受溝33の溝底側に向かって押圧挟持する綱押え面34とされる。この綱押え面34は、図3に部分拡大するように、ノコ歯状の正面視形状をもち、その各突起を掛止爪39とするとともに、該掛止爪39の螺締方向寄りの面を上記掛止爪39の頂点から螺締方向前方側へ向かって上昇傾斜する傾斜面39aとする一方、該掛止爪39の螺解方向寄りの面を上記掛止爪39の頂点から上記綱押材32の軸心に略合致する方向へ延びる直状面39bとしている。
【0033】
なお、この実施形態では、上記綱押材32の上面32aを平滑面としているが、本願発明の他の実施形態では、例えば、図4に鎖線図示するように、上記上面32aに凹凸模様とか着色模様を付して意匠性を高めることもできる。
続いて、上記綱結合具3を用いて上記綱2を組み合わせて上記面綱1を作る場合の手順等を説明する。
【0034】
先ず、図2を参照して上記綱2の取り回しを説明する。なお、ここでは、上記綱結合具3について、説明の便宜上、該綱結合具3を、その配置位置に応じて3A〜3Dと記載するが、その構成は全て同じである。
【0035】
この実施形態では、一本の綱2を用いて、二本並びの上記各綱部1A〜1Fを形成するようにしており、該綱2の両端2a、2bは、それぞれ編み込み始端と編み込み終端とされ、これらで上記第6綱部1Fが形成される。
【0036】
具体的には、先ず、上記各綱結合具3A〜3Dにおいて、上記綱押材32を綱受材31から取り外し、該綱受材31の第1溝33Aと第2溝33Bに綱2をその上側から嵌入させ得る状態とする。
【0037】
この状態で、上記綱2の始端2aを一番目の綱結合具3Aから所定長さだけ余した状態で、該綱2を、一番目の綱結合具3Aの第2溝33Bから第1溝33A側へ屈曲状態で嵌入させたのち、さらにこれを二番目の綱結合具3Bの第1溝33A、三番目の第1溝33Aに嵌入させる。
【0038】
さらに、該綱2を、四番目の綱結合具3Dの第1溝33Aから第2溝33Bへ屈曲状に嵌入させた後、該四番目の綱結合具3Dから所定長さだけ引き出し、且つこれを折り返して、四番目の綱結合具3Dの第2溝33Bから第1溝33Aに屈曲状態で嵌入させたのち、一番目の綱結合具3Aの第1溝33Aを経て、二番目の綱結合具3Bの第1溝33Aから第2溝33Bに屈曲状に嵌入させる。
【0039】
さらに、二番目の綱結合具3Bから出た上記綱2を、上記四番目の綱結合具3Dと一番目の綱結合具3Aの間に張設された綱2を、その下側から潜って上側に引き出したのち、三番目の綱結合具3Cの第2溝33Bから第1溝33Aに屈曲状に嵌入させるとともに、さらに二番目の綱結合具3Bの第1溝33Aから第2溝33Bへ屈曲状に嵌入させる。
【0040】
さらに、上記二番目の綱結合具3Bから出る上記綱2を、上記四番目の綱結合具3Dと一番目の綱結合具3Aの間に張設された綱2を、その上側から潜って下側に引き出したのち、三番目の綱結合具3Cの第2溝33Bから第1溝33Aに屈曲状に嵌入させ、さらに四番目の綱結合具3Dの第1溝33Aに嵌入させたのち、上記一番目の綱結合具3Aの第1溝33Aから第2溝33Bに屈曲状に嵌入させて上記終端2bに至らせる。
【0041】
しかる後、上記各綱結合具3A〜3Bの各綱受材31に上記綱押材32を螺合させて該綱受材31と綱押材32を一体化する。この場合、上記各綱結合具3A〜3Dにおいては、図4及び図5に示すように、上記受溝33に嵌入された二本の綱2,2は、該受溝33の溝底と上記綱受材31の綱押え面34の間で弾圧挟持される。また、上記綱押材32の螺回操作に伴って上記綱押え面34の各掛止爪39が上記綱2に食い込んでこれに掛止される。この掛止作用は、上記綱2を綱結合具3からの引抜抵抗となる
【0042】
さらに、上記綱2のうち、上記受溝33の第1溝33Aと第2溝33Bに跨って屈曲状に嵌入された綱2は、図5に示すように、上記第1溝33Aと第2溝33Bの交差部に位置する出隅部36の直交方向へ延出する一対の壁面36a,36bに接触状態で嵌入されることから、該綱2の引抜方向において屈曲部分が引抜抵抗となる。
【0043】
従って、図5に示すように、上記綱受材31の第1溝33Aと第2溝33Bのそれぞれに上記綱2を二本並び状態で嵌入させた後、上記綱受材31に上記綱押材32を螺合させ、これを螺締方向Rへ回動させて締め込むことで、図4に示すように、上記綱受材31の受溝33の各第1溝33A及び第2溝33Bの外端寄り部分と上記綱押材32の上記綱押え面34との間で上記綱2が弾圧挟持されて所要の引抜抵抗が発生するとともに、上記綱押え面34の掛止爪39が上記綱2に食い込んでこれと掛止されることで引抜抵抗が発生し、さらに上記第1溝33Aと第2溝33Bの間の出隅部36においても引抜抵抗が発生する。
【0044】
また、上記綱押材32の綱押え面34に設けられた上記掛止爪39は、その螺締方向寄りの面を上記掛止爪39の頂点から螺締方向前方側へ向かって上昇傾斜する傾斜面39aとし、螺解方向寄りの面を上記掛止爪39の頂点から上記綱押材32の軸心に略合致する方向へ延びる直状面39bとしていることから、上記綱押材32の螺締方向Rへの回動は、上記直状面39bが上記綱2に食込んでこれに係止されることで可及的に阻止され、上記綱押材32の不用意な緩みが防止される。
【0045】
これら三つの引抜抵抗による引抜阻止作用と、上記掛止爪39による不用意な緩みの防止作用の相乗効果によって、上記綱2の上記綱結合具3部分での結合が信頼性の高い強固なものとなり、延いては上記綱結合具3を用いて作られた上記面綱1は、使用中における緩みの無い信頼性の高いものとなる。
【0046】
なお、上記綱押材32の螺締方向Rへの回動は、上記掛止爪39の螺締方向寄りの面が傾斜面39aとされていることで支障なく許容される。また、上記掛止爪39の直状面39bによって上記綱押材32の自然螺解が防止されるが、これは格別な回動力を掛けない限り、牛51の動きに伴う振動等では螺解されず緩まない、という意味である。従って、一旦、上記綱押材32を螺締方向Rに締め込んだ後も、例えば、上記綱押材32を螺解方向Lへ強制的に回動させることで、上記綱2が変形して上記掛止爪39との間の掛止作用が解除され、該綱押材32を緩めることができるものである。
【0047】
このように構成された上記綱結合具3、及び該綱結合具3を用いて作られた上記面綱1においては以下のような作用効果が得られる。
【0048】
即ち、上記綱結合具3は、上記綱受材31と綱押材32の螺回結合構造であることから、その着脱操作が容易であるとともに、その螺回量の調整によって上記綱2の結合力を容易に変更設定でき、例えば、一旦、面綱1を作った後の寸法調整作業や、上記綱2の交換作業が容易である。
【0049】
上記綱結合具3の端面を平坦面とすることができることから、例えば、上記綱結合具3を用いて面綱1を形成した場合には、該綱結合具3が牛51の皮膚に当たっても、これによって牛51に無用の苦痛を与えることが極めて少なく、牛51に対する保護性能が向上する。
【0050】
上記綱2を二本並び状態で略格子状に組んで上記面綱1を作る際、該綱2の三叉状の結合部に上記綱結合具3を用いているので、従来のような綱の結び方についての特殊技能を要することなく、素人でも上記面綱1を容易に作ることができ、該面綱1をより安価に提供することができる。
【0051】
また、上記綱2は広く流通している汎用性が高いものであることから、使用によって上記綱2が損傷したような場合には、該綱2のみを交換すればよく、例えば、従来のように、面綱全体を交換しなければならない場合に比して、極めて経済的である。
【0052】
さらに、上記綱結合具3に装飾を施して意匠性を持たせることで、美観性に優れた面綱1を得ることができ、延いては該面綱1の商品価値が向上する。
【0053】
「第2の実施形態」
図6には、本願発明の第2の実施形態に係る面綱1を牛51の頭部52に装着した状態を示している。また、図7には、上記面綱1の単体状態を示している。
【0054】
この実施形態の面綱1は、その基本構成を上記第1の実施形態における面綱1と同様とし、一本の綱2を、4個の綱結合具3を介して、二本並び状態で略T形又は略Y形に結合し、これを三方へ延出させて構成されるものであって、該第1の実施形態における面綱1と異なる点は、上記綱結合具3の構造である。
【0055】
即ち、上記第1の実施形態に係る綱結合具3は、これを剛性材で形成された二分割形の綱受材31と綱押材34で構成し、上記綱2を、上記綱受材31の受溝33によって延出方向を規定した上で、該綱受材31と綱押材34の両者間で挟持することでその滑りを規制し、これによって結合強度が高い結合構造を実現したものである。
【0056】
これに対して、この実施形態の上記綱結合具3は、図8に示すように、所定径の円板状の素材に三個の円形の開口30A〜30Cを穿設して構成されている。なお、この綱結合具3について、面綱1上における配置位置を特定する必要がある場合には、「3」という符号標記に代えて、便宜上「3A」〜「3C」と標記する。
【0057】
ここで、上記綱結合具3の素材は、その板厚方向へ弾性をもち、且つその平面方向には所要の引張剛性をもつものが最適であって、この実施形態では、例えば、上下一対のラバー板3a,3b間に、繊維補強層3cを挟設して構成されたものを採用している。
【0058】
さらに、この綱結合具3には、上記三個の開口30A〜30Cが穿設されているが、この場合、該綱結合具3の直径上の二点に所定間隔をもって二つの開口30A,30Bをそれぞれ設けるとともに、該各開口30A,30Bを結ぶ直線を挟んでその一方側へ他の開口30Cを設け、これらが二等辺三角形の各頂点に位置するように、その形成位置を設定している。このような開口の配置構成を採用した結果、上記綱結合具3の上記直線の他方側には平面状部分が残存するが、この残存部分には、例えば、「○○牛」等の牛の産地表示を行う表示材41等が貼付される。
【0059】
上記面綱1は、図7に示すように、上記綱結合具3を4個用い(符号3A〜3Dで示す)、該各綱結合具3の各開口30A〜30Cに、上記第1の実施形態の場合と同様の手順で上記綱2を二本並び状態で順次挿通することで、格子状形体をもつ面綱1が得られるものである(綱2の具体的な挿通順序等については、第1の実施形態の該当説明を援用し、ここでの説明を省略する)。
【0060】
図9には、上記綱結合具3の上記各開口30A〜30Cに対する上記綱2の挿通状態を拡大図示している。上記各開口30A〜30Cのそれぞれには、上記綱2が二本並び状態で挿通される。
【0061】
そして、上記各開口30A〜30Cに上記綱2が二本並び状態で挿通されることで、該各開口30A〜30Cにおいては、該各開口30A〜30Cの周縁と二本の綱2の間が競りあって両者間に摩擦力が作用すること、二本の綱2が上記各開口30A〜30Cを出たのち八字状に拡開状態で引き出されることから該各開口30A〜30Cの周縁に掛止される状態となること、さらに、上記綱結合具3が綱2の引き出し形状に追従するように該綱2の張力を受けて該綱結合具3の厚さ方向へ弾性変形し、二本の綱2と上記各開口30A〜30Cの周縁との間に掛止作用及び摩擦力が作用すること、等の相乗効果によって、上記綱結合具3と上記綱2の間に格別な掛止部材を設けなくても、上記綱2に張力が掛かった状態では、該綱2の上記綱結合具3の各開口30A〜30Cからの抜け止めがなされ、高い結合上の信頼性が得られるものである。
【0062】
尚、上記綱2を弛ませてその張力を消滅させることで、上記抜け止め作用が無くなり、上記綱2を上記各開口30A〜30Cから抜き差ししてその長さ調節、結合位置調節を行うことができる。
【0063】
以上のようにして、上記綱結合具3と綱2を用いて構成された面綱1を、牛51の頭部52に、その顔面53を避けて鼻部54から下顎部55にかけての部位に装着し、且つ上記綱2の両端部を後頭部57の後ろ側で結んだ装着状態が、図6に示す状態である。
【0064】
この面綱1を装着した場合の作用効果は、上記第1の実施形態の場合と同様であるが、さらに、この実施形態のものでは、上記綱結合具3が厚さ方向に弾性変形可能な平板体で構成されていることから、該綱結合具3が牛51の皮膚に当たっても、これによって牛51に無用の苦痛を与えることが極めて少なく、牛51に対する保護性能に優れた面綱1を提供できるという特有の効果もある。
【0065】
「第3の実施形態」
図10には、本願発明の第3の実施形態に係る面綱1を牛51の頭部52に装着した状態を示している。また、図11には、上記面綱1の単体状態を示している。
【0066】
この実施形態の面綱1は、上記第2の実施形態における面綱1の簡易タイプとして位置付けられるものであって、上記第2の実施形態では上記綱結合具3を左右に二個、合計四個用いて面綱1を構成していたのに対して、この実施形態では上記綱結合具3を左右に一個、合計二個用いて面綱1を構成したものである。
【0067】
従って、この実施形態の面綱1では、上記綱結合具3を四個用いて構成した第2の実施形態の面綱1の場合に比して、その装着状態での安定性という点においては劣るものの、装着作業が簡単となるとか、低コスト化が図れるという利点があり、簡易な牛の拘引に利用する面綱1として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本願発明の第1の実施形態に係る牛用面綱を装着した牛の頭部近傍の斜視図である。
【図2】図1に示した面綱の単体状態での形体を示す斜視図である。
【図3】図1に示した綱結合具の分解斜視図である。
【図4】図1に示した綱結合具の使用状態を説明する斜視図である。
【図5】図4のV−V断面図である。
【図6】本願発明の第2の実施形態に係る牛用面綱を装着した牛の頭部近傍の斜視図である。
【図7】図6に示した面綱の単体状態での形体を示す斜視図である。
【図8】図7に示した綱結合具の拡大斜視図である。
【図9】図8に示した綱結合具への綱の挿通状態を示す拡大図である。
【図10】本願発明の第3の実施形態に係る牛用面綱を装着した牛の頭部近傍の斜視図である。
【図11】図10に示した面綱の単体状態での形体を示す斜視図である。
【図12】従来の牛用面綱を装着した牛の頭部近傍の斜視図である。
【図13】図12に示した面綱の単体状態での形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
1 ・・面綱
2 ・・綱
3 ・・綱結合具
3A〜3D ・・綱結合具
30 ・・開口
31 ・・綱受材
32 ・・綱押材
33 ・・受溝
33A ・・第1溝
33B ・・第2溝
34 ・・綱押え面
35 ・・嵌合凹部
36 ・・出隅部
38 ・・オネジ
39 ・・掛止爪
40 ・・メネジ
41 ・・表示材
51 ・・牛
52 ・・頭部
53 ・・顔面
54 ・・鼻部
55 ・・下顎部
56 ・・側頭部
57 ・・後頭部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
綱(2)を二本並び状態で略T形又は略Y形に結合して三方へ延出させるための綱結合具であって、
略T形又は略Y形に延びて外周面上に開口する受溝(33)を備えた綱受材(31)と、該綱受材(31)に対して上記受溝(33)を覆うように螺着されるとともにその螺着側端面を綱押え面(34)とした綱押材(32)を備え、
上記綱受材(31)の上記受溝(33)に上記綱(2)を二本並びで嵌入させた状態で該綱受材(31)に対して上記綱押材(32)を螺着し、上記綱受材(31)の上記受溝(33)と上記綱押材(32)の上記綱押え面(34)の間で上記綱(2)を挟圧保持するように構成したことを特徴とする綱結合具。
【請求項2】
請求項1において、
上記綱押材(32)の綱押え面(34)に、上記綱(2)に対して弾圧係止する掛止爪(39)が設けられていることを特徴とする綱結合具。
【請求項3】
綱(2)を二本並び状態で略T形又は略Y形に結合して三方へ延出させるための綱結合具であって、
厚さ方向に弾性変形可能で且つ面方向には引張剛性をもつ素材で構成された板状体に、綱(2)を二本並び状態で挿通可能な三個の開口(30A)〜(30C)を、該各開口(30A)〜(30C)が三角形の各頂点にそれぞれ対応するようにして設けてなる綱結合具。
【請求項4】
綱(2)を二本並び状態で略格子状に組んで構成される牛用面綱であって、
上記綱(2)の三叉状の結合部に、請求項1、2又は3に記載の綱結合具が用いられていることを特徴とする牛用面綱。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−195223(P2009−195223A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303156(P2008−303156)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(507019891)