説明

牡蠣筏

【課題】台風接近時の強風や高波による損傷被害や赤潮による被害を回避することができる牡蠣筏を提供する。
【解決手段】牡蠣筏1は浮体3と、該浮体3上に縦横に格子状に組付けられる孟宗竹や樹脂等よりなり、浮体3は耐衝撃性を有して剛性のある硬質樹脂製等の太鼓状構造物よりなる中空状の容器6と、該容器6内に納められるゴム又は樹脂製の弾性体の浮袋7よりなり、容器6には通水孔を有して内部に海水が出入りできるようにしてあり、また浮体7は容器外にバルブを有し、該バルブを通して圧縮空気を注入することにより膨らんで容器内の海水を排出し、これにより容器6の浮力を大きくする一方、バルブを通して空気を抜くことにより、窄んで容器内に海水を入れ、これにより容器6の浮力を小さくして牡蠣筏1全体を海面下に沈降させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牡蠣養殖用の牡蠣筏に関し、ことに台風のような強風やこれに伴って発生する高波による被害を回避し、或いは赤潮による被害を軽減することができる牡蠣筏に関する。
【背景技術】
【0002】
牡蠣の養殖は多くの場合、帆立貝の貝殻に針金を通して一定間隔で取付けた採苗連を付着期幼生の出現盛期に筏から海中に吊り下げて牡蠣の幼生を付着させる採苗期と、採苗後、採苗連を引上げて干潟に移し、そこで潮の干満を利用して海水に浸したり、日や風波に当てて牡蠣の成長を抑制すると共に、牡蠣に付着する有害生物を死滅させて防除し、かつ抵抗力の強い種牡蠣を育成する抑制期と、採苗連から種牡蠣の付着する帆立貝を外し、新しい針金に通し替えて垂下連を作り、これを筏や棚等から海中に吊り下げて牡蠣を育成する本垂下期を経て行われ、使用される筏としては、その多くが適当間隔を置いて並べた各種材質でできた太鼓状構造物や発泡スチロール等よりなるほぼ円筒形をした浮体上に孟宗竹や樹脂管を縦横に格子状に組立てたものよりなっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、大型で強い勢力を保った台風による被害が農林水産業を始め、様々な分野で発生している。牡蠣養殖用の牡蠣筏に関しても強風や高波により流出したり、破損することによる直接的な被害が発生するほか、流出したり、破損した牡蠣筏が漁業操業や船舶航行の障害となったり、流出した資材が周辺海域に散逸する等の問題が発生し、また養殖中の牡蠣が赤潮被害により死滅する被害も見られており、台風等に伴う被害や赤潮被害を回避するため、牡蠣筏を移動させるのは容易でない。
【0004】
本発明は、上記の問題を解消し、強風や高波による被害を回避することができ、更には赤潮による被害を軽減することも可能な牡蠣筏を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、複数の浮体上に孟宗竹や樹脂管よりなる筒状体を縦横に組立てて、牡蠣の幼生が付着する採苗器を連ねた採苗連或いは牡蠣の種付着器を連ねた垂下連を海中に吊下げる牡蠣養殖用の牡蠣筏において、上記浮体のうち、少なくとも一部が浮力調整手段を有する浮体であり、該浮体の浮力の調整により牡蠣筏全体を海面下に沈降させることができるようにしたことを特徴とする。
【0006】
本発明の浮力調整手段としては、例えば浮体に取外し可能に取付けられる重り、圧縮空気を注入し或いは抜くことができる浮袋等を例示することができ、この中では浮力調整が容易な浮袋が望ましいが、浮袋と重りを併用してもよい。浮袋を使用する場合には、取外しができるようにして、台風接近時や赤潮発生時などの必要時にのみ取付けられるようにしてもよい。
【0007】
なお、従来の牡蠣筏で用いられていたドラム缶や発泡スチロール等の各種材質でできた太鼓状構造物よりなる浮体は、浮力調整手段が浮袋である場合、省くことができるが、浮袋が取外し可能で、必要時にのみ取付けられるような場合には、従来の牡蠣筏に用いられていたドラム缶や発泡スチロール等の各種材質でできた太鼓状構造物よりなる浮体と同様の浮体が用いられる。
【0008】
牡蠣筏を沈降させる際には、筏の所要箇所にバランサーとして重りを取付け、牡蠣筏の沈降が均等に行われるようにするのが望ましい。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の上記浮体がバルブを有し、該バルブを通して圧縮空気を注入することにより膨らみ、或いはバルブを通して圧縮空気を排出することにより窄む、ゴム又は樹脂製の可撓性のある浮袋よりなることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明の上記浮袋が耐衝撃性を有し、海水が出入りする通水孔を備えた容器内に納められることを特徴とする。
【0010】
本発明の容器は、海水に浸かるが、牡蠣筏を赤潮被害を避けるため、或いは餌の豊富な漁場等に移動させる際には、その移動がスムースに行えるように、流線形、例えば舟形に形成するのが望ましい。本発明の容器はまた、浮袋を組み込むときの組付け性を考慮し、或いは容器の保守・点検や破損部品の交換等の維持管理のため、分割するか、開閉可能な蓋を設けておくのが望ましい。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項2又は3に係る発明の浮袋が圧縮空気の注入、或いは排出が行われる内袋と、該内袋が入れられる外袋よりなることを特徴とする。
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4に係る発明において、各採苗連或いは垂下連の適所が浮体又は筒状体にワイヤー、ロープ等の索条によって連結されることを特徴とする。
【0012】
請求項6に係わる発明は、請求項1ないし5に係る発明において、牡蠣筏上にワイヤー、ロープ等の索条によって連結されるか、或いはロッドによって上下方向に枢動可能に連結される筏位置表示用のブイを設置し、筏が海面下に沈降したときに上記ブイが牡蠣筏より離れて海面上に浮遊することにより筏の位置を表示すると共に、上記ブイに浮力を持たせて、海面下に沈降した牡蠣筏の浮体の浮力の一部を負担させることを特徴とする。
【0013】
上記採苗連或いは垂下連には、好ましくはその適所に金属やプラスチックよりなるリングが取付けられ、ワイヤーやロープ等の索条をリングに通すことにより各採苗連或いは垂下連が連結できるようにされる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によると、台風や強風が予測されるときには、浮体の浮力を小さくし、筏全体を海面下、例えば海面より2m位の深さに沈降させる。水中では、海面に比べ、波による衝撃が小さく、牡蠣筏の破損が生じにくい。また赤潮が発生するときにも、筏全体を例えば海面下数mの深さまで沈降させることにより赤潮被害を軽減させることができ、赤潮対策のため牡蠣筏を移動させなくてもよくなる。
【0015】
請求項2に係る発明によると、浮袋から圧縮空気を抜いたり、注入することにより浮力調整を行い、牡蠣筏全体を簡易に浮沈させることができる。
請求項3に係る発明によると、漂流物や小型船舶が衝突するようなことがあっても、容器により浮袋を保護し、浮袋の損傷を防ぐことができる。
【0016】
請求項4に係る発明によると、外袋は弾力性を有するため、漂流物や小型船舶が衝突しても弾性変形して損傷しにくく、また内袋の保護機能を果たし、内袋の損傷を防ぐことができる。
【0017】
請求項5に係る発明によると、強風や高波により採苗連や垂下連が牡蠣筏より脱落するようなことがあっても、採苗連や垂下連に連結される索条を手繰り寄せることにより引き上げて牡蠣を回収することができる。
【0018】
請求項6に係わる発明によると、海面下に沈降したときに、筏位置表示用のブイが海面に浮くことにより、筏の位置を表示する事ができるため、航行船舶の接触や衝突による事故の防止を図ることができる。さらに、牡蠣筏を海面下に沈降させたとき、ブイに牡蠣筏の浮体の浮力の一部を負担させるようにしたことにより、海水中での牡蠣筏の安定的静止を向上させることができると共に、浮体数を低減させて牡蠣筏の製作コストを低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の牡蠣筏について図面により説明する。
図1は、牡蠣筏1の全体構成を示すもので、浮体3及び9上に孟宗竹や樹脂管等よりなる筒状体4を縦横に格子状に組付けてなり、浮体3は筒状体4上には図4及び図5に示すように、ロッド9により上下方向に枢動可能に連結される筏位置表示用のブイ8が設置されると共に、垂下連2が筒状体4に連結して吊下げられている。垂下連2には、図示していないが、適所に樹脂製のリングが取付けてあり、各垂下連2が筒状体4にリングに通したロープにより連結されている。
【0020】
浮体3は、図2及び図3に示すように、耐衝撃性を有して剛性のある硬質樹脂製、その他各種材質でできた太鼓状構造物よりなる中空状の容器6と、該容器6内に納められるゴム又は樹脂製の弾性体の浮袋7よりなり、容器6は通水孔を有して内部に海水が出入りできるようにされ、また分割されて開閉可能であり、分割して開けることにより浮袋7が出し入れできるようにしてある。
【0021】
浮袋7は図示していないが、各浮袋7を連結する配管10にバルブを有しており、該バルブを開けて牡蠣船に装備したコンプレッサーから圧縮空気を注入することにより図2に示すように膨張して容器6内の海水を上記通水孔を通して排出し、これにより浮体3の浮力を大きくさせるようになっている一方、バルブを開けて浮袋7内の圧縮空気を排出することにより図3に示すように窄んで容器6内に海水を取り込み、これにより浮体3の浮力を小さくさせるようになっている。
【0022】
図4は、浮体3が図2の状態にあるときの牡蠣筏1について示すものであり、図5は浮体3が図3の状態にあるときの牡蠣筏1について示すもので、浮体3の浮力を大にした図2の状態では、牡蠣筏1が海面に浮かび、浮体3の浮力を小にした図3の状態では、牡蠣筏1が海面下に沈むようになっており、筏位置表示用のブイ8は牡蠣筏1が海面に浮かぶ図4の状態では、筏上に置かれ、牡蠣筏1が海面下に沈降した図5の状態では、ロッド9により連結された状態で海面に浮かんで筏1の位置表示を行うようになっている。
【0023】
本発明の牡蠣筏は以上のように構成され、台風が接近して高波が発生することが予想されるときには、図5に示すように牡蠣筏1全体を海面下に沈降させる。これにより波13による影響が小さくなり、牡蠣筏1の破損が生じにくゝなる。図中、12は浮力調整機能を有さない,浮力を一定に保持する機能を持たせた発泡スチロール等よりなる浮体である。
【0024】
上記実施形態では、垂下連2が吊下げられるようになっているが、別の実施形態では採苗連が吊下げられる。また上記実施形態の浮体3は、取外しできるようになっていないが、別の実施形態では取外し可能で、中空状の太鼓状構造物や発泡スチロールよりなる浮体が、浮体3とは別に取付けられる。
【0025】
上記実施形態の浮体3は、容器6が太鼓状をなしているが、舟形に形成して牡蠣筏1の移動がスムースに行えるようにしてもよい。また、浮袋7は内袋と外袋の二重構造にし、外袋が圧縮空気の注入又は排出により膨らんだり、窄むようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る牡蠣筏の斜視図。
【図2】浮袋が膨張したときの浮体の概略断面図。
【図3】浮袋を窄めたときの浮体の概略断面図。
【図4】浮体の浮力を大にしたときの牡蠣筏を示す図。
【図5】浮体の浮力を小にしたときの牡蠣筏を示す図。
【符号の説明】
【0027】
1・・牡蠣筏
2・・垂下連
3、9、12・・浮体
4・・筒状体
6・・容器
7・・浮袋
8・・筏位置表示用のブイ
9・・ロッド
10・・配管
13・・波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の浮体上に孟宗竹や樹脂管よりなる筒状体を縦横に組立てて、牡蠣の幼生が付着する採苗器を連ねた採苗連或いは牡蠣の種付着器を連ねた垂下連を海中に吊下げる牡蠣養殖用の牡蠣筏において、上記浮体のうち、少なくとも一部が浮力調整手段を有する浮体であり、該浮体の浮力の調整により牡蠣筏全体を海面下に沈降させることができるようにしたことを特徴とする牡蠣筏。
【請求項2】
上記浮体がバルブを有し、該バルブを通して圧縮空気を注入することにより膨らみ、或いはバルブを通して圧縮空気を排出することにより窄む、ゴム又は樹脂製の可撓性のある浮袋よりなることを特徴とする請求項1記載の牡蠣筏。
【請求項3】
上記浮袋が耐衝撃性を有し、海水が出入りする通水孔を備えた容器内に納められることを特徴とする請求項2記載の牡蠣筏。
【請求項4】
上記浮袋が内袋と、該内袋が入れられ、かつ圧縮空気の注入、或いは排出が行われる外袋よりなることを特徴とする請求項1又は2記載の牡蠣筏。
【請求項5】
各採苗連或いは垂下連の適所が浮体又は筒状体にワイヤー、ロープ等の索条によって連結されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかの請求項に記載の牡蠣筏。
【請求項6】
牡蠣筏上にワイヤー、ロープ等の索条によって連結されるか、或いはロッドによって上下方向に枢動可能に連結される筏位置表示用のブイを設置し、筏が海面下に沈降したときに上記ブイが牡蠣筏より離れて海面上に浮遊することにより筏の位置を表示すると共に、上記ブイに浮力を持たせて、海面下に沈降した牡蠣筏の浮体の浮力の一部を負担させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの請求項に記載の牡蠣筏。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−39(P2007−39A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181576(P2005−181576)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000133294)株式会社ダイクレ (65)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【Fターム(参考)】