説明

物体検出装置、物体検出装置を備えた車両の安全システム

【課題】上下方向の分解能が所定レベルに満たないレーダによって検出された静止物体が車両の走行にとっての障害物であるか否かを精度良く判定可能な物体検出装置を提供する。
【解決手段】レーダ部10と、レーダ部10により自車両の前方に存在する絶対速度が所定値未満の物体を静止物体として検出する静止物体検出部20と、自車両の前方に存在する絶対速度が所定値以上の物体を移動物体として検出する移動物体検出部30と、静止物体の検出位置の周囲に、その範囲に存在する移動物体は該静止物体に衝突することを回避不可能又は該静止物体に既に衝突したと推定できるように定められる所定の探索範囲を設定する設定部40と、移動物体の検出結果のうちに検出位置が前記探索範囲に入る検出結果が存在する場合、前記検出された静止物体は自車両の走行にとって障害とならない非障害物であると判定する判定部50と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置によって物体を検知する物体検出装置及び物体検出装置の検知結果に基づいて危険回避制御を行なう車両の安全システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PCS(Pre-Crash Safety system)等の衝突回避又は衝突による被害の低減のための車両の安全システムが開発されている。
【0003】
ミリ波などの電波を用いるレーダ装置を備え、レーダ装置によって車両の走行にとって障害となる障害物を検知した場合に、自動制動や運転者への警報といった危険回避制御を行なう安全システムが公知である。
【0004】
このようなレーダ装置を備えた安全システムでは、マンホールや歩道橋のような実際には車両の走行の障害とならない物体を障害物として誤検知し、本来不要の危険回避制御が行なわれてしまう場合がある。
【0005】
このような不要な危険回避制御を防止することを目的として、特許文献1には、停止物
を検知するための反射波の受信レベルの閾値を、停止物が自車両の近傍の一定範囲内にある場合にのみ、移動物体を検知するための反射波の受信レベルの閾値よりも高くすることにより、自車両の近傍にある停止物(通過可能なゲートのバーなど)を障害物として検知しないようにする技術が提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−40646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
車両の安全システムのために搭載されるミリ波レーダでは、一般に左右方向のチャンネルのみスキャンする。そのため、車両の安全システムに搭載されるレーダは上下方向の分解能が低く、前方に静止物体を検出した場合に、その静止物体が路上散乱物のように車両の走行の障害となる静止物体なのか、歩道橋やマンホールのふたのように車両の走行の障害とならない静止物体なのかを区別することが難しい。
【0008】
特許文献1に記載の技術では、自車両の近傍の一定範囲内に検出した停止物を非障害物
と判定するため、自車両の近傍の一定範囲内にある真の障害物と非障害物とを区別することが難しい。また、例えば歩道橋とゲートのバーとはいずれも非障害物だが、自車両からの距離が異なるため、検出した停止物がある一定範囲内にあるか否かだけでは、障害物か否かの判定を正確に行なうことは難しい。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、上下方向の分解能が所定レベルに満たないレーダによって検出された静止物体が車両の走行にとっての障害物であるか否かを精度良く判定可能な物体検出装置を提供することを目的とする。また、上下方向の分解能が所定レベルに満たないレーダによって検出された静止物体が車両の走行にとっての障害物であると判定された場合に、車両に対して所定の危険回避制御を行なう車両の安全システムにおいて、不要な危険回避制御の実行を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、本発明の物体検出装置は、自車両の前方に存在する物体を検出するレーダ部の検出情報ににより自車両の前方に存在する静止物体又は移動物体を検出し、前記静止物体の周囲の所定範囲内に前記移動物体が検出された場合、前記静止物体を非障害物と判定することを特徴とする。
【0011】
より詳細には、本発明の物体検出装置は、
上下方向の分解能が所定レベルに満たないレーダにより自車両の前方に存在する物体を検出するレーダ部と、
前記レーダ部により自車両の前方に存在する絶対速度が所定値未満の物体を静止物体として検出する静止物体検出部と、
自車両の前方に存在する絶対速度が前記所定値以上の物体を移動物体として検出する移動物体検出部と、
前記静止物体検出部により検出された静止物体の検出位置の周囲に、その範囲に存在する移動物体は該静止物体に衝突することを回避不可能又は該静止物体に既に衝突したと推定できるように定められる所定の探索範囲を設定する設定部と、
前記移動物体検出部による移動物体の検出結果のうちに検出位置が前記探索範囲に入る検出結果が存在する場合、前記静止物体検出部により検出された静止物体は自車両の走行にとって障害とならない非障害物であると判定する判定部と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
移動物体検出部が検出する移動物体としては、自車両の前方を走行する先行車の他、自車両の前方において静止していないあらゆる物体を想定している。一般の車道を走行している場合には、このような移動物体は、自車両と同等のポリシーで移動を行なっていると推定できる。すなわち、自車両前方の移動物体が回避する必要がないと判断していると推定される静止物体や実際に回避しなかったと推定される静止物体は、自車両にとっても回避する必要がないと判断できる。静止物体の検出位置の周囲に上記のように設定される探索範囲内にその検出位置が入っている移動物体は、該静止物体に衝突することを回避不可能か又は該静止物体に既に衝突したと推定できるので、本発明の物体検出装置では、該静止物体は自車両にとっても回避する必要がない非障害物と判定する。これにより、上下方向の分解能が低いレーダを用いた物体検出装置であっても、車両前方に存在するマンホールのふたや歩道橋のような走行の障害とならない静止物体を障害物と誤判定することを抑制でき、自車両前方に存在する静止物体が障害物か否かを精度良く判定することが可能になる。
【0013】
ところで、例えば歩行者が車道を横断しようとして車道に接近し、車道の近傍で静止して横断できる機会をうかがっているような状況では、該歩行者は静止物体検出部により静止物体として検出され、更に該歩行者の周囲の探索範囲に先行車の検出位置が入り、結果として該歩行者が非障害物と判定されることになる。しかしながら、該歩行者は先行車の通過を待って自車両前方で車道の横断を試みる可能性があり、その場合該歩行者は自車両にとっては回避すべき障害物となる。
【0014】
この歩行者のような物体を障害物と判定できるようにするために、本発明の物体検出装置において、
前記静止物体検出部により検出された静止物体の、静止物体検出部による当該検出がなされるまでの移動履歴を取得する移動履歴取得部を備え、
前記移動履歴取得部により取得された移動履歴に、自車両の進路に接近する向きに移動する移動履歴が存在する場合、前記判定部は、前記移動物体検出部による移動物体の検出結果のうちに検出位置が前記探索範囲に入る検出結果が存在しても、前記静止物体検出部
により検出された静止物体を非障害物とは判定しないようにしても良い。
【0015】
これにより、静止物体検出部と移動物体検出部による検出時における静止物体と移動物体との位置関係が、該静止物体が該移動物体にとって回避する必要がないか又は回避する必要がなかったと推定できる位置関係であっても、該静止物体に自車両の進路に接近する向きに移動する移動履歴が存在する場合は、その後静止物体が移動して、自車両によって回避する必要のある障害物となる可能性があると判断することができる。従って、自車両前方に存在する静止物体が障害物か否かをより精度良く判定することが可能になる。
【0016】
これは、非障害物と判定される条件を満たす静止物体がその後自車両にとって障害物となり得る位置に移動する可能性があると判断できる場合は該静止物体を非障害物とは判定しないことを旨とする処理だが、一旦非障害物と判定した静止物体がその後実際に自車両にとって障害物となり得る位置に移動を開始したことを検出した場合に、該静止物体に対する非障害物判定を取り消す処理を行なうようにしても良い。
【0017】
すなわち、本発明の物体検出装置において、
前記判定部により非障害物と判定された前記静止物体の当該判定がなされた後の移動を検出する移動検出部を備え、
前記移動検出部により前記静止物体の前記移動が検出された場合、前記判定部は、当該物体についての前記非障害物判定を取り消しても良い。
【0018】
これにより、自車両前方に存在する静止物体が障害物か否かをより精度良く判定することが可能になる。
【0019】
車速が遅いほど、車両にとって回避不可能な物体の存在範囲は狭くなる。従って、本発明の物体検出装置において、
前記設定部は、前記移動物体検出部により検出された移動物体の絶対速度の検出値に基づいて前記探索範囲の左右方向の幅を決定するものであって、前記絶対速度の検出値が遅いほど前記左右方向の幅を小さくしても良い。
【0020】
これにより、静止物体検出部の検出した静止物体が自車両にとって障害物となるか否かをより精度良く判定することが可能になる。
【0021】
本発明の物体検出装置において、移動物体検出部は、レーダ部によって自車両の前方に存在する移動物体を検出しても良い。この場合、静止物体検出部と移動物体検出部は同一のレーダ部を用いてそれぞれの検出を行なう。また、移動物体検出部は、静止物体検出部が用いるレーダ部とは別のレーダ装置を用いて移動物体の検出を行なうものであっても良いし、レーダ装置とは異なる装置に基づいて、例えば撮像装置によって撮影された画像に基づいて物体検出を行なう装置などを用いて移動物体の検出を行うものであっても良い。
【0022】
本発明の物体検出装置において、前記移動履歴取得部は、前記静止物体検出部により検出された静止物体に関する前記レーダ部による過去の検出結果に基づいて前記移動履歴を取得しても良い。この場合、移動履歴取得部は、レーダ部による検出結果に基づいて静止物体の移動履歴を取得するが、該レーダ部とは別のレーダ装置による検出結果に基づいて静止物体の移動履歴を取得しても良いし、上記のようにレーダ装置とは異なる検出装置による検出結果に基づいて静止物体の移動履歴を取得しても良い。
【0023】
本発明の物体検出装置において、前記移動検出部は、前記レーダ部によって前記静止物体の移動を検出しても良い。また、該レーダ部とは別のレーダ装置によって静止物体の移動を検出しても良いし、上記のようにレーダ装置とは異なる検出装置によって静止物体の
移動を検出しても良い。
【0024】
本発明は、以上説明した物体検出装置を備え、該物体検出装置によって車両の前方に障害物が検出された場合に、該物体検出装置を搭載した車両に対して所定の危険回避制御を行なう制御部を備えた車両の安全システムとして捉えることもできる。
【0025】
危険回避制御は、例えば、障害物との衝突を回避するように、又は衝突の被害を軽減するように制動装置を自動制御したり、運転者に自発的な危険回避行動をとらせるべく警報を発したり、といった種々の公知の制御である。このような車両の安全システムによれば、自車両前方に存在する障害物の検出を契機として危険回避制御が実行されるとともに、本来危険回避制御の実行の契機となるべきではない非障害物を障害物として誤検出し、それを契機として不要な危険回避制御が実行されることを抑制することが可能になる。従って、本発明によれば車両の安全システムの作動精度を高めることができ、車両の快適性を向上させることが可能になる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、上下方向の分解能が所定レベルに満たないレーダによって検出された静止物体が車両の走行にとっての障害物であるか否かを精度良く判定することが可能な物体検出装置を提供することができる。また、上下方向の分解能が所定レベルに満たないレーダによって検出された静止物体が車両の走行にとっての障害物であると判定された場合に、車両に対して所定の危険回避制御を行なう車両の安全システムにおいて、不要な危険回避制御の実行を抑制する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例に係る物体検出装置及び物体検出装置を備えた安全システムの機能構成の概略を表すブロック図。
【図2(A)】自車両、先行車、静止物体及び探索範囲の前後方向の範囲の関係を示す図。
【図2(B)】範囲内の移動物体が静止物体に衝突することを回避不可能又は該静止物体に既に衝突したと推定できるように静止物体の検出位置の左右方向及び前後方向に定められる探索範囲を示す図。
【図3(A)】静止物体として検出された物体の過去の移動履歴の例を示す模式的な俯瞰図。
【図3(B)】静止物体として検出された物体の過去の移動履歴の例を示す模式的な図。
【図4】実施例に係る物体検出装置による障害物判定処理を表すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ここでは、本発明に係る物体検出装置を車両の安全システムに適用した場合の実施例について説明する。
【0029】
図1は、本実施例に係る物体検出装置を備えた安全システムと、この安全システムを搭
載した車両の概略の機能構成を表すブロック図である。
【0030】
車両100は、物体検出装置110が車両100の進路上に車両100の走行にとっての障害物を検出した場合に、制御部120により所定の危険回避制御を実行する安全システムを搭載して
いる。危険回避制御としては、追突時の乗員のむち打ち障害を軽減するようにヘッドレスト130の位置を変化させたり、衝突を回避又は衝突の被害を軽減するようブレーキ140を自動制御したり、運転者に自発的な危険回避行動を行なわせるべく警報器150により警報を
発したり、といった制御を例示できる。これらの危険回避制御は例示のためのものであっ
て、制御部120により実行される危険回避制御をこれらに限定することを旨とするもので
はない。
【0031】
物体検出装置110は、レーダ部10と、静止物体検出部20と、移動物体検出部30と、設定
部40と、判定部50と、移動履歴取得部60と、移動検出部70と、を備える。
【0032】
<レーダ部10>
レーダ部10は、車両100の前方にミリ波を放射するとともにミリ波を反射する物体から
の反射波を受信し、該反射波の情報から車両100の前方に存在する物体を検出する。本実
施例のレーダ部10は、左右方向のチャンネルのみスキャン可能に構成され、上下方向の分解能は所定レベルに満たないものとする。ここで、所定レベルとは、自車両の前方に検出された物体が、路上にあり車両が衝突し得るもの(路上散乱物など)か、頭上にありくぐり抜けられるもの(歩道橋など)か、路上にあり走行の障害とならないもの(マンホールのふたなど)か、を区別することが可能な分解能レベルである。物体検出部12は、反射波の角度から物体の方向を検出し、ミリ波を放射してから反射波を受信するまでの時間から物体までの距離を検出し、反射波の周波数変化からドップラー効果に基づく計算によって車両100と物体との相対速度を検出する。
【0033】
<静止物体検出部20>
静止物体検出部20は、レーダ部10により自車両の前方に存在する絶対速度が所定値未満の物体を静止物体として検出する。所定値は、レーダ部10の誤差を考慮し、静止物体と移動物体とを確実に区別可能なように設定される、物体の絶対速度の検出値に関する閾値である。例えば、絶対速度の検出値が10km/h未満である物体を静止物体として検出する。静止物体として検出することを想定している物体は、地面に対する相対速度がほぼ0の物体
であり、車両100の進路上に静止している人間や路上散乱物などのような走行の障害にな
る物体の他、歩道の安全な位置に静止している歩行者、歩道橋、ゲートのバーなどの走行の障害にならない物体も含まれる。
【0034】
<移動物体検出部30>
移動物体検出部30は、レーダ部10により自車両の前方に存在する絶対速度が所定値以上の物体を移動物体として検出する。移動物体として検出することを想定している物体は、具体的には先行車であるが、これは自車両のすぐ前に存在する先行車に限らない。また、先行車以外の移動物体も検出対象として想定している。
【0035】
なお、本実施例では、移動物体の検出も静止物体の検出もどちらもレーダ部10によって行なう構成を例示したが、静止物体の検出のみレーダ部10によって行い、移動物体の検出はレーダ部10とは異なる検出装置によって行なっても良い。その検出装置はレーダ部10と同様のミリ波レーダを用いたものであってレーダ部10とは別体として構成されるレーダであっても良いし、撮像装置によって取得した画像を用いて移動物体を検出するものであっても良い。撮像装置によって取得した画像の中から移動物体を検出する方法は公知の方法を用いることができる。この場合、ステレオカメラを用いることによって移動物体の位置を取得するようにしても良い。要は、自車両の前方に存在し、絶対速度が所定速度以上の物体を検出できるものであればどのような検出装置も用い得る。
【0036】
<設定部40>
設定部40は、静止物体検出部20により検出された静止物体の検出位置の周囲に、その範囲に存在する移動物体は該静止物体に衝突することを回避不可能又は該静止物体に既に衝突したと推定できるように定められる所定の探索範囲を設定する。
【0037】
図2は、設定部40により設定される探索範囲を説明するための図である。図2(A)は、
自車両、先行車及び静止物体の前後関係を示す図である。図2(B)は、探索範囲を示す図である。
【0038】
図2(B)において、位置Xは、静止物体検出部20により検出された静止物体の検出位置
を表す。図2(B)に示すように、探索範囲は、静止物体の検出位置Xの左右方向にそれぞ
れ幅A、静止物体の検出位置Xの前方向に幅B1、静止物体の検出位置Xの後方向に幅B2の範
囲である。探索範囲は、レーダ部10により移動物体として検出された物体(先行車)の検出位置がこの範囲内に入っていれば、当該移動物体はこの静止物体を既に通過したか、又はこれから到達することが不可避と判断できる範囲である。
【0039】
具体的には、左右方向の幅Aは、先行車の絶対速度に応じた定数とする。先行車の絶対
速度は速度検出部40により検出する。本実施例では、先行車の絶対速度が遅いほど、左右方向の幅Aを小さい値に設定する。例えば、先行車の絶対速度が50km/hの通常走行時は1.0m、15km/hの徐行時は0.5mとする。この設定値は一例であり、先行車の絶対速度に応じて
幅Aを連続的に変化させても良いし、複数の値に段階的に切り替えても良い。
【0040】
前方向の幅B1は、前回の演算時から今回の演算時までの期間Δtのいずれかの瞬間に静
止物体の検出位置Xに存在した移動物体が、今回の演算時に存在し得る範囲であり、静止
物体の距離の検出値Ds、静止物体の相対速度の検出値Vs、先行車の相対速度の検出値Vl、演算時間Δtとした場合、B1=Ds+(Vl-Vs)×Δtである。演算時間Δtは、判定部20による障害物判定処理の実行周期に基づいて定まる。
【0041】
後方向の幅B2は、今回の演算時から次回の演算時までの期間Δtにおいて静止物体の位
置に到達するか、又は静止物体の位置に到達することが不可避の範囲であり、衝突余裕時間TTCとした場合、B2=Ds-(Vl-Vs)×Δt-(Vl-Vs)×TTCである。本実施例では衝突余裕時間TTCを0.6sとする。この設定値は一例であり、静止物体と移動物体との相対距離の検出値
、静止物体に対する移動物体の相対速度の検出値に応じて設定しても良い。
【0042】
<判定部50>
判定部50は、移動物体検出部30による移動物体の検出結果のうちに検出位置が探索範囲に入る検出結果が存在する場合、静止物体検出部20により検出された静止物体は自車両の走行にとって障害とならない非障害物であると判定する。判定部50は、判定結果を制御部120に渡す。判定部20が静止物体を障害物であると判定した場合は、制御部120が上述した危険回避制御を実行する一方、判定部20が静止物体を障害物ではないと判定した場合は、制御部120は上述した危険回避制御を実行しない。判定部50による障害物判定処理の詳細
は後述する。
【0043】
<移動履歴取得部60>
移動履歴取得部60は、静止物体検出部20により検出された静止物体の静止物体検出部20による当該検出がなされるまでの移動履歴を取得する。移動履歴取得部60は、レーダ部10による物体の検出結果を取得し、当該検出結果の一定期間分の履歴を保存する。後述するように、判定部50による障害物判定処理では、過去に車道に接近する向きの移動をしていた履歴がある静止物体については、非障害物とは判定しない、という処理が行なわれる。判定部50は、静止物体検出部20が検出した静止物体に関する過去の移動履歴を確認するために、移動履歴取得部60に保存されているレーダ部10による過去の検出結果を参照する。検出結果を保存する「一定期間」は、判定部50による上記の処理において、静止物体検出部20が検出した静止物体の過去の移動履歴をどの程度までさかのぼって確認するか、という設定に応じて決定される。
【0044】
なお、本実施例では、移動履歴取得部60がレーダ部10による検出結果の履歴を保存する
構成を例示したが、レーダ部10以外の何らかの検出装置による検出結果を保存するものであっても良い。
【0045】
<移動検出部70>
移動検出部70は、判定部50により非障害物と判定された静止物体の当該判定がなされた後の移動を検出する。移動検出部70は、レーダ部10による検出結果を取得して、それに基づいて、一旦非障害物判定がなされた静止物体のその後の動きを監視する。後述するように、本実施例では、一旦判定部50により非障害物と判定された静止物体についても、当該判定がなされた後に動き始めたことが移動検出部70により検出された場合には、非障害物との判定を取り消し、危険回避制御の実行契機となり得る物体として扱う。
【0046】
<障害物判定処理>
移動物体検出部30により検出された移動物体の検出位置X1が探索範囲内に入っていれば、この移動物体にとって、この静止物体は、回避する必要がなかった(従って通過した)か、又は回避する必要がない(従って衝突が不可避の状態にある)物体である。自車両前方に存在する移動物体(先行車)は自車両と同等のポリシーに従って移動していると仮定すれば、先行車にとって回避する必要がなかった静止物体や先行車が回避する必要がないと判断している静止物体は、自車両にとっても同様に回避する必要がないと推定できる。この推定に基づき、本実施例の判定部50は、静止物体検出部20が検出した静止物体の検出位置の周囲に設定部40が設定する探索範囲内に、移動物体検出部30が検出したいずれかの移動物体の検出位置が入っている場合は、この静止物体を非障害物と判定する。そして、この静止物体の静止物体検出部20による検出を契機として制御部120が危険回避制御を実
行することを抑止する。一方、この探索範囲内に、移動物体検出部30が検出したいずれの移動物体の検出位置も入っていない場合は、この静止物体を非障害物とは判定しない。この場合、必要に応じてこの静止物体を障害物として判定し、この静止物体の静止物体検出部20による検出を契機として制御部120に危険回避制御を実行させるようにしても良い。
【0047】
例えば、図2(B)に示すように、移動物体検出部30により検出された移動物体の検出位置X1は、静止物体検出部20により検出された静止物体の検出位置Xの周囲に設定される探
索範囲に入っているので、判定部50はこの静止物体を非障害物と判定する。従って、静止物体検出部20によるこの静止物体の検出を契機として制御部120が危険回避制御を実行す
ることはない。一方、移動物体検出部30により検出された移動物体の検出位置X2は、この探索範囲に入っていないので、判定部50は、他の移動物体の検出位置でこの探索範囲に入るものが存在しない限り、この静止物体を非障害物とは判定しない。従って、静止物体検出部20によるこの静止物体の検出を契機として制御部120は自車両がこの静止物体に衝突
することを回避又は衝突の被害を軽減すべく危険回避制御を実行する。
【0048】
ここで、図3(A)に示すように、歩道にいる歩行者が道路を左から右へ横切ろうとしている状況を考える。歩行者が、先行車の通過を待って自車両の前で無理に道路を横断しようとすれば、歩行者が自車両の衝突コースに入る虞がある。従って、この状況は、運転者へ警報を発したり、自動制動で自車両の速度を落としたり、といった危険回避制御を制御部120が実行すべき状況であると言える。
【0049】
ここで、この歩行者が歩道で静止して道路を横断する機会をうかがっているとすると、歩行者は静止物体として静止物体検出部20により検出される。歩行者の静止位置が道路脇であれば、この歩行者の検出位置Xの周囲に設定される探索範囲内に、先行車の検出位置X1が入る可能性がある。その場合、上述した障害物判定処理により、歩行者が非障害物と
して判定され、歩行者の検出を契機とした危険回避制御は実行されない。
【0050】
そこで、このような状況において歩行者の検出を契機とする危険回避制御が実行される
ように、本実施例では、静止物体検出部20が検出した静止物体の検出位置を基準として設定される探索範囲内にその検出位置が入る移動物体が移動物体検出部30により検出された場合であっても、静止物体検出部20による当該静止物体の検出がなされるまでの移動履歴に自車両の進路に接近する向きに移動する移動履歴が存在する場合は、当該静止物体を非障害物とは判定しない。
【0051】
図3の例に即して説明する。ここでは、図3(B)に示すように、歩行者は時刻t1からt3
にかけて、歩道から車道に向かって移動し、時刻t3からt4において車道の脇で静止していたとする。そして、時刻t3において静止物体検出部20により歩行者が静止物体として検出され、設定部40により歩行者の検出位置X(t3)の周囲に探索範囲が設定され、移動物体検
出部30により検出された先行車の検出位置X1(t3)がこの探索範囲に入ったとする。この時、判定部50は、移動履歴取得部60から、歩行者が時刻t3において静止物体検出部20により検出されるまでの一定期間分の検出結果を取得し、時刻t1からt3にかけての歩行者の移動履歴を確認する。判定部50は、時刻t1からt3にかけての歩行者の移動履歴に、自車両の進路である車道へ接近する向きの移動履歴が存在することを確認した場合、歩行者の検出位置X(t3)の周囲に設定される探索範囲内に先行車の検出位置X1(t3)が入っていても、当該
歩行者を非障害物とは判定しない。そして、必要に応じて制御部120に危険回避制御の実
行を指示する。一方、歩行者の移動履歴に、車道へ接近する向きの移動履歴が存在しないことを確認した場合、例えば、歩行者が道路脇の一定の位置で長時間立ち話をしているなどの状況が考えられ、このような場合には、この歩行者は自車両の進路に侵入する可能性は低いので、この歩行者を非障害物と判定し、危険回避制御の実行を抑止する。なお、時刻t3において非障害物としての認定が行なわれなかった静止物体については、時刻t4以降の障害物判定処理の対象とせず、非障害物でないとの判定を維持するようにしても良い。或いは、一定期間非障害物でないとの判定を維持した後、再度障害物判定をやり直しても良い。或いは、時刻t4においても最初から障害物判定処理を行なって判定しても良い。
【0052】
このように、本実施例に係る物体検出装置を備えた安全システムによれば、レーダ装置による車両前方の静止物体の検出を契機とする危険回避制御の実行要否を精度良く判定することができる。従って、必要な危険回避制御が実行されないことを抑制しつつ、不要な危険回避制御が実行されることを抑制することが可能となる。
【0053】
<フローチャート>
図4は、以上説明した本実施例の障害物判定処理の手順を表すフローチャートである。
【0054】
ステップS10で、判定部50は、静止物体検出部20による静止物体の検出結果を取得する

【0055】
ステップS20で、判定部50は、静止物体検出部20による静止物体の検出があるか判定す
る。静止物体の検出がある場合、判定部20はステップS30に進み、静止物体でない場合は
本フローチャートの処理を終了する。
【0056】
ステップS30で、判定部50は、移動履歴取得部60が取得した、静止物体検出部20により
検出された静止物体の当該検出されるまでの移動履歴を確認し、当該静止物体の移動履歴に自車両の進路に接近する向きの移動履歴が存在するか判定する。静止物体の移動履歴に自車両の進路に接近する向きの移動履歴が存在する場合、判定部50はステップS40に進み
、存在しない場合は本フローチャートの処理を終了する。
【0057】
ステップS40で、判定部50は、移動物体検出部30による移動物体(先行車)の検出があ
るか判定する。移動物体の検出がある場合、判定部50はステップS50に進み、移動物体の
検出がない場合は本フローチャートの処理を終了する。
【0058】
ステップS50で、設定部40は、移動物体検出部30による前記移動物体の検出結果に基づ
いて当該移動物体の絶対速度を取得し、当該絶対速度に応じて探索範囲の幅Aを決定する
。また、設定部40は、静止物体検出部20及び移動物体検出部30による前記静止物体及び前記移動物体の検出結果に基づいて当該静止物体までの距離の検出値Ds、移動物体の相対速度の検出値Vl、静止物体の相対速度の検出値Vsを取得し、探索範囲の前方範囲B1及び後方範囲B2を決定する。
【0059】
ステップS60で、判定部50は、移動物体検出部30による移動物体の検出位置が、ステッ
プS50で設定された探索範囲内に入っているか判定する。移動物体の検出位置が探索範囲
内に入っている場合、判定部50はステップS70に進み、上記の静止物体を非障害物と判定
する。先行車の検出位置が探索範囲に入っていない場合は、判定部50は上記の静止物体を非障害物とは判定しない。必要に応じて、ステップS90の処理により該静止物体を障害物
と判定しても良い。
【0060】
ステップS80で、判定部50は、ステップS70で非障害物と判定した静止物体のその後の動きを移動検出部70による検出結果に基づいて判定する。非障害物判定がなされた静止物体の移動開始を検出しなかった場合、判定部50は該静止物体についての非障害物判定を維持し、本フローチャートの処理を終了する。一方、非障害物判定がなされた静止物体の移動開始を検出した場合、判定部50はステップS100に進み、非障害物判定を取り消す。そして、必要に応じてステップS90の処理により該静止物体を障害物と判定する。非障害物判定
がなされた静止物体の移動を監視する期間は適当な定数に設定する。
【0061】
本実施例のように、上下方向(高さ方向)の分解能が所定レベルを満たさないレーダによる検出結果に基づいて危険回避制御を実行する車両の安全システムでは、歩道橋も路上散乱物も同様に車両前方に存在する静止物体として認識される。そのため、本来危険回避制御を実行する必要のない歩道橋にも路上散乱物と同様に反応して危険回避制御が実行されてしまう可能性があった。この点本実施例の物体検出装置を備えた安全システムでは、同様に車両前方に存在する静止物体でも、先行車が回避しようとしていない、又は実際に回避しなかったと判断できる静止物体は障害物ではないと認識する。従って、不要な危険回避制御が実行されてしまうことを好適に抑制することができる。
【0062】
更に、本実施例によれば、先行車にとっては回避する必要のなかった静止物体であっても、当該静止物体が自車両にとっては回避すべき障害物となる可能性がある場合には、当該静止物体を非障害物とは判定せず、適切な危険回避制御が実行されるようにすることもできる。従って、不要な危険回避制御を抑制しつつ、必要な危険回避制御が確実に実行されるようにすることができる。
【0063】
すなわち、本実施例の物体検出装置を備えた安全システムによれば、危険回避制御の実行要否の判定精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0064】
100 車両
110 物体検出装置
120 制御部
130 ヘッドレスト
140 ブレーキ
150 警報器
10 レーダ部
20 静止物体検出部
30 移動物体検出部
40 設定部
50 判定部
60 移動履歴取得部
70 移動検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向の分解能が所定レベルに満たないレーダにより自車両の前方に存在する物体を検出するレーダ部と、
前記レーダ部により自車両の前方に存在する絶対速度が所定値未満の物体を静止物体として検出する静止物体検出部と、
自車両の前方に存在する絶対速度が前記所定値以上の物体を移動物体として検出する移動物体検出部と、
前記静止物体検出部により検出された静止物体の検出位置の周囲に、その範囲に存在する移動物体は該静止物体に衝突することを回避不可能又は該静止物体に既に衝突したと推定できるように定められる所定の探索範囲を設定する設定部と、
前記移動物体検出部による移動物体の検出結果のうちに検出位置が前記探索範囲に入る検出結果が存在する場合、前記静止物体検出部により検出された静止物体は自車両の走行にとって障害とならない非障害物であると判定する判定部と、
を備えることを特徴とする物体検出装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記静止物体検出部により検出された静止物体の、静止物体検出部による当該検出がなされるまでの移動履歴を取得する移動履歴取得部を備え、
前記移動履歴取得部により取得された移動履歴に、自車両の進路に接近する向きに移動する移動履歴が存在する場合、前記判定部は、前記移動物体検出部による移動物体の検出結果のうちに検出位置が前記探索範囲に入る検出結果が存在しても、前記静止物体検出部により検出された静止物体を非障害物とは判定しないことを特徴とする物体検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記判定部により非障害物と判定された前記静止物体の当該判定がなされた後の移動を検出する移動検出部を備え、
前記移動検出部により前記静止物体の前記移動が検出された場合、前記判定部は、当該物体についての前記非障害物判定を取り消すことを特徴とする物体検出装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項において、
前記設定部は、前記移動物体検出部により検出された移動物体の絶対速度の検出値に基づいて前記探索範囲の左右方向の幅を決定するものであって、前記絶対速度の検出値が遅いほど前記左右方向の幅を小さくすることを特徴とする物体検出装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項において、
前記移動物体検出部は、前記レーダ部によって自車両の前方に存在する移動物体を検出することを特徴とする物体検出装置。
【請求項6】
請求項2において、
前記移動履歴取得部は、前記静止物体検出部により検出された静止物体に関する前記レーダ部による過去の検出結果に基づいて前記移動履歴を取得することを特徴とする物体検出装置。
【請求項7】
請求項3において、
前記移動検出部は、前記レーダ部によって前記静止物体の移動を検出することを特徴とする物体検出装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の物体検出装置と、
前記物体検出装置によって車両の前方に障害物が検出された場合に、前記物体検出装置
を搭載した車両に対して所定の危険回避制御を行なう制御部と、
を備えることを特徴とする車両の安全システム。
【請求項9】
自車両の前方に存在する物体を検出するレーダ部の検出情報により自車両の前方に存在する静止物体又は移動物体を検出し、前記静止物体の周囲の所定範囲内に前記移動物体が検出された場合、前記静止物体を非障害物と判定することを特徴とする物体検出装置。

【図1】
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【図2(A)】
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【図2(B)】
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【図3(A)】
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【図3(B)】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−117895(P2011−117895A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277477(P2009−277477)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】