説明

物体検知装置及びそれを備えた小便器洗浄装置

【課題】マイクロ波ドップラセンサの出力が、センサ相互の干渉によってそのセンサ出力のS/N比の低下を防止し、検知感度の劣化を防止すること。
【解決手段】所定方向へ送信した電波の周波数とその反射波の周波数との差分から差分信号を生成するマイクロ波ドップラセンサ10と、前記マイクロ波ドップラセンサ10を間欠動作させ、その信号Sig1に基づいて物体Mの検知を行う制御部13を備える物体検知装置1において、送信した電波の周波数と他のマイクロ波ドップラセンサが送信した電波の周波数との差分の周波数が差分信号Sig1に含まれているときに、前記他のマイクロ波ドップラセンサによる電波干渉の発生を検出する干渉検出部14を有し、制御部13は、干渉検出部14が電波干渉の発生を検出したとき、マイクロ波ドップラセンサから10出力される差分信号Sig1を無効と判断し、当該無効と判断した差分信号を用いずに物体Mの検知を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体検知装置及びそれを備えた小便器洗浄装置に関し、さらに詳細には、所定方向へ送信した電波の周波数とその反射波の周波数との差分から差分信号を生成するマイクロ波ドップラセンサと、この差分信号に基づいて物体の検知をする制御手段を備える物体検知装置及び小便器洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、マイクロ波ドップラセンサを用いて人体や尿流を検知し、小便器のボール部内を洗浄する小便器洗浄装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
この種の小便器洗浄装置は、赤外線によって人体検知などを行う小便器洗浄装置に比べ、センサを小便器内に配置することができる点で有効である。すなわち、マイクロ波が陶器を透過することができるという特性を利用して、マイクロ波ドップラセンサを小便器の内側に隠すことができるため、小便器洗浄装置の美観を向上させることができる。
【0004】
また、マイクロ波ドップラセンサはドップラ効果を利用していることから、速度を検出することによって、尿流を使用者の体の動き等と区別して検知できる点で有効である。すなわち、マイクロ波ドップラセンサにより尿流を検知した後にのみ小便器のボール部内を洗浄することによって、利用者が用を足していないときに小便器の洗浄を行ってしまうことを防止することができる。
【0005】
ところが、このような小便器洗浄装置をトイレブースに複数連立させて設置した場合、隣接する小便器洗浄装置からのマイクロ波が受信されることがある。このように隣接する小便器洗浄装置のマイクロ波が混入すると、誤検知や検知漏れを起こしてしまうことがあり、人体検知や尿流等の検知が困難になることがある。
【0006】
従って、マイクロ波ドップラセンサを使用する小便器洗浄装置において、連立して使用されるようなときには、隣接する小便器洗浄装置間での電波干渉を防止する必要となる。
【0007】
マイクロ波ドップラセンサが送信するマイクロ波の周波数を異ならせるようにして、トイレブースに設置する方法があるが、周波数が異なるマイクロ波センサを用意しなければならず、その製造及び製品管理に手間がかかる。
【0008】
そこで、マイクロ波ドップラセンサの送信手段から間欠的にマイクロ波を送信させると共に、マイクロ波を送信していない状態で、受信手段が所定レベルを受信している場合には、他のマイクロ波ドップラセンサから送信が有ったと判断してそのときに送信を行わないようにして、センサ相互の電波干渉の発生確率を低減するものがある(例えば、特許文献2)
【0009】
また、マイクロ波ドップラセンサからのマイクロ波の送信を、乱数発生手段で得られる乱数に基づいて決定される周期で間欠的に行わせることで、センサ相互の電波干渉の発生確率を抑えるようにしたものがある(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】実開平2−69760号公報
【特許文献2】特開2002−286853号公報
【特許文献3】特開2005−265615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載のマイクロ波ドップラセンサでは、自身のマイクロ波を送信していないときに他のマイクロ波ドップラセンサが送信するマイクロ波を受信する必要があることから、スイッチやその制御が必要になるなど、マイクロ波ドップラセンサの構成が複雑になってしまう。しかも、他のマイクロ波センサが間欠動作をしているときには、他のマイクロ波ドップラセンサの送信タイミングを検出することが困難な場合があり、結果的にセンサ相互の電波干渉の発生確率を十分に低減することができない恐れがある。
【0011】
また、特許文献3に記載のマイクロ波ドップラセンサでは、他のマイクロ波ドップラセンサとマイクロ波の送信タイミングが一致する可能性があり、このようにタイミングが一致した場合には、センサ相互の電波干渉によってマイクロ波ドップラセンサの出力信号はノイズとなってしまうことになり、結果的にマイクロ波ドップラセンサのS/N比が低下し、検知感度が劣化してしまうことになる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、かかる課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、所定方向へ送信した電波の周波数とその反射波の周波数との差分から差分信号を生成するマイクロ波ドップラセンサと、前記マイクロ波ドップラセンサを間欠動作させ、前記マイクロ波ドップラセンサから出力される差分信号に基づいて物体の検知を行う制御手段を備える物体検知装置において、前記送信した電波の周波数と他のマイクロ波ドップラセンサが送信した電波の周波数との差分の周波数が前記差分信号に含まれているときに、前記他のマイクロ波ドップラセンサとの電波干渉の発生を検出する干渉検出手段を有し、前記制御手段は、前記干渉検出手段が前記電波干渉の発生を検出したときに前記マイクロ波ドップラセンサから出力される前記差分信号を無効と判断し、当該無効と判断した差分信号を除いた前記差分信号に基づいて物体の検知を行うことを特徴とする物体検知装置。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の物体検知装置おいて、前記干渉検出手段は、前記差分信号を微分して出力する微分回路と、前記微分回路から出力される信号と所定の閾値を比較し、当該比較結果を出力する比較器とを備え、前記制御手段は、前記比較器からの出力に基づいて、前記差分信号の有効性を判断することを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の物体検知装置おいて、所定周期で前記マイクロ波ドップラセンサを間欠的に動作させるとともに、前記制御手段は、前記差分信号を無効と判定した場合に、前記マイクロ波ドップラセンサを前記所定周期における次の間欠動作タイミングまでに再度動作させることを特徴とする。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の物体検知装置において、前記制御手段は、所定周期で前記マイクロ波ドップラセンサを間欠的に動作させるとともに、前記差分信号を無効と判定した場合に、前記間欠的な動作を中断し、所定時間後に前記マイクロ波ドップラセンサの前記間欠的な動作を再開させることを特徴とする。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の物体検知装置と、小便器と、前記物体検知装置による物体の検知に応じて前記小便器に洗浄水を供給する制御部とを備えたことを特徴とする小便器洗浄装置とした。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マイクロ波ドップラセンサから出力される差分信号に、他のマイクロ波ドップラセンサが送信したマイクロ波(電波)の周波数との差分の周波数が含まれているときには、その差分信号を除いた差分信号に基づいて物体の検知を行うようにしていることから、S/N比の低下を防止し、検知感度の劣化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本実施形態における物体検知装置は、所定方向へ送信したマイクロ波の周波数とその反射波の周波数との差分から差分信号を生成するマイクロ波ドップラセンサと、このマイクロ波ドップラセンサを間欠動作させ、マイクロ波ドップラセンサから出力される差分信号に基づいて物体の検知を行う制御手段を備えている。
【0019】
しかも、送信したマイクロ波の周波数と他のマイクロ波ドップラセンサが送信したマイクロ波の周波数との差分の周波数が差分信号に含まれているときに、他のマイクロ波ドップラセンサとの電波干渉の発生を検出する干渉検出手段を有しており、制御手段は、干渉検出手段が電波干渉の発生を検出したときにマイクロ波ドップラセンサから出力される差分信号を無効と判断し、無効と判断した差分信号を除いた差分信号に基づいて物体の検知を行う。
【0020】
すなわち、マイクロ波ドップラセンサから出力される差分信号において、他のマイクロ波ドップラセンサが送信したマイクロ波の周波数との差分の周波数が含まれているときには、その差分信号を無効と判断して、この差分信号を除いた差分信号に基づいて物体の検知を行うようにしていることから、S/N比の低下を防止し、検知感度の劣化を防止することができる。
【0021】
また、干渉検出手段は、差分信号を微分して出力する微分回路と、この微分回路から出力される信号と所定の閾値を比較し、当該比較結果を出力する比較器とを備ており、制御手段は、比較器からの出力に基づいて、差分信号の有効性を判断するようにしている。
【0022】
このように構成することによって、簡単なハードウェア構成(微分回路及び比較器)で他のマイクロ波ドップラセンサとの電波干渉を検出することができる。しかも、このとき、制御手段は、マイクロ波ドップラセンサを動作させている時間だけ、比較器の出力を割込みとして受け付けるようにすることで、電波干渉の検出がさらに容易になる。
【0023】
また、制御手段は、所定周期でマイクロ波ドップラセンサを間欠的に動作させるとともに、差分信号を無効と判定した場合に、マイクロ波ドップラセンサを所定周期における次の間欠動作タイミングまでに再度動作させるようにしている。
【0024】
すなわち、他のマイクロ波ドップラセンサと干渉しているとき、再度タイミングを変えて、再試行を行うようにしていることから、物体の検知精度を損なうことなく、物体の検知を行うことができる。
【0025】
また、制御手段は、所定周期でドップラセンサを間欠的に動作させるとともに、差分信号を無効と判定した場合に、間欠的な動作を中断し、所定時間後にマイクロ波ドップラセンサの間欠的な動作を再開させるようにしてもよい。
【0026】
このようにすることで、動作タイミングをずらすことができ、同様の間欠周期の他のマイクロ波ドップラセンサが隣接しているときにでも物体の検知精度が低下することを抑制できる。
【0027】
すなわち、同様の間欠周期の他のマイクロ波ドップラセンサが隣接しているとき、動作タイミングが他のマイクロ波ドップラセンサと一致すると、センサ相互間の電波干渉が継続し、物体の検知精度が低下するが、上述のように構成することで、センサ相互間の電波干渉が継続することを回避することができ、従って、物体の検知精度が低下することを抑制することができる。
【0028】
この物体検知装置を便器洗浄装置に適用することができる。例えば、小便器洗浄装置に当該物体検知装置を組み込み、この物体検知装置による物体の検知に応じて小便器に洗浄水を供給することができる。
【0029】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態においては、まず、物体検知装置の一例を説明した後、この物体検知装置を適用した小便器洗浄装置について説明する。
【0030】
[1.物体検知装置]
[1.1.物体検知装置の構成概要について]
始めに、本実施形態における物体検知装置の構成概要について図面を参照して具体的に説明する。図1は本実施形態における物体検知装置1の概略構成を示す図、図2はマイクロ波ドップラセンサ10の構成を示す図である。
【0031】
図1に示すように、所定方向へ送信したマイクロ波の周波数とその反射波の周波数との差分から差分信号Sig1を生成するマイクロ波ドップラセンサ10と、このマイクロ波ドップラセンサ10を動作させるドライバ11と、このドライバ11を制御してマイクロ波ドップラセンサ10を間欠動作させ、当該マイクロ波ドップラセンサ10からアンプ(増幅器)12を介して出力される増幅差分信号Sig2に基づいて物体Mの検知を行う制御部13(制御手段の一例に相当)とを備えている。
【0032】
マイクロ波ドップラセンサ10は、図2に示すように、10.525GHzの送信信号Sig10を生成する発振器20と、この発振器20から出力される送信信号Sig10を分配するカプラ21と、このカプラ21から出力される送信信号Sig10を10.525GHzのマイクロ波として送信する送信手段22と、この送信手段22から送信されたマイクロ波が物体Mによって反射され、その反射波を受信して電気信号に変換した受信信号Sig11を出力する受信手段23と、送信信号Sig10の周波数と受信信号Sig11の周波数との差分から差分信号Sig1を生成して出力する差分検出部24から構成される。
【0033】
このマイクロ波ドップラセンサ10は、ドップラ効果を利用して以下の式(1)に基づいて物体Mを検知するために用いられるものである。
【0034】
基本式:ΔF=FS―Fb=2×FS×ν/c ・・・(1)
ΔF:ドップラ周波数(差分信号Sig1の周波数)
FS:送信周波数(送信信号Sig10の周波数)
Fb:反射周波数(受信信号Sig11の周波数)
ν:物体Mの移動速度
c:光速(300×10m/s)
【0035】
さらに、この物体検知装置1は、他のマイクロ波ドップラセンサの送信したマイクロ波との干渉によって生じる検知感度の劣化を防止するために、図1に示す干渉検出部14と制御部13の処理による干渉防止機能を有しており、以下具体的に説明する。
【0036】
[1.2.干渉防止機能の概要]
以下、この干渉防止機能について図面を参照して具体的に説明する。図3及び図4は他のマイクロ波ドップラセンサ10によるセンサ出力(差分信号Sig1)への影響を説明するための図である。なお、他のマイクロ波センサは物体検知装置1のマイクロ波ドップラセンサ10と同様に間欠的に動作しているものとし、マイクロ波ドップラセンサ10と隣接して配置されているものとする。
【0037】
図3に示すように、他のマイクロ波ドップラセンサの動作(ON)タイミング(図3(a)参照)と、物体検知装置1のマイクロ波ドップラセンサ10の動作(ON)タイミング(図3(b)参照)とが重複していないとき、マイクロ波ドップラセンサ10が出力する差分信号Sig1は、他のマイクロ波ドップラセンサによって影響されることはない(図3(c)参照)。
【0038】
一方、図4に示すように、他のマイクロ波ドップラセンサの動作タイミング(図4(a)参照)と、物体検知装置1のマイクロ波ドップラセンサ10の動作タイミング(図4(b)参照)とが重複しているとき、マイクロ波ドップラセンサ10が出力する差分信号Sig1は、他のマイクロ波ドップラセンサによって影響される(図4(c)参照)。
【0039】
すなわち、他のマイクロ波ドップラセンサと物体検知装置1のマイクロ波ドップラセンサ10との動作タイミングが重複するとき、マイクロ波ドップラセンサ10からは、他のマイクロ波ドップラセンサの送信周波数FS1とマイクロ波ドップラセンサ10の送信周波数FSとの差分周波数|FS1−FS|を有する差分信号Sig1が出力されることになり、このように差分周波数|FS1−FS|を有する差分信号Sig1を物体検知に用いると、物体検知精度が悪くなる。
【0040】
そこで、本実施形態における物体検知装置1では、このようにセンサ相互の電波干渉によって生じる差分周波数|FS1−FS|を検出し、このように干渉成分を有する差分信号Sig1を無効と判断して使用しないようにしている。
【0041】
具体的には、物体検知装置1は、物体Mへ送信したマイクロ波の周波数と他のマイクロ波ドップラセンサが送信したマイクロ波の周波数との差分の周波数が差分信号Sig1に含まれているときに、他のマイクロ波ドップラセンサとの電波干渉の発生を検出する干渉検出部14(干渉検出手段の一例に相当)を有している。
【0042】
この干渉検出部14は、図1に示すように、マイクロ波ドップラセンサ10から出力される差分信号Sig1をアンプ12を介して増幅した増幅差分信号Sig2を入力し、この増幅差分信号Sig2を微分する微分回路15と、この微分回路15から出力される微分信号Sig3と所定の閾値(正の閾値と負の閾値)とを比較して、比較結果の信号Sig4を出力する比較器(コンパレータ)17とを備えている。なお、比較器17は、微分信号Sig3が正の閾値よりも大きいときには又は微分信号Sig3が負の閾値よりも小さいときには、Highレベルの信号を出力し、微分信号Sig3が負の閾値と正の閾値との間にあるときには、Lowレベルの信号を出力するようにしている。また、微分回路15は、抵抗、コンデンサ、オペアンプなどからなる。
【0043】
そして、制御部13は、干渉検出部14の出力信号Sig4に応じて差分信号Sig1の有効性を判断(有効、無効を判断)し、有効な差分信号Sig1を用いて物体Mの検知を行うようにしている。すなわち、干渉検出部14が電波干渉の発生を検出したとき(比較器17からHighレベルの信号が出力されたとき)の差分信号Sig1を無効と判断し、このように無効と判断した差分信号Sig1を除いた差分信号Sig1を用いて物体Mの検知を行う。言い換えれば、干渉検出部14が電波干渉の発生を検出していないとき(比較器17からLowレベルの信号が出力されたとき)の差分信号Sig1を用いて物体Mの検知を行う。
【0044】
ここで、他のマイクロ波ドップラセンサ及び物体検知装置1のマイクロ波ドップラセンサ10の動作タイミング、各信号Sig1〜Sig4の信号波形、及び制御部13の割り込み受付許可時間と割り込み処理要求との関係を、図5を参照して説明する。図5は物体検知装置1の各部分の信号波形等を示す図である。
【0045】
図5に示すように、他のマイクロ波ドップラセンサの動作タイミングと、物体検知装置1のマイクロ波ドップラセンサ10の動作タイミングとが重複している時間(図5のt2〜t3の期間)、マイクロ波ドップラセンサ10から出力される差分信号Sig1及びアンプ後の増幅差分信号Sig2には、差分周波数|FS1−FS|が含まれることになる(図5(c),(d)参照)。
【0046】
タイミングt1において、マイクロ波ドップラセンサ10の差分信号Sig1の出力が開始されることになるため増幅差分信号Sig2の電圧が急激に変化(上昇)することになる(図5(d)参照)。従って、微分回路15の出力信号Sig3は、その変化分に応じて瞬間的に電圧が変化(図5(e)中の「a」参照)し、t1〜t11までの間(図5(e)参照)だけ比較器17の正の閾値を超えることになり、比較器17から一つのパルス信号が出力される(図5(e)中の「a’」参照)。なお、タイミングt1で増幅差分信号Sig2の電圧が急激に変化するのは、差分信号Sig1は所定の直流バイアスが印加されているためである。
【0047】
その後、t2のタイミングで、他のマイクロ波ドップラセンサとの動作タイミングが重複する期間(以下、「重複期間」とする。)が開始することによって、増幅差分信号Sig2に差分周波数|FS1−FS|が含まれることになることから、この重複期間が終了するタイミングt3までの間、微分回路15の出力信号Sig3の電圧が断続的に比較器17の正の閾値(Vth(+))を超える或いは負の閾値(Vth(-))を下回る(図5(e)の「b」参照)ことになり、比較器17から複数のパルス信号が出力される(図5(f)の「b’」参照)。
【0048】
その後、タイミングt3でこの重複期間が終了すると、アンプ後の増幅差分信号Sig2の電圧は急激に変化(降下)することになり(図5(d)参照)、微分回路15の出力信号Sig3は、その変化分に応じて瞬間的に電圧が変化(図5(e)中の「c」参照)、t3〜t31までの間(図5(e)参照)だけ比較器17の負の閾値(Vth(-))を下回ることになり、比較器17から一つのパルス信号が出力される(図5(e)の「c’」参照)。
【0049】
制御部13は、比較器17からの出力信号Sig4を割り込みポートに入力しており、この割り込みポートへ入力される信号Sig4に基づいた割り込み受け付けによって、差分信号Sig1に差分周波数|FS1−FS|が含まれているか否かを検出する。
【0050】
この割り込みポートへの割り込み受付は、マイクロ波ドップラセンサ10の動作時間(t1〜t3の期間)だけ有効になっており、制御部13は、この期間中に、この割り込みポートへの信号入力に2以上のパルス信号が含まれるか否かを判定する。すなわち、制御部13は、立ち上がりエッジの信号が2回以上入力されたか否かを判定する。そして、2回以上の立ち上がりエッジの信号が割り込みポートへ入力されると、このときの差分信号Sig1を無効と判断する。一方、回以上の立ち上がりエッジの信号が割り込みポートへ入力されないときには、このときの差分信号Sig1を有効と判断する。
【0051】
ここで、割り込みポートへの割り込みとして、マイクロ波ドップラセンサ10の動作開始タイミングt1〜t11間に一つのパルス信号(図5(f)中の「a’」参照)の立ち上がりエッジが必ず入力される。その後、制御部13は、割り込みポートへ立ち上がりエッジの信号が入力されたか否かを判定することによって、他のマイクロ波ドップラセンサの動作タイミングと、物体検知装置1のマイクロ波ドップラセンサ10の動作タイミングとが重複している時間があるか否かを判定することになる。そして、このように重複している時間があると判定すると、このときの差分信号Sig1を無効と判断する。一方、重複している時間が無いと判定すると、このときの差分信号Sig1を有効と判断する。
【0052】
図5に示す例では、重複期間があり、割り込みポートへの信号入力として、複数のパルス信号(図5(f)中の「b’」参照)によって複数の割り込みが発生していることから、結果的にt1〜t3の期間での割り込み処理において、複数の割り込みが制御部13によって受け付けられる(図5(h)中の「a’」,「b’」参照)。
【0053】
一方、重複期間がないときには、割り込みポートへの信号入力に図5(f)中の「b’」に示すパルス信号が発生していないため、結果的にt1〜t3の期間で、一つのパルス信号のみが制御部13によって受け付けられる(図5(f)中の「a’」のパルス信号のみ)。
【0054】
制御部13では、割り込み処理において、複数の割り込みが受け付けられたとき、t1〜t3までの期間においてマイクロ波ドップラセンサ10から出力される差分信号Sig1を無効と判断し、物体検知に用いないようにしており、これによって物体の検知精度を向上させている。一方、割り込み処理において、複数の割り込みが受け付けられなかったとき、t1〜t3までの期間においてマイクロ波ドップラセンサ10から出力される差分信号Sig1を有効と判断し、このように有効と判断した差分信号Sig1に基づいて物体検知を行っており、これによって物体の検知精度を向上させている。
【0055】
さらに、制御部13は、差分信号Sig1が無効であると判断すると、差分信号Sig1の再取得のために、マイクロ波ドップラセンサ10の動作タイミングを、他のマイクロ波ドップラセンサの動作タイミングとずらす。すなわち、図6に示すように、所定周期taでのマイクロ波ドップラセンサ10の間欠的な動作を中断し、所定時間tb後にマイクロ波ドップラセンサ10の間欠的な動作を再開させるようにしている。なお、この所定時間tbはランダムな時間として生成されるものであり、したがって、同一の他の物体検知装置1が隣接して配置されているときであっても、この所定時間tbが重なることが稀となり、しかも、再度重複時間が発生したとしても、再度ランダムな所定時間tbが生成されることから、より迅速かつ効率的にセンサ相互の電波干渉の防止を図ることができる。
【0056】
[1.3.物体検知の動作について]
次に、以上のように構成される物体検知装置1の動作をフローチャートを参照して説明する。図7は物体検知装置1の動作を示すフローチャートである。なお、物体検知装置1は、マイクロ波ドップラセンサ10をta(=2msec)周期で10μsを動作(ON)させるものとして説明する。
【0057】
まず、物体検知装置1の制御部13は、動作を開始すると、内部のタイマを起動する(ステップS1)。その後、制御部13は、このタイマの起動開始からta秒経過したか否かを判定する(ステップS2)。
【0058】
この処理において、ta秒が経過したと判定すると(ステップS2:YES)、制御部13は、センサ処理を行う(ステップS3)。
【0059】
このステップS3の処理は、図8に示すステップS11〜S14までの処理であり、図8に示すように、制御部13は、マイクロ波ドップラセンサ10の動作を開始(ステップS11)した後、10μs(マイクロ秒)だけ待つ(ステップS12)。その後、A/D入力ポートに入力される増幅差分信号Sig2の電圧値をA/D変換してサンプリングデータとして取り込み(ステップS13)、マイクロ波ドップラセンサ10の動作を停止する(ステップS14)。
【0060】
ステップS3におけるセンサ処理が終了すると、制御部13は、割り込みポートに受け付けた割り込みが1回であるか否かを判定する(ステップS4)。この処理において、受け付けた割り込みが1回だけはないと判定すると(ステップS4:NO)、制御部13は、センサ相互の電波干渉が生じたと判断して、乱数生成器によってランダムな所定時間tbを生成し(ステップS5)、タイマを再起動する(ステップS6)。その後、制御部13は、このタイマの再起動開始からtb秒経過したか否かを判定し(ステップS7)、tb秒が経過したと判定すると(ステップS7:YES)、制御部13は、処理をステップS3に移行する。
【0061】
一方、ステップS4の処理において、受け付けた割り込みが1回であると判定すると(ステップS4:YES)、制御部13は、ステップS3の処理で取り込んだサンプリングデータを内部のRAMに記憶する(ステップS8)。
【0062】
次に、制御部13は、内部のRAMに記憶したサンプリングデータに基づいて、物体検知の成否を判定する(ステップS9)。この処理では、間欠周期ta毎にサンプリングした増幅差分信号Sig2(差分信号Sig1を増幅した信号)の電圧値であるサンプリングデータに所定のデジタルフィルタリングを施して、物体の移動速度を検出するものであり、ここでは、ta=2msであることから、サンプリング定理に基づき、250Hz以下(ここでは、200Hz以下)で移動する物体の検知が可能となっている。なお、人体の移動は、50Hz以下の周波数により検知することができる。
【0063】
また、間欠周期taのタイミングで他のマイクロ波ドップラセンサとの電波干渉が発生したときには、サンプリング周期がtbずれたデータとなるが、tbが小さいとき(例えば、tb≦100μsec)には、物体検知への影響はほとんどない。したがって、tbはできるだけ小さいほうが望ましい。
【0064】
ここで、tbが大きくなった場合でも、等間隔サンプリング周期への補間処理を行うことで、物体検知への影響を抑制することができる。周期taでの等間隔サンプリング周期へ補間する方法としては、周知の2点補間法、ラグランジェ補間法などがあり、これらの補間法による処理を制御部13などによって行うことができる。2点補間法は、隣接する2つのデータの中間値を算出して所定の等間隔サンプリング周期への補間を行う補間方法である。また、ラグランジェ補間法は、例えば、A/D変換により連続して取り込んだn点のデータを元に、そのn点を通る曲線式を多項式で示して、各点の間の値をその式により算出する方法である。
【0065】
ステップS9において、物体が検知されたと判定されると(ステップS9:YES)、制御部13は、物体検知をした旨の検知信号を図示しない出力ポートから出力(ステップS10)して処理をステップS1に移行する。一方、物体が検知されていないと判定されると(ステップS9:NO)、制御部13は、処理をステップS1に移行する。
【0066】
以上のように、本実施形態における物体検知装置1では、マイクロ波ドップラセンサ10から出力される差分信号Sig1に他のマイクロ波ドップラセンサが送信したマイクロ波の周波数との差分の周波数が含まれているときに、その差分信号Sig1を無効と判断して物体Mの検知に用いることなく、無効と判断した差分信号Sig1を除いた差分信号Sig1を用いて物体Mの検知を行うようにしていることから、S/N比の低下を防止し、検知感度の劣化を防止することができる。
【0067】
[1.4.その他の実施形態について]
(マイクロ波ドップラセンサの再試行動作について)
上記実施形態においては、制御部13は、図6に示すように、マイクロ波ドップラセンサ10の動作タイミングを、他のマイクロ波ドップラセンサの動作タイミングとずらすために、所定周期taでのマイクロ波ドップラセンサ10の間欠的な動作を中断し、所定時間tb後にマイクロ波ドップラセンサ10の間欠的な動作を再開するものであったが、マイクロ波ドップラセンサ10を次の間欠動作タイミングまでに再度動作させるようにしてもよい。以下、この動作について図面を参照して具体的に説明する。図9はマイクロ波ドップラセンサ10の再試行のための動作を説明するための図であり、図10はこのときの物体検知の動作を示すフローチャートである。
【0068】
図9に示すように、制御部13は、所定周期taでのマイクロ波ドップラセンサ10の間欠的な動作をしているときに、マイクロ波ドップラセンサ10の動作タイミングが他のマイクロ波ドップラセンサの動作タイミングと重複すると、所定時間tc後にマイクロ波ドップラセンサ10の再度動作(再試行)させるものである。すなわち、間欠周期taは一定であり、センサ相互の電波干渉が生じたときに、そのときのタイミングでのデータ取得(差分信号Sig1のアンプ後の増幅差分信号Sig2の取り込み)を行わずに無効とし、tc後のタイミングでデータ取得を行うのである。
【0069】
図10を参照して、図9に示す電波干渉の回避動作をする物体検知装置1の物体検知処理を説明する。なお、この図10のステップS20〜S23,S28〜S30の処理は、図6におけるステップS1〜S4,S8〜S10の処理と同様の処理であるため、ここでは説明を省略する。
【0070】
制御部13は、ステップS23において、受け付けた割り込みが1回だけはないと判定すると(ステップS23:NO)、制御部13は、センサ相互の電波干渉が生じたと判断して、乱数生成器によってランダムな所定時間tcを生成し(ステップS24)、タイマを起動する(ステップS25)。その後、制御部13は、このタイマの起動開始からtc秒経過したか否かを判定し(ステップS26)、tc秒が経過したと判定すると(ステップS26:YES)、制御部13は、ステップS22と同様のセンサ処理を行い(ステップS27)、その後ステップS20に移行する。
【0071】
以上のように、センサ相互の電波干渉が生じたときに、そのときのタイミングでのデータ取得を行わずに、tc後のタイミングでデータ取得を行うようにしており、これによりマイクロ波ドップラセンサの間欠周期の間隔が異なる他の物体検知装置1(図9では、他のマイクロ波ドップラセンサの周期をTaよりも長いTdとしている。)が隣接して配置されているときであっても、センサ相互間の電波干渉によるS/N比の低下を防止し、検知感度の劣化を防止することができる。
【0072】
(干渉検出部14について)
また、上述においては、干渉検出部14として、簡単なハードウェア構成(微分回路15及び比較器17)で他のマイクロ波ドップラセンサとの干渉を検出したが、制御部13にDSP(Digital Signal Processor)などを内蔵して、A/D入力ポートに入力される増幅差分信号Sig2をデジタル処理して、この増幅差分信号Sig2に差分周波数|FS1−FS|が含まれるか否かを判定してもよい。また、ステップS12,S13の処理において、例えば、2μsec毎にA/D入力ポートに入力される増幅差分信号Sig2の電圧値を取り込み、この電圧値の変化に基づいて、増幅差分信号Sig2に差分周波数|FS1−FS|が含まれるか否かを判定してもよい。この場合、制御部13は、例えば、10μsecの間で取り込まれる5つの電圧値の変動が所定値よりも大きい場合に、増幅差分信号Sig2に差分周波数|FS1−FS|が含まれると判定する。
【0073】
また、比較器17における正及び負の閾値の設定は、図示しない入力部から入力することによって行うことができる。すなわち、干渉検出感度を調整することができる。
【0074】
また、比較器17は、正及び負の閾値に基づいて出力信号Sig4を生成するものであるが、微分回路15の出力信号Sig3を全波整流する全波整流回路を設け、この全波整流回路で整流した信号を正の閾値Vth(+)と比較器(コンパレータ)によって比較し、この正の閾値Vth(+)を超えているときに、Highレベルの信号Sig4を比較器から出力し、正の閾値Vth(+)を超えていないときに、Lowレベルの信号Sig4を比較器から出力するように構成するようにしてもよい。
【0075】
(物体検知について)
マイクロ波ドップラセンサ10の差分検出部24は、カプラ21からの信号Sig10と受信手段23から出力される信号Sig11とを合成するミキサと、このミキサから出力される信号の高周波成分(GHz帯域の信号成分)を除去するローパスフィルタとから構成される。
【0076】
そして、このマイクロ波ドップラセンサ10から出力される差分信号Sig1には、信号Sig10の周波数と信号Sig11の周波数の差分であるドップラ信号ΔFに加え、物体との距離に応じて一定周期で変動する直流成分の信号(以下、「定在波信号」と呼ぶ。)が含まれている。
【0077】
この定在波信号は、物体Mとの距離に応じてそのレベルが図11(a)に示すように変化する。すなわち、定在波信号の電圧レベルは、図11(a)に示すように、マイクロ波ドップラセンサ10から物体Mまでの距離に応じて周期的な軌跡をたどって大きくなっていく。
【0078】
このように定在波信号は、マイクロ波の波長の1/2の周期にて振幅の大きな腹部と振幅の小さな節部が周期的に存在するため、定在波信号に対する物体Mとの距離の精度に問題が出てくる。
【0079】
そこで、定在波信号に対する物体Mとの距離の精度を上げるために、図12に示す構成のマイクロ波ドップラセンサ10’を用いることによって、図11(e)に示すような信号(以下、「定在波合成信号」とする。)を生成することができ、これによって、マイクロ波ドップラセンサ10’と物体Mとの距離検知の精度を向上させることができる。すなわち、マイクロ波ドップラセンサ10’を搭載した物体検知装置1と物体Mとの距離が近いほどレベルが大きくなるような信号を生成することができるのである。しかも、図11(e)に示す信号を用いることによって、制御部13による物体の検知時間を短縮することができる。すなわち、マイクロ波ドップラセンサ10’の差分信号Sig1に含まれるドップラ信号に基づいて物体の検知をしようとすると、間欠動作させたマイクロ波ドップラセンサ10’から間欠的に出力される複数の差分信号Sig1を用いなければ物体を検知することができないが、定在波信号を用いれば、間欠動作させたマイクロ波ドップラセンサ10’から間欠的に出力される複数の差分信号Sig1のうち一つの差分信号Sig1に基づいて、物体Mを検知することができることになり、物体の検知速度を向上させることができる。
【0080】
このマイクロ波ドップラセンサ10’は、図2に示すマイクロ波ドップラセンサ10が備えている発振器20、カプラ21、送信手段22、受信手段23(第1受信手段)、差分検出部24(第1差分検出部)に、さらに第2受信手段23’と第2差分検出部24’とを加えたものであり、第2受信手段23’は、受信手段23と同様の構成をしており、送信手段22から送信されたマイクロ波が物体Mによって反射され、その反射波を受信して電気信号に変換した受信信号Sig11’を出力する。第2差分検出部24’は、差分検出部24と同様の構成をしており、送信信号Sig10の周波数と受信信号Sig11’の周波数との差分から差分信号Sig1’を生成して出力する。また、第2受信手段23’と第2差分検出部24’との間の信号の伝送線路である第2伝送線路25’の長さは、差分検出部24から出力される定在波信号と第2差分検出部24’から出力される定在波信号とが位相差を有するように、受信手段23と差分検出部24との間の信号の伝送線路である第1伝送線路25の長さと異なるようにしている。
【0081】
このようにマイクロ波ドップラセンサ10’が構成されていることから、差分検出部24から出力される差分信号Sig1に加え、この差分信号Sig1に含まれる定在波信号の位相差を持たせた差分信号Sig1’を第2差分検出部24’から出力することができる。そして、これらの信号Sig1,Sig1’を定在波合成部30で合成することによって、図11(e)に示すような信号を生成することができる。
【0082】
すなわち、定在波合成部30には、全波整流回路及び信号選択回路が含まれており、マイクロ波ドップラセンサ10’から出力された差分信号Sig1,Sig1’に含まれる2つの位相の異なる定在波信号(図11(a),(b)参照)は、それぞれ定在波合成部30の全波整流回路によって全波整流される(図11(c),(d)参照)。そして、このように全波整流した2つの定在波信号は、信号選択回路によって信号Sig1,Sig1’のうちその時点での電圧値が大きな信号が選択され、定在波合成信号として定在波合成部30から出力される(図11(e)参照)。図11(a)〜(e)において、横軸はマイクロ波ドップラセンサ10から物体Mまでの距離を表しており、右に行くほどその距離が遠くなる。なお、その他の方法として、定在波合成信号は、Sig1,Sig1’をアンプで増幅した信号を制御部13に取り込み、制御部13において、その時点でのいずれか絶対値が大きい値を選択することによっても得ることができる。このようにソフト処理にて対応することも可能である。
【0083】
なお、合成する位相の異なる定在波信号の数が多ければ多いほど、算出される定在波合成信号は滑らかな曲線となり、距離に対する出力値が1対1となり、より正確な距離を検知することが可能となるが、本実施形態においては説明を容易にするため、2つの位相の異なる定在波信号から生成した定在波合成信号から物体検知装置1と物体Mとの距離を検知するようにしている。
【0084】
このように定在波合成部30によって生成された定在波合成信号は、マイクロ波ドップラセンサ10’と物体Mとの距離に応じた電圧レベルの信号となることから、定在波合成信号の電圧レベルからマイクロ波ドップラセンサ10’と物体Mとの距離を容易に検知することが可能となる。特に、定在波合成信号の電圧レベルの検出だけでよいため、物体検知を行うための処理が短くて済む。従って、例えば、ドップラ信号に基づいて物体検知を行うことに比べ、物体検知を行うための処理が軽減される。
【0085】
例えば、ドップラ信号に基づく人体検知では、50Hz以下の交流信号であることを検出する必要があるため、その検出処理には必然的に時間を要してしまう。例えば、50Hzのドップラ信号を検出するためには、少なくとも20msを超える時間を要してしまう。しかし、定在波信号に基づく人体検知では、定在波合成信号の電圧レベルを検出するだけでよいため、短時間(例えば、10μs)で人体検知が可能となる。
【0086】
従って、制御部13における物体検知(図7のステップS9,図10のステップS29)を、この定在波信号で行うことによって、物体の検知速度を向上させることができる。
【0087】
[2.小便器洗浄装置]
[2.1.小便器洗浄装置の概要]
次に、上述の物体検知装置1をその内部に組み込んだ小便器洗浄装置Aについて図面を参照して具体的に説明する。図13は本実施形態における小便器洗浄装置Aの外観図、図14は本発明の実施形態における小便器洗浄システムSに含まれる小便器洗浄装置Aの全体構成図、図15は小便器洗浄装置Aの制御部8の概略構成図である。
【0088】
図13に示すように、本実施形態における小便器洗浄装置Aは、公衆トイレなどに隣接して配置(連立して配置)することができるものである。
【0089】
この小便器洗浄装置Aは、図14に示すように、小便器2と、ボール部3と、給水路4の中途部に設けられ、小便器2のボール部3内へ洗浄水を供給する給水バルブ5と、ボール部3の底部に配置され、小便器2のボール部内の汚水を排水する排水路6と、この排水路6に連通するトラップ管路7と、小便器2のボール部3に向けてマイクロ波を送信し、その反射波を受信してその差分信号を生成するマイクロ波ドップラセンサ10’と、このマイクロ波ドップラセンサ10’から出力される差分信号に基づいて人体検知や尿流検知を行い、この尿流検知の結果に応じて給水バルブ5を制御し、ボール部3内に洗浄水を供給する制御部8とを有している。なお、給水バルブ5は、電磁弁などから構成される。
【0090】
次に、小便器洗浄装置Aの制御部8について、図15を参照して具体的に説明する。
【0091】
制御部8は、マイクロ波ドップラセンサ10’、ドライバ11,アンプ12、制御部13’、干渉検出部14、定在波合成部30からなる物体検知装置が組み込まれており、給水バルブ制御部31等を備えている。なお、制御部13’は、上述した制御部13を小便器洗浄装置用として以下のように構成したものであり、検知する物体を人体と尿流としている。
【0092】
すなわち、制御部13’において、尿流検知処理部41は差分信号Sig1を増幅した増幅差分信号Sig2に含まれるドップラ信号から尿流検知のための周波数帯域(100Hz〜180Hz)を抽出して尿流の検知を行う機能を有している。また、人体検知処理部42は、定在波合成部30から出力される定在波合成信号Sig8に基づいて人体検知を行う機能を有している。
【0093】
[2.2.小便器洗浄装置の動作]
以上のように構成された小便器洗浄装置Aについて、その動作をフローチャートを用いて具体的に説明する。図16は小便器洗浄装置Aのメイン処理フローチャートである。
【0094】
小便器洗浄装置Aのメイン処理において、まず制御部13’の人体検知処理部42は、図16に示すように、定在波信号による人体検知を行い、人体が検知されているか否かを判定する。すなわち、定在波合成信号Sig8が内部の記憶部に記憶された第1基準値以上であるか否かを判定する(ステップS40)。
【0095】
この処理において、制御部13’は、まず、ドライバ11を制御して、マイクロ波ドップラセンサ10’を所定間隔taで間欠動作させる。この間欠動作は、図7に示す動作(ステップS9,S10の処理を除く)又は図10に示す動作(ステップS29,S30の処理を除く)と同様に行われるものであり、ここでは説明を省略する。
【0096】
このように、マイクロ波ドップラセンサ10’における所定間隔taでの間欠動作を開始した後、人体検知処理部42は、定在波合成部30から出力される定在波合成信号Sig8が制御部13’内部の記憶部に記憶された所定値以上であるか否かを判定する。
【0097】
ステップS40において、定在波合成信号Sig8が制御部13’内部の記憶部に記憶された所定値以上であると判定されると(ステップS40:YES)、ステップS41の処理に移行する。一方、定在波合成信号Sig8が所定値以上ではないと判定されると(ステップS40:NO)、制御部13’は、ステップS40の処理を繰り返し行う。
【0098】
ステップS41において、制御部13’は、給水バルブ制御部31によって、給水バルブ5を制御し、小便器2のボール部3内に洗浄水を所定時間だけ流す。これにより、利用者が小便器2を使用する前に、小便器2内を事前に洗浄(予備洗浄)を行う。
【0099】
その後、制御部13’の尿流検知処理部41は、尿流検知のための周波数帯のドップラ信号に基づいて尿流検知ができたか否かを判定する(ステップS42)。この処理において、ドップラ信号に基づいて尿流検知ができたと判定されると(ステップS42:YES)、人体検知処理部42は、定在波合成信号Sig8による人体検知を行い、人体の検知が無いか否かを判定する。すなわち、定在波合成信号Sig8が内部の記憶部に記憶された第1基準値未満であるか否かを判定する(ステップS43)。
【0100】
この処理において、定在波合成信号Sig8による人体の検知がないと判定されると(ステップS43:YES)、制御部13’は、ステップS42における尿流の検知時間が所定時間以上であったか否かを判定する(ステップS44)。
【0101】
この処理において、尿流の検知時間が所定時間以上であったと判定されると(ステップS44:YES)、制御部13’は、給水バルブ制御部31によって、給水バルブ5を制御し、小便器2のボール部3内に洗浄水を所定時間だけ流して小便器2の本洗浄を行い(ステップS45)、処理をステップS47に移行する。一方、ステップS45において、尿流の検知時間が所定時間以上ではなかったと判定されると(ステップS44:NO)、制御部13’は、処理をステップS40に移行する。
【0102】
ステップS46において、制御部13’の人体検知処理部42は、定在波信号による人体検知を行い、人体が検知されているか否かを判定する。すなわち、定在波合成信号Sig8が内部の記憶部に記憶された第1基準値以上であるか否かを判定する。
【0103】
この人体検知処理はT1秒間行われ(ステップS46:NO,ステップS47)、このT1間に人体の検知があったと判定されると(ステップS46:YES)、制御部13’は、その処理をステップS42の処理に移行する。一方、T1間に人体の検知がなかったと判定されると(ステップS47:YES)、制御部13’は、T1経過後にその処理をステップS40の処理に移行する。
【0104】
このように小便器洗浄装置Aにおいては、マイクロ波ドップラセンサ10’のセンサ出力である差分信号Sig1,Sig1’に含まれる定在波信号に基づいて人体の存在を検知する人体検知処理部42によって所定値以上の定在波信号が検知する。
【0105】
従って、小便器洗浄装置Aの消費電力を低減することができる。すなわち、定在波信号の検出は、ドップラ信号の検出に比べてその処理負荷が小さいため、物体の検知を定在波信号に基づいて行うことによって、小便器洗浄装置Aの消費電力を低減するのである。
【0106】
しかも、マイクロ波ドップラセンサ10’から出力される差分信号Sig1に他のマイクロ波ドップラセンサが送信したマイクロ波の周波数との差分の周波数が含まれているときに、その差分信号Sig1を物体Mの検知に用いることなく、物体Mの検知を行うようにしていることから、S/N比の低下を防止し、検知感度の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の実施の形態である物体検知装置の構成を示す図である。
【図2】図1のマイクロ波ドップラセンサの構成を示す図である。
【図3】他のマイクロ波ドップラセンサとの関係を説明するための図である。
【図4】他のマイクロ波ドップラセンサとの関係を説明するための図である。
【図5】図1の物体検知装置の各部分の信号波形等を示す図である。
【図6】センサ相互間の干渉回避の動作を説明するための図である、
【図7】図1の物体検知装置の物体検知動作のフローチャートである。
【図8】図1の物体検知装置の物体検知動作のフローチャートである。
【図9】センサ相互間の干渉回避の他の動作を説明するための図である、
【図10】図1の物体検知装置の他の物体検知動作のフローチャートである。
【図11】定在波信号と物体距離との関係を説明するための図である。
【図12】他のマイクロ波ドップラセンサの構成を示す図である。
【図13】本発明の実施の形態である小便器洗浄システムを示す図である。
【図14】図13の小便器洗浄装置の概略の構成図である。
【図15】図13の小便器洗浄装置の具体的な構成図である。
【図16】図13の小便器洗浄装置の処理動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0108】
A 小便器洗浄装置
1 物体検知装置
10 マイクロ波ドップラセンサ
13 制御部
14 干渉検出部
15 微分回路
17 比較器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向へ送信した電波の周波数とその反射波の周波数との差分から差分信号を生成するマイクロ波ドップラセンサと、前記マイクロ波ドップラセンサを間欠動作させ、前記マイクロ波ドップラセンサから出力される差分信号に基づいて物体の検知を行う制御手段を備える物体検知装置において、
前記送信した電波の周波数と他のマイクロ波ドップラセンサが送信した電波の周波数との差分の周波数が前記差分信号に含まれているときに、前記他のマイクロ波ドップラセンサとの電波干渉の発生を検出する干渉検出手段を有し、
前記制御手段は、
前記干渉検出手段が前記電波干渉の発生を検出したときに前記マイクロ波ドップラセンサから出力される前記差分信号を無効と判断し、当該無効と判断した差分信号を除いた前記差分信号に基づいて物体の検知を行う
ことを特徴とする物体検知装置。
【請求項2】
前記干渉検出手段は、
前記差分信号を微分して出力する微分回路と、
前記微分回路から出力される信号と所定の閾値を比較し、当該比較結果を出力する比較器とを備え、
前記制御手段は、
前記比較器からの出力に基づいて、前記差分信号の有効性を判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の物体検知装置。
【請求項3】
前記制御手段は、所定周期で前記マイクロ波ドップラセンサを間欠的に動作させるとともに、前記差分信号を無効と判定した場合に、前記マイクロ波ドップラセンサを前記所定周期における次の間欠動作タイミングまでに再度動作させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の物体検知装置。
【請求項4】
前記制御手段は、所定周期で前記マイクロ波ドップラセンサを間欠的に動作させるとともに、前記差分信号を無効と判定した場合に、前記間欠的な動作を中断し、所定時間後に前記マイクロ波ドップラセンサの前記間欠的な動作を再開させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の物体検知装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の物体検知装置と、小便器と、前記物体検知装置による物体の検知に応じて前記小便器に洗浄水を供給する制御部とを備えたことを特徴とする小便器洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−249671(P2008−249671A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95079(P2007−95079)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】