説明

物体検知装置

【課題】 自車の進行方向の所定の検知領域に存在する制御対象物体を最小限の時間遅れで精度良く判定する。
【解決手段】 前回検知されたターゲットの位置および相対速から今回のターゲットの位置を予測し、その今回予測位置を中心として広い引継ぎエリア、中程度の3回目出力候補判定エリアおよび狭い2回目出力候補判定エリアを設定する。引継ぎエリア内で連続して検知されたターゲットが2回目の検知で2回目出力候補判定エリアに有れば、その時点でそのターゲットを制御対象物体と判定し、引継ぎエリア内で連続して検知されたターゲットが2回目および3回目の検知で共に3回目出力候補判定エリアに有れば、その時点でそのターゲットを制御対象物体と判定し、引継ぎエリア内でターゲットが4回連続して検知されれば、その時点でそのターゲットを制御対象物体と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車の進行方向の所定の検知領域において検知された物体をノイズや塵によるゴーストデータから識別して制御対象物体であるか否かをより早く判定する物体検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダー装置により一定時間間隔で検知された物体が自車を制御するための制御対象物体であるか否かを、その物体が所定時間の間に検知された回数に応じて判定するものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
またレーダー装置により一定時間間隔で検知された物体の連続性(同一性)を判定するために、物体の今回の検知データから次回の位置を予測し、物体の今回の検知位置が前記予測位置の周囲に設定した許容範囲に入っている場合に、前回検知した物体と今回検知した物体とが同一物体であると判定するものが、下記特許文献2により公知である。
【特許文献1】特開平8−216726号公報
【特許文献2】特開2004−132734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載されたものは、物体が所定時間の間に検知された回数に応じて該物体が制御対象物体であるか否かを判定するので、その物体が明らかに制御対象物体である場合でも前記所定時間が経過するまで判定結果を得ることができず、前記判定結果を用いた制御に遅れが発生する可能性があった。
【0005】
また上記特許文献2に記載されたものは、前回検知した物体と今回検知した物体とが同一物体であるか否かを判定するために設定される予測位置の周囲の許容範囲が一定の広さであるため、その同一性の信頼度をYESかNOの何れにしか判定することができず、きめ細かい高精度の判定ができないという問題があった。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、自車の進行方向の所定の検知領域に存在する制御対象物体を最小限の時間遅れで精度良く判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、自車の進行方向の所定の検知領域に存在する物体を所定時間毎に検知する物体検知手段と、前記物体検知手段の検知結果に基づいて自車と物体との相対位置および相対速よりなる相対関係を算出する相対関係算出手段と、前記相対関係算出手段により算出された物体の前回検知時点における相対位置および相対速に基づいて今回検知時点における相対位置を予測する今回位置予測手段と、前記今回位置予測手段により予測された相対位置を中心とした所定の範囲を設定する範囲設定手段と、前記相対関係算出手段により算出された今回検知時点における相対位置が前記範囲内に有る場合に前回および今回の物体は同一物体であると判定する同一性判定手段と、前記同一性判定手段により同一物体であると判定された回数が判定回数に達した物体を制御対象物体であると判定する制御対象物体判定手段とを備えた物体検知装置において、前記範囲設定手段は前記予測された相対位置を中心として複数の範囲を設定し、前記制御対象物体判定手段は今回検知時点における相対位置がどの範囲内に存在するかに応じて前記判定回数を変更することを特徴とする物体検知装置が提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記制御対象物体判定手段は今回検知時点における相対位置が前記範囲設定手段で設定される範囲の中で最も狭い第1の範囲に存在する場合に前記判定回数を減少させることを特徴とする物体検知装置が提案される。
【0009】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記制御対象物体判定手段は今回検知時点における相対位置が前記範囲設定手段で設定される範囲の中で最も狭い第1の範囲を囲む該第1の範囲の次に狭い第2の範囲に存在する場合には、前回検知時点における相対位置が該第1の範囲または第2の範囲に存在していた場合に前記判定回数を減少させることを特徴とする物体検知装置が提案される。
【0010】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記相対関係算出手段により算出された前回および今回の相対位置と相対速とに基づいて次回の相対位置を推定する物体位置推定手段を備え、前記制御対象物体判定手段は前記物体位置推定手段によって推定された物体の次回位置が前記検知領域外に有る場合には前記物体を制御対象と判定しないことを特徴とする物体検知装置が提案される。
【0011】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1〜請求項4の何れか1項の構成に加えて、前記相対関係算出手段により算出された前回および今回の相対位置と相対速とに基づいて次回の相対速を推定する相対速推定手段を備え、前記制御対象物体判定手段は前記相対速推定手段によって推定された物体の次回の相対速が自車から離反する方向である場合には前記物体を制御対象と判定しないことを特徴とする物体検知装置が提案される。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、物体検知手段は自車の進行方向の所定の検知領域に存在する物体を所定時間毎に検知し、相対関係算出手段は物体検知手段の検知結果に基づいて自車と物体との相対位置および相対速よりなる相対関係を算出し、今回位置予測手段は相対関係算出手段により算出された物体の前回検知時点における相対位置および相対速に基づいて今回検知時点における相対位置を予測する。範囲設定手段は今回位置予測手段により予測された相対位置を中心とした所定の範囲を設定し、同一性判定手段は相対関係算出手段により算出された今回検知時点における相対位置が前記範囲内に有る場合に前回および今回の物体は同一物体であると判定する。そして制御対象物体判定手段は同一性判定手段により同一物体であると判定された回数が判定回数に達した物体を制御対象物体であると判定する。その際に、範囲設定手段は予測された相対位置を中心として複数の範囲を設定し、制御対象物体判定手段は今回検知時点における相対位置がどの範囲内に存在するかに応じて前記判定回数を変更するので、その物体が予測される位置に精度良く検知される度合いに応じて前記判定回数を変化させることが可能となり、制御対象物体の判定精度を低下させることなく、少ない検知回数で素早く制御対象物体を判定することができる。
【0013】
また請求項2の構成によれば、今回検知時点における相対位置が範囲設定手段で設定される範囲の中で最も狭い第1の範囲に存在する場合に、制御対象物体判定手段が判定回数を減少させるので、制御対象物体の判定精度を低下させることなく最小限の検知回数でより素早く制御対象物体を判定することができる。
【0014】
また請求項3の構成によれば、今回検知時点における相対位置が範囲設定手段で設定される範囲の中で最も狭い第1の範囲を囲む第2の範囲に存在する場合には、前回検知時点における相対位置が該第1の範囲または第2の範囲に存在していた場合に、制御対象物体判定手段が判定回数を減少させるので、制御対象物体の判定精度を低下させることなく最小限の検知回数でより素早く制御対象物体を判定することができる。
【0015】
また請求項4の構成によれば、物体位置推定手段が相対関係算出手段により算出された前回および今回の相対位置と相対速とに基づいて次回の相対位置を推定し、制御対象物体判定手段が前記次回位置が検知領域外に有る場合には物体を制御対象物体であると判定しないので、検知領域から外れて連続検知できなくなった物体を制御対象物体であると判定するのを防止することができる。
【0016】
また請求項5の構成によれば、相対速推定手段が相対関係算出手段により算出された前回および今回の相対位置と相対速とに基づいて次回の相対速を推定し、制御対象物体判定手段が前記次回の相対速が自車から離反する方向である場合には物体を制御対象物体であると判定しないので、物体が自車から遠ざかるために衝突の可能性が無い物体を制御対象物体であると判定するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0018】
図1〜図16は本発明の実施の形態を示すもので、図1は物体検知装置の制御系のブロック図、図2は今回予測位置、引継ぎエリア、2回目出力候補判定エリアおよび3回目出力候補判定エリアの説明図、図3は物体検知装置の作用を説明するメインフローチャート、図4は2回目ターゲット出力判定サブフローチャート、図5は3回目ターゲット出力判定サブフローチャート、図6は3回目検知予測位置判定サブフローチャート、図7は3回目検知予測相対速判定サブフローチャート、図8は引継ぎエリアの作用説明図、図9は検知2回目の作用説明図、図10〜図12は検知3回目の作用説明図、図13は検知4回目の作用説明図(本発明)、図14は検知4回目の作用説明図(従来例)、図15は他車両が検知エリア外から割り込む場合の作用説明図、図16は他車両が先行車の陰から割り込む場合の作用説明図である。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態の物体検知装置は、電磁波を送信する送信手段と、その電磁波が物体に反射された反射波を受信する受信手段とを備えたレーダー装置R(ミリ波レーダー装置あるいはレーザーレーダー装置)で検知した先行車に対して自車が追従走行する際に、自車と先行車との車間距離が所定値以下になって追突の可能性が高まると、自動制動により自車を制動する追突防止システムや、運転者に自発的な制動を促す警報システムを作動させるべく、その制御対象となる物体(先行車)のデータを追突防止システムや警報システムに出力する。
【0020】
車両制御装置の電子制御ユニットUは、相対関係算出手段M1と、今回位置予測手段M2と、範囲設定手段M3と、同一性判定手段M4と、制御対象物体判定手段M5と、物体位置推定手段M6と、相対速推定手段M7とを備える。
【0021】
レーダー装置Rは自車前方に電磁波を送信し、その電磁波が先行車のような物体に反射された反射波を受信することで、該物体を所定時間間隔(例えば、0.1秒)で検知する。相対関係算出手段M1は、前記反射波に基づいて物体の自車に対する相対関係、つまり相対位置および相対速を前記各時間間隔毎に検知する。今回位置予測手段M2は、前回検知した物体の相対位置および相対速から、今回検知時点での物体の相対位置を予測する。範囲設定手段M3は、今回位置予測手段M2で予測した物体の今回の相対位置を中心に所定の範囲を設定する。同一性判定手段M4は、相対関係算出手段M1が算出した物体の予測でない実際の相対位置が前記範囲内に有る場合に、その物体が前回検知した物体と同一物体であると判定する。制御対象物体判定手段M5は、同一性判定手段M4により同一物体であると判定された回数が所定の判定回数に達した物体を、自動制動や車間距離制御の制御対象であると判定する。
【0022】
物体位置推定手段M6は、相対関係算出手段M1が算出した前回および今回の相対位置および相対速から次回の相対位置を推定し、この次回の相対位置が前記範囲から外れると、その物体を連続して検知できなくなるので該物体を制御対象から除外する。相対速推定手段M7は、相対関係算出手段M1が算出した前回および今回の相対位置および相対速から次回の相対速を推定し、この次回の相対速が自車から遠ざかる方向であると、物体との衝突の虞がないために該物体を制御対象から除外する。
【0023】
ここで、図2に基づいて今回予測位置、引継ぎエリア、2回目出力候補判定エリアおよび3回目出力候補判定エリアについて説明する。
【0024】
前回検知ターゲットを元に今回検知ターゲットの予測位置を求めると、今回予測位置を基準として前後方向に各4m、左右方向に各4mの8m×8mの引継ぎエリアと、今回予測位置を基準として前後方向に各2m、左右方向に各2mの4m×4mの3回目出力候補判定エリアと、今回予測位置を基準として前後方向に各1m、左右方向に各1mの2m×2mの2回目出力候補判定エリアとが設定される。
【0025】
図3のフローチャートのステップS1でターゲットからの反射波を検知し、ステップS2でターゲットの左右位置および相対速を算出し、ステップS3で出力判定フラグをクリアし、ステップS4で前回検知したターゲットとの引継ぎを確認する。ステップS5で今回検知ターゲットが前回検知ターゲットを引継いだものであり、かつステップS6で今回の検知が2回目検知(つまり前回の検知が新規)であれば、ステップS7で2回目ターゲット出力判定サブフローを実行する。前記ステップS6で今回の検知が2回目検知でなく、ステップS8で今回の検知が3回目検知であれば、ステップS9で3回目ターゲット出力判定サブフローを実行する。前記ステップS8で今回の検知が3回目検知でなければ4回目以上の検知なので、ステップS10で出力判定フラグをセットする。
【0026】
続くステップS11で全てのターゲットを処理するまで、前記ステップS2〜S10を繰り返し、全てのターゲットを処理すると、ステップS12で出力判定フラグがセットされたターゲットデータを自動制動装置や警報装置の制御ECUに出力する。
【0027】
次に、前記ステップS7の2回目ターゲット出力判定サブフローの内容を、図4に基づいて説明する。このサブフローは2回目ターゲットが本当のターゲットである可能性を判定するものである。
【0028】
尚、2回目ターゲットとは、引継ぎ確認によって前回検知ターゲットと同一のターゲットとして今回検知されたターゲットのことであり、前回検知ターゲットと今回検知ターゲットとの引継ぎ確認(同一のターゲットかどうかの確認)とは、前回検知ターゲットを元に今回検知ターゲットの予測位置を求め、その予測位置を基準に設定した8m×8mの引継ぎエリア内にあって該予測位置に最も近い今回検知ターゲットを選び、予測相対速と今回検知相対速との差が例えば±10km/h以内の今回検知ターゲットを同一ターゲットとする処理である。
【0029】
図8の例では、今回検知ターゲット1、2のうち、今回検知ターゲット1の方が今回検知ターゲット2よりも今回予測位置に近く、かつ相対速の差も小さいので、今回検知ターゲット1が引継ぎ対象(同一ターゲット)であると判定される。尚、前後方向8m、左右方向8mの引継ぎエリアに今回ターゲットが存在しない場合には、引継ぎ対象無し(同一ターゲット無し)と判定される。
【0030】
先ずステップS21で前回検知ターゲットおよび今回検知ターゲットの反射波の受信レベルが共に検知閾値+5dB以上であるか否かを判断する。これは、受信レベルが低いターゲットはノイズ等の影響で安定した検知ができない可能性があるため、出力対象の候補から除外するためである。
【0031】
前記ステップS21の答がYESであれば、ステップS22で、前回検知ターゲットおよび今回検知ターゲットの反射波の受信レベルの差が共に5dB以内であるか否かを判断する。これは、同一ターゲットであれば受信レベルの差が小さいはずであるため、受信レベルの差が大きいターゲットを出力対象の候補から除外するためである。
【0032】
前記ステップS22の答がYESであれば、ステップS23で実際の今回検知ターゲットの位置が、前回検知ターゲットの位置から算出した今回検知ターゲットの予測位置に対し、例えば前後方向に各1m以内、左右方向に各1m以内で有るか否か(つまり図2の2回目出力候補判定エリア内に有るか否か)を判断し、更にステップS24で実際の今回検知ターゲットの相対速が、前回検知ターゲットの相対速から算出した今回検知ターゲットの予測相対速に対し、例えば±2km/h以内であるか否かを判断する。
【0033】
そして前記ステップS21〜S24の答が全てYESであれば、今回検知ターゲットは出力対象候補とされ、ステップS25で今回の検知データに基づいて次回の予測位置および予測相対速を算出する。そしてステップS26で前記予測位置がレーダー装置Rの検知エリア内に有り、かつステップS27で前記予測相対速が自車に接近する方向であれば、ステップS28でそのターゲットを出力対象と判定して出力判定フラグをセットする。予測位置がレーダー装置Rの検知エリア内に有ることを条件とするのは、予測位置が検知エリア内を外れるとターゲットを継続して検知できなくなるからである。また予測相対速が自車に接近する方向であることを条件とするのは、自車から遠ざかるターゲットは自動制動装置や警報装置の制御対象とはなり得ないからである。
【0034】
図9(A)の例は、今回検知位置が2回目出力候補判定エリア内に有る場合を示しており、この場合には今回検知ターゲットを出力する。
【0035】
図9(B)の例は、今回検知位置が2回目出力候補判定エリア内に無い場合を示しており、この場合には今回検知ターゲットを出力しない。
【0036】
次に、前記ステップS9の3回目ターゲット出力判定サブフローの内容を、図5に基づいて説明する。このサブフローは3回目ターゲットが本当のターゲットである可能性を判定するものである。
【0037】
先ずステップS31で前々回検知ターゲット、前回検知ターゲットおよび今回検知ターゲットの反射波の受信レベルが全て検知閾値+5dB以上であるか否かを判断する。これは、受信レベルが低いターゲットはノイズ等の影響で安定した検知ができない可能性があるため、出力対象の候補から除外するためである。
【0038】
前記ステップS31の答がYESであれば、ステップS32で、前々回検知ターゲット、前回検知ターゲットおよび今回検知ターゲットの反射波の受信レベルの差が全て10dB以内であるか否かを判断する。これは、同一ターゲットであれば受信レベルの差が小さいはずであるため、受信レベルの差が大きいターゲットを出力対象の候補から除外するためである。
【0039】
前記ステップS32の答がYESであれば、ステップS33で3回目検知予測位置判定サブフローを実行する。
【0040】
図6のフローチャートのステップS41で今回検知ターゲット位置が今回予測位置に対して前後方向に各1m、左右方向に各1mの2回目出力候補判定エリアに入っているか否かを判断し、入っていればステップS42で出力候補フラグをセットする。前記ステップS41の判定条件は既に説明した2回目ターゲット出力判定の基準と同じである。3回目ターゲット出力判定であっても、2回目ターゲット出力判定の基準を満たしているなら、この判定基準のみで出力候補フラグをセットする。
【0041】
前記ステップS41の答がNOであれば、ステップS43で今回検知ターゲット位置が今回予測位置に対して前後方向に各2m、左右方向に各2mの3回目出力候補判定エリアに入っているか否かを判断し、入っていればステップS44で前回検知ターゲット位置が前回予測位置に対して前記3回目出力候補判定エリアに入っているか否かを判断し、入っていれば前記ステップS42で出力候補フラグをセットする。前記ステップS43、S44の条件は前記ステップS41の条件よりも緩いものであるが、その緩い条件であっても2回続けて満たされた場合には出力候補フラグをセットする。
【0042】
前記ステップS43、S44の少なくとも一方の答がNOであれば、ステップS45で今回検知ターゲットが本当のターゲットである可能性はあまり高くないと判断して出力候補フラグをクリアする。
【0043】
図5のフローチャートに戻り、ステップS34で出力候補フラグがセットされていれば、ステップS35で3回目検知予測相対速判定フローを実行する。
【0044】
図7のフローチャートのステップS51で今回検知ターゲットの相対速が今回予測相対速に対して±2km以内か否かを判断し、±2km以内であればステップS52で出力候補フラグをセットする。前記ステップS51の判定条件は既に説明した2回目ターゲット出力判定の基準と同じである。3回目ターゲット出力判定であっても、2回ターゲット出力判定の基準を満たしているなら、この判定基準のみで出力候補フラグをセットする。
【0045】
前記ステップS51の答がNOであれば、ステップS53で今回検知ターゲット相対速が今回予測相対速に対して±5km以内か否かを判断し、±5km以内であればステップS54で前回検知ターゲット位置が前回予測相対速に対して±5km以内か否かを判断し、±5km以内であれば前記ステップS52で出力候補フラグをセットする。前記ステップS53、S54の条件は前記ステップS51の条件よりも緩いものであるが、その緩い条件であっても2回続けて満たされた場合には出力候補フラグをセットする。
【0046】
前記ステップS53、S54の少なくとも一方の答がNOであれば、ステップS55で今回検知ターゲットが本当のターゲットである可能性はあまり高くないと判断して出力候補フラグをクリアする。
【0047】
図5のフローチャートに戻り、ステップS36で出力候補フラグがセットされていれば、ステップS37で今回の検知データに基づいて次回の予測位置および予測相対速を算出する。そしてステップS38で前記予測位置がレーダー装置Rの検知エリア内に有り、かつステップS39で前記予測相対速が自車に接近する方向であれば、ステップS40でそのターゲットを出力対象と判定して出力判定フラグをセットする。予測位置がレーダー装置Rの検知エリア内に有ることを条件とするのは、予測位置が検知エリア内を外れるとターゲットを継続して検知できなくなるからである。また予測相対速が自車に接近する方向であることを条件とするのは、自車から遠ざかるターゲットは自動制動装置や警報装置の制御対象とはなり得ないからである。
【0048】
図10(A)の例は、前回検知位置が2回目出力候補判定エリア内に有り、今回検知位置が2回目出力候補判定エリア内に有る場合を示しており、この場合には前回検知ターゲットおよび今回検知ターゲットの両方を出力する。
【0049】
図10(B)の例は、前回検知位置が2回目出力候補判定エリア内に有り、今回検知位置が3回目出力候補判定エリア内に有る場合を示しており、この場合には前回検知ターゲットおよび今回検知ターゲットの両方を出力する。
【0050】
図10(C)の例は、前回検知位置が2回目出力候補判定エリア内に有り、今回検知位置が3回目出力候補判定エリア外に有る場合を示しており、この場合には前回検知ターゲットを出力するが、今回検知ターゲットを出力しない。
【0051】
図11(D)の例は、前回検知位置が3回目出力候補判定エリア内に有り、今回検知位置が2回目出力候補判定エリア内に有る場合を示しており、この場合には前回検知ターゲットを出力しないが、今回検知ターゲットを出力する。
【0052】
図11(E)の例は、前回検知位置が3回目出力候補判定エリア内に有り、今回検知位置が3回目出力候補判定エリア内に有る場合を示しており、この場合には前回検知ターゲットを出力しないが、今回検知ターゲットを出力する。
【0053】
図11(F)の例は、前回検知位置が3回目出力候補判定エリア内に有り、今回検知位置が3回目出力候補判定エリア外に有る場合を示しており、この場合には前回検知ターゲットおよび今回検知ターゲットの両方を出力しない。
【0054】
図12(G)の例は、前回検知位置が3回目出力候補判定エリア外に有り、今回検知位置が2回目出力候補判定エリア内に有る場合を示しており、この場合には前回検知ターゲットを出力しないが、今回検知ターゲットを出力する。
【0055】
図12(H)の例は、前回検知位置が3回目出力候補判定エリア外に有り、今回検知位置が3回目出力候補判定エリア内に有る場合を示しており、この場合には前回検知ターゲットおよび今回検知ターゲットの両方を出力しない。
【0056】
図12(I)の例は、前回検知位置が3回目出力候補判定エリア外に有り、今回検知位置が3回目出力候補判定エリア外に有る場合を示しており、この場合には前回検知ターゲットおよび今回検知ターゲットの両方を出力しない。
【0057】
図3のフローチャートのステップS8の答がNOになると、引継ぎターゲットであって2回目の検知でも3回目の検知でもなく4回目以上の検知となり、この場合にはステップS10で全ての出力判定フラグをセットして出力対象とする。つまり、3回以上連続して引継ぎエリアに入ったターゲットは全て出力対象となる。
【0058】
図13の例では、前々回検知ターゲットは2回目出力候補判定エリア外(3回目出力候補判定エリア内)に有るので出力されず、前回ターゲットは3回目出力候補判定エリア内に有るので出力される。そして今回ターゲットは2回目出力候補判定エリア内に有るが、そうでなくても引継ぎエリア内に有りさえすれば、4回以上連続して検知されたことで必ず出力される。
【0059】
図14は前記図13の例に対応する従来例である。従来例は4回以上連続して検知されたターゲットだけが出力されるため、前々回ターゲットおよび前回ターゲットが何れのエリアにあっても出力されず、4回目に検知された今回ターゲットは初めて出力される。よって、本実施の形態によれば、従来例に比べて1サイクル早い出力(つまり前回検知の時点での出力)が可能になる。
【0060】
図15は自車の右前方から正面に他車が割り込んでくる場合の作用を説明するものである。図15(A)は従来例であって、他車が検知エリアに入ってから4回目の検知で初めて自動制動や車間距離制御の制御対象となるので、その分だけ自車の減速が遅れて車間距離が短くなる可能性がある。
【0061】
一方、図15(B)に示す実施の形態によれば、他車が検知エリアに入ってから2回目の検知で自動制動の制御対象となり得るので、その分だけ自車の減速を早めに開始して車間距離が短くなるのを防止することができる。
【0062】
図16は自車の右前方の先行車の陰から自車の正面に他車が割り込んでくる場合の作用を説明するものである。図16(A)は従来例であって、他車が先行車の陰から出現して検知されてから4回目の検知で初めて自動制動の制御対象となるので、その分だけ自車の減速が遅れて車間距離が短くなる可能性がある。
【0063】
一方、図16(B)に示す実施の形態によれば、他車が先行車の陰から出現して検知されてから2回目の検知で自動制動の制御対象となり得るので、その分だけ自車の減速を早めに開始して車間距離が短くなるのを防止することができる。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態によれば、予測したターゲットの相対位置を中心として面積が広い引継ぎエリア、面積が中程度の3回目出力候補判定エリアおよび面積が狭い2回目出力候補判定エリアを設定し、引継ぎエリア内で連続して検知されたターゲットが2回目の検知で2回目出力候補判定エリアに有れば、その時点でそのターゲットを出力し、引継ぎエリア内で連続して検知されたターゲットが2回目および3回目の検知で共に3回目出力候補判定エリアに有れば、その時点でそのターゲットを出力し、引継ぎエリア内でターゲットが4連続して検知されれば、その時点でそのターゲットを出力する。
【0065】
つまり複数のエリアを設定し、今回検知時点におけるターゲットの相対位置がどのエリア内に存在するかに応じて、言い変えるとターゲットが予測した位置に精度良く検知される度合いに応じて、該ターゲットを出力するか否かの判定回数を2回〜4回の範囲で変更するので、制御対象物体の判定精度を低下させることなく、少ない検知回数で素早く制御対象物体を判定することができる。
【0066】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0067】
例えば、実施の形態の引継ぎエリア、3回目出力候補判定エリアおよび2回目出力候補判定エリアの面積や、ターゲットを出力するか否かの判定回数は適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】物体検知装置の制御系のブロック図
【図2】今回予測位置、引継ぎエリア、2回目出力候補判定エリアおよび3回目出力候補判定エリアの説明図
【図3】物体検知装置の作用を説明するメインフローチャート
【図4】2回目ターゲット出力判定サブフローチャート
【図5】3回目ターゲット出力判定サブフローチャート
【図6】3回目検知予測位置判定サブフローチャート
【図7】3回目検知予測相対速判定サブフローチャート
【図8】引継ぎエリアの作用説明図
【図9】検知2回目の作用説明図
【図10】検知3回目の作用説明図
【図11】検知3回目の作用説明図
【図12】検知3回目の作用説明図
【図13】検知4回目の作用説明図(本発明)
【図14】検知4回目の作用説明図(従来例)
【図15】他車両が検知エリア外から割り込む場合の作用説明図
【図16】他車両が先行車の陰から割り込む場合の作用説明図
【符号の説明】
【0069】
R レーダー装置(物体検知手段)
M1 相対関係算出手段
M2 今回位置予測手段
M3 範囲設定手段
M4 同一性判定手段
M5 制御対象物体判定手段
M6 物体位置推定手段
M7 相対速推定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車の進行方向の所定の検知領域に存在する物体を所定時間毎に検知する物体検知手段(R)と、
前記物体検知手段(R)の検知結果に基づいて自車と物体との相対位置および相対速よりなる相対関係を算出する相対関係算出手段(M1)と、
前記相対関係算出手段(M1)により算出された物体の前回検知時点における相対位置および相対速に基づいて今回検知時点における相対位置を予測する今回位置予測手段(M2)と、
前記今回位置予測手段(M2)により予測された相対位置を中心とした所定の範囲を設定する範囲設定手段(M3)と、
前記相対関係算出手段(M1)により算出された今回検知時点における相対位置が前記範囲内に有る場合に前回および今回の物体は同一物体であると判定する同一性判定手段(M4)と、
前記同一性判定手段(M4)により同一物体であると判定された回数が判定回数に達した物体を制御対象物体であると判定する制御対象物体判定手段(M5)と、
を備えた物体検知装置において、
前記範囲設定手段(M3)は前記予測された相対位置を中心として複数の範囲を設定し、前記制御対象物体判定手段(M5)は今回検知時点における相対位置がどの範囲内に存在するかに応じて前記判定回数を変更することを特徴とする物体検知装置。
【請求項2】
前記制御対象物体判定手段(M5)は今回検知時点における相対位置が前記範囲設定手段(M3)で設定される範囲の中で最も狭い第1の範囲に存在する場合に前記判定回数を減少させることを特徴とする、請求項1に記載の物体検知装置。
【請求項3】
前記制御対象物体判定手段(M5)は今回検知時点における相対位置が前記範囲設定手段(M3)で設定される範囲の中で最も狭い第1の範囲を囲む該第1の範囲の次に狭い第2の範囲に存在する場合には、前回検知時点における相対位置が該第1の範囲または第2の範囲に存在していた場合に前記判定回数を減少させることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の物体検知装置。
【請求項4】
前記相対関係算出手段(M1)により算出された前回および今回の相対位置と相対速とに基づいて次回の相対位置を推定する物体位置推定手段(M6)を備え、前記制御対象物体判定手段(M5)は前記物体位置推定手段(M6)によって推定された物体の次回位置が前記検知領域外に有る場合には前記物体を制御対象と判定しないことを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の物体検知装置。
【請求項5】
前記相対関係算出手段(M1)により算出された前回および今回の相対位置と相対速とに基づいて次回の相対速を推定する相対速推定手段(M7)を備え、前記制御対象物体判定手段(M5)は前記相対速推定手段(M7)によって推定された物体の次回の相対速が自車から離反する方向である場合には前記物体を制御対象と判定しないことを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の物体検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−51615(P2008−51615A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227321(P2006−227321)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】