説明

物体浮上装置

【課題】柔らかく剛性の低い物体でも大きな変形をさせることなく浮上させることができる物体浮上装置の提供。
【解決手段】基台表面2aに対して斜めに延びて開口する空気噴射流路4で囲った所定領域Xにおいて空気溜まりを形成し、基台表面2aに対しワークを浮上させる物体浮上装置1であって、所定領域Xは、平面視で6角形状を有して、基台表面2a上を充填するように複数設けられているという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体浮上装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に物体浮上装置は、気体を噴射する噴射口が形成された基台を具備しており、その基台上に載置された物体の下側に気体を送り込んで、物体を浮上させる構成となっている。下記特許文献1の物体浮上装置においては、基台表面に対して斜めに延びて開口する気体噴射流路で囲った4角形状の領域において気体溜まりを形成し、上記基台表面に対し物体を浮上させる構成を採用している。この構成によれば、物体を気体溜まりによって均一な力で浮上させることができるため、浮上エネルギーの効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−12877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、液晶ディスプレイを構成するガラス基板等は、ある程度の硬さ、ある程度の剛性を有するため、上記従来技術を適用して均一な力で浮上させることができる。しかしながら、柔らかく剛性の低い物体(例えば、金属箔、樹脂フィルム、薄ガラス等)の場合は、気体溜まりの圧力分布に従って波打つように大きく変形しながら浮上してしまう。そうすると、当該物体をロボットアーム等で、まともにハンドリングすることができない。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、柔らかく剛性の低い物体でも大きな変形を生じさせることなく浮上させることができる物体浮上装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、基台表面に対して斜めに延びて開口する気体噴射流路で囲った領域において気体溜まりを形成し、上記基台表面に対し物体を浮上させる物体浮上装置であって、上記領域は、平面視で6角形状を有して、上記基台表面上を充填するように複数設けられているという構成を採用する。
気体溜まりの圧力は、上記領域の中央部が最も高く、該中央部から離れるに従って低くなる分布を有するので、従来の4角形の領域では、その四隅に圧力の低い部位が生じやすかった。本発明では、気体溜まりを形成する領域を6角形状とすることで、圧力が低くなる部位を小さくして、上記領域における圧力の均一化を図る。さらに、本発明では、上記領域を6角形状として充填配置することで、基台表面における無駄な面(気体溜まりを形成しない面)を最小限に抑えることができる。このため、基台表面上に、圧力変化が小さい気体溜まりを満遍なく形成することができる。
【0007】
また、本発明においては、上記領域には、上記基台表面に対し凹んで上記気体溜まりを保持する凹部が形成されているという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、上記領域に凹部を形成して気体溜まりを保持させることによって、隣り合う上記領域における気体溜まり同士の干渉(接続)を抑制することができる。
【0008】
また、本発明においては、上記凹部の深さを調節する深さ調節シートを有するという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、凹部の体積を調節して上記領域における気体溜まりの圧力を調整することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基台表面に対して斜めに延びて開口する気体噴射流路で囲った領域において気体溜まりを形成し、上記基台表面に対し物体を浮上させる物体浮上装置であって、上記領域は、平面視で6角形状を有して、上記基台表面上を充填するように複数設けられているという構成を採用することによって、上記領域を6角形状にして圧力が低くなる部位を小さくし、上記領域における圧力の均一化を図る。さらに、上記領域を6角形状として充填配置することで、基台表面における無駄な面(気体溜まりを形成しない面)を最小限に抑えて、基台表面上に、圧力変化が小さい気体溜まりを満遍なく形成する。
したがって、本発明では、柔らかく剛性の低い物体でも大きな変形を生じさせることなく浮上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態における物体浮上装置の断面構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態における物体浮上装置の平面図である。
【図3】本発明の第1実施形態における基台の分解斜視図である。
【図4】本発明の第1実施形態における所定領域に形成される空気溜まりの圧力分布を示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態における物体浮上装置の断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態における物体浮上装置1の断面構成図である。図2は、本発明の第1実施形態における物体浮上装置1の平面図である。図3は、本発明の第1実施形態における基台2の分解斜視図である。
【0013】
物体浮上装置1は、平面を備える物体(薄板、シート、フィルム等)であって、柔らかく剛性の低いもの(以下、ワークWと称する)を、気体(本実施形態では空気)を用いて浮上させる装置である。この物体浮上装置1は、例えばワークWの両端部をローラーで支持したり挟んだりして水平方向の一方向に搬送する搬送装置と併設される。この場合、物体浮上装置1は、ワークWの中央部を空気圧で、非接触で支持するように設けられる。
【0014】
物体浮上装置1は、天部に平面(以下、基台表面2aと称する)を備える基台2を有する。基台2には、空気を噴射する空気噴射流路(気体噴射流路)4が設けられている。空気噴射流路4の一端部4Aは、図2に示すように、基台表面2aの所定領域Xを囲むように、基台表面2aに環状に開口している。所定領域Xは、平面視で6角形状を有して、基台表面2a上を充填するように複数設けられている。複数の所定領域Xは、基台表面2a上においてハニカム状に配置されている。
【0015】
空気噴射流路4の一端部4Aは、図1に示すように、基台表面2aに対して斜めに延びて開口している。より詳しくは、空気噴射流路4は、基台2の少なくとも天部付近では、所定領域Xの内側を向くように設けられている。
一方、空気噴射流路4の他端部4Bは、基台裏面2bに対して垂直に延びて開口している。基台裏面2bには、チャンバー5が接続されている。チャンバー5内には、不図示の空気供給源(ファン、ブロワ等)から空気が圧送されてくる構成となっている。
【0016】
基台2には、複数の所定領域Xに対応して、複数の空気噴射流路4が形成されている。この空気噴射流路4は、ベース部材6と、差込部材7とを嵌め合せることで形成されている。ベース部材6と、差込部材7との嵌め合せは、不図示の螺子部材を用いて両者を螺合させることで行う。図3に示すように、ベース部材6には、複数の貫通口8が形成されている。また、差込部材7には、複数の島部9が形成されている。
【0017】
貫通口8は、島部9よりも大きく形成されており、両者を嵌め合せた際に、環状の隙間(空気噴射流路4)ができる大きさを有する構成となっている。なお、貫通口8と島部9との間の隙間は、不図示のスペーサ部材の挿入により一定の幅に定められている。島部9の基端部には、差込部材7を厚さ方向で貫通する複数の孔部10が形成されている。孔部10は、チャンバー5内に連通する空気噴射流路4の他端部4Bを構成する。
【0018】
続いて、上記構成の物体浮上装置1の動作について説明する。
不図示の空気供給源から、空気が圧送されてくるとチャンバー5内が昇圧する。チャンバー5内が昇圧すると、チャンバー5に覆われた基台裏面2bから空気が、各空気噴射流路4に導入される。各空気噴射流路4に導入された空気は、基台表面2aに向かって鉛直方向に流れた後、天部付近で屈曲して、それぞれの所定領域Xに向かう内向き流れとなり、各一端部4Aから基台表面2a上に噴き出る。基台表面2aにワークWが載置されていれば、一端部4Aに囲まれた所定領域XとワークWとの間に、空気溜まり(気体溜まり)Gが形成される。空気溜まりGは、ワークWを基台表面2aに対し浮上させる。
【0019】
所定領域Xは、平面視で6角形状を有するため、所定領域Xに形成される空気溜まりGの圧力分布は、図4(a)に示すようになる。なお、図4では、圧力の高低を、ドットの濃淡で示している。
空気溜まりGの圧力は、所定領域Xの中央部が最も高く、該中央部から離れるに従って低くなる分布を有する。したがって、図4(b)に示す従来形状、すなわち、所定領域Xが4角形状であると、その四隅に圧力の低い部位が生じやすい。このため、圧力の高い部位と低い部位との差が大きく出て、柔らかく剛性の低いワークWは、この圧力分布に従って波打つように大きく変形してしまう。
しかしながら、図4(a)に示す本実施形態の形状、すなわち、所定領域Xが6角形状であると、圧力が低くなる部位を小さくできる。このため、圧力の高い部位と低い部位との差を小さくし、所定領域Xにおける圧力の均一化を図ることで、ワークWの変形を抑制することができる。
【0020】
また、本実施形態では、図2に示すように、所定領域Xを6角形状として充填配置することで、基台表面2aにおける無駄な面(気体溜まりGを形成しない面)を最小限に抑えることができる。このため、基台表面2a上に、圧力変化が小さい気体溜まりを満遍なく形成することができる。
なお、所定領域Xを6角形状以上の多角形状(例えば8角形状)あるいは円形状とした場合では、所定領域Xの1つ当たりの圧力の均一化については有利であるが、当該形状で密集配置すると、当然に基台表面2aにおける無駄な面が広くなる。当該気体溜まりGを形成しない面では、圧力の谷にあたる部位であるから、柔らかく剛性の低いワークWは当該部位で波打つように大きく変形してしまう。
しかしながら、図2に示す本実施形態の形状、すなわち、所定領域Xを6角形状として充填配置することで、基台表面2aにおける無駄な面を最小限に抑えることができる。このため、圧力の谷にあたる部位を最小限に抑えることでワークWの変形を抑制することができる。
【0021】
したがって、上述の本実施形態によれば、基台表面2aに対して斜めに延びて開口する空気噴射流路4で囲った所定領域Xにおいて空気溜まりGを形成し、基台表面2aに対しワークWを浮上させる物体浮上装置1であって、所定領域Xは、平面視で6角形状を有して、基台表面2a上を充填するように複数設けられているという構成を採用することによって、所定領域Xを6角形状にして圧力が低くなる部位を小さくし、所定領域Xにおける圧力の均一化を図る。さらに、所定領域Xを6角形状として充填配置することで、基台表面2aにおける無駄な面(空気溜まりGを形成しない面)を最小限に抑えて、基台表面2a上に、圧力変化が小さい空気溜まりGを満遍なく形成する。
したがって、本実施形態では、柔らかく剛性の低いワークWでも大きな変形をさせることなく浮上させることができる。
【0022】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
図5は、本発明の第2実施形態における物体浮上装置1の断面構成図である。
図に示すように、第2実施形態の所定領域Xには、基台表面2aに対し凹んで気体溜まりGを保持する凹部11が形成されている点で、上記実施形態と異なる。凹部11は、平面視で6角形状の所定領域Xに、同じく平面視で6角形状で形成されている。
【0023】
基台表面2a上に、空気溜まりGを満遍なく形成するためには、所定領域Xのピッチを狭くすることが好ましい。しかし、所定領域Xは、内向き斜め流路の一端部4Aを有する空気噴射流路4に囲まれているので、当該ピッチを狭くするためには、一端部4Aの基台表面2aの垂直方向に対する傾斜角度を小さく(浅く)する必要がある。そうすると、空気が、基台表面2aの垂直方向寄りに噴射されてしまい、所定領域Xに空気溜まりGが形成され難くなる。すなわち、空気が所定領域Xから流出し易くなり、隣り合う所定領域Xにおける空気溜まりG同士が干渉(接続)し、圧力分布に影響を与えて、ワークWの変形を助長してしまう場合がある。
【0024】
第2実施形態では、所定領域Xに凹部11を設けることで、所定領域Xに空気淀みを作って、空気溜まりGの所定領域Xからの流出を抑制し、隣り合う所定領域Xにおける空気溜まりGの干渉を抑制することができる。このため、基台表面2a上において、ピッチをより狭くして所定領域Xを配置することができる。したがって、第2実施形態では、基台表面2aにおける無駄な面をより小さくして、基台表面2a上に、空気溜まりGを満遍なく形成することができる。したがって、ワークWの変形を抑制の効果を向上させることができる。
【0025】
また、第2実施形態では、凹部11の深さを調節する深さ調節シート12が設けられている。この構成によれば、凹部11の体積を調節することにより、所定領域Xにおける空気溜まりGの圧力を調節することができ、より適切な浮力をワークWに作用させることができる。また、深さ調節シート12を貼付することによって、凹部11の底面の平面度を上げることができるため、空気溜まりGによる浮力の均一化を図ることができる。
【0026】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0027】
例えば、上記実施形態では、ワークWを浮上させる気体として、空気を用いたが、この構成に限定されるものではなく、例えば、周りが熱処理雰囲気であれば、不活性ガス、還元性ガス等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1…物体浮上装置、2a…基台表面、4…空気噴射流路(気体噴射流路)、11…凹部、12…深さ調節シート、W…ワーク(物体)、X…所定領域(領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台表面に対して斜めに延びて開口する気体噴射流路で囲った領域において気体溜まりを形成し、前記基台表面に対し物体を浮上させる物体浮上装置であって、
前記領域は、平面視で6角形状を有して、前記基台表面上を充填するように複数設けられていることを特徴とする物体浮上装置。
【請求項2】
前記領域には、前記基台表面に対し凹んで前記気体溜まりを保持する凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の物体浮上装置。
【請求項3】
前記凹部の深さを調節する深さ調節シートを有することを特徴とする請求項2に記載の物体浮上装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−17158(P2012−17158A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154193(P2010−154193)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】