説明

物体識別装置および物体識別方法、ならびに物体識別装置を備えた車両

【課題】自車両または他車両のレーダ装置等からの電波信号に妨害されること無く、安定に物体放射量の観測を行う。
【解決手段】物体からの電波放射量を検出する複数の電波受信素子204を有する電波イメージング部200と、複数の電波受信素子204からの検出信号より物体の位置等の情報を抽出する放射強度画像生成部300と、特定の周波数帯域内にレーダ装置からの電波送信が観測されると判定された場合に、電波受信素子204の検出信号からその特定の周波数帯域の信号を除いて得られる信号を放射強度画像生成部300に処理させる帯域分波制御部205とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体から放射される電波領域での放射量を検出して、その物体の検出を行う物体識別技術、およびこの物体識別技術を用いる乗用車等の車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用車等の車両に搭載される外界認識装置のうち、主に先行車などの車両を検出する装置として、レーダ装置などの反射式の観測装置が用いられている。他方、歩行者を検出する装置として、物体から放射される遠赤外線の放射強度から温度を計測し、人の体温に近い物体の検出を行う遠赤外線カメラが用いられている。
また、ミリ波等の電波領域の放射量を観測する電波イメージング装置(電波受信システム)も使用されている(例えば、特許文献1参照)。このように電波領域での物体の放射量を観測することによって、隠匿携帯した金属の検出や、霧などで視界が良くない状況において周囲の物体の存在判定あるいは識別が可能であり、現在は、セキュリティ用途や航空機の離着陸時の安全装置等として利用が為されている。
【特許文献1】特開2006−322833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年に至り自動車用レーダ装置としてミリ波レーダが普及しつつあるが、ミリ波レーダを備えた車両において、さらに電波イメージング装置を併せて装着する場合、低コスト化のため使用部品を共用または共通化し、電波イメージング装置の観測中心周波数をミリ波レーダと同じ周波数にすることが考えられる。
電波イメージング装置など受動式の放射量観測装置において、電波領域での物体からの放射量は、プランクの放射則で計算されるように微小なものである。これに対して、レーダ装置からの送信電波は、物体放射と比較して非常に大きい出力である。したがって、ミリ波レーダ装置および電波イメージング装置で使用周波数が重なると、自車両または他車両のミリ波レーダ装置からの電波の混信によって、電波イメージング装置で正確な放射量観測が行えないという問題が発生する。
【0004】
電波イメージング装置において、自車両が装備しているレーダ装置との混信を抑制するためには、両装置の動作時間帯を分割して、レーダ観測と放射量観測とを交互に行うことが考えられる。しかしながら、例えばレーダ観測のための観測時間が2分の1になると、温度分解能は、観測時間の平方根に反比例して約1.4倍に悪化してしまう。また、レーダ装置側においても、検知範囲の減少や分解能の低下などが発生してしまう。さらに、動作時間帯を分割したとしても、他車両のレーダ装置については動作時間を制限することができないことから、他車両が発するレーダ波との混信には対応できないという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、物体から放射される電波領域での放射量を検出する際に、自車両または他車両のレーダ装置等から発生される電波信号(いわゆる干渉電波)に妨害されること無く、安定して物体放射量の観測を行うことができる物体識別技術、およびこの物体識別技術を用いる車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による物体識別装置は、検出対象物体から放射される電波領域での放射量を検出する電波放射量観測手段と、この電波放射量観測手段から出力される放射量検出信号に基づいて前記検出対象物体の形状情報を抽出する画像処理手段とを備えている。さらに本発明では、上記の電波放射量観測手段の観測周波数帯域を特定する観測帯域制御手段とを備えており、観測周波数帯域における特定の周波数帯域内に電波送信が観測されると判定された場合には、前記観測周波数帯域から該特定の周波数帯域を取り除く機能を果たしている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、検出対象物体から発せられる電波放射量の観測を行うに際して、特定の周波数帯域内に検出対象物体以外からの電波が存在する場合には、観測帯域を分波する手段によって特定の周波数領域を除外して放射量観測を行うことができる。その結果として、干渉する不要な電波信号に妨害されること無く、安定した物体放射量の観測が行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[第1の実施形態]
図1〜図6を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。本実施形態は、乗用車等の車両に搭載された物体識別装置に本発明を適用したものである。
図1(a)は、本実施形態に係る物体識別装置100の構成を示すブロック図であり、図1(a)に示すように、物体識別装置100は、電波イメージング部200と、放射強度画像生成部300と、物体認識処理部400とを有している。また、物体識別装置100には、物体認識処理部400で得られた情報に基づいて車両の走行状態等の制御を行う車両制御装置500が接続されている。
【0009】
本実施形態の車両には、物体識別装置100と並列に、レーダ測距部650が備えられている。レーダ測距部650は、VCO(Voltage Controlled Oscillator)を備えたレーダ信号発生部602と、電力分配部(カプラ)603と、電波送信を行う送信アンテナ604と、検出対象物体から反射された電波を受信する受信アンテナ661と、受信アンテナ661から出力されたレーダ信号と電力分配部603からの送信電波信号とを混合するミキサ部662と、ミキサ部662から出力された信号を増幅してIF信号(レーダ反射信号)を生成する増幅部663と、制御演算部660とを備えている。制御演算部660は、車両制御装置500からのレーダ動作信号に応じて送信アンテナ604から電波を送信させることにより、検出対象物体までの距離を計測し、且つ検出対象物体から反射される電波の周波数の変化(周波数差)から物体の相対速度を計測する。その物体までの距離および相対速度は、車両制御装置500に供給される。また、レーダ測距部650が動作中のときは、車両制御装置500を介して、帯域分波制御部205にレーダ動作中である旨が知らされる。
【0010】
レーダ測距部650の送信アンテナ604および受信アンテナ661を含む部分は、図1(b)に示すように、車両MBのフロントバンパー1の近傍に設置されている。
物体識別装置100において、電波イメージング部200は、一例として図1(b)に示すように、レーダ測距部650とほぼ対称に車両MBのフロントバンパー1の近傍に設置され、車両MBの前方に存在する検出対象物体からの電波領域の放射量を検出して、電波領域での放射強度信号を出力する。本実施形態による電波イメージング部200が検出対象とする電波領域の周波数(観測周波数帯域)は、一例としてミリ波帯中の73〜80GHz(波長で4.11〜3.75mm)であり、レーダ測距部650の使用する電波の周波数域(特定周波数帯域)は、一例としてその観測周波数帯域中の76〜77GHzである。
【0011】
図1(a)に示した放射強度画像生成部300は、電波イメージング部200に含まれている複数の電波受信素子204からそれぞれ出力される放射強度信号と各電波受信素子204の配列番号とに基づいて放射強度画像を生成し、放射強度ごとに空間領域をグルーピング(分割)することにより、物体が存在する領域(空間位置および形状)の情報ならびに物体からの放射量の情報を抽出し、抽出された情報を物体認識処理部400に出力する。物体認識処理部400は、放射強度画像生成部300から出力された物体の空間位置、形状、および放射量の情報から、車両前方に存在する物体の識別を行い、識別結果を車両制御装置500に出力する。
【0012】
図2は、図1(a)に示した電波イメージング部200の構成を示す図であり、図2において、電波イメージング部200は、検出対象物体からの電波領域の放射を収束させる誘電体レンズ部201と、誘電体レンズ部201により収束された電波を受信するアンテナならびに電波放射量を検出する電波受信素子204をマトリックス状に配置した受信アレイ部202と、受信アレイ部202で受信される周波数帯域を制御する帯域分波制御部205と、受信アレイ部202で観測された放射量を周波数帯域毎に記憶して強度比較処理を行う信号記憶演算部203とから構成されている。
【0013】
図3は、受信アレイ部202を構成する一つの電波受信素子204の構成を示す。この図3において、前方のある方向の物体から放射された電磁波が誘電体レンズ201で集光され、電波受信素子204で受信される。電波受信素子204は、受信アンテナ206と、高周波増幅器(RFアンプ)208と、信号分波器209と、検波器207と、電力増幅器(DCアンプ)210とから構成されている。電波受信素子204は観測周波数帯域に整合されたものとなっており、物体から放射される電磁波中のその観測周波数帯域の放射強度信号を出力する。
【0014】
信号分波器209は、図2に示した帯域分波制御部205からのレーダ帯域分波制御信号を受けて、図5に示すように、通過帯域を、観測周波数帯域の全域(73〜80GHz)よりなる通過帯域A(全域通過)と、その全域から図1(a)のレーダ測距部650が使用する特定周波数帯域(76〜77GHz)を遮断した通過帯域B,B’(特定帯域遮断)とに切り替えることができる。
【0015】
図4は、図3に示した信号分波器209の一例を示す。この図4において、信号分波器209は、誘電体線路の伝送線路中に、高速スイッチング素子の一例としてのPIN型のダイオードDI1,DI2を介して、遮断中心周波数(ここでは76.5GHz)の4分の1波長の線路長で構成された方向性結合器DCを組み込み、遮断信号の出力端を50Ωで終端することで、特定周波数帯域の信号を遮断する構成となっている。信号分波器209の通過帯域は、図4(b)の表に示すように、ダイオードDI1,DI2をともにオフにして方向性結合器DCを非稼動にすることで、通過帯域A(全域通過)に設定され、ダイオードDI1,DI2をともにオンにして方向性結合器DCを稼動にすることで、通過帯域B,B’(特定帯域遮断)に設定される。
【0016】
以下に、物体からの放射について説明する。一般的に、ある温度の物体の表面からは、その温度に応じて定まった放射エネルギー(電磁波)が放射されている。物体の放射率をε、ある温度の黒体から放射されるエネルギーをE0 とすると、ある温度の物体から放射されるエネルギーEは、式(1)で表される。
E=ε×E0 …(1)
黒体から放射されるエネルギーについては、プランクの放射則で算出できるが、放射率は、物体の種類、表面状態および測定条件(温度、角度、波長)によって変化することが知られている。物質の放射率は、その物体が放射を吸収する割合に等しく、その物体の反射率と透過率との間には次の関係が成立する。
【0017】
「反射率」+「吸収(放射)率」+「透過率」=1 …(2)
本実施形態の物体識別装置100は、物体からの放射を観測する受動方式であるため、物体の表面性状による影響は少なく、観測される放射量から物体の物性を識別することができる。また、車両用として、悪天候に対応することも可能である。これに対して、従来から使用されているレーダ装置などの能動方式の計測装置では、物体検出のために反射成分の検出を行っているが、反射成分は物体の物性にはあまり依存せず、物体の表面性状などが大きく影響するため、検出される反射量から物体を特定することは難しい。
【0018】
ただし、物体放射は微小な信号であるため、感度を向上させるためには、観測周波数帯域を広帯域化(例えば、数GHz程度に)する必要がある。しかしながら、本実施形態においては、図1(a)に示した電波イメージング部200の観測周波数帯域を73〜80GHzに広帯域化した結果、その帯域中に自車両のレーダ測距部650が使用する特定帯域(76〜77GHz)が含まれている。そこで、図3の信号分波器209を用いることにより、レーダ測距部650から発射された電波と、検出対象物体からの放射とを分別して観測している。
【0019】
電波イメージング部200の観測周波数帯域を自車両のレーダ測距部650、または他車両のレーダ装置等の他の機器が使用する周波数帯域から大きく離すことも考えられるが、低コスト化のための高周波部品の共用(共通化)や装置の小型化を考えると、電波イメージング部200の観測周波数帯域をレーダ装置で使用する帯域と同じ周波数帯域とすることが実用的である。
【0020】
次に、図5を参照して、図1(a)に示した電波イメージング部200の観測周波数帯域と、自車両に搭載されているレーダ測距部650の特定周波数帯域との干渉対策の基本的な動作を説明する。通常、レーダ測距部650が動作していない状態(レーダ信号が無い状態)では、図5の上段に示すように、電波イメージング部200の観測周波数帯域の全域の通過帯域Aで放射量観測を行う。一方、レーダ測距部650が動作している状態(レーダ信号が有る状態)では、図3の信号分波器209に対して、図2の帯域分波制御部205からレーダ帯域分波制御信号を供給する。このことにより、信号分波器209の分波動作を稼動させて、図5の下段に示すように、通過帯域B,B’で放射量観測を行う。すなわち、レーダ測距部650から送信された電波成分は、図4(a)に示した方向性結合器DCの終端抵抗にて電力消費される。他方、レーダ測距部650から送信される電波の周波数以外の周波数領域の放射量信号は、図3の検波器207に入力され、物体放射量に応じた電圧値が出力される。
【0021】
自車両のレーダ測距部650が動作していないときであっても、観測された放射量画像が直前に観測された放射量画像と著しく異なる場合、または放射量画像において特異な放射量が観測された場合には、図3の信号分波器209を動作させるようにする。この場合、得られた放射量画像中の上記特異な放射量が観測された領域の変化量が帯域減少による変化量以上に変化している場合には、図1(a)の物体認識処理部400において、例えば他車両のレーダ装置等から特定周波数帯域の信号が送信されたと判定して、信号分波器209を稼動させて特定周波数帯域の信号を遮断するように制御する。
【0022】
図2において、電波受信素子204の放射強度信号から特定周波数帯域の信号を遮断した際には、観測周波数帯域幅の減少に伴う感度劣化を考慮して、信号記憶演算部203においてその受信信号(放射量強度)の補正を行うようにすることで、放射量による物体物性の判定基準を統一できる。具体的に、検出される放射量強度は、観測帯域幅の平方根に反比例するため、例えば観測帯域が20%減少した場合には、観測放射量強度に約1.12倍(=1/(1−0.2)1/2 )の補正を行うようにする。
【0023】
次に、図6のフローチャートを参照して、本実施形態の物体識別装置100による物体識別処理の動作手順を説明する。この場合、一例として、図1(a)のレーダ測距部650が動作しているか否かの情報は、車両制御装置500から帯域分波制御部205に供給される。動作を開始すると、ステップS1で、帯域分波制御部205は、自車両のレーダ測距部650が特定周波数帯域における電波送信を行っているか否かを判定し、送信しているのであればステップS2に進み、送信していなければステップS3に進む。ステップS2では、帯域分波制御部205が図3の信号分波器209を動作させて、電波イメージング部200で上記特定周波数帯域を除去した観測帯域で放射量観測を行い、ステップS4に進む。なお、自車両のレーダ測距部650が動作していないときであっても、観測された放射量画像が直前に観測された放射量画像と著しく異なる場合、または放射量画像において特異な放射量が観測された場合には、図3の信号分波器209を動作させるようにする。この場合、得られた放射量画像中の上記特異な放射量が観測された領域の変化量が帯域減少による変化量以上に変化している場合には、図1(a)の物体認識処理部400において、例えば他車両のレーダ装置等から特定周波数帯域の信号が送信されたと判定して、信号分波器209を稼動させて特定周波数帯域の信号を遮断するように制御する。
【0024】
ステップS3では電波イメージング部200で観測周波数帯域の全域で放射量観測を行い、放射強度画像生成部300で生成された放射強度画像の情報(空間位置、形状、および放射量の情報)を物体認識処理部400に出力してステップS5に進む。ステップS5では、物体認識処理部400において、1回前の検出ループで得られた放射強度画像の情報と今回の検出ループで得られた放射強度画像の情報との比較(時系列的な比較)を行い、特異な放射量が観測される特異な画素または画像領域(各電波受信素子204に対応)が存在しているか否かを判定し、特異な画素または画像領域が存在する場合はステップS6に進み、存在しない場合にはステップS8に進む。
【0025】
ステップS6では、物体認識処理部400から帯域分波制御部205にその特異な画素または画像領域に対応する電波受信素子204の配列番号の情報を送り、これに対応して帯域分波制御部205では当該配列番号の電波受信素子204の受信信号に対しては信号分波器209を動作させて特定周波数帯域を除去した放射量観測を行う。次のステップS7では、ステップS6で取得した放射強度画像と、ステップS3で取得した全観測周波数帯域での放射強度画像との比較を行い、特異な画素または画像領域での放射強度の変化量が帯域減少による変化量に等しければ、ステップS8に進み、等しくなければステップS4に進む。
【0026】
ステップS8では、物体認識処理部400は、ステップS3で得られた全観測周波数帯域の放射強度画像から物体識別を行い、ステップS9に進む。ステップS4では、信号記憶演算部203において、観測帯域の減少による放射強度の変化分を補正した放射強度信号を放射強度画像生成部300に出力し、放射強度画像生成部300から出力される放射強度画像の情報(物体の空間位置、形状、および放射量の情報)を用いて物体認識処理部400が物体識別を行い、ステップS9に進む。ステップS9では、物体認識処理部400により認識した物体の認識結果を車両制御装置500(車両CPU)に出力し、動作を終了する。
【0027】
本実施形態の物体識別装置100によれば、以下の作用効果を有する。
(1)物体識別装置100は、物体から放射される電波領域での放射量を検出する複数の電波受信素子204を有する電波イメージング部200と、その複数の電波受信素子204からの検出信号よりその物体の空間位置および形状の情報を抽出する放射強度画像生成部300と、電波受信素子204の観測周波数帯域を分波する信号分波器209と、その観測周波数帯域内の特定周波数帯域内にレーダ測距部650または他車両のレーダ装置等の機器からの電波送信が観測されると判定された場合(図6のステップS1またはS5)に、信号分波器209によって電波受信素子204の検出信号からその特定周波数帯域の信号を除いて得られる信号(図6のステップS2またはS6)を放射強度画像生成部300に処理させる帯域分波制御部205とを備えている。
【0028】
したがって、物体からの電波領域での放射量を検出する受動式の物体識別装置において、その特定周波数帯域内でレーダ測距部650または他車両のレーダ装置等の機器からの電波送信が存在する場合には、信号分波器209によってその特定周波数領域を除外して放射量観測を行うようにすることで、その機器からの電波信号に妨害されること無く、安定した物体放射量の観測が行えるようになる。
【0029】
(2)信号分波器209によって電波受信素子204の検出信号からその特定周波数帯域の信号を除いた場合、図6のステップS4において、その観測周波数帯域の減少に伴う検出信号の強度の補正を行う信号記憶演算部203を備えている。このように観測周波数帯域の減少に伴う放射量観測値の補正を行うことで、放射量による物体判断基準を統一でき、正確にかつ安定に物体認識を行うことができる。
【0030】
(3)本実施形態の車両は、物体識別装置100を備えており、その特定周波数帯域内で電波送信を行う機器は、自車両に備えられたレーダ測距部650または他車両に備えられたレーダ装置を含んでいる。したがって、これらのレーダ装置が動作していても、物体識別装置100で安定した物体認識を行うことができる。
上記の実施形態では特定周波数帯域を遮断するために、図3の方向性結合器を用いる信号分波器209を示したが、信号分波器209の代わりに帯域除去フィルタまたはノッチフィルタを用いてもよい。
【0031】
さらに、信号分波器209の代わりに、図7に示すように、電力分配器(カプラ:CPL)211の出力側に、観測周波数帯域内における上側の周波数領域の信号を通す高域通過フィルタ212と、下側の周波数領域の信号を通す低域通過フィルタ213とを並列接続したフィルタ回路を設け、遮断動作制御時にはフィルタ212および213の出力を加算しても良い。
[第2の実施形態]
次に、図8〜図12を参照して本発明の第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、物体識別装置100とレーダ測距部650とは完全に分離されており、電波イメージング部200内に信号分波器209を設けて特定周波数帯域の信号を除去していた。本実施形態では、信号分波器で分波された信号を利用することによって、電波イメージング部200自体を自車レーダ信号の受信系として併用する。以下、図8および図9において、図1(a)および図3に対応する部分には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。同様に、図12のフローチャートにおいて、図6のフローチャートに対応するステップには同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0032】
図8は、本実施形態に係る物体識別装置100Aの構成を示すブロック図であり、図8に示すように、物体識別装置100Aは、電波イメージング部200と、放射強度画像生成部300と、物体認識処理部400と、レーダ信号送信部600と、レーダ信号演算部700とを有している。物体識別装置100Aが、図1(a)の物体識別装置100と異なる部分は、電波イメージング部200の受信アレイ部202を構成する電波受信素子204Aの構成と、レーダ信号送信部600およびレーダ信号演算部700を備えている点である。
【0033】
図8において、レーダ信号送信部600は、レーダ信号を車両前方の空間に送信する装置であり、車両制御装置500からのレーダ動作信号を受けるレーダ送信駆動部601と、レーダ信号を発生する信号発生器602と、レーダ信号を送信アンテナ604に向かう信号と電波受信素子204Aに出力されるLO信号(送信電波信号)との2つに電力分配する電力分配部(カプラ)603と、送信アンテナ604とで構成される。前方の物体からの電波領域の放射およびその物体で反射したレーダ波は、電波イメージング部200の誘電体レンズ部201を通して複数の電波受信素子204Aで受信される。
【0034】
図9は、図8に示した一つの電波受信素子204Aの構成を示し、この図9において、電波受信素子204Aは、受信アンテナ206と、高周波増幅器208と、信号分波器209Aと、検波器207と、電力増幅器210と、ミキサ部214と、IFアンプ215とから構成されている。電波受信素子204Aは観測周波数帯域に整合されたものとなっており、物体から放射される電磁波中の整合された観測周波数帯域の放射強度信号を出力する。信号分波器209Aは、図8に示した帯域分波制御部205からの制御信号(レーダ動作信号)を受けて、図11に示すように、放射量観測に使用する通過帯域を、観測周波数帯域の全域(73〜80GHz)よりなる通過帯域A(全域通過)と、その全域から図8のレーダ信号送信部600が使用する特定周波数帯域(76〜77GHz)を遮断した通過帯域B,B’(特定帯域遮断)とに切り替えることができる。
【0035】
図9において、受信アンテナ206で受信された信号は、第1の実施形態と同様に、信号分波器209Aおよび検波器207等を介して放射強度信号として図8の信号記憶演算部203に出力され、放射強度画像生成部300において放射強度画像が生成される。一方、受信アンテナ206で受信されたレーダ信号は、高周波増幅器208を介して信号分波器209Aで分波され、ミキサ部214に入力される。ミキサ部214では、受信されたレーダ信号と図8の電力分配部603で分配されたLO信号とをミキシングして周波数差信号を生成し、この周波数差信号をIFアンプ215で増幅したIF信号(レーダ反射信号)が、図8のレーダ信号演算部700に出力される。
【0036】
レーダ信号演算部700は、レーダ信号の送信タイミングとIF信号とから物体までの距離および相対速度を演算し、演算結果と受信した電波受信素子204Aの配列番号とを、物体認識処理部400に出力する。物体認識処理部400では、放射強度画像生成部300から出力される放射強度画像の情報に基づいて物体認識を行い、且つレーダ信号演算部700からの距離および相対速度の情報との対応付けを行い、認識結果および認識された物体までの距離および相対速度の情報を車両制御装置500に出力する。
【0037】
図10(a)は、図9に示した信号分波器209Aの構成例を示す。この図10(a)において、信号分波器209Aは、誘電体線路の伝送線路中にPIN型のダイオードDI1を介して伝送線路DC1を接続し、伝送線路DC1に対してPIN型のダイオードDI2,DI3を介して分波する周波数成分の中心周波数(ここでは76.5GHz)の4分の1波長の線路長で構成された方向性結合器DC2を組み込んで構成されている。伝送線路DC1の出力端(放射信号出力端)からの放射量信号は図9の検波器207に出力され、方向性結合器DC2の終端部と反射側の出力端(レーダ信号出力端)からのレーダ信号は図9のミキサ部214に出力される。
【0038】
分波動作は、図10(b)に示すように、ダイオードDI1をオン、ダイオードDI2,DI3をオフにして、方向性結合器DC2を非稼動にすることで、図11の通過帯域A(放射量観測のみを行う全域通過)に設定され、ダイオードDI1をオフ、ダイオードDI2,DI3をオンにして方向性結合器DC2を稼動にすることで、図11の通過帯域B,B’(放射量観測およびレーダ観測を同時に行う特定周波数帯域の分離検出)に設定される。なお、レーダ非動作時においても、第1の実施形態のように放射強度画像中の強度が大きい特異な画素または画像領域が存在するときには、特定周波数帯域の信号を分波して他車両のレーダ装置からのレーダ信号の有無を判定する動作に替えて、図10(a)に示した信号分波器209Aの方向性結合器DC2を稼動にして、図9のミキサ部214からのIF信号の強度を直接検出することによって、他車両のレーダ装置に対するより正確な混信判定が行えるようになる。
【0039】
図12のフローチャートを参照して、本実施形態の物体識別装置100Aによる物体識別動作を説明する。図12において、放射量観測による物体認識処理については図6に示した第1の実施形態と同様であり、図6のフローチャートと異なるステップについて説明する。
動作を開始すると、図12のステップS11で図8の帯域分波制御部205およびレーダ送信駆動部601は、車両制御装置500からの制御信号によりレーダ動作を行うか否かを判定し、レーダ動作を行う場合にはステップS12に進み、レーダ動作を行わない場合にはステップS3に進む。ステップS3では、放射量観測のみを行うため、図9の信号分波器209Aの放射量信号出力端の帯域を図11の通過帯域Aに設定し、信号分波器209Aのレーダ信号出力端の帯域を図11の通過帯域のない遮断帯域に設定し、第1の実施形態と同様に全観測周波数帯域で放射量を取得する。ステップS12では、レーダ信号送信部600からレーダ信号の送信動作を開始し、放射量観測およびレーダ観測を同時に行うため、信号分波器209Aの放射量信号出力端の帯域を図11の通過帯域B,B’に設定し、信号分波器209Aのレーダ信号出力端の帯域を図11の通過帯域B,B’間の通過帯域C(76〜77GHz)に設定する。そして、図8の送信アンテナ604を介して前方に特定周波数帯域の信号送信を開始し、ステップS13および第1の実施形態と同じステップS2に進む。
【0040】
ステップS13では、それぞれの受信アンテナ206および信号分波器209Aを介して受信される特定周波数帯域のレーダ信号をミキサ部214においてレーダ信号送信部600からのLO信号とミキシングし、IF信号を生成する。次のステップS14では、レーダ信号送信部600からのレーダ信号送信動作を停止し、次のステップS15では、レーダ信号演算部700においてIF信号の解析により送信されたレーダ信号との時間遅延および周波数差(ドップラシフト)から、反射物体までの距離と相対速度とを算出する。次のステップS16では、ステップS4で得られた放射強度画像の認識結果と、ステップS15で得られた単位画素または単位画像領域(電波受信素子204A)毎での距離および相対速度の情報との対応付けを行った後、ステップS9に進み、画像の認識結果と距離および相対速度の情報とを車両制御装置500に出力して終了する。
【0041】
図12中のステップS4’は、ステップS4と同様に、特定周波数帯域を遮断した放射量の観測結果の帯域減少分を補正した物体識別処理を行った後に、ステップS9に向かう処理である。
このように本実施形態によれば、ステップS13〜S15のレーダ信号による距離検出ループと、ステップS2およびS4の放射量観測ループとを同時刻に、且つ同じ電波受信素子204Aで行うことで、ステップS16での放射強度画像と距離情報との対応付けを正確に行うことができるようになる。
【0042】
この第2の実施形態の物体識別装置100Aによれば、第1の実施形態の作用効果に加えて、以下の作用効果を奏する。
(1)図8の物体識別装置100Aは、特定周波数帯域内の周波数の電波の送信を行うレーダ信号送信部600と、電波イメージング部200の電波受信素子204Aの検出信号中からレーダ信号送信部600から送信された電波の周波数成分を受信するミキサ部214と、ミキサ部214で受信されたIF信号を用いてその電波を反射した物体までの距離および相対速度を求めるレーダ信号演算部700とをさらに備え、帯域分波制御部205は、レーダ信号送信部600からその電波の送信を行っている期間に、信号分波器209Aによって電波受信素子204Aの検出信号からその特定周波数帯域の信号をミキサ部214に分波している。
【0043】
したがって、同一の電波受信素子204Aで放射観測と距離計測とを行うことができ、装置構成を簡素化できるとともに、物体の識別結果と距離情報との関連付けが容易に行えるようになる。
(2)本実施形態において、図12のように放射観測とレーダ観測とを同時並列的に実行する代わりに、放射強度画像生成部300によって物体の空間位置および形状の情報が抽出された後に、レーダ信号送信部600による電波の送信を行い、物体からの放射量を検出した電波受信素子204Aからの検出信号を用いてミキサ部214およびレーダ信号演算部700によってその物体までの距離情報を求めてもよい。
【0044】
このように放射量観測において、放射物体があると判断された場合に、レーダ動作を行い、放射物体までの距離を検出することで、レーダ送信による電力負荷を軽減することができる。
(3)また、本実施形態において、レーダ信号送信部600による電波の送信を行い、電波受信素子204Aからの検出信号を用いてミキサ部214およびレーダ信号演算部700によってその電波を反射する物体までの距離情報が求められた後に、電波イメージング部200を動作させて、放射強度画像生成部300によってその電波を反射する物体の位置および形状の情報を抽出してもよい。
【0045】
このように、レーダ動作の反射信号観測により、反射物体があると判断された場合に、放射量観測を行い、反射物体の放射量を検出し、物体の認識を行うことで、物体の認識処理負荷を軽減することができる。
なお、図9の電波受信素子204Aでは、特定周波数帯域を分波するために方向性結合器を用いる信号分波器209Aを用いる例を示したが、図13に示すように、受信アンテナ206からの受信信号を電力分配器210で2つの信号に分配し、一方を帯域除去フィルタ216を介して検波器207に入力させて放射量観測を行い、他方を帯域通過フィルタ217を介してミキサ部214に入力させて、レーダ反射信号観測を行うようにしてもよい。図13において、各フィルタ216,217の共振周波数(帯域遮断フィルタの場合は遮断中心周波数、帯域通過フィルタの場合は通過中心周波数)はレーダ装置で使用する周波数帯に整合させることとする。
【0046】
上記の実施形態では、物体識別装置100,100Aの観測周波数帯域と混信する他の無線機器として、76〜77GHz帯で動作する自動車用レーダ装置を挙げた。しかしながら、本発明は、使用周波数帯域が既知である電波送信機器が存在する場合に、電波イメージング部200の放射量観測を安定化するために適用できるものであり、物体識別装置の観測周波数帯域および他の無線機器の特定周波数帯域は上記の実施形態の範囲に限定されるものではない。
【0047】
本発明の物体識別装置は、車両のみならず、船舶、航空機等にも適用できるとともに、建物の監視装置、セキュリティ用途の人物識別装置等としても適用できる。
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0048】
本発明の主たる構成要素と実施形態との対応関係は次の通りである。すなわち、電波放射量観測手段は電波受信素子204に対応し、画像処理手段は信号記憶演算部203および放射強度画像生成部300に対応し、観測帯域制御手段は帯域分波制御部205にそれぞれ対応する。
【0049】
なお、以上の説明はあくまで一例であり、発明を解釈する際、上記の実施形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項との対応関係になんら限定も拘束もされない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1の実施形態による物体識別装置を示すブロック図(a)、および、物体識別装置が搭載された車両を示す斜視図(b)である。
【図2】図1(a)に示した電波イメージング部200における受信アレイ部202等の構成を示す図である。
【図3】図2に示した電波受信素子204の構成を示す図である。
【図4】図3に示した信号分波器209の構成例を示す図(a)、および、信号分波器209の通過帯域を示す図(b)である。
【図5】第1の実施形態において、レーダ信号の有無に応じた電波受信素子204の通過帯域を示す図である。
【図6】第1の実施形態の物体識別装置による物体識別動作手順を示すフローチャートである。
【図7】第1の実施形態における電波受信素子の他の構成例を示す図である。
【図8】第2の実施形態における物体識別装置の構成を示すブロック図である。
【図9】図8に示した電波受信素子204Aの構成を示す図である。
【図10】図9に示した信号分波器209Aの構成例を示す図(a)、および、信号分波器209Aの通過帯域を示す図(b)である。
【図11】第2の実施形態において、レーダ観測のオン、オフに応じた電波受信素子204Aの2つの信号出力端の通過帯域を示す図である。
【図12】第2の実施形態による物体識別装置における物体識別動作手順を示すフローチャートである。
【図13】第2の実施形態における電波受信素子の他の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
100,100A 物体識別装置
200 電波イメージング部
201 誘電体レンズ部
202 受信アレイ部
203 信号記憶演算部
204,204A 電波受信素子
205 帯域分波制御部
206 受信アンテナ
209,209A 信号分波器(帯域遮断器)
214 ミキサ部
300 放射強度画像生成部
400 物体認識処理部
500 車両制御装置
600 レーダ信号送信部
650 レーダ測距部
700 レーダ信号演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象物体から放射される電波領域での放射量を検出する電波放射量観測手段と、
前記電波放射量観測手段から出力される放射量検出信号に基づいて前記検出対象物体の形状情報を抽出する画像処理手段と、
前記電波放射量観測手段の観測周波数帯域を特定する観測帯域制御手段とを備え、
前記観測帯域制御手段は、前記観測周波数帯域における特定の周波数帯域内に電波送信が観測されると判定された場合、前記観測周波数帯域から該特定の周波数帯域を除く、ことを特徴とする物体識別装置。
【請求項2】
請求項1に記載の物体識別装置において、さらに加えて、
前記特定の周波数帯域に含まれる周波数の電波を送信する電波送信手段と、
前記電波送信手段から送信された電波の反射波を受信するアンテナとして前記電波放射量観測手段の受信アンテナを共用し、前記電波送信手段から分岐された送信信号を基準としてレーダ反射信号を抽出する反射波処理手段と、
前記レーダ反射信号を用いて前記電波を反射した物体までの距離情報を求める距離情報演算手段とを備えることを特徴とする物体識別装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の物体識別装置において、さらに加えて、
前記観測帯域制御手段によって前記特定の周波数帯域を観測周波数帯域から除いた場合、前記観測周波数帯域の減少に伴う前記放射量検出信号の補正を行う補正手段を備えることを特徴とする物体識別装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の物体識別装置において、
前記画像処理手段により前記形状情報が抽出された後に、前記電波送信手段による電波の送信を行い、前記レーダ反射信号を用いて前記受信アンテナに対応した距離情報を求めることを特徴とする物体識別装置。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載の物体識別装置において、
前記電波送信手段による電波の送信を行い、前記距離情報が求められた後に前記電波放射量観測手段を動作させ、前記受信アンテナに対応した前記形状情報を抽出することを特徴とする物体識別装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の物体識別装置を備えた車両において、
前記特定の周波数帯域内で電波送信を行う機器は、自車両または他車両に備えられたレーダ装置であることを特徴とする車両。
【請求項7】
検出対象物体から放射される電波領域での放射量を検出する工程と、
前記検出工程における観測周波数帯域内の特定周波数帯域に検出対象物体以外の機器からの電波送信が観測されると判定された場合に、前記放射量の検出信号から前記特定周波数帯域の信号を除く工程と、
前記放射量の検出信号から前記特定周波数帯域の信号を除いて得られる信号に基づいて検出対象物体の形状情報を抽出する工程とを有することを特徴とする物体識別方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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