説明

物品の内部構造観察方法及び観察装置

【課題】非破壊で物品内部のマイクロクラックやボイド、異物混入、接合状態等の内部構造を評価することができる、シリコンウエハや金属接合構造物等の物品の内部構造観察方法及び観察装置を提供することを課題とする。
【解決手段】観察対象物品の表面の多点をスポット的に加熱する加熱用レーザー1と、加熱点より放射される微少量の赤外線から、放射率を補正して高速に温度測定を行う2波長赤外放射温度計2と、2波長赤外放射温度計2による測定結果をレーザーの吸収率に関して補正し、その補正後の温度変移を等時間間隔での平面画像として構築する熱画像構築部4と、物品を測定位置に位置決めし且つ移動させるための移動手段とを含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の内部構造観察方法及び観察装置に関するものであり、より詳細には、例えば、シリコンウエハや微小な金属接合構造物等の物品の表面近傍部分や内部に存することのあるマイクロクラック、あるいは、ボイドや異物混入等の有無の検出や接合部位の状態を非破壊にて評価するための物品の内部構造観察方法及び観察装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ICやLSIは、そのほとんどが、高純度に精製された単結晶シリコンのウエハ上に作成される。従って、そのシリコンウエハの表面近傍部分や内部にマイクロクラックやボイド、あるいは、異物混入等が存在する場合は、製品としてのICやLSIは不良品となる。そこで、ICやLSIを製造するに際しては、そのシリコンウエハの表面近傍部分や内部に欠陥がないか否か、十分に検査する必要がある。
【0003】
また、例えば、太陽電池パネルに用いられる光電変換層として、単結晶又は多結晶のシリコンが使用されている。この場合も、結晶中にクラックが存在すると、何らかの衝撃でクラックが拡大したりして、ウエハが破損するおそれがある。従って、この場合においても、シリコンウエハの表面近傍部分や内部の欠陥検査は不可欠である。
【0004】
更に、溶接や溶融等による微小な金属接合構造物の場合も、その接合部位近傍にクラックやボイド、あるいは、異物混入等が存在する場合は、初期の機械強度や経年変化によるクラックの拡大とか、接合強度の低下といった問題が生じるおそれがある。
【0005】
従来、シリコンウエハのような物品の表面の欠陥を検査するために、種々の方法が用いられている。例えば、特許文献1(特開2005−114587号公報)、特許文献2(特開2009−281846号公報)、並びに、特許文献3(特開2010−114587号公報)に記載の方法は、反射光や透過光を撮像カメラで撮影し、それを画像処理した結果に基づいて、クラックやボイドを検出するというものである。また、X線画像に基づいてクラックやボイドを検出する方法や、超音波による内部構造画像の観察や検査による方法も広く知られている。
【0006】
しかるに、これら従来の方法のうち画像処理による方法の場合は、物品の表面状態等の影響があるために観察による欠陥の識別が困難であり、X線画像による方法の場合は、微細なクラック等の観察が難しいという問題があり、超音波による方法の場合には、微小な物品の内部構造の観察が難しい等といった問題があった。また更に、これらいずれの方法の場合も、高精度での判別が難しいとか、高精度での判別が可能であっても、設備にコストがかかって手軽に採用し得えないといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−114587号公報
【特許文献2】特開2009−281846号公報
【特許文献3】特開2010−114587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、上記従来の物品の欠陥観察方法の場合には、高精度での判別が難しいとか、高精度での判別が可能であっても、設備にコストがかかって手軽に採用し得えないとかいった問題があった。そこで本発明は、このような問題のない、即ち、簡易な構成であって、比較的廉価にて提供できて手軽に利用でき、しかも、高精度にマイクロクラックやボイド、異物混入等の有無を検出したり、接合状態の評価をしたりすることができる、シリコンウエハや金属接合構造物等の物品の内部構造観察方法及び観察装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、シリコンウエハや金属接合構造物等の物品表面をレーザーでスポット的に加熱すると、その加熱点の温度変移が内部構造の違いにより異なることから、物品表面を、例えば、互いに等間隔の多点をレーザー加熱した時の各加熱点の温度変移を得て、更にその加熱点における各温度変移を等時間での物品表面温度変移に変換し、物品表面を同時に加熱した時の温度変移として平面画像で表わす方法により、内部構造を観察できるとの知見を得て、本発明を完成させたものである。
【0010】
即ち、上記課題を解決するための本発明に係る物品の内部構造観察方法は、観察対象物品の表面の多点をスポット的にレーザー加熱するレーザー加熱工程と、前記レーザー加熱に伴って各加熱点より放射される微少量の赤外線から、放射率を補正して高速に各加熱点における温度変移測定を行う加熱点温度測定工程と、前記加熱点温度測定工程における測定結果をレーザーの吸収率に関して補正する吸収率補正工程と、前記吸収率補正工程において補正された前記多点における温度変移を等時間間隔での平面画像として構築する熱画像構築工程とから成り、前記加熱点温度測定工程における温度測定は、前記加熱点に温度変化が見られなくなる飽和温度に達するまでの温度変移を測定するものであり、前記吸収率補正工程における補正は、前記加熱点温度測定工程において測定した温度変移を、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正するものであることを特徴とする。
【0011】
好ましい実施形態においては、加熱する前記多点は規則的配置とされ、その場合前記多点は、格子状、放射状、螺旋状又は千鳥状配置とされる。また、前記加熱点温度測定工程における温度変移の測定は、2波長赤外放射温度計により行われる。
【0012】
また、上記課題を解決するための本発明に係る物品の内部構造観察装置は、観察対象物品の表面の多点をスポット的にレーザー加熱するレーザー加熱手段と、前記レーザー加熱に伴って加熱点より放射される微少量の赤外線から、放射率を補正して高速に温度変移測定を行う温度測定手段と、前記温度測定手段による温度変移測定結果をレーザーの吸収率に関して補正し、前記補正された多点における温度変移を等時間間隔での平面画像として構築して表示する熱画像構築部と、前記観察対象物品を測定位置に位置決めし且つ移動させるための移動手段とを含むことを特徴とする。
【0013】
好ましい実施形態においては、加熱する前記多点は規則的に配置され、その場合、前記多点は、格子状、放射状、螺旋状又は千鳥状配置とされる。また、前記温度測定手段は、2波長赤外放射温度計とされる。そして、前記熱画像構築部は、前記温度測定手段による温度変移測定結果をレーザーの吸収率に関して補正する温度変移補正手段と、前記温度変移補正手段により補正された前記多点の温度変移を等時間間隔での平面画像として構築して表示する熱画像構築手段とを含んで構成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る物品の内部構造観察方法及び観察装置は上記のとおりのものであり、温度測定手段による加熱温度測定結果をレーザーの吸収率に関して補正した測定温度を用いるために、レーザー加熱時の吸収率の影響や赤外線放射量測定時の放射率の影響を無視することができ、以て、観察対象物品の表面状態の影響を受けることなく、高精度の内部構造の観察が可能となる効果がある。
【0015】
また、温度変移補正手段により補正された多点の温度変移が等時間間隔での平面画像として構築されて表示されるため、観察対象物品の内部構造の観察が容易となり、以て、従来は破壊試験でしかできなかった当該物品の現物での追跡評価が可能となり、当該物品、並びに、それを用いて製造される物品の品質及び信頼性の向上に大いに資する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る物品の内部構造観察装置の概略構成図である。
【図2】赤外線の波長と熱放射の強さの関係を示すグラフである。
【図3】本発明に係る方法における、補正された多点における温度変移を等時間間隔での平面画像として構築する方法を示す図である。
【図4】本発明に係る方法における、各加熱点(測定点)における温度変移例を示すグラフである。
【図5】本発明に係る方法における、各加熱点(測定点)における等時間(時間T1〜時間T5)での温度を示すグラフである。
【図6】本発明に係る方法における、時間T1の時点における平面画像(表示画像)の例を示す図である。
【図7】本発明に係る方法における、時間T2の時点における平面画像(表示画像)の例を示す図である。
【図8】本発明に係る方法における、時間T3の時点における平面画像(表示画像)の例を示す図である。
【図9】本発明に係る方法における、時間T4の時点における平面画像(表示画像)の例を示す図である。
【図10】本発明に係る方法における、時間T5の時点における平面画像(表示画像)の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る物品の内部構造観察方法は、例えば、シリコンウエハや金属接合構造物等の物品の表面近傍部分や内部に存することのあるマイクロクラック、ボイド、異物混入等の有無の検出や、接合状態の評価を非破壊によって行うために、当該物品の内部構造を観察する方法である。該方法は、観察対象物品の表面の多点(好ましくは等間隔多点)をスポット的にレーザー加熱するレーザー加熱工程と、前記レーザー加熱に伴って加熱点より放射される微少量の赤外線から、放射率を補正して高速に温度変移測定を行う加熱点温度測定工程と、前記加熱点温度測定工程における測定結果をレーザーの吸収率に関して補正する吸収率補正工程と、前記吸収率補正工程において補正された前記多点における温度変移を等時間間隔での平面画像として構築する熱画像構築工程とから成ることを特徴とする。
【0018】
そして、前記加熱点温度測定工程における温度測定は、前記加熱点に温度変化が見られなくなる飽和温度に達するまでの温度変移を測定するものであり、前記吸収率補正工程における補正は、前記加熱点温度測定工程において測定した温度変移を、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正するものである。
【0019】
また、上記方法を実施するための本発明に係る物品の内部構造観察装置は、観察対象物品の表面の多点(好ましくは等間隔多点)をスポット的にレーザー加熱するレーザー加熱手段と、前記レーザー加熱による加熱点より放射される微少量の赤外線から、放射率を補正して高速に温度変移測定を行う放射温度計と、前記放射温度計による温度変移測定結果をレーザーの吸収率に関して補正し、前記補正された多点における温度変移を等時間間隔での平面画像として構築する熱画像構築部と、前記観察対象物品を測定位置に位置決めし且つ移動させるための移動手段とを含むことを特徴とするものである。
【0020】
以下、上記本発明に係る物品の内部構造観察方法及びその方法を実施するための装置につき、添付図面を参照しつつより詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る物品の内部構造観察装置の概略構成図であり、本装置は、加熱用レーザー1と、温度測定手段2と、光学系を内蔵していて加熱用レーザー1と温度測定手段2とを担持する測定ヘッド部3と、温度測定手段2に接続されていて、観察対象となる物品30の内部構造を等時間間隔での平面画像とする熱画像構築部4と、観察対象物品30を載置するためのステージ5とを含んで構成される。温度測定手段2は特に限定するものではないが、後述する理由により、2波長赤外放射温度計を用いることが推奨される。以下の説明においては、温度測定手段2は、2波長赤外放射温度計2として表現するが、これに限定する趣旨ではない。
【0022】
本装置は更に、観察対象物品30をその多点の測定位置に位置決めし、且つ、移動させるための、図視せぬ移動手段を含む。この移動手段は、測定ヘッド部3側に設置することとしてもよいし(測定ヘッド部3側が可動でステージ5側は静止)、ステージ5側に設置することとしてもよく(ステージ5側が可動で測定ヘッド部3側は静止)、あるいは、その双方に設置することとしてもよい。好ましい実施形態においては、この移動手段はステージ5側に設置されて、ステージ5がX−Y−Z軸方向に移動するようにされる。その移動手段としては、公知の任意のものを採用することができる。
【0023】
加熱用レーザー1は、シリコンウエハや金属接合構造物等の観察対象物品30の表面上を走査するように順次スポット的に加熱するためのもので、ここで用いるレーザーとしては、非接触で高速にパワー可変とオンオフ制御とを行い得る半導体レーザーが推奨される。この加熱用レーザー1からのレーザー光は、後述する測定ヘッド部3の光学系を経ることにより、例えば、Φ200μmのスポット径に集光される。加熱用レーザー1は、観察対象物品30の表面を、温度変化が見られなくなる飽和温度に達するまで、同一パワーで連続加熱する。
【0024】
温度変移測定手段としては、好ましくは2波長赤外放射温度計2が用いられる。2波長赤外放射温度計2は、観察対象物品30の表面の加熱用レーザー1によって加熱された加熱点より放射される微少量の赤外線から、非接触で高速に、その加熱点に温度変化が見られなくなる飽和温度に達するまでの温度変移を測定する。この2波長赤外放射温度計2を用いることにより、レーザー照射に伴う加熱点における温度変移を、放射温度測定時の放射率の影響に起因する温度測定誤差を、実質的に無視し得る方法によって測定することが可能となる。
【0025】
この点について詳細に説明すると、先ず、所定温度において発せられる赤外線の各波長とその強さが描く放物線状のカーブは、図2に示すように、その温度が上昇するに従って、その最高強度を生じる点が短波長側にずれることが知られている。
【0026】
しかるに、従来技術において用いられていた放射温度計の場合は、全波長や特定の単波長を測定対象にし、その放物線が描く強度を赤外線の量とするものであり、観察対象物品30の表面の加熱点より放射される赤外線量が、その表面状態によって影響を受ける(放射される赤外線量は、加熱点の表面状態が平坦な場合は小さく、粗い場合は大きくなる)ことについて、何らの配慮もなされていない。従って、従来用いられていた放射温度計の場合は、放射率の影響を顕著に受けることになるので、結果的に正確な温度測定ができないという問題がある。
【0027】
そこで本発明では、この従来の放射温度計に代えて、2波長赤外放射温度計2を用いることとしている。この2波長赤外放射温度計2の場合は、特定の2波長(図2におけるλ1及びλ2)についての赤外線量のみを検出してそれらの比率を求め、その比率に対応する温度を観察対象物品30の表面温度として出力する。そのために2波長赤外放射温度計2の場合は、観察対象物品30の表面における放射率の影響を受けるものの、それは2波長比率において相殺されるために、観察対象物品30の表面における放射率の影響を無視し得ることとなり、以て、正確な温度の測定が可能となるのである。
【0028】
本発明においては、上記2波長赤外放射温度計2におけると同様の理由により、3波長以上の特定波長についての検出を行う赤外放射温度計を採用することもできる。また、それ以外の非接触温度測定手段を用いることも可能である。更に、これらの赤外放射温度計による温度計測の代わりに、レーザー反射量測定手段を用いてレーザー反射量等を測定し、その測定値から放射率を演算(1−反射率=放射率)して温度を求める手法を用いることもできる。
【0029】
測定ヘッド部3は、加熱用レーザー1から照射されたレーザー光を集束して観察対象物品30の表面上に向けるための光学系を有する。それは、例えば、レーザーを直角に反射するダイクロイックミラー11と、レーザーを観察対象物品30の表面で所定径に集光する集光レンズ12とから成る。
【0030】
熱画像構築部4は制御コンピュータで構成され、測定ヘッド部3における測定結果からレーザーの吸収率を補正し、観察対象物品表面における多点の温度変移を、後述するようにして、等時間間隔で平面画像で表す機能を備える。この熱画像構築部4は、観察対象物品30の各加熱点において測定した温度変移を、それぞれ基準となる加熱量での温度変移に補正する温度変移補正手段14と、レーザーの吸収率に関しての補正を加えた温度変移から、等間隔多点の温度変移を等時間間隔で平面画像で表す熱画像構築手段15とを含む。
【0031】
この熱画像構築部4の温度変移補正手段14において、2波長赤外放射温度計2により得られた温度変移が、熱容量の関係式から補正される。即ち、温度変移補正手段14においては、同じ構造で同じ材質の物体に同じ熱量を加えた場合には同じ温度になる、という熱容量の関係式に基づいての補正がなされる。そして、基準となる加熱量と同量のレーザーによる加熱パワーが、観察対象物品30表面の加熱点に吸収された場合における温度変移を得る。これにより、観察対象物品30全体(各加熱点)の吸収率が一致することになり、以て、レーザー加熱時の吸収率の影響が除去された観察対象物品30の表面における温度変移が得られるのである。
【0032】
そして、熱画像構築手段15は、補正後の温度変移と、基準となる加熱量と同量のレーザーによる加熱パワーでの温度変移に補正した等時間間隔の温度変移を、平面画像で表示させる。
【0033】
次に、本発明に係る物品の内部構造観察方法について、その工程順に、より詳細に説明する。 上述したように、本発明に係る物品の内部構造観察方法は、観察対象物品の表面をレーザーで加熱する工程と、その加熱点より放射される微少量の赤外線から、放射率を補正して高速に温度変移測定を行う加熱温度測定工程と、前記加熱温度測定工程における測定結果をレーザーの吸収率に関して補正する吸収率補正工程と、前記補正工程において補正した等時間間隔の温度変移を平面画像で表す熱画像構築工程とから成る。
【0034】
〈レーザー加熱工程〉
この工程は、観察対象物品30の表面を、その表面温度に変化が見られなくなる飽和温度に達するまで同一パワーで連続加熱する工程である。この実施の形態における加熱は、熱画像構築部4からの指令に基づく加熱用レーザー1によるレーザー照射により行われる。照射された所定波長のレーザーは、集光レンズ12により、例えば、スポット径がΦ200μmとなるように集光されて、観察対象物品30表面上の多点に照射される。この場合の多点(加熱点)はランダム配置であってもよいが、偏在による検査漏れを防止するために、好ましくは、例えば、格子状、放射状、螺旋状又は千鳥状配置のような規則的配置とする(そのために以下の記述では「等間隔多点」とする。)。
【0035】
照射されたレーザーは、観察対象物品30の表面の加熱点において吸収され、熱に変換されることで観察対象物品30の表面温度が上昇する。その表面温度が上昇すると、その熱が観察対象物品30の内部に熱伝導される。その際、観察対象物品30の表面温度は時間と共に上昇していくが、加熱用レーザー1による加熱量と熱伝導量が同一になった時点で、その加熱点における表面温度の上昇が平衡する。加熱用レーザー1による加熱は、このように温度変化が見られなくなる飽和温度に達するまで、同一パワーで連続的に行われる。
【0036】
〈加熱温度測定工程〉
この工程は、観察対象物品30の表面の加熱点に温度変化がみられなくなる飽和温度に達するまでの当該加熱点における温度変移を、2波長赤外放射温度計2によって測定する工程である。上述したようにこの2波長赤外放射温度計2は、加熱点から放射される赤外線の測定を特定の2波長についてのみ行うもので、その特定の2波長についての赤外線量の比率を求め、その比率に対応する温度を、観察対象物品30の表面の当該加熱点の温度として出力する(3波長赤外放射温度計を用いる場合もこれと同様の手法を用いる。)。
【0037】
赤外線量の測定に際しては、その赤外線が放射される部位における放射率の影響が不可避であるが、この放射率は、ある温度の物品が赤外線を発するとき、その物品と同じ温度の黒体放射との比で表される。従って、上述したように、従来の赤外線量を測定してその温度を求める赤外線放射温度計の場合は、その放射率を考慮しないために、測定対象の正確な温度を測定することが困難である。
【0038】
これに対して、2波長赤外放射温度計2を用いる本発明では、特定の2波長における赤外線量を測定し、その比率から観察対象物品30の表面の温度を求めるので、そのレーザー加熱された部位における放射率を相殺することができ、以て、その加熱点の正確な温度を測定することが可能となる。この点についても、上述したとおりである。
【0039】
〈吸収率補正工程〉
この工程は、観察対象物品30の表面の加熱点において測定した温度変移を、基準となる加熱量での温度変移に補正する。即ち、2波長赤外放射温度計2により得られた温度変移を、熱容量の関係式に基づき、基準となる加熱量での温度変移に補正する工程である。このように補正することで、当該加熱点におけるレーザー加熱時の吸収率の影響に起因する加熱量の差を無視することが可能となるのである。
【0040】
レーザーの照射によって観察対象物品30の表面が熱せられるに伴い、観察対象物品30の内部へと多くの熱が伝導していくため、観察対象物品30の内部構造が単純である場合と、観察対象物品30の内部構造が複雑である場合とでは、当該加熱点の同一時間内における温度変移が異なってくる。
【0041】
因みに、観察対象物品30の表面にクラックが存在する場合には、急激なレーザーパワー吸収が起こって異常温度となり、内包クラック又はボイドが存在する場合は、熱伝導量の差異により、加熱開始直後の数ミリ秒間の温度変移量に違いが出てくる。また、異物混入がある場合は、熱容量や熱伝導の差異により、同様に異常温度発生や異常温度変移が起こる。
【0042】
吸収率の補正は、レーザーを照射した結果として生じる温度変移は加熱点における吸収率によって大きな影響を受ける、という欠点を是正するために行うものである。即ち、この吸収率は、同じ材質でも加熱点の表面状態が平坦だと小さく、粗いと大きくなり、その表面状態や形状によって大きく影響される。そのため、この補正が必要となるのである。
【0043】
この吸収率補正工程においては、その飽和温度は、同じ構造で同じ材質の物品に同じ熱量を加えた場合には同じ温度になる、という熱容量の関係式から、観察対象物品30全体の加熱量を同一にする必要がある。即ち、基準となる加熱パワーと同一の加熱量が吸収された場合における温度変移を求めることにより、レーザー加熱時の吸収率の影響が回避された補正後の温度変移が得られることになる。
【0044】
この吸収率補正手順としては、種々の手順が考えられる。例えば、レーザーによる加熱パワーの全てを基準となる加熱量とする場合においては、加熱点の吸収率を求めた後に、温度変移をその吸収率で割ることが考えられる。具体的には、この場合の補正は2段階に分けて行い、第1段階において、熱容量の関係式から加熱点の吸収率αを求める。その吸収率αは、加熱量Qと吸収率αの積を加熱点の飽和温度Tで除した値が熱容量Cと等しくなる、という熱容量の関係式(C=αQ/T)から求めることができる。
【0045】
この場合、飽和温度Tは2波長赤外放射温度計2により得られ、加熱パワーQもレーザーの照射パワーであるので既知の値とできる。熱容量Cは観察対象物品30の固有の値であり、加熱点における熱容量Cの値は同じである。これらを上記式(C=αQ/T)に代入することにより、加熱点の吸収率αを求めることができる。そして、第2段階において、2波長赤外放射温度計2により得られた温度変移を、第1段階で求めた吸収率αで割る。これにより、同一のレーザーによる基準となる加熱量の全てが吸収された場合の、補正後の温度変移を求めることができる。
【0046】
また、同じ構造で同じ材質の物体に同じ熱量を加えた場合、その飽和温度は同じになるという熱容量の関係式からすると、観察対象物品30は同一物であるので、ある加熱点における吸収率が観察対象物品30の他の加熱点における吸収率と一致しない場合には、当該加熱点における飽和温度は異なることになる。
【0047】
このことから、加熱点における飽和温度の比を求め、その比を加熱点の温度変移に乗じることにより、基準となる他の加熱点におけると同一の飽和温度を生じさせる当該加熱点における補正後の温度変移を求めることとしてもよい。即ち、基準となる加熱点における飽和温度を1とし、2波長赤外放射温度計2により測定された飽和温度がその1になるように温度変移を補正するのである。
【0048】
2波長赤外放射温度計2により得られた温度は、レーザーにより照射された全加熱パワーQに吸収率αを乗じた一部のエネルギーが吸収された結果生じた変化であるといえる。また、熱容量の関係式からすると、同一熱容量の観察対象物品の加熱点は同一温度になるのであるから、加熱点における飽和温度を同一にすることにより、2波長赤外放射温度計2により得られた飽和温度を基準となる加熱点と同じにスケーリングすることになる。このことは、両者の吸収率を同一にすることにより、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正すること、と考えることもできる。
【0049】
このような補正を行う吸収率補正工程により、温度変移の基準を同一にし、レーザー加熱時の吸収率と赤外線放射温度測定時の放射率の影響のない補正後の温度変移を得ることができるのである。そして、この補正後の温度変移は、時間の経過と共に温度が上昇し、レーザーによる加熱量と熱伝導量が同一になった時点で加熱点の温度上昇は飽和し、その変化が見られない状態となる。
【0050】
〈平面熱画像構築工程〉
この工程では、等間隔多点の補正後の温度変移を等時間間隔で表現することにより、観察対象物品30の内部構造を平面画像で表示する。以下、図3乃至図10を参照しつつ、その方法について説明する。図示した例は、観察対象物品30の内部にクラックが存在する場合を示している。
【0051】
図3は、等間隔多点における加熱温度変移測定例を示す平面画像で、格子状に配置されている十字の交点が加熱点(温度変移測定点)を示しており、クラックは中央上方部に表わされている。これらの加熱点を順次加熱し、それぞれの点につきその後の温度変移を測定する。図4は、各加熱点(測定点)における温度変移例を示すグラフであり、内部構造の違いに応じて、温度変移が顕著に異なる点が異なってくる。上記温度変移測定終了時の到達温度(ほぼ飽和温度)に対し、レーザーの吸収率補正を施す(吸収率補正工程)。
【0052】
次いで、上記補正後の温度変移を等時間での温度に変換して、平面画像として構築する(平面熱画像構築工程)。図5は、各加熱点(測定点)における等時間(時間T1〜時間T5)での温度を示すグラフで、図6は、時間T1の時点における平面画像(表示画像)を示している。時間T1の時点においては顕著な温度変移がないため、この時点では未だクラックは表示されず(破線で示してある)、視認することはできない。
【0053】
図7は、時間T2の時点における平面画像(表示画像)である。この時間T2の時点において温度変移が現われ始める結果、クラックの一部(実線で示す部分)が見え始める。そして、時間T3の時点において温度変移が顕著となり、図8に示す平面画像(表示画像)におけるように、クラックのほぼ全体が視認可能となる。
【0054】
その後、時間の進行と共に温度変移が減少するに伴い、クラックの視認可能部分が欠け始め(時間T4の時点における平面画像(表示画像)を示す図9参照)、やがて、見えなくなる(時間T5の時点における平面画像(表示画像)を示す図10参照)。
【0055】
なお、図示し、上に説明した平面熱画像はあくまで一例であって、これに限定されるものではない。
【0056】
以上説明したように、本発明に係る方法においては、観察対象物品30の表面の加熱点において測定した温度変移を、基準となる加熱量での温度変移に補正するので、観察対象物品30の等間隔多点間における吸収率の相違に起因する温度変移の相違を解消することができる。
【0057】
また、レーザーを照射して観察対象物品30の表面を加熱し、そのレーザー照射部分の温度変移を2波長赤外放射温度計2により測定することにより、当該加熱点の表面状態や形状に関わらず、そのレーザー照射部分の正確な温度を測定することが可能となる。更に、この正確に測定された温度変移を基準となる加熱パワーでの温度変移に補正することにより、レーザー加熱時の吸収率と赤外線放射温度測定時の放射率に影響されない補正後の温度変移が得られ、これを基にして、観察対象物品30内の欠陥部分を表出させる平面画像として表示させることにより、その内部構造の観察が容易となる。
【0058】
この発明をある程度詳細にその最も好ましい実施形態について説明してきたが、この発明の精神と範囲に反することなしに広範に異なる実施形態を構成することができることは明白なので、この発明は添付請求の範囲において限定した以外はその特定の実施形態に制約されるものではない。
【符号の説明】
【0059】
1 加熱用レーザー
2 2波長赤外放射温度計
3 測定ヘッド部
4 熱画像構築部
5 ステージ
11 ダイクロイックミラー
12 集光レンズ
14 温度変移補正手段
15 熱画像構築手段
30 観察対象物品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象物品の表面の多点をスポット的にレーザー加熱するレーザー加熱工程と、前記レーザー加熱に伴って各加熱点より放射される微少量の赤外線から、放射率を補正して高速に各加熱点における温度変移測定を行う加熱点温度測定工程と、前記加熱点温度測定工程における測定結果をレーザーの吸収率に関して補正する吸収率補正工程と、前記吸収率補正工程において補正された前記多点における温度変移を等時間間隔での平面画像として構築する熱画像構築工程とから成り、前記加熱点温度測定工程における温度測定は、前記加熱点に温度変化が見られなくなる飽和温度に達するまでの温度変移を測定するものであり、前記吸収率補正工程における補正は、前記加熱点温度測定工程において測定した温度変移を、基準となる加熱パワーでの温度変移に補正するものであることを特徴とする物品の内部構造観察方法。
【請求項2】
加熱する前記多点は規則的配置とされる、請求項1に記載の物品の内部構造観察方法。
【請求項3】
前記多点は、格子状、放射状、螺旋状又は千鳥状配置とされる、請求項2に記載の物品の内部構造観察方法。
【請求項4】
前記加熱点温度測定工程における温度変移の測定は、2波長赤外放射温度計により行う、請求項1乃至3のいずれかに記載の物品の内部構造観察方法。
【請求項5】
観察対象物品の表面の多点をスポット的にレーザー加熱するレーザー加熱手段と、前記レーザー加熱に伴って加熱点より放射される微少量の赤外線から、放射率を補正して高速に温度変移測定を行う温度測定手段と、前記温度測定手段による温度変移測定結果をレーザーの吸収率に関して補正し、前記補正された多点における温度変移を等時間間隔での平面画像として構築して表示する熱画像構築部と、前記観察対象物品を測定位置に位置決めし且つ移動させるための移動手段とを含むことを特徴とする物品の内部構造観察装置。
【請求項6】
加熱する前記多点は規則的配置とされる、請求項5に記載の物品の内部構造観察装置。
【請求項7】
前記多点は、格子状、放射状、螺旋状又は千鳥状配置とされる、請求項6に記載の物品の内部構造観察方法。
【請求項8】
前記温度測定手段は2波長赤外放射温度計である、請求項5乃至7のいずれかに記載の物品の内部構造観察装置。
【請求項9】
前記熱画像構築部は、前記温度測定手段による温度変移測定結果をレーザーの吸収率に関して補正する温度変移補正手段と、前記温度変移補正手段により補正された前記多点の温度変移を等時間間隔での平面画像として構築して表示する熱画像構築手段とを含んで構成される、請求項5乃至8のいずれかに記載の物品の内部構造観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−242248(P2011−242248A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114467(P2010−114467)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(506272297)常陽機械株式会社 (10)
【Fターム(参考)】