説明

物品の着色方法

【課題】物品の外表面に着色インクを塗布した後において、当該着色インクを速やかに乾燥することができる物品の着色方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1種以上の有機溶剤が含有される着色インクを物品の外表面に塗布する工程と、当該着色インクに着火する工程とを備え、当該着色インクを自己燃焼させることにより、当該着色インクが速やかに乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆電線等の物品の外表面に着色をするための物品の着色方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物品、例えば、被覆電線は、所定の長さに切断され自動車等のワイヤハーネスに組み込まれて使用される。このように組み込んだ被覆電線を区別するために、その全体又は両端に着色が施される。従って、被覆電線等の着色に際しては、その均一性や鮮明性が重要である。
【0003】
そこで、例えば、下記特許文献1に記載の電線の表面着色方法においては、被覆電線を把持ロールやガイドローラを使用して垂直方向に走行させながらインクを塗布することが提案されている。
【特許文献1】特開平5−217435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の電線の表面着色方法によれば、被覆電線にいかに均一にインクを塗布しても、塗布後のインクの乾燥が不十分のまま当該被覆電線を走行させると、当該被覆電線が把持ロールやガイドローラに接触してインクが擦られ、当該被覆電線の着色外表面に色ムラが発生し、識別性を損なうこととなる。
【0005】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するために、着色インクを塗布した後において、当該着色インクを速やかに乾燥することができる物品の着色方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、物品の外表面に塗布された着色インクを自己燃焼により速やかに乾燥させる方法を見出した。
【0007】
すなわち、本発明に係る物品の着色方法は、少なくとも1種以上の有機溶剤を含有する着色インクを物品の外表面に塗布して自己燃焼させることにより、当該着色インクを乾燥させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る物品の着色方法は、少なくとも1種以上の有機溶剤を含有する着色インクを物品の外表面に塗布する工程と、当該外表面の当該着色インクに着火する工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、上述のように、上記物品の外表面に塗布された有機溶剤を含有する着色インクが、火源からの着火により自己燃焼を始める。この自己燃焼で生じる新たな熱エネルギーは、被覆電線の外表面に塗布された着色インク自身の乾燥に消費される。
【0010】
以上のことにより、本発明は、着色インクを塗布した後において、当該着色インクを速やかに乾燥することができる物品の着色方法を提供する。その結果、当該物品の外表面に色ムラのない鮮明な着色をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る物品の着色方法の一実施形態について詳細に説明する。本実施形態にいう物品の着色方法は、ワイヤハーネスの構成部材として採用される被覆電線の被覆部材である熱可塑性樹脂の外表面にインクジェット方式で、着色を行う方法である。
【0012】
本発明において、着色とは、無地の1色による着色だけでなく、一定の色とパターンにより物品の外表面にマークやバーコード等を付与する、いわゆる着色によるマーキングを含むものとする。
【0013】
上記被覆電線は、裸電線を被覆部材で被覆して構成されている。当該被覆部材は、熱可塑性を有する電気絶縁性樹脂を押出し法等で成形することにより作製される。当該電気絶縁性樹脂には、一般に、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等がある。これらの樹脂は、熱可塑性であり融点が低い。従って、当該樹脂は高温の熱源にさらされると容易に物性低下を起こすことがある。かかる物性低下は、被覆部材の劣化につながり、被覆電線の使用中に電気絶縁性が損なわれることとなる。
【0014】
特に、自動車用ワイヤハーネスを工業的に製造する際には、被覆電線を高速で走行させながら必要長に切断し、切断と同時又は直後に、この切断された被覆電線に着色が施される。この時、スピードを要求する生産性と良好な物性を要求する安全性の両面から、被覆電線に高温をかけ辛く、着色インクの乾燥が不十分になり、着色による識別性を損なうことがある。
【0015】
従って、着色インクの塗布後において、被覆部材の熱による物性低下を起こすことなく、着色インクを速やかに乾燥することが必要となる。
【0016】
以下、本実施形態に係る被覆電線の着色方法を詳細に説明する。まず、少なくとも1種以上の有機溶剤を含有する着色インクを被覆電線の外表面に塗布する工程について説明する。
【0017】
本発明において、塗布とは、一般的な方法でもって物品の外表面に着色インクを付与すること全般をいう。本実施形態においては、走行する被覆電線の外表面にインクジェットにより着色インクが塗布される。塗布は、全面に行われる場合と、色とマークの間隔によって行われる場合がある。後者の場合、インクジェットによる塗布がより効果的である。
【0018】
ここで、インクジェットにおける吐出形式としては、オンデマンド形式やコンティニュアス形式等、いずれの形式を採用してもよい。上記コンティニュアス形式を採用する場合に、インクに適度の電気伝導性を与える成分を付加することが必要である。
【0019】
また、吐出の方式としては、例えば、サーマルインクジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式、ピエゾ方式、静電アクチュエータ方式等、いずれの方式を採用してもよい。
【0020】
本発明において、着色インクとは、物品を着色するために使用され、一般には、色剤と溶剤とを含有し、必要により皮膜形成性樹脂をも含むものである。ここで、色剤としては染料又は顔料等があるが、その種類について特に限定するものではなく、着色される物品の種類により適宜選定される。
【0021】
また、上記溶剤は、色剤である染料を溶解し又は顔料を分散するとともに、着色インクの溶液物性を一定にするために使用され、本発明においては、少なくとも1種以上の有機溶剤を含有することを必要とする。ここで、有機溶剤とは、着火して自己燃焼するものをいう。これらには、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶剤、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、n-ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、ミネラルスピリット等の炭化水素系溶剤、アセトニトリル等のニトリル系溶剤等が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で使用してもよく、又は2種以上を適宜配合して使用してもよい。
【0022】
また、上記有機溶剤は、水溶性の有機溶剤であってもよい。上記有機溶剤が水溶性の有機溶剤である場合には、上記着色インクは、有機溶剤の他に水を含有することができる。この場合には、色剤として水溶性の染料等を使用することが可能となる。
【0023】
ここで、水溶性の有機溶剤とは、水と相溶性のあるものであって、具体的には、20℃における水に対する溶解度が50重量%以上、好ましくは∞に近いものがよい。
【0024】
上記有機溶剤の中で、水溶性の有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル等が挙げられる。
【0025】
着色インクが、水溶性の有機溶剤の他に水を含んでいる場合には、有機溶剤の自己燃焼により発生する熱エネルギーが水の蒸発にも消費される。このとき、水の蒸発潜熱が大きいことを考慮して、有機溶剤の発熱量を十分に確保するために、水と当該有機溶剤の配合比率を決めなければならない。ここで、有機溶剤の自己燃焼による発熱量が少ない場合には、水が蒸発せず、着色インクが完全には乾燥しないため、着色部分に色ムラが生じ鮮明性が阻害される。
【0026】
更に、本発明においては、着色インク中の有機溶剤のうち少なくとも1種以上が30℃以下の引火点をもつ有機溶剤であることが好ましい。ここで、引火点とは、可燃性蒸気を発生する液体等の気相部に火源が触れたときに燃焼が起こる最低の温度をいう。
【0027】
30℃以下の引火点をもつ有機溶剤においては、その蒸気圧も高く、火源に接した時に着火しやすく、本発明の目的を達成しやすいという特徴がある。
【0028】
上記有機溶剤の中で、30℃以下の引火点をもつ有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル等が挙げられる。
【0029】
次に、上記外表面の着色インクに着火する工程について説明する。ここでは、上述の塗布工程で被覆電線の外表面に塗布された有機溶剤を含有する着色インクに着火させる。当該被覆電線は、着色インクが塗布された状態で走行している。従って、走行している被覆電線に瞬時に着火する必要がある。
【0030】
ここで、着火とは、有機溶剤から発生した可燃性蒸気に火源を接近させ着火させることをいう。着火の方法は、特に限定するものではなく、一般的な方法でよい。ここで、一般的な方法とは、バーナーの炎、コイルの赤熱又は高電圧スパークなどであってもよい。上記バーナーは、特にマイクロバーナー、マイクロエアミックスバーナー、マイクロ酸素バーナーなどであってもよい。
【0031】
上記着火により、着色インク中の有機溶剤が自己燃焼を開始する。そのことにより、上記被覆電線に塗布された着色インクが速やかに乾燥する。
【0032】
ここで、着色インク中の有機溶剤の自己燃焼で生じる新たな熱エネルギーは、着色インクの乾燥にのみ使用され、被覆電線自体の昇温に消費されることはない。また、着色インク中の有機溶剤が自己燃焼により消滅し、着色インクが乾燥すれば火炎は消失し、それ以上被覆電線が火炎にさらされることはない。
【0033】
以下、本実施形態において、次のような各実施例を作製して評価した。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
1.着色インクの調整
3重量%の油溶性染料(C.I.Solvent Blue 70)と5重量%の油溶性アクリル樹脂(ダイヤナール BR-102、三菱レイヨン株式会社製)とを、92重量%のアセトンに溶解して、インク‐1を作成した。
【0035】
2.着色インクの塗布
ポリプロピレン樹脂被覆電線(外径;1.3mm)を長軸方向に3m/秒で水平に走行させながら、ピエゾ方式インクジェット装置(ノズル径;0.1mm)を使用して、インク‐1を塗布した。
【0036】
3.着色インクへの着火
上記被覆電線を走行させながら、塗布された上記着色インク(インク‐1)にマイクロエアミックスバーナーの火炎を接触させ、当該着色インク(インク‐1)を着火させた。
【0037】
4.着色インクの乾燥
上記着色インク(インク‐1)は、着火直後速やかに自己燃焼し、当該着色インク(インク‐1)は乾燥した。その結果、上記被覆電線の着色は、色ムラなく鮮明であった。
【実施例2】
【0038】
1.着色インクの調整
5重量%の酸性染料(C.I. Acid Blue 1)と15重量%のアクリル樹脂エマルジョン(トークリルO-125、東洋インキ株式会社製)とを、10重量%の水と70重量%のエチルアルコールとに溶解・分散して、インク‐2を作成した。
【0039】
2.着色インクの塗布
ポリ塩化ビニル樹脂被覆電線(外径;1.3mm)を長軸方向に1m/秒で水平に走行させながら、ピエゾ方式インクジェット装置(ノズル径;0.1mm)を使用して、インク‐1を塗布した。
【0040】
3.着色インクへの着火
上記被覆電線を走行させながら、塗布された上記着色インク(インク‐2)にマイクロエアミックスバーナーの火炎を接触させ、当該着色インク(インク‐2)を着火させた。
【0041】
4.着色インクの乾燥
上記着色インク(インク‐2)は、着火直後速やかに自己燃焼し、当該着色インク(インク‐2)は乾燥した。この時、着色インク中の水も完全に蒸発していた。その結果、上記被覆電線の着色は、色ムラなく鮮明であった。
【0042】
以上のことにより、本実施形態においては、少なくとも1種以上の有機溶剤を含有する着色インクを被覆電線の外表面に塗布した後において、当該着色インクを速やかに乾燥することができる。
【0043】
また、本実施形態においては、着色インクが乾燥すれば火炎は消失し、それ以上物品が火炎にさらされることはない。従って、高速で走行する被覆電線が熱による物性低下を起こすことなく、当該被覆電線の外表面に色ムラのない鮮明な着色をすることができる。
【0044】
また、本実施形態においては、被覆電線の着色装置に、マイクロエアミックスバーナーを設置し、着炎後の燃焼スペースを確保するだけでよく、高速で走行する被覆電線の乾燥において、長大な乾燥機を設置することなく、コンパクトな設備で生産が行える。
【0045】
更に、本実施形態においては、着色インク中の有機溶剤は、全て燃焼により二酸化炭素及び水に変化するので、人体に有害な有機溶剤が乾燥により作業環境を汚染するということがない。
【0046】
なお、本発明の実施にあたり、上記実施形態に限らず、次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)物品として、上記実施形態の被覆電線以外に、例えば、ボトル、ボード、シート、フィルム、チューブ、テープ、カバー、クリップやコネクタ等であってもよい。また、これらの中で、連続或いは間欠して走行させながら着色がなされる長尺の物品として、チューブ、テープ、シート、フィルム、ボード等であってもよい。
(2)着色インクの塗布方法として、上記実施形態のインクジェット方式による塗布以外に、例えば、ローラーによる塗布、ディップ方式での浸漬による塗布、加圧された気体と共にするマーキング用インクのエアロゾルとしての塗布、又は、マーキング用インクを液滴の状態でするマイクロディスペンサーやマイクロバルブ等の超微量吐出装置による塗布であってもよい。
(3)物品が走行する場合、上記実施例の水平方向の走行以外に、垂直方向、或いは、上方又は下方への傾斜走行であってもよい。
(4)安全その他の理由から、走行する物品にカバーをして、炎が外部に露出しないように自己燃焼させてもよい。この場合、燃焼のための酸素量が不足する場合には、当該カバー内に空気又は酸素を供給してもよい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種以上の有機溶剤が含有される着色インクを物品の外表面に塗布して自己燃焼させることにより、前記着色インクを乾燥させることを特徴とする物品の着色方法。
【請求項2】
少なくとも1種以上の有機溶剤が含有される着色インクを物品の外表面に塗布する工程と、前記外表面の前記着色インクに着火する工程とを備えることを特徴とする物品の着色方法。
【請求項3】
前記着色インクが水を含有し、前記有機溶剤が水溶性の有機溶剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の物品の着色方法。
【請求項4】
前記有機溶剤のうち少なくとも1種以上が30℃以下の引火点をもつ有機溶剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の物品の着色方法。


【公開番号】特開2007−245117(P2007−245117A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76156(P2006−76156)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000219794)東海染工株式会社 (24)
【Fターム(参考)】