説明

物品を溶接するための方法及び装置

【課題】開示するのは、物品を溶接する方法である。
【解決手段】本方法は、上記物品を全面的に囲繞する壁を備を有するエンクロージャであって、物品をその少なくとも実質的に全体で均一に加熱する構成及び寸法の付属加熱装置を有するエンクロージャ内に、物品を配置する段階と、エンクロージャ内に非反応性雰囲気を確立する段階と、加熱装置を作動させて、エンクロージャ内で物品をその少なくとも実質的に全体で溶接温度に均一に加熱する段階と、エンクロージャ内で、物品の少なくとも実質的に全体で溶接温度を維持しながら物品を溶接する段階とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、総括的には溶接のための方法及び装置に関し、より具体的には、超合金物品を溶接するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム及びチタン含有量が高いニッケル基、コバルト基及び鉄基超合金は、溶接する場合に、特に同様な化学的性質の溶接ワイヤを用いる場合に、割れを発生する傾向が強い。この傾向を克服するために、超合金部品の補修(溶接による)は、不活性ガス雰囲気内で補修対象の領域を局所的に極めて高温(1500°Fよりも高い場合が多い)に予熱することによって行われてきた。この局所予熱法は、産業用ガスタービンの回転高温ガス通路部品のような複雑でない形態の部品の溶接前及び溶接中に用いた場合には有効であった。
【0003】
これ迄は、産業用ガスタービンに用いられるタービンノズルのような複雑な形態を備えた部品は、上述の超合金よりも容易に溶接可能な合金で製造されていた。これらのより容易に溶接可能な合金により、複雑な形態の部品には、製造時及びエンジン作動後の両方の間において有効な溶接補修を行うことが可能であった。
【0004】
最近では、複雑な形態を備えた高温ガス通路部品において、ニッケル基、コバルト基及び鉄基超合金が使用され始めた。しかしながら、上述の局所予熱法は、溶接前及び溶接中にこれらの部品を加熱するように用いた場合に、有効でなかった。それは、局所予熱法が、部品内に大きな温度勾配を生じさせる可能性があるからである。この局所予熱法を適用した場合には、何らかの溶接を行うことができる前に、部品の残留応力及び複雑な形態が大きな温度勾配と組合さって、部品内に新たな割れを生じる。
【特許文献1】米国特許第5,106,010号明細書
【特許文献2】米国特許第5,374,319号明細書
【特許文献3】米国特許第5,897,801号明細書
【特許文献4】米国特許第6,020,571号明細書
【特許文献5】米国特許第6,054,672号明細書
【特許文献6】米国特許第6,054,687号明細書
【特許文献7】米国特許第6,124,568号明細書
【特許文献8】米国特許第6,297,474号明細書
【特許文献9】米国特許第6,583,387号明細書
【特許文献10】米国特許第6,659,332号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、今後複雑な形態を備えた部品に対して高ガンマプライム合金を使用する場合には、新たな溶接方法が望ましいことになる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示するのは、物品を溶接する方法であり、本方法は、上記物品を全面的に囲繞する壁を備を有するエンクロージャであって、物品をその少なくとも実質的に全体で均一に加熱する構成及び寸法の付属加熱装置を有するエンクロージャ内に、物品を配置する段階と、エンクロージャ内に非反応性雰囲気を確立する段階と、加熱装置を作動させて、エンクロージャ内で物品をその少なくとも実質的に全体で溶接温度に均一に加熱する段階と、エンクロージャ内で、物品の少なくとも実質的に全体で溶接温度を維持しながら物品を溶接する段階とを含む。
【0007】
同様に開示するのは、物品を溶接するための装置であり、本装置は、物品を収容するためのエンクロージャであって、物品を全面的に囲繞するための壁を有するエンクロージャと、エンクロージャ内に配設され、物品をその少なくとも実質的に全体で溶接温度に加熱するように構成された加熱装置と、エンクロージャ内に配設された溶接装置であって、エンクロージャ内に配置された溶接温度の物品を溶接するように構成された溶接装置とを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下の説明は、決して限定と考えるべきではない。添付の図面を参照すると、同様な要素には、同じ参照符号を付している。
【0009】
図1には、金属物品11(超合金金属物品のような)を溶接するための装置10を概略的に示している。装置10は、エンクロージャ12と、エンクロージャ12から熱的に分離された加熱装置14と、溶接装置16とを含む。エンクロージャ12は、物品11をその全側面で密封しかつ囲む壁を含む。加熱装置14は、物品全体(又は、物品11の少なくとも実質的な全体)を均一に加熱するような寸法及び構成のものであり、それに限定されないが誘導加熱装置、伝導加熱装置及び輻射加熱装置のようなあらゆる望ましい加熱装置とすることができる。エンクロージャ12と組合さって、溶接装置16は、それに限定されないがタングステン不活性ガス(TIG)溶接、プラズマ移行アーク(PTA)溶接又はレーザ溶接のような溶接作業を行うように構成される。溶接装置16で用いる溶加材は、物品11の作動環境に適切なあらゆる形態のワイヤとすることができる。例示的な実施形態では、溶加材は、物品11の特性及び化学的性質と同様な特性及び化学的性質を含む。
【0010】
エンクロージャ12はまた、それを通してエンクロージャ12の外部から不活性ガス19を供給するガス入口18を含む。エンクロージャ12内部におけるこの不活性ガス19の存在により、物品11が所望の溶接温度に加熱されかつ維持される間に物品11を包む不活性雰囲気20が形成される。例示的な実施形態では、所望の溶接温度は、約1500°Fであるか又はそれよりも高く、また用いる不活性ガスは、アルゴンである。一方向流れ制御弁22は、エンクロージャ12の1つの壁に取付けた状態で示しており、この一方向流れ制御弁22を通して、空気がエンクロージャ12内に引き込まれるのを防止しながら、不活性ガス19及びフュームをエンクロージャ12から排出することができる。ガス入口18及び一方向流れ制御弁22以外では、エンクロージャ12は、エンクロージャ12を囲む周囲環境から密封されるように構成されて、加熱及び溶接の間に物品11を不活性雰囲気内に密封するのを可能にする。
【0011】
装置10はさらに、溶接装置16及び物品11のためのマニピュレータ24を含む。マニピュレータ24は、グローブボックス、すなわちエンクロージャ12内で達する温度に耐えることができる材料を含むグローブの対とすることができる。マニピュレータ24は、溶接対象の物品11及び/又は溶接装置16をエンクロージャ12内で操作することができるようにエンクロージャ12の壁の1つに取付けられる。その結果、一方向弁22以外では、エンクロージャ12は、物品11が溶接温度まで又は溶接温度において加熱されている間、密封された状態を維持するように構成される。このようにエンクロージャ12を密封することにより、激しい温度勾配又は他の発生可能性がある原因のために周囲空気がエンクロージャ12内に引き込まれるのが防止される。
【0012】
次に図2を参照すると、上記で紹介した参照符号を付した要素に関連させて物品を溶接する例示的な方法100を説明する。本方法100は、動作ブロック102に示すように、エンクロージャ12内に物品11を配置する段階を含む。例示的な実施形態では、物品11は複雑な形態40(図3に示す形態のような)を備えたタービンノズル11である。この開示の目的のため、複雑な形態を備えた物品(図3の物品11など)は一般的に、物品の少なくとも一部にわたって一貫性がなくかつ可変的な寸法を有する物品(すなわち、物品の異なる領域において異なるそれぞれの長さ、幅又は高さを含む物品)と定義することにする。
【0013】
本方法100はまた、動作ブロック104に示すように、エンクロージャ12内に非反応性雰囲気20を確立する段階を含む。動作ブロック106に示すように、本方法100はさらに、加熱装置14を作動させて物品11の少なくとも実質的な全体にわたって物品11を溶接温度に均一に加熱する段階を含み、この場合に、物品の全体は図3に最もよく示している。この動作は、物品11をエンクロージャから取り出さずに行われる。物品11をエンクロージャ12から取り出さずに物品11を溶接温度に加熱することにより、物品11が作動する厳しい条件の結果として物品11内に存在する残留応力の緩和が可能になる。加えて、物品11の全体を溶接温度に均一に加熱することにより、物品の局所加熱に関連する温度勾配が排除される。これらの勾配を排除することはさらに、それら勾配によって生じる物品11における割れを減少させるか又は排除する。この割れ発生の改善により、本方法100は、動作ブロック108に示すように物品11を溶接する段階に進むことができ、前記溶接段階においては、物品11の少なくとも実質的な全体44にわたって溶接温度を維持しながら溶接が行われる。例示的な実施形態では、溶接温度は約1500°Fであるか又はそれよりも高いことを理解されたい。
【0014】
ガスタービンエンジンの構成要素(すなわち、図3に最もよく示しているタービンノズル11)に関して本方法100を説明してきたが、本方法100はまた、物品(特に複雑な形態を備えた物品)がその特性を低下させることにならないように溶接するために熱処理されるような種々の用途に適用可能であることに留意されたい。
【0015】
また、例示的な実施形態に関して本発明を説明してきたが、本発明の技術的範囲から逸脱せずに本発明の要素に対して様々な変更を加えることができまた本発明の要素を均等物で置き換えることができることを当業者は理解すべきであることにも留意されたい。さらに、本発明の技術的範囲から逸脱せずに特定の状況又は実体を本発明の教示に対して適合させるように、多くの修正を加えることができる。従って、本発明は、本発明を実施するために考えられる最良の形態として開示した特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、提出した特許請求の範囲の技術的範囲内に属する全ての実施形態を含むことになることが、重要である。また、特に指示しない限り第1の、第2の、などの用語のいずれの使用も何らの順序又は重要度を意味するものではなく、むしろ第1の、第2の、などの用語は1つの要素を別の要素から区別するために使用していることに、さらに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】物品を溶接するための装置の概略図。
【図2】物品を溶接する方法を示すブロック図。
【図3】図1の物品の概略図。
【符号の説明】
【0017】
10 装置
11 金属物品
12 エンクロージャ
14 加熱装置
16 溶接装置
18 ガス入口
19 不活性ガス
20 不活性雰囲気
22 一方向流れ制御弁
24 マニピュレータ
40 複雑な形態
44 実質的な全体
100 物品を溶接する方法
102 動作ブロック
104 動作ブロック
106 動作ブロック
108 動作ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品を溶接する方法であって、
上記物品を全面的に囲繞する壁を備を有するエンクロージャであって、物品をその少なくとも実質的に全体で均一に加熱する構成及び寸法の付属加熱装置を有するエンクロージャ内に、物品を配置する段階と、
上記エンクロージャ内に非反応性雰囲気を確立する段階と、
上記加熱装置を作動させて、上記エンクロージャ内で物品をその少なくとも実質的に全体で溶接温度に均一に加熱する段階と、
上記エンクロージャ内で、物品の少なくとも実質的に全体で溶接温度を維持しながら物品を溶接する段階と
を含んでなる方法。
【請求項2】
前記溶接段階が、エンクロージャの壁に取付けられたマニピュレータで操作される溶接装置によって実施される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記溶接温度が約1500°F以上である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記加熱装置が誘導加熱装置、伝導加熱装置及び輻射加熱装置の少なくとも1つである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記溶接装置が、タングステン不活性ガス(TIG)溶接装置、アーク溶接装置及びレーザ溶接装置の少なくとも1つである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記物品が、複雑な形状のガスタービンエンジン部品として用いられるように構成されている、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記物品が、ガスタービンエンジンのタービンノズルとして用いられるように構成されている、請求項1記載の方法。
【請求項8】
ガス入口を介してエンクロージャ内に不活性ガスを流す段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
一方向流れ制御弁を介してエンクロージャから不活性ガスを排出させる段階をさらに含んでいて、一方向流れ制御弁が、排出時に空気がエンクロージャに流入するのを防止するように構成されている、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記不活性ガスがアルゴンである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
物品を溶接するための装置であって、
物品を収容するためのエンクロージャであって、物品を全面的に囲繞するための壁を有するエンクロージャと、
エンクロージャ内に配設され、物品をその少なくとも実質的に全体で溶接温度に加熱するように構成された加熱装置と、
エンクロージャ内に配設された溶接装置であって、エンクロージャ内に配置された溶接温度の物品を溶接するように構成された溶接装置と
を備える装置。
【請求項12】
前記エンクロージャにグローブボックスが取付けられ、該グローブボックスが、エンクロージャ内でユーザが溶接装置及び物品を操作できるように構成されている、請求項11記載の装置。
【請求項13】
前記溶接温度が約1500°F以上である、請求項11記載の装置。
【請求項14】
前記加熱装置が、誘導加熱装置、伝導加熱装置及び輻射加熱装置の少なくとも1つである、請求項11記載の装置。
【請求項15】
前記溶接装置が、タングステン不活性ガス(TIG)溶接装置及びアーク溶接装置の少なくとも1つである、請求項11記載の装置。
【請求項16】
前記物品が、複雑な形状のガスタービンエンジン部品として用いられるように構成されている、請求項11記載の装置。
【請求項17】
前記物品が、ガスタービンエンジンのタービンノズルとして用いられるように構成されている、請求項11記載の装置。
【請求項18】
前記エンクロージャが、不活性ガスをエンクロージャ内に流すことができるように構成されたガス入口を含む、請求項11記載の装置。
【請求項19】
前記エンクロージャが、物品の加熱時に生じる温度勾配によってエンクロージャ内に空気が引き込まれるのを防止するように構成された一方向流れ制御弁を含んでおり、一方向流れ制御弁が、エンクロージャからガスを排出するように構成されている、請求項11記載の装置。
【請求項20】
前記エンクロージャが、ガス入口及び一方向流れ制御弁以外はシールされる、請求項11記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−28788(P2009−28788A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190405(P2008−190405)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】