説明

物品を認証および/または特定する方法

本発明は、担持体としてのマーカー中にほぼ分離不可能に内包され、選択された化学元素および/または化合物を所定の暗号コードに基づく濃度でマーカー元素の形態で含有する、化学的マーキング剤を含有する物品を認証および/または特定する方法に関する。本方法は、i)化学的マーキング剤におけるマーカー元素を定性的および/または定量的に特定するステップと、ii)ステップ(i)において特定される値を所定の暗号コードと比較するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、化学的マーキング剤を使用して物品を認証および/または特定する方法、特に、ある物品が本物であることを証明するための、または偽造物に対する保護を提供するための前記のような方法に関する。
【0002】
ハイテク製品などの高価値製品が頻繁に違法にコピーされていることは、よく知られている。このように違法にコピーされると、関係会社さらに経済全体が大きな損失を蒙る。さらに、コピー製品は品質が悪いことが多く、顧客には製品が偽造物であるという認識がないので、低品質による欠陥はすべてブランドが悪いのだと考える。その結果、製造業者のイメージは甚大な被害を受ける。
【0003】
技術の進歩によって、プラスチック製パーツ、機構パーツ、および衣類などの継続的に生産される多数の製品が、最近は少なくとも巨視的には実質的にほぼ完全にコピー可能である。したがって、たいていの場合には、純正物の製品を偽造品と区別することが不可能ではないとしても困難であるので、区別をするために、本物の製品に付加的な特徴を用いて効果的かつ経済的な様態で特殊なマーキングを施す必要がある。
【0004】
現在の技術的状況によれば、純正物にマーキングを施すために、特にラベルを物品の表面に貼付可能である。マーキングそのものに関しては、この場合、この種類のラベルが、一義的および再生可能に検出または測定可能な、視認可能または隠れたセキュリティ上の特徴を認証コードとして有している必要がある。セキュリティ上の特徴は、ある特定のパターン(例えばバーコード、ホログラム、マイクログラフィックス、組みひも飾り(guilloche)パターン)または特定の色もしくはインク、電子情報(例えばRFIDチップ)など、さらにその他の多くの形態が可能である。
【0005】
ラベルの欠点およびラベルの多数の応用事例への適用を制限する原因は、ラベルの機械的および熱的な安定性が制限されていることである。特に、マーキングを施そうとする物品の表面に荷重をかけると、粘着力を失うか、または損傷する。さらに、表面ではいかなる修正も許容できない小さな品物または物品(例えばタービン用ブレード)にラベルを貼付することは、技術的理由で不可能である。さらに、ラベルはアクセス可能であり、このことは、コピーされることが多く、偽造物品に対する効果的な保護方法が無いことを意味している。また、個々のコストが相対的に高いことが障害となり、これは、特に継続的に大量生産される製品や個々の物品の価値が低い場合に顕著である。
【0006】
ラベル以外に、現在の技術には、物品の表面に直接マーキングすることに関する手法や方法がある。言及可能な例としては、レーザ切除などの方法によるパターンまたは表面の構造の形成、蛍光性もしくは発光性の物質または色素の目標物への組み込み、化学的および/または生物学的反応によって検出可能な物質の目標物への組み込みなどがあげられる。この場合にも、このようなプロセスの欠点および適用を制限する原因は、機械的および熱的な安定性の欠如、表面の修正可能性、アクセス可能性、およびアクセス可能性の結果生じるコピー可能性などであるが、さらに、場合によってはセキュリティ上の特徴の検出にともなう高レベルの複雑さおよび高いコストも原因になる。
【0007】
これらの方法を除くと、元素および/または化合物を物品のバルクに目標の様態で導入し、各種測定法によってこれらを検出するためには、現在の技術的状況ではわずかな数の手法が知られているだけである。
【0008】
欧州特許第1 556 837 B1明細書には、例えば、物体に蛍光性を有する化合物を導入し、この化合物を可視光で励起することによって少なくともその存在または非存在を検出するプロセスが記載されている。分光分析の結果は本物の分光分析の結果(つまり認証コード)と比較されて、こうして、物品が純正物であるという証拠が得られる。
【0009】
独国特許出願公開第100 83 295 T1明細書にも同様の方法が記載されている。この場合には、少なくとも一つのマーカー物質がエネルギーを有するビームで励起されるとX線を放射し、マーキングされる物品はカーペットであり、およびマーカー物質はこの物品をコーティングすることによって導入される。セキュリティ上の特徴は、X線蛍光分析法によって測定されるマーカー物質の組成である。
【0010】
米国特許第4,445,225明細書には、物品に組み込まれたマーカー物質が物品のバルクにおいて均質に分布せず、表面の特定の箇所に偏在するプロセスが記載されている。この結果、独国特許出願公開第100 83 295 T1明細書のコーティング法のように、マーキング効果は表面上にのみ配置される。同様に、独国特許出願公開第44 45 004 A1明細書、独国特許出願公開第196 45 630 A1明細書、および欧州特許出願公開第0 911 626 A1号明細書は、X線蛍光分析法によるマーカー物質の検出に関する。
【0011】
しかしながら、実際の使用において発生する問題および課題を同時に解決することは、従来技術には記載がなく、または達成されない。
【0012】
最初に、バルク中の物品、素材、コーティング部などに均質にマーキングする(「バルク効果」)ため、マーキングの検出が物品のどの部位で行なわれるか、またはどの部分を介して行なわれるかとは無関係である、方法。
【0013】
二つ目に、完全に不活性かつ熱的および機械的に極めて安定した添加剤として特異的に生成され、マーキングされる物体中において全体としておよび/または各成分が位置および濃度を変えない、つまりバルクまたは物品の表面上において、特に拡散および/または抽出および/または浸入および/または反応をトリガーしない、マーカー。
【0014】
列挙したこれらの性質の一つあるいは複数が欠けていると、マーキングは、再現性、高い信頼性、化学構造的な安定性および不活性に関して、(継続的に生産される)工業製品が満たすべき要件を満たすことができなくなる。例えば、マーカーが抽出されれば、マーキングの検出の再現性を損なうだけでなく、不所望のまたは有毒でさえある反応をもトリガーしてしまう。これによって製品の使用および市場投入許可が限定および/または否定されることもあり得る。
【0015】
本発明の目的は、現在の技術的状況が有する前述の欠点を解消し、実際の使用において発生すると上で述べた問題を少なくとも部分的に解決する、物品を認証および/または特定する方法を提供することである。
【0016】
この点を鑑みて、化学的マーキング剤の定性的および/または定量的な特定を可能にし、また、物品の生成時に物品のバルク中に均質におよび安定的に組み込むことが可能な方法を提供することを意図している。
【0017】
本方法は、選択された化学元素および/または化合物を利用して所定の暗号コードを高い信頼性をもって決定またはチェックすることを可能にし、好ましくは、この決定またはチェックを、元素および/または化合物の濃度に基づいて行うことを可能にすることをも意図している。
【0018】
上記の問題は、請求項1に記載の特徴を有する方法によって解決される。好適な実施形態については、従属請求項の記載から理解されよう。
【0019】
本問題は、化学的マーキング剤を含有する物品を認証および/または特定する方法であって、化学的マーキング剤は、実際には「マーカー」である担持体中にほぼ分離不可能に内包され、マーカー元素と呼ばれる選択された化学元素および/または化合物を所定の暗号コードに対応する濃度で含有しており、
i)化学的マーキング剤におけるマーカー元素を定性的および/または定量的に特定するステップと、
ii)ステップ(i)において特定される値を所定の暗号コードと比較するステップと、
を含む方法によって解決される。
【0020】
この文脈では、好適には、上記暗号コードは、マーカー元素の濃度および/またはマーカー元素の数列中の位置によって決定される数値である。
【0021】
特に好ましくは、上記数値は10進法に基づく数値である。
【0022】
上記暗号コードが、少なくとも一つの化学的参照元素および/または化学的参照化合物と比較した、マーカー元素の濃度および/またはマーカー元素の位置によって決定されることも好適である。
【0023】
マーキング剤の濃度が(よって、マーカー元素の濃度が)マーキングされる物品において制御不可能であって、したがって、絶対濃度をあらかじめ決定することが不可能なときには、相対濃度を用いた変形は常に有意である。マーカー元素および参照元素の相対量で重量を測定することは、常に可能である。
【0024】
この変形のもう一つの効果は、適用可能な場合には、参照元素の濃度を測定することによって化学的マーキング剤の希釈率、よって、物品の素材の希釈率が確認できることである。
【0025】
好適な一実施形態は、上記化学的マーキング剤が、4個〜40個、好ましくは8個〜24個のマーカー元素を含有することを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、上記マーカー元素は、個々の場合に、互いに異なる濃度範囲において、および/または、1〜20、好ましくは2〜10の倍率で適用可能な参照元素と異なる濃度範囲において、存在することも好適である。
【0027】
この文脈では、濃度範囲の個数が、マーカー元素の濃度マトリクスがマッピングされる記数法の底を形成し、マーカー元素の個数が該記数法の桁数を形成することは好適である。
【0028】
本発明によれば、例えばマーカー元素のX線蛍光分析法によって、一義的に識別可能な濃度範囲が特に好ましい。
【0029】
そして、本化学的マーキング剤を用いれば、以下のように番号(具体的には認証コード)を一義的に生成することが可能である:濃度範囲の個数が有意かつ所定の記数法(例えば2進法、3進法、または4進法)の底を形成する。
【0030】
本発明によれば、底は2〜10、好ましくは4〜6の範囲である。このことは4〜6の濃度範囲であれば一義的に識別できることを意味している。
【0031】
そして、マーカー元素の濃度は、上記所定の記数法のスケーリングに対応する濃度範囲に割り当てられる。したがって、4進法では、濃度値が四つの濃度範囲のうちの一つに割り当てられ、その結果、濃度が数字0〜3に対して完全にマッピング可能になる。
【0032】
そして、異なるマーカー元素の個数によって、上記記数法における桁数、つまり位の個数が決まる。この場合、複数のマーカー元素の間で、考察中のマーカー元素の位置つまり位(例えば4進法であれば0の位、4の位、16の位など)を決定するだけでよい。
【0033】
このことは、マーカー元素の組成および濃度を分析することによって、任意の濃度範囲について、記数法の関数および個々のマーカー元素の位置としての一義的な数値が生成されることを意味している。この数値が本物の数値、つまり認証コードに対応すれば、物品は純正物である。
【0034】
本発明の方法の一つの効果は、記数法の底およびマーカー元素の位置は設定可能であるが、簡単に変更することもできるということである。この結果、記数法およびマーカー元素の位置がどのようにして設定されたのかに応じて、ある特定のマーカーが複数の番号にマッピングされてもよく、したがって、2回以上使用されてもよい。
【0035】
好ましくは金属、特に好ましくはI亜族〜VIII亜族を含めたII族〜VI族および第4周期〜第6周期の元素がマーカー元素として使用される。対応する塩または酸化物の形態の金属化合物を同様に使用してもかまわない。
【0036】
上記マーカーの基礎素材は、好ましくは、温度耐性および/または化学的耐性および/または機械的耐性を有する。このマーカーの基礎素材は、ガラス系素材および/またはセラミック系素材から形成されてもよい。
【0037】
マーカー元素をマーカーと一体化させるために、上記元素、塩、または酸化物を、まず水に懸濁または溶解した後に、この溶液または懸濁液を濾過、遠心分離、およびこれに続き乾燥することによって均質に混合させる。
【0038】
次に、このようにして得られるプレミックス(つまりマーキング剤)を、マーカーの基礎素材とともに混合および/または粉砕し、その後、熱的プロセス(好ましくは、アニーリング、融解、または焼結、特に好ましくは融解)において混合して一様な混合物を生成する。この混合物は、圧砕、粉砕などの現在の技術的状況において公知の方法で加工することによって、規定の粒子サイズ分布を有する粉末になる。マーカーの粒子サイズは、1nm〜5,000μm、好ましくは50nm〜200μmである。
【0039】
上記マーカー中におけるマーカー元素の濃度は、マーカーの総量に対して10ppm〜100,000ppm、好ましくは10ppm〜1,000ppmの範囲であれば好適である。
【0040】
このようにして得られたマーカーは、化学的マーキング剤を含有しており、さらに表面改良剤および/または分散剤と混合してもよい。生成後には、物品の特徴に応じて、マーカーを物品の素材と一体化させても、または物品の表面に適用してもよい。
【0041】
本発明によれば、マーキングされる物品は、好ましくは、すべての物質、コーティング、特にプラスチック、金属、塗料、コーティング剤、ガラス、セラミックス、織物、皮革物、紙、ボール紙、および/または粘着剤を備えている。
【0042】
最後に、ステップ(i)における定性的および/または定量的な特定のために、物理的方法/化学的方法および/または湿式化学的方法、好ましくは原子吸光分析法(atom absorption spectroscopy; AAS)、誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma; ICP)、またはX線蛍光分析(X−ray fluorescence analysis; XRF)が使用されることが好ましい。
【0043】
素材の物質を前もって分析し、その結果を考慮すれば、化学的マーキング剤の精密な量を検討することによって、バックグラウンド濃度(background concentrations)を補償し、分光分析において「バックグラウンドノイズ」を大幅に低減することも可能である。
【0044】
本発明によれば、驚いたことに、提案した方法によって、物品を高い信頼性で一義的に特定および認証することができることが分かった。化学的マーカー元素は簡単な方法で定性的および/または定量的に特定可能であり、こうすることによって、該化学的マーカー元素を暗号コードと比較することができるようになる。
【0045】
さらに、本発明によれば、驚いたことに、マーカーを形成する上述の方法によって、粒子のサイズおよび形状の分布について一義的な粉体混合物が生成されることが分かっている。この分布(したがって粉体混合物中の粒子の組成)は、マーカーの形成の確率論的な結果であり、特に混合、融解、粉砕、および焼結のプロセスにおけるマーカーの形成の確率論的な結果である。例えばFFF分析などの特徴を付与するプロセスによって、分布は十分な精度および区別において決定可能である。この点において、マーカーの形成は実施ごとに唯一無二であって、したがって、マーカーを再生またはコピーすることは不可能である。
【0046】
本発明の方法の非常に重要な要素は、化学的マーキング剤を担持体(つまり、上述のように化学的マーキング剤をほぼ分離不可能に内包するマーカー)において提供することである。この手順によって、化学元素および/または化合物の抽出率が低下する。したがって、元素および化合物は、媒体と常に接触している限り担持体において枯渇するということは一切起こり得ない。また、媒体自身が汚染されるということもない。このことは、特に物品(例えば保存容器の形態を有する物品)が食品または日用品と接触する場合、実用上非常に重要である。担持体としてのガラス素材およびセラミック素材は、殆どどの媒体からの攻撃にも高い耐性を有するので、化学的マーキング剤の耐抽出性を大幅に増加させることができる。
【0047】
同様に、驚いたことに、化学的マーキング剤の化学反応性は、基礎素材中またはマーカー自身の中にマーカーを包含することによって低下することが分かった。多数の金属化合物は触媒として作用する能力を備えている。特に反応性のシステム(例えばポリエステル樹脂、エポキシ樹脂など)の場合には、したがって、この種類の化合物を、担持体を用いないで直接導入することは、不所望の反応をトリガーし、および/またはシステムもしくは完成前製品(preproduct)の耐久性を大幅に低下させることがある。
【0048】
物品の素材がプラスチックであれば、そのプラスチックの特徴に応じて、マーキング剤は、分散(プラスチック溶液中に懸濁、押し出し、混練など)によって混合物に組み込み可能である。この場合のプラスチックにおける濃度は、好ましくは、プラスチックの重量を基準として0.05重量%〜5重量%、好ましくは0.1重量%〜0.5重量%である。分散を改善するために、まずマーカーの濃縮物を調製し、次に標準的ないずれかの処理方法(例えば押し出し、注入成型、カレンダ加工法、スピン法など)でプラスチックと混合してもよい。対応する方法は従来技術において公知である。
【0049】
コーティング材(例えば塗料、ラッカー、インク、またはその他のコーティング剤)を使用する場合には、化学的マーキング剤またはマーカーを、製造過程においてコーティング材に直接添加してもよい。なお、この製造過程において、好ましくは、分散は、コーティング材の生成に必要とされる色素および/または充填剤とともに行われる。分散は、コーティング材の生成において使用される標準的な設備を用いて実施可能である。システムにおける濃度は、好ましくは、コーティング材の総量に対して0.1重量%〜10重量%、より好ましくは0.5重量%〜2重量%である。
【0050】
分散を改善するために、まずペーストを作った後に、適切な溶媒中でペーストを分散させてもよい。この目的を実現するためには、例えば溶解器、混練器、回転ドラム、ビーズミル、ミキサ、攪拌機などの、当業者によく知られている標準的な設備を使用してもよい。コーティング材は、塗装、噴霧、可塑化、浸漬塗装、印刷などの当業者によく知られているプロセスによって、通常の方法で物品に適用される。
【0051】
物品を分析するために、例えば物品が純正物であることを証明するために、化学的マーキング剤の組成および濃度が、少なくとも物品の一部において決定される。好ましくは、物理的方法/化学的方法、例えば原子吸光分析法(atom absorption spectroscopy; AAS)、誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma; ICP)、またはX線蛍光分析(X−ray fluorescence analysis; XRF)などの方法が使用される。
【0052】
一般的に、組成および濃度は、さらなる化学的または物理的な調製を一切行わずに直接測定可能である。ただし、当業者によく知られている方法を用いて、マーカーおよび化学的マーキング剤を目標とする様態に濃縮してもよい。濃縮は、例えば物品またはコーティング材の一部を適切な溶媒中で溶解させ、マーカーおよび化学的マーキング剤を濾過、遠心分離などの方法によって分離することによって達成可能である。あるいは、物品を燃焼させてもよい。そして、直接分析の場合と同じ方法を用いて各元素の比率を特定する。
【0053】
本発明の方法の主要な効果の一つは、化学的マーキング剤がさまざまな種類の基板または物品において使用可能であることである。したがって、異なる素材からなる物品を同じ化学的マーカーを用いて保護することができる。
【0054】
本発明の方法のさらなる特徴および効果は、実際的な実施形態に関する以下の説明から理解されよう。
【0055】
以下の記載においては、一例として、ある複数種類の化学元素を異なる濃度で選択した後に、暗号コードが2進法を用いてどのように生成されるのかについてまず説明する。
【0056】
化学的マーキング剤を生成するためには、表1の左下に列挙した八種類全ての化学元素を使用すべきである。これらの元素は、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、ガリウム、およびヒ素である。2進法に基づいて、例えば、ヒ素の位置が、ビット番号1に対応するとする。これは10進法における0の位に対応する。暗号コードを規定するための、残りのビット番号に対する各元素の割り当てと、このようにする元素の順序とは、表1の左列から同様に理解されよう。例えば、クロムはビット番号6に対応する。クロムの濃度が値1に対応するのであれば、この結果、1×2、つまり32という数字が得られる。
【0057】
選択した八種類の元素は、二つの異なる濃度範囲、具体的には、約1,000ppmの濃度範囲または約10,000のppmの濃度範囲に存在していてもよい。ある化学元素が化学的マーカーにおいて約1,000ppmの濃度で存在すれば、2進数の数値「0」がその濃度に割り当てられる。化学元素が約10,000ppmの濃度で存在していれば、2進数の数値「1」がその濃度に割り当てられる。
【0058】
本実施例では全部で二つの濃度範囲があるので、記数法の底を2とし、こうすることによって2進法が使用できるようにする。全部で八種類の化学元素が存在しているので、この記数法の桁数は8である。
【0059】
【表1】

【0060】
以下の表2は、ビット番号および10進法で表された関連する数値を考慮した上で、選択された化学元素が数列においてどのように並べられるのかについて調査した結果を再度提供する。表2はさらに化学元素の濃度を示している。ただし、これは、化学的マーキング剤を生成するために一例をあげているにすぎない。例えば、チタンは10,000ppmの濃度で存在すると仮定し、一方で、クロム、ニッケル、およびヒ素は2,000ppmの濃度で使用されると仮定する。2,000ppmという濃度は、ここでは切り捨てられて1,000ppmの濃度範囲になる。その結果、2進法の数値「0」は2,000ppmという濃度にも割り当てられる。
【0061】
【表2】

【0062】
2進法を10進法に変換した後に、表2に示すマーキング剤の一例としての実施形態の数値は、「218」となるべきである。これは、表5に列挙された濃度の状態0および1を考慮して、これらの状態に合わせて割り当てられた元素の値を足し算することによって得られる。
【0063】
本実施例では、マーカー元素を含有する100gのマーカーを生成するために、90.1529gのガラス粉末(ソーダ石灰ガラス)が、表3に列挙されたマーカー元素(酸化チタン、三酸化二バナジウム、二酸化二クロム、三酸化二マンガン、四酸化三コバルト、酸化ニッケル、三酸化二ガリウム、および四酸化ヒ素)が表中に示した濃度で混合される。さらに、2,000gの酸化亜鉛を溶剤(図示せず)として添加する。
【0064】
これは、本実施例では、化学元素および/または化合物の絶対濃度、およびこれらの順序もまた、暗号コードを規定するために使用されることを意味している。この混合物を、例えばボールミルで水およびイソプロパノールを用いて細かく粉砕された。次に、混合物を遠心分離にかけ、乾燥室で乾燥させた。その後、混合物をるつぼの中に設置し、るつぼ炉中で1,500℃で融解させて、均質な混合物を形成した。
【0065】
融解物を、次に、大量の水で満たした洗面器に慎重に注いだ。この過程で形成された顆粒を、まず、ジョークラッシャーで粗く解砕し、次にボールミルを用いて粉砕して、最大粒子サイズが2μmの微細粉末を生成した。
【0066】
元素の濃度、使用する化学化合物、および重量を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
表4に示す組成物を使用して、例えば非金属から形成され、または非金属および金属元素から形成され、上述の実施形態のマーカー(表1)が設けられる成型物品のために使用するポリアミド素材を調製する。混合物はこの素材とともにツインスクリュー押し出し機において240℃〜250℃の温度で融解および分散する。混合物は、押し出しダイを介して排出され、水浴で冷却され、粉状にされる。このようにして調製された化合物を、完成品となるまで加工してもよい。
【0069】
【表4】

【0070】
上記実施例において調製された化学的マーカーをポリアミド素材中で検出するために、約10gのポリアミド素材を、分析の過程においてトリフルオロエタノールに溶解させる。残留物は遠心分離で分離し、トリフルオロエタノールを用いて懸濁させ、再度遠心分離で分離する。プレス剤(pressing agent)を用いて錠剤を生成する。化学的マーキング剤において使用される元素の含有量はRFAによって決定される。表5は、対応する分析結果を示している。検出される個々の元素の濃度は、濃度範囲に応じて2進法の数値に変換される。次に、ビット番号の正しい位置を用いて、2進法の数値「0」および「1」が10進法の数値に変換され、最後に218という合計値が得られる。この合計値218は、もともと意図していた10進法の数値に対応する。
【0071】
【表5】

【0072】
上記の例からわかるように、こうすることによって、本発明の方法を用いれば、単純および効果的な態様で物品を認証および/または特定することが可能である。この目的を実現するために、化学的マーキング剤が担持体中にほぼ分離不可能に内包され、物品の素材と一体化される。化学的マーキング剤は、選択された化学元素および/または化合物を所定の暗号コードに基づく濃度で含有する。この文脈では、所定の暗号コードが、記数法において、選択されるマーキング剤の元素の濃度および/またはマーカー元素の位置によって決定される数値であることが好適である。暗号コードが知られている場合、物品が純正物であるのかまたは偽造物品であるのかを、物品の素材を分析することによって簡単な方法で決定可能である。
【0073】
請求項および上記記載中に開示された特徴は、それぞれ単独で、あるいは任意の組み合わせで、各種実施形態において本発明を実施するために必須となってもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的マーキング剤を含有する物品を認証および/または特定する方法であって、
上記化学的マーキング剤は、担持体としてのマーカー中にほぼ分離不可能に内包され、マーカー元素と呼ばれる選択された化学元素および/または化合物を所定の暗号コードに対応する濃度で含有しており、
i)上記化学的マーキング剤における上記マーカー元素を定性的および/または定量的に特定するステップと、
ii)ステップ(i)において特定される値を上記所定の暗号コードと比較するステップとを含む方法。
【請求項2】
上記暗号コードが、上記マーカー元素の濃度および/または上記マーカー元素の数列中の位置によって決定される数値であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記暗号コードが、少なくとも1つの化学的参照元素および/または化学的参照化合物と比較した、上記マーカー元素の濃度および/または上記マーカー元素の位置によって決定されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記化学的マーキング剤が、4個〜40個、好ましくは8個〜24個のマーカー元素を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
上記マーカー元素が、個々の場合に、互いに異なる濃度範囲において、および/または、1〜20、好ましくは2〜10の倍率で適用可能な参照元素と異なる濃度範囲において、存在することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
濃度範囲の個数が、マーカー元素の濃度マトリクスがマッピングされる記数法の底を形成し、マーカー元素の個数が該記数法の桁数を形成することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
2〜10、好ましくは4〜6の範囲が底として作用することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記マーカー中におけるマーカー元素の濃度が、マーカーの総量に対して10ppm〜100,000ppm、好ましくは10ppm〜1,000ppmの範囲であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
上記マーカーの素材が、温度耐性および/または化学的耐性および/または機械的耐性を有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
上記マーカー元素が、マーカーの基礎素材とともに、アニーリング、焼結、または融解によって、マーカー中にほぼ分離不可能に内包されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上記マーカーの基礎素材が、ガラス系素材および/またはセラミック系素材から形成されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
上記マーカーが、1nm〜5,000μm、好ましくは50nm〜200μmの粒径を有することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
マーキングされる物品が、プラスチック、金属、塗料、コーティング剤、ガラス、セラミックス、織物、皮革物、紙、ボール紙、および/または粘着剤を備えていることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(i)における定性的および/または定量的な特定のために、物理的方法/化学的方法および/または湿式化学的方法、好ましくは原子吸光分析法(atom absorption spectroscopy; AAS)、誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma; ICP)、またはX線蛍光分析(X−ray fluorescence analysis; XRF)を使用することを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−511195(P2012−511195A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538834(P2011−538834)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【国際出願番号】PCT/DE2009/001722
【国際公開番号】WO2010/066237
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(511138283)ポリセキュア ゲーエムベーハー (1)
【氏名又は名称原語表記】POLYSECURE GMBH
【住所又は居所原語表記】Engesserstrasse 4a,79108 Freiburg,Germany
【Fターム(参考)】