説明

物性が改質された2−ピロリドンの重合体又は共重合体

【課題】熱分解温度が上昇した2−ピロリドンの重合体又は共重合体、及び該重合体又は共重合体を含む成形品を提供する。更に、2−ピロリドンの重合体又は共重合体の熱分解温度を上昇させる方法を提供する。
【解決手段】カルボジイミドにより処理された2−ピロリドンの重合体又は共重合体、該重合体又は共重合体を含む成形品、及び2−ピロリドンの重合体又は共重合体をカルボジイミドで処理することを特徴とする2−ピロリドンの重合体又は共重合体の熱分解温度を上昇させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物性が改質された2−ピロリドンの重合体又は共重合体、及び該重合体又は共重合体を含む成形品に関する。更に、本発明は、2−ピロリドンの重合体又は共重合体の熱分解温度を上昇させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド4(以下、PA4とも称する)の特徴として、バイオマスから合成可能という点がある。すなわち、原料モノマー(2−ピロリドン)が、バイオマス(グルコース)を発酵して工業生産されているグルタミン酸を脱炭酸させたγ-アミノ酪酸を経由して得ることが出来る。次に、ポリアミド4はメチレン鎖長が短い高分子鎖構造であるために分子間の水素結合が強くなり、優れた熱的・機械的性質を持つ。また、ポリアミド類の中で唯一、ポリアミド4は、活性汚泥中・海水中・土壌中等の自然環境下の微生物により生分解を受ける。一方、重合機構より開始剤が結合して重合成長種が生成するため、ポリアミド4は高分子設計が容易にできる。
【0003】
ポリアミド4は1956年にWilliam O.Neyらにより、金属カリウムを塩基性触媒とし、アシル基を含む化合物を活性化剤として使用することにより、2-ピロリドンが活性化モノマー機構で開環重合することにより初めて合成された(特許文献1)。その手法を基にして、1950年代から1990年代にかけて断続的に高分子量化、多分散性制御、製造工程の簡素化を目的に、新規触媒系、重合方法、ε-カプロラクタムとの共重合化等の技術開発が行われてきた(非特許文献1−5)。総じて、汎用材料として線状ポリアミド4を工業生産し、経済的に有利な溶融成形により、繊維やフィルムにすることを目標にしていた。それらの研究の中には溶融紡糸が可能となった技術開発例もあったが、強度に問題があることや成形加工が難しいことで課題があり実用化は断念されている。
【0004】
上記のような問題を解決手段として、特許文献2では、塩基性重合触媒およびカルボン酸系化合物を用いて2-ピロリドンを重合させることにより、カルボン酸系化合物に由来する構造を含む特殊構造を有する2-ピロリドン重合体を製造できること、それにより2-ピロリドン重合体の熱安定性、成形加工性等の諸物性を制御、改善できることが報告されている。
【0005】
また、ポリアミド4には、融点と熱分解温度が接近しているため成形や紡糸が困難という問題がある。熱分解は加水分解反応で進行するのではなく、熱環化反応による五員環ラクタムの生成により進む。当該問題の解決策として、共重合化により融点を低下させ、より低い温度で成形加工する手法について報告がある。
【0006】
例えば、特許文献3では、2-ピロリドンの重合の際に、塩基性重合触媒および2分岐以上の分岐構造を有する開始剤を使用して、ε-カプロラクタムとの共重合を行い、高分子鎖構造と高分子鎖組成を制御することで、物性(機械的性質、熱的性質)の改質が可能となることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許2,739,959号明細書
【特許文献2】特開2002-265596号公報
【特許文献3】特開2009-155608号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chuchma, F. et al : Polymer, 24, 1491-1494(1983)
【非特許文献2】Kobayashi, F. et al : Journal of Polymer Science: Part A, 1, 111-123(1963)
【非特許文献3】Barzakay, S. et al : Journal of Polymer Science: Part A-1, 4, 2211-2218(1966)
【非特許文献4】Barzakay, S. et al : Journal of Polymer Science: Part A-1, 5, 965-974(1967)
【非特許文献5】Tani, H. et al : Journal of Polymer Science: Part A-1, 4, 301-318(1966)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、融点降下では、ポリアミド4の持つ優れた耐熱性の性質を犠牲にすることになる。そのため、融点を下げて成形加工温度と熱分解温度とを分離するのではなく、熱安定化によって熱分解温度を上昇させて成形加工温度と分離する方法の開発が求められている。
【0010】
そこで、本発明は、熱分解温度が上昇した2−ピロリドンの重合体又は共重合体、及び該重合体又は共重合体を含む成形品を提供することを目的とする。更に、本発明は、2−ピロリドンの重合体又は共重合体の熱分解温度を上昇させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ポリアミド4をカルボジイミドで処理することによってポリアミド4の熱分解温度を上昇させることができ、上記目的を達成することができるという知見を得た。今まで、例えば、耐加水分解性を上げること等を目的としてポリ乳酸やポリアミドをカルボジイミドで処理等することは行われていたが(例えば、特開平9-328609号公報、特開2006-176597号公報、特開2011-105822号公報、国際公開第2009/054312号)、熱分解で環状モノマー化するポリマーの熱安定化のためにカルボジイミドを使用し、ポリマーの熱分解温度を上昇させたのは本発明が始めてである。
【0012】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の2−ピロリドンの重合体又は共重合体、該重合体又は共重合体を含む成形品、熱分解温度を上昇させる方法等を提供するものである。
【0013】
(I) 2−ピロリドンの重合体又は共重合体
(I-1) カルボジイミドにより処理された2−ピロリドンの重合体又は共重合体。
(I-2) 前記カルボジイミドがN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミドである、(I-1)に記載の重合体又は共重合体。
(I-3) 直鎖状又は分岐構造を有する、(I-1)又は(I-2)に記載の重合体又は共重合体。
(I-4) ラクタム類との共重合体である、(I-1)〜(I-3)のいずれかに記載の共重合体。
(I-5) 前記ラクタム類がε−カプロラクタムである、(I-4)に記載の共重合体。
(I-6) ラクトン類との共重合体である、(I-1)〜(I-3)のいずれかに記載の共重合体。
(I-7) 前記ラクトン類がε−カプロラクトンである、(I-6)に記載の共重合体。
【0014】
(II) 成形品
(II-1) (I-1)〜(I-7)のいずれかに記載の重合体又は共重合体を含む成形品。
【0015】
(III) 熱分解温度を上昇させる方法
(III-1) 2−ピロリドンの重合体又は共重合体をカルボジイミドで処理することを特徴とする2−ピロリドンの重合体又は共重合体の熱分解温度を上昇させる方法。
(III-2) 前記カルボジイミドがN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミドである、(III-1)に記載の方法。
【0016】
(IV) 2−ピロリドンの重合体又は共重合体の製造方法
(IV-1) 2−ピロリドンの重合体又は共重合体をカルボジイミドと反応させる工程を含む熱分解温度が上昇した2−ピロリドンの重合体又は共重合体の製造方法。
(IV-2) 前記カルボジイミドがN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミドである、(IV-1)に記載の方法。
(IV-3) 前記重合体又は共重合体が直鎖状又は分岐構造を有する、(IV-1)又は(IV-2)に記載の方法。
(IV-4) 前記共重合体がラクタム類との共重合体である、(IV-1)〜(IV-3)のいずれかに記載の方法。
(IV-5) 前記ラクタム類がε−カプロラクタムである、(IV-4)に記載の方法。
(IV-6) 前記共重合体がラクトン類との共重合体である、(IV-1)〜(IV-3)のいずれかに記載の方法。
(IV-7) 前記ラクタム類がε−カプロラクトンである、(IV-6)に記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のカルボジイミドにより処理された2−ピロリドンの重合体又は共重合体は、熱分解温度が上昇しており、ポリアミド4の持つ優れた耐熱性の性質を維持したまま、融点と熱分解温度が分離しているという優れた特性を有している。その結果として、2−ピロリドンの重合体又は共重合体の成形を容易に行うことができる。
【0018】
更に、本発明の2−ピロリドンの重合体又は共重合体は、カルボジイミドにより処理されていることで、2−ピロリドンモノマーの回収率が向上、即ちケミカルリサイクル性が向上している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】試験例1におけるポリアミド4のDTGを示すグラフである。
【図2】試験例2におけるポリアミド4のDTGを示すグラフである。
【図3】試験例3におけるポリアミド4のDTGを示すグラフである。
【図4】試験例4におけるポリアミド4のDTGを示すグラフである。
【図5−1】試験例5におけるDCC処理したコポリエステルアミドのTG曲線を示すグラフである。
【図5−2】試験例5におけるDCC処理したコポリエステルアミドのDTG曲線を示すグラフである。
【図5−3】試験例5におけるDCC処理したコポリエステルアミドのDSC曲線を示すグラフである。
【図6−1】試験例6におけるポリアミド4に無溶媒でDCC又はDICを反応させた場合のDTA曲線を示すグラフである(直接混合)。
【図6−2】試験例6におけるコポリエステルアミドに無溶媒でDICを反応させた場合のDTA曲線を示すグラフである(均一化処理)。
【図6−3】試験例6におけるコポリエステルアミドに無溶媒でDCCを反応させた場合のDTA曲線を示すグラフである(均一化処理)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明の2−ピロリドンの重合体又は共重合体は、カルボジイミドにより処理されていることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の2−ピロリドンの重合体又は共重合体の熱分解温度を上昇させる方法は、2−ピロリドンの重合体又は共重合体をカルボジイミドで処理することを特徴とする。
【0023】
このように、2−ピロリドンの重合体又は共重合体をカルボジイミドで処理することにより、熱分解温度を上昇させることができ、ポリアミド4の持つ優れた耐熱性の性質を維持したまま、融点と熱分解温度を分離させることが可能となる。更には、2−ピロリドンの重合体又は共重合体をカルボジイミドで処理することにより、熱分解後の2−ピロリドンモノマーの回収率を向上、即ちケミカルリサイクル性を向上させることができる。
【0024】
本発明で使用する2−ピロリドン重合体(ポリアミド4又はナイロン4)は、常法に従い製造することが出来る。2−ピロリドンの共重合体としては、本発明の効果が得られるものであれば特に限定されないが、例えば2−ピロリドンとε−カプロラクタム等のラクタム類との共重合体や2−ピロリドンとε−カプロラクトン等のラクトン類との共重合体が挙げられる。これらの共重合体のうちコポリアミドは特開2009-155608号公報の記載に従い製造することができ、コポリエステルアミドは2−ピロリドンとε−カプロラクトンを混合後、n−ブチルリチウムなどの塩基性開始剤(両モノマーに対して0.2〜1.6mol%)を添加し、室温から50℃の温度で反応させることにより合成することができる。
【0025】
本発明のカルボジイミドにより処理された2−ピロリドンの重合体又は共重合体の熱分解温度は、好ましくは10℃以上、より好ましくは20〜30℃上昇している。熱分解温度は、熱重量測定により求めることができる。
【0026】
本発明におけるカルボジイミドとしては、2−ピロリドンの重合体又は共重合体を処理することにより、それらの熱分解温度を上昇させることができるものであれば特に限定されないが、例えば、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド及びその塩、ジメチルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミド、脂肪族ポリカルボジイミド(例えば、日清紡ケミカル社製カルボジライト、イソシアナート末端を有する)等が挙げられる。カルボジイミドとしては、好ましくはN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド及びその塩、特に好ましくはN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミドである。
【0027】
本発明の2−ピロリドンの重合体又は共重合体は、2−ピロリドンの重合体又は共重合体をカルボジイミドと反応させることにより製造することが出来る。当該反応により2−ピロリドン重合体のカルボン酸末端にカルボジイミドが結合する。当該カルボジイミドの使用量は、2−ピロリドンの重合体又は共重合体に対して好ましくは1〜10wt%、より好ましくは3〜7wt%である。当該反応においてカルボジイミド以外の化合物も本発明の効果が得られる範囲で添加されても良く、そのような化合物として例えば1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)などが挙げられる。HOBtの添加により反応速度が向上し得る。
【0028】
カルボジイミドとの反応に際しては、2,2,2-トリフルオロエタノールなど、ポリアミド4に対して溶解力を持つ溶媒を使用することができる。また、当該反応における、温度条件は50〜160℃程度、好ましくは70〜100℃程度、反応時間は0.5〜3時間程度、好ましくは0.7〜2時間程度である。また、一度加熱処理を行った後に、再度加熱(例えば、融点付近まで)し急冷するような追加の加熱処理を行っても良い。無溶媒でもカルボジイミドを反応させることができ、カルボジイミドを一旦メタノールなどのアルコール溶液としてから樹脂に含浸させ溶媒留去させるような均一化処理をした後、高温で長時間反応させることでも熱安定化効果が得られる。尚、アルコール溶液などによる均一化処理をしない場合は多量のカルボジイミドを直接混合することによっても熱安定化に対して一定の効果が得られる。
【0029】
本発明で使用する2−ピロリドンの重合体は、直鎖状又は分岐構造を有していても良い。このような分岐構造が導入されることで物性(引張強度)が向上される。分岐構造を有する2−ピロリドンの重合体は、特許第3453600号公報の記載に従い合成することができる。
【0030】
本発明で使用する2−ピロリドンの共重合体も、直鎖状又は分岐構造を有する2−ピロリドンの共重合体であっても良く、好ましくは直鎖状又は分岐構造を有する2−ピロリドンとε−カプロラクタム又はε−カプロラクトンの共重合体である。分岐構造が導入された共重合体とすることで、融点を低下させ、且つ柔軟性を付与することが出来る。分岐構造を有する2−ピロリドンとε−カプロラクタムの共重合体は前述する方法により合成することができ、2−ピロリドンとε−カプロラクトンの共重合体は前述する方法において分岐構造を有する開始剤(多価アルコールのアルコキシドなど)を用いることにより合成することができる。
【0031】
本発明のカルボジイミドにより処理された2−ピロリドンの重合体又は共重合体は、融点と熱分解温度とが分離しているので、溶融成形により成形品を容易に製造することができる。溶融成形とは、樹脂組成物を加熱溶融し成形する方法を意味し、成形方法としては溶融紡糸、射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形等が挙げられる。当該溶融成形により得られる成形品としては、繊維、フィルム、シート、チューブ、容器、棒等が挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0033】
製造例:カルボジイミド化ポリアミド4の調製方法
三分岐構造を持ったPA4 300 mgにN,N'−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC(一級)、和光純薬工業(株)) 3 mgを2,2,2-トリフルオロエタノール(東京化成工業(株)) 30 ml中に添加して強く攪拌して分散させた後、80℃のオイルバスにて1h溶解反応させ、その後フラットシャーレ上で乾燥させてキャストフィルムを作製した。これと同様の方法で、下記の表1に示したキャストフィルムを作製した。尚、本実施例及び比較例で使用したPA4は全て三分岐構造のものである。
【0034】
【表1】

【0035】
試験例1:カルボジイミド化処理したポリアミド4の熱安定性
得られたキャストフィルムを用いて熱重量・示差熱分析(TG-DTA)測定を行った(使用装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)、EXSTAR TG/DTA6200)。図1に微分熱重量曲線(DTG)を示す。DTGから熱分解によるピーク(270℃〜350℃)のピークトップが、未処理のポリアミド4(300℃)(比較例1)に比べて5wt%カルボジイミド処理体(実施例3)では330℃と約30℃高温側にシフトし、ピーク全体も高温側にシフトしており熱安定化されていることがわかる。なお、元のポリアミド(比較例1)では265℃付近に融点に起因する小さなピークが認められるが、5wt%カルボジイミド処理体(実施例3)では255℃に低温側にシフトしており、これは副生物の尿素誘導体に起因することがわかった。
【0036】
試験例2:カルボジイミド量を変化させた場合のポリアミド4の熱安定性
表2に示すDCC量とし且つ熱処理を行った以外は、製造例と同様の方法でキャストフィルムを作製した。得られたキャストフィルムを用いて熱重量・示差熱分析(TG-DTA)測定を行った。図2に微分熱重量曲線(DTG)を示す。熱安定化処理を評価したところ、1〜30wt%の添加量(実施例4〜7)で効果は認められたが、最も効果が顕著だったのは5wt%(実施例5)のときであった。カルボジイミド量が5wt%より増えると、熱安定化効果も発現するが、DTG曲線の熱分解ピークが幅広になり、だらだらと熱分解が進行する。
【0037】
【表2】

【0038】
試験例3:処理温度を変化させた場合のポリアミド4の熱安定性
表3に示すDCC量及びHOBt量(HOBt:349-03622、和光純薬工業(株)とし且つ熱処理を行った以外は、製造例と同様の方法でキャストフィルムを作製した。得られたキャストフィルムを用いて熱重量・示差熱分析(TG-DTA)測定を行った。図3に微分熱重量曲線(DTG)を示す。カルボジイミド処理を80℃、100℃と変えて行ったところ、DTG解析では80℃で処理する方が熱分解のピークトップは高温側に移動し、より安定化するが、100℃で処理するとカルボジイミドでの副生物である255℃付近の尿素誘導体のピークは消滅した。また、80℃での処理でも、処理後に加熱、例えば融点付近までいったん加熱し、急冷すると255℃のピークは消失した。
【0039】
【表3】

【0040】
試験例4:カルボジイミドの種類を変化させた場合のポリアミド4の熱安定性
PA4 300 mgに各種カルボジイミド 15 mgを添加し、2,2,2-トリフルオロエタノール: 100 ml中に添加して強く攪拌して分散させた後、80℃のオイルバスにて1h溶解反応させ、その後フラットシャーレ上で乾燥させてキャストフィルムを作製した。使用したカルボジイミドは、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC、東京化成工業(株))であった。得られたキャストフィルムを用いて熱重量・示差熱分析(TG-DTA)測定を行った。図4に微分熱重量曲線(DTG)を示す。EDACにおいて熱安定化の効果が認められた。
【0041】
試験例5:ポリアミド4系の共重合体の熱安定性
コポリエステルアミド(コポリ(2−ピロリドン/ε−カプロラクトン)、組成比65/35(モル比)、直鎖状) 300 mgにDCC 15 mgを添加し、2,2,2-トリフルオロエタノール: 30 ml中に添加して強く攪拌して分散させた後、80℃のオイルバスにて1h溶解反応させ、その後フラットシャーレ上で乾燥させてキャストフィルムを作製した。得られたキャストフィルムを用いて熱重量・示差熱分析測定を行った(使用装置:MACサイエンス社製DSC3100S、Bruker AXS KK社製TG-DTA2000SA)。図5に熱重量曲線(TG)、微分熱重量曲線(DTG)、DSC曲線を示す。カルボジイミド処理をすることにより未処理に比べて大幅に熱分解温度が上昇し、TG曲線からは約50℃、DTG曲線の熱分解のピーク位置からは約100℃耐熱性が向上した。DSC結果からは融点と熱分解温度が完全に分離されることがわかった。
【0042】
試験例6:無溶媒でカルボジイミドを反応させた場合のポリアミド4及び共重合体の熱安定性
表4に示す樹脂の種類、量、カルボジイミドの種類、量をそのまま混合、又はカルボジイミドのメタノール溶液(メタノール量1.5 ml)として樹脂に含浸後、乾燥させるという均一化処理により混合し、表に示す温度で一定時間反応させた。コポリエステルアミドは試験例5記載のものを用いた。カルボジイミドを反応させて得られた試料を用いて熱重量・示差熱分析(TG-DTA)測定を行った。図6に微分熱重量曲線(DTG)を示す。多量のカルボジイミドの直接混合でも一定の効果が得られるが(図6−1、実施例12、13)、均一混合処理で高温で長時間反応させると5wt%のカルボジイミドの混合でも十分な熱安定化効果が得られた(図6−2、3、実施例16、17)。
【0043】
【表4】

【0044】
試験例7:カルボジイミド化処理したポリアミド4の熱分解生成物
(分析方法)
熱分解により生成する物質はpyrolysis-gas chromatograph/mass spectrometer (Py-GC/MS)を用いて分析した。熱分解装置にはフロンティアラボ製PY-2020Dを用い、GC/MS装置には島津製作所製GC/MS QP-5050Aを用いた。熱分解は60℃からインジェクション温度まで9K/minで昇温させて行った。分離カラムはDB5-MS (0.25 mm i.d.×30 m, df=0.25im)を使用し、インジェクション温度は310-320℃とした。キャリアーガスにはHe(100kPa)を用い、メイクアップガス流量を100 ml/min、スプリット比を100/1とした。MS分析はインターフェース温度を280℃とし、EI法によるイオン化方法を採った。尚、スキャン範囲はm/z=29-500、スキャンインターバルは0.5secで行った。
【0045】
(結果)
【0046】
【表5】

【0047】
PA4_DCC_5wt%は実施例3と同じものを使用した。
【0048】
(考察)
表7に示されているように、PA4にDCCを添加することによって熱分解生成物の2−ピロリドンの選択性が78.34%から89.14%に向上した。DCC由来の成分を除去すれば92.9%の割合となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボジイミドにより処理された2−ピロリドンの重合体又は共重合体。
【請求項2】
前記カルボジイミドがN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミドである、請求項1に記載の重合体又は共重合体。
【請求項3】
直鎖状又は分岐構造を有する、請求項1又は2に記載の重合体又は共重合体。
【請求項4】
ラクタム類又はラクトン類との共重合体である、請求項1〜3のいずれかに記載の共重合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の重合体又は共重合体を含む成形品。
【請求項6】
2−ピロリドンの重合体又は共重合体をカルボジイミドで処理することを特徴とする2−ピロリドンの重合体又は共重合体の熱分解温度を上昇させる方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5−1】
image rotate

【図5−2】
image rotate

【図5−3】
image rotate

【図6−1】
image rotate

【図6−2】
image rotate

【図6−3】
image rotate


【公開番号】特開2013−60486(P2013−60486A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198212(P2011−198212)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】