説明

物性測定装置及び物性測定方法

【課題】薄膜の物性を非破壊かつ高精度で測定することができる物性測定装置及び物性測定方法を提供する。
【解決手段】薄膜の物性を測定する装置において、レーザ発生源と、薄膜を励起する励起手段と、レーザ発生源が発生するレーザの偏光方向を制御する制御手段と、該制御手段により制御されたレーザを受光することによりp偏光およびs偏光のテラヘルツ波を発生し、励起手段により励起にされた薄膜にテラヘルツ波を照射する照射手段と、照射手段によりテラヘルツ波が照射された薄膜で反射したp偏光及びs偏光のテラヘルツ波を検出する検出手段と、検出手段により検出されたp偏光及びs偏光のテラヘルツ波夫々の振幅及び位相スペクトルを測定する測定手段と、測定手段が測定した振幅及び位相スペクトルに基づいて、検出手段により検出されたp偏光及びs偏光のテラヘルツ波の振幅比及び位相差を測定する手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜材料の物性を非破壊で測定する物性測定装置及び物性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子開発の進展に伴い、新規薄膜材料の開発が進んでいる。このような薄膜材料を評価する上で、薄膜材料の電気的特性を評価する必要がある。しかし、多くの薄膜材料は入手が困難であり、かつ高価であるため、薄膜材料を破壊して行われる電気的特性の測定は敬遠されている。そこで、特許文献1には、非破壊で薄膜材料の電気的特性を測定するテラヘルツ分光解析の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−98634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、テラヘルツ分光解析により薄膜材料の電気的特性を高信頼度で測定する場合、測定値のS/N比を高める必要があり、そのためには十分なキャリア濃度が必要である。しかし、P3HT等の有機電界効果トランジスタ(OFET)はキャリア濃度が低いため、その電気的特性を高信頼度で測定することは困難であった。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、薄膜の物性を非破壊かつ高信頼度で測定することができる物性測定装置及び物性測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の物性測定装置は、薄膜の物性を測定する装置において、光パルスを発生する光源と、前記薄膜を励起する励起手段と、前記光源が発生する光パルスの偏光方向を制御する制御手段と、該制御手段により制御された光パルスを受光することによりp偏光及びs偏光のテラヘルツ波を発生し、前記励起手段により励起された薄膜に該テラヘルツ波を照射する照射手段と、該照射手段により前記テラヘルツ波が照射された薄膜で反射したp偏光及びs偏光のテラヘルツ波を検出する検出手段と、該検出手段により検出されたp偏光及びs偏光のテラヘルツ波夫々の振幅及び位相スペクトルを算出する第一算出手段と、該第一算出手段が算出した振幅及び位相スペクトルに基づいて、前記検出手段により検出されたp偏光及びs偏光のテラヘルツ波の振幅比及び位相差を算出する第二算出手段と、該第二算出手段により算出された振幅比及び位相差に基づいて、前記薄膜の複素屈折率スペクトルを算出する第三算出手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の物性測定装置は、前記第三算出手段により算出された複素屈折率スペクトルに基づいて、前記薄膜の複素電気伝導度スペクトルを算出する第四算出手段を更に備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の物性測定装置は、前記第四算出手段により算出された複素電気伝導度スペクトルに基づいて、前記薄膜のキャリア濃度を算出する手段を更に備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の物性測定装置にあっては、前記光源は、フェムト秒光パルスを発生するようにしてあることを特徴とする。
【0010】
本発明の物性測定装置にあっては、前記光源は、レーザ光源であることを特徴とする。
【0011】
本発明の物性測定方法は、薄膜の物性を測定する方法において、p偏光のテラヘルツ波を前記薄膜に照射し、該薄膜で反射したp偏光のテラヘルツ波の特性を求める第一ステップと、s偏光のテラヘルツ波を前記薄膜に照射し、該薄膜で反射したs偏光のテラヘルツ波の特性を求める第二ステップと、前記第一及び第二ステップにより求められたp偏光及びs偏光のテラへツル波の特性に基づいて、前記薄膜の物性を算出する第三ステップとを含み、前記第一ステップは、光源が発生する光パルスを第一の偏光方向に設定する第一設定ステップと、該第一設定ステップにより設定された第一の偏光方向の光パルスを受光することによりp偏光のテラヘルツ波を発生し、前記薄膜に照射する照射ステップと、前記薄膜を励起する励起ステップと、該励起ステップにより励起された薄膜で反射したp偏光のテラヘルツ波を検出する第一検出ステップと、該第一検出ステップにより検出されたp偏光のテラヘルツ波の振幅及び位相スペクトルを算出する第一算出ステップとを含み、前記第二ステップは、前記光源が発生する光パルスを第二の偏光方向に設定する第二設定ステップと、該第二設定ステップにより設定された第二の偏光方向の光パルスを受光することによりs偏光のテラヘルツ波を発生し、前記薄膜に照射する照射ステップと、前記励起ステップにより励起された薄膜で反射したs偏光のテラヘルツ波を検出する第二検出ステップと、該第二検出ステップにより検出されたs偏光のテラヘルツ波の振幅及び位相スペクトルを算出する第二算出ステップとを含み、前記第三ステップは、前記第一及び第二算出ステップにより算出したp偏光及びs偏光のテラヘルツ波の振幅及び位相スペクトルに基づいて、前記第一及び第二検出ステップにより検出されたp偏光及びs偏光のテラヘルツ波の振幅比及び位相差を算出する第三算出ステップと、該第三算出ステップにより算出された振幅比及び位相差に基づいて、前記薄膜の複素屈折率スペクトルを算出する第四算出ステップとを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の物性測定方法は、前記第四算出ステップにより算出された複素屈折率スペクトルに基づいて、前記薄膜の複素電気伝導度スペクトルを算出する第五算出ステップを更に含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の物性測定方法は、前記第五算出ステップにより算出された複素電気伝導度スペクトルに基づいて、前記薄膜のキャリア濃度を算出するステップを更に含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基板表面に形成した薄膜の電気的特性を非破壊かつ高信頼度で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態に係る物性測定装置のブロック図である。
【図2】実施の形態に係るテラヘルツ分光装置のブロック図である。
【図3】基板内で多重反射したテラヘルツ波を含む電場強度の時間波形、フーリエ変換スペクトル及び反射率を示す説明図である。
【図4】基板内で多重反射したテラヘルツ波を削除した場合の電場強度の時間波形、フーリエ変換スペクトル及び反射率を示す説明図である。
【図5】実施の形態における分光エリプソメータのブロック図である。
【図6】実施の形態におけるコンピュータのブロック図である。
【図7】反射p偏光の時間領域の電場強度を求める手順を示すフローチャートである。
【図8】反射s偏光の時間領域の電場強度を求める手順を示すフローチャートである。
【図9】基板内の多重反射を除外した周波数領域の電場強度を求める手順を示すフローチャートである。
【図10】薄膜試料の電気的特性値を求める手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態を示す図面を参照して具体的に説明する。
実施の形態では、テラヘルツ時間領域分光法を用いて、薄膜試料を反射したテラヘルツ波の周波数領域のスペクトルを得る。時間領域分光法は、電磁波の電場強度の時間波形を時系列フーリエ変換することにより、電磁波の周波数領域のスペクトル及び位相差スペクトルを得る分光法である。
【0017】
<物性測定装置>
図1は、実施の形態に係る物性測定装置1のブロック図である。
物性測定装置1は、テラヘルツ分光装置2、膜厚測定装置3及びコンピュータ4を含む。なお、物性測定装置1とは別に膜厚測定装置3を設けてもよい。また、コンピュータ4は、テラヘルツ分光装置2の内部に搭載されてもよい。
テラヘルツ分光装置2及び膜厚測定装置3は、コンピュータ4と電気的に接続されおり、コンピュータ4はテラヘルツ分光器2及び厚膜測定装置3との間で測定データ及び計算データの送受信を行う。
【0018】
図2は、実施の形態に係るテラヘルツ分光装置2のブロック図である。
テラヘルツ分光装置2は、レーザ21、ビームスプリッタ22、テラヘルツ波発生器23、試料保持部24、テラヘルツ波検出器25、時間遅延機構26及びポッケルスセル等の偏光回転器29を含む。
レーザ21は、フェムト秒光パルスをビームスプリッタ22に射出する。また、レーザ21は、試料保持部24に取り付けられた薄膜試料Hに対してもフェムト秒光パルスを射出する。薄膜試料Hにフェムト秒光パルスが照射されると、薄膜試料H内にキャリアが励起されて薄膜試料の複素屈折率が変化するため、テラヘルツ波の反射率がキャリア濃度に応じて変化する。
ビームスプリッタ22は、レーザ21から射出されたレーザパルスをポンプ光及びプローブ光の2つに分ける。
【0019】
偏光回転器29は、ポンプ光を入射し、その偏光方向を制御する。テラヘルツ波発生器23は、偏光回転器29からポンプ光が照射されると、テラヘルツ波を放射する。テラヘルツ波発生器23が放射するテラヘルツ波の周波数は、例えば0.1〜5THz(テラヘルツ)である。テラヘルツ波発生器23は、例えば非線形光学結晶(テルル化亜鉛、LiNb03等)である。テラヘルツ波発生器23が非線形光学結晶である場合、テラヘルツ波発生器23が発生するテラヘルツ波の偏光方向はポンプ光の偏光方向に依存する。したがって、偏光回転器29によりポンプ光の偏光方向を回転させることによりテラヘルツ波発生器23から放射されるテラヘルツ波の偏光方向が変わり、テラヘルツ波発生器23はp偏光及びs偏光の2種類のテラヘルツ波を放射する。
【0020】
テラヘルツ波発生器23から放射されたp偏光又はs偏光のテラヘルツ波は、ミラー27により反射され、試料保持部24に取り付けられた基板Hの表面に形成された薄膜試料Hに照射される。
【0021】
プローブ光は、時間遅延機構26に入射される。プローブ光は、薄膜試料Hを反射した反射p偏光及び反射s偏光のテラヘルツ波の電場強度の時間波形を測定するため、ポンプ光に対して時間遅延を有する参照波である。
【0022】
薄膜試料Hを反射した反射p偏光及び反射s偏光のテラヘルツ波は、ミラー28により反射されてテラヘルツ波検出器25に照射される。テラヘルツ波検出器25は、例えば半導体素子、非線形光学結晶等である。
【0023】
時間遅延機構26は、ビームスプリッタ22によって分けられたプローブ光の光路長を変化させ、ポンプ光に対してプローブ光に時間遅延を与える。時間遅延機構26には、プローブ光を反射して折り返す可動のミラーが設けられている。このミラーを少しずつ反射方向に対して後方へ移動することにより、プローブ光の光路長は変化する。ポンプ光の光路長は一定であるため、時間遅延機構26により時間遅延が与えられたプローブ光は、ポンプ光よりも遅れてテラヘルツ波検出器25に達する。このように時間遅延機構26によりプローブ光に任意の時間遅延を与えることにより、反射p偏光及び反射s偏光のテラヘルツ波の電場強度の時間波形が得られる。
【0024】
薄膜試料Hで反射した反射p偏光及び反射s偏光のテラヘルツ波がテラヘルツ波検出器25に入射すると、入射した反射p偏光及び反射s偏光のテラヘルツ波の電場強度に比例した電流がテラヘルツ波検出器25に流れる。この電流値は信号に変換され、テラヘルツ波検出器25からコンピュータ4に送信される。
【0025】
本実施の形態では、テラヘルツ波発生器23がp偏光及びs偏光のテラヘルツ波を薄膜試料Hに照射するタイミングに合わせて、レーザ21はフェムト秒光パルスを薄膜試料Hに照射する。これにより、薄膜試料Hは励起してキャリア濃度が高められた状態になるため、キャリア濃度が低い薄膜試料であっても高信頼度で電気的特性を解析できる。キャリア濃度を高めるためにはフェムト秒光パルスを必要に応じて波長変換して用いるのがよい。
【0026】
<基板K>
基板Kは、透過波の測定誤差を低減するため、以下の工夫が施されている。
基板Kは石英結晶である。基板Kに石英結晶を用いることにより、広い周波数範囲で高精度の透過光の測定が可能になる。テラヘルツ波発生器23が放射するテラヘルツ波は、中心周波数(0.3〜1THz)付近では強度が大きく、透過率の低い薄膜試料Hでも測定できる。しかし、50GHz(ギガヘルツ)又は5THz付近では強度が小さく、透過率の低い薄膜試料Hの測定が困難になる。そこで、基板Kに、例えば透過率の低い石英ガラスではなく、透過率の高い石英結晶を用いることにより、測定可能な透過波の周波数範囲を広げることができる。透過波の周波数範囲が広いほど、測定された透過波に基づいて実行される薄膜試料Hの電気的特性の解析の信頼度は高まる。
【0027】
基板Kの表面及び裏面は、0.001度以下、又は厚み1mmに対して誤差1μm以下に該当する平行度を有している。
さらに、基板Kの厚さは、1.0mmと厚くしてある。このことは、基板K内で多重反射したテラヘルツ波の時間波形の削除と関係する。そこで、以下に基板K内でテラヘルツ波が多重反射する場合、多重反射が解析に及ぼす影響について説明する。
【0028】
基板K内での多重反射の結果、遅れてきたテラヘルツ波の時間波形をフーリエ変換して周波数領域のスペクトルを得る場合、激しい干渉縞が現れ、データ解析が困難になる。そこで、基板K内で多重反射した反射波が時間波形に現れる時刻以降の波形を削除し、反射波の時間波形が現れない時間幅で、テラヘルツ波の時間波形をフーリエ変換することにより周波数領域のスペクトルを得る。
【0029】
図3は、基板K内で多重反射したテラヘルツ波を含む電場強度の時間波形、フーリエ変換スペクトル及び反射率を示す説明図である。図3Aは、基板K内で多重反射したテラヘルツ波を含む電場強度の時間波形を示す説明図である。縦軸はテラヘルツ波振幅であり、横軸は時間(単位はps:ピコ秒)である。電場強度はテラヘルツ波振幅に比例する。図3Bは、図3Aの時間波形をフーリエ変換して得たフーリエ変換スペクトルを示す説明図である。縦軸はテラヘルツ波振幅であり、横軸は周波数(単位はテラヘルツ)である。図3Cは、図3Bのフーリエ変換スペクトルから得た薄膜試料Hの反射率を示す説明図である。縦軸は反射率であり、横軸は周波数(単位はテラヘルツ)である。
【0030】
図4は、基板K内で多重反射したテラヘルツ波を削除した場合の電場強度の時間波形、フーリエ変換スペクトル及び反射率を示す説明図である。図4Aは、図3Aから基板K内で多重反射したテラヘルツ波を削除した電場強度の時間波形を示す説明図である。縦軸はテラヘルツ波振幅であり、横軸は時間(単位はps)である。図4Bは、図4Aの時間波形をフーリエ変換して得たフーリエ変換スペクトルを示す説明図である。縦軸はテラヘルツ波振幅であり、横軸は周波数(単位はテラヘルツ)である。太線は薄膜試料Hを反射した反射波のフーリエ変換スペクトルを示している。図4Cは、図4Bのフーリエ変換スペクトルから得た薄膜試料Hの反射率を示す説明図である。縦軸は反射率であり、横軸は周波数(単位はテラヘルツ)である。
【0031】
図3において、多重反射に起因する電場強度の時間波形を削除しないでフーリエ変換を行った場合、フーリエ変換スペクトルに激しい干渉縞が現れ、このフーリエ変換スペクトルから求められる薄膜試料Hの反射率の精度は低い。一方、図4の場合、25ps以降に現れる多重反射に起因する電場強度の時間波形を削除している。そのため、フーリエ変換スペクトルに干渉縞は現れず、このフーリエ変換スペクトルから求められる薄膜試料Hの反射率の精度は、多重反射に起因する電場強度の時間波形を削除しない場合よりも高い。
【0032】
最初の多重反射波が最初のメインパルスからΔt後に現れる場合、Δtは式(1)から求められる。
Δt=2nd/c ・・・(1)
ただし、nは基板Kのテラヘルツ帯の屈折率、dは基板Kの厚さ、cは光速度である。
【0033】
テラヘルツ波の吸収をおさえ、テラヘルツ波の透過率を高めるためには、基板Kは薄いほどよい。例えば、基板Kの厚さを0.2mm程度にした場合、薄膜試料Hの持ち運びに支障が出ない程度の機械的な強度を有し、テラヘルツ波の反射率を高めることができる。しかし、式(1)より、基板Kの厚さdが薄いほど、Δtは短くなり、多重反射波と最初のメインパルスとの分離は困難になる。
【0034】
図3の例では、13.5psのメインパルスはゆっくりした振動成分が23ps付近まで続いており、多重反射波とメインパルスとを分離するためには、10ps以上のΔtが必要である。例えば、基板Kの厚さdを1.0mmとした場合、石英結晶のテラヘルツ帯の屈折率nはn=2.1であるから、Δt=14.0psとなる。Δtが14psであれば、メインパルスと多重反射波との分離は十分可能である。しかし、基板Kの厚さを1.0mmより厚くした場合、反射率が低くなり、反射率のS/N比が低下する。
【0035】
実施の形態では、石英結晶基板Kの厚さは、メインパルスと多重反射波との分離の自由度を上げるために、余裕を持たせて1.0mmという値に設定されている。
なお、基板Kの厚さは、例えばΔt=10psに対応する0.7mmであってもよい。
ちなみに、図3の例でも、メインパルスが現れる13.5psに対して、基板K内を1回反射した反射波が14ps後の約27.5ps付近に最初の多重反射波として現れている。
【0036】
実施の形態では、時間領域で反射波形を測定する。取得した時間波形データには、基板の厚みに応じた時間間隔で多重反射波が現れるため、解析に用いる時間波形データの時間幅、すなわちメインパルスに加えてどこまでの多重反射パルスを含めてフーリエ変換するかを選択することにより、反射回数を制御したデータによる解析が可能になる。
【0037】
<分光エリプソメータ>
実施の形態における膜厚測定装置3は、例えば分光エリプソメータ30である。分光エリプソメータ30とは、薄膜試料Hに直線偏光波を照射し、照射光の波長を変えながら、p偏光とs偏光との反射振幅比角Ψ及び位相差Δを測定する装置である。
【0038】
図5は、実施の形態における分光エリプソメータ30のブロック図である。
Xeランプ31は、多数の波長成分を含む、いわゆる白色光源である。このXeランプ31の発光は光ファイバ32を介して偏光子33に導かれる。偏光子33により偏光された光は、測定対象である薄膜試料Hの表面に特定の入射角で入射する。薄膜試料Hからの反射は、光弾性変調器(PEM)34を介して検光子35に導かれる。なお、PEM34の位置は偏光子33の後ろか検光子35の前どちらでも可能である。
【0039】
光弾性変調器(PEM)34により、反射光は50kHzの周波数に位相変調されて、直線から楕円偏光までが作られる。そのため、数ミリ秒の分解能でΨ、Δが決定される。検光子35の出力は光ファイバ36を介して分光器37に入力される。分光器37は、波長ごとに測定を行い、測定結果をアナログ信号としてデータ取込機38へ伝送する。データ取込機38は、アナログ信号をデジタル信号に変換してコンピュータ4に送信する。
【0040】
分光エリプソメトリでは、予め、薄膜試料Hの厚さ、光学定数等を解析変数とする光学モデルを構築しておき、分光エリプソメータに記録しておく。分光エリプソメータは、光学モデルのシミュレーションを行い、Ψ及びΔの参照データを生成する。分光エリプソメータは、測定データ及び参照データをフィッティングし、測定データに最も合致した参照データを与える光学モデルの解析変数を測定結果として出力する。測定データ及び参照データのフィッティングは、単純な差の比較でもよいし、最小二乗法による比較でもよい。また、フィッティング誤差を最小にするために、線形回帰解析を用いてもよい。
【0041】
分光エリプソメータ30に、上記のフィッティングを実行するコンピュータを含めてもよいが、実施の形態では、コンピュータ4が、受信した出力データに基づいて、上記のフィッティングを実行する。
【0042】
<コンピュータ>
図6は、実施の形態におけるコンピュータ4のブロック図である。コンピュータ4は、制御部41、ROM(Read Only Memory)42、RAM(Random Access Memory)43、通信部44、操作部45、表示部46及び外部インタフェース47を含む。
ROM42の内部にはプログラムが記録されている。制御部41は、ROM42からプログラムを読み込み、各種処理を実行する。RAM43は、作業用の変数、測定データ等を一時的に記録する。例えば、通信部44は、膜厚測定装置3から送信される膜厚に係るΨ、Δの信号を受信する。制御部41は、測定データ及び参照データのフィッティングを実行し、薄膜試料Hの厚さを求める。制御部41は、求めた薄膜試料Hの厚さをRAM43に記録する。
【0043】
操作部45は、キーボード、マウス等の入力機器を含み、ユーザは操作部45及び通信部44を介してコンピュータ4を操作する。また、ユーザは操作部45を介してテラヘルツ分光装置2及び膜厚測定装置3を操作することができる。表示部46は、通信部44及び操作部45を介して入力されたデータ、制御部41が実行した計算結果等を表示する。外部インタフェース47は、図示しない外部の記録媒体と情報のやり取りをするインタフェースである。また、外部インタフェース47はインターネットに接続することができるインタフェースでもある。
【0044】
<物性測定装置の動作>
次に、実施の形態に係る物性測定装置1の動作について説明する。
ユーザは、基板Kのテラヘルツ帯の複素屈折率、基板Kの厚さ、真空の誘電率、薄膜試料Hについてのフリーキャリア以外の誘電率及び素電荷量を、操作部45を介してRAM43に記録する。あるいは、これらの数値は予めROM42に記録しておいてもよい。
【0045】
ユーザは分光エリプソメータ30に薄膜試料Hを設置し、コンピュータ4の操作部45を介して偏光子33から薄膜試料Hに偏光を入射する。制御部41は、通信部44を介してデータ取込機38からΨ、Δの測定データを取得する。制御部41は、測定データ及び参照データのフィッティングを実行し、薄膜試料Hの厚さを求める。制御部41は、求めた薄膜試料Hの厚さをコンピュータ4のRAM43に記録する。
【0046】
なお、ユーザは操作部45から手入力でRAM43に薄膜試料Hの厚さを記録する形態であってもよい。その場合、分光エリプソメータ30にフィッティングを実行するコンピュータを組み込む。ユーザは、分光エリプソメータ30と一体になったコンピュータの表示部から薄膜試料Hの厚さを読み取り、読み取った薄膜試料Hの厚さを、操作部45を介して手入力でRAM43に記録する。
【0047】
ユーザは薄膜試料Hを基板Kの表面に形成する。コンピュータ4の制御部41は、レーザ21にフェムト秒光パルスをビームスプリッタ22に向けて射出させる。レーザパルスは、ビームスプリッタ22によりポンプ光とプローブ光とに分けられる。ビームスプリッタ22により分けられたポンプ光は偏光回転器29により偏光方向が制御され、テラヘルツ波発生器23に照射され、テラヘルツ波発生器23はp偏光又はs偏光を放射する。
【0048】
まず、ユーザはテラヘルツ波発生器23から放射されるテラヘルツ波の偏光方向がp偏光になるように偏光回転器29を調整する。
テラヘルツ波発生器23は、p偏光を放射する。テラヘルツ波発生器23が放射したp偏光は、ミラー27により反射され、基板Kの表面に形成された薄膜試料Hに数秒照射される。薄膜試料Hで反射した反射p偏光は、ミラー28により反射されてテラヘルツ波検出器25で検出される。薄膜試料Hで反射した反射p偏光がテラヘルツ波検出器25に入射することにより、入射した反射p偏光の電場強度に比例した電流がテラヘルツ波検出器25に流れる。一方、プローブ光は、時間遅延機構26により時間遅延が与えられ、テラヘルツ波検出器25で検出される。
【0049】
制御部41は、時間遅延機構26の反射ミラーを所定量だけ反射方向と反対の後方に移動し、所定の時間遅延を与えたプローブ光を用いて上記の処理を繰り返す。これにより、薄膜試料Hから反射する反射p偏光の電場強度の時間変化がRAM43に記録される。このように、テラヘルツ波検出器25は、反射p偏光の電場強度を示す信号をコンピュータ4へ送信する。制御部41は、通信部44を介してこの信号を受信し、この信号値を反射p偏光の電場強度時間波形としてRAM43に記録する。
【0050】
次いで、ユーザはテラヘルツ波発生器23から放射されるテラヘルツ波の偏光方向がs偏光になるように偏光回転器29を調整する。
テラへツル波発生器23は、s偏光を放射する。テラヘルツ波発生器23が放射したs偏光は、ミラー27により反射され、基板Kの表面に形成された薄膜試料Hに数秒照射される。薄膜試料Hで反射したs偏光は、ミラー28により反射されてテラヘルツ波検出器25で検出される。薄膜試料Hで反射した反射s偏光がテラヘルツ波検出器25に入射することにより、入射した反射s偏光の電場強度に比例した電流がテラヘルツ波検出器25に流れる。一方、プローブ光は、時間遅延機構26により時間遅延が与えられ、テラヘルツ波検出器25で検出される。
【0051】
制御部41は、時間遅延機構26の反射ミラーを所定量だけ反射方向と反対の後方に移動し、所定の時間遅延を与えたプローブ光を用いて上記の処理を繰り返す。これにより、薄膜試料Hから反射される反射s偏光の電場強度の時間変化がRAM43に記録される。このように、テラヘルツ波検出器25は、反射s偏光の電場強度を示す信号をコンピュータ4へ送信する。制御部41は、通信部44を介してこの信号を受信し、この信号値を反射s偏光の電場強度時間波形としてRAM43に記録する。
【0052】
図7は、反射p偏光の時間領域の電場強度を求める手順を示すフローチャートであり、図8は、反射s偏光の時間領域の電場強度を求める手順を示すフローチャートである。
先ず、反射p偏光の時間領域の電場強度を求め、次いで、反射s偏光の時間領域の電場強度を求める。
【0053】
レーザ21は、フェムト秒光パルスを薄膜試料Hに射出する(ステップS101)。これにより、薄膜試料Hは励起状態となり、薄膜試料Hのキャリア濃度が高まる。レーザ21がレーザパルスを薄膜試料Hに射出するタイミングに合わせて、テラヘルツ波発生器23は、p偏光を薄膜試料Hに照射する(ステップS102)。制御部41は、薄膜試料Hを反射した反射p偏光の電場強度を示す信号をテラヘルツ波検出器25から受け取り、RAM43に記録する(ステップS103)。
【0054】
制御部41は、反射p偏光の電場強度の測定が所定回数測定したか否か判断する(ステップS104)。なお、ステップS104における所定回数は、例えば50回である。制御部41は、所定回数測定していないと判断した場合(ステップS104:NO)、ステップS103に処理を戻す。制御部41は、所定回数測定したと判断した場合(ステップS104:YES)、反射p偏光の電場強度を夫々積算し、積算した値をRAM43に記録する(ステップS105)。
【0055】
制御部41は、時間遅延機構26の反射ミラーが測定終了位置にあるか否か判断する(ステップS106)。制御部41は、時間遅延機構26の反射ミラーが測定終了位置にないと判断した場合(ステップS106:NO)、時間遅延機構26の反射ミラーを所定量後方へ移動し(ステップS107)、ステップS102に処理を戻す。制御部41は、時間遅延機構26の反射ミラーが測定終了位置にあると判断した場合(ステップS106:YES)、s偏光による処理に移行する。
【0056】
レーザ21がレーザパルスを薄膜試料Hに射出するタイミングに合わせて、テラヘルツ波発生器23は、s偏光を薄膜試料Hに照射する(ステップS108)。制御部41は、薄膜試料Hを反射した反射s偏光の電場強度を示す信号をテラヘルツ波検出器25から受け取り、RAM43に記録する(ステップS109)。
【0057】
制御部41は、反射s偏光の電場強度の測定が所定回数測定したか否か判断する(ステップS110)。なお、ステップS110における所定回数は、例えば50回である。制御部41は、所定回数測定していないと判断した場合(ステップS110:NO)、ステップS109に処理を戻す。制御部41は、所定回数測定したと判断した場合(ステップS110:YES)、反射s偏光の電場強度を夫々積算し、積算した値をRAM43に記録する(ステップS111)。
【0058】
制御部41は、時間遅延機構26の反射ミラーが測定終了位置にあるか否か判断する(ステップS112)。制御部41は、時間遅延機構26の反射ミラーが測定終了位置にないと判断した場合(ステップS112:NO)、時間遅延機構26の反射ミラーを所定量後方へ移動し(ステップS113)、ステップS108に処理を戻す。制御部41は、時間遅延機構26の反射ミラーが測定終了位置にあると判断した場合(ステップS112:YES)、処理を終了する。
【0059】
制御部41は、反射p偏光の時間領域の電場強度をRAM43から読み込み、読み込んだ電場強度をフーリエ変換により周波数領域の電場強度に変換し、RAM43に記録する。すなわち、制御部41は、反射p偏光の時間領域の電場強度を反射p偏光の振幅スペクトル及び反射p偏光の位相スペクトルに変換し、RAM43に記録する。また、制御部41は、反射s偏光の時間領域の電場強度をRAM43から読み込み、読み込んだ電場強度をフーリエ変換により周波数領域の電場強度に変換し、RAM43に記録する。すなわち、制御部41は、反射s偏光の時間領域の電場強度を反射s偏光の振幅スペクトル及び反射s偏光の位相スペクトルに変換し、RAM43に記録する。
【0060】
ここで制御部41は、フーリエ変換を実行するにあたり、最初のメインパルスから最初の多重反射波が現れる時刻Δtを式(1)より求める。そのため、制御部41は、基板Kのテラヘルツ帯の複素屈折率の実部及び基板Kの厚さをRAM43から読み込み、Δtを算出する。制御部41は、基板K及び薄膜Hにおける電場強度の時間波形をRAM43から読み込む。制御部41は、時間領域の各電場強度をΔtまでの時間幅でフーリエ変換により周波数領域の電場強度に変換する。制御部41は、基板K及び薄膜Hにおける周波数領域の電場強度をRAM43に記録する。
【0061】
図9は、基板K内の多重反射を除外した周波数領域の電場強度を求める手順を示すフローチャートである。
制御部41は、基板Kの屈折率と基板Kの厚さとをRAM43から読み込む(ステップS201)。制御部41は、基板Kの屈折率及び厚さから、メインパルスの後に多重反射波が最初に現れる時間を算出する(ステップS202)。制御部41は、薄膜試料Hにおける電場強度の時間波形をRAM43から読み込む(ステップS203)。制御部41は、ステップS202で求めた時間までの時間幅で、基板K及び薄膜試料Hを透過した透過波の電場強度の時間波形をフーリエ変換する(ステップS204)。制御部41は、フーリエ変換して得られた基板K及び薄膜Hを透過した透過波の周波数領域の電場強度をRAM43に記録し(ステップS205)、処理を終了する。
【0062】
次に、反射p偏光の振幅スペクトル及び位相スペクトル並びに反射s偏光の振幅スペクトル及び位相スペクトルに基づいて、反射p偏光及び反射s偏光の反射振幅比角Ψ及び位相差Δを求める。
【0063】
制御部41は、RAM43から反射p偏光の振幅スペクトルと反射s偏光の振幅スペクトルとを読み込み、それらの比(反射s偏光/反射p偏光)からΨを求める。ここで、|Ψ|2 はエリプソメトリ信号スペクトルである。また、制御部41は、RAM43から反射p偏光の位相スペクトルと反射s偏光の位相スペクトルとを読み込み、それらの比(反射s偏光/反射p偏光)からΔを求める。制御部41は、Ψexp(−iΔ)の測定値と試料の光学モデルから得られた計算値との差の絶対値を誤差関数とし、誤差関数を最小にする複素屈折率スペクトルN=n−ikをフィッティングにより求める。この際、RAM43に記録されている薄膜試料Hの膜厚を利用する。フィッティングを用いることにより、Ψ及びΔの値から励起状態の薄膜試料Hの複素屈折率スペクトルNS を求める。
【0064】
尚、偏光回転器29の回転速度を速めて、テラヘルツ波の偏光方向を高速に変調し、その周波数に同期した信号をロックイン増幅器(図示せず)によって検出することによって、エリプソメトリ信号スペクトルに対する外部雑音を除去することができ、キャリアに対する感度を向上させることができる。また、通常の透過及び反射測定の場合、試料の測定とリファレンス測定が必要であり、試料の移動に伴い位相シフトを精密に測定することが困難である。これに対して、反射p偏光及び反射s偏光を用いた本手法によれば、試料の移動を伴うリファレンス測定が不要となるため、そのような問題は生じない。
【0065】
次いで、制御部41は、以下の手順により、複素屈折率スペクトルに基づいて複素電気伝導度スペクトルを計算する。
制御部41は、RAM43から薄膜試料Hの複素屈折率スペクトルを読み込む。制御部41は、RAM43から読み込んだ薄膜試料Hの複素屈折率スペクトルを用いて、薄膜試料Hの複素誘電率及び薄膜試料Hの複素電気伝導度スペクトルを算出する。ここで制御部41は、複素誘電率と複素屈折率スペクトルとの関係を示す式(2)〜式(4)及び複素誘電率と複素電気伝導度スペクトルとの関係を示す式(5)〜式(7)より、薄膜試料Hの複素誘電率及び薄膜試料Hの複素電気伝導度スペクトルを算出する。
【0066】
ε=N2 ・・・(2)
ε1 =n2 −κ2 ・・・(3)
ε2 =2nκ ・・・(4)
ただし、εは複素誘電率であり、ε=ε 1−iε 2である。
【0067】
【数1】

【0068】
ただし、ε0 は真空の誘電率、εはフリーキャリア以外の誘電率である。また、σは複素電気伝導度スペクトルであり、σ=σ1 −iσ2 である。
【0069】
制御部41は、真空の誘電率及びフリーキャリア以外の誘電率をRAM43から読み込み、読み込んだ真空の誘電率及びフリーキャリア以外の誘電率を上記の計算に使用する。
制御部41は、算出した薄膜試料Hの複素誘電率及び薄膜試料Hの複素電気伝導度スペクトルをRAM43に記録する。
【0070】
制御部41は、薄膜試料Hのキャリア移動度を決定する。その決定方法は、測定から求めた薄膜試料Hの複素電気伝導度スペクトルと、電気伝導モデルにより計算した複素電気伝導度スペクトルとの差が最小となるように、薄膜試料Hのキャリア移動度を算出するパラメータを決定する。ここで使用可能な電気伝導モデルには、ドルーデモデル、拡張ドルーデモデル、局在化ドルーデモデル及びドルーデ−スミスモデルが含まれる。
【0071】
古典的電子ガスモデルであるドルーデモデルは、シリコン、GaAs、一般的な半導体材料等に有効である。拡張ドルーデモデルは、電子相関が強い材料(高温超電導体など)に有効である。キャリアの局在化を考慮した局在化ドルーデモデルは、有機導電性材料等に有効である。ドルーデ−スミスモデルは、シリコンナノクリスタル等に有効である。以下では、ドルーデモデルを用いてキャリア移動度を決定する例について説明する。
【0072】
ドルーデモデルにより与えられる複素電気伝導度スペクトルσ(ω)は、式(8)で示される。
【0073】
【数2】

【0074】
ただし、Nc はキャリア濃度、eは素電荷量、τはキャリアの散乱時間、m* は有効質量、Γ(=1/τ)は散乱確率である。また、ω p2 はプラズマ周波数であり、式(9)で示される。
ここで、キャリア濃度Nc は、薄膜試料の吸収係数及び励起レーザであるフェムト秒光パルスの波長から推定する。
【0075】
【数3】

【0076】
式(10)は、測定から求めた薄膜試料Hの複素電気伝導度スペクトルσ(ω)と、式(8)により与えられる薄膜試料Hの複素電気伝導度スペクトルとの差からなる誤差関数G(ω)である。
【0077】
【数4】

【0078】
制御部41は、上記で算出した複素電気伝導度スペクトルをRAM43から読み出し、式(9)のσ(ω)に代入する。また制御部41は、真空の誘電率、素電荷量をRAM43から読み込み、式(10)に代入する。
【0079】
制御部41は、薄膜試料Hのキャリア濃度と、有効質量と、キャリアの散乱時間又は散乱確率とを変更しながら誤差関数G(ω)を計算し、誤差関数G(ω)の最小値を与える薄膜試料Hのキャリア濃度と、有効質量と、キャリアの散乱時間又は散乱確率とを決定する。
【0080】
なお、誤差関数G(ω)の最小値及び上記パラメータを決定するにあたり、線形計画法のシンプレックス法等により計算の高速化を図ってもよい。また、誤差関数G(ω)の計算値が所定値より小さくなった場合、又は誤差関数G(ω)の計算回数が所定回数を超えた場合、計算を終了することにより、計算の高速化を図ってもよい。
【0081】
以上は、電気伝導モデルにドルーデモデルを適用した場合のパラメータの決定である。制御部41は、同様のパラメータ決定を拡張ドルーデモデル、局在化ドルーデモデル及びドルーデ−スミスモデルについても実行し、誤差関数G(ω)が最小となる電気伝導モデル及びパラメータを決定する。
尚、薄膜が有機半導体の場合には、局在化ドルーデモデルだけを適用してもよい。
制御部41は、決定した電気伝導モデルと、薄膜試料Hのキャリア濃度と、有効質量と、キャリアの散乱時間又は散乱確率とをRAM43に記録する。
【0082】
制御部41は、RAM43から素電荷量と、有効質量と、キャリアの散乱時間又は散乱確率とを読み込み、式(11)からキャリア移動度を算出し、算出したキャリア移動度をRAM43に記録する。
【0083】
【数5】

【0084】
ただし、μはキャリア移動度である。
【0085】
図10は、薄膜試料Hの電気的特性値を求める手順を示すフローチャートである。
制御部41は、薄膜試料Hの複素屈折率スペクトルをRAM43から読み込む(ステップS301)。制御部41は、真空の誘電率及びフリーキャリア以外の誘電率をRAM43から読み込む(ステップS302)。制御部41は、読み込んだ薄膜試料Hの複素屈折率スペクトル、真空の誘電率及びフリーキャリア以外の誘電率に基づいて、薄膜試料Hの複素誘電率及び複素電気伝導度スペクトルを算出する(ステップS303)。
【0086】
制御部41は、未選択の電気伝導モデルをドルーデモデル、拡張ドルーデモデル、局在化ドルーデモデル及びドルーデ−スミスモデルの中から1つ選択する(ステップS304)。制御部41は、算出した複素電気伝導度スペクトルを、テラヘルツ波から測定した複素電気伝導度スペクトルと選択した電気伝導モデルから計算される複素電気伝導度スペクトルとの差からなる誤差関数G(ω)に代入する(ステップS305)。制御部41は、誤差関数G(ω)に代入するパラメータをRAM43から読み込む(ステップS306)。制御部41は、誤差関数G(ω)に読み込んだパラメータを代入する(ステップS307)。制御部41は、読み込んだパラメータ以外のパラメータを変更しながら誤差関数G(ω)を計算する(ステップS308)。
【0087】
制御部41は、全ての電気伝導モデルについて誤差関数G(ω)を計算したか否か判断する(ステップS309)。制御部41は、全ての電気伝導モデルについて誤差関数G(ω)を計算していないと判断した場合(ステップS309:NO)、別の電気伝導モデルについて誤差関数G(ω)を計算するため、ステップS304に処理を戻す。制御部41は、全ての電気伝導モデルについて誤差関数G(ω)を計算したと判断した場合(ステップS309:YES)、誤差関数G(ω)が最小となる電気伝導モデル及びそのパラメータを決定する(ステップS310)。制御部41は、決定した電気伝導モデルのパラメータに基づいて薄膜試料Hのキャリア移動度を算出し(ステップS311)、処理を終了する。
【0088】
尚、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0089】
1 物性測定装置
2 テラヘルツ分光装置
3 膜厚測定装置
4 コンピュータ
21 レーザ
22 ビームスプリッタ
23 テラヘルツ波発生器
24 試料保持部
25 テラヘルツ波検出器
26 時間遅延機構
27 ミラー
28 ミラー
29 偏光回転器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜の物性を測定する装置において、
光パルスを発生する光源と、
前記薄膜を励起する励起手段と、
前記光源が発生する光パルスの偏光方向を制御する制御手段と、
該制御手段により制御された光パルスを受光することによりp偏光及びs偏光のテラヘルツ波を発生し、前記励起手段により励起された薄膜に該テラヘルツ波を照射する照射手段と、
該照射手段により前記テラヘルツ波が照射された薄膜で反射したp偏光及びs偏光のテラヘルツ波を検出する検出手段と、
該検出手段により検出されたp偏光及びs偏光のテラヘルツ波夫々の振幅及び位相スペクトルを算出する第一算出手段と、
該第一算出手段が算出した振幅及び位相スペクトルに基づいて、前記検出手段により検出されたp偏光及びs偏光のテラヘルツ波の振幅比及び位相差を算出する第二算出手段と、
該第二算出手段により算出された振幅比及び位相差に基づいて、前記薄膜の複素屈折率スペクトルを算出する第三算出手段と
を備えることを特徴とする物性測定装置。
【請求項2】
前記第三算出手段により算出された複素屈折率スペクトルに基づいて、前記薄膜の複素電気伝導度スペクトルを算出する第四算出手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の物性測定装置。
【請求項3】
前記第四算出手段により算出された複素電気伝導度スペクトルに基づいて、前記薄膜のキャリア濃度を算出する手段を更に備えることを特徴とする請求項2に記載の物性測定装置。
【請求項4】
前記光源は、フェムト秒光パルスを発生するようにしてあることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の物性測定装置。
【請求項5】
前記光源は、レーザ光源であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の物性測定装置。
【請求項6】
薄膜の物性を測定する方法において、
p偏光のテラヘルツ波を前記薄膜に照射し、該薄膜で反射したp偏光のテラヘルツ波の特性を求める第一ステップと、
s偏光のテラヘルツ波を前記薄膜に照射し、該薄膜で反射したs偏光のテラヘルツ波の特性を求める第二ステップと、
前記第一及び第二ステップにより求められたp偏光及びs偏光のテラへツル波の特性に基づいて、前記薄膜の物性を算出する第三ステップと
を含み、
前記第一ステップは、
光源が発生する光パルスを第一の偏光方向に設定する第一設定ステップと、
該第一設定ステップにより設定された第一の偏光方向の光パルスを受光することによりp偏光のテラヘルツ波を発生し、前記薄膜に照射する照射ステップと、
前記薄膜を励起する励起ステップと、
該励起ステップにより励起された薄膜で反射したp偏光のテラヘルツ波を検出する第一検出ステップと、
該第一検出ステップにより検出されたp偏光のテラヘルツ波の振幅及び位相スペクトルを算出する第一算出ステップと
を含み、
前記第二ステップは、
前記光源が発生する光パルスを第二の偏光方向に設定する第二設定ステップと、
該第二設定ステップにより設定された第二の偏光方向の光パルスを受光することによりs偏光のテラヘルツ波を発生し、前記薄膜に照射する照射ステップと、
前記励起ステップにより励起された薄膜で反射したs偏光のテラヘルツ波を検出する第二検出ステップと、
該第二検出ステップにより検出されたs偏光のテラヘルツ波の振幅及び位相スペクトルを算出する第二算出ステップと
を含み、
前記第三ステップは、
前記第一及び第二算出ステップにより算出したp偏光及びs偏光のテラヘルツ波の振幅及び位相スペクトルに基づいて、前記第一及び第二検出ステップにより検出されたp偏光及びs偏光のテラヘルツ波の振幅比及び位相差を算出する第三算出ステップと、
該第三算出ステップにより算出された振幅比及び位相差に基づいて、前記薄膜の複素屈折率スペクトルを算出する第四算出ステップと
を含むことを特徴とする物性測定方法。
【請求項7】
前記第四算出ステップにより算出された複素屈折率スペクトルに基づいて、前記薄膜の複素電気伝導度スペクトルを算出する第五算出ステップを更に含むことを特徴とする請求項6に記載の物性測定方法。
【請求項8】
前記第五算出ステップにより算出された複素電気伝導度スペクトルに基づいて、前記薄膜のキャリア濃度を算出するステップを更に含むことを特徴とする請求項7に記載の物性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−208098(P2012−208098A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76063(P2011−76063)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】